Media > AI活用ユースケース > 研究開発 > 研究所の技術報告書を社内の用語集と過去の訳にそろえて英訳し、数値・単位・図表番号の対応を確かめてから海外拠点へ配る

研究所の技術報告書を社内の用語集と過去の訳にそろえて英訳し、数値・単位・図表番号の対応を確かめてから海外拠点へ配る

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

研究所で承認された技術報告書を、社内の用語集と過去の対訳にそろえて英訳します。訳した後に、原文と訳文の数値・単位・図表番号が一つずつ対応しているかを機械で照合し、ずれのある箇所だけを研究者に返します。

サマリー
生成AI
Azure OpenAI Service/Claude/Gemini
対象業界
IT・SaaS/医療/製造
対象部門
研究開発
対象業務
内容確認・チェック/書類作成
主な課題
人手が足りない/書類作成に時間がかかる/確認ミスが多い
AIで行う処理
翻訳
主な効果
品質標準化/対応スピード向上/工数削減
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
本格構成
費用感
API連携(中)
人間の確認
条件付き
現在工数
160h/月
AI導入後
60h/月
想定削減
63%
年間削減
1,200h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 技術報告書が文書管理システムで承認される
  2. 取りまとめ担当が、海外拠点へ配る報告書を選び、書いた研究者に英訳を頼む
  3. 研究者が本文を機械翻訳にかけ、出てきた英文を1文ずつ直す
  4. 迷った用語は用語集を引き、無ければ過去の英訳版の報告書を探す
  5. 表の中の数値と単位、図表番号を、原文と見比べて直す
  6. 取りまとめ担当が英訳版を体裁だけ確かめ、海外拠点へ配る
  7. 海外拠点から問い合わせが来たら、研究者が原文を見直して答える
導入後(After)
  1. 人取りまとめ担当が、海外拠点へ配る報告書に印を付ける(輸出管理の確認が済んでいることが条件)
  2. 自動印をきっかけに、報告書の本文を段落・表のセル・図表の見出しに分ける
  3. 自動過去の対訳に同じ文があれば、その訳をそのまま使う
  4. 自動段落ごとに、用語集から該当する語の指定訳を引く
  5. 自動指定訳と、似た過去の対訳を添えて、段落ごとに英訳させる
  6. 自動原文と訳文から数値・単位・図表番号を抜き出し、一つずつ突き合わせる
  7. 自動指定訳が使われていない段落、照合でずれた箇所、用語集に無い語を一覧にする
  8. 人研究者が、一覧に出た箇所を中心に訳文を読んで直す
  9. 人取りまとめ担当が、照合の結果がすべて解消されたことを確かめて配る
各工程の詳しい説明を読む
  1. 技術報告書が文書管理システムで承認される
  2. 取りまとめ担当が、海外拠点へ配る報告書を選び、書いた研究者に英訳を頼む
  3. 研究者が本文を機械翻訳にかけ、出てきた英文を1文ずつ直す
  4. 迷った用語は用語集を引き、無ければ過去の英訳版の報告書を探す
  5. 表の中の数値と単位、図表番号を、原文と見比べて直す
  6. 取りまとめ担当が英訳版を体裁だけ確かめ、海外拠点へ配る
  7. 海外拠点から問い合わせが来たら、研究者が原文を見直して答える

(a)研究者の時間が英訳に取られる。 1冊に半日かかることも珍しくなく、次の実験の計画や、別の報告書の執筆が後ろにずれます。 英訳が遅れると、海外拠点への共有も遅れます。

(b)訳語が人ごとに揺れる。 4番目で用語集を引くのは「迷ったとき」だけです。迷わずに別の訳語を使っている場合は、用語集に当たりません。 海外拠点の技術者は、同じ現象が報告書ごとに違う英語で書かれているのを読むことになります。

(c)数値の写し間違いは、読んでも見つからない。 5番目は目で見比べる作業です。1冊に数値が数百あり、桁の違い、単位の取り違え、小数点の位置のずれは、英文として自然に読めてしまいます。 見つかるのは、海外拠点がその数値を使ったときです。

