海外投資家から届く英文の問い合わせに、開示済みの資料だけを根拠に回答案を作る
海外投資家から届く英文の問い合わせを日本語に訳し、質問ごとに分けて要点を整理します。そのうえで、すでに公表している資料に書いてある範囲だけを根拠に英文の回答案を作り、根拠にしたページを添えます。
- 生成AI
- Azure OpenAI Service/Claude/Gemini
- 連携・自動化
- Make/n8n/Power Automate
- 対象業界
- IT・SaaS/製造/金融
- 対象部門
- 経営企画/財務
- 対象業務
- 問い合わせ対応/情報検索
- 主な課題
- 人手が足りない/判断に時間がかかる/問い合わせが多い
- AIで行う処理
- 翻訳
- 主な効果
- 品質標準化/対応スピード向上/工数削減
- 導入難易度
- ★★☆☆☆
- 実装レベル
- 本格構成
- 費用感
- API連携(中)
- 人間の確認
- 必須
01導入前 / 導入後の業務フロー
- IR窓口に届いた英文メールを担当者が読み、必要なら翻訳サービスで日本語にする
- 質問を書き出し、それぞれがどの資料に関係するかを見当を付ける
- 英文IRサイトやSharePointから、決算短信、決算説明資料、統合報告書などを開いて該当箇所を探す
- 答えが公表資料に無い質問について、答えてよいかをIR室長に口頭で相談する
- 英文で回答を書く。数字は資料から写す
- 英文を書ける担当者が読み直し、IR室長が内容を確認してから送信する
- 自動IR窓口に英文メールが届いたことをきっかけにフローが動き、本文と送り主を取り出す
- 自動送り主を投資家の一覧と照合し、過去のやり取りの有無を付ける
- 自動資料の目録から、最新の決算期の公表済み資料を選び、ページ番号付きのテキストを読み込む
- 自動生成AIが問い合わせを日本語に訳し、質問ごとに分ける
- 自動質問ごとに、`answerable` / `escalate` / `not_ir` のどれに当たるかを付ける
- 自動`answerable` の質問だけに、公表資料の文を根拠にした英文の回答案を作り、根拠のページを添える
- 自動回答案の数字と引用が、渡した資料の本文に実際にあるかを機械的に照合する
- 人IR担当が、日本語の要点と回答案と根拠のページを並べて確かめ、英文を直す
- 人`escalate` の質問は、IR責任者が答えるか・答えないか・どう答えるかを決める
- 人IR室長が確認し、担当者がOutlookから送信する
- 自動送った回答と根拠のページを回答履歴に残す
各工程の詳しい説明を読む
- IR窓口に届いた英文メールを担当者が読み、必要なら翻訳サービスで日本語にする
- 質問を書き出し、それぞれがどの資料に関係するかを見当を付ける
- 英文IRサイトやSharePointから、決算短信、決算説明資料、統合報告書などを開いて該当箇所を探す
- 答えが公表資料に無い質問について、答えてよいかをIR室長に口頭で相談する
- 英文で回答を書く。数字は資料から写す
- 英文を書ける担当者が読み直し、IR室長が内容を確認してから送信する
(a)資料を探す時間が長い。 「地域別の売上」と聞かれても、決算短信のセグメント情報にあるのか、説明資料の補足にあるのか、統合報告書にあるのかは質問によって違います。3番目の工程だけで1件の時間の3分の1を占めます。
(b)答えてよい範囲が人の記憶に頼っている。 「今期の見通しは変わらないか」「第2四半期の受注は前年より強いか」といった質問に、どこまでなら答えてよいかの線は、文書になっていません。 慣れた担当者ほど資料の外の言葉を足して丁寧に答えようとし、その丁寧さが、公表していない情報に近づきます。
(c)同じ質問への答え方がそろわない。 同じ週に別々の投資家から同じ質問が届いても、担当者が違えば言い回しも引用する数字も変わります。ある投資家にだけ詳しく答えたように見える状態は、それ自体が避けたいものです。
(d)数字の写し間違いが後から分かる。 百万円と億円、前年同期比と前期比の取り違えが起きても、数字が資料のどこから来たかを残していないので、確かめようがありません。
- 【自動】 IR窓口に英文メールが届いたことをきっかけにフローが動き、本文と送り主を取り出す
- 【自動】 送り主を投資家の一覧と照合し、過去のやり取りの有無を付ける
- 【自動】 資料の目録から、最新の決算期の公表済み資料を選び、ページ番号付きのテキストを読み込む
- 【自動】 生成AIが問い合わせを日本語に訳し、質問ごとに分ける
- 【自動】 質問ごとに、
answerable/escalate/not_irのどれに当たるかを付ける - 【自動】
