AI翻訳で多言語化が失敗する原因|任せる範囲の線引き

AI翻訳で多言語化が失敗する原因|任せる範囲の線引き

「英語版のサイトを公開したのに、現地の代理店から意味が通らないと言われた」「製品資料をまとめて訳したら、同じ機能の呼び名が資料ごとに違っていた」——多言語化に着手した会社から、この2つの声は時期をずらして届きます。前者は公開の直後、後者は2本目の資料を作るときです。どちらも訳文を1文ずつ読み返しても原因が見つからないので、たいてい「精度が足りない」という結論に落ち着きます。しかし多言語化が失敗するのは、翻訳の精度が足りないからではありません。本当は、どこまでを機械に任せるかを決めないまま、原稿を丸ごと渡しているからです。この記事では、サイト・製品資料・提案書の文章に絞って、失敗の原因を6つに分解し、任せる範囲をどう引くか、原稿の側をどう直すかまでを見ていきます。


カメ先生カメ先生

AI翻訳の失敗って、訳が下手だから起きると思われがちなんだけど、本当は「どの語をどう呼ぶか」を誰も決めていないから起きるんだ。


カメ子カメ子

決まっていないと、機械のほうはどうするのでしょうか。


カメ先生カメ先生

その場ごとに、いちばんもっともらしい語を選ぶ。だから1文だけ見ると正しいのに、資料をまたぐと呼び名が揺れる。


カメ子カメ子

1文の正しさと、資料全体の揃い方は、別に確かめないといけないんですね。


この記事のポイント
  • 失敗は精度ではなく揃わなさで起きる。1文の正しさを何度確かめても、資料をまたぐ揺れは見つからない
  • 訳す方向で壊れる場所が入れ替わる。日本語から外へと、外から日本語へで、確認する箇所が変わる
  • 線引きは文書単位ではなく部品単位。見出し、数値、固有名詞、法規に触る一文を先に人の側へ置く

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目次

訳せているのに通じない、という状態から見る

場面を1つ固定して、最後まで追います。国内向けの製品サイトと、製品資料3種、提案書のひな型を英語と中国語にしたい。原稿は日本語で、社内の担当者がまとめてAI翻訳にかけ、出てきた訳文を英語ができる社員が読んで、明らかな誤りだけ直して公開しました。ここまでは多くの会社が通る道筋です。

公開の3週間後に、現地の代理店から指摘が来ます。製品の中核機能の呼び名がサイトと資料で違う。ある表現が現地の規則に触る言い方になっている。問い合わせの導線の一文が、押しの強すぎる言い方になっている。どの指摘も、訳文を1文だけ取り出して読むと間違っていません。だから社内の確認では通ってしまいました。

ここに、多言語化の失敗の性質が出ています。誤りは文の中ではなく、文と文のあいだ、資料と資料のあいだ、そして原稿と公開先の国のあいだに生じます1文単位で精度を上げても、この3つの隙間は埋まりません。以下では、この隙間で何が起きているのかを6つに分けます。

自動採点の点数では、この失敗は見えない

先に、測り方の話を片づけます。翻訳の品質を数字で見ようとすると自動採点が出てきますが、いま問題にしている失敗はその点数に現れません。2026年4月に公開された研究が、この食い違いを数字で示しています。専門家が誤りの範囲を指定し、誤りの重大さで重み付けして採点した結果と、単語の重なりを数える自動採点の点数を比べたところ、両者の相関係数は0.289にとどまりました。同研究は、単語の重なりを数える方式が、伝わり方の誤りや言葉の変種の取り違えに反応しないためだと説明しています。

この研究の対象はアラビア語の7つの方言と英語の組み合わせで、日本語の数字ではありません。ただ、構図は日本語でも同じです。点数が高い訳文と、現地の読み手に通じる訳文は別物になりえます。呼び名の揺れも、押しの強さの違いも、単語の重なりでは減点されません。