(d)配った後の訂正が重い。 7番目の問い合わせに答えるとき、研究者は原文と訳文を開き直し、どこで食い違ったかを探します。訂正版を配り直すと、どの版を誰が使ったかの管理も必要になります。

  1. 【人】 取りまとめ担当が、海外拠点へ配る報告書に印を付ける(輸出管理の確認が済んでいることが条件)
  2. 【自動】 印をきっかけに、報告書の本文を段落・表のセル・図表の見出しに分ける
  3. 【自動】 過去の対訳に同じ文があれば、その訳をそのまま使う
  4. 【自動】 段落ごとに、用語集から該当する語の指定訳を引く
  5. 【自動】 指定訳と、似た過去の対訳を添えて、段落ごとに英訳させる
  6. 【自動】 原文と訳文から数値・単位・図表番号を抜き出し、一つずつ突き合わせる
  7. 【自動】 指定訳が使われていない段落、照合でずれた箇所、用語集に無い語を一覧にする
  8. 【人】 研究者が、一覧に出た箇所を中心に訳文を読んで直す
  9. 【人】 取りまとめ担当が、照合の結果がすべて解消されたことを確かめて配る

8番目が、この設計の分かれ目です。 研究者は訳文全体を読みますが、直す時間を使うのは一覧に出た箇所です。 訳文の中身が技術的に正しいかは、書いた本人にしか判断できません。

1番目に輸出管理の条件を置いているのは、意図してのことです。 海外の拠点へ技術情報を渡すことは、社内の共有であっても輸出管理の対象になりえます。この構成は、確認が済んでいない報告書を英訳の工程に入れません。

3番目の再利用は、報告書が増えるほど効いてきます。 試験方法、装置の構成、評価の手順の説明は、テーマが違っても同じ文で書かれることが多く、確定した訳が溜まるほど、英訳に回す段落が減ります。

02今回想定するシステム構成

構成図
文書管理システム(承認済みの技術報告書)
   │【トリガー】海外配布の印(輸出管理の確認済み)
   ▼
Azure Functions ── 段落・表のセル・図表の見出しに分割
   ├──▶ 過去の対訳(SharePoint のリスト)で同じ文を引く
   ├──▶ 用語集で段落ごとの指定訳を引く
   ▼
Azure OpenAI(Microsoft Foundry)── 段落ごとの英訳
   │   訳文と、使った指定訳・用語集に無い語を JSON で返す
   ▼
Azure Functions ── 数値・単位・図表番号の照合、指定訳の使用の確認
   ▼
確認の一覧(ずれ・指定訳の未使用・新しい語)
   ▼
【研究者が一覧の箇所を中心に確かめて直す】
   ▼
取りまとめ担当が配布 ──▶ 海外拠点
   └──▶ 確定した訳を過去の対訳に登録
役割想定する製品代替候補
生成AIAzure OpenAI(Microsoft Foundry)Claude API、Gemini API
連携Azure Functions(分割、対訳と用語集の当てはめ、数値の照合)AWS Lambda
用語集と対訳SharePoint のリスト(用語集、段落ごとの対訳)既存の文書管理システムの属性
文書の保管既存の文書管理システム―

文書管理システムと用語集は、新しく足すものではありません。 用語集はスプレッドシートから SharePoint のリストに移し、指定訳の列と「使ってはいけない訳」の列を足すのが最初の準備作業です。

生成AIは Azure OpenAI(Microsoft Foundry)です。 技術報告書は社外に出せない情報なので、プロンプトと出力の扱いが重要です。Microsoft のドキュメントでは、プロンプトと出力は他の顧客や OpenAI には提供されず、ユーザーの許可なく基盤モデルの学習に使われないとされています。

結果は構造化出力で受け取ります。 推論の呼び出しで指定した JSON スキーマに従う機能で、Chat Completions API と Responses API の両方で使えます。有効な JSON だけを保証していた古い JSON モードと違い、スキーマに厳密に従います。 段落ごとの訳文と、使った指定訳の一覧を、決まった項目で受け取るために使います。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

取りまとめ担当が、文書管理システムで報告書に「海外配布」の印を付けたことを起点にします。 承認だけを起点にしないのは、承認された報告書のすべてを海外へ配るわけではないからです。

