企業出版の原稿にAIを使うなら|契約で申告する範囲

企業出版の原稿にAIを使うなら|契約で申告する範囲

「社長の本を出したいが、取材の録音をAIでまとめて原稿にしてよいのか」「制作会社がAIを使っているかどうか、契約のどこで確かめればいいのか」。ブランディングのための書籍を任されたマーケ責任者や経営企画から、この秋になって増えた問いです。きっかけの一つは、日本書籍出版協会(書協)が2026年10月1日に公開した出版契約書ヒナ型2026年版で、AIに関わる条文が見直されたことでした。問われているのは、AIを使うか使わないかではありません。本当は、誰がどの工程でAIを使い、その結果が本のどこに残ったかを、契約の上で説明できるかです。この記事では、ヒナ型の原文と解説で確かめられる範囲に絞って、企業出版の原稿にAIを使う工程ごとに、使ってよい・出版社に明示する・使わない、を比べて決める線を整理します。


カメ先生カメ先生

出版契約のAIの話って、AIで書いた本を出してはいけない、という決まりができたと思われがちなんだ。でも本当は、使った部分も含めて権利の問題が起きないと保証する、という形で書かれているんだよ。


カメ子カメ子

使うこと自体は禁止されていない、ということですか。


カメ先生カメ先生

そう。そのかわり、どこにAIの表現や内容が入っているかを出版社と共有してほしい、と解説が書いている。企業出版だと、原稿を書く人と契約に名前を書く人が別なことが多いから、そこが一番抜けやすいんだ。


カメ子カメ子

保証する人が、制作の中身を知らないまま署名してしまうかもしれないんですね。


この記事のポイント
  • 書協の出版契約書ヒナ型2026年版では、AIに関わる条文として第8条・第15条・第16条が見直され、第24条の解説にもAIの話が足された
  • 第15条第2項は、AIによる表現・内容を含む部分も著作権者が保証する条文。どこがAIかを出版社に明示するのは、条文ではなく解説が求める実務
  • 工程ごとに使い方を決め、明示の記録は制作会社から受け取る。保証の欄に何を書くか、本人の言葉として残す部分、AIの使用を本で示すかは人が決める

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目次

ヒナ型2026年版で、AIに関わる条文はどこが変わったか

書協は出版契約書のヒナ型を3種類公開しています。紙と電子をまとめて出版権を設定するヒナ型1、紙だけのヒナ型2、配信型の電子出版だけのヒナ型3です。書協のページによると、2017年版から変わった主な条項は、AI関連では第8条・第15条・第16条で、第24条は条文を変えずに解説へAIの話を書き足しました。このほか第4条第2項に著作物利用料の解釈の規定、第16条第3項にオーディオブックの規定が加わっていますが、これらはAIの条文ではありません。

AIに関わる4か所を短く並べると、次のとおりです。第8条第3項は、出版社が制作の過程でAI関連技術を使って権利の問題を起こしたときは出版社が責任と費用を負う、という条文です。第15条第2項は、原稿にAIによる表現・内容が含まれる場合も、著作権者がその部分について権利を侵害しないことを保証する条文です。第16条は、要約などのAIを使ったサービスや、AIの学習に本が使われる場面で出版社を窓口にする条文で、第24条の解説はAIを悪用した権利侵害への協力に触れています。

業界紙などは、書協が2026年3月30日に知的財産権委員会の中で生成AIに関する作業部会を立ち上げ、出版社向けの指針づくりも進めていると報じていました。ただしヒナ型は、ページの注意書きにあるとおり、各社の契約の実態に合わせて当事者の間で加除修正したうえで使うものです。自社が結ぶ出版契約がこの文言どおりとは限らないので、記事で扱うのはヒナ型がどう変わったかまでとし、個別の契約の判断は法務に回すことを前提に読んでください。