もう1つ、同研究には運用に効く数字があります。専門家どうしで誤りの範囲と分類と重大さがどれだけ一致したかを測ると、粗い分類では0.517、細かい誤り種別では0.484、範囲と種別と重大さのすべてが一致する条件では0.388でした。人が見ても、細かい分類は揺れます。だから確認を人に戻すときは、見る観点を先に固定しないと、確認そのものが担当者ごとに変わります。

日本語から外へ、外から日本語へ。壊れる場所が違う

同じ研究で、いちばん実務に効くのは方向の話です。同じ道具、同じ言語の組み合わせでも、訳す向きを変えると誤りの型が入れ替わりました。3,850文の対訳を作り、6つの大きな言語モデルに追加学習なしで訳させ、専門家が3,495文にわたって6,113か所の誤りに範囲を指定して分類しています。

結果はこうです。方言から英語へ訳す向きでは、意味の層の誤りが誤り全体の67.7%から92.3%を占めました。入力が中心から外れた言い方だと、意味そのものが取り違えられるということです。逆に英語から方言へ訳す向きでは、意味は通るのに言葉づかいと変種の層の誤りが最大81.5%を占め、指定した変種を保てず別の言い方に寄る現象が起きました。

日本語の業務文書に置き換えると、確認する場所が決まります。日本語から外国語へ訳すとき、原稿に社内語・業界語・省略の多い言い回しがあると、意味そのものが変わる誤りを疑う。外国語から日本語へ訳すとき、意味は通っているので、自社の言葉づかいに戻ってきているかを疑う。繰り返しますがこの数字はアラビア語の実測で、日本語の数字ではありません。使えるのは、方向によって疑う場所が入れ替わるという構図のほうです。

原因1:用語が揃わない

6つの原因の1つ目が、これです。機械翻訳は文を単位に処理するので、同じ語が別の文に出てきたとき、その場でもっともらしい訳語を選びます。選び直しが起きても、機械の側にはそれが揺れだという情報がありません。だから資料1と資料3で機能の呼び名が変わり、サイトと資料でも変わります。

どの程度揃わないのかは実測があります。2025年5月に公開された研究は、術語の対応が付いた文対を使い、指定された訳語が出力にきちんと現れた割合を測りました。結果は、中国語から英語へ訳す向きで45.59%から53.20%、ドイツ語から英語へ訳す向きで37.38%から38.55%。良い条件でも5割前後、別の言語対では4割を下回りました。ここも日本語の数字ではありませんが、指定した訳語が半分ほどしか通らないという水準感は押さえておく価値があります。

実務上の含意は、確認の方法が変わることです。1文ずつ読む確認では、その文の訳語が妥当かどうかしか見ません。揺れを見つけるには、同じ語が出てくる箇所を横に並べる確認が別に必要です。訳文を通読する作業と、語を横に並べる作業は目的が違うので、同じ1回の読みでは両方できません。

原因2:業界固有語と社内語が、普通の言葉に置き換わる

2つ目は、揺れとは別の問題です。専門の語が、意味の近い一般的な語に置き換わります。2025年5月の研究は15の分野と4つの訳す向きで比較し、結論として、術語が密な分野と文体の縛りが強い分野で成績が落ちると書いています。本文では医療と法律を名指しし、誤りの内訳でも文体と術語の誤り率が高いと報告されています。

なぜ置き換わるのかは、機械の目的から説明できます。読みやすく自然な文を作ることと、決められた語をそのまま置くことは、しばしば衝突します。専門語は不自然で長いので、自然さを優先すると削られる方向に働きます。製品の型番や機能名の日本語独自の呼び方は、この圧力をいちばん受けます。

社内語はさらに厄介です。「上流の確認」「二次展開」のような社内でしか通らない言い方は、辞書に載っている意味で訳されます。訳文としては成立しているので誤りには見えません。原稿の側にある社内語は、訳す前にしか直せません。訳文を直す工程でこれを見つけるには、原稿の意図を知っている人が読む必要があり、それは翻訳の確認より高い工数になります。

原因3:表示や法規に触る表現は、国境で意味が変わる

3つ目は、訳が正しいことが問題を防がない型です。日本語の販促文にある「業界初」「最短」「効果を実感」といった言い方は、そのまま訳すと公開先の国の表示規制の枠に入ります。規制は言葉に対してではなく、その国で公開された表示に対してかかります。だから訳が正確であるほど、規制の対象に正確に該当します。

