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決裁の権限について「これは誰の承認が要るか」に、規程の根拠付きで答える

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

「金額」「案件の種別」「申請する部署」を入力に、職務権限規程の該当条項を探して決裁者を示し、根拠となる条文と、判断が分かれうる点を併記して返します。総務の作業は、規程を開いて条項を探すことから、機械が示せなかった照会だけに答えることに変わります。

サマリー
利用ツール
Amazon Kendra/Azure AI/ChatGPT/Claude/Gemini/Google Apps Script/OpenSearch/Power Automate/Python
対象業界
その他/商社/建設/製造/金融
対象部門
経理/総務
対象業務
問い合わせ対応/情報検索
主な課題
判断に時間がかかる/問い合わせが多い/情報が見つからない
AIで行う処理
検索(RAG)
主な効果
判断支援/工数削減/検索時間短縮
導入難易度
★★☆☆☆
実装レベル
半自動化
費用感
API連携(中)
人間の確認
必須
現在工数
33h/月
AI導入後
9.5h/月
想定削減
71%
年間削減
282h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 現場の担当者から「この案件は誰の決裁ですか」と照会が来る(メール、チャット、電話)
  2. 総務の担当が、案件の内容と金額を聞き返す(書かれていないことが多い)
  3. 職務権限規程の別表を開き、該当しそうな決裁事項を探す
  4. 金額の区分を見て、決裁者を特定する
  5. 判断に迷う場合、過去に似た案件をどう処理したかを探す
  6. 稟議システムの履歴や、自分のメールの送信済みを検索する
  7. 決裁者と、根拠の条項を回答する
  8. 回答した内容を、自分のメモに残す(残さないこともある)
導入後(After)
  1. 現場の担当者が、社内ポータルの照会フォーム(またはチャット)で質問する
  2. 自動判定に必要な項目(案件の種別、金額、契約期間、申請部署)が揃っているかを確認する
  3. 自動足りない項目があれば、その場で聞き返す
  4. 自動職務権限規程の索引を検索し、該当しそうな決裁事項を引き当てる
  5. 自動金額の区分から決裁者を特定する
  6. 自動根拠の条項・別表の行を、原文のまま添えて回答する
  7. 自動判断が分かれうる点があれば、その旨を明示する
  8. 自動過去の類似照会とその回答を併記する
  9. 判定できなかった照会と、「要確認」が付いた照会だけを総務が対応する
  10. 自動回答を照会記録に残し、次回以降の材料にする
各工程の詳しい説明を読む
  1. 現場の担当者から「この案件は誰の決裁ですか」と照会が来る(メール、チャット、電話)
  2. 総務の担当が、案件の内容と金額を聞き返す(書かれていないことが多い)
  3. 職務権限規程の別表を開き、該当しそうな決裁事項を探す
  4. 金額の区分を見て、決裁者を特定する
  5. 判断に迷う場合、過去に似た案件をどう処理したかを探す
  6. 稟議システムの履歴や、自分のメールの送信済みを検索する
  7. 決裁者と、根拠の条項を回答する
  8. 回答した内容を、自分のメモに残す(残さないこともある)

問題は6つあります。

(a)照会の内容が不十分で聞き返しが発生する。 「備品を買いたいのですが誰の決裁ですか」と聞かれても、金額が分からなければ答えられません。聞き返して、返答を待って、また調べる。 この往復に時間がかかります。

(b)別表180行から該当行を探すのに時間がかかる。 決裁事項の書き方が「固定資産の取得」「消耗品の購入」「業務委託契約の締結」と抽象的で、自分の案件がどれに当たるかの対応づけが難しくなっています。

(c)金額の区分の解釈が分かれる。 「1件あたり」が、契約総額なのか年額なのかが規程に書かれていないことがあります。3年契約で年200万円の場合、600万円なのか200万円なのかで決裁者が変わります。