3種類のうち、紙だけのヒナ型2と電子配信だけのヒナ型3の解説は、出版社の優先権を定めた第3条第4項だけを説明し、ほかの条項はヒナ型1の解説を見るよう案内しています。この記事でも条文はヒナ型1に沿って引きます。ただし文言は完全には同じではなく、たとえばヒナ型2の第16条第2項は「乙または第三者により」AIの学習に供される場合、と書いています。出版社から届いた契約書が、どのヒナ型をもとにしているかを最初に確かめると、読み違いを防げます。

企業出版では、契約で「甲」になる人を先に確かめる

ヒナ型の出版契約は、著作権者(甲)と出版社(乙)の間で結ぶ形です。企業出版では、本の顔になるのは経営者でも、原稿を実際に書くのは制作会社やライターで、取材の録音をAIでまとめるのも制作会社という分担がよくあります。すると、保証の条文に署名する人と、AIを使った人が別になるという形が生まれます。第15条の議論に入る前に、この分担を把握しておくことが出発点です。

ヒナ型の第14条では、甲が本の著作権者で、契約を結ぶ権限を持っていることを保証させています。解説は、著作権の譲渡や相続によって著作権者と著作者が別になる場合がある、と書いています。また第7条の解説は、著作者人格権は契約で他人に移せず、著作権者と著作者が違う場合は両方の了承を得るのが実務だと説明しています。制作会社との契約で原稿の権利をどう扱ったかによって、出版契約の甲が誰になり、誰の確認が要るかが変わります。

制作会社との業務委託の契約に、AIを使ってよいか、使ったら申告させるか、預けた資料を学習に使わせないか、といった条項をどう書くかは、外注の業務委託契約を扱った別の記事で整理しています。この記事では、その手前の契約で取り決めた内容を、出版社との契約の場面でどう使うかに絞ります。

第15条第2項:AIで書いた部分も、権利を侵害しないと保証する

第15条第1項は従来どおり、本が第三者の著作権や肖像権などを侵害しないことを、著作権者が出版社に保証する条文です。2026年版で加わった第2項は、原文で「本著作物の全部または一部にAI関連技術(将来開発されるいかなる技術によるものをも含む)による表現・内容が含まれる場合には、甲は、乙に対し、当該内容についても、前項の規定を準用して、これを保証する。」と書かれています。

読み方の要点は、AIで書いた部分を保証の外に置く条文ではないということです。AIが出した文章や図に他人の表現と似た部分があっても、それは著作権者が保証した範囲に入ります。続く第3項は、本によって権利の問題が起き、出版社や第三者に損害を与えたときは、著作権者が責任と費用負担で処理すると定めています。企業出版で甲が会社や経営者なら、制作会社のAIの使い方まで含めて、その会社や経営者が保証することになります。

一方で解説は、出版社も侵害の可能性を著作権者任せにせず、発行者としての注意義務があると書いています。出版社に注意義務違反があると認められた裁判例が多くある、とも添えています。つまり保証の条文は、著作権者だけに負担を寄せるためのものではなく、どこにリスクがあるかを両者で見つけるための入口として置かれている、と読むのが解説に沿った理解です。

条文の括弧書きにある「将来開発されるいかなる技術によるものをも含む」は、第8条第3項と第16条第2項にも入っています。解説によれば、現時点では想定されていない新しいAI関連技術も対象にするための文言です。いま使っているサービスの名前で線を引かず、工程で線を引くほうが、この書き方と合います。

解説が求める「情報の透明性」と、明示の中身

第15条第2項の解説で最も実務に効くのは、この条項の目的についての説明です。解説によれば、目的は著作権者に一方的な責任を負わせることではなく、どの箇所がAI関連技術による表現や内容なのかという「情報の透明性」を出版社と共有することにあります。万が一の法的なトラブルから著作権者を守り、双方が安心して出版できる協力の体制を築くため、と書かれています。

解説は続けて、実務ではAIによる表現や内容を出版社に明示してもらうことで、出版社が著作権者と一緒に権利侵害のリスクを精査できる、と説明しています。タイトルにある「申告」は、この明示のことです。ただし注意したいのは、明示は条文の文言ではなく、解説が示す実務だという点です。条文そのものが定めているのは、あくまで保証です。

