Media > AI活用ユースケース > カスタマーサポート > 保険会社が外国人の契約者に送る保険金請求の案内と必要書類の説明を、社内の用語集と承認済みの訳にそろえて多言語に訳し、確認に回す

保険会社が外国人の契約者に送る保険金請求の案内と必要書類の説明を、社内の用語集と承認済みの訳にそろえて多言語に訳し、確認に回す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

外国人の契約者や受取人に送る保険金・給付金の請求案内を、社内の用語集と承認済みの訳にそろえて母語に訳します。承認済みの訳に無い文だけを生成AIに訳させ、逆訳を添えて担当の確認に回します。

サマリー
生成AI
Azure OpenAI Service/Claude/Gemini
連携・自動化
Power Automate
対象業界
保険/金融
対象部門
カスタマーサポート
対象業務
内容確認・チェック/書類作成
主な課題
属人化している/書類作成に時間がかかる/確認ミスが多い
AIで行う処理
翻訳
主な効果
品質標準化/対応スピード向上/工数削減
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
本格構成
費用感
API連携(中)
人間の確認
条件付き
現在工数
120h/月
AI導入後
42h/月
想定削減
65%
年間削減
936h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 請求の受付システムが、日本語の請求案内を作る
  2. 担当が、契約者の言語を契約情報で確かめる
  3. 共有フォルダの過去の訳文から、似た案内を探してコピーする
  4. 違う部分を訳す。英語・中国語は職員が、それ以外は翻訳会社へ依頼する
  5. 書類名・金額・日付・問い合わせ先を、日本語の案内と目で見比べる
  6. 班の別の職員が読み、送付の可否を決める
  7. 日本語の案内と訳文を同封して郵送するか、メールで送る
導入後(After)
  1. 自動請求の受付システムが、日本語の請求案内を作る
  2. 人担当が、契約者の言語を確かめて「訳す」を押す
  3. 自動中継の処理が、案内を文に分け、金額・日付・書類名・問い合わせ先を記号に置き換える
  4. 自動翻訳メモリ(承認済みの訳)と照合し、一致した文は訳を取り出す
  5. 自動一致しない文だけを、用語集の関係する訳語と一緒に生成AIへ送る
  6. 自動生成AIが、訳文・逆訳・使った用語・訳せなかった箇所を返す
  7. 自動中継の処理が、記号の数と並び、用語集の訳語、逆訳の中の約束・保証の言い回しを照合する
  8. 自動記号を元に戻し、書類名は日本語の原語と一覧の訳を並べて入れる
  9. 人担当が、確認画面で原文・逆訳・照合結果を読み、送付を決める
  10. 人日本語の案内と訳文を対訳にして送る
  11. 人毎月、新しく生成AIが訳した文のうち繰り返し使われたものを母語話者が確かめ、翻訳メモリに加える
各工程の詳しい説明を読む
  1. 請求の受付システムが、日本語の請求案内を作る
  2. 担当が、契約者の言語を契約情報で確かめる
  3. 共有フォルダの過去の訳文から、似た案内を探してコピーする
  4. 違う部分を訳す。英語・中国語は職員が、それ以外は翻訳会社へ依頼する
  5. 書類名・金額・日付・問い合わせ先を、日本語の案内と目で見比べる
  6. 班の別の職員が読み、送付の可否を決める
  7. 日本語の案内と訳文を同封して郵送するか、メールで送る

(a)同じ書類の訳が人によって違う。 「入院証明書」が、ある人の訳では hospital certificate、別の人では certificate of hospitalization、さらに別の人では medical certificate になります。最後の訳は、診断書と区別がつきません。 契約者が病院で違う書類を頼み、取り直しになることがあります。

(b)支払を約束するように読める訳が混ざる。 日本語の「請求書類をご提出ください。内容を確認のうえ、お支払いいたします」は、確認の結果で支払わないこともある、という含みを持っています。 訳すとこの含みが落ち、「書類を出せば支払われる」と読める文になることがあります。支払えなかったときの苦情の種になります。

(c)過去の訳文が探せない。 共有フォルダには何年分もの訳文がありますが、どれが確認済みのものか、どれが急いで作ったものかの区別がありません。3番目に時間がかかり、しかも見つけた訳が正しいとは限りません。

