銀行の窓口で外国人の顧客に渡す口座開設・送金・届出の案内を、行内の用語集と承認済みの訳にそろえて多言語に訳し、窓口の担当の確認に回す
窓口の担当が日本語で作った手続き案内を、行内の用語集と承認済みの訳にそろえて顧客の言語に訳します。訳文には逆訳と数字の照合結果を付け、担当が確かめてから印刷して渡します。
- 生成AI
- Azure OpenAI Service/Claude/Gemini
- 連携・自動化
- Power Automate
- 対象業界
- 保険/金融
- 対象部門
- カスタマーサポート
- 対象業務
- 内容確認・チェック/書類作成
- 主な課題
- 属人化している/書類作成に時間がかかる/確認ミスが多い
- AIで行う処理
- 翻訳
- 主な効果
- 品質標準化/対応スピード向上/工数削減
- 導入難易度
- ★★☆☆☆
- 実装レベル
- 本格構成
- 費用感
- API連携(中)
- 人間の確認
- 条件付き
01導入前 / 導入後の業務フロー
- 窓口で顧客の用件を聞き取る。日本語での会話が難しければ、窓口の翻訳機を使う
- 足りない書類、次回の来店日、送金に要る資料を、担当が日本語でメモにまとめる
- メモを翻訳アプリに1文ずつ入れ、訳文を画面で見せるか、用紙に書き写す
- 「届出印」「在留期間」「送金の目的」など、訳がよく分からない言葉は、本部の資料やほかの担当に聞いて探す
- 日付・時刻・金額・書類の名前を書き写した用紙と見比べ、渡す
- 渡した内容の控えを日本語のメモのまま残す
- 人窓口の担当が、行内の案内作成画面で用件の種類(口座開設/送金/届出/解約)と顧客の言語を選ぶ
- 人画面に出る定型の文の候補から、必要なものに印を付け、日付・時刻・書類名などの値を入れる。定型に無いことは自由記入欄に日本語で書く
- 自動送信をきっかけに中継の処理が動き、氏名・口座番号・電話番号を記号に置き換える
- 自動承認済みの訳がある文はそのまま取り出す。無い文(自由記入と、新しい組み合わせの文)だけを生成AIへ送る
- 自動生成AIが、用語集の訳語を使って訳し、逆訳と使った用語を返す
- 自動中継の処理が、原文と訳文の日付・時刻・金額・数字を照合し、用語集の訳語が使われているかを確かめる
- 人担当が、日本語の原文・逆訳・照合結果の画面を確かめる。食い違いがあれば原文を直して訳し直す
- 自動記号を元の値に戻し、訳文と日本語を左右に並べた案内を印刷用に作る
- 人担当が案内を印刷して顧客に渡し、日本語の側を指しながら説明する
- 自動渡した訳文、原文、照合結果、確認した担当を記録に残す
- 人本部の担当が、毎週、自由記入から生まれた訳のうち繰り返し使われたものを母語話者に確かめてもらい、承認済みの訳に加える
各工程の詳しい説明を読む
- 窓口で顧客の用件を聞き取る。日本語での会話が難しければ、窓口の翻訳機を使う
- 足りない書類、次回の来店日、送金に要る資料を、担当が日本語でメモにまとめる
- メモを翻訳アプリに1文ずつ入れ、訳文を画面で見せるか、用紙に書き写す
- 「届出印」「在留期間」「送金の目的」など、訳がよく分からない言葉は、本部の資料やほかの担当に聞いて探す
- 日付・時刻・金額・書類の名前を書き写した用紙と見比べ、渡す
- 渡した内容の控えを日本語のメモのまま残す
(a)1枚作るのに時間がかかる。 3番で文を区切って入れ直し、4番で言葉を探すうちに、窓口の待ち時間が延びます。混む時期(留学生の入学時期、実習生の受け入れの時期)ほど、1人に長くかかります。
(b)同じ言葉の訳が、店と担当ごとに違う。 「届出印」を「registered seal」と書く担当もいれば「stamp」と書く担当もいます。顧客が別の店に行ったとき、同じものを指していると分からなくなります。 受入企業の担当者からは、「店によって言っていることが違う」という問い合わせとして返ってきます。
(c)誤りに気づけない。 翻訳アプリの訳文で、日付の書き方が日と月で入れ替わる、「〜までに」が「〜から」になる、否定が抜ける。担当がその言語を読めないので、渡した後に顧客が間違った日に来て初めて分かります。
(d)控えが日本語のメモしか残らない。 実際に顧客に渡した訳文が残らないため、「そうは書いていなかった」と言われたときに確かめる手段がありません。
- 【人】 窓口の担当が、行内の案内作成画面で用件の種類(口座開設/送金/届出/解約)と顧客の言語を選ぶ
- 【人】 画面に出る定型の文の候補から、必要なものに印を付け、日付・時刻・書類名などの値を入れる。定型に無いことは自由記入欄に日本語で書く
- 【自動】 送信をきっかけに中継の処理が動き、氏名・口座番号・電話番号を記号に置き換える
