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損害保険の損害調査で、現地の立会いで話した内容を音声で記録して文字にし、事故状況・損傷箇所・聞き取りを調査報告書の項目に分けて下書きする

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

建物の損害調査の立会いで、被保険者との会話と調査担当の読み上げを録音して文字にし、事故状況・損傷箇所・聞き取り・所見を調査報告書の項目に分けて下書きします。調査担当は事務所に戻ってから書き起こすのではなく、下書きを直す形で報告書を仕上げます。

サマリー
生成AI
Azure OpenAI Service/Claude/Gemini
AIサービス
Azure AI
対象業界
不動産/保険/建設
対象部門
カスタマーサポート
対象業務
書類作成/記録・議事録作成
主な課題
人手が足りない/書類作成に時間がかかる/確認ミスが多い
AIで行う処理
抽出
主な効果
品質標準化/対応スピード向上/工数削減
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
本格構成
費用感
API連携(中)
人間の確認
条件付き
現在工数
180h/月
AI導入後
60h/月
想定削減
67%
年間削減
1,440h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 調査担当が被保険者の家を訪ね、事故の経緯を聞く
  2. 建物を見て回り、損傷箇所を写真に撮りながら手帳にメモする
  3. 被保険者から、以前の修理の有無、修理の見積の予定、同じ箇所の以前の損傷などを聞く
  4. 事務所に戻り、手帳のメモと写真を見ながら報告書の雛形に書き起こす
  5. 写真の番号と損傷箇所の記述を対応させる
  6. 書き終えた報告書を案件管理の仕組みに登録し、査定の担当へ回す
導入後(After)
  1. 人調査担当が立会いの最初に、録音の目的と扱いを被保険者に伝え、了承を得て録音を始める
  2. 人建物を見て回りながら、写真を撮るたびに部位と状態を声に出して読み上げる
  3. 自動立会いが終わってアプリが音声を送ると、処理が案件の情報と語句の一覧を用意する
  4. 自動音声認識が話者の区別付きで文字にし、文ごとの時刻と信頼度を返す
  5. 自動生成AIが、事故状況・損傷箇所・聞き取り・所見の項目に振り分け、区分と根拠の文を付ける
  6. 自動処理が写真の撮影時刻と文の時刻を突き合わせ、損傷箇所の記述に写真の番号を当てる
  7. 人調査担当が下書きを開き、全項目を確かめて直し、所見を書き足す
  8. 人調査担当が報告書を確定し、案件管理の仕組みに登録して査定の担当へ回す
各工程の詳しい説明を読む
  1. 調査担当が被保険者の家を訪ね、事故の経緯を聞く
  2. 建物を見て回り、損傷箇所を写真に撮りながら手帳にメモする
  3. 被保険者から、以前の修理の有無、修理の見積の予定、同じ箇所の以前の損傷などを聞く
  4. 事務所に戻り、手帳のメモと写真を見ながら報告書の雛形に書き起こす
  5. 写真の番号と損傷箇所の記述を対応させる
  6. 書き終えた報告書を案件管理の仕組みに登録し、査定の担当へ回す

(a)書き起こしが事務所に戻ってからになる。 1日に3件回ると、その日のうちに3件分を書き起こす時間はありません。翌日、翌々日と後ろにずれ、 台風の後には1週間分がたまります。

(b)メモに残らなかった話が消える。 被保険者が話しながら指さした箇所、「去年もここから少し漏れた」という一言が、手帳に書き留められなかったものは報告書に残りません。数日たってから書き起こすと、どの家の話だったかも曖昧になります。

(c)申告と確認が混ざる。 「2階の天井から水が落ちてきた」は被保険者の申告で、「2階の天井に直径30センチほどの染みがある」は調査担当の確認です。書き起こしのときに区別を意識しないと、申告が確認した事実のように書かれます。

(d)写真と記述の対応がずれる。 写真は撮った順に番号が付きますが、メモは見て回った順とは限りません。写真の番号を記述に当てはめる作業に、書き起こしと同じくらいの時間がかかります。

