海外から届いた引き合いを訳し、見積に足りない条件を先方の言語で聞き返す
海外から届いた引き合いを訳し、見積に必要な条件のうち書かれていないものを洗い出して、先方の言語で聞き返すメールの下書きを日本語訳と並べて作ります。担当者の作業は、読んで質問を外国語で組み立てることから、下書きを確かめて送ることに変わります。
- 生成AI
- ChatGPT/Claude/Gemini
- 連携・自動化
- Make/n8n/Power Automate/Zapier
- 対象業界
- 商社/製造
- 対象部門
- マーケティング/営業
- 対象業務
- 問い合わせ対応/書類作成
- 主な課題
- 人手が足りない/営業フォローが追いつかない/属人化している
- AIで行う処理
- 翻訳
- 主な効果
- 品質標準化/対応スピード向上/機会損失防止
- 導入難易度
- ★★☆☆☆
- 実装レベル
- 本格構成
- 費用感
- API連携(中)
- 人間の確認
- 条件付き
01導入前 / 導入後の業務フロー
- 担当者が朝と昼にメールボックスを開き、新しく届いた引き合いを探す
- 読める言語のものから開き、辞書や翻訳サービスで意味を確かめながら読む
- 見積に必要な条件(製品、仕様、数量、納期、仕向地、貿易条件など)が書かれているかを、頭の中で確かめる
- 足りない条件があれば、聞き返すメールを先方の言語で書く。過去に自分が送ったメールを探して流用することが多い
- 引き合い台帳に、受付日・会社名・国・製品・状態を手で入力する
- 条件がそろったら見積システムに回し、見積書を作る
- 先方から回答が来たら、再び読み、まだ足りないものがあればもう一度聞く
- 自動問い合わせ用メールボックスに届いたメールに、振り分けの規則で「引き合い」のラベルが付く
- 自動ワークフローが定期的にラベルを見に行き、新しいメールを1通ずつ取り出す
- 自動署名、過去のやり取りの引用、フォームの定型文を除き、本文と送信者の情報を分ける
- 自動生成AIが言語を判定し、日本語に訳し、見積条件を1項目ずつ `stated` / `missing` / `unclear` / `conflicting` に分ける
- 自動ワークフローが、製品分類ごとの「必須の条件」の一覧と照らし、聞き返す項目を規則で決める
- 自動生成AIが、聞き返す項目だけを使って、先方の言語のメール下書きと、その日本語訳を作る
- 自動下書きをメールボックスに保存し、引き合い台帳に1行を追加する
- 人担当者が台帳の新しい行を開き、訳文と条件の判定を原文と照らして確かめる
- 人下書きを直して送る。条件がそろっている引き合いは、そのまま見積システムに回す
- 自動先方の返信が同じスレッドで届いたら、4番目からやり直し、残った不足だけを示す
各工程の詳しい説明を読む
- 担当者が朝と昼にメールボックスを開き、新しく届いた引き合いを探す
- 読める言語のものから開き、辞書や翻訳サービスで意味を確かめながら読む
- 見積に必要な条件(製品、仕様、数量、納期、仕向地、貿易条件など)が書かれているかを、頭の中で確かめる
- 足りない条件があれば、聞き返すメールを先方の言語で書く。過去に自分が送ったメールを探して流用することが多い
- 引き合い台帳に、受付日・会社名・国・製品・状態を手で入力する
- 条件がそろったら見積システムに回し、見積書を作る
- 先方から回答が来たら、再び読み、まだ足りないものがあればもう一度聞く
(a)読める人の手が空くまで止まる。 2番目で、読めない言語の引き合いは後回しになります。中国語の引き合いが3日寝ていた、ということが月に何度も起きます。 先方から見れば、3日間なんの返事も無い会社です。
(b)聞き忘れが2往復目を生む。 3番目のチェックは頭の中で行っているので、忙しいと1項目が抜けます。数量だけを聞いて仕向地を聞き忘れると、回答が来た時点でもう一度聞き直すことになり、時差のある相手とは往復ごとに1〜2日かかります。
(c)聞き方が担当者ごとに違う。 4番目のメールは、各自が過去の自分のメールを流用しています。ある人は貿易条件を必ず聞き、ある人は聞かずに自社の既定で見積もります。同じ製品の見積でも、担当によって前提の条件が違うことになります。
(d)既に書いてあることを聞き直す。 急いで読むと本文の後半の納期や仕向地を見落とし、書いてあることを質問してしまいます。
- 【自動】 問い合わせ用メールボックスに届いたメールに、振り分けの規則で「引き合い」のラベルが付く
- 【自動】 ワークフローが定期的にラベルを見に行き、新しいメールを1通ずつ取り出す
- 【自動】 署名、過去のやり取りの引用、フォームの定型文を除き、本文と送信者の情報を分ける
- 【自動】 生成AIが言語を判定し、日本語に訳し、見積条件を1項目ずつ