(d)英語・中国語以外は数日待つ。 翻訳会社に頼む言語は、請求案内を送るのが数日遅れます。 その間に契約者から「何を出せばいいのか」と電話が来て、班の職員が英語や日本語で説明することになります。

  1. 【自動】 請求の受付システムが、日本語の請求案内を作る
  2. 【人】 担当が、契約者の言語を確かめて「訳す」を押す
  3. 【自動】 中継の処理が、案内を文に分け、金額・日付・書類名・問い合わせ先を記号に置き換える
  4. 【自動】 翻訳メモリ(承認済みの訳)と照合し、一致した文は訳を取り出す
  5. 【自動】 一致しない文だけを、用語集の関係する訳語と一緒に生成AIへ送る
  6. 【自動】 生成AIが、訳文・逆訳・使った用語・訳せなかった箇所を返す
  7. 【自動】 中継の処理が、記号の数と並び、用語集の訳語、逆訳の中の約束・保証の言い回しを照合する
  8. 【自動】 記号を元に戻し、書類名は日本語の原語と一覧の訳を並べて入れる
  9. 【人】 担当が、確認画面で原文・逆訳・照合結果を読み、送付を決める
  10. 【人】 日本語の案内と訳文を対訳にして送る
  11. 【人】 毎月、新しく生成AIが訳した文のうち繰り返し使われたものを母語話者が確かめ、翻訳メモリに加える

9番目が、この設計の分かれ目です。 担当が読むのは訳文ではなく、日本語の逆訳と照合の結果です。 担当がその言語を読めなくても確認できるようにしています。照合で引っかかった文だけを詳しく見る設計にしないと、20分は半分にもなりません。

11番目が、時間がたつほど効いてきます。 母語話者の確認が済んだ文は、次から生成AIに送らずに済みます。請求案内は請求の種類ごとに文が決まっているので、数か月で大半の文が翻訳メモリで済むようになります。

02今回想定するシステム構成

構成図
【入力】請求の受付システムが作った日本語の請求案内/契約者の言語
   ▼【トリガー】担当が「訳す」を押す
中継の処理(Azure Functions)
   ├── 文に分ける、金額・日付・書類名・問い合わせ先を記号に置き換える
   ├── 翻訳メモリを引く ── 一致した文はそのまま使う
   ├── 一致しない文を集め、用語集から関係する訳語を引く
   ▼
Azure OpenAI(Microsoft Foundry。構造化出力)
   │  訳文/逆訳/使った用語/訳せなかった箇所
   ▼
中継の処理 ── 記号・用語・約束表現の照合、記号を元に戻す、書類名は原語と並べる
   ▼
【人】担当が確認画面(原文・逆訳・照合結果)で送付を決める
   ▼
日本語と訳文の対訳で郵送・メール ── 控えを請求の記録に保存
   ▼
【人】母語話者が繰り返し使われた訳を確かめ、翻訳メモリに加える
役割想定する製品代替候補
生成AIAzure OpenAI(Microsoft Foundry)Claude API、Gemini API
連携Azure Functions(記号の置き換え、翻訳メモリの照合、約束表現の照合、対訳の作成)Power Automate
保管SharePoint(用語集・翻訳メモリ・書類名の一覧・送った案内の控え)社内のファイルサーバー
画面確認画面(社内のWebアプリ)請求の受付システムの画面に組み込む
校閲母語話者の校閲者(職員または委託)翻訳会社の校閲サービス

請求の受付システムには、この構成から書き込みません。 受付システムが作った日本語の案内を受け取り、訳した対訳を控えとして請求の記録に添えるだけです。支払の判断や書類の要否を決める仕組みには触れません。

生成AIは、Azure OpenAI の構造化出力で呼びます。 Microsoft Learn では、構造化出力を使うとモデルは推論 API 呼び出しの一部として指定した JSON スキーマの定義に従うとされ、有効な JSON は保証するがスキーマへの厳密な準拠はできなかった以前の JSON モードとは対照的だと説明されています。Chat Completions API では response_format、Responses API では text.format にスキーマを書きます。文ごとの訳文・逆訳・使った用語を、決まった形で受け取るために使います。