(d)過去の類似案件を探せない。 「前にも似た照会があった気がする」と思っても、探す手段がありません。稟議システムの検索は件名しか引けません。

(e)回答が記録されず、同じ照会が繰り返される。 総務が答えた内容がどこにも残らないため、次に同じ照会が来たとき、また同じ作業をします。

(f)担当者によって回答が違うことがある。 判断の分かれる案件について、担当者Aと担当者Bで違う決裁者を答えてしまう。後から食い違いが発覚します。

  1. 現場の担当者が、社内ポータルの照会フォーム(またはチャット)で質問する
  2. 【自動】 判定に必要な項目(案件の種別、金額、契約期間、申請部署)が揃っているかを確認する
  3. 【自動】 足りない項目があれば、その場で聞き返す
  4. 【自動】 職務権限規程の索引を検索し、該当しそうな決裁事項を引き当てる
  5. 【自動】 金額の区分から決裁者を特定する
  6. 【自動】 根拠の条項・別表の行を、原文のまま添えて回答する
  7. 【自動】 判断が分かれうる点があれば、その旨を明示する
  8. 【自動】 過去の類似照会とその回答を併記する
  9. 【人】 判定できなかった照会と、「要確認」が付いた照会だけを総務が対応する
  10. 【自動】 回答を照会記録に残し、次回以降の材料にする

自動化されるのは「不足を聞き返す」「規程を探す」「決裁者を特定する」「根拠を示す」「過去事例を並べる」の5つです。残るのは、規程に書かれていない案件と、解釈が分かれる案件への判断です。

総務が全件を確認する設計にはしていません。 規程に明確に書かれている案件(「消耗品の購入、10万円未満、課長決裁」など)は、機械が答えて構いません。確認を全件にすると、削減効果が出ません。

ただし、回答には必ず根拠の条文を添えます。 質問した側が、その条文を読んで納得できる形にします。「課長決裁です」とだけ返す設計にしないでください。

02今回想定するシステム構成

構成図
社内ポータルの照会フォーム / チャット
   │
   ▼【トリガー】フォームの送信
Google Apps Script
   │
   ├──▶ 必須項目の確認(種別 / 金額 / 契約期間 / 申請部署)
   │       └─ 不足があればその場で聞き返す
   │
   ├──▶ 規程の索引を検索
   │       ├─ 職務権限規程(本文と別表)
   │       ├─ 関連規程(購買規程、契約管理規程、旅費規程)
   │       └─ 過去の照会と回答の記録
   │
   ├──▶ Claude API ── 該当条項の特定と、決裁者・根拠・迷いどころの生成
   │       (JSON Schema で出力を固定)
   │
   ├──▶ 【計算処理】金額の区分の判定(規程の閾値と比較)
   │
   ├──▶ 回答を返す(根拠の条文つき)
   │
   └──▶ 照会記録(Google スプレッドシート)へ追記
   │
   ▼
判定できなかった照会 ──【人】総務が対応
   │
   ▼
総務の回答を記録へ追加(次回以降の材料になる)
役割想定する製品代替候補
実行環境Google Apps ScriptPython、Power Automate
検索基盤OpenSearchAmazon Kendra、Azure AI Search
生成AIClaude APIOpenAI API、Gemini API
記録Google スプレッドシートExcel、kintone
規程の掲載社内ポータルSharePoint、Confluence

ワークフローシステムが決裁者を自動判定しているなら、この構成は不要です。 稟議の申請画面で、金額と種別を選べば決裁者が決まる製品があります。そちらのほうが根本的です。 この構成が必要になるのは、稟議を起票する前の段階で「そもそも誰の決裁か」を知りたい場合と、ワークフローシステムに載っていない案件がある場合です。

Google Apps Script を実行環境にしている理由があります。 この構成は、フォームの受付、規程の検索、回答の記録という3つの処理からなり、いずれも規模が小さく、社内で完結します。 Apps Script は SpreadsheetApp を通じてスプレッドシートを作成・読み取り・編集でき、セル、行、列を二次元配列として扱えます。 照会記録の管理には十分です。