機械の側にこれを止める理由はありません。入力にあった主張を、指定された言語で自然に置き換えるのが仕事です。公開先の規則を参照する仕組みは入っておらず、参照させたとしても、その国の現行の規則が学習に入っている保証がありません。ここはAIに判断させてはいけない範囲です。

実務では、原稿の側で印を付けます。効能・優位性・比較・保証・期間の限定に触る一文を原稿の段階で抜き出し、公開先ごとに扱いを決める。抜き出す作業は原稿を書いた人がいちばん速く、訳し終わった後では誰の担当でもなくなります。提案書のひな型なら、金額や納期の条件を書いた一文も同じ扱いにします。

原因4:文化差で、依頼と断りの強さが入れ替わる

4つ目は、意味は合っているのに関係を壊す型です。依頼、催促、断り、謝辞。この4つは、言葉の意味を保ったまま強さが変わります。日本語の「ご検討いただけますと幸いです」を素直に訳すと、相手の言語では弱すぎて意思が読み取れないことがあり、逆に短い日本語の指示を訳すと命令に聞こえることがあります。

先に挙げた2026年4月の研究は、この層を独立した誤りの層として立てています。6つの層のうち、伝わり方の層と、言葉づかい・変種の層です。英語から方言へ訳す向きでは、後者が誤りの最大81.5%を占めました。意味の誤りではないので、意味の確認をいくら重ねても見つかりません

業務文書で影響が出るのは3か所です。問い合わせや資料請求を促す一文、価格や条件の伝え方、そして断りと保留の文面。ここは訳すのではなく、公開先の言語で書き起こすほうが速い場面が多くあります。原稿の日本語を尊重する必要がない部分だからです。逆に、製品の仕様説明はこの問題が起きにくいので、任せる範囲に入れやすい。

原因5:体裁と改行が崩れる

5つ目は地味ですが、公開直前にいちばん時間を取られます。訳すと文字の量が変わります。日本語から英語では文字数が伸び、中国語では縮む傾向があります。見出しの1行が2行になり、表のセルからはみ出し、図の中の文字が枠に収まらなくなります。原稿の体裁が日本語の文字数に合わせて作られているほど、崩れが大きくなります。

崩れは見た目だけでは済みません。箇条書きの項目が2行になると並びの意味が読み取りにくくなり、表の列幅が変わると対応関係が崩れます。改行の位置も問題です。日本語で意図して入れた改行が、訳文では文の途中で切れます。逆に、単語の途中で折り返せない言語では、長い専門語が入った途端に列が広がります。

対処は、原稿の作り方に戻ります。見出しの文字数に上限を決める、表のセルには文ではなく語を置く、図の中に文字を焼き込まない、改行で意味を作らない。これは翻訳の工程ではなく、原稿の設計の話です。多言語で出す前提の資料は、最初からこの制約で作っておくほうが後の手戻りが少なくなります。

原因6:機械翻訳のまま公開される

6つ目は、原因というより結果です。機械にかけた訳文が誰の確認も通らずに公開される。これが起きるのは、担当者が手を抜いたからではなく、誰がどこを見るかが決まっていないからです。決まっていない仕事は、締め切りが来た側から順に飛ばされます。

機械にかけた後に人が直す工程は、いまでは独立した作業として国際規格になっています。翻訳サービスの分野で、機械翻訳の出力に対する後編集の要件を定めた規格が2017年に発行されています(規格番号は ISO 18587)。規格が存在するという事実そのものが、この工程を人の裁量に任せてはいけないという実務の結論を示しています。

公開まで止まらない理由はもう1つあります。訳文が読める言語なら社内の誰かが目を通せますが、読めない言語だと確認の担い手がいません。すると読める言語だけ確認され、読めない言語は素通りするという偏りが生まれます。多言語化で事故が起きるのは、たいてい社内で誰も読めない言語のほうです。