印を付けられる条件を、輸出管理の確認が済んでいることにします。 文書管理システムの属性に「輸出管理の確認」の欄を持たせ、確認済みでなければ印を付けられないようにします。英訳の工程に入ってから止めるのではなく、入口で止めます。

印が付いたら Azure Functions が動き、報告書のファイルを取り出します。1冊ずつ処理し、処理中の報告書には「英訳中」の印を付けます。 同じ報告書に二度印を付けても、二重に英訳しないためです。

承認後に原文が改訂されたときは、改訂版を新しい処理として扱います。 前の版の訳文を上書きせず、変わった段落だけを訳し直す形にします(第7章の前処理の6番目)。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
技術報告書本文、表、図表の見出し、報告書番号、版、承認日、執筆者文書管理システム
用語集日本語、指定訳、使ってはいけない訳、分野、登録日SharePoint のリスト
過去の対訳原文の段落、確定した訳文、報告書番号、確定日SharePoint のリスト
表記のきまり単位の書き方、数値の区切り、図表番号の書き方研究所が決める一覧

質を決めるのは、用語集の「使ってはいけない訳」の列です。 指定訳を添えるだけだと、AIは文脈に合わせて別の訳を選ぶことがあります。「硬化は curing。hardening は使わない」まで書いておくと、照合のときに機械で検出できます。

表記のきまりは、照合の物差しになります。 「℃」を「°C」と書く、千の位をカンマで区切る、「図3」を「Fig. 3」、「表2」を「Table 2」と書く、といった対応です。このきまりが無いと、照合のプログラムが原文と訳文の数値を対応させられません。

Step3

データの取得方法を決める

報告書の本文は、Word のファイルから段落・表・図表の見出しの単位で取り出します。図の中に画像として埋め込まれた文字は取り出せないので、この構成では訳しません。 図の中に日本語の文字がある報告書は、一覧で研究者に知らせます。

取るものどこから何に使うか
段落(見出しの番号付き)報告書の本文英訳の単位
表のセル(行・列の位置付き)報告書の表セルごとの英訳と、数値の照合
図表の見出し報告書の図表図表番号の照合
段落に出てくる用語用語集との文字列の一致指定訳を添える
同じ文・似た文の訳過去の対訳同じ文は再利用、似た文は参考に添える

用語集は、段落に出てくる語だけを添えます。 3,000語を毎回すべて渡すと、関係の無い語の指定訳に引きずられることがあり、処理も重くなります。段落の文字列に用語集の日本語が含まれるものだけを、その段落の指示に入れます。

表はセルの位置を付けたまま持ちます。 訳した後に、どのセルの数値がどのセルに対応するかを照合するためです。表を1つの文章にまとめて訳させると、行と列の対応が崩れます。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 分割 … 本文を段落、表をセル、図表を見出しの単位に分け、それぞれに番号を振ります
  2. 同じ文の再利用 … 過去の対訳に原文が完全に一致する段落があれば、確定した訳をそのまま使い、英訳に回しません
  3. 似た文の検索 … 一致しない段落には、過去の対訳から文字の重なりの多いものを2件まで参考として添えます
  4. 用語の当てはめ … 段落に含まれる用語集の語と、その指定訳・使ってはいけない訳を添えます
  5. 数値・単位・図表番号の抜き出し … 原文から正規表現で抜き出し、段落の番号とともに控えておきます
  6. 改訂版の差分 … 前の版がある場合は、変わった段落だけを英訳に回し、変わらない段落は前の版の確定訳を使います

5番目を英訳の前にやっておくのが要です。 原文の数値を先に控えておけば、訳文から同じ数の数値が同じ順で出てくるかを後で機械的に確かめられます。訳した後で原文と訳文の両方から抜き出すと、どちらが正しいかの基準がぶれます。

2番目の再利用は、訳語の揺れを止める効果も大きい部分です。 試験方法や装置の説明は、報告書をまたいで同じ文が繰り返し出てきます。一度確定した訳を使い続ければ、同じ文が報告書ごとに違う英語になることがありません。