answerableの質問だけに、公表資料の文を根拠にした英文の回答案を作り、根拠のページを添える - 【自動】 回答案の数字と引用が、渡した資料の本文に実際にあるかを機械的に照合する
- 【人】 IR担当が、日本語の要点と回答案と根拠のページを並べて確かめ、英文を直す
- 【人】
escalateの質問は、IR責任者が答えるか・答えないか・どう答えるかを決める - 【人】 IR室長が確認し、担当者がOutlookから送信する
- 【自動】 送った回答と根拠のページを回答履歴に残す
5番目が、この設計の分かれ目です。 回答案を作るのは answerable だけで、escalate には下書きの1行も作らせません。 下書きがあると、人はそれを直して送る方向に引っぱられるからです。
7番目を機械の照合にしているのも、意図してのことです。 回答案の数字が資料にあるかどうかをAIに自己申告させても確かめたことになりません。文字列として資料の中にあるかを、フローの側で数えます。
02今回想定するシステム構成
海外投資家からの英文メール │ ▼【トリガー】IR窓口に新しいメールが届く Power Automate ├──▶ 本文・送り主・受信日時を取り出す ├──▶ 投資家の一覧と照合(過去のやり取り) ├──▶ 資料の目録を引き、公表済み資料のテキストを選ぶ ▼ Azure OpenAI(Microsoft Foundry)── 構造化出力で返させる │ ① 日本語訳と要点 ② 質問ごとの分割 │ ③ 区分(answerable/escalate/not_ir) │ ④ answerable だけ英文の回答案と根拠のページ ▼ Power Automate ── 数字と引用が資料の本文にあるかを照合 ▼ SharePoint の確認リスト ├──▶【IR担当】要点・回答案・根拠を確かめて直す ├──▶【IR責任者】escalate の質問を判断する ▼ 【IR室長の確認後、担当者が Outlook から送信】 ▼ 回答履歴(SharePoint)
| 役割 | 想定する製品 | 代替候補 |
|---|---|---|
| 生成AI | Azure OpenAI(Microsoft Foundry) | Claude、Gemini |
| 連携 | Power Automate | Make、n8n |
| 資料の保管 | SharePoint(公表済み資料のテキストと資料の目録) | Box、Google ドライブ |
| メール | Outlook(IR窓口のメールボックス) | Gmail |
| 回答履歴 | SharePoint のリスト | Excel の台帳 |
この構成には検索の仕組みを置きません。 最新の決算期の資料のうち必要な部分を、そのまま長い入力として渡します。根拠になる資料は決算期ごとに数本しかなく、どれを渡すかは人が作った目録で決めます。検索にまかせると、古い期の資料や公表前の下書きが混ざる経路が1つ増えます。
土台になるのは、Microsoft Foundry で提供される Azure OpenAI のモデルです。 Azure が販売するモデルは Microsoft の Azure 環境でホストされ、モデルの提供元が運営するサービスとはやり取りしないとされています。入力と出力は他の顧客にもモデルの提供元にも提供されず、顧客の許可や指示なしに基盤モデルの学習に使われないとされています。
IR窓口のメールは Power Automate の Office 365 Outlook コネクタで受けます。 新着メールのトリガーでは、監視するフォルダー、差出人、件名の絞り込みを指定できます。回答は下書きを作るアクションまでにとどめ、送信のアクションはフローに入れません。
03どうやって実装するのか
処理の起点を決める
IR窓口のメールボックスに新しいメールが届いたことを起点にします。 Office 365 Outlook コネクタの新着メールのトリガー(When a new email arrives (V3))を使い、監視するフォルダーを、IR窓口あての英文メールを振り分けたフォルダーに絞ります。受信トレイ全体を見張ると、社内の連絡や営業メールまで回答案の対象に入ります。
1日1回の定時実行にはしません。 1通ずつ動かせば、担当者が確認リストを開いた時点で訳と要点と回答案がそろっています。
トリガーには、まれに最大1時間ほどの遅れが出ることがあるとされています。IRの回答は分単位を争うものではないので、設計上の問題にはしません。 回答までの日数は受信日時から数えます。
入力データを集める