時間主導型のトリガーも使えます。 インストール型トリガーには、時間主導型、フォーム送信時、編集時などがあり、時間主導型は1分おきから月1回までの間隔で実行できます。 規程の索引の更新や、月次の照会傾向の集計に使えます。

規程の索引に検索基盤を使う理由は、表記の揺れを越えるためです。 「パソコンを買いたい」という照会が、規程では「什器備品の取得」に当たります。キーワードが一致しないため、単純な検索では引き当てられません。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

照会フォームの送信を起点にします。Apps Script のインストール型トリガーには「フォーム送信時」があり、そのまま使えます。

窓口を1つに絞ってください。 メール、チャット、電話、口頭と経路が分かれていると、記録が残りません。「決裁者の照会はこのフォームから」と決めることが、この構成の前提です。

チャットから使えるようにすると、利用率が上がります。現場の担当者は、フォームを開くより、いつも使っているチャットで聞くほうが自然です。 ただし、チャットでは必須項目の入力を強制しにくいため、聞き返しの設計が重要になります。

もう1つの起点として、規程が改定されたときに索引を作り直す処理を置きます。改定後も古い索引を引いていると、誤った決裁者を答えます。 これは致命的なので、改定の運用と必ず紐づけてください。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
照会の内容案件の種別、金額、契約期間、申請部署、補足照会フォーム
職務権限規程本文の条文、別表(決裁事項 × 金額区分 × 決裁者)社内ポータル
関連規程購買規程、契約管理規程、旅費規程、与信管理規程同上
組織図現在の部署名、役職、兼務の状況人事システム
決裁者の対応表規程上の役職名と、実際の氏名の対応総務の管理表
過去の照会記録質問の内容、回答、根拠、総務が判断した案件照会記録
規程の改定履歴いつ、どの条項が変わったか総務の記録
Step3

データの取得方法を決める

職務権限規程: 別表を構造化して取り込むことが、この構成の要です。PDFのまま検索させないでください。 次の形に直します。

決裁事項の番号3-12
決裁事項の名称什器備品の取得
金額区分の下限・上限0 / 500,000
決裁者課長
条件・但し書き年度予算に計上済みのものに限る
関連する規程購買規程 第8条
原文別表の該当行の全文

この表を作る作業が、準備の大半です。 180行なら1〜2日で終わります。一度作れば、改定のたびに差分を直すだけです。

「原文」の列を必ず持ってください。 回答に添える根拠は、構造化した値ではなく原文です。構造化の過程で意味が変わっている可能性があるため、利用者が原文で確かめられる形にします。

組織図と決裁者の対応表: 規程には「部長」と書かれていますが、現場は「誰に出せばよいか」を知りたいと思っています。申請部署から、その部署の課長・部長が誰かを引ける表が要ります。

兼務の扱いに注意してください。 「営業部長が営業一課長を兼務している」場合、課長決裁と部長決裁が同じ人になります。この場合、上位の決裁者へ上げる必要があるかは、規程に書かれていることが多いので、その条項も索引に入れます。

過去の照会記録: 運用を始めてからたまります。最初は空で構いません。 総務が判断した案件が記録されていくことで、索引が育ちます。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 別表の構造化 … 上記の表の形に直します。金額区分は「〜50万円未満」のような表記を、数値の下限・上限に直します
  2. 決裁事項の言い換え辞書 … 「パソコン」「PC」「ノートパソコン」→「什器備品」のように、現場の言葉と規程の言葉を対応づけます。50語程度から始めてください
  3. 金額の正規化 … 照会に書かれた金額を数値に直します。「50万」「500,000円」「50万円(税抜)」をそろえます。税抜・税込の別を必ず保持してください
  4. 契約期間の抽出 … 「3年契約」「月額20万円」といった記述から、契約総額の計算に必要な情報を取り出します
  5. 改定日との突合 … 規程の索引が最新版かを確認します。古い版を引いていないかのチェックを入れます
Step5