stated/missing/unclear/conflictingに分ける - 【自動】 ワークフローが、製品分類ごとの「必須の条件」の一覧と照らし、聞き返す項目を規則で決める
- 【自動】 生成AIが、聞き返す項目だけを使って、先方の言語のメール下書きと、その日本語訳を作る
- 【自動】 下書きをメールボックスに保存し、引き合い台帳に1行を追加する
- 【人】 担当者が台帳の新しい行を開き、訳文と条件の判定を原文と照らして確かめる
- 【人】 下書きを直して送る。条件がそろっている引き合いは、そのまま見積システムに回す
- 【自動】 先方の返信が同じスレッドで届いたら、4番目からやり直し、残った不足だけを示す
8番目が、この設計の分かれ目です。 人が確かめるのは訳の滑らかさではありません。数量・型番・日付が原文と合っているか、「無い」とされた条件が本当に無いかの2点です。訳文全体を読み直す設計にすると、24分はほとんど減りません。
5番目を規則にしているのも意図してのことです。 何が書かれていて何が無いかはAIに記録させますが、それを聞くかどうかは製品分類ごとの一覧で決めます。 標準品なら仕様を聞く必要は無く、特注品なら図面が要ります。聞く項目は営業方針で変わるので、AIの判断に置きません。
02今回想定するシステム構成
Webフォーム ──通知メール──┐
代表メールアドレス ────────┤
▼
問い合わせ用メールボックス(振り分け規則で「引き合い」ラベル)
▼【トリガー】一定間隔でラベルを確認
Make
├──▶ 署名・引用・定型文の除去、既存スレッドかの確認
▼
OpenAI API ── 言語の判定、日本語訳、見積条件8項目の判定(JSON schema)
▼
Make ── 製品分類ごとの必須条件の一覧と照合 → 聞き返す項目を決定
▼
OpenAI API ── 先方の言語の聞き返しメール下書き+日本語訳
▼
Make ──▶ メールボックスに下書きを保存
└─▶ 引き合い台帳に1行追加(訳・判定・下書きへのリンク)
▼
【人が訳と判定を確かめ、下書きを直して送信】| 役割 | 想定する製品 | 代替候補 |
|---|---|---|
| ワークフロー | Make | Power Automate、n8n、Zapier |
| 生成AI | OpenAI API(Generate a response モジュール、Output Format を JSON schema) | Claude API、Gemini API |
| 受信・下書き | Gmail | Microsoft 365 のメール |
| 台帳 | Google スプレッドシート | Microsoft Excel |
見積システムと顧客管理の仕組みは、新しく足すものではありません。 この構成は台帳に書き込むまでで、見積システムには人が回します。最初の準備作業は、製品分類ごとに「見積に必須の条件」と「あれば望ましい条件」の一覧を作ることです。
メールの取り出しには、Make の Gmail の「Watch emails」を使います。 見るフォルダまたはラベルを選び、Simple filter で条件を選ぶか、Gmail filter でクエリを入れて絞り込むとされています。取り出したメールを既読にするかも選べ、1回の実行で扱う件数の上限(Limit)は500以下とされています。下書きの保存には同じアプリの「Create a draft email」を使います。
Make のシナリオは、一定の間隔(At regular intervals)で動かせます。 間隔は分単位で指定し、最小の間隔は契約しているプランによるとされています。
生成AIの呼び出しは、Make の OpenAI アプリの「Generate a response」を使います。 このモジュールの Output Format には Text、JSON schema、JSON object があるとされ、本構成では JSON schema を選びます。Store という項目は、生成した応答を後からAPIで取り出せるよう保存するかを選ぶもので、既定は Yes とされています。 扱いは第13章で書きます。
03どうやって実装するのか
処理の起点を決める
「引き合い」のラベルが付いた未読メールを、一定の間隔で取り出すことを起点にします。 返信の速さがこの構成の目的なので、1日1回の定時実行にはしません。 朝にまとめて処理すると、前日の午後に届いた引き合いは翌朝まで誰の目にも触れません。
ラベルは、メールボックス側の振り分け規則で付けます。代表アドレスには売り込みや求人の応募も混ざるため、広めにラベルを付け、引き合いでないものはAIの判定で落とします。
取り出したメールは既読にし、処理が終わったら「処理済み」のラベルに付け替えます。 付け替えは成功したときだけにします。「引き合い」のラベルが残っている数が、そのまま未処理の数になります。