金融庁の保険会社向けの総合的な監督指針は、保険金等支払管理態勢の着眼点として、保険金等の請求手続き等に関して十分かつ分かりやすい説明や請求漏れを未然防止するための方策を挙げています。 あわせて、保険契約者等に支払われる保険金等の種類等について、送付する書面等で分かりやすく案内が行われているかも挙げられています。この構成は、その「分かりやすい案内」を、日本語の読めない契約者に届けるための部分を受け持ちます。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

担当が、確認画面で「訳す」を押したときに動きます。 請求案内は、受付システムが日本語を作った時点で中身が確定しています。夜間にまとめて訳すと、送るのが翌日にずれます。 1件ずつ、その場で返します。

言語は、契約情報に登録された言語を初期値にします。 登録が無い契約者は、担当が選びます。翻訳メモリと用語集を整えた言語(英語・中国語・ベトナム語・ネパール語・インドネシア語・ポルトガル語の6言語)以外のときは、英語とやさしい日本語の2つを並べて作ります。

毎月1日の朝に、前月に生成AIが訳した文を集める処理が動きます。 同じ日本語の文が3回以上訳されたものを一覧にし、母語話者の確認に回す候補にします。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
日本語の請求案内請求の種類、足りない書類、書類の取り方、提出先、提出期限の目安、問い合わせ先、担当の補足請求の受付システム
契約者の言語登録された言語、または担当が選んだ言語契約情報/確認画面
翻訳メモリ日本語の文と、言語ごとの承認済みの訳文、承認日、承認者SharePoint の表
用語集用語、言語ごとの訳語、使ってはいけない訳語、注記SharePoint の表
書類名の一覧書類コード、日本語の正式な書類名、言語ごとの訳、取り方の一言説明請求の受付部門が用意する一覧
約束表現の一覧逆訳に出てきたら止める日本語の言い回し(「必ず」「保証」「お支払いします」など)請求の受付部門が用意する一覧

質を決めるのは、下の3つです。 書類名の一覧が無いと、「入院証明書」と「診断書」が言語ごとに違う訳になり、第3章の(a)がそのまま残ります。 約束表現の一覧が無いと、第3章の(b)を機械で拾えません。

用語集は、保険の言葉を中心に作ります。 「給付金」「保険金」「受取人」「被保険者」「契約者」「免責」「告知」「支払事由」のように、日本語では区別しているのに、訳すと同じ1語になりがちな言葉が先です。たとえば「保険金」と「給付金」を同じ語に訳すと、どちらの請求の話なのかが分からなくなります。

契約者の氏名・証券番号・口座の情報は、生成AIに渡しません。 案内の宛名と証券番号は前処理で記号に置き換え、訳した後に機械の側で戻します。

Step3

データの取得方法を決める

取るものどこから何に使うか
日本語の請求案内受付システムが出力したファイルを中継の処理が受け取る訳す対象
承認済みの訳翻訳メモリの表を、日本語の文と言語で引く一致した文はそのまま使う
関係する訳語用語集の表を、原文に出てくる用語で引く生成AIへの指示と、訳した後の照合
書類名の訳書類名の一覧を、書類コードで引く書類名は一覧の訳と原語で置き換える
約束表現約束表現の一覧逆訳の照合

書類名は、受付システムの書類コードで引きます。 日本語の書類名を文字で照合すると、「住民票」「住民票の写し」「住民票記載事項証明書」のような似た名前を取り違えます。 受付システムは必要書類をコードで持っているので、コードで引けば取り違えが起きません。

書類名の一覧の行は、たとえば次のような形です。

書類コード日本語の書類名言語訳取り方の一言説明
D-02入院証明書(当社所定の様式)vi母語話者が確かめた訳入院した病院の窓口で、当社の様式を渡して依頼する
D-05住民票の写しvi母語話者が確かめた訳住んでいる市区町村の窓口で請求する
D-11受取人の本人確認書類の写しne母語話者が確かめた訳在留カードの両面のコピーでよい

取り方の一言説明も、書類名と同じく一覧の訳で入れます。 「どこで頼むか」は書類ごとに決まっているので、毎回訳させる必要がありません。案内の中で契約者がいちばん読み返すのは、この欄です。