- 【自動】 承認済みの訳がある文はそのまま取り出す。無い文(自由記入と、新しい組み合わせの文)だけを生成AIへ送る
- 【自動】 生成AIが、用語集の訳語を使って訳し、逆訳と使った用語を返す
- 【自動】 中継の処理が、原文と訳文の日付・時刻・金額・数字を照合し、用語集の訳語が使われているかを確かめる
- 【人】 担当が、日本語の原文・逆訳・照合結果の画面を確かめる。食い違いがあれば原文を直して訳し直す
- 【自動】 記号を元の値に戻し、訳文と日本語を左右に並べた案内を印刷用に作る
- 【人】 担当が案内を印刷して顧客に渡し、日本語の側を指しながら説明する
- 【自動】 渡した訳文、原文、照合結果、確認した担当を記録に残す
- 【人】 本部の担当が、毎週、自由記入から生まれた訳のうち繰り返し使われたものを母語話者に確かめてもらい、承認済みの訳に加える
4番目が、この設計の要です。 承認済みの訳が使える文には生成AIを使いません。月がたつほど承認済みの訳が増え、生成AIに送る文が減っていきます。 確かめる量もそれだけ減ります。
7番目で担当が見るのは日本語だけです。 訳文そのものを読めなくても、逆訳が原文と同じ意味になっているか、数字が一致しているかは判断できます。
11番目を止めないことが、品質を保つ条件です。 自由記入の訳は担当が逆訳で確かめただけのものです。繰り返し使う文は、母語話者の確認を経た訳に置き換えていきます。
02今回想定するシステム構成
【入力】窓口の担当が案内作成画面で選んだ定型の文・入れた値・自由記入 ▼【トリガー】画面の送信 中継の処理(Azure Functions) ├── 氏名・口座番号・電話番号を記号に置き換える ├── 承認済みの訳(翻訳メモリ)を引く ── 一致した文はそのまま使う ├── 一致しない文だけを集め、用語集から関係する訳語を引く ▼ Azure OpenAI(Microsoft Foundry。構造化出力) │ 訳文/逆訳/使った用語/訳せなかった箇所 ▼ 中継の処理 ── 数字・日付・時刻の照合、用語の照合、記号を元に戻す ▼ 【人】窓口の担当が日本語の画面(原文・逆訳・照合結果)を確認 ▼ 左右対訳の案内(PDF)を印刷して渡す ── 控えを記録に保存 ▼ 【人】本部が繰り返し使われた訳を母語話者に確かめ、翻訳メモリに加える
| 役割 | 想定する製品 | 代替候補 |
|---|---|---|
| 生成AI | Azure OpenAI(Microsoft Foundry) | Claude API、Gemini API |
| 連携 | Azure Functions(記号の置き換え、翻訳メモリの照合、数字の照合、PDFの作成) | Power Automate |
| 保管 | SharePoint(用語集・翻訳メモリ・渡した案内の控え) | 行内のファイルサーバー |
| 画面 | 行内の案内作成画面(社内のWebアプリ) | 営業店端末の既存の画面に組み込む |
| 校閲 | 母語話者の校閲者(職員または委託) | 外国人の受入企業・大学の協力者 |
翻訳メモリは、1行が「日本語の文・言語・訳文・承認日・承認者」の表です。 最初に、本部が作った6言語の定型資料から、日本語と訳文の組を文ごとに切り出して入れます。これが、最初の月から生成AIに送る文を減らす土台になります。
用語集は、1行が「日本語の用語・言語・訳語・使ってはいけない訳語・注記」の表です。 「届出印」「在留カード」「在留期間」「口座振替」「被仕向送金」のように、窓口で繰り返し出てくる言葉を、本部が1つの訳語に決めます。 使ってはいけない訳語の列を持たせるのは、翻訳アプリでよく出る別の訳を、照合のときに見つけるためです。
生成AIは、Azure OpenAI の構造化出力で呼びます。 Microsoft Learn では、構造化出力を使うとモデルは推論 API 呼び出しの一部として指定した JSON スキーマの定義に従うとされ、有効な JSON は保証するがスキーマへの厳密な準拠はできなかった以前の JSON モードとは違うと説明されています。Chat Completions API では response_format に、Responses API では text.format にスキーマを書きます。文ごとの訳文・逆訳・使った用語を、決まった形で受け取るために使います。