6つの原因を、原稿側と工程側に分けて置く

ここまでの6つは、直せる場所が2つに分かれます。原稿を直せば消えるものと、工程を決めなければ消えないものです。この区別を付けないと、訳文を直す工程にすべてを押し込むことになり、そこがいちばん高い原価になります。

失敗の原因起きている機序直せる場所見つかる確認の形
用語が揃わない文単位で訳語を選び直すので、資料をまたぐと呼び名が変わる工程側(決めた語の一覧を渡す)同じ語が出る箇所を横に並べる
業界固有語と社内語自然さを優先して一般的な語に置き換わる原稿側(社内語を書き換える)原稿の意図を知る人が原文を読む
表示や法規に触る表現訳が正確なほど公開先の規制に正確に該当する原稿側(該当の一文に印を付ける)主張の型で原稿を検索する
文化差で強さが変わる意味は保たれるが依頼と断りの強さが入れ替わる工程側(書き起こしに切り替える)現地の読み手が読む
体裁と改行が崩れる文字量が変わり、意図した改行が文中で切れる原稿側(文字数と表の作りを決める)公開する形に流し込んで見る
そのまま公開される誰がどこを見るか決まっていないので締め切りに負ける工程側(部品ごとに担当を置く)公開前に止める合図を持つ人がいる

表を見ると、原稿側が3つ、工程側が3つです。原稿側の3つは、訳す前にしか直せません。訳し終わった後に見つけると、原稿と訳文の両方を直すことになり、言語が増えるほど作業が増えます。だから対策の順番は、訳文ではなく原稿から始まります。

原稿の側にある原因は、訳す前にしか直せない

原稿側の3つに手を入れると、言語の数だけ効果が掛かります。5言語に展開する資料なら、原稿の一文を直す作業は1回で、訳文で直すなら5回。言語が増える予定があるかどうかが、どちらを先に直すかを決めます。1言語で終わる予定なら訳文を直したほうが速い場面もあります。

日本語原稿で効く直しは、抽象的な「分かりやすく書く」ではありません。具体的には5つです。1つ、一文を1つの主張に絞る。2つ、主語を省略しない。3つ、指示語で前の文を参照しない。4つ、同じものを別の語で呼ばない。5つ、体言止めの箇条書きをやめて述語まで書く。どれも読みやすさのためではなく、訳す側が推測しなくて済むようにするための規律です。

この5つのうち、3つ目と5つ目が特に効きます。日本語は前の文を「これ」「その際」で受けても通じますが、訳す側は何を指すか推測します。体言止めの箇条書きも同じで、「対応状況の確認」だけでは、確認するのか確認されるのかが決まりません。推測が要る箇所は、推測が外れる箇所です。原稿から推測の余地を減らすことが、原稿側の対策の中身になります。

書き方を制限するという、航空の分野で生まれた解き方

原稿の書き方を制限するという考え方は、生成AIの登場より前からあります。航空宇宙と防衛の分野では、英語の書き方を制限する国際的な規格が使われています。公式サイトの記述では、この規格は制御された自然言語であり技術文書のための国際的な規格で、作られた目的は英語の基本的な運用能力しかない読み手にとって、航空機の整備文書を理解しやすくすることでした。最新版は第9版で、2025年1月15日の日付が示されています。

使われている分野として掲示されているのは、航空宇宙と防衛、コンピュータ科学と情報技術、産業とサービス、そして学術です。元は人が読むための規格ですが、書き手の側に制約を置くという発想がそのまま機械翻訳にも効きます。曖昧さを減らした原稿は、訳す側の推測を減らすからです。

自社で同じことをやるなら、規格をそのまま導入する必要はありません。前の節の5つを社内の書き方の決めごとにして、多言語で出す資料にだけ適用する。全社の文書に広げようとすると必ず止まりますので、対象を多言語化する資料に限るのが現実的です。適用する資料の種類を先に列挙しておきます。

分野を伝えるだけで、出てくる訳が変わる

工程側の対策で、費用がかからないものが1つあります。訳させるときに、その文章がどの分野のものかを伝えることです。2025年5月の研究は、指示の出し方を3通り比べています。分野の情報を与えない場合、分野の名前を明示する場合、そして分野を推し量って文体を合わせるよう促す場合です。