  1. 【人】 調査担当が立会いの最初に、録音の目的と扱いを被保険者に伝え、了承を得て録音を始める
  2. 【人】 建物を見て回りながら、写真を撮るたびに部位と状態を声に出して読み上げる
  3. 【自動】 立会いが終わってアプリが音声を送ると、処理が案件の情報と語句の一覧を用意する
  4. 【自動】 音声認識が話者の区別付きで文字にし、文ごとの時刻と信頼度を返す
  5. 【自動】 生成AIが、事故状況・損傷箇所・聞き取り・所見の項目に振り分け、区分と根拠の文を付ける
  6. 【自動】 処理が写真の撮影時刻と文の時刻を突き合わせ、損傷箇所の記述に写真の番号を当てる
  7. 【人】 調査担当が下書きを開き、全項目を確かめて直し、所見を書き足す
  8. 【人】 調査担当が報告書を確定し、案件管理の仕組みに登録して査定の担当へ回す

2番目の読み上げが、この設計の質を決めます。 「写真、北側の外壁、雨樋の継ぎ目が外れている」と写真のたびに声に出せば、写真と記述の対応は時刻で機械的に取れます。 黙って撮ると、どの写真が何かを会話から推し量ることになります。

7番目を「全項目を確かめる」にしているのは、報告書が保険金の支払の判断に使われるからです。 下書きのうち確かめなくてよい項目はありません。減らすのは書き起こしの時間で、確かめる時間ではありません。

02今回想定するシステム構成

構成図
調査担当のスマートフォン(案件を選んで録音・撮影)
   │  音声ファイル+案件番号+写真の撮影時刻
   ▼【トリガー】音声の送信
Azure Functions(中継の処理)
   ├──▶ 案件管理の仕組みから事故の受付内容を引く
   ├──▶ 部位名と地名の語句の一覧を作る
   ▼
Azure AI Speech(高速文字起こし+話者の区別+フレーズリスト)
   │   話者ごとの文、時刻、信頼度
   ▼
Azure OpenAI(Microsoft Foundry) ── 構造化出力
   │   事故状況/損傷箇所/聞き取り/所見(区分と根拠の文付き)
   ▼
Azure Functions ── 写真の撮影時刻との突き合わせ
   ▼
報告書の下書き ──【調査担当が全項目を確認・所見を記入】
   ▼
案件管理の仕組みへ登録
役割想定する製品代替候補
処理Azure AI Speech(高速文字起こし、話者の区別、フレーズリスト)Google Cloud Speech-to-Text、Amazon Transcribe
生成AIAzure OpenAI(Microsoft Foundry)(構造化出力で報告書の項目に振り分ける)Claude API、Gemini API
連携Azure Functions(案件の情報の取得、写真との突き合わせ、登録)Azure Logic Apps
保管Azure Blob Storage(音声と文字起こしの控え)社内のファイルサーバー
記録既存の事故の案件管理の仕組み―

案件管理の仕組みと報告書の雛形は、新しく足すものではありません。 足すのはスマートフォンのアプリ、中継の処理、音声認識と生成AIです。最初の準備は、報告書の項目を、下書きのJSONの項目と1対1にそろえることです。

文字起こしには、Azure AI Speech の高速文字起こしを使います。 音声ファイルを渡すと同期で結果を返す仕組みで、5時間未満・500MB未満の音声が対象です。WAV、MP3、OPUS/OGG、AAC、WebM などを受け付けます。立会いは長くても1〜2時間なので十分です。日本語(ja-JP)は高速文字起こしの対応言語に入っています。

話者の区別(diarization)を有効にします。 "diarization": {"maxSpeakers": 3, "enabled": true} のように指定すると、文ごとに speaker の番号が付きます。話者の区別はモノラルの音声で使い、ステレオの録音には対応していません。 実際より少ない人数を上限にすると、話者がまとめられることがあるとされているので、上限は現地にいる人数に合わせます。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