金融庁は、外国人の顧客への対応で金融機関が留意すべき事項を公表しています。 令和8年7月に改訂された「外国人顧客対応にかかる留意事項」では、営業店の取組として、口座開設等の手続の際に必要な本人確認書類や手続内容、その理由等を分かりやすく説明するための取組(顧客説明資料の多言語化、コミュニケーションボードや翻訳機の設置等)を行っているかが挙げられています。この構成は、その「分かりやすく説明する」の中の、顧客ごとに中身が変わる部分を受け持ちます。
03どうやって実装するのか
処理の起点を決める
窓口の担当が、案内作成画面で「訳す」を押したときに動きます。 窓口で顧客を待たせている時間に動かすので、夜間にまとめて訳す設計にはしません。 1件ずつ、その場で返します。
画面で選ぶのは、用件の種類(口座開設/海外送金/在留期間の届出/住所・電話の変更/解約)と、顧客の言語です。用件の種類ごとに、出てくる定型の文の候補が変わります。言語は6言語から選び、それ以外の言語のときは英語とやさしい日本語の2つを並べて作ります。
本部の側では、毎週月曜の朝に、前週の自由記入から生まれた訳を集める処理が動きます。 同じ日本語の文が3回以上使われたものを一覧にし、母語話者の確認に回す候補にします。
入力データを集める
| データ | 中身 | 取得元 |
|---|---|---|
| 案内の原文 | 選んだ定型の文の番号、入れた値(日付・時刻・書類名・金額)、自由記入の日本語 | 案内作成画面 |
| 顧客の言語 | 6言語のいずれか | 案内作成画面 |
| 翻訳メモリ | 日本語の文と、言語ごとの承認済みの訳文 | SharePoint の表 |
| 用語集 | 用語、言語ごとの訳語、使ってはいけない訳語、注記 | SharePoint の表 |
| 書類名の一覧 | 「在留カード」「住民票の写し」「在籍証明書」など、案内に出てくる書類の正式な呼び方と訳 | 本部が用意する一覧 |
質を決めるのは、下の3つです。 翻訳メモリが薄いと、ほとんどの文が生成AIに回り、確かめる量が減りません。用語集が無いと、同じ「届出印」が案内ごとに違う訳になります。 書類名の一覧が無いと、「住民票」と「住民票の写し」と「住民票記載事項証明書」が混ざります。顧客が持ってくる書類を間違えるのは、この混ざり方が原因になることが多いからです。
顧客の氏名・口座番号・電話番号は、入力として受け取りますが、生成AIには渡しません。 案内には「○○様」の宛名と、口座番号の下4桁を入れることがありますが、これらは前処理で記号に置き換え、印刷の直前に元に戻します。
データの取得方法を決める
| 取るもの | どこから | 何に使うか |
|---|---|---|
| 案内の原文と言語 | 案内作成画面から中継の処理へ送る | 訳す対象 |
| 承認済みの訳 | SharePoint の翻訳メモリの表を、日本語の文と言語で引く | 一致した文はそのまま使う |
| 関係する訳語 | SharePoint の用語集の表を、原文に出てくる用語で引く | 生成AIへの指示と、訳した後の照合 |
| 書類名の訳 | 本部の書類名の一覧 | 書類名だけは一覧の訳で置き換える |
翻訳メモリの照合は、文の完全一致で行います。 似た文に近い訳を当てる仕組みにすると、「〜をお持ちください」と「〜はお持ちにならないでください」のような、1語で意味が逆になる文を取り違えます。 定型の文は番号で選ぶので、完全一致で十分に当たります。
定型の文に値を入れたものは、値の部分を記号にしてから照合します。 「{日付}の{時刻}にお越しください」という形で翻訳メモリに入れておけば、日付が変わるたびに生成AIに送る必要がありません。
翻訳メモリの行は、たとえば次のような形になります。
| 文番号 | 日本語の文 | 言語 | 承認 |
|---|---|---|---|
| K-012 | {DOC1}の両面のコピーをお持ちください。 | vi | 母語話者確認済み |
| K-031 | {DATE1}の{TIME1}に、この店の窓口へお越しください。 | ne | 母語話者確認済み |
| S-007 | 送金の目的が分かる資料({DOC2}など)をお持ちください。 | id | 母語話者確認済み |
| F-104 | 会社の担当の方と一緒にお越しください。 | vi | 担当確認のみ(未承認) |
最後の行のように、承認の欄が「担当確認のみ」の文は照合に使いません。 控えには残しますが、次に同じ文が出たときも生成AIに送り、母語話者の確認が済むまでは毎回逆訳で確かめます。
用語集は、原文に出てくる用語だけを引いて渡します。 用語集を丸ごと渡すと指示が長くなり、関係の無い訳語に引っ張られます。
AIへ渡す前に整形する
- 記号への置き換え … 氏名を
{NAME}、口座番号を{ACCT}、電話番号を{TEL}に置き換えます - 値の記号化 … 日付・時刻・金額を