結果は、分野を推し量って文体を合わせるよう促した場合が、試したすべての分野で意味の近さの点数が最も高くなりました。分野の名前を明示する場合も、何も伝えない場合より意味の指標で明確に上回っています。法律と医療の分野では、差が特に大きく出たと報告されています。ここも中英・独英の実測で、日本語の数字ではありません。

実務に落とすと2行です。訳させる単位ごとに、その文章の分野と、読み手が誰かを1文で添える。それだけで訳文の文体が寄ります。ただしこれは文体を寄せる効果で、指定した訳語が通る保証にはなりません。用語の一致率が5割前後という実測は、分野を伝えても変わらない部分の話です。だから指示の工夫と、語を横に並べる確認は、別に持ちます。

任せる範囲は、文書単位ではなく部品単位で引く

線引きの単位を変えます。「この資料は機械に任せる、この資料は人が訳す」という文書単位の割り振りだと、任せた資料の中にある危ない一文が漏れます。1つの資料の中でも、任せてよい部品と任せてはいけない部品が混ざっています。だから部品で引きます。

STEP1
公開する形に、部品の一覧を作る

見出し、本文、表、図の中の文字、注記、行動を促す一文、法規に触る一文、数値、固有名詞。この単位で一覧にします。一覧に載っていない部品は、誰の担当でもない部品です。ここを作らないまま線を引くと、必ず抜けが出ます。

STEP2
先に人の側へ置く部品を決める

数値、固有名詞と製品名、法規や表示に触る一文、行動を促す一文。この4つは機械の出力をそのまま出しません。人が確認する範囲を先に決めるとは、この4つを名指しで先に外に出すことです。

STEP3
残りを機械に任せ、通す条件を決めておく

仕様の説明、手順の記述、一般的な説明文は任せます。通す条件は2つで、決めた語の一覧を渡していること、そして分野と読み手を1文で添えていること。条件を満たさない渡し方をした訳文は、任せた扱いにしません

STEP4
語を横に並べる確認を、通読とは別に入れる

決めた語について、資料をまたいで出現箇所を並べて突き合わせます。訳文の通読では見つからない工程なので、別の担当か別の日にします。1文ずつ読む確認とは目的が違います。

STEP5
公開する形に流し込んで、体裁を見る

訳文の段階では崩れが見えません。見出しの折り返し、表のはみ出し、図の中の文字。公開する画面や誌面に載せてから見る工程を、必ず1回入れます

STEP6
読めない言語の受け皿を決める

社内で誰も読めない言語は、現地の代理店か外部の読み手に「意味が通るか」だけを見てもらいます。全文の校閲ではなく、行動を促す一文と法規に触る一文に限って見てもらえば、時間は短く済みます。

この6工程のうち、費用が増えるのは最後の1つだけです。残りは順番と担当を決めるだけで、新しい道具も追加の外注も要りません多言語化が失敗する会社と失敗しない会社の差は、道具ではなくこの一覧の有無に出ます

止める合図を、誰かに持たせる

最後に、運用が崩れる場所を押さえます。工程を決めても、公開日が動かないと工程のほうが飛びます。だから公開を止める権限を、翻訳の担当ではない人に持たせます翻訳の担当は納期の側に立っているので、自分の工程を止める判断はしにくい立場です

止める条件は具体的に書きます。決めた語の一覧が渡されていない、法規に触る一文の扱いが決まっていない、公開する形での体裁確認が終わっていない、読めない言語の受け皿がいない。この4つのどれかが欠けていたら、言語単位で公開を後ろにずらします。全言語をそろえて出す必要はありません。