入力データを集める
| データ | 中身 | 取得元 |
|---|---|---|
| 引き合いのメール | 送信者、件名、本文、受信日時、スレッドの識別子、添付の有無 | メールボックス |
| 見積条件の一覧 | 製品分類ごとの必須の条件とあれば望ましい条件、聞くときの言い回しの型 | 自社で用意する一覧 |
| 製品の呼び名の一覧 | 自社の製品名・型番と、海外の顧客が使う呼び名(英語・中国語など) | 自社で用意する一覧 |
| 引き合い台帳 | 過去の引き合い番号、会社名、ドメイン、状態 | スプレッドシート |
質を決めるのは、2つ目と3つ目です。 見積条件の一覧が無ければ、AIは一般的な「見積に要りそうなこと」を並べ、自社では要らない質問まで先方に送ります。 製品の呼び名の一覧が無ければ、先方が書いた呼び名から製品分類を決められず、どの条件の一覧を使うかが決まりません。
見積条件の一覧の例(標準品と特注品):
| 条件 | 標準品 | 特注品 |
|---|---|---|
| 製品・型番 | 必須 | 必須 |
| 仕様(材質・寸法・図面) | 不要 | 必須 |
| 数量(初回と年間の見込み) | 必須 | 必須 |
| 希望納期 | 必須 | 必須 |
| 仕向地(国と納品先の都市・港) | 必須 | 必須 |
| 貿易条件 | 必須 | 必須 |
| 通貨 | あれば望ましい | あれば望ましい |
| 用途・使われる製品 | あれば望ましい | 必須 |
データの取得方法を決める
メールは Watch emails で取り出し、本文はテキストの形で受け取ります。 フォームの通知メールは「Country: 」「Quantity: 」のように項目名と値が並んでいるので、その並びを崩さずにそのまま渡します。 項目名があることで、AIが値を見つけやすくなります。
| 取るもの | どこから | 何に使うか |
|---|---|---|
| 本文と件名 | 取り出したメール | 訳と条件の判定 |
| 送信者のアドレスとドメイン | 取り出したメール | 台帳の既存の引き合い・取引先との照合 |
| スレッドの識別子 | 取り出したメール | 聞き返しへの返信か、新しい引き合いかの判定 |
| 添付の有無とファイル名 | 取り出したメール | 図面や見積依頼表があるかの印 |
| 見積条件の一覧 | スプレッドシート | 聞き返す項目の決定 |
スレッドの照合を先に行います。 聞き返しへの返信なら台帳の既存の行に結び付け、2行目を作りません。
AIへ渡す前に整形する
- 署名と引用の除去 … 「-----Original Message-----」「在 … 写道:」のような引用の区切りより下を落とします。過去のやり取りの条件を、今回の条件として読ませないためです
- 定型文の除去 … フォームの通知メールの前置きや、送信元の免責文を落とします
- 送信者の情報の分離 … 署名にある会社名・国・電話番号は、本文とは別の欄として渡します。国は仕向地の候補ではなく、送信者の所在として扱います
- スレッドの確認 … 既存の引き合いへの返信なら、前回の判定結果を一緒に渡します
- 添付の印付け … 添付がある場合は、ファイル名と「添付あり」を付けて渡します。添付の中身はこの構成では読みません
- 長さの確認 … 本文が極端に長いもの(数十品目の一覧を本文に貼ったもの)は、判定に回さず人に回します
3番目を軽く見ないでください。 署名の住所が中国で本文に仕向地が無ければ、AIは「仕向地:中国」と書きたくなります。実際にはベトナムの工場へ納める引き合いかもしれません。
AIに処理させる
させるのは、次の3つです。 言語を判定して日本語に訳すこと、見積条件の8項目それぞれについて「書かれているか」を判定して根拠の原文を写すこと、そして別の呼び出しで、聞き返す項目だけを使った先方の言語の下書きを作ることです。
| 見るもの | 判定の仕方 | unclear の例 |
|---|---|---|
| 製品・型番 | 自社の製品名・型番、または呼び名の一覧にある語が書かれているか | 「your sensor」とだけあり、どの系列か決まらない |
| 仕様 | 材質・寸法・図面の番号など、特注に要る値が書かれているか | 「standard size」「same as sample」 |
| 数量 | 数と単位の両方が書かれているか | 「large quantity」「大量」、単位の無い数字 |
| 希望納期 | 日付か、発注からの期間が書かれているか | 「ASAP」「尽快」 |
| 仕向地 | 納品先の国と、都市・港・工場のいずれかが書かれているか | 国だけで、納品先の場所が無い |