5番目で抜き出すものは、最初に型を決めておきます。

型原文の例訳文で対応させる形
数値と単位0.5mm、85℃、1,000時間0.5 mm、85 °C、1,000 h
範囲80〜90℃80–90 °C(下限と上限の2つの値として照合)
指数の表記1.5×10³1.5 × 10³(仮数と指数に分けて照合)
比率と割合15%、1:215%、1:2
図表番号図3、表2、式(4)Fig. 3、Table 2、Eq. (4)

「約」「以上」「未満」は、数値と一緒に控えます。 「85℃以上」が「85 °C」だけになると、値は合っていても意味が変わります。 照合では、数値の前後の語が「above」「at least」「less than」などの対応する語になっているかも見ます。

Step5

AIに処理させる

させるのは、段落ごとの英訳と、その段落で指定訳をどう使ったかの報告です。

させること内容
段落の英訳添えた指定訳を使い、技術報告書の文体で訳す
指定訳の使用の報告段落に出てきた用語ごとに、指定訳を使ったかを返す
用語集に無い語の報告専門用語と思われるが用語集に無い語を、自分が選んだ訳とともに返す
訳せない箇所の報告原文の意味が一つに決まらない箇所を、理由とともに返す
させないこと理由
数値の照合正規表現とプログラムで行う。AIの「合っています」は根拠にならない
単位の換算mm を inch にするなど、原文に無い値が生まれる
原文に無い説明の追加「これは〜を意味する」と補うと、研究者の書いていない主張になる
原文の誤りの修正原文の誤字や数値の誤りに気づいても、訳文で直さない。報告に書く
用語集の更新新しい語の訳を決めるのは用語集の担当

4行目がいちばん起きやすい失敗です。 原文の数値が前の表と食い違っているとき、AIは文脈から「正しそうな値」で訳すことがあります。訳文だけが直っていると、原文と訳文が別の内容になり、どちらが正しいかが分からなくなります。 気づいたことは報告の欄に書かせ、訳文は原文どおりにします。

段落の前後の文脈は、1段落ずつ添えます。 段落だけを渡すと、「これ」「同条件」が何を指すかが分からず、AIが補って訳します。前後の段落を参考として渡し、訳すのは対象の段落だけと指示すると、指示語の取り違えが減ります。

Step6

指示内容を固定する

あなたは電子部品メーカーの研究所で、技術報告書を英訳する担当です。
渡された1つの段落を、技術報告書の英語の文体で訳してください。

【この段落で使う指定訳】
{glossary_entries}
(例:硬化 → curing / 使ってはいけない訳:hardening)

【参考:過去の似た段落の確定訳】
{similar_pairs}

【表記のきまり】
- 温度は °C、千の位はカンマで区切る
- 図は Fig. 番号、表は Table 番号と書く
- 数値と単位の間には半角スペースを1つ入れる

【厳守事項】
- 指定訳がある語は、必ず指定訳を使ってください。
  使ってはいけない訳は使わないでください。
- 数値は原文の値をそのまま書いてください。
  単位の換算、丸め、桁の言い換えをしないでください。
- 原文に無い説明や補足を加えないでください。
- 原文に誤りと思われる箇所があっても、訳文では直さないでください。
  気づいたことは source_issues に書いてください。
- 専門用語と思われるが指定訳の無い語は、選んだ訳とともに
  new_terms に書いてください。
- 意味が一つに決まらない箇所は、訳したうえで ambiguities に
  理由を書いてください。推測で一つに決めたことを隠さないでください。

【段落】
番号:{segment_id}
{source_text}

「単位の換算、丸め、桁の言い換えをしない」を書かないと、親切な訳になります。 「1万回」を「10 thousand cycles」と書くのは誤りではありませんが、照合のプログラムが原文の「10,000」と対応させられなくなります。 表記のきまりで「10,000 cycles」と決め、言い換えを禁じます。

「推測で一つに決めたことを隠さない」は、訳の正しさより、確認のしやすさのための指示です。 日本語の技術文は主語や対象が省かれることが多く、AIはどれかに決めて訳します。決めたこと自体は問題ではなく、決めたことが研究者に見えないのが問題です。

Step7

出力形式を固定する

段落ごとに、次の形のJSONで受け取ります。 構造化出力のスキーマで、すべての項目を必須にし、additionalProperties を false にします。値が無いときは空の配列を返させます。

