Media > AI活用ユースケース > 研究開発 > 研究者・実験担当から出る「この試薬はどう扱うか」「この実験に届出は要るか」の質問に、社内の実験安全規程・化学物質の取扱い規程・設備の使用手順を根拠にチャットで答え、判断の要るものを安全管理の担当へ回す

研究者・実験担当から出る「この試薬はどう扱うか」「この実験に届出は要るか」の質問に、社内の実験安全規程・化学物質の取扱い規程・設備の使用手順を根拠にチャットで答え、判断の要るものを安全管理の担当へ回す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

研究者や実験担当が「この試薬はどう扱うか」「この実験に社内の届出は要るか」とチャットで聞くと、実験安全規程・化学物質の取扱い規程・設備の使用手順から該当箇所を探し、章と表の位置付きで答えます。判断の要る質問は安全管理の担当へ回します。

サマリー
生成AI
Gemini
AIサービス
Azure AI/Google Vertex AI/OpenSearch
連携・自動化
Python
対象業界
医療/教育/製造
対象部門
研究開発
対象業務
問い合わせ対応/情報検索
主な課題
判断に時間がかかる/問い合わせが多い/情報が見つからない
AIで行う処理
対話
主な効果
判断支援/対応スピード向上/工数削減/教育コスト削減
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
本格構成
費用感
RAG・個別開発(大)
人間の確認
条件付き
現在工数
60h/月
AI導入後
18h/月
想定削減
70%
年間削減
504h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 研究者が、試薬の名前や設備の名前と、したいことを社内のチャットで安全管理の担当に送る
  2. 担当者が、どの研究所の、どの実験室の話かを確かめる。書かれていなければ聞き返す
  3. 文書管理の仕組みで、関係する規程を開き、該当する章と表を探す
  4. 化学物質の区分を確かめるために、試薬の台帳とSDSを見る
  5. 規程の該当箇所を引用して返す。規程に無いもの、判断が要るものは、化学物質管理者が受ける
導入後(After)
  1. 人研究者がチャットのボットを開き、研究所を選ぶ
  2. 人試薬や設備の名前と、したいことを書いて質問する
  3. 自動中継プログラムが、緊急の連絡と、担当へ回す規則に当たるかを先に見る
  4. 自動緊急の連絡なら、規程に定めた緊急時の連絡先と手順の定型文だけを返し、安全管理の担当に通知する
  5. 自動担当へ回す規則に当たらなければ、検索基盤が絞った規程から根拠を探し、扱い方と保護具の一覧を作る
  6. 自動根拠が見つからない、根拠が弱い、のどちらかなら答えずに担当へ回す
  7. 人研究者が、返ってきた規程の箇所を読み、実験の準備を進める
  8. 人安全管理の担当が、回ってきた質問を判断し、必要ならリスクアセスメントを行う
各工程の詳しい説明を読む
  1. 研究者が、試薬の名前や設備の名前と、したいことを社内のチャットで安全管理の担当に送る
  2. 担当者が、どの研究所の、どの実験室の話かを確かめる。書かれていなければ聞き返す
  3. 文書管理の仕組みで、関係する規程を開き、該当する章と表を探す
  4. 化学物質の区分を確かめるために、試薬の台帳とSDSを見る
  5. 規程の該当箇所を引用して返す。規程に無いもの、判断が要るものは、化学物質管理者が受ける

(a)規程が3種類に分かれている。 「この溶媒をドラフトで加熱する」という質問には、化学物質の取扱い規程の保護具の表と、ドラフトの使用手順の両方が関わります。担当者は2つの文書を行き来して答えます。

(b)表が探せない。 保護具の区分は、取扱い規程の別表にあります。文書の検索で「手袋」と探すと、本文の注意書きが先に出て、別表にたどり着くまでに時間がかかります。

(c)古い版で答える。 研究者が手元に保存した規程のPDFが古い版のことがあります。研究者が「規程にはこう書いてあった」と言うとき、どの版かを確かめる手間がかかります。

(d)担当者の手が質問で埋まる。 化学物質管理者は、リスクアセスメントと、新しい物質の扱いの判断が本来の仕事です。規程に書いてあることを引く質問に時間を取られ、本来の仕事が後回しになります。