調査担当がアプリで「立会い終了」を押し、音声が送られたことを起点にします。 音声には、アプリで選んだ案件番号と、立会いの間に撮った写真の撮影時刻の一覧を付けます。案件番号を付けて送るので、どの事故の立会いかを音声から推し量る必要がありません。

録音はスマートフォンの中に保存してから送ります。山間部や電波の弱い場所の立会いでも、録音だけは確実に残せるようにするためです。送れなかった音声は、電波の戻った場所で自動で送り直します。

1件の立会いは1つの音声にします。 途中で止めて撮り直すと音声が分かれますが、アプリの側で同じ案件の音声をつなげてから送ります。分かれたまま送ると、事故状況と損傷箇所が別の下書きになります。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
立会いの音声被保険者との会話と調査担当の読み上げ(モノラル)調査担当のスマートフォン
写真の撮影時刻写真の番号と撮影時刻同上
事故の受付内容事故の種類(風災・水濡れなど)、受付時の申告の内容、所在地、建物の構造案件管理の仕組み
語句の一覧部位名、所在地の地名、被保険者の氏名、建物の構造の呼び方中継の処理が組み立てる

質を決めるのは、2行目と4行目です。 写真の撮影時刻が無ければ、写真と記述を対応させられません。語句の一覧が無ければ、「破風板」「鼻隠し」「棟板金」のような部位名が、別の言葉として文字になります。

受付時の申告の内容も渡します。 ただし下書きに写すためではありません。受付のときの申告と立会いでの話が違っていれば、それを調査担当に知らせるためです。違いがあること自体は誤りではなく、調査担当が確かめる材料です。

Step3

データの取得方法を決める

文字起こしは、中継の処理から高速文字起こしの API を呼びます。locales に ja-JP を指定し、話者の区別と phraseList を付けます。 フレーズリストは API バージョン 2025-10-15 以降で使えます。

取るものどこから何に使うか
全体の文字起こしcombinedPhrases下書きの元にする全文
文ごとの結果phrases(speaker、offsetMilliseconds、confidence)話者の区別、写真との突き合わせ、読み取りの確かさ
事故の受付内容案件管理の仕組み(読み取り)受付時の申告との違いを見る
写真の撮影時刻アプリから送られた一覧損傷箇所に写真の番号を当てる

写真との突き合わせは、時刻だけで行います。 音声の開始時刻に文の offsetMilliseconds を足すと、その文が話された時刻になります。撮影時刻の前後の数十秒に「写真」と読み上げた文があれば、その文の損傷箇所にその写真を当てます。 この突き合わせに生成AIは使いません。

呼び出しが混み合ったときの扱いも決めておきます。 公式の手引きでは、HTTP 429 と 500・502・503・504 を再試行の対象に挙げています。台風の後は同じ時間帯に多くの音声が送られるので、 中継の処理で間隔を空けて再試行し、それでも返らなければ控えの音声を後で処理する列に回します。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 形式と長さの確認 … 5時間未満・500MB未満で、WAV、MP3、OPUS/OGG、AAC、WebM などの形式であることを確かめます
  2. モノラルにそろえる … 話者の区別はモノラルの音声で使うため、アプリの録音をモノラルに設定します
  3. 語句の一覧を組み立てる … 部位名の一覧(会社で共通)に、所在地の地名と被保険者の氏名、建物の構造の呼び方を足します。2,000語句を超えないようにし、 長いほど品質と待ち時間に影響するとされているので、部位名は建物の種類ごとに絞ります
  4. 話者の上限を決める … 受付内容から、立会いに同席する人数(被保険者、家族、管理会社、修理業者)を見て maxSpeakers を決めます
  5. 録音の了承の部分を確かめる … 冒頭の数十秒に、了承を得た発話があるかを文字起こしで確かめます