{DATE1}{TIME1}{AMT1}のような記号にし、値は中継の処理の側で持ちます - 書類名の固定 … 書類名の一覧にある語を
{DOC3}のような記号にし、訳は一覧の訳で入れます - 文への分割 … 自由記入を文に分け、1文が長すぎるもの(目安として80字を超えるもの)は担当に分けて書き直してもらいます
- 翻訳メモリとの照合 … 一致した文は訳を取り出し、一致しない文だけを残します
- やさしい日本語への寄せ … 自由記入に「ご査収」「ご足労」のような言い回しがあれば、画面で言い換えの候補を出します
2番目と3番目を軽く見ないでください。 日付を生成AIに訳させると、言語によって日と月の並びが変わり、渡した後に顧客が別の日に来ます。 値を記号のまま訳させ、元に戻すのを機械の側で行えば、値そのものは生成AIを通りません。
4番目の80字は、逆訳で確かめられる長さの目安です。 長い1文は、訳すときに主語や否定がずれやすく、逆訳を読んでもどこがずれたか分かりにくくなります。
AIに処理させる
させるのは、翻訳メモリに無かった文を訳し、その訳文を日本語に訳し戻し、使った用語を書き出すことです。
| させること | 中身 |
|---|---|
| 訳す | 文ごとに、指定した言語へ訳す。記号はそのまま残す |
| 用語集に従う | 渡した訳語を使う。使ってはいけない訳語を使わない |
| 逆訳 | 自分が出した訳文を、日本語へ訳し戻す |
| 用語の書き出し | 文ごとに、使った用語集の用語を書き出す |
| 訳せなかった箇所 | 意味が2通りに取れる、または原文が足りず訳せない箇所を書き出す |
| させないこと | 理由 |
|---|---|
| 原文に無い説明を足す | 窓口が説明していないことを、案内が言ってしまう |
| 手続きの要否を判断する | 書類が足りるか、送金を受け付けるかは窓口と本部の判断 |
| 記号を訳す・消す | 値と書類名は機械の側で入れる |
| 敬語を強める・丁寧にしすぎる | 長くなり、逆訳で意味が確かめにくくなる |
| 用語集に無い用語の訳を決める | 新しい用語は本部が決める |
1行目がいちばん起きやすい失敗です。 「在留カードをお持ちください」を訳すときに、「在留カードは日本に住む外国人に交付されるカードです」と親切に足してしまう。一見よさそうですが、窓口が説明していないことを書類が言い始めると、後で食い違います。 足りない説明は、原文の側で足します。
2行目も同じ理由です。 「この書類で足ります」「この送金は受け付けられます」のような言い切りを、原文に無いのに訳文に入れてはいけません。
指示内容を固定する
あなたは銀行の窓口で外国人のお客さまに渡す手続き案内を訳す担当です。
渡された日本語の文を、指定された言語に訳してください。
【守ること】
- 原文に書かれていることだけを訳してください。説明や注意を足さないでください。
- {DATE1} {TIME1} {AMT1} {DOC3} {NAME} のような波かっこの記号は、
訳さず、そのままの形で訳文に残してください。消したり、増やしたりしないでください。
- 「用語集」にある用語は、指定された訳語を使ってください。
「使ってはいけない訳語」は使わないでください。
- 否定(〜しないでください、〜はいりません)と期限(〜まで、〜から)は、
原文と同じ向きで訳してください。
- 手続きが受け付けられるか、書類が足りるかを判断する言葉を足さないでください。
- 文はできるだけ短く、やさしい言葉にしてください。
【逆訳】
- 自分が出した訳文を、日本語に訳し戻してください。
- 原文を見て書き直さず、訳文だけを見て訳し戻してください。
【訳せないとき】
- 原文の意味が2通りに取れる、または情報が足りず訳せない場合は、
訳文を空にし、unclear に理由を日本語で書いてください。推測で訳さないでください。
【言語】{target_language}
【用語集(この案内に出てくるものだけ)】{glossary}
【訳す文(文番号付き)】{segments}
「説明を足さない」を最初に書くのは、ここが一番破られやすいからです。 銀行の案内という状況を渡すと、生成AIは顧客のためを思って補足を足します。禁じる理由は、窓口の説明と書類の説明がずれることです。
「原文を見て書き直さず」を逆訳に書くのも同じ理由です。 原文を見ながら訳し戻すと、訳文がずれていても、原文どおりの日本語が返ってきて、ずれが消えます。 逆訳は、訳文だけを見て作らせます。
出力形式を固定する
次の形のJSONで受け取ります。