{
  "segment_id": "S-0412",
  "target_text": "",
  "glossary_usage": [
    { "ja": "硬化", "required_en": "curing", "used": true }
  ],
  "new_terms": [
    { "ja": "", "chosen_en": "" }
  ],
  "ambiguities": [
    { "phrase": "", "reason": "" }
  ],
  "source_issues": []
}

照合の結果は、Azure Functions が段落ごとに次の形で足します。

項目中身
numbers_match原文と訳文の数値の個数と並びが一致したか
units_match数値に付いた単位が、表記のきまりで対応するものか
figure_refs_match図表番号の参照(図3 ↔ Fig. 3)が一致したか
forbidden_terms使ってはいけない訳が訳文に含まれていたか

1つ目の理由は、AIの自己申告と機械の照合を並べて見られることです。 glossary_usage で used: true と返していても、訳文に指定訳が無ければ照合で分かります。自己申告だけを信じない作りにしておくと、どちらかの誤りが必ず表に出ます。

2つ目は、スキーマの制約に合わせて形を浅くできることです。 ドキュメントでは、スキーマに含められるのは最大100個のオブジェクトのプロパティ、入れ子は5段までとされ、すべての項目を必須にする必要があります。段落ごとに1回呼ぶ形にしておけば、この範囲に収まります。 報告書1冊を1回で返させる形にはしません。

3つ目は、new_terms が用語集を育てる材料になることです。 毎月の新しい語を集めると、研究所で新しく使われ始めた用語が分かります。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
文書管理システム属性の読み取りとファイルの取り出し海外配布の印、輸出管理の確認、報告書の本文
SharePoint のリスト読み取りと、確定後の書き込み用語集、過去の対訳
Azure OpenAIAPI呼び出し(構造化出力)段落ごとの英訳
研究者への確認の一覧訳文の Word ファイルと一覧の表ずれ・未使用の指定訳・新しい語
文書管理システム英訳版の登録研究者と取りまとめ担当の確認後

過去の対訳に書き込むのは、研究者が確定した訳だけです。 AIの訳をそのまま登録すると、直される前の訳が次の報告書で「確定した訳」として再利用されます。 登録は、研究者が確定の操作をしたときに行います。

海外拠点への配布は、この構成からは行いません。 配布先の選び方や、配布の記録の付け方は、これまでどおり取りまとめ担当が行います。

研究者に返す Word のファイルは、原文と訳文を段落ごとに左右に並べた形にします。 照合でずれた段落には色を付け、横に source_issues と ambiguities を注記します。研究者は色の付いた段落から順に読み、直した訳文をそのまま確定の操作に回せます。

Step9

人が確認する

AIの訳をそのまま海外拠点へ配る運用にはしません。 研究者と取りまとめ担当が次の順で確かめます。

  1. 照合のずれを先に直す … numbers_match などが false の段落を開き、原文と訳文の数値を見比べます
  2. source_issues を確かめる … 原文の誤りの指摘であれば、原文を直すかどうかを先に決めます
  3. ambiguities を確かめる … AIが一つに決めた解釈が正しいかを見ます
  4. 訳文全体を通して読む … 技術の中身として正しいか、書いた本人が確かめます
  5. 取りまとめ担当が照合の解消を確かめる … ずれが残っていない英訳版だけを配ります

2番目で原文を直したときは、原文の改訂として扱います。 訳文だけを直すと、日本語版と英語版の内容が食い違ったまま残ります。

新しい語の訳は、研究者が決めずに用語集の担当へ回します。 研究者がその場で決めた訳は、その報告書では使ってかまいませんが、用語集に入れるかどうかは月に1回まとめて決めます。

確認の時間の目安は、1冊90分です。 照合のずれと注記の箇所を直すのに30分、訳文を通して読むのに60分という配分を想定しています。通して読む時間を削って一覧の箇所だけを見る運用にはしません。 照合で拾えるのは数値と用語の誤りまでで、文の意味の取り違えは、技術の中身を知る人が読まないと見つかりません。