AIに処理させる

検索基盤にさせること: 照会の内容から、該当しそうな決裁事項の候補を引き当てること。表記が違っても意味で引けるようにします。

生成AI(Claude API)にさせること:

処理内容
必須項目の判定決裁者を決めるのに必要な情報が揃っているか
聞き返しの生成足りない項目を聞く文を作る
決裁事項の特定検索で出た候補から、該当する決裁事項を選ぶ
判断が分かれうる点の指摘金額の解釈、複数の決裁事項に当たりうる、条件・但し書きの該当
回答文の生成決裁者と根拠を、読んで分かる形にする

計算処理にさせること:

処理内容
金額区分の判定規程の閾値と金額の比較
契約総額の算出月額 × 契約月数
決裁者の氏名の解決役職名と申請部署から、現在の担当者を引く

金額の比較をAIにさせません。 「500万円は、500万円未満の区分に入るか」という境界の判定は、単純な比較で確実に行えます。 AIに任せると、境界で誤る可能性が残ります。

規程に書かれていない案件について、答えを作らせません。 「一般的には部長決裁でしょう」といった回答は禁止です。「規程に該当する条項が見つかりませんでした。総務へお問い合わせください」と返させます。

Step6

指示内容を固定する

あなたは総務部の決裁権限の照会に答える担当者です。
下の照会について、職務権限規程の該当条項を特定し、決裁者を示してください。

【厳守事項】
- 回答は、下の「規程の検索結果」に含まれる条項のみを根拠にしてください。
  **一般的な決裁権限の考え方や、他社の慣行で補わないでください。**
  検索結果に該当する条項がない場合は、status を "not_found" にし、
  「規程に該当する条項が見つかりませんでした」と回答してください。
  **推測で決裁者を答えないでください。**
- 根拠として、該当する別表の行または条文の**原文をそのまま**引用してください。
  要約や言い換えをしないでください。
- 金額の比較をしないでください。
  該当する決裁事項の番号と、金額区分の候補を返すところまでが役割です。
  金額区分の判定は後段の処理で行います。
- 次の場合は status を "needs_check" にし、理由を書いてください。
  ・複数の決裁事項に当たりうる
  ・金額の解釈が分かれる(契約総額か年額か、税抜か税込かが規程から読めない)
  ・条件や但し書きに該当するか、照会の情報では判断できない
  ・申請部署の組織が規程の記載と対応しない
  **迷ったときに "answered" にしないでください。**
- 決裁者を決めるのに必要な情報が不足している場合、status を "need_info" にし、
  不足している項目を列挙してください。
  聞き返しの文は、必要な項目を3つ以内にまとめてください。
- 決裁の要否そのもの(この案件は稟議が必要か)を判断しないでください。
- 回答文には、必ず根拠の条項番号を含めてください。

【照会の内容】
{inquiry}

【規程の検索結果(決裁事項の候補・上位5件、原文つき)】
{retrieved_rules}

【過去の類似照会と回答(上位3件)】
{past_inquiries}

【申請部署の組織情報】
{department_info}

「迷ったときに answered にしない」の1行が、この構成でもっとも重要です。 決裁者の回答は、間違えると稟議が差し戻され、やり直しになります。答えられないことを正直に返すほうが、間違った答えを返すより価値があります。

「一般的な考え方で補わない」も必須です。 職務権限は会社ごとに違います。「300万円を超える契約は通常、取締役会の決議が必要です」といった回答は、自社の規程に基づかない限り誤りです。

「金額の比較をしない」の指示も効きます。 「498万円は500万円未満か」の判定でAIが誤る可能性をなくします。候補の決裁事項と金額区分を返させ、比較は計算処理で行います。