  1. 【人】 研究者がチャットのボットを開き、研究所を選ぶ
  2. 【人】 試薬や設備の名前と、したいことを書いて質問する
  3. 【自動】 中継プログラムが、緊急の連絡と、担当へ回す規則に当たるかを先に見る
  4. 【自動】 緊急の連絡なら、規程に定めた緊急時の連絡先と手順の定型文だけを返し、安全管理の担当に通知する
  5. 【自動】 担当へ回す規則に当たらなければ、検索基盤が絞った規程から根拠を探し、扱い方と保護具の一覧を作る
  6. 【自動】 根拠が見つからない、根拠が弱い、のどちらかなら答えずに担当へ回す
  7. 【人】 研究者が、返ってきた規程の箇所を読み、実験の準備を進める
  8. 【人】 安全管理の担当が、回ってきた質問を判断し、必要ならリスクアセスメントを行う

3番目と4番目が、この設計の分かれ目です。 「試薬が手にかかった」「ドラフトから臭いがする」といった連絡に、生成した答えを返してはいけません。 緊急の言葉に当たったら、検索も生成もせず、規程に定めた定型文と連絡先だけを返します。

8番目は、安全管理の担当の本来の仕事です。 このチャットが減らすのは、規程を引く時間です。新しい物質や操作を認めるかを決める時間は、減らしません。

02今回想定するシステム構成

構成図
社内チャットのボット(研究者・実験担当が使う)
   │  ① 研究所を選ぶ  ② 質問を書く
   ▼
中継プログラム(Cloud Run)
   ├──▶ 緊急の言葉 → 定型文と連絡先だけを返し、担当に通知
   ├──▶ 担当へ回す規則(新しい物質・規程に無い操作・届出の要否の判断)
   ▼  当たらない
Vertex AI Search(Agent Search)── answer メソッド
   │   データストア:レイアウト パーサー+チャンク分割(見出し付き、表の注記)
   │   絞り込み:site・doc_type・status
   ▼
中継プログラム ── 根拠が弱いなら担当へ
   ▼
チャットに返す / 会話と引き継ぎの記録を保管・集計
役割想定する製品代替候補
検索基盤Vertex AI Search(Agent Search)の answer メソッドと、レイアウト パーサーを使うデータストアAzure AI Search、Amazon OpenSearch Service
生成AIGemini(answer メソッドの回答の生成に使うモデル)─
連携中継プログラム(Python。Cloud Run で動かし、チャットと検索基盤と受付の一覧をつなぐ)Node.js で同じものを書く
集計BigQuery(会話と引き継ぎの記録の保管と、月次の集計)Google スプレッドシート
保管Cloud Storage(規程の正本の写しとメタデータ)─

試薬の購入と管理の台帳には、つなぎません。 台帳から在庫や使用者を引く経路を持たせないことで、誰がどの試薬をどれだけ使っているかという情報が、この構成を通らないようにします。

土台になるのは、Vertex AI Search の answer メソッドです。 公式のドキュメントには「Vertex AI Search is being renamed to Agent Search.」と書かれており、製品は Agent Search へ改称されつつあります。 本記事では両方の名前を併記します。answer メソッドは、データストアから根拠を探して答えを作り、includeCitations で答えの文ごとに出典を示せます。

表を表のまま扱うのが、レイアウト パーサーです。 ドキュメントでは、レイアウト パーサーは段落、表、画像、リスト、タイトル、見出しを見分け、HTML、PDF、DOCX、PPTX、XLSX、XLSM に対応するとされています。レイアウト パーサーは、RAG のためのチャンク分割を使うときだけ使えます。 表の注記を有効にすると、表が見つかったときに、表の説明と表そのものが1つのチャンクに割り当てられます。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

研究者がボットに質問を書いたときに動きます。 最初に研究所を選んでもらい、選ぶまで質問欄を開きません。 研究所ごとに設備と実験室の決まりが違うためです。全社共通の規程は、どちらの研究所を選んでも検索の対象に入ります。

1つの会話は、同じ研究所のまま続けます。 answer メソッドはセッションで前の質問を踏まえ、queryRephraserSpec で質問を言い換えて検索します。「その試薬を加熱するときは」のような続けての質問に、前の試薬の名前を補って検索します。

規程の取り込みは、改定のたびに行います。 安全管理の担当が文書管理の仕組みで改定版を確定したら、その版を Cloud Storage に置き、古い版の status を archived にします。古い版を消さないのは、「いつの版で答えたか」を後から示すためです。