| 貿易条件 | 貿易条件の規則名と、その場所が書かれているか | 規則名だけで場所が無い |
| 通貨 | 通貨が書かれているか | 「$」だけで、どの国のドルか決まらない |
| 用途 | 何に使うか、どの製品に組み込むかが書かれているか | 「for our project」 |
右端の列が、この構成でいちばん大事な区別です。 missing は書かれていないこと、unclear は書かれているが見積に使える値に決まらないことです。聞き方が違うので、分けて記録させます。 もう1つの conflicting は、本文の中で数量や納期が2通り書かれている場合です。
貿易条件は、Incoterms の規則名で書かれていることが多い項目です。 国際商業会議所(ICC)の現行版は Incoterms 2020 で、11の規則があるとされています。どの規則で見積るかは営業が決めることで、AIには選ばせません。 AIがするのは、書かれた規則名と場所を原文のまま写すことだけです。
| させないこと | 理由 |
|---|---|
| 書かれていない条件を埋める | 送信者の国を仕向地に、自社の既定を貿易条件に入れると、聞くべき質問が消える |
| 曖昧な記載を解釈して決める | 「ASAP」を「2週間以内」と訳すと、先方が言っていない約束になる |
| 価格や納期の目安を書く | 見積の前に数字を出すと、それが回答として扱われる |
| 数量の単位を換算する | 「pcs」と「sets」、「吨」と個数を勝手に直さない |
| 型番を訳す・直す | 型番は原文のまま。似た自社型番に寄せない |
| 輸出してよいかの判断 | 仕向地と用途の確認は、自社の輸出管理の担当部署の手順による |
1行目がいちばん起きやすい失敗です。 仕向地が無い引き合いを渡すと、署名の国から埋め、その瞬間、見積のやり直しにつながる質問が1つ消えます。
指示内容を固定する
1回目の呼び出し(訳と条件の判定)の指示です。
あなたは産業用部品メーカーの海外営業部で、新しい引き合いを受け付ける立場です。
渡された本文だけを見て判定してください。推測で埋めないでください。
【手順】
1. 本文の言語を判定し、日本語に訳してください。
型番・数値・単位・固有名詞は訳さず、原文のまま残してください。
2. 引き合いかどうかを判定してください。売り込み、求人への応募、
既存の注文の問い合わせは not_inquiry とし、条件の判定をしないでください。
3. 次の8項目について、status を選び、根拠にした原文をそのまま写してください。
product / specification / quantity / delivery_date /
destination / trade_terms / currency / application
【status の選び方】
- stated ....... 見積に使える値が書かれている
- missing ...... 書かれていない
- unclear ...... 書かれているが、値に決まらない(ASAP、large quantity、
単位の無い数字、国だけの仕向地、場所の無い貿易条件など)
- conflicting .. 本文の中で値が2通り以上書かれている
迷ったときに stated を選ばないでください。
【厳守事項】
- 書かれていない項目は missing にしてください。他の情報から補わないでください。
- 送信者の署名の国・住所を、仕向地として扱わないでください。
- 自社がよく使う貿易条件や通貨を、書かれていない項目に入れないでください。
- 「ASAP」「尽快」などを具体的な日付や期間に置き換えないでください。
- 数量の単位を換算しないでください。原文の単位のまま写してください。
- 型番は原文の文字列のまま写し、似た型番に直さないでください。
- 価格・納期の見込み、輸出の可否について何も書かないでください。
- evidence には、判定の根拠にした原文をそのまま写してください。
missing の場合は空にしてください。
【本文】{body}
【送信者の情報】{sender}
【前回の判定(返信の場合のみ)】{previous_result}
【製品の呼び名の一覧】{product_names}
「送信者の国を仕向地にしない」は、明記しないと必ず起きます。 禁じるのは、書かれていない値を別の欄から持ってくる判断そのものです。
2回目の呼び出し(聞き返しの下書き)は、ワークフローが決めた「聞く項目」の一覧だけを渡します。
次の引き合いに対し、{language} で返信の下書きを書き、同じ内容の日本語訳を付けてください。
- 最初に、問い合わせへのお礼と、見積の準備を始めたことを1文で書いてください。
- 聞くのは【聞く項目】だけです。【書かれていた条件】は聞き直さず、