Step7

出力形式を固定する

{
  "inquiry_id": "",
  "status": "answered | needs_check | need_info | not_found",
  "matched_rule": {
    "rule_no": "",
    "rule_name": "",
    "source_text": "",
    "amount_tiers": [
      { "lower": 0, "upper": 0, "approver_title": "" }
    ],
    "conditions": ""
  },
  "alternative_rules": [
    { "rule_no": "", "rule_name": "", "why_possible": "" }
  ],
  "need_info_items": [],
  "followup_question": "",
  "needs_check_reason": "",
  "related_rules": [],
  "past_inquiry_refs": [],
  "answer_text": ""
}

JSON Schema を指定して出力を固定します。Claude API では output_config.format にJSONスキーマを渡すことで、応答をスキーマに沿った形に制約できます。

amount_tiers を配列で返させている点に注目してください。 AIには「この決裁事項には、50万円未満は課長、50万〜300万円は部長、300万円以上は本部長という3つの区分がある」という情報を返させ、実際にどの区分に当たるかの判定は計算処理で行います。

alternative_rules は、該当しうる他の決裁事項です。「什器備品の取得」と「情報システムの導入」の両方に当たりうるパソコンの購入のような案件で、ここに候補が入ります。statusneeds_check にする根拠にもなります。

past_inquiry_refs は、過去の類似照会への参照です。総務が過去に判断した案件があれば、それを示すことで一貫性が保てます。

Step8

システムへ連携する

回答は、照会フォームの送信者へ返します。回答文の構成を決めておいてください。

【決裁者】営業部長

【根拠】職務権限規程 別表 3-12「什器備品の取得」
  「1件あたり50万円以上300万円未満のもの ……… 部長」

【ご申請部署】営業部 第一営業課
【決裁者(氏名)】◯◯ ◯◯ 営業部長

【ご注意】
ご照会の金額は税抜120万円とのことでした。本規程の金額区分は税抜で判定します
(別表 注記2)。税込の場合は区分が変わる可能性がありますのでご確認ください。

【関連する規程】購買規程 第8条(相見積の取得)

根拠の原文を必ず含めてください。 これがあることで、照会した側が自分で確認できます。「なぜその決裁者なのか」が分かると、次から似た案件は自分で調べられるようになります。

照会記録は、スプレッドシートへ追記します。 Apps Script から SpreadsheetApp を使って行を追加します。列は次の構成です。

中身
照会ID / 日時 / 照会者 / 所属基本情報
照会の内容(種別 / 金額 / 期間 / 部署)構造化された入力
判定結果answered / needs_check / need_info / not_found
該当した決裁事項 / 決裁者回答の内容
総務の対応(人が答えた場合)回答と、その根拠
規程の版どの版で判定したか
照会者からの反応解決した/再照会した

not_foundneeds_check の記録が、規程の改善材料になります。 同じ種類の案件が毎月 not_found になるなら、規程にその決裁事項がないということです。 追加を検討する材料になります。

稟議システムへの連携は行いません。 この構成は照会に答えるだけで、稟議の起票には関与しません。

Step9

人が確認する

answered は人が確認しません。needs_checkneed_info の再照会、not_found を総務が対応します。

全件確認にすると、この構成の効果が消えます。規程に明確に書かれている案件は、機械が答えて構いません。 ただし、次の2つを必ず入れてください。

  1. 根拠の原文を回答に含める … 照会者が自分で検証できる
  2. 回答のフィードバック … 「解決した」「違う気がする」を返せるボタンを付ける

2つ目が、この構成の安全装置です。 誤った回答が出ていても、照会者が「違う気がする」と返せれば、総務が気づけます。フィードバックがない設計にすると、誤りが静かに積み上がります。

総務が対応する照会の確認では、次の設計が効きます。

  • not_found を最上部に集める(規程の抜けの可能性
  • needs_check の理由ごとにまとめる(同じ論点が繰り返されていれば規程の問題
  • 過去に同じ内容の照会があったかを併記する
  • 「違う気がする」のフィードバックが付いた answered を別に集める