緊急の言葉の照合は、すべての質問の最初に行います。 会話の途中でも、2回目以降の質問でも同じです。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
研究者の質問質問の文面、選んだ研究所、会話の中の前の質問社内チャットのボット
実験安全規程実験室の使い方、服装、廃液、夜間と休日の実験の決まり文書管理の仕組みの正本
化学物質の取扱い規程物質の区分ごとの保管と保護具の別表、局所排気装置の決まり、購入前の社内の届出同上
設備ごとの使用手順使用前の点検、操作の手順、使ってはいけない条件同上
緊急の言葉の一覧と定型文事故・ばく露・漏れ・火災を表す言葉と、規程の緊急時の手順と連絡先安全管理の担当が決めて持つ一覧
担当へ回す規則回す質問の種類と見分け方同上

質を決めるのは、規程の別表の作り方です。 保護具の区分の表が、画像を貼っただけのPDFだと、レイアウト パーサーでも表として読めないことがあります。別表はWordかExcelの表として作り直し、正本とします。

SDSは、最初は載せません。 試薬ごとのSDSは数が多く、版も仕入先ごとに違います。この構成は社内の規程に何と書かれているかを答えるもので、物質の危険性そのものはSDSで研究者が確かめます。 規程の側に「区分の決め方はSDSのこの項目を見る」と書いておきます。

Step3

データの取得方法を決める

規程は Cloud Storage のフォルダに置き、メタデータと一緒にデータストアへ取り込みます。 データストアは、作るときに次の設定にします。

設定値理由
文書の処理チャンク分割を有効にし、既定のパーサーをレイアウト パーサーにする表と見出しを見分けるため
チャンクの大きさ300トークン(100〜500、既定500)別表の1つの区分が1つのチャンクに収まる大きさ
祖先の見出しを含めるtrue(既定は false)「別表2 保護具」という見出しを、各チャンクに付けるため
表の注記有効表の説明と表そのものを1つのチャンクにするため
ファイルの種類ごとの上書きXLSX はレイアウト パーサーExcel で作り直した別表を表として読むため

チャンク分割は、データストアを作った後に入れたり外したりできません。 ドキュメントにそう書かれています。最初に有効にして作ります。 後から変えたくなったら、データストアを作り直すことになります。

祖先の見出しを含めるのは、表の1行だけがチャンクになったときに、何の表かが分からなくなるからです。 「有機溶剤(区分B):ニトリル手袋、保護眼鏡」という行だけでは、保管の表か保護具の表か分かりません。見出しが付いていれば、答えの出典に「化学物質の取扱い規程 別表2 保護具」と出ます。

1文書ごとに次のメタデータを付けます。

メタデータ値の例使いどころ
sitelab_a、lab_b、common研究所で範囲を切る
doc_typelab_rule、chem_rule、equipment出典の表示と、規程の種類の確認
equipmentautoclave、fume_hood、gas_cylinder など設備の質問で範囲を寄せる
version/effective_from版の番号と施行日(ISO 8601)どの版で答えたかを残す
statuspublished、archived今の版だけを検索させる

絞り込みに使う項目は、データストアのスキーマで「Indexable」にします。 式は ANY() と AND・OR・NOT で書けます。

site: ANY("lab_a", "common") AND status: ANY("published")

設備の質問では、equipment を絞り込みに入れません。 研究者が設備の名前を書いても、答えに要るのは設備の手順と、化学物質の取扱い規程の保護具の両方だからです。設備で絞ると、保護具の別表が根拠から消えます。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 緊急の言葉の照合 … 「かかった」「浴びた」「吸い込んだ」「目に入った」「漏れ」「火が出た」「気分が悪い」などを見ます。当たったら、以降の処理をしません
  2. 研究所の確認 … 選ばれた研究所から、絞り込みの式を作ります
  3. 担当へ回す規則の照合 … 「新しく使いたい」「規程に無い」「混ぜても大丈夫か」「この量なら」「届出は要るか」などの言い回しを見ます
  4. 個人の情報の除去 … 質問の文面から、研究者の氏名や、共同研究の相手先の名前を伏せてから検索にかけます
  5. 規程の取り込み前の確認 … 別表が表として作られているか、見出しの階層がそろっているかを確かめます

1番目は、AIに判断させず、言葉の一覧で機械的に行います。 一覧は広めに作ります。当たりすぎた質問は担当が受けて戻せば済みますが、当たらなかった緊急の連絡は戻せません。

緊急の定型文は、次の形で用意し、安全管理の担当が版を管理します。

【緊急時の連絡】この連絡はチャットでは対応できません。
1. 実験安全規程 第8章「緊急時の措置」の手順に従ってください。
2. 研究所の緊急連絡先(内線 ○○○○)にすぐ電話してください。
3. 安全管理の担当にも、この内容を自動で知らせました。