Step10

例外に対処する

起きること対応
輸出管理の確認が済んでいない印を付けられない。英訳の工程に入れない
図の中に日本語の文字がある訳さずに一覧で知らせる。研究者が図を作り直すか、英語の注記を足す
数式や化学式が段落に含まれる数式の部分は訳さず、そのまま残すよう指示する。照合の対象からも外す
原文と訳文の数値の個数が合わないnumbers_match: false。研究者が原文と訳文を見比べる
使ってはいけない訳が含まれるforbidden_terms に出す。研究者が指定訳に直す
構造化出力が返らない・途中で切れるその段落だけを再実行する。続けて失敗したら研究者へ回す
段落が長すぎる文の区切りで分けて訳し、つないだうえで照合する
過去の対訳に同じ原文で別の訳が2つある新しい確定日のものを使い、古いほうを用語集の担当へ知らせる
Azure OpenAI が応答しない処理を止めて「英訳中」の印を残す。途中までの訳文を配布の候補にしない
原文に英語の文や略語が混ざる英語の部分はそのまま残すよう指示する。略語は用語集の指定があればそれに従う
社内の製品コード・試料番号訳さずにそのまま残す。照合では数値ではなく記号として扱う

2行目は、技術報告書では避けられません。 グラフの軸の名前、写真の中の注記は、本文の英訳だけでは英語になりません。一覧で知らせて、研究者が図を直す工程を残します。

Step11

記録を残す

  • 原文の報告書番号・版と、英訳版の版の対応
  • 段落ごとの原文、AIの訳文、研究者が確定した訳文
  • 段落ごとに添えた指定訳と参考の対訳
  • 照合の結果(数値・単位・図表番号・使ってはいけない訳)と、研究者が直した記録
  • new_terms と、用語集の担当が決めた訳
  • 使ったモデルとデプロイの名前、スキーマの版

2つ目でAIの訳文と確定した訳文の両方を残すのは、直された箇所の傾向を見るためです。 同じ種類の直しが続くなら、指示か用語集のどちらかに足すべきものがあります。

最後の行は、訳の質が変わったときの手がかりです。 モデルやデプロイを替えた月から直しが増えたなら、そこを疑えます。

04実装レベルの3段階

最小構成:段落を手で分け、指定訳を添えて手元のAIサービスで訳す / 下訳の作成
半自動化:上記+段落の分割と用語の当てはめをプログラムで行い、APIで訳す / 下訳と訳語の統一
本格構成:上記+過去の対訳の再利用、数値・単位・図表番号の照合、確認の一覧、確定訳の登録 / 下訳から照合と対訳の蓄積まで

半自動化で、①の英文を直す時間と、②の用語を引く時間が大きく減ります。 残るのは③の数値の見比べで、ここは本格構成の照合で初めて機械に置き換わります。 本格構成で1冊90分になり、この段階が本記事の想定です。 段階を飛ばさないでください。 半自動化で2か月ほど訳すと、どの用語で指定訳が守られにくいかが分かります。それを用語集に足してから照合を組むほうが、照合の一覧が短くなります。 本格構成に進む目安は、半自動化の訳で研究者が直す箇所の多くが「数値と図表番号」になったときです。 訳語の直しが多いうちは、照合を足しても一覧が長くなるだけです。用語集と表記のきまりが落ち着き、残る直しが機械で拾える種類に寄ってきたら、照合を組む時期です。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
25 名
月間件数
40 件
1件あたり現在時間
240 分
1件あたり導入後時間
90 分
現在  40件 × 240分 ÷ 60 = 160 時間/月
導入後 40件 × 90分 ÷ 60 = 60 時間/月
月間削減時間
100h
削減率
63%
年間削減時間
1,200h
年間金額換算(時間単価4,500円)
540万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 国内の研究所と海外の開発・生産拠点で技術報告書を共有している製造業。毎月数十冊の報告書を研究者自身が英訳しており、訳語が人によって揺れ、数値や図表番号の写し間違いが海外拠点からの問い合わせで見つかっている場合。社内の用語集と、過去に英訳した報告書が残っている場合。
向いていない
  1. 英訳する報告書が年に数冊で、外部の翻訳会社に任せて足りている場合。報告書の大半が図と数式で、本文の文章がほとんど無い場合。社外に提出する規制当局向けの文書や特許出願の明細書のように、訳文そのものに法的な責任が生じる文書は、この構成の対象にしないでください。