| データ | 中身 | 取得元 |
|---|---|---|
| 問い合わせメール | 本文、件名、送り主、受信日時。添付があればそのファイル名 | Outlook(IR窓口のメールボックス) |
| 投資家の一覧 | 送り主のメールアドレス、所属先、過去に回答した日付 | SharePoint のリスト |
| 資料の目録 | 資料名、決算期、言語、公表日、公表状態、テキストの保存場所 | SharePoint のリスト |
| 公表済み資料のテキスト | 決算短信、決算説明資料、統合報告書、英文IRサイトの掲載文を、ページ番号付きで書き出したもの | SharePoint のフォルダー |
| 回答の方針 | 回答しない話題の一覧、沈黙期間の日付、定型の結びの文 | IR室が管理する一覧 |
質を決めるのは、資料の目録です。 「公表状態」が published で公表日が今日以前の資料だけを入力に使います。この列が、AIに渡してよい資料を分ける唯一の門です。
公表済み資料のテキストは、公表したときに1回だけ書き出します。 PDFからテキストを取り出す方法は利用環境に応じた個別実装になりますが、どの方法でも1ページごとに [doc=FY2026Q1_presentation_en p=12] のような印を付けて保存します。 この印が、回答案に添える根拠のページになります。
英語版がある資料は英語版を渡します。 日本語版から訳した文より、自社が英語で公表した文のほうが、投資家が自分で確かめられる根拠になるからです。
データの取得方法を決める
メールの本文と送り主は、トリガーの出力からそのまま取れます。添付ファイルはトリガーでは取り込まず、必要なときだけ添付ファイルの取得のアクションで取り出します。 添付は回答案の根拠にはしません。
| 取るもの | どこから | 何に使うか |
|---|---|---|
| 本文・件名・送り主・受信日時 | トリガーの出力 | 訳と質問の分割、投資家の一覧との照合 |
| 公表済みの資料の一覧 | 資料の目録 | どの資料のテキストを渡すかを決める |
| 資料のテキスト | SharePoint のフォルダー | 回答案の根拠 |
どの資料を渡すかは、決算期と話題で決めます。 既定では、最新の決算期の決算短信と決算説明資料、直近の統合報告書、英文IRサイトの配当方針と中期経営計画のページを渡します。前の期との比較を聞かれたときだけ、前の期の同じ資料を足します。 何でも渡すと、古い期の数字を最新の数字として引く失敗が増えます。投資家の一覧は照合に使うだけで、AIには渡しません。
AIへ渡す前に整形する
- 本文の整理 … 署名、免責文、過去のやり取りの引用部分を取り除きます。引用部分の過去の回答を根拠のように扱うのを防ぐためです
- 沈黙期間の確認 … 受信日が決算発表前の沈黙期間に入っていれば、すべての質問を
escalate扱いにする印を付けます - 資料の選定 … 目録から、公表状態が
publishedで公表日が今日以前のものだけを選びます - ページ印の確認 … 渡すテキストの全ページに印があるかを確かめます。印の無いページからは根拠のページが書けません
- 分量の確認 … 渡す資料の合計が大きすぎる場合は、統合報告書を話題に関係する章だけに絞ります
- 重複の確認 … 同じ送り主から直近に同じ件名のメールがあれば、前の問い合わせにひもづけます
2番目を軽く見ないでください。 沈黙期間中は、公表資料で答えられる内容でも、答えるかどうか自体をIR責任者が決めます。 自社のディスクロージャーポリシーにある沈黙期間の日付を、そのまま一覧に入れます。
AIに処理させる
させるのは、訳すこと、質問に分けること、区分を付けること、answerable の質問にだけ根拠付きの回答案を書くことの4つです。
| 見るもの | させること | 判断できないときの扱い |
|---|---|---|
| 問い合わせ全体 | 日本語に訳し、3行程度の要点にまとめる | 意味が取れない文は訳さず原文のまま示す |
| 質問 | 1つずつに分け、話題(業績・中期計画・配当・ESG・その他)を付ける | 1文に2つの質問があれば2つに分ける |
| 区分 | answerable / escalate / not_ir を付け、理由を書く | 迷ったら escalate |
| 回答案 | answerable だけ、渡した資料の文に基づく英文を書く | 資料に答えが無ければ escalate に変える |
| 根拠 | 回答案の文ごとに、資料の印と引用文を添える | 引用できない文は回答案から外す |
区分の付け方は、次の基準で決めます。