定型文の中身は、規程の緊急時の章を写したものに限ります。 洗い流す時間や応急の処置を、ボットの側で書き足しません。規程の章を改定したら、定型文も同じ日に差し替えます。

3番目の「届出は要るか」は、手順の質問と判断の質問の両方に読めます。 「社内の購入前の届出の出し方」は規程にある手順で、答えられます。「この実験は届出が要るか」は、実験の中身を見て決めることなので、手順を返したうえで担当が受けます。

Step5

AIに処理させる

させるのは、絞った規程から該当箇所を探し、規程の表記のまま並べることだけです。

質問の種類答え方根拠にする文書
保護具物質の区分ごとの保護具を、別表の表記のまま示す化学物質の取扱い規程
保管区分ごとの保管場所と量の決まりを示す化学物質の取扱い規程
設備の使い方使用前の点検と手順を順番に並べる設備ごとの使用手順
実験室の決まり服装、夜間の実験、廃液の決まりを示す実験安全規程
社内の届出の手順出す書類と出す先と期日を示す化学物質の取扱い規程、実験安全規程

答えには、規程の名前、章、別表の番号を必ず付けます。 研究者は、チャットの答えではなく規程の該当箇所を読んで実験の準備をします。チャットは、そこへの道案内です。

させないこと理由
「安全です」「問題ありません」と結論づける量・濃度・換気で変わる。リスクアセスメントで決める
物質の区分を決める区分はSDSと化学物質管理者が決める
規程に無い操作の可否安全管理の担当が判断する
物質を混ぜてよいかの判断反応の危険は個別に確かめる
緊急時の対応の生成定型文と連絡先だけを返す
保護具を規程より軽くする言い換え「手袋だけでよい」のような読み替えが事故につながる

6行目は、質問の形で起きます。 「少量なら保護眼鏡は要りませんか」と聞かれると、AIは聞かれた形に合わせて答えを寄せようとします。規程の表記をそのまま示し、それより軽くてよいかは答えさせません。

Step6

指示内容を固定する

answer メソッドの promptSpec.preamble に、次の内容を入れます。

あなたは化学品メーカーの研究所で、研究者からの安全の規程についての質問に答える案内係です。
検索された実験安全規程、化学物質の取扱い規程、設備ごとの使用手順だけを根拠に答えてください。

【答え方】
- 規程に書かれたことを、規程の表記のまま箇条で並べてください。
- 各項目の後に、規程の名前、章の番号、別表の番号を書いてください。
- 保護具、保管の場所、量の上限、点検の項目は、別表の行をそのまま写してください。
  言い換え、要約、計算をしないでください。
- 最後に必ず「実験の安全は、この規程の該当箇所と試薬のSDSを確かめたうえで、
  必要に応じて安全管理の担当に相談してください」と書いてください。

【答えないこと】
- 「安全です」「問題ありません」「この量なら大丈夫です」と結論づけないでください。
- 物質がどの区分に当たるかを決めないでください。
- 規程に書かれていない操作をしてよいかを答えないでください。
- 物質を混ぜてよいか、加熱してよいかを、規程に書かれていない範囲で答えないでください。
- 規程に書かれた保護具や手順より軽い読み方(省いてよい、短くてよい)を答えないでください。

「より軽い読み方を答えない」を書かないと、質問の形に引っぱられます。 「少量なら」「短時間なら」という前置きの質問に、規程に例外が書かれていないのに、例外があるかのように答えがちです。 軽くする方向の言い換えだけを、名指しで禁じます。

あわせて、answer メソッドの設定で次を有効にします。

設定値目的
includeCitationstrue答えの文ごとに出典を示す
ignoreLowRelevantContenttrue関係の薄い規程から無理に答えを作らない
ignoreAdversarialQuerytrue規程を外れた答えを引き出そうとする質問に答えを作らない
searchSpec.searchParams.filter前処理で組んだ式研究所と今の版で範囲を切る
searchSpec.searchParams.maxReturnResults10(上限25)規程の本文と別表をまたぐ質問に備える
queryRephraserSpec.maxRephraseSteps2(1〜5、既定1)保護具と設備の手順を同時に聞く質問を分けて検索する
Step7

出力形式を固定する

中継プログラムは、answer の応答から次の形の記録を作ります。

{
  "session_id": "",
  "site": "lab_a",
  "question_masked": "",
  "route": "answered | emergency | escalated_rule | escalated_no_answer | escalated_low_support",
  "items": [
    { "text": "", "source": { "doc_type": "chem_rule", "chapter": "", "table": "別表2", "version": "" } }
  ],
  "support_score": 0.0,
  "created_at": ""
}