「〜と承りました」と復唱してください。
- unclear の項目は、答えやすいよう選択肢か具体的な例を添えて聞いてください。
- 価格、納期、在庫の見込みは書かないでください。
- 件名には {inquiry_no} を入れてください。
【聞く項目】{questions}
【書かれていた条件】{stated_items}
「書かれていた条件を復唱する」のは、第3章の(d)への対策です。 復唱があれば、先方は読まれたことが分かり、AIが読み違えていた場合は先方が訂正してくれます。
出力形式を固定する
1回目の呼び出しは、次の形のJSONで受け取ります。
{
"is_inquiry": true,
"detected_language": "zh",
"translation_ja": "",
"sender": { "company": "", "country": "", "contact_name": "" },
"product_category": "standard | custom | unknown",
"conditions": [
{ "item": "quantity",
"status": "stated | missing | unclear | conflicting",
"evidence": "", "value_ja": "" }
],
"has_attachment": false,
"notes_for_sales": ""
}
conditions には、この形の要素を8つ並べます。Make の Generate a response で Output Format を JSON schema にし、このスキーマを渡します。
1つ目の理由は、スキーマどおりの形が保証されることです。 OpenAI の Structured Outputs は、応答が渡したJSON Schemaに従うようにし、必須のキーが抜けたり、enum にない値が作られたりする心配をなくすとされています。status を enum で4つに絞れば、「partially stated」のような5つ目の値は返りません。
スキーマの作り方には決まりがあります。 strict を有効にする場合、すべての項目を required に並べ、additionalProperties を false にする必要があるとされています。値が無いことを表したい項目は、null との組み合わせ(例:["string", "null"])で表します。安全上の理由で応答を断った場合は、スキーマの代わりに refusal の欄が返るとされているので、その場合は人に回します。
2つ目の理由は、status と「聞くかどうか」を別の層に置けることです。 conditions はAIが埋め、聞く項目はワークフローが見積条件の一覧で決めます。
| 製品分類 | 聞く項目にする条件 |
|---|---|
| 共通 | 一覧で「必須」の条件のうち、missing / unclear / conflicting のもの |
| 共通 | 「あれば望ましい」の条件は、必須の質問が2つ以下のときだけ加える |
unknown | 製品分類が決まらないときは、まず製品・型番だけを聞く |
要は、質問を増やしすぎないことです。 最初の返信で7つも聞くと、先方は答えずに他社へ移ります。聞き方の方針が変わっても、直すのはこの規則だけです。
2回目の呼び出しは、reply_body(先方の言語)と reply_body_ja(日本語訳)、subject の3つを返させます。 担当者は日本語訳の側で、聞いている項目が合っているかを確かめます。
システムへ連携する
| つなぎ先 | 方式 | 内容 |
|---|---|---|
| メールボックス | Gmail の Watch emails | 「引き合い」ラベルの未読メールを取り出す |
| OpenAI API | Generate a response | 訳と条件の判定、聞き返しの下書き |
| 見積条件の一覧 | スプレッドシートの読み取り | 製品分類ごとの必須の条件 |
| メールボックス | Gmail の Create a draft email | 聞き返しの下書きを保存する |
| 引き合い台帳 | スプレッドシートへの行の追加 | 受付日、言語、訳、条件の判定、状態、下書きの件名 |
メールは送りません。下書きまでです。 送信を自動にすると、訳の誤りや読み違いがそのまま先方に届きます。最初の返信は、その会社の第一印象そのものなので、人の手を通します。
台帳の「状態」は、ワークフローが決めます。 聞く項目があれば「聞き返し待ち」、無ければ「見積可」、引き合いでなければ「対象外」です。
人が確認する
人が確かめるのは、台帳に新しく追加された行すべてです。 ただし訳文を全文読み直すことはしません。