5番目は、下書きを作る前に止める仕組みです。 了承の発話が見つからない音声は、下書きを作らずに調査担当へ戻します。了承が録音に残っていないまま会話を文字にして報告書に使うことはしません。 了承を口頭で得て録音の前に済ませた運用なら、アプリで「了承を得た」を押してから録音を始める作りにします。

Step5

AIに処理させる

させるのは、文字起こしの文を報告書の項目に振り分け、項目ごとに区分と根拠の文の番号を付けることだけです。

項目取り出し方区分
事故状況発生日時、気づいたきっかけ、その後の経過多くは insured_statement
損傷箇所部位、状態、範囲(寸法・枚数)、読み上げた写真多くは adjuster_observed
聞き取り以前の修理、以前の損傷、修理の見積の予定、同じ箇所の過去の事故insured_statement
所見調査担当が「所見」と前置きして話した内容adjuster_opinion
受付時との違い受付時の申告と立会いでの話が違う点discrepancy

区分を3つに分けるのが、この構成でいちばん大事な点です。 insured_statement は被保険者が話したこと、adjuster_observed は調査担当が見て確かめたこと、adjuster_opinion は調査担当の意見です。同じ「雨樋が外れている」でも、被保険者が言ったのか、調査担当が見て読み上げたのかで、報告書での重みがまったく違います。

分ける材料は話者の区別と、読み上げの決まり文句です。 調査担当は「写真」「所見」と前置きして話す決まりにし、話者の番号と前置きの両方がそろった文だけを調査担当の確認として扱います。

させないこと理由
損害の原因の判断調査担当と査定の担当が判断する
保険の対象になるかの判断約款の解釈で、査定の担当が行う
損害の額の見積もり修理の見積と査定で決まる
申告を確認した事実として書く区分を書き換えると判断を誤らせる
話されていない寸法・枚数を補う書かれていない値を作ることになる

話者の番号は、立会いごとに振り直されます。 同じ調査担当でも、ある立会いでは speaker 0、別の立会いでは speaker 1 になることがあります。どの番号が調査担当かは、冒頭の了承を求める発話をした話者として処理の側で決め、 プロンプトに渡します。

4行目がいちばん起きやすい失敗です。 被保険者が「屋根の瓦が10枚くらい飛んだ」と言い、調査担当が「はい」と相づちを打つと、相づちを確認と読んで adjuster_observed にすることがあります。 相づちは確認ではありません。

Step6

指示内容を固定する

あなたは損害保険の損害調査で、立会いの記録から調査報告書の下書きを作る担当です。
文字起こしの文だけを見て、報告書の項目に振り分けてください。

【話者】
speaker {adjuster_speaker} が調査担当です。それ以外は被保険者または同席者です。

【区分の選び方】
- insured_statement .. 被保険者または同席者が話したこと
- adjuster_observed .. 調査担当が「写真」と前置きして、見た状態を読み上げたこと
- adjuster_opinion ... 調査担当が「所見」と前置きして話したこと
- discrepancy ........ 受付時の申告と、立会いでの話が違う点
迷ったときは insured_statement を選んでください。

【厳守事項】
- 話されていないことを書かないでください。推測で補わないでください。
- 寸法・枚数・日時は、話された言葉どおりに写してください。
  「くらい」「たぶん」などの言葉も省かないでください。
- 調査担当の「はい」「なるほど」などの相づちを、確認として扱わないでください。
- 損害の原因、保険の対象になるか、損害の額は書かないでください。
- 信頼度が 0.6 未満の文を使った項目は low_confidence を true にしてください。
- すべての項目に、根拠にした文の番号を evidence_phrase_ids に入れてください。
- 受付時の申告は、違いを見つけるためだけに使ってください。下書きに写さないでください。

【受付時の申告】{intake_summary}
【文字起こし(番号・話者・時刻・信頼度・文)】{phrases}

「迷ったら insured_statement」にしているのは、誤ったときの害の大きさが違うからです。 被保険者の申告を調査担当の確認と誤ると、確かめていないことが確認済みとして査定に回ります。逆に確認を申告と誤っても、調査担当が直すだけで済みます。 迷ったときは害の小さいほうに倒します。