| 区分 | 当てはまる質問 |
|---|---|
answerable | 答えが、渡した公表資料の文にそのまま書いてある |
escalate | 公表資料に無い数字、業績予想より先の見通し、期中の足もとの状況、進行中の案件や取引先に触れる。沈黙期間中のすべての質問 |
not_ir | 面談の申し込み、採用や営業の問い合わせなど、IRの回答ではないもの |
迷ったときに answerable を選ばせないのが、この表の要点です。 escalate が増えても人の確認が1件増えるだけですが、answerable の増えすぎは未公表の情報の入口になります。
| させないこと | 理由 |
|---|---|
| 渡した資料の外の知識で答える | 公表資料の外の情報は、根拠として確かめられない |
| 数字の計算・換算 | 前年比や円からドルへの換算を自分で出すと、公表していない数字ができる |
| 見通しの言い換え | 「おおむね計画どおり」のような資料に無い評価を足さない |
escalate の質問への下書き | 下書きがあると、それを直して送る方向に進む |
| 送信 | 開示の責任は人が負う |
2行目がいちばん起きやすい失敗です。 資料に売上高が2期分あれば、AIは伸び率を計算して書き添えます。資料に無い伸び率なら、公表していない数字を1人の投資家に渡したことになります。
指示内容を固定する
あなたは上場企業のIR担当者で、海外投資家から届いた英文の問い合わせに
回答案を用意する立場です。渡された公表資料だけを根拠にしてください。
【してほしいこと】
1. 問い合わせ全体を日本語に訳し、3行程度の要点にまとめる
2. 質問を1つずつに分け、話題を付ける
(results / mid_term_plan / dividend / esg / other)
3. 質問ごとに区分を付け、理由を日本語で書く
- answerable ... 答えが【公表資料】の文にそのまま書いてある
- escalate ..... 【公表資料】に答えが無い、業績予想より先の見通し、
期中の足もとの状況、進行中の案件・取引先に触れる
- not_ir ....... 面談の申し込み、採用・営業などIRの回答ではないもの
迷ったときは escalate を選んでください。answerable を選ばないでください。
4. answerable の質問にだけ、英文の回答案を書く
【厳守事項】
- 回答案の各文は、【公表資料】のどこかの文に基づいていなければなりません。
各文に、根拠にした資料の印(doc と p)と、根拠の文をそのまま写した引用を付けてください。
引用できない文は回答案に入れないでください。
- 数字は【公表資料】に書かれているとおりに写してください。
前年比、伸び率、差額、通貨の換算など、書かれていない数字を計算して出さないでください。
- 「順調」「計画どおり」「強い」など、【公表資料】に無い評価を足さないでください。
- 【公表資料】に書かれていないことを、一般的な知識や推測で補わないでください。
資料に答えが無い質問は、回答案を書かずに escalate にしてください。
- escalate と not_ir の質問には、英文の回答案を一切書かないでください。
draft_en は null にしてください。
- 【回答しない話題】に当たる質問は、資料に記載があっても escalate にしてください。
- 【沈黙期間】が true のときは、すべての質問を escalate にしてください。
- 過去のやり取りの引用部分に書かれた内容を、根拠にしないでください。
- 宛名と結びの文は書かないでください。フローの側で付けます。
【問い合わせ】{mail_body}
【受信日】{received_date}
【沈黙期間】{quiet_period}
【回答しない話題】{no_answer_topics}
【公表資料】{published_texts}
「迷ったら escalate」を明記しないと、AIは答えるほうを選びます。 何も言わなければ、資料の近い記述を寄せ集めて答えを作ります。禁じるのは、寄せ集めて答えにすることそのものです。
「計算して出さない」を独立させているのも同じ理由です。 「資料にあることだけ」では、資料の2つの数字から出した伸び率を「資料に基づく」と考えます。
宛名と結びを書かせないのは、回答案を質問ごとの部品として扱うためです。 1通の回答はフローの側で組み立て、escalate の質問には定型の一文(「追ってご連絡します」など)を入れます。1通まるごと書かせると、escalate の質問に触れた文が紛れ込みます。