さらに解説は、明示を求める場合の具体的な内容や確認の手順は出版社や出版の形態によってまちまちで、ヒナ型は基本的な枠組みを定めている、と書いています。どの単位で、どんな書式で明示するかは決まっていません。だから発注側は、出版社から聞かれてから慌てるのではなく、聞かれたら答えられる記録を制作の段階で残しておくことが現実的な備えになります。

原稿をAIに読み込ませる行為も、明示の対象に入る

見落としやすいのが、解説の次の一文です。著作権者が本の原稿(解説の言葉では本著作物、原作)をAIに読み込ませる行為自体も、出版社に明示し、当事者の間で話し合う必要がある、と書かれています。AIが書いた部分だけでなく、原稿をAIに渡したことも話題にする前提です。

企業出版の制作では、書き上がった章をAIに渡して読みやすく整えさせる、全体を要約させて帯や紹介文の案を出させる、といった使い方が自然に起きます。どれも本に残る文章を変えたり、原稿をAIのサービスに渡したりする行為です。どのサービスに、どの章を、何のために渡したかを、制作会社の作業の記録として残してもらうよう、最初の打ち合わせで決めておきます。

取材の録音や社内の資料をAIに渡す範囲は、さらにその手前の判断です。顧客の名前、公表前の数字、社員の個人的な話が録音に入っていることは珍しくありません。何を渡してよいかは制作会社に渡す前に発注側が決め、制作会社との契約や依頼書に書いておきます。ヒナ型の第21条も、出版社が業務で知った個人情報を個人情報保護法の趣旨にのっとって扱うと定めており、出版社に渡る段階でも同じ配慮が続きます。

第8条第3項:出版社が制作で使うAIは、出版社の責任

2026年版は、出版社の側のAIの使用についても条文を置きました。第8条第3項は、出版社が出版の利用に関して、制作の過程でAI関連技術を使い、権利侵害などの問題を生じて著作権者や第三者に損害を与えた場合は、出版社が責任と費用負担で処理すると定めています。解説は、近年出版社が制作過程でAIを活用する機会が増えていることを理由に挙げています。

解説によれば、第8条第3項は本の制作過程での出版社の責任を、第15条第2項と第3項は著作物についての著作権者の責任を定めるもので、双方が対称的に責任を負う構造になっています。発注側から見ると、自分たちが明示するだけでなく、出版社が制作のどこでAIを使うのかを聞いてよい、ということでもあります。

聞いておきたいのは、出版社が制作の工程でAIを使う予定があるか、あるならどの工程か、その結果を著者側が確認する機会があるか、の3点です。出版社が書名や見出しを変える必要が出たときは、第7条により著作者の承諾が要ります。AIの提案をもとにした変更でも同じなので、変更の連絡が来たときに誰が承諾するかを社内で決めておくと、制作の終盤で止まりません。

工程ごとに比べる:使ってよい・明示する・使わない

ここからは、企業出版の原稿づくりでAIが入りうる工程を並べ、それぞれの扱いを比べます。分ける軸は、AIの結果が本の表現や内容として残るかどうかです。第15条第2項が保証の対象にするのは本に含まれる表現・内容なので、本に残らない作業と残る作業では、明示の重みが違います。

工程AIの使い方出版社への明示確認の持ち主
取材の録音の文字起こし使ってよい原則は記録に残すまで。渡した録音の範囲は発注側が決める発注側の担当
構成案・目次の案使ってよい記録に残すまで編集の担当と著者
表記の統一・誤字の点検使ってよい記録に残すまで校正の担当
本文の下書き使うなら明示するどの章・節かを示す著者と制作会社
事例・数字の書き足し原則使わない。使ったら全件を出どころに戻す示す著者
本人の発言・経験の記述使わない。録音から起こす対象外(AIを通さない)著者本人
図・イラスト使うなら明示するどの図かを示す制作会社と出版社
完成した原稿をAIに読ませる目的ごとに判断する示し、出版社と話し合う著者と出版社