- 数値と型番を原文と照らす …
evidenceに写された原文と、訳文の数量・型番・日付が合っているかを見ます。ここは必ず見ます missingが本当に無いかを確かめる … 本文の後半や署名の下に書かれていないかを原文で見ます。書いてあることを聞き返すのが、いちばん印象を損ねます- 下書きを直して送る … 日本語訳を見て、聞いている項目と復唱している条件が合っているかを確かめ、送ります
- 判定を覆したら記録する … どの項目を、どの
statusからどれに変えたかを台帳に残します
2番目を省かないでください。 AIの読み落としは、長い本文の後半で起きやすくなります。原文の検索で「pcs」「port」「deliver」「交期」を探すだけでも、見落としの多くは拾えます。
読めない言語の原文でも、1番目はできます。 数字と型番は言語に関係なく原文の中で見つけられます。
例外に対処する
| 起きること | 対応 |
|---|---|
| 引き合いでないメール | is_inquiry が false なら台帳に「対象外」と記録し、下書きは作らない |
| 添付に図面や見積依頼表がある | has_attachment で印を付け、添付の確認は人が行う。 本文だけで「仕様なし」と判定しない |
| 1通に数十品目が並んでいる | 前処理で人に回す。品目ごとの判定はこの構成では扱わない |
| 対応していない言語 | 英語で下書きを作り、「英語で失礼します」の一文を入れる。担当者に印を付ける |
| 製品分類が決まらない | unknown とし、製品・型番だけを聞く |
| 仕向地・用途に、輸出管理上の確認が要りそうな記載がある | notes_for_sales に記載し、輸出管理の担当部署の手順に回す。 下書きは保留にする |
応答が refusal で返る | 人に回し、原文から扱いを決める |
| APIが応答しない | 「引き合い」のラベルを残す。処理済みへの付け替えは成功時だけ |
上から2行目を軽く見ないでください。 本文が「Please see attached RFQ」の1行だけの引き合いを本文だけで判定すると、8項目すべて missing の聞き返しを送ることになります。
記録を残す
- 元のメール(本文、送信者、受信日時、スレッドの識別子)
- 1回目の呼び出しの出力(訳、
conditions、製品分類)と、そのとき使った見積条件の一覧の版 - 2回目の呼び出しの下書きと、実際に送った文面
- 人が判定を覆した記録(どの項目を、どの
statusからどれに変えたか) - 受信から最初の返信を送るまでの時間
- 聞き返しに先方が答えたか、何往復で見積に進んだか
2つ目で一覧の版を残すのは、一覧が後から変わるためです。 当時の基準が分からないと、過去の判定と比べられません。
最後の2行が、成果を測る材料です。 工数より、最初の返信までの時間と往復の回数を見てください。
04実装レベルの3段階
最小構成では件数がさばけません。 1件ずつ貼り付けるので、月300件には使えません。確かめるための段階です。 半自動化で、1件24分が14分程度になります。 訳と判定は自動になりますが、聞き返しのメールを先方の言語で書く③が残ります。本格構成で8分になり、この段階が本記事の想定です。 差が大きいのは、③が1件ごとに外国語で文面を組み立てる作業だからです。 段階を飛ばさないでください。 半自動化の台帳を1か月見ると、抜けやすい条件と unknown になりやすい製品分類が分かります。一覧を直してから下書きを作らせるほうが、的外れな質問が減ります。
05工数削減シミュレーション
導入後 300件 × 8分 ÷ 60 = 40 時間/月
自社条件で導入効果を整理したい方へ
このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。
06向いている企業・向いていない企業
- 海外向けのWebサイトや展示会をきっかけに、英語・中国語などの引き合いが月に数百件届く製造業・商社。外国語を読み書きできる担当者が一部に偏り、返信がその人の手が空くまで止まっている場合。見積に必要な条件(数量・仕様・納期・仕向地・貿易条件など)が書かれていない引き合いが多く、聞き返しの往復で日数を使っている場合。
- 海外の引き合いが月に数件で、担当者が1件ずつ読んで返しても間に合う場合。引き合いの大半が代理店経由で、見積条件がそろった依頼書の形で届く場合。図面や数十品目の見積依頼表が添付で届くのが主で、本文にほとんど条件が書かれていない場合。なお、価格・納期の回答や、輸出管理上の確認はこの構成では代替できません。
07最小構成で試す方法
- 過去3か月の引き合いから20件を選ぶ(英語だけでなく、中国語など読める人が少ない言語を必ず入れる)