{
"target_language": "vi",
"segments": [
{
"segment_id": "s3",
"translation": "",
"back_translation": "",
"terms_used": ["届出印"],
"placeholders": ["{DATE1}", "{TIME1}"],
"unclear": ""
}
]
}
segments には、送った文の数だけ要素を並べます。placeholders は訳文に残した記号の一覧、unclear は訳せなかったときの理由です。
1つ目の理由は、記号の照合を機械でできることです。 原文の記号と placeholders と訳文の中の記号の3つを突き合わせ、1つでも数が合わなければ担当の画面に赤で出します。 日付や書類名が消えた訳文は、この時点で止まります。
2つ目は、back_translation を文ごとに並べられることです。 原文と逆訳を左右に並べ、文の単位で意味が同じかを担当が見比べられます。 全文の逆訳を1つの段落で返されると、どこがずれたかを探すのに時間がかかります。
3つ目は、terms_used で用語集の照合ができることです。 原文に「届出印」があるのに terms_used に無い、または訳文に使ってはいけない訳語が入っている場合は、照合の結果として担当に知らせます。
構造化出力のスキーマでは、すべてのフィールドを必須にし、オブジェクトには additionalProperties: false を付けます。 Microsoft Learn では、文字列の pattern・minLength、配列の minItems などはサポートされないキーワードとされています。記号の数や文の長さの確認は、スキーマに書かず中継の処理で行います。 スキーマに書けるのは最大100個のオブジェクト プロパティ、5レベルの入れ子までとされているため、1回に送る文の数は20文までに区切ります。
システムへ連携する
| つなぎ先 | 方式 | 内容 |
|---|---|---|
| 案内作成画面 | 中継の処理への送信 | 原文・言語・値を送り、照合結果と訳文を受け取る |
| SharePoint | 表の読み取り | 翻訳メモリと用語集、書類名の一覧を引く |
| Azure OpenAI | API呼び出し(構造化出力) | 翻訳メモリに無い文の訳、逆訳、使った用語 |
| SharePoint | 表への追記 | 渡した案内の控えと、照合結果、確認した担当 |
| 印刷 | PDFの作成 | 日本語と訳文を左右に並べた案内 |
営業店端末の顧客の記録には書き込みません。 この構成が作るのは渡す案内と、その控えまでです。顧客の届出の内容を更新するのは、従来どおり事務の手続きの側です。
翻訳メモリへの追加は、本部の担当だけが行います。 窓口の担当が確かめた訳は「担当確認済み」として控えに残りますが、翻訳メモリには入りません。 入れるのは、母語話者の確認を経たものだけです。
人が確認する
窓口の担当が、渡す前に必ず確かめます。 画面には、文ごとに「日本語の原文/逆訳/照合の結果」が並び、翻訳メモリから取った文には「承認済み」の印が付きます。
- 照合で赤が出た文を先に見る … 記号の数の不一致、使ってはいけない訳語、
unclearが空でないもの。赤が1つでもあれば、原文を直して訳し直します - 生成AIが訳した文の逆訳を読む … 原文と同じ意味か、否定と期限の向きが同じかを見ます
- 値を確かめる … 印刷の見本で、日付・時刻・書類名が入った箇所を目で見ます
- 顧客の前で、日本語の側を指して説明する … 案内は左右対訳なので、担当は日本語の側を指しながら説明できます
担当の画面は、次のような並びにします。
【案内の確認】言語:ベトナム語 用件:口座開設(書類の不足)
文 日本語の原文 逆訳 照合
s1 承認済み(K-012) ― ―
s2 承認済み(K-031) ― ―
s3 寮の電話番号でも登録できます。 寮の電話番号で登録することができます。 OK
s4 {DOC4}は来週でも間に合います。 {DOC4}は来週までに必要です。 OK
4行目のような食い違いが、逆訳で見つけたい誤りの典型です。 「来週でも間に合う」と「来週までに必要」は、顧客の行動を変えます。記号も用語も合っているので、照合の欄は OK になります。意味の違いに気づけるのは、逆訳を読む担当だけです。
2番目で「承認済み」の文は読み飛ばしてかまいません。 確かめるのは生成AIが訳した文だけです。導入から数か月たつと、1枚の案内で生成AIが訳す文は自由記入の1〜2文になる想定です。