表の「記録に残すまで」は、出版社に必ず届け出るという意味ではありません。解説のとおり確認の手順は出版社ごとに違うので、聞かれたときに出せる状態にしておく、という扱いです。逆に本文の下書き、書き足し、図のように本に残るものは、最初から章や図の単位で示せるようにしておきます。

使ってよい工程:文字起こし・構成案・表記の統一

文字起こし、構成案、表記の統一の3つは、AIを使っても本に残る表現を新しく作りにくい工程です。録音を文字にする、章の順番の案を並べる、送り仮名や数字の書き方をそろえる、という作業は、人の言葉や判断を材料にして形を整えるだけだからです。ここは時間を縮める効果が大きく、明示の負担が小さい工程と言えます。

ただし、使ってよい工程でも残しておく記録はあります。使ったサービスの名前、渡したファイル、作業した日の3つです。文字起こしの場合は、取材した相手が録音をAIのサービスに渡されることを了承しているかも、取材の前に確かめておきます。社員や取引先を取材するなら、依頼の段階でひと言添えるだけで済みます。

構成案については、AIの出した案をそのまま目次にしないことが大切です。章の並びは本の主張の順番そのもので、何を先に言うかは著者と編集の担当が決めます。AIには候補を3案ほど出させ、それぞれの案で読者が最初に何を受け取るかを書かせると、比べる材料になります。取材記事の作り方そのものは、インタビュー記事の作り方を扱った別の記事で整理しています。

明示する工程:本文の下書きと、書き足した事例・数字

本文の下書きをAIに書かせると、その文章は多かれ少なかれ本に残ります。人が大きく手を入れたとしても、どの章のどの節をAIの下書きから起こしたかは、制作会社が一番よく知っています。章と節の単位で、AIの下書きを使ったかどうかを一覧にするのが、明示の最小の形です。

より注意が要るのは、AIが下書きの中で足した事例や数字です。取材では話に出なかった業界の数字、他社の事例、もっともらしい引用が、文章の流れを良くするために入ってしまうことがあります。これらは本人の経験でも取材の内容でもなく、出どころを確かめないまま本に載れば、第15条で保証した内容に誤りや他人の権利の問題を持ち込む入口になります。

  • AIの下書きに入っていた業界の統計を、出典を確かめないまま残す
  • 取材で出ていない他社の事例を「よく知られた話」として本文に入れる
  • 著名人の言葉の引用を、原典に当たらずに章の冒頭に置く
  • 制作会社の「下書きにAIは少し使った」という口頭の説明だけで、章ごとの記録をもらわない

書き足しの扱いは、原則として「使わない」に寄せるのが安全です。どうしても使うなら、事例と数字を全部抜き出して出どころの一覧を作り、著者が一つずつ確かめます。社史のように資料の山から年表と原稿を起こす制作の手順や裏取りの進め方は、社史の制作を扱った別の記事で詳しく書いています。

使わない工程:本人の言葉として残す部分

企業出版の本で読者が読みたいのは、その経営者が実際に何を経験し、何を語ったかです。鉤括弧で引く発言、創業の頃の出来事、失敗の振り返りといった部分は、録音と本人の記憶から起こし、AIに書かせないと決めておきます。AIが整えた言い回しは読みやすくても、本人が言っていない言葉になりやすいからです。

この線を引くと、明示の作業も軽くなります。本人の言葉の部分はAIを通していないので、明示の一覧では「対象外」と書けます。そのかわり、本人が原稿の上で自分の言葉かどうかを確かめる工程を、校正の予定に入れておきます。読み合わせの時間を取れない経営者でも、発言の引用と経験の記述だけに印を付けて渡せば、確認する量を絞れます。

なお、経営者の名前で発信する内容そのもの、つまり主張をAIに書かせてよいかや、誰の名前で出すかという問いは、ソートリーダーシップを扱った別の記事で整理しています。ここで扱うのは、契約と明示の上で本人の言葉をどう守るかに限ります。