翻訳メモリの照合は、文の完全一致で行います。 似た文に近い訳を当てると、「〜をご提出ください」と「〜のご提出は不要です」のように、1語で意味が逆になる文を取り違えます。 請求案内の定型の文は受付システムが作るので、完全一致で十分に当たります。

翻訳メモリの行は、たとえば次のような形です。

文番号日本語の文言語承認
C-104{DOC1}を、{ADDR1}へご郵送ください。vi母語話者確認済み
C-118ご提出いただいた書類の内容を確認したうえで、お支払いの可否をご連絡します。ne母語話者確認済み
C-131{DOC2}は、入院した病院の窓口で発行を依頼してください。id母語話者確認済み
X-007前回ご提出の{DOC1}には、手術名の記載がありませんでした。vi担当確認のみ(未承認)

2行目の文が、約束にしないための定型です。 「お支払いします」ではなく「お支払いの可否をご連絡します」とし、この文の訳を母語話者に確かめておきます。 最後の行のように「担当確認のみ」の文は照合に使わず、次に出たときも生成AIに送り、逆訳で確かめます。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 記号への置き換え … 契約者の氏名を {NAME}、証券番号を {POLICY}、提出先の住所を {ADDR1}、問い合わせ先の電話番号を {TEL1} に置き換えます
  2. 値の記号化 … 日付・期限・金額を {DATE1} {AMT1} のような記号にし、値は中継の処理の側で持ちます
  3. 書類名の固定 … 書類コードで引いた書類名を {DOC1} のような記号にし、訳は書類名の一覧の訳と日本語の原語で入れます
  4. 文への分割 … 案内を文に分け、1文が長すぎるもの(目安として80字を超えるもの)は、担当の補足なら担当に分けて書き直してもらいます
  5. 翻訳メモリとの照合 … 一致した文は訳を取り出し、一致しない文だけを残します
  6. 補足の言い回しの確認 … 担当の補足に「必ず」「間違いなく」のような言い回しがあれば、訳す前に画面で知らせます

3番目を軽く見ないでください。 書類名を生成AIに訳させると、言語ごとに自然な言い方に置き換わります。自然な訳ほど、日本の病院や市役所の窓口で通じません。 原語を並べるのは、契約者が窓口でその文字を見せれば頼めるようにするためです。

6番目は、日本語の段階で約束を止めるための手順です。 原文が約束になっていれば、正しく訳すほど約束が伝わります。訳す前に原文を直すほうが早く済みます。

Step5

AIに処理させる

させるのは、翻訳メモリに無かった文を訳し、その訳文を日本語に訳し戻し、使った用語を書き出すことです。

させること中身
訳す文ごとに、指定した言語へ訳す。記号はそのまま残す
用語集に従う渡した訳語を使う。使ってはいけない訳語を使わない
逆訳自分が出した訳文を、日本語へ訳し戻す
用語の書き出し文ごとに、使った用語集の用語を書き出す
訳せなかった箇所意味が2通りに取れる、または原文が足りず訳せない箇所を書き出す
させないこと理由
原文に無い説明を足す会社が案内していないことを、訳文が言ってしまう
支払の見込みを書く支払うかどうかは査定の結果で決まる
書類の要否を判断する必要書類は受付システムが決める
記号を訳す・消す値と書類名は機械の側で入れる
敬語を約束に強める「〜いたします」を「必ず〜します」にしない

2行目がいちばん起きやすい失敗です。 生成AIは、読み手に親切な訳を作ろうとして、「書類がそろえば、お支払いの手続きに進みます」のような見込みを足します。 足された文は原文に無いので、逆訳を原文と並べれば見つかります。 そのために逆訳をさせています。

Step6

指示内容を固定する

あなたは保険会社の請求案内を、外国人の契約者のために訳す担当です。
渡すのは、承認済みの訳が無かった日本語の文の一覧です。

【すること】
1. 各文を {target_language} に訳してください。
2. 訳した文を、日本語へ訳し戻してください(逆訳)。
3. 各文で使った【用語集】の用語を書き出してください。
4. 意味が2通りに取れる、または原文が足りず訳せない箇所を書き出してください。