1つ目の理由は、items の source に別表の番号と版を持てることです。 答えの1項目ごとに、どの規程の、どの版の、どの別表から来たかが分かります。研究者は手元の古い版と見比べられます。

2つ目は、route の emergency を分けて数えられることです。 緊急の言葉に当たった件数と、そのうち本当の緊急だった件数を、安全管理の担当が毎月数えます。一覧の言葉の見直しに使います。

support_score は、答えがデータストアの内容にどれだけ裏付けられているかを0〜1で示す値です。 自社で決めた境目を下回ったら、答えを表示せずに担当へ回します。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
社内チャットのボット中継プログラムのAPI研究所・質問を受け、規程の箇所付きの答えを返す
Vertex AI Search(Agent Search)answer の呼び出し絞り込みの式を付けて、答えと出典を受け取る
安全管理の担当への通知チャットの通知緊急の言葉に当たった質問を、すぐに知らせる
担当の受付の一覧書き込み回した質問と、見つかった規程の箇所を入れる
BigQuery書き込み会話の記録を保管し、月次で集計する

文書管理の仕組みには書き込みません。 規程を改定するのは安全管理の担当で、チャットの質問から規程が自動で書き換わる経路は作りません。

チャットの製品とボットの作り方は、会社が使っているものによって変わります。 チャットから中継プログラムのAPIを呼べることを前提にしており、この部分は利用環境に応じた個別実装が必要です。

Step9

人が確認する

答えを研究者に返す前に、人が見ることはしません。 その代わり、答える範囲を規程の該当箇所の案内に限り、判断は担当に残します。

  1. 緊急の通知はすぐに見る … 通知が来たら、チャットではなく電話か現地で確かめます
  2. 担当へ回った質問を毎日見る … 新しい物質や規程に無い操作は、リスクアセスメントを行うかを決めます
  3. 答えた会話を週に1回抜き取る … 別表の行がずれていないか、保護具を軽く読み替えていないかを見ます
  4. 同じ質問が多いものは規程に足す … 規程に書かれていないために回ってくる質問は、規程の改定の候補にします

4番目が、規程を育てます。 回ってきた質問は、規程に書かれていないことの一覧です。改定して載せれば、次からはチャットが答えます。

抜き取りでは、別表を根拠にした答えを優先して見ます。 本文の文章を根拠にした答えより、表の行を写した答えのほうが、行のずれに気づきにくいためです。週に10件ほど、答えの項目と別表の原本を並べて確かめます。

Step10

例外に対処する

起きること対応
緊急の言葉に当たった定型文と連絡先だけを返し、担当に通知(emergency)。生成しない
新しい物質・規程に無い操作を聞かれた規則で担当へ(escalated_rule)。関係する規程の章だけは示す
答えが出ない「安全管理の担当から回答します」と返し、受付の一覧へ
根拠の裏付けが弱い答えを表示せず、担当へ
研究者の手元の版と今の版が違う今の版で答え、版の番号と施行日を示す
別表が表として読めていない担当へ回し、別表を作り直す候補にする
社外の共同研究者からの質問共同研究の契約で決めた範囲の規程だけを対象にする
検索基盤が応答しない「時間をおいて再度お試しください」と返し、担当の連絡先を示す

1行目が、この構成でいちばん大事な例外です。 緊急のときに、チャットの答えを読んで動く時間はありません。定型文は規程の緊急時の手順をそのまま写したもので、生成した文ではありません。

Step11

記録を残す

  • 会話ごとの研究所、伏せた後の質問の文面、答えの項目、出典の規程・章・別表・版、support_score
  • 緊急の言葉に当たった質問と、通知の時刻、担当が確かめた結果
  • 担当へ回した理由と、担当の判断、リスクアセスメントを行ったか
  • 抜き取りで見つけたずれと、直した内容
  • 月ごとの route の件数と、質問の多い規程の章

1つ目で「版」を残すのは、規程が改定されるためです。 事故の調査で「規程ではどう案内されていたか」を聞かれたとき、その時点でどの版のどの別表で答えたかを示せます。