制作会社から受け取る「AI使用の記録」の作り方

明示に備える記録は、発注側が自分で作るより、作業をしている制作会社に作ってもらうほうが正確です。依頼の最初に記録の形を渡し、章ごとの原稿と一緒に納めてもらいます。書式に決まりはないので、表計算の1枚で足ります。

STEP1
工程の一覧を決める

文字起こし、構成案、下書き、書き足し、表記の統一、図、原稿の読み込みなど、前の表の工程を自社の制作に合わせて並べる。

STEP2
章ごとに使ったかを書いてもらう

章と節の行、工程の列で、使ったかどうかと使ったサービスの名前を書いてもらう。使っていない場合も「使っていない」と書く。

STEP3
渡した材料を書いてもらう

録音、社内資料、書き上がった章など、AIのサービスに渡したものと日付を残す。発注側が決めた渡してよい範囲と照らす。

STEP4
書き足しの出どころを一覧にする

AIの下書きで入った事例・数字・引用を抜き出し、出どころを書く。出どころのないものは削る。

STEP5
著者と法務が読む

出版契約に署名する前に、著者と法務が記録を読み、保証の欄で気になる部分を出版社と話す材料にする。

記録づくりの一部はAIに手伝わせてかまいません。下書きと完成原稿を並べて違いの大きい節を挙げさせると、記録の漏れを見つけやすくなります。ただし、その一覧で「AIの影響は小さい」と判定させて明示の対象から外すことはしません。何を明示するかを決めるのは人で、AIの役目は見落としを減らす下読みまでです。

第16条:出来上がった本が、AIに使われる側の取り決め

ここまでは本を作る側の話でしたが、2026年版は本が出た後にAIに使われる場面も扱っています。第16条第1項は、翻訳やダイジェストなどの二次的利用に「AIの技術を用いた新たなサービス」を含めて、著作権者がその処理を出版社に委任し、出版社が条件を著作権者と協議して決めると定めています。解説は、外部の情報源を引いて要約し回答を作る仕組み(検索拡張生成)での利用も想定している、と書いています。

第16条第2項は、第三者が本をAIの学習に使い、著作権者の許諾が要る場合に、その処理を出版社に委任する条文で、出版社自身が学習に使う場合も準用します。解説によれば、情報解析を目的とした利用は原則として許諾を要しないものの、学習の態様によっては許諾が要る場合があり、その領域で出版社が窓口になるという整理です。

企業出版で気をつけたいのは、自社で本の中身を使い回す予定です。本の内容を自社のサイトに載せる場合、ヒナ型の第3条第2項は、著作権者が自らのホームページなどで使うときは事前に出版社に通知して同意を得る、と定めています。自社の問い合わせ窓口のAIや社内の検索に本の中身を入れる考えがあるなら、どの条文の話になるかを含めて、契約を結ぶ前に出版社と話しておくのが確実です。

解説は、要約や検索拡張生成での利用でも、利用の目的と効果が本の利用の促進や読者への訴求にあり、著作権者の利益を害しないと出版社が判断する場合は、許諾が要るかどうかも含めて出版社ごとに判断する、と書いています。企業出版の本は宣伝の目的と重なりやすいので、どこまでが出版社の判断になるのかを聞いておくと後で迷いません。また第5条は、本の版面や電子データ、制作の過程で作られたデータを、著作権者でも出版社の書面の承諾なく使えないと定めています。自社のAIに入れたいのが、自分たちの原稿なのか、出版社が作ったデータなのかも分けて考えます。

第24条:AIを悪用した権利侵害に、両者で対処する

第24条は、第三者に本の著作権や契約上の権利を侵害されたとき、著作権者と出版社が協力して対処すると定める条文で、2026年版でも文言は変わっていません。変わったのは解説です。従来型の侵害であれ、AI技術を悪用した新たな侵害であれ、あらゆる権利侵害に協力して対処すると書き足されました。

解説が例に挙げているのは、AIを使って大量の海賊版を自動で作る行為と、特定の著作者の作風を不当にまねたAI生成物の流布です。企業出版の本は会社の看板そのものなので、本の中身を勝手に要約した資料や、経営者の語り口をまねた文章が出回ると、会社の発信と取り違えられるおそれがあります。