最後の項目を毎週見てください。 誤答の兆候がここに出ます。

Step10

例外に対処する

起きること対応
規程に該当条項がないnot_found として総務へ回す。推測で答えない
複数の決裁事項に当たりうるneeds_check にし、候補を並べて総務へ回す
金額が税抜か税込か分からないneed_info として聞き返す。規程の判定基準も回答に明示する
契約総額か年額かが規程から読めないneeds_check にする。規程の改定の材料として記録する
申請部署が規程の記載と対応しない(組織変更後)needs_check にする。組織図と規程の対応表を更新する
兼務により上位と下位の決裁者が同じ人規程の該当条項があればそれに従う。なければ needs_check
規程が改定されたのに索引が古い索引の版と規程の版を突合し、ずれていれば回答を止める。古い版で答えるほうが危険
金額が境界ちょうど(500万円)計算処理で「以上/未満」を規程の表記どおりに判定する。「以上」か「超」かを構造化で保持する
照会が抽象的すぎる(「契約の決裁について」)need_info として3項目以内で聞き返す
同じ人が何度も同じ照会をする過去の回答を併記する。繰り返される照会は、規程の分かりにくい箇所
緊急で回答が必要総務への通知を即時にする。この構成で答えられない案件は人が急ぐ
「違う気がする」のフィードバックが来た総務が確認し、誤りなら索引または辞書を直す
Step11

記録を残す

この記録は、決裁の運用が一貫していたことを示す資料になります。

  • 照会の内容と、回答した決裁者・根拠
  • 判定に使った規程の版
  • needs_checknot_found の理由
  • 総務が判断した案件と、その判断の根拠
  • 照会者からのフィードバック
  • 誤答が見つかった場合、その内容と修正の記録

「判定に使った規程の版」が特に重要です。 規程は改定されます。「その時点ではこの回答が正しかった」ことを示せる状態にしてください。

not_foundneeds_check の集計を、四半期ごとに見てください。 同じ種類の案件が繰り返し引っかかっているなら、規程にその決裁事項を追加するか、金額の判定基準を明記する必要があります。 この構成のもう1つの価値が、ここにあります。

04実装レベルの3段階

最小構成:構造化した別表をチャット画面に貼り付け、照会に答えさせる / 検索と回答
半自動化:照会フォームからの入力で、検索・判定・回答・記録までを自動化 / 照会対応のすべて
本格構成:上記+チャットからの利用+過去照会の参照+規程改定時の索引更新+四半期の傾向集計 / 規程の改善まで

半自動化の時点で、9分が3.5分程度になります。 総務が対応するのは needs_checknot_found だけになるためです。本格構成では2.6分になりますが、減るのは記録と過去事例の確認です。 本格構成の「規程改定時の索引更新」は、必須です。 索引が古いまま回答を続けると、誤った決裁者を返し続けます。改定の運用に、索引の更新を組み込んでください。 更新されていない場合は回答を止める仕組みも入れます。 「四半期の傾向集計」には、時間削減とは別の価値があります。 not_foundneeds_check の集計から、規程のどこが足りないか、どこが分かりにくいかが分かります。 これは規程の改定の材料になります。照会に答えるだけでなく、照会が減る方向へ規程を直せることが、この構成の長期的な価値です。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
2 名
月間件数
220 件
1件あたり現在時間
9 分
1件あたり導入後時間
2.6 分
現在  220件 × 9分 ÷ 60 = 33 時間/月
導入後 220件 × 2.6分 ÷ 60 = 9.5 時間/月
月間削減時間
23.5h
削減率
71%
年間削減時間
282h
年間金額換算(時間単価3,000円)
84万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 職務権限規程があり、金額や種別によって決裁者が変わる企業。総務や経理に「これは誰の承認ですか」という照会が月100件以上来ている場合。規程の改定や組織変更のたびに、現場が誰に出せばよいか分からなくなる場合。稟議が誤った決裁者へ回って差し戻される例が多い場合。
向いていない
  1. 従業員が数十名で、決裁者が社長1人に集約されている場合。ワークフローシステムが金額と種別から決裁者を自動判定しており、それで回っている場合。職務権限規程が整備されておらず、決裁者が都度の判断で決まる場合(規程の整備が先)。