出力形式を固定する
Azure OpenAI の構造化出力を使い、次の形のJSONで受け取ります。 Chat Completions API なら response_format、Responses API なら text.format にスキーマを定義し、strict: true を指定すると、渡したスキーマに沿った応答が返るとされています。
{
"inquiry_id": "",
"summary_ja": "",
"translation_ja": "",
"questions": [
{
"q_no": 1,
"original_en": "",
"topic": "results | mid_term_plan | dividend | esg | other",
"route": "answerable | escalate | not_ir",
"route_reason_ja": "",
"draft_en": [
{ "sentence": "", "doc": "", "page": 0, "quote": "" }
]
}
]
}
escalate と not_ir の質問では、draft_en は null になります。
1つ目の理由は、route を draft_en より前に置けることです。 構造化出力は、渡したスキーマと同じ順序でキーを出力するとされています。区分を先に決めさせてから回答案を書かせる順にしておけば、書き始めてから区分を後付けで合わせることが起きにくくなります。
2つ目は、根拠を文ごとに持てることです。 draft_en を文の配列にし、1文ごとに doc と page と quote を持たせます。フローの側で、quote の文字列が、その doc と page のテキストに実際にあるかを照合します。 無ければその文を赤で示し、担当者が確かめるまで送れない状態にします。
3つ目は、数字の照合ができることです。 sentence の数字が同じ文の quote に無ければ、AIが計算したか書き換えたかのどちらかです。
スキーマには制約があります。すべての項目を required に含め、省略してよい項目は null との共用体で表します。 draft_en の型を配列と null の共用体にするのはこのためです。各オブジェクトには additionalProperties: false を設定し、プロパティは合計100個まで、ネストは5階層までに収めます。配列の maxItems や文字列の maxLength は使えないので、件数や長さは受け取った後にフローで数えます。
route | フローの扱い |
|---|---|
answerable | 回答案と根拠を確認リストに並べる。照合で外れた文は赤で示す |
escalate | 回答案を作らず、IR責任者の確認欄に回す |
not_ir | 担当部署の転送先を示す。回答案は作らない |
システムへ連携する
| つなぎ先 | 方式 | 内容 |
|---|---|---|
| Outlook(IR窓口) | Power Automate のトリガー | 新着メールを検知し、本文と送り主を取り出す |
| 資料の目録・資料のテキスト | SharePoint の読み取り | 公表済みの資料だけを選んで読み込む |
| Azure OpenAI(Microsoft Foundry) | API呼び出し | 訳・質問の分割・区分・回答案を構造化出力で返す |
| 確認リスト | SharePoint のリストへの書き込み | 質問ごとに1行。要点・区分・回答案・根拠・照合結果 |
| Outlook(IR窓口) | 下書きを作るアクション | IR室長の承認後に、組み立てた回答を下書きとして置く |
| 回答履歴 | SharePoint のリストへの書き込み | 送った回答と根拠のページ |
送信のアクションは、このフローに入れません。 コネクタにはメールを送るアクションもありますが、使うのは下書きを作るアクションまでです。
資料の目録とテキストへは、読み取りしかしません。 公表状態を published に変えるのは公表した日の担当者の作業で、フローには書き換える権限を持たせません。 ここを自動にすると、公表前の資料が根拠に入る経路ができます。
人が確認する
人が見るのは全件です。ただし、見る場所を絞ります。 回答は1通ずつ外に出るので、低信頼のものだけを人に回す設計にはしません。
- 区分を先に見る …
escalateとnot_irが正しいかを確かめます。answerableになっている質問のなかに、未公表の話題に触れるものが無いかを最初に見ます - 照合で外れた文を見る … 赤で示された文を、根拠のページと並べて読みます。直せなければ、その文を消します