【厳守事項】
- 原文に無い説明・理由・見込みを足さないでください。
- 保険金・給付金が支払われる、受け取れる、と読める文を足さないでください。
  原文が「可否をご連絡します」なら、可否を連絡するという意味のまま訳してください。
- 「必ず」「確実に」「保証」にあたる語は、原文にある場合だけ使ってください。
- 【用語集】の訳語を使ってください。「使ってはいけない訳語」は使わないでください。
- 「保険金」と「給付金」、「契約者」「被保険者」「受取人」は、用語集の区別のまま訳してください。
  同じ1語にまとめないでください。
- {DOC1} {DATE1} {AMT1} {ADDR1} のような記号は、訳さず、消さず、そのまま残してください。
- 逆訳は、訳文から読み取れることだけを日本語にしてください。
  原文を見て直さないでください。
- 訳せない箇所は訳さずに unclear に書いてください。推測で埋めないでください。

【訳す文】{sentences}
【用語集(この文に関係するもの)】{glossary}

「逆訳は原文を見て直さない」を明記しないと、逆訳が原文と同じ文になります。 生成AIは手元に原文があるので、訳文からではなく原文から日本語を書いてしまいます。それでは、訳文に足された見込みが逆訳に出てきません。

「保険金と給付金を同じ1語にまとめない」も、書いておかないと崩れます。 英語などでは、どちらも同じ語で自然に訳せてしまいます。用語集で語を分け、指示でも念を押します。

Step7

出力形式を固定する

次の形のJSONで受け取ります。

{
  "target_language": "vi",
  "sentences": [
    {
      "id": "S1",
      "source": "",
      "translation": "",
      "back_translation": "",
      "terms_used": [ { "term": "", "rendered_as": "" } ],
      "placeholders": [ "{DOC1}", "{DATE1}" ],
      "unclear": ""
    }
  ]
}

1つ目の理由は、文ごとに逆訳と原文を並べられることです。 確認画面では、左に原文、右に逆訳を並べ、意味のずれた文だけを色分けします。 担当はその言語を読めなくても、日本語で確かめられます。

2つ目は、placeholders で記号の取りこぼしを機械的に見つけられることです。 原文の記号の数と並びと、訳文の記号が一致しなければ、その文は送らずに担当へ返します。 記号が1つ消えれば、書類名か期限が1つ消えたことになります。

3つ目は、terms_used で用語集との照合ができることです。 rendered_as が用語集の訳語と違えば、その文を照合の結果に出します。

構造化出力では、すべてのフィールドを必須にし、additionalProperties: false を設定する必要があります。訳せない箇所が無い文も、unclear を空の文字列で返させます。

後段の照合は、次の4つを機械で行います。

照合引っかかったとき
記号の数と並びが原文と一致するか送らずに担当へ返す
用語集の訳語を使っているか、使ってはいけない訳語が無いか照合の結果に出す
逆訳に約束表現の一覧の言い回しがあり、原文に無いか送らずに担当へ返す
逆訳が原文より明らかに長い(目安として1.5倍)説明が足された疑いとして出す

3行目が、この構成の要です。 約束表現が原文に無いのに逆訳に出てきたら、訳の途中で約束が生まれたということです。 その文は担当が直すまで送れないようにします。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
請求の受付システム出力したファイルを受け取る日本語の請求案内と書類コード
SharePoint表の読み取り翻訳メモリ・用語集・書類名・約束表現
Azure OpenAIAPI呼び出し(構造化出力)訳文・逆訳・使った用語を返す
確認画面中継の処理が書き込む原文・逆訳・照合の結果を並べる
請求の記録担当が送付後に添付送った対訳の控え

翻訳メモリへの追加は、この構成からは自動で行いません。 生成AIが訳し、担当が確認して送った文は、「担当確認のみ」として控えに残るだけです。 承認済みの訳になるのは、母語話者が確かめた後です。

生成AIへは、1通の中の一致しなかった文をまとめて送ります。 文ごとに送ると前後の文脈が切れ、「それ」「こちら」が何を指すか分からなくなります。ただし、1通を超えてまとめることはしません。 別の契約者の案内が混ざらないようにするためです。