本部の担当は、毎週、母語話者の確認に回す候補を選びます。 繰り返し使われた自由記入の文と、窓口の担当が逆訳で「意味が違う」と直した文を優先します。
例外に対処する
| 起きること | 対応 |
|---|---|
| 記号の数が合わない | 担当の画面に赤で出し、印刷させない。原文を短く分けて訳し直す |
unclear が返る | 理由を担当に見せ、原文を書き直してもらう |
| 使ってはいけない訳語が入る | 照合で赤を出し、用語集の訳語に差し替えて訳し直す |
| 6言語以外の言語 | 英語とやさしい日本語を並べて作る。本部に言語の追加を申し出る |
| 用語集に無い用語が出る | 訳文には生成AIの訳を使い、本部の「用語の追加候補」に記録する |
| 生成AIが応答しない | 翻訳メモリにある文だけで案内を作り、自由記入は窓口の翻訳機で補う |
| 逆訳が原文と違う意味になる | 担当が原文を書き直す。2回直しても合わなければ、その文は渡さない |
| 顧客が案内の内容に疑問を出す | 控えに残した訳文と原文を出して確かめる |
7行目の「その文は渡さない」を決めておくことが大事です。 窓口は混んでいて、合わない訳でも渡したくなります。誤った案内を渡すより、その文だけを翻訳機で口頭で伝え、案内からは外すほうが安全です。 外した文は控えに「口頭で説明」と残し、本部が翻訳メモリに入れる候補として拾います。
記録を残す
- 渡した案内のPDF(日本語と訳文の左右対訳)と、渡した日時・店・担当
- 文ごとの原文、訳文、逆訳、翻訳メモリから取ったか生成AIが訳したかの区別
- 照合の結果(記号、用語、
unclear)と、担当が直した記録 - そのとき使った用語集と翻訳メモリの版
- 生成AIへ送った文(記号に置き換えた後のもの)と、返ってきたJSON
4つ目で版を残すのは、用語集が後から変わるためです。 「届出印」の訳語を変えた後に過去の案内を見返すと、当時は正しかった訳が、今の基準では誤りに見えます。 版が残っていれば、どちらの基準で作ったかが分かります。
控えは、顧客との食い違いが起きたときの唯一の手がかりです。 渡した訳文そのものが残っていなければ、何を伝えたかを確かめられません。
04実装レベルの3段階
最小構成は、窓口では使えません。 1件ずつ貼り付けるので、顧客を待たせる時間がむしろ延びます。訳し方を確かめるための段階です。 半自動化で、1件15分が9分程度になります。 訳と照合は自動になりますが、すべての文が生成AIを通るので、担当はすべての文の逆訳を読むことになります。本格構成で翻訳メモリが効き始めると、読む文が減って6分になり、この段階が本記事の想定です。 段階を飛ばさないでください。 半自動化を1か月回すと、どの文が繰り返し使われているかが控えから分かります。それを先に翻訳メモリに入れてから本格構成に進むと、最初の月から読む量が減ります。
05工数削減シミュレーション
導入後 480件 × 6分 ÷ 60 = 48 時間/月
自社条件で導入効果を整理したい方へ
このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。
06向いている企業・向いていない企業
- 技能実習生・留学生・特定技能の外国人が多い地域に営業店を持ち、口座開設・海外送金・在留期間の届出で外国人の顧客が毎日来店する地域銀行・信用金庫。窓口の担当が翻訳アプリと手書きで案内を作っていて、同じ「届出印」「在留期間」の訳が店や担当ごとに違う場合。本部に多言語の説明資料と用語集があり、行内で Microsoft Azure の利用が認められている場合。
- 外国人の来店が月に数件で、本部が作った多言語の定型資料を渡すだけで足りる場合。訳文を確かめる手段(母語話者の職員、委託の校閲、逆訳の確認)を用意できず、機械の訳をそのまま渡すことになる場合。窓口での口頭のやり取りそのものを通訳したい場合(本記事は紙またはPDFで渡す案内に限る)。なお、口座開設を受け付けるか、送金に追加資料を求めるかの判断は、この構成では代替できません。
07最小構成で試す方法
- 重点店1か店で、先月渡した案内のメモから20件を選ぶ(うち数件は、顧客が別の日に来た・書類を間違えたなど、伝わらなかったと分かっているものを入れる)
- 本部の6言語の定型資料から、よく使う文を30文ほど拾い、日本語と訳文の組の表にする
- 「届出印」「在留カード」「在留期間」など、よく出る用語を20語ほど選び、本部が訳語を1つに決める