- 英文を整える … 言い回しを自社の定型に合わせます。数字と根拠の引用には手を入れません
escalateをIR責任者が判断する … 答えるか、答えないか、どう答えるかを決めます- IR室長が確認して送る … 組み立てた回答を下書きに置き、担当者が送信します
1番目を省かないでください。 区分の誤りは、英文をいくら整えても直らず、送った後では取り返しがつきません。
IR責任者が答えると決めた escalate の質問は、その答えを回答の方針に書き戻します。 別の投資家にも同じ範囲で答えられるようにするためです。
例外に対処する
| 起きること | 対応 |
|---|---|
| 1通に質問が10個を超える | 確認リストに件数を示す。分けて送るかは担当者が決める |
| 質問が添付ファイルの中にしか無い | 本文が空に近いときは、区分をすべて escalate にして担当者へ。添付は人が読む |
| 資料に答えが無い | escalate。「資料に無い」こと自体を理由欄に書かせる |
| 引用が資料の本文に見つからない | その文を赤で示し、送れない状態にする |
| 回答案に引用に無い数字がある | 同上。計算か書き換えを疑う |
| 最新の決算期の資料が目録に無い | 目録の更新遅れ。処理を止めて担当者に知らせる |
| 沈黙期間中の受信 | すべての質問を escalate にする |
| 生成AIが応答しない・形の違う応答 | 確認リストに「未処理」として残し、再実行する。メールには既読の印を付けない |
上から2行目は、思ったより多く出ます。 質問を表にしたファイルを添付し、本文は挨拶だけという運用会社があります。添付を読ませる処理を足す前に、そうした相手が何社あるかを数えてください。
記録を残す
- 受け取ったメールの本文、送り主、受信日時
- そのとき渡した資料の一覧 … 資料名、決算期、公表日、テキストのファイル
- 生成AIが返したJSONの全文(訳、要点、質問ごとの区分と理由、回答案と根拠)
- 照合の結果 … 引用が見つかったか、数字が一致したか
- 人が直した記録 … 区分を変えたか、どの文を消したか、どの文を足したか
escalateの質問にIR責任者が下した判断と、その理由- 送った回答の全文、送信日時、送信者
2つ目の「渡した資料の一覧」は、開示の公平さを説明するために残します。 問われたとき、その回答がその日に公表されていたどの資料のどのページに基づくかを示せるようにしておきます。
04実装レベルの3段階
最小構成では件数がさばけません。 資料のテキストを毎回貼り付けるので、決算発表の直後の件数には使えません。区分の基準が効くかを確かめるための段階です。 半自動化で、訳と回答案が確認リストにそろって届くようになります。 ただし、根拠のページが本当に合っているかは、担当者が資料を開いて1文ずつ確かめることになります。本格構成で引用と数字の照合が自動になり、この段階が本記事の想定です。 差が大きいのは、根拠の確認が、質問の数だけ繰り返す手作業だからです。 段階を飛ばさないでください。 半自動化で1か月回すと、人が区分を変えた質問の傾向が見えます。回答しない話題の一覧をそこで固めてから、本格構成に進むほうが、区分の誤りが減ります。
05工数削減シミュレーション
導入後 80件 × 18分 ÷ 60 = 24 時間/月
自社条件で導入効果を整理したい方へ
このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。
06向いている企業・向いていない企業
- 海外の機関投資家やアナリストから、英文の問い合わせメールが月に数十件以上届く上場企業。決算短信・決算説明資料・統合報告書の英語版をそろえて公表している場合。IR担当が少人数で、1件ごとに資料を探して英文を書く作業が回答の遅れにつながっている場合。回答してよい範囲を、担当者ごとの感覚ではなく規則で線引きしたい場合。
- 海外投資家からの問い合わせが月に数件で、担当者が直接書いたほうが早い場合。英語版の公表資料がほとんど無く、根拠にできる英文が手元に無い場合。問い合わせの大半が面談の申し込みや日程調整で、資料に基づく回答がほとんど発生しない場合。なお、どの情報が公表済みで、どこからが未公表かという判断は、この構成では代替できません。
07最小構成で試す方法
- 先月届いた英文の問い合わせから10通を選ぶ(うち数通は、当時IR室長に相談した質問を含むものにする)
- その10通に当時どう答えたか、どの資料を見たかを、回答済みのメールから拾い出す