Step9

人が確認する

送付を決めるのは担当で、読む順番を決めておきます。

  1. 送れないと出た文を先に見る … 記号の取りこぼしと、逆訳に出た約束表現です。原文の補足を言い直すか、文を分けて訳し直します
  2. 用語の照合に引っかかった文を見る … 用語集の訳語に直します
  3. 逆訳と原文を並べて読む … 意味が同じかを日本語で確かめます
  4. 書類名と原語の並びを見る … 書類コードで入っているので誤りは少ないですが、書類の数が日本語の案内と合っているかを数えます
  5. 送付を決める

1番目の文を、担当が訳文の側で直すことはしません。 その言語を読めない担当が訳文を直すと、確かめようのない文が生まれます。直すのは日本語の原文で、直した原文をもう一度訳させます。

請求の受付部門の責任者は、月に1回、送った案内から1言語あたり10通を抜き取り、母語話者に読んでもらいます。 逆訳で見えなかったずれが無いかを確かめ、見つかった言い回しを用語集と約束表現の一覧に足します。

Step10

例外に対処する

起きること対応
契約者の言語が6言語に無い英語とやさしい日本語を並べて作る
書類コードが書類名の一覧に無い訳さずに止め、受付部門が一覧に足す
記号が訳文から消えた・増えた送らずに担当へ返し、訳し直す
逆訳に約束表現が出た送らずに担当へ返し、原文の補足を見直す
構造化出力が拒否・不完全で返る1回だけ再実行し、続けば担当が翻訳会社へ回す
死亡保険金の受取人が海外に住んでいる海外で取る書類は書類名の一覧に別のコードで持ち、一覧に無ければ訳さずに受付部門へ回す
担当の補足が長く、文に分けられない担当に書き直してもらう
API が応答しない確認画面に「未訳」と出し、時間をおいて再実行

6行目を軽く見ないでください。 海外に住む受取人が取る書類は、国ごとに名前も発行元も違います。生成AIに「その国でいう死亡証明書」を考えさせると、存在しない書類名が出てきます。 一覧に無い書類は、人が調べてから一覧に足します。

Step11

記録を残す

  • 日本語の請求案内と、送った対訳の控え(請求の記録に添付)
  • 生成AIへ送った文(記号に置き換えた後のもの)と、返ってきたJSON
  • 照合の結果(送れないと出た文と理由)と、担当が原文をどう直したか
  • 翻訳メモリから使った文の番号
  • 母語話者の抜き取りの結果と、用語集・約束表現の一覧への追加
  • 記号と元の値の対応表(社内にだけ置く)

3つ目が、約束表現の一覧を育てる材料になります。 どの補足の言い回しが約束に変わりやすいかが分かれば、受付システムの定型の文や担当の書き方の側を直せます。

1つ目の控えは、後から苦情が来たときの材料です。 「案内に支払われると書いてあった」という申出があったとき、送った訳文そのものと、そのときの逆訳と照合の結果が残っていれば、何が書かれていたかを母語話者に確かめられます。控えは日本語の案内と対にして、請求の記録と同じ期間残します。

04実装レベルの3段階

最小構成:案内を手で生成AIの画面に貼り、訳と逆訳を作る / 1通ごとの訳と逆訳
半自動化:上記+中継の処理が記号の置き換え・翻訳メモリの照合・API の呼び出しを行い、確認画面に並べる / 訳・逆訳・承認済みの訳の再利用
本格構成:上記+用語・記号・約束表現の照合、対訳の作成、月次の母語話者の確認候補の抽出まで / 訳から照合・対訳・翻訳メモリの育成まで