- その20件について、実際に何を聞き返したか、何往復で見積に進んだかを台帳とメールから拾う
- 標準品と特注品の2つについて、第7章の表のような「見積に必須の条件」の一覧を紙に書く
- 手元の生成AIのサービスに、1件ずつ本文を貼り付ける
- 「この引き合いを日本語に訳してください。そのうえで、製品・仕様・数量・希望納期・仕向地・貿易条件・通貨・用途の8項目について、書かれている/書かれていない/書かれているが曖昧、のどれかを判定し、根拠の原文を写してください。書かれていないものを推測で埋めないでください。送信者の国を仕向地にしないでください」と指示する
- 続けて「書かれていない・曖昧な項目のうち、必須のものだけを聞く返信を、原文と同じ言語で書き、日本語訳を付けてください。書かれていた条件は復唱してください」と指示する
- 出てきた判定と下書きを、当時実際に聞き返した内容と突き合わせる
20件は必ずやってください。 ワークフローを組む前に、「本文だけで、当時の担当者と同じ不足を見つけられるか」を確かめます。
| 出てきた内容 | 判断 |
|---|---|
| 当時と同じ不足が出て、当時の聞き忘れまで拾えた | ワークフローの連携に進む |
| 送信者の国を仕向地にした、既定の条件で埋めた | 指示の書き方で直る。構成は有効 |
| 条件の多くが添付にあり、本文では判定できない | 添付を人が見る運用を先に決める。 AIの問題ではない |
1行目の「当時の聞き忘れ」が見つかることは珍しくありません。 2往復目が発生していた引き合いを20件に入れておくと、最初の返信で聞けていたはずの項目が分かります。
08実装時につまずきやすいポイント
| 問題 | 対策 |
|---|---|
| 送信者の国が仕向地に入る | 前処理で送信者の情報を別の欄にし、指示にも明記する |
| 自社の既定の貿易条件で埋まる | 埋めることを禁じ、missing のはずの項目に値が入っていないかを後段で見る |
| 「ASAP」が具体的な日付に訳される | 曖昧な表現は unclear として原文のまま写させる |
| 書いてあることを聞き返す | 下書きで書かれていた条件を復唱させ、人が missing を原文で確かめる |
| 質問が多すぎて返事が来ない | 必須の条件だけを聞き、望ましい条件は質問が少ないときだけにする |
添付に条件があるのに全部 missing | 添付の印を付け、添付があるものは人が先に開く |
| 聞き返しへの返信が新しい引き合いになる | スレッドの識別子と、件名の引き合い番号で照合する |
| 型番が似た自社型番に直される | 型番は原文のまま写させ、呼び名の一覧で照合するのはワークフロー側で行う |
| 見積条件の一覧を担当者ごとに持つ | 一覧は1つにし、版を付けて変える |
| 下書きがそのまま送られる | 送信は人が行う。 自動送信は最初から作らない |
上の2行が、この構成の失敗のほとんどです。 どちらも「空いている欄を、それらしい値で埋める」という同じ動きから出ています。埋めた値が正しいかではなく、聞くべき質問が消えることが問題です。
下から2行目も、同じくらい早く効いてきます。 一覧が担当者ごとにあると、同じ引き合いでも聞く項目が変わり、第3章の(c)がそのまま残ります。 一覧を1つにしてから下書きを作らせてください。
09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点
この構成で扱うデータ: 海外の顧客の会社名、担当者の氏名・メールアドレス・電話番号、引き合いの内容(製品、数量、納期、仕向地、用途)です。担当者の氏名と連絡先は個人情報として扱います。
- 取得の目的を見積の対応に限る … 引き合いから得た氏名と連絡先は、見積と商談の連絡に使います。台帳から別の目的(一斉配信の宣伝など)に流用するかどうかは、プライバシーポリシーの記載と照らして担当部署が決めてください
- 保存期間を決める … 見積に進まなかった引き合いを、台帳とメールボックスにいつまで残すかを決めます。商談にならなかった行の連絡先は、期間を過ぎたら消す運用にします
- 生成AIへの保存と学習利用の設定を確かめる … Make の Generate a response の Store は既定で Yes とされています。後からAPIで応答を取り出す必要が無ければ No にします。学習への利用の扱いは、利用するサービスの契約と設定で確かめてください
- アクセス権を窓口の担当者に限る … メールボックスと引き合い台帳は、海外営業部とマーケティング部の担当者だけが開けるようにします
- 添付とリンクを自動で開かない … 引き合いを装って不正なファイルやリンクを送るメールがあります。この構成は添付の中身を読まず、リンクもたどりません。 人が開く前に、社内の手順でファイルを確かめてください