- 手元のAIサービスの画面に、20件の日本語の案内と用語の表を貼り、「用語の表どおりに○○語に訳し、訳文を日本語に訳し戻してください。説明を足さないでください。日付と書類名はそのまま残してください」と指示する
- 返ってきた逆訳を、元の日本語の案内と見比べる。可能なら、その言語を話す職員か協力者に訳文を見てもらう
この段階では、顧客の氏名や口座番号を入れないでください。 試すのは訳し方だけです。
| 出てきた内容 | 判断 |
|---|---|
| 逆訳が原文と同じ意味で、用語も表どおり | 中継の処理と翻訳メモリの照合に進む |
| 説明が足されている | 指示の書き方で直る。構成は有効 |
| 日付や書類名が別の書き方になる | 記号に置き換える前処理が要る。 第7章の前処理の2番目と3番目を先に作る |
3行目は、ほぼ確実に出ます。 失敗ではなく、値を機械の側で持つ理由が、自分たちの案内で確かめられたということです。
08実装時につまずきやすいポイント
| 問題 | 対策 |
|---|---|
| 生成AIが説明を足す | 「原文に無いことを足さない」を指示の最初に書く。 足りない説明は原文に足す |
| 日付の書き方が言語で変わる | 値を記号にして訳させ、機械の側で戻す |
| 書類名の訳が揺れる | 書類名の一覧を作り、記号で固定する |
| 逆訳が原文に引っ張られる | 訳文だけを見て訳し戻すよう指示する |
| 翻訳メモリを似た文で当てて逆の意味になる | 完全一致で照合する |
| 用語集が丸ごと渡されて長くなる | 原文に出てくる用語だけを引いて渡す |
| 担当がすべての文を読んで時間が減らない | 「承認済み」の印を出し、生成AIが訳した文だけを読む |
| 担当が確かめた訳がそのまま翻訳メモリに入る | 母語話者の確認を経たものだけを入れる |
| 氏名や口座番号が生成AIに渡る | 前処理で記号に置き換え、送った文の控えで確かめる |
| 6言語以外の顧客が来る | 英語とやさしい日本語を並べる。言語の追加は本部が決める |
| 自由記入の文が長すぎる | 80字を目安に分けて書き直してもらう |
| 誤った訳を渡してしまう | 2回直しても合わない文は渡さない、と決めておく |
上の4行が、この構成の失敗のほとんどです。 どれも「訳としては自然だが、窓口の説明とずれる」という同じ形をしています。値と書類名を機械の側に置き、説明を足させないことで、ずれる余地を小さくします。
09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点
この構成で扱うデータ: 顧客の氏名、口座番号、電話番号、在留資格や在留期間に関する事項、送金の目的と送金先の国、勤務先や学校の名前です。
- 生成AIに渡すのは、記号に置き換えた後の文だけにする … 氏名・口座番号・電話番号は前処理で記号にし、送った文の控えを残して、置き換えが漏れていないかを後から確かめられるようにします
- 渡したデータの扱いを確かめておく … Microsoft Learn では、Azure OpenAI を含む Azure が販売するモデルについて、プロンプトと出力は他の顧客に利用されず、OpenAI に提供されず、モデルの改善に使われないとされています。一方で、不正使用の監視のために、検知された場合にプロンプトと出力のサンプルが人間のレビュー用に保存されることがあるとされ、管理対象の顧客は不正使用の監視の変更を申請できると書かれています。行内の規程に照らして、申請の要否を情報セキュリティの担当と決めてください
- 処理する場所を選ぶ … プロンプトと応答は、Global または DataZone のデプロイの種類を使わない限り、顧客が指定した地域内で処理されるとされています。どのデプロイの種類を使うかを、導入前に決めます
- 手続きの判断を訳文に入れさせない … 口座開設を受け付けるか、送金に追加資料を求めるかは、窓口と本部が法令と行内の規程に照らして決めることです。金融庁の留意事項は、合理的な理由なく口座開設・維持の謝絶等を行っていないか、外国送金で追加の資料提出や申告が必要となる旨を分かりやすく説明しているかを挙げています。 案内は判断を伝える道具であって、判断を作る道具ではありません
- 案内で伝えるべき注意を定型の文に入れておく … 同じ留意事項は、口座開設の際に口座売買が禁止されていることや在留期間の更新等の際に必要とされる手続、帰国時の口座閉鎖手続等を分かりやすく説明しているかを挙げています。これらは自由記入に任せず、母語話者が確かめた定型の文として翻訳メモリに入れておきます
- 控えの保存期間を決める … 渡した案内の控えには個人の情報が入ります。行内の文書の保存期間の規程に合わせて、消す時期を決めます