最小構成では、1通ずつ貼るので月360件には使えません。 確かめるための段階です。 半自動化で、1件20分が11分程度になります。 訳と逆訳は出ますが、記号と用語、約束表現の照合が目で残ります。本格構成で7分になり、この段階が本記事の想定です。 差が大きいのは、照合が、1文ずつ日本語の案内と見比べる手作業だからです。 半自動化の1か月で、翻訳メモリに載っていない文の多い請求の種類が分かります。 そこから母語話者の確認を始めると、本格構成に進む前に、生成AIに送る文が減り始めます。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
10 名
月間件数
360 件
1件あたり現在時間
20 分
1件あたり導入後時間
7 分
現在  360件 × 20分 ÷ 60 = 120 時間/月
導入後 360件 × 7分 ÷ 60 = 42 時間/月
月間削減時間
78h
削減率
65%
年間削減時間
936h
年間金額換算(時間単価3,000円)
281万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 外国人の契約者・被保険者が増え、入院・手術の給付金や死亡保険金の請求のたびに、日本語の請求案内を英語・中国語・ベトナム語などに訳して送っている生命保険会社・損害保険会社・共済。訳を英語のできる職員や外部の翻訳に頼っていて、同じ「診断書」「入院証明書」「受取人」の訳が担当ごとに違う場合。請求の受付システムから案内の文面を作る仕組みがあり、会社として Microsoft Azure の利用が認められている場合。
向いていない
  1. 外国人の契約者からの請求が月に数件で、本社が作った多言語の定型資料を同封するだけで足りる場合。訳文を確かめる手段(母語話者の職員、委託の校閲、逆訳の確認)を用意できず、機械の訳をそのまま送ることになる場合。電話や窓口での口頭のやり取りを通訳したい場合(本記事は郵送・メールで送る案内に限る)。なお、保険金・給付金を支払うかどうかの判断は、この構成では代替できません。

07最小構成で試す方法

  1. 先月送った請求案内から、ベトナム語とネパール語の2言語で20通ずつを選ぶ(うち数通は、母語話者が確かめた訳があるものを入れる)
  2. 契約者の氏名・証券番号・住所を、手で記号に置き換える
  3. 用語集の下書き(保険の言葉30語ほど)と、書類名の一覧の下書きを作る
  4. 社内で利用が認められた生成AIの画面に、案内1通と用語集の関係する部分を貼る
  5. 「訳文と、訳文から日本語への逆訳を出してください。原文に無い説明や支払の見込みを足さないでください。記号はそのまま残してください」と指示する
  6. 逆訳を原文と並べ、母語話者が確かめた訳がある通は訳文どうしも比べる

ここで確かめたいのは、訳の上手さではありません。 「逆訳で、足された説明や約束が見つかるか」「書類名と記号が崩れないか」の2点です。

出てきた内容判断
逆訳が原文と同じ意味で、記号も崩れない連携の仕組みづくりに進む
逆訳に原文に無い見込みが出た照合で拾える。指示を直して構成は有効
逆訳が原文とほぼ同じ文になる原文を見て逆訳している。逆訳を別の呼び出しにする
保険金と給付金が同じ語になる用語集の整備が先

3行目が出たら、逆訳を訳と別の呼び出しにしてください。 訳文だけを渡して日本語にさせれば、原文に引っ張られません。呼び出しの回数は増えますが、逆訳が確認の役に立たないよりはましです。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
訳文に支払の見込みが足される逆訳を約束表現の一覧で照合し、送れないようにする
逆訳が原文と同じ文になる逆訳で原文を見ないよう指示し、直らなければ別の呼び出しにする
書類名が窓口で通じない書類コードで引き、日本語の原語を並べる
保険金と給付金が同じ語になる用語集で語を分け、指示でも念を押す
記号が消えて期限が抜ける記号の数と並びを照合し、合わなければ送らない
原文の補足が約束になっている訳す前に、補足の言い回しを画面で知らせる
似た文に近い訳が当たる翻訳メモリは完全一致で照合する
未承認の訳が翻訳メモリに入る承認の欄を持たせ、母語話者の確認後だけ載せる
海外で取る書類の名前を作る一覧に無い書類は訳さずに止める
担当が訳文を直す直すのは日本語の原文。訳し直させる

上の2行が、この構成の失敗のほとんどです。 どちらも「訳文が親切になるほど、会社が言っていないことを言う」という同じ形をしています。逆訳が原文と別に作られているかどうかで、照合が効くかが決まります。

下から2行目は、死亡保険金の請求で必ず出てきます。 件数は少なくても、受取人が海外で取れない書類を案内すると、請求そのものが止まります。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 契約者・被保険者・受取人の氏名と住所、請求の種類、入院・手術の有無、死亡の事実、そして足りない書類の内容です。病歴にあたる内容を含む、機微な情報が中心です。