「くらい」「たぶん」を省かないのも同じ理由です。 「10枚くらい」が「10枚」になると、申告の確かさが下書きの中で上がってしまいます。

Step7

出力形式を固定する

構造化出力で、次の形のJSONを受け取ります。 スキーマのすべての項目を必須にし、additionalProperties: false を付けます。値の無い項目は null を許す型にします。

{
  "claim_no": "",
  "incident": [
    { "text": "", "category": "insured_statement",
      "evidence_phrase_ids": [], "low_confidence": false }
  ],
  "damages": [
    { "part": "", "condition": "", "extent": "",
      "category": "adjuster_observed", "photo_nos": [],
      "evidence_phrase_ids": [], "low_confidence": false }
  ],
  "interview": [
    { "topic": "previous_repair | previous_damage | repair_quote | other",
      "text": "", "category": "insured_statement",
      "evidence_phrase_ids": [], "low_confidence": false }
  ],
  "opinions": [],
  "discrepancies": []
}

photo_nos はAIが埋めず、処理が写真の撮影時刻から埋めます。下書きの画面では、たとえば次のように出します。

項目内容区分写真
損傷箇所北側外壁、雨樋の継ぎ目が外れている、約2メートル調査担当の確認12、13
聞き取り「去年の夏にも同じところから少し漏れた」被保険者の申告―
受付時との違い受付時は「台風の翌朝に気づいた」、立会いでは「1週間後に気づいた」違い―

1つ目の理由は、区分が画面の色分けにそのまま使えることです。 調査担当は、申告と確認が混ざっていないかを色で見ます。自由文で受け取ると、区分を読み取る作業がもう一度人に戻ります。

2つ目は、根拠の文に戻れることです。 evidence_phrase_ids から文字起こしの文と、その時刻の音声に飛べるので、下書きの1行が本当にそう話されたかを、録音を聞き直して確かめられます。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
スマートフォンのアプリアプリから中継の処理へ送る音声、案件番号、写真の撮影時刻
案件管理の仕組みAPI(読み取り)事故の受付内容を引く
Azure AI SpeechAPI呼び出し(高速文字起こし)話者ごとの文、時刻、信頼度
Azure OpenAIAPI呼び出し(構造化出力)項目への振り分けと区分
Azure Blob Storage保存音声と文字起こしの控え
案件管理の仕組みAPI(書き込み)調査担当が確定した報告書だけを登録

案件管理の仕組みへの書き込みは、調査担当が確定した後の1回だけにします。 下書きの段階では書き込みません。AIの出力が確定前に査定の担当の目に触れると、下書きが報告書として読まれてしまいます。

Step9

人が確認する

調査担当は、下書きの全項目を確かめます。 第5章で書いたとおり、確かめなくてよい項目はありません。確かめる順番を決めておくと、時間が短く済みます。

  1. discrepancy を先に見る … 受付時との違いは、所見に関わることが多いからです
  2. adjuster_observed の項目と写真を見比べる … 写真の番号が合っているか、寸法が読み上げたとおりかを見ます
  3. insured_statement が確認として書かれていないかを見る … 色分けで、申告の項目が確認の色になっていないかを見ます
  4. low_confidence の項目は録音を聞き直す … 根拠の文の時刻から再生します
  5. 所見を書き足して確定する … 下書きの所見は前置きした部分だけなので、調査担当が判断を書き足します

3番目を省かないでください。 区分の誤りは、読み流すと気づきません。報告書を受け取った査定の担当は、区分を信じて読みます。

下書きを直すのは、調査担当本人に限ります。 立会いに行っていない人が下書きを直すと、録音を聞き直しても現地の状態は分かりません。休みなどで本人が確かめられないときは、確定を待つ運用にします。