- 最新の決算短信と決算説明資料の英語版のテキストを、手元の生成AIの画面に貼り付ける
- 第7章の指示のうち、区分の付け方と厳守事項の部分をそのまま貼り、問い合わせを1通ずつ渡す
- 出てきた区分と回答案を、当時の回答と突き合わせる
10通は必ず区分から見てください。 英文の出来は後から直せますが、当時IR室長に相談した質問が answerable と出てきたら、その時点で指示を直します。
| 出てきた内容 | 判断 |
|---|---|
当時相談した質問が escalate に入った | 連携とフローの構築に進む |
| 資料に無い伸び率や評価が回答案に入った | 指示の書き方で直る。構成は有効 |
当時相談した質問が answerable に入った | 回答しない話題の一覧が先。 文書にされていない線引きがある |
3行目が出ることは珍しくありません。 失敗ではなく、IR室長の頭の中にあった線引きが、1つ文字になったということです。 その話題を一覧に書き足し、同じ10通でもう一度試してください。
08実装時につまずきやすいポイント
| 問題 | 対策 |
|---|---|
| 資料に無い伸び率が回答案に入る | 計算を名指しで禁じる。 引用に無い数字をフローで検知する |
未公表の話題が answerable になる | 迷ったら escalate と指示し、回答しない話題の一覧を渡す |
| 公表前の資料が根拠に混ざる | 目録の公表状態と公表日で絞る。下書きを同じフォルダーに置かない |
| 古い期の数字を最新として引く | 既定では最新の期の資料だけを渡す |
| 根拠のページがずれる | 書き出しの段階で全ページに印を付ける |
| 質問が添付の中にある | 人が読む。相手が数社なら処理を足さない |
| 大きな添付でトリガーが止まる | 添付はトリガーで取り込まず、別のアクションで取り出す |
| 1通まるごと書かせて escalate の話題が紛れる | 質問ごとの部品として書かせ、フローで組み立てる |
| 同じ質問への答えがそろわない | IR責任者の判断を回答の方針に書き戻す |
| 回答が自動で送られる | 下書きまでにする。 送信は人が行う |
上の3行が、この構成の失敗のほとんどです。 どれも「資料にありそうなことを答える」という同じ動きから出ています。根拠を資料の文字列に置き、照合をフローで行うかどうかで、運用に乗るかが決まります。
下の2行も早く効いてきます。 答え方がそろわないまま回答案だけ速く出ると、ばらつきも速く外に出ます。 送信の自動化は最初から作らないでください。
09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点
この構成で扱うデータ: 投資家の氏名、所属先、メールアドレス、問い合わせの内容、そして自社の公表済みの資料です。未公表の情報は、入力に入れない設計にします。
- 未公表の情報を1人の投資家にだけ伝えない … AIに渡す資料を公表済みのものに限り、資料に無い質問には回答案を作らせません。どこからが未公表かの判断と、それに触れる質問への対応は、自社のディスクロージャーポリシーに従いIR責任者が行います。 法令上の扱いは所管のガイドラインと自社の規程で確かめてください
- 回答の送信は人が行う … フローが置くのは下書きまでです。開示の責任は、送った人と確認した人が負います。 誤った回答を1通送ることは、削減した時間よりはるかに高くつきます
- 公表前の資料を同じ場所に置かない … 決算資料の下書きや取締役会の資料は、資料のテキストのフォルダーと権限を分けます。フローから読めない場所に置くことが、いちばん確実な防ぎ方です
- 生成AIに渡したデータの扱いを確かめる … Azure OpenAI では、入力と出力は顧客が指定した地理的範囲の中で処理されますが、Global や DataZone のデプロイの種類では、その範囲の外で処理されることがあるとされています。デプロイの種類は社内の方針に合わせて選んでください
- 不正利用の監視によるデータの保存を把握する … 不正利用の兆候が検知されると、一部の入力と出力が人による確認の対象に選ばれることがあるとされています。承認を受ければこの保存と人による確認を行わない設定にでき、その状態は Azure ポータルのJSONビューで
ContentLoggingがfalseと表示されるかで確かめられるとされています。申請するかは情報システム部門と決めてください - 投資家の一覧をAIに渡さない … 照合はフローの側で行います