  1. 氏名・証券番号・住所を送らない … 記号に置き換え、対応表は社内にだけ置きます。 請求の種類と書類の説明だけで、訳には足ります
  2. 担当の補足に病名を書かない … 補足は「前回の診断書に手術名の記載がありませんでした」の粒度にとどめ、病名や症状は書かない運用にします
  3. データの扱いを契約の文書で確かめる … Microsoft Learn では、プロンプトと出力は他のお客様に利用されず、OpenAI に提供されず、モデルやサービスの改善に使われないとされています。一方で、不正使用の監視のためにプロンプトと出力のサンプルが人間のレビュー用に保存される場合があり、管理対象のお客様は不正使用の監視の変更を申請できるとされています。どちらで運用するかを、社内の情報管理の担当と決めてください
  4. 処理の場所を選ぶ … グローバルや DataZone のデプロイの種類を使うと、指定した地域の外で処理されることがあります。社内の規程に合わせて選んでください
  5. 支払の判断をさせない … 案内は手続きの説明であり、支払の約束ではありません。約束表現の照合は、運用が慣れても外さないでください
  6. 送付は人が決める … 確認画面を通らずに案内が送られる経路を作りません

誤りが起きた場合のリスクは、支払を約束したように読める案内が届くことと、違う書類を取りに行かせることの2つです。 前者は支払えなかったときの苦情に、後者は請求の遅れに直結します。どちらも逆訳と書類コードという、機械で照合できるところで止める設計にしています。

10まず何から始めるか

1週目:3つの一覧の下書きを作る

請求の受付部門で、用語集(保険の言葉30語ほど)・書類名の一覧(請求の多い書類20種ほど)・約束表現の一覧の下書きを作ります。書類名は、受付システムの書類コードと対応させます。

2週目:2言語・40通で試す

ベトナム語とネパール語で20通ずつ、生成AIの画面で訳と逆訳を作り、逆訳で足された説明や約束が見つかるか、書類名と記号が崩れないかを確かめます。

3週目:定型の文を翻訳メモリに入れる

受付システムが作る定型の文を一覧にし、すでに母語話者が確かめた訳があるものから翻訳メモリに入れます。「お支払いの可否をご連絡します」の訳は、最初に確かめます。

4週目:母語話者の校閲者を決める

6言語それぞれに、月に1回の抜き取りと、繰り返し使われた訳の確認を頼める人を決めます。職員でも委託でも構いません。

2か月目: 中継の処理と確認画面を作り、2言語で半自動化を回します。送れないと出た文の理由を毎週数えます。3か月目以降: 照合の仕組みと残りの4言語を足し、1件20分が何分になったかを実測します。翻訳メモリで済む文の割合が半分を超えた時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-07/最終更新:2026-10-07
確認した内容情報源確認日
構造化出力で、モデルが指定した JSON スキーマの定義に従うこと。有効な JSON は保証するがスキーマへの厳密な準拠はできなかった以前の JSON モードとの違い。Chat Completions API では response_format、Responses API では text.format にスキーマを書くこと。すべてのフィールドを必須にすること。additionalProperties: false を設定することMicrosoft Learn: Azure OpenAI で構造化出力を使用する方法2026-10-07
プロンプトと出力が他のお客様に利用されず、OpenAI に提供されず、モデルやサービスの改善に使われないこと。グローバル・DataZone 以外ではお客様が指定した地域内で処理されること。不正使用の監視でプロンプトと出力のサンプルが人間のレビュー用に保存されることがあり、管理対象のお客様は不正使用の監視の変更を申請できることMicrosoft Learn: Azure が販売する Foundry モデルのデータ、プライバシー、セキュリティ2026-10-07
保険金等支払管理態勢の着眼点として、保険金等の請求手続き等に関して十分かつ分かりやすい説明や請求漏れを未然防止するための方策を講じているか。保険契約者等に支払われる保険金等の種類等について、送付する書面等で分かりやすく案内が行われているか。保険金等の請求及び支払いにあたってセンシティブ情報を取り扱うことを踏まえた情報の管理金融庁: 保険会社向けの総合的な監督指針 II-4 業務の適切性(II-4-4-3 保険金等支払管理態勢)2026-10-07

保険金・給付金を支払うかどうか、どの書類を求めるかは、約款と社内の支払査定の基準に照らして、支払部門が判断してください。 本記事は公開仕様と金融庁の公表資料で確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

自社の業務に使えるAI活用候補を整理します

このユースケース(UC-0863)についてのご相談はこちらから。

AI活用について相談する
目次