  • 訳文の精度だけを見て良し悪しを決める。呼び名の揺れと押しの強さは、点数に現れない
  • 1文ずつの通読で確認を終わりにする。同じ語を横に並べる確認は別に必要
  • 文書単位で任せる範囲を決める。任せた資料の中にある法規に触る一文が漏れる
  • 訳し終わってから原稿の社内語に気づく。原稿と訳文の両方を、言語の数だけ直すことになる
  • 読める言語だけ確認して全言語を同時に公開する。事故は誰も読めない言語で起きる
  • AIに公開先の規制を判断させる。現行の規則が入っている保証がない
  • 確認の観点は先に固定する。専門家どうしでも細かい分類は一致しないので、観点を決めないと確認が担当ごとに変わる
  • 指示の工夫と語の確認は別に持つ。分野を伝えると文体は寄るが、指定した訳語が通る保証にはならない
  • 決めた語の一覧は更新の担当を決める。更新されない一覧は、揺れの原因が一覧の側に移るだけ
  • 公開後に見つかった指摘は、原稿側か工程側かに分けて記録する。分けないと同じ失敗が次の言語で再発する

よくある質問

道具を高いものに替えれば解決しますか

揃わなさは道具の性能とは別の軸です。指定された訳語が出力に現れた割合を測った2025年5月の研究では、良い条件でも5割前後、別の言語対では4割を下回りました。同研究は、推論を挟む新しい方式のほうが術語が密な分野で成績を落としたとも報告しています。道具の乗り換えより、決めた語の一覧を渡すことと、語を横に並べる確認のほうが効きます。

英語版だけ人が確認して、他の言語は機械に任せてよいですか

その運用がいちばん事故になります。社内で読める言語だけ確認が入り、読めない言語が素通りするからです。全文の校閲までは要りませんが、法規に触る一文と行動を促す一文だけは、その言語を読める人に見てもらう受け皿を用意します。対象を絞れば、代理店や外部の読み手に短時間で頼めます。

原稿を直す作業は、どこから始めればよいですか

多言語で出す予定の資料に限って始めます。優先するのは、指示語で前の文を受けている箇所と、体言止めの箇条書きです。この2つは訳す側に推測を強いるので、直した効果が言語の数だけ掛かります。全社の文書に広げようとすると止まるので、対象の資料を先に列挙してから着手します。

機械にかけた訳文を、人がどこまで直せばよいですか

直す深さを部品ごとに変えます。数値と固有名詞と法規に触る一文は原稿と照合し、行動を促す一文は訳すのではなく現地の言語で書き起こす。仕様や手順の説明は、決めた語が使われているかだけを見ます。機械翻訳の出力に対する後編集は2017年から国際規格の対象になっているので、深さを決めずに担当者の裁量に任せる形は避けます。

公開後に直すのでは駄目ですか

体裁の崩れや呼び名の揺れは、公開後の修正で追いつきます。追いつかないのは2つで、表示や法規に触る表現と、押しの強さで関係を損ねる一文です。前者は公開した時点で該当してしまい、後者は読んだ相手が離れた後では戻りません。この2つだけは公開前に止める設計にします。

まとめ

AI翻訳で多言語化が失敗するのは、精度が足りないからではありません。誤りが文の中ではなく、文と文のあいだ、資料と資料のあいだ、原稿と公開先の国のあいだに生じるからです。だから1文ずつ読む確認をいくら重ねても見つかりません。単語の重なりを数える自動採点も、専門家の評価との相関が0.289にとどまるという実測があり、点数では代わりになりません。

原因は6つに分かれ、直せる場所は2つに分かれます。原稿を直せば消えるのは、社内語と業界固有語、表示や法規に触る表現、体裁と改行の設計。工程を決めなければ消えないのは、用語の揺れ、依頼や断りの強さ、そして誰の確認も通らずに公開されることです。原稿側の3つは訳す前にしか直せず、直した効果は展開する言語の数だけ掛かります

線引きは文書単位ではなく部品単位で引きます。数値、固有名詞、法規に触る一文、行動を促す一文を先に人の側へ置き、残りを条件付きで任せる。訳させるときに分野と読み手を1文添えるだけで文体は寄りますが、指定した訳語が通る保証にはならないので、語を横に並べる確認は別に持ちます。冒頭の2つの声——意味が通らないという指摘と、呼び名が資料ごとに違うという発見——は、どちらもこの一覧を作っていなかったことから出ています。任せる範囲を先に決めておけば、道具を替えなくても多言語化は前に進みます。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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