07最小構成で試す方法

  1. 過去に英訳した技術報告書から5冊を選ぶ(数値の多い報告書と、文章の多い報告書を両方入れる)
  2. 用語集から、その5冊に出てくる語の指定訳だけを抜き出す
  3. 1冊ずつ段落に分け、指定訳を添えて手元のAIサービスで英訳させる
  4. 原文と訳文の数値を、表計算の式で抜き出して並べる
  5. 当時の英訳版と比べ、指定訳の使い方と数値の一致を数える

5冊は必ずやってください。 仕組みを組む前に、「指定訳を添えれば訳語がそろうのか」「数値を言い換えずに訳すのか」を確かめます。

出てきた内容判断
指定訳が使われ、数値も一致した段落の分割と照合の自動化に進む
指定訳を使わない段落がある「使ってはいけない訳」を用語集に足す。構成は有効
数値が言い換えられている表記のきまりを指示に足す。照合の正規表現もそろえる

3行目が出ることは珍しくありません。 「約1.5倍」「1割程度」のような書き方は、言い換えが起きやすい部分です。原文の書き方そのものを、研究所の執筆のきまりで見直すきっかけにもなります。

5冊の結果は、研究者にも見せてください。 自分の報告書の訳がどこまで使えるかを見ると、どの箇所に確認の時間を使えばよいかの感覚がつかめます。英訳を頼まれる側の研究者が納得していないと、本格構成でも訳文を最初から書き直す運用に戻ります。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
指定訳を添えても別の訳を使う使ってはいけない訳を用語集に持たせ、照合で検出する
数値が言い換えられて照合できない表記のきまりを指示に入れ、言い換えを禁じる
AIが原文の誤りを訳文で直してしまう訳文では直させず、source_issues に書かせる
表の行と列の対応が崩れるセルの位置を付けたまま、セルごとに訳す
構造化出力のスキーマが通らないすべての項目を必須にし、additionalProperties: false、入れ子は5段まで
1冊を1回で訳させて途中で切れる段落ごとに呼ぶ
直す前のAIの訳が対訳に登録される研究者の確定の操作でのみ登録する
用語集の全件を毎回渡して処理が重い段落に出てくる語だけを添える
図の中の日本語が残る一覧で知らせ、研究者が図を直す
輸出管理の確認前に英訳が始まる確認済みでなければ海外配布の印を付けられない作りにする

上の2行が、この構成の失敗のほとんどです。 どちらも、AIの訳の正しさではなく、機械で確かめられる形にしてあるかどうかで決まります。

7行目も、気づかれにくい失敗です。 対訳のリストは一度汚れると、誤った訳が「過去の確定訳」として次々に再利用されます。 登録の操作を研究者に限り、登録された訳には確定した人と日付を必ず残してください。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 技術報告書の本文(材料の配合、製造の条件、試験の結果)、用語集、過去の対訳、執筆者の氏名です。会社の技術ノウハウそのもので、最も機密性の高い部類の情報です。

  1. 輸出管理の確認を入口に置く … 経済産業省は、武器や軍事転用可能な貨物・技術が懸念のある者に渡ることを防ぐため、外国為替及び外国貿易法に基づいて安全保障貿易管理を行っているとしています。海外拠点への技術報告書の共有がこれに当たるかは、自社の輸出管理の担当が報告書ごとに判断します。 この構成はその判断を代替せず、確認済みでない報告書を入口で止めるだけです
  2. プロンプトと出力の扱いを確かめる … Microsoft のドキュメントでは、プロンプトと出力は他の顧客や OpenAI に提供されず、許可なく基盤モデルの学習に使われないとされています。一方で、不正使用の監視のために、プロンプトと出力のサンプルが確認の対象になりうることも書かれています。管理対象の顧客は、不正使用の監視の変更を申請できます
  3. 処理の場所を選ぶ … 「グローバル」の種類のデプロイでは、プロンプトと応答がモデルのデプロイされている任意の地域で処理されうるとされています。データを保存する場所は顧客が指定した地域ですが、処理の場所は変わります。 技術報告書を扱うデプロイの種類は、情報システム部門と決めてください
  4. 英訳版にも原文と同じ管理区分を付ける … 英訳版が別のファイルになると、原文より緩い場所に置かれがちです。 文書管理システムで原文と同じ区分を引き継ぎます
  5. 過去の対訳のリストの閲覧範囲を絞る … 対訳のリストには、全報告書の本文が段落ごとに溜まります。報告書ごとの閲覧の制限が、リストでは効かなくなります。 リストを読めるのは処理の仕組みと用語集の担当に限ります
  6. 共同研究の成果を含む報告書は、相手方との取り決めを確かめる … 大学や他社との共同研究の成果は、海外拠点への開示そのものが契約で制限されていることがあります。輸出管理の確認と同じく、海外配布の印を付ける前に取りまとめ担当が確かめます