目標は、240件をならして1件15分です。 立会いの直後か当日のうちに下書きを開けるので、記憶が新しいうちに確かめられることが、時間の短さにつながります。

Step10

例外に対処する

起きること対応
録音の了承の発話が見つからない下書きを作らず調査担当へ戻す
被保険者が録音を断った立会いの後に調査担当が1人で読み上げる。話者は1人として処理する
風の音・雨音で信頼度が下がる信頼度の低い文の項目に low_confidence。屋外では読み上げを短く区切ってもらう
話者がまとめられる同席者の数を上限にし直して再処理。直らなければ前置きの決まり文句だけで区分する
写真の読み上げが無いphoto_nos を空のまま出し、調査担当が当てる
同じ敷地に建物が複数ある読み上げで「母屋」「物置」と前置きしてもらい、項目を建物ごとに分ける
被保険者が別の事故の話をするinterview の other に入れ、事故状況に混ぜない
音声が5時間・500MBを超えるアプリの側で分けて送る。立会いでは通常起きない
高速文字起こしが応答しない429や5xxは間隔を空けて再試行。続けば控えの音声から後で処理

2行目の運用を、最初から用意しておきます。 録音を断る被保険者は一定の割合でいます。断られたら構成が使えない、では運用に乗りません。 立会いの後に車の中で調査担当が要点を読み上げれば、会話の記録は残りませんが、損傷箇所と写真の対応は同じ仕組みで作れます。

Step11

記録を残す

  • 立会いの音声と、案件番号・録音の日時・了承の記録
  • 高速文字起こしが返したJSONの全文(話者・時刻・信頼度)
  • 生成AIが返した下書きのJSONと、写真との突き合わせの結果
  • 調査担当が直した項目と、直す前と後の値
  • 確定した報告書と、確定した日時・確定した人
  • 語句の一覧の版と、maxSpeakers の値

4つ目は、区分の誤りの傾向を見るために残します。 調査担当が insured_statement を adjuster_observed に直した、またはその逆が多い場合、読み上げの決まり文句が守られていないか、プロンプトの区分の説明が足りていません。

音声の保存期間は、報告書と同じにするとは限りません。 報告書が確定した後に音声をどれだけ残すかは、社内の規程と被保険者に伝えた扱いに合わせて決めます。

04実装レベルの3段階

最小構成:録音を画面で文字にし、手元のAIサービスで項目に分けさせる / 書き起こしの一部
半自動化:上記+アプリから音声を送り、高速文字起こしと構造化出力で下書きを作る / 書き起こしと項目への振り分け
本格構成:上記+写真の撮影時刻との突き合わせ、受付時との違いの検出、案件管理の仕組みへの登録 / 下書きの作成の全体

最小構成では件数がさばけません。 1件ずつ画面に貼り付けるので、確かめるための段階です。 半自動化で、①の書き起こしがほぼ無くなります。 ただし、写真の番号の当てはめは人が行うので、②の多くが残ります。本格構成で写真の突き合わせが時刻で行われ、本記事の想定の15分になります。 差が大きいのは②で、写真のたびに読み上げる習慣が付くかどうかで決まります。 段階を飛ばさないでください。 半自動化の1か月で、読み上げの決まり文句が守られているか、どの部位名を読み違えるかが分かります。そこを直してから写真の突き合わせを足すほうが、空振りが減ります。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
12 名
月間件数
240 件
1件あたり現在時間
45 分
1件あたり導入後時間
15 分
現在  240件 × 45分 ÷ 60 = 180 時間/月
導入後 240件 × 15分 ÷ 60 = 60 時間/月
月間削減時間
120h
削減率
67%
年間削減時間
1,440h
年間金額換算(時間単価3,500円)
504万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