07最小構成で試す方法

  1. 職務権限規程の別表を、上記の表の形に構造化する(180行なら1〜2日)
  2. 直近1か月に総務が受けた照会を30件集める(メールの送信済みから拾う)
  3. 現場の言葉と規程の言葉の対応表を50語作る
  4. 生成AIのチャット画面に、構造化した別表と対応表を貼り付ける
  5. 30件の照会を1件ずつ入力し、決裁者と根拠を答えさせる
  6. 総務が実際に回答した内容と突き合わせる

見るのは次の3点です。

見る点判断
正解率(決裁者が一致した割合)9割以上でないと使えない。 決裁者の誤りは差し戻しを生む
根拠の原文が正確に引用されているか要約されていたら、プロンプトを直す
間違えた案件が needs_check になっていたか間違えて answered を返すのが最悪。 ここを重点的に見る

3つ目が最重要です。 正解率が9割でも、残り1割を自信を持って間違えるなら使えません。間違えるときは needs_check になっている、という状態が望ましい形です。 そうなっていなければ、プロンプトの「迷ったときに answered にしない」を強めます。

別表の構造化も、この段階の成果物です。 これは仕組みを作らなくても役に立ちます。「決裁事項 × 金額区分 × 決裁者」の表が1枚になるだけで、総務の検索が速くなります。

あわせて、金額の判定基準が規程に書かれているかを確かめてください。 税抜か税込か、契約総額か年額か、「以上」か「超」か。30件のうち何件がこれで迷うかを数えると、規程の弱い部分が見えます。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
規程にない案件に推測で答えるnot_found を許す。推測を明示的に禁止する
間違えた案件が answered で返るneeds_check の条件を明確にする。テストで重点的に確認する
金額の境界で誤る比較を計算処理で行う。「以上」「超」を構造化で保持する
税抜・税込の解釈で誤るneed_info で聞き返す。規程の判定基準を回答に明示する
現場の言葉で検索できない言い換え辞書を作る。50語から始めて、not_found のたびに足す
規程改定後も古い索引を引く索引の版を管理し、ずれていたら回答を止める
組織変更で決裁者の対応表がずれる人事システムと月次で突合する
兼務で上位と下位が同じ人になる規程の該当条項を索引に入れる。なければ needs_check
全件を総務が確認して効果が出ないanswered は確認しない。代わりにフィードバックのボタンを置く
誤答に気づけない「違う気がする」のフィードバックを毎週見る
窓口が分散して記録が残らない照会の窓口を1つに絞る。チャットからも同じ仕組みへ流す
根拠が要約されて出る原文の引用を必須にする

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 職務権限規程の内容、照会された案件の金額と種別、申請部署、決裁者の氏名。自社の決裁の仕組みと、進行中の案件が読み取れる情報です。