04実装レベルの3段階

最小構成:規程を生成AIに読み込ませ、担当者が回答の下書きを作らせる / 1件ごとの該当箇所探しと下書き
半自動化:上記+検索基盤に規程を載せ、担当者が検索に使う / 研究所で絞った該当箇所探し。回答は人
本格構成:上記+研究者がボットで直接質問し、規程の箇所付きの答えと、緊急・判断の振り分けを自動で回す / 規程の質問への回答と、担当への振り分け

半自動化で、1件20分が12分程度になります。 規程をまたいで探す時間が減りますが、質問の受付と回答は残ります。本格構成で6分になり、この段階が本記事の想定です。 差が大きいのは、規程を引くだけの質問が担当を通らなくなるからです。 段階を飛ばさないでください。 半自動化の間に、別表が表として読めていない規程と、見出しの階層がそろっていない規程が見つかります。直してから研究者に開くほうが、違う区分の保護具を返す誤りが減ります。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
3 名
月間件数
180 件
1件あたり現在時間
20 分
1件あたり導入後時間
6 分
現在  180件 × 20分 ÷ 60 = 60 時間/月
導入後 180件 × 6分 ÷ 60 = 18 時間/月
月間削減時間
42h
削減率
70%
年間削減時間
504h
年間金額換算(時間単価3,800円)
192万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 化学・素材・医薬・食品などのメーカーの研究所や、大学・病院の研究部門で、実験安全規程、化学物質の取扱い規程、設備ごとの使用手順が別々の文書になっており、研究者からの「どの規程のどこを見ればよいか」という質問が安全管理の担当に集まっている場合。規程の中の表(保護具の区分、保管の区分、社内の届出の一覧)を引く質問が多い場合。新しく配属された研究者や外部の共同研究者が、毎年まとまって入ってくる場合。
向いていない
  1. 扱う試薬と設備が少なく、規程が数ページで足りる場合。社内の規程そのものが整っておらず、安全管理の担当の口頭の指示で回っている場合(先に規程を文書にする必要がある)。なお、リスクアセスメントの結果、新しい物質や操作を認めるかどうか、事故やばく露が起きたときの対応は、化学物質管理者と安全管理の担当が判断し、この構成はそれを代わりに行いません。

07最小構成で試す方法

  1. 先月の質問から30件を選ぶ(保護具の別表を引く質問と、規程に無い操作の質問を必ず混ぜる)
  2. 化学物質の取扱い規程と、30件に関係する設備の使用手順を集める
  3. 手元の生成AIのサービスに規程を読み込ませ、1件ずつ質問する
  4. 「この規程に書かれていることだけで、規程の名前・章・別表の番号を付けて答えてください。安全かどうかの結論は書かないでください。規程より軽い読み方をしないでください」と指示する
  5. 出てきた答えを、当時担当者が返した答えと突き合わせる

30件は必ずやってください。 ボットを作る前に、「規程の別表を、行を崩さずに引けるか」を確かめます。

出てきた内容判断
当時と同じ別表の行を、番号付きで返したデータストアとレイアウト パーサーの設定に進む
「安全です」と結論づけた、保護具を軽くした指示の書き方で直る。構成は有効
別表の行と列が崩れて、違う区分の保護具が返る別表を表として作り直してから試し直す

3行目が出ることは珍しくありません。 画像を貼っただけの別表や、セルを結合した表は、行と列の対応が崩れます。AIの問題ではなく、規程の作り方の問題です。

あわせて、担当へ回すべき質問が30件のうち何件あるかを数えてください。 規程に無い操作や新しい物質の質問が半分を超えるなら、チャットより先に、規程に書かれていないことを規程に足す作業が要ります。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
別表の行がずれて違う区分の保護具を返すレイアウト パーサーと表の注記を有効にし、別表を作り直す
表の1行だけが返り、何の表か分からない祖先の見出しを含める
後からチャンク分割を有効にしたい作った後には変えられない。最初に有効にして作る
「安全です」と結論づける結論を禁じ、最後に確かめる旨の定型文を入れる
「少量なら」に合わせて保護具を軽くする軽くする方向の言い換えを名指しで禁じる
緊急の連絡に生成した答えを返す検索の前に言葉の一覧で取り出し、定型文だけを返す
古い版で答えるstatus で今の版だけを検索させ、版を答えに出す
メタデータを付けたのに絞り込めないスキーマで Indexable にする
画像だけの別表が読めないWord か Excel の表として作り直す

上の3行が、この構成の失敗のほとんどです。 どれも、規程の表をどう持つかから出ています。表が表のまま、見出し付きで1つのまとまりになっていれば、別表の行を取り違える誤りは起きにくくなります。

6行目は