誤りが起きた場合のリスクは、誤った日付や書類を伝えて顧客に無駄足を踏ませることと、窓口が言っていないことを案内が言ってしまうことの2つです。 前者は値を記号で持つことで、後者は説明を足させないことで防ぎます。どちらも、訳の上手さではなく設計で守ります。
10まず何から始めるか
1週目:用語集を作る
本部の外国人顧客対応の担当が、窓口でよく出る用語を30語ほど選び、6言語の訳語を1つずつ決めます。 本部の定型資料ですでに使っている訳があれば、それを採ります。使ってはいけない訳語の列も、この時点で埋めます。
2週目:20件で試す
重点店1か店の先月の案内のメモから20件を選び、手元のAIサービスで訳と逆訳を作らせます。説明が足されていないか、日付と書類名が崩れていないかを最優先で見ます。
3週目:定型の文を表にする
本部の6言語の定型資料から、よく使う文を100文ほど、日本語と訳文の組の表にします。 値の入る箇所は記号にしておきます。これが翻訳メモリの最初の版です。
4週目:記号の置き換えと照合を作る
中継の処理で、氏名・口座番号・日付・書類名を記号にし、訳文の記号の数を照合するところまで作ります。この時点では、窓口では使わず、本部の担当が控えの案内で試します。
2か月目: 重点店2か店で、案内作成画面から使い始めます。照合で赤が出た件数と、担当が逆訳で直した件数を毎週数えます。3か月目以降: 母語話者の確認の候補を毎週出し、翻訳メモリに加えていきます。1件15分が何分になったかを実測し、生成AIに送る文が1件あたり1〜2文まで減った時点で、ほかの重点店に広げます。
11関連ユースケース
12この仕組みを理解するための記事
13技術仕様の確認日・参考情報
| 確認した内容 | 情報源 | 確認日 |
|---|---|---|
構造化出力で、モデルが指定した JSON スキーマの定義に従うこと。以前の JSON モードとの違い。Chat Completions API では response_format、Responses API では text.format にスキーマを書くこと。すべてのフィールドを必須にすること。additionalProperties: false が必要なこと。最大100個のオブジェクト プロパティ、5レベルの入れ子まで。文字列の pattern・minLength、配列の minItems などがサポートされないこと | Microsoft Learn: Azure OpenAI で構造化出力を使用する方法 | 2026-10-07 |
| プロンプトと出力が他の顧客に利用されず、OpenAI に提供されず、モデルの改善に使われないこと。Global・DataZone 以外では指定した地域内で処理されること。不正使用の監視でサンプルが人間のレビュー用に保存されることがあり、変更された不正使用の監視を申請できること | Microsoft Learn: Azure が販売する Foundry モデルのデータ、プライバシー、セキュリティ | 2026-10-07 |
| 金融庁が外国人の預貯金口座・送金利用のパンフレットを15言語に翻訳して公表していること。外国人顧客対応にかかる留意事項と取組事例を令和8年7月に改訂したこと | 金融庁: 外国人の受入れ・共生に関する金融関連施策について | 2026-10-07 |
| 営業店で、必要な本人確認書類や手続内容、その理由等を分かりやすく説明するための取組(顧客説明資料の多言語化、翻訳機の設置等)を行っているか。合理的な理由なく口座開設・維持の謝絶等を行っていないか。口座売買の禁止、在留期間の更新等の際の手続、帰国時の口座閉鎖手続等の説明。外国送金で追加の資料提出や申告が必要となる旨の説明 | 金融庁: 外国人顧客対応にかかる留意事項(令和8年7月) | 2026-10-07 |
| 口座開設申込書の記入例や必要書類・注意点の説明資料を多言語で作成している事例。在留期間の確認依頼通知で、外国人顧客の9割の使用言語をカバーできる7言語で注意書きを記載している事例 | 金融庁: 外国人顧客対応にかかる取組事例(令和8年7月) | 2026-10-07 |
手続きを受け付けるか、どの書類を求めるかは、法令と行内の規程に照らして、窓口と本部で判断してください。 本記事は公開仕様と金融庁の公表資料で確認できた範囲だけを扱っています。
実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。
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