解説は、侵害の手段は日々変わるため、個別の契約で具体的な対応を書くのは現実的でないとして、あえて手段を列挙しない包括的な書き方にした、と説明しています。そのぶん、見つけたときに社内の誰が出版社へ連絡するかは、自社の側で決めておく必要があります。広報や法務のどちらが窓口になるかを、本が出る前に決めておくと動きが早くなります。

AIを使ったことを、本の中で示すかは人が決める

出版社への明示と、読者への表示は別の話です。第15条第2項の解説が求めているのは出版社との情報の共有で、奥付や前書きで読者に向けてAIの使用を示すかどうかは、ヒナ型の条文には書かれていません。示すかどうかは、出版社の方針と自社の開示の方針を突き合わせて決めることになります。

判断の材料になるのは、どの工程でどれだけAIが本に残ったかです。前の節の記録があれば、文字起こしと表記の統一だけなのか、章の下書きまで使ったのかを具体的に言えます。前書きで触れるなら、「取材の文字起こしと表記の統一にAIを使い、本文は著者が確かめた」のように、使った工程と人が確かめた範囲を一文で書く形が考えられます。

ここで避けたいのは、「この程度なら示さなくてよい」という判断をAIにさせることです。開示の線は会社の信用に関わる方針で、AIに答えを出させる問いではありません。Web記事でAIの利用を明記するかの判断と書き方は、記事のAI利用表示を扱った別の記事で整理しています。

よくある質問

出版社がヒナ型を使っていない場合も、関係がありますか

あります。ヒナ型は書協が示す一例で、各社が加除修正して使うものです。条文の番号や文言が違っても、権利を侵害しないことの保証、出版社の責任、二次的利用の窓口といった論点は、多くの出版契約に何らかの形で入っています。自社が受け取った契約書で同じ論点の条文を探し、AIによる表現・内容の扱いが書かれているかを法務と確かめてください。

制作会社が「AIは使っていない」と言う場合、どう確かめればよいですか

口頭の説明ではなく、章ごとの記録に「使っていない」と書いてもらうのが第一歩です。外部の判定ツールで文章がAIで書かれたかを当てようとしても、確かな答えは得られません。記録を書面でもらい、確かめきれない部分は保証の欄でどう扱うかを、出版社と話す材料にします。

出版契約書をAIに読ませて、条文案を作らせてもよいですか

社内のAIの利用の決まりの範囲で、下読みや論点の洗い出しに使うのはかまいません。ただし、AIが作った条文案や修正案をそのまま出版社に出したり、AIの要約だけを見て署名したりはしないでください。契約書のどこをAIに任せ、どこを人が原文で読むかは、契約書のレビューを扱った別の記事で整理しています。

まとめ

書協の出版契約書ヒナ型2026年版は、AIで書いた部分も含めて権利を侵害しないと保証する第15条第2項を置き、解説では、どこがAIによる表現や内容かを出版社と共有する「情報の透明性」を求めました。企業出版では、保証に署名する人と、AIを使って原稿を作る人が別になりやすいので、工程ごとに使ってよい・明示する・使わないを決め、制作会社から章ごとの記録を受け取っておくことが備えになります。文字起こしや構成案、表記の統一はAIに任せてかまいませんが、保証の欄に何を書くか、本人の言葉として残す部分、書き足した事例と数字の裏取り、AIの使用を本で示すかは人が決める。ヒナ型は一例なので、自社の契約書で同じ論点を探し、判断は法務に回してください。

  • ヒナ型の条文と解説の内容は、日本書籍出版協会が公開している出版契約書ヒナ型2026年版(ヒナ型1)とその解説(2026年10月)に基づきます。公開日は書協の告知(2026年10月1日)によります
  • 作業部会の発足と指針づくりの動きは、業界紙と新聞の報道に基づく二次情報です
  • ヒナ型は各社の契約の実態に合わせて加除修正して使うものです。実際の契約の判断は、契約書の原文をもとに法務や専門家に確かめてください

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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