誤りが起きた場合のリスクは、公表していない情報を伝えてしまうことと、公表資料と違う数字を伝えてしまうことの2つです。 前者は区分を answerable に寄せると起き、後者は計算や書き換えを許すと起きます。どちらも「資料の外に出る」という同じ動きなので、根拠の照合だけは設計で守ります。
10まず何から始めるか
1週目:資料の目録を作る
SharePoint のリストに、公表済みの資料の目録を作ります。資料名、決算期、言語、公表日、公表状態の列を持たせます。最新の決算期と前の期の資料だけで始めて構いません。 あわせて、各資料のテキストをページ印付きで書き出します。
2週目:10通で試す
先月の問い合わせから10通を選び、手元の生成AIの画面で区分と回答案を出させます。当時IR室長に相談した質問がどの区分に入ったかを、最優先で見ます。
3週目:回答しない話題の一覧を作る
IR室長とIR責任者で、回答しない話題と沈黙期間の日付を一覧にします。 2週目に answerable と出てしまった質問が、そのまま最初の項目になります。ここが決まらないうちにフローを組むと、回答案は出るのに誰も送れない状態になります。
4週目:受信から確認リストまでをつなぐ
Power Automate で新着メールを受け、資料のテキストと一緒に Azure OpenAI を呼び、質問ごとの区分と回答案を確認リストに書き出すところまで作ります。この時点では照合も下書きも作らず、区分が正しいかだけを見ます。
2か月目: 引用と数字の照合を足し、照合で外れた文の数を毎週数えます。3か月目以降: 承認後に下書きを置く処理と回答履歴を足し、1件45分が何分になったかを実測します。人が区分を変えた質問を回答の方針に書き戻す流れが回り始めた時点で、この構成は完成です。
11関連ユースケース
12この仕組みを理解するための記事
13技術仕様の確認日・参考情報
| 確認した内容 | 情報源 | 確認日 |
|---|---|---|
Azure が販売するモデル(Azure OpenAI を含む)の入力と出力が他の顧客にも提供元にも提供されず、許可や指示なしに基盤モデルの学習に使われないこと。Azure 環境でホストされ、提供元のサービスとやり取りしないこと。顧客の指定した地理的範囲で処理され、Global と DataZone ではその限りでないこと。不正利用の兆候があると一部が人による確認の対象になり、承認を受ければこの保存と確認が行われず、JSONビューで ContentLogging が false と現れるかで確かめられること | Microsoft Learn: Data, privacy, and security for Foundry Models sold by Azure | 2026-09-29 |
構造化出力が response_format(Chat Completions API)または text.format(Responses API)にスキーマを定義し、strict: true でスキーマに沿った応答を返すこと。すべての項目を required に含め、任意の項目は null との共用体で表すこと。additionalProperties: false が必要なこと。プロパティは合計100個、ネストは5階層までで、maxLength や maxItems などが使えないこと。キーの順序がスキーマの順序に従うこと | Microsoft Learn: How to use structured outputs with Azure OpenAI in Microsoft Foundry Models | 2026-09-29 |
| 新着メールのトリガー(When a new email arrives (V3))でフォルダー、差出人、件名の絞り込み、添付ファイルを含めるかを指定できること。添付を含めると大きな添付でタイムアウトすることがあり、添付ファイルの取得のアクションを使う回避策があること。トリガーにまれに最大1時間の遅れが出ること。下書きを作るアクションと送るアクションがあること | Microsoft Learn: Office 365 Outlook コネクタ | 2026-09-29 |
どの質問に答えないかは、自社のディスクロージャーポリシーに従い、IR責任者が決めてください。 開示の法令上の扱いは、所管の解説を本文で確認できなかったため、具体的な規定には触れていません。
実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。
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