Responses API の保存の機能にも気を付けます。 ドキュメントでは、Responses API は複数ターンの会話のためにメッセージ履歴を保存し、保存されたデータは顧客の地域に置かれ、顧客がいつでも削除できるとされています。段落ごとに1回で完結する英訳では会話の履歴は要りません。 Chat Completions API で呼ぶか、保存されたデータを定期的に削除するかを、情報システム部門と決めてください。

誤りが起きた場合のリスクは、誤った数値が海外拠点で使われることと、渡してはいけない技術が渡ることの2つです。 前者は機械の照合で、後者は入口での輸出管理の確認で防ぎます。

10まず何から始めるか

1週目:用語集に列を足す

用語集に「使ってはいけない訳」の列を足し、よく揺れる語から埋めます。あわせて、単位・数値・図表番号の表記のきまりを一覧にします。

2週目:5冊で試す

過去に英訳した報告書から5冊を選び、指定訳を添えて手元のAIサービスで訳させます。当時の英訳版と比べ、指定訳の使い方と数値の一致を数えます。

3週目:輸出管理の担当と入口の条件を決める

文書管理システムに「輸出管理の確認」の欄を足し、確認済みでなければ海外配布の印を付けられないように設定します。デプロイの種類と処理の場所も、ここで情報システム部門と決めます。

4週目:分割と照合の試作

報告書を段落とセルに分けるプログラムと、原文の数値を控えて訳文と突き合わせるプログラムを作り、5冊で照合が正しくずれを出すかを確かめます。

2か月目: 段落ごとの英訳と照合をつなぎ、研究者に確認の一覧を使ってもらいます。3か月目以降: 過去の対訳の再利用と確定訳の登録を足し、1冊240分が何分になったかを実測します。海外拠点からの数値と図表番号の問い合わせが減った時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-09/最終更新:2026-10-09
確認した内容情報源確認日
構造化出力が指定した JSON スキーマに従い、Chat Completions API と Responses API の両方で使えること。有効な JSON だけを保証した古い JSON モードと違うこと。すべての項目を必須にし、additionalProperties: false を設定すること。最大100個のオブジェクトのプロパティと5段の入れ子まで。持ち込みデータのシナリオと Foundry Agents Service では使えないことMicrosoft Learn: Azure OpenAI で構造化出力を使用する方法2026-10-09
プロンプトと出力が他の顧客や OpenAI に提供されず、許可なく基盤モデルの学習に使われないこと。不正使用の監視でサンプルが確認の対象になりうること、管理対象の顧客が変更を申請できること。グローバル・データゾーンのデプロイで処理の場所が変わり、保存の場所は顧客の指定した地域であることMicrosoft Learn: Azure が販売する Foundry モデルのデータ、プライバシー、セキュリティ2026-10-09
武器や軍事転用可能な貨物・技術が懸念のある者に渡ることを防ぐため、外国為替及び外国貿易法に基づいて安全保障貿易管理を行っていること経済産業省: 安全保障貿易管理の概要2026-10-09

海外拠点への技術報告書の共有が輸出管理の対象になるかは、自社の輸出管理の担当が判断してください。 本記事は公開情報で確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

自社の業務に使えるAI活用候補を整理します

このユースケース(UC-1206)についてのご相談はこちらから。

AI活用について相談する
目次