- 輸出管理の判断をさせない … 仕向地と用途によっては、輸出の前に確認が要る場合があります。該当するかの判断は、自社の輸出管理の担当部署が行います。 この構成が出すのは、書かれていた仕向地と用途の原文までです
- 価格・納期を下書きに書かせない … 見積の前に出た数字は、先方にとって回答です
誤りが起きた場合のリスクは、書いてあることを聞き返して印象を損ねることと、書かれていない条件を埋めて見積をやり直すことの2つです。 前者は missing を人が確かめないと起き、後者はAIに埋めさせると起きます。どちらも「書かれているか」の判定から出ているので、そこだけは設計で守ります。
10まず何から始めるか
1週目:見積条件の一覧を作る
標準品と特注品のそれぞれについて、見積に必須の条件と、あれば望ましい条件を営業部内で決めます。すべての製品分類を一度に作る必要はありません。引き合いの多い上位2〜3分類から作ります。 あわせて、海外の顧客が使う製品の呼び名を、過去の引き合いから20語ほど拾います。
2週目:20件で試す
過去の引き合いから20件を選び、手元の生成AIのサービスに貼り付けて、訳・条件の判定・聞き返しの下書きを作らせます。当時の聞き返しと突き合わせ、送信者の国を仕向地にしていないか、既定の条件で埋めていないかを最優先で見ます。
3週目:メールボックスの振り分けを整える
フォームの通知メールと代表アドレスに「引き合い」のラベルが付くよう、振り分けの規則を作ります。あわせて、聞き返しのメールの件名に引き合い番号を入れる決まりを作ります。 返信を既存の行に結び付けるための準備です。
4週目:取り出しから台帳までをつなぐ
Make で「引き合い」のラベルを見に行き、訳と条件の判定を台帳に書き出すところまで作ります。この時点では下書きを作らず、判定の一覧だけを見ます。
2か月目: 見積条件の一覧で聞く項目を決める規則を足し、下書きをメールボックスに保存します。人が判定を覆した件数を毎週数えます。3か月目以降: 返信を既存の行に結び付け、残った不足だけを示すようにします。受信から最初の返信までの時間と、見積に進むまでの往復の回数を導入前と比べ、見積条件の一覧を直し終えた時点で、この構成は完成です。
11関連ユースケース
12この仕組みを理解するための記事
13技術仕様の確認日・参考情報
| 確認した内容 | 情報源 | 確認日 |
|---|---|---|
| Gmail の Watch emails で、見るフォルダ・ラベルを選び、Simple filter で条件を選ぶか Gmail filter でクエリを入れて絞れること。取り出したメールを既読にするかを選べること。1回の実行で扱う件数の上限が500以下であること。下書きを作る Create a draft email があること | Make Apps: Gmail modules | 2026-09-29 |
| OpenAI アプリに Generate a response があり、Output Format で Text/JSON schema/JSON object を選べること。Store が応答を後から取り出すための保存を選ぶ項目で、既定が Yes であること | Make Apps: OpenAI modules | 2026-09-29 |
| シナリオを At regular intervals などで動かせること。間隔を分で指定し、最小の間隔がプランによること | Make Help: Schedule a scenario | 2026-09-29 |
Structured Outputs が応答を渡したJSON Schemaに従わせ、必須キーの欠落や enum にない値を防ぐこと。strict で全項目を required にし additionalProperties を false にすること。値の無い項目を null との組み合わせで表すこと。拒否が refusal として返ること | OpenAI: Structured model outputs | 2026-09-29 |
| Incoterms の現行版が Incoterms 2020 で、11の規則からなること | ICC: Incoterms 2020 | 2026-09-29 |
どの貿易条件で見積るか、輸出の前にどの確認が要るかは、自社の営業部と輸出管理の担当部署で決めてください。 本記事は上記のページで確認できた範囲だけを扱っています。
実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。
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