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06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 火災保険や地震・風水災の建物の損害調査で、調査担当が月に数十件の現地の立会いを行い、立会いのあとに手書きのメモと写真を見ながら調査報告書を書き起こしている損害保険会社・損害調査会社。報告書の作成が事務所に戻ってからになり、立会いの件数が増える台風や大雨の後に報告書がたまる場合。調査担当が業務用のスマートフォンを持っている場合。
向いていない
  1. 立会いが月に数件で、報告書を書く時間が負担になっていない場合。自動車事故のように修理工場の見積と写真で調査が済み、現地で話す場面が少ない調査。被保険者から録音の了承を得る運用を作れない場合。なお、損害の原因や保険金の支払の可否、損害の額の判断はこの構成では行いません。

07最小構成で試す方法

  1. 社内の調査担当2人で、立会いを模した会話を録音する(一方が被保険者の役で、申告と確認が混ざる会話にする)
  2. 録音を Azure AI Speech の画面で文字にする(話者の区別を有効にする)
  3. 文字起こしを手元のAIサービスに貼り、「この会話を、事故状況・損傷箇所・聞き取り・所見に分けてください。誰が話したことかを区別し、被保険者の話を確認した事実として書かないでください」と指示する
  4. 出てきた振り分けを、録音した2人で見て、区分の誤りを数える

実際の被保険者の音声で試さないでください。 試す段階では、模した会話で十分です。部位名の読み違いと、区分の誤りの傾向が分かれば、次の段階に進めます。

出てきた内容判断
区分がほぼ正しく分かれたアプリと中継の処理の作成に進む
相づちを確認として扱った指示の書き方で直る。構成は有効
部位名が別の言葉になるフレーズリストを先に作る。 AIの振り分けの問題ではない
話者が1人にまとめられる録音の位置と、モノラルの設定を見直す

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
申告が確認として下書きに入る区分を3つに分け、迷ったら申告にする と指示する
相づちを確認と読む相づちを確認として扱わないと明記する
「くらい」が落ちて申告が確かに見える言葉どおりに写すよう指示する
部位名が別の言葉になる部位名のフレーズリストを作る。2,000語句を超えない
話者がまとめられるモノラルで録り、maxSpeakers を同席者の数に合わせる
ステレオで録って話者の区別が効かないアプリの録音をモノラルに固定する
写真と記述が合わない写真のたびに読み上げる。読み上げが無ければ人が当てる
下書きが査定の担当に読まれる確定まで案件管理の仕組みへ書き込まない
録音の了承が残っていない了承の発話が無ければ下書きを作らない
被保険者が録音を断る立会いの後の調査担当の読み上げに切り替える

上の3行が、この構成の失敗のほとんどです。 どれも「被保険者の話の確かさが、下書きの中で上がってしまう」失敗です。報告書を読む人は、書かれた区分を信じて読みます。 区分を守ることは、被保険者に対しても公平であることにつながります。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 被保険者と家族の声、氏名、住所、家の中の様子、事故の経緯、以前の損傷や修理の話です。家の中で交わされた会話を、そのまま録音して残すことになります。

  1. 録音の目的と扱いを最初に伝える … 何のために録音し、誰が聞き、いつまで残すかを伝え、了承を得てから録音を始めます。了承の記録が無い音声は処理しません
  2. Azure の中で処理を閉じる … 音声認識・生成AI・保管を同じ Azure の契約の中に置きます。プロンプトと応答はモデルの学習に使われないとされています。生成AIのデプロイは、処理する地域を選べる種類にします。 Global の種類は、要求と応答が他の地域で処理されうるとされています
  3. 報告書を自動で確定させない … 下書きは調査担当が全項目を確かめてから確定します。保険金の支払の判断に使われる書類なので、AIの出力をそのまま登録しません
  4. 損害の原因や支払の可否をAIに書かせない … 判断は調査担当と査定の担当が行います。下書きに判断めいた文が入っていたら、プロンプトを直します
  5. 家の中の会話で、事故に関係の無い話を報告書に残さない … 家族の事情や近所の話など、事故と関係の無い会話は振り分けの対象にしません。音声と文字起こしの控えも、保存期間が過ぎたら消します
  6. 調査担当の評価に使わない … 文字起こしは調査担当の話し方も記録します。報告書の作成のために集めた記録を、調査担当の評価に流用しないでください
  7. スマートフォンに音声を残し続けない … 送信が済んだ音声は、端末から消える作りにします。端末をなくしたときに、被保険者の家の会話が残っていないようにするためです