  1. 外部AIへの入力可否 … 規程の条文と照会の内容を外部のAIサービスへ送ることになります。照会には「3億円の設備を導入したい」といった、未公表の投資計画が含まれることがあります。 情報管理規程を確認してください
  2. 金額と案件名を伏せる選択 … 決裁者の判定に必要なのは、決裁事項の種別と金額の区分です。具体的な案件名や取引先名は不要です。 フォームの入力項目を、判定に必要なものだけに絞る設計を検討してください
  3. 決裁者の氏名 … 役職名から氏名を引く処理は、外部のAIへ渡さずに計算処理で行えます。氏名をAIへ渡す必要はありません
  4. 学習利用 … 入力を学習に使わないことが契約で保証されるサービスを選びます
  5. 規程そのものの機微性 … 職務権限規程は、どの金額で誰が決められるかを示す文書です。社外に出ると、交渉の場で使われる可能性があります。 索引へのアクセス権限を社内に限定してください
  6. 回答の位置づけこの構成の回答は、規程を引いた結果であって、決裁の有効性を保証するものではありません。 「AIがそう答えたから」という理由で誤った決裁者へ出しても、その稟議は無効です。回答に「ご不明な点は総務までお問い合わせください」を必ず添えてください
  7. 記録の保存 … 照会の記録には、進行中の案件が含まれます。閲覧を総務部と経理部に限定してください
  8. 自動実行してよい範囲 … 規程の検索、決裁者の判定、根拠の提示までです。規程の解釈が分かれる案件の判断、規程の改定、稟議の起票は人が行います

誤りが起きた場合のリスクは、誤った決裁者へ稟議が回ること、それに気づかず決裁が行われることです。後者が重く、決裁の有効性に関わります。 根拠の原文を必ず添え、照会者が自分で確認できる形にしてください。

10まず何から始めるか

1週目:別表を構造化する

職務権限規程の別表を、「決裁事項の番号/名称/金額の下限・上限/決裁者/条件/原文」の表にします。180行で1〜2日です。 この表は、仕組みを作らなくても総務の検索を速くします。

この作業中に、規程の弱い部分が見えます。 金額が「以上」か「超」か書かれていない行、税抜・税込が不明な行、条件が曖昧な行。メモしておいてください。 規程改定の材料になります。

2週目:現場の言葉との対応表を50語作る

直近の照会から、現場が使った言葉を拾い、規程の決裁事項に対応づけます。「パソコン」「PC」→「什器備品」、「業務委託」「外注」→「請負・委託契約」のような形です。50語で始めて、運用しながら足してください。

3週目:30件で正解率を測る

過去1か月の照会30件で、決裁者の正解率と、間違えた案件が needs_check になっているかを確かめます。9割を下回るなら、対応表か別表の構造化を見直します。

4週目以降: 照会フォームからの半自動化を作り、1か月運用します。フィードバックのボタンを最初から入れてください。 これがないと、誤答に気づけません。

2か月目以降: チャットからも使えるようにします。利用率が大きく変わります。 同時に、規程改定時の索引更新の手順を、改定の運用に組み込んでください。

四半期ごと: not_foundneeds_check を集計し、規程の改定を提案します。照会に答え続けるより、照会が減る方向へ規程を直すほうが、長い目で見て効果があります。 この集計が、この構成のもう1つの成果物です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-09-23/最終更新:2026-09-23
確認した内容情報源確認日
Google Apps Script のインストール型トリガーに、時間主導型、フォーム送信時、編集時、変更時、カレンダーイベントなどの種類があること。時間主導型トリガーが1分おきから月1回までの間隔で実行できることGoogle: Installable triggers2026-09-23
Apps Script が SpreadsheetApp を通じてスプレッドシートを作成・読み取り・編集でき、セル・行・列を二次元配列として扱えること。スプレッドシートに紐づけた(bound)スクリプトでは、画面の変更や、開いたとき・編集したときのイベントへの応答ができることGoogle: Extending Google Sheets2026-09-23
Claude API で output_config.format にJSONスキーマを渡すと、応答をスキーマに沿った形に制約できることClaude Docs: Structured outputs2026-09-23

職務権限規程の構成、金額区分の定め方、決裁者の役職名は企業によって異なります。この部分は自社の規程に応じた個別対応が必要です。 個々の案件の決裁者の判断は、最終的に自社の規程と、規程を所管する部門の解釈によります。この記事は決裁権限の解釈を示すものではありません。ワークフローシステムで決裁者の自動判定を行っている場合は、そちらとの整合を確認してください。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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