誤りが起きた場合のリスクは、申告を確認として報告書に書き、損害の判断を誤らせることです。 支払うべきものを支払わない、支払うべきでないものを支払う、どちらも被保険者と会社の両方に影響します。区分の確認だけは、どれだけ慣れても省かないでください。

10まず何から始めるか

1週目:報告書の項目と読み上げの決まり文句を決める

報告書の項目を、下書きのJSONの項目と1対1にそろえます。写真のたびに「写真、部位、状態」と読み上げる、所見は「所見」と前置きする、という決まり文句を、調査担当の代表と決めます。

2週目:模した会話で試す

調査担当2人で立会いを模した会話を録音し、Azure AI Speech の画面で文字にして、手元のAIサービスで項目に振り分けます。区分の誤りと、部位名の読み違いを数えます。

3週目:部位名のフレーズリストと、録音の了承の文面を作る

建物の種類ごとに部位名の一覧を作ります。あわせて、録音の目的と扱いを被保険者に伝える文面を、社内の担当部署と決めます。 了承の取り方が決まらないうちは、実際の立会いで録音しません。

4週目:アプリと中継の処理をつなぐ

スマートフォンのアプリから音声と写真の撮影時刻を送り、高速文字起こしと構造化出力で下書きを作るところまで作ります。この時点では写真の突き合わせをせず、区分の精度だけを見ます。

2か月目: 少人数の調査担当で実際の立会いに使い、写真の突き合わせと受付時との違いの検出を足します。3か月目以降: 全員に広げ、1件45分が何分になったかを実測します。調査担当が立会いの当日に報告書を確定できるようになった時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-07/最終更新:2026-10-07
確認した内容情報源確認日
高速文字起こしが同期で結果を返し、音声が5時間未満・500MB未満で、WAV、MP3、OPUS/OGG、FLAC、AAC、WebM などに対応すること。locales の指定が推奨されること。diarization に maxSpeakers と enabled を指定すると文ごとに speaker が付くこと。ステレオで話者の区別を使えないこと。phraseList が API バージョン 2025-10-15 で使えること。結果に combinedPhrases と phrases(時刻・信頼度)が含まれること。HTTP 429 と 500・502・503・504 を再試行の対象とする手引きがあることMicrosoft Learn: Use the fast transcription API2026-10-07
話者の区別はモノラルの音声で使い、ステレオの録音に対応しないこと。maxSpeakers を現実的な上限にし、録音の話者がそれを超えると話者がまとめられることがあることMicrosoft Learn: Configure language identification and diarization2026-10-07
フレーズリストがモデルの学習を要さず、高速文字起こしで使え、バッチ文字起こしでは使えないこと。2,000語句を超えないようにし、長いほど品質と待ち時間に影響することMicrosoft Learn: Improve recognition accuracy with phrase list2026-10-07
日本語(ja-JP)が高速文字起こしに対応していることMicrosoft Learn: Language and voice support for Azure Speech2026-10-07
構造化出力でスキーマのすべての項目を必須にし、additionalProperties: false を付けることMicrosoft Learn: Azure OpenAI で構造化出力を使用する方法2026-10-07
プロンプトと応答がモデルの学習に使われないこと。Global の種類のデプロイでは要求と応答がモデルの配置された任意の地域で処理されうることMicrosoft Learn: Data, privacy, and security for Foundry Models sold by Azure2026-10-07

録音の了承の取り方と音声の保存期間は、社内の規程と個人情報の取扱いの方針に合わせて決めてください。 本記事は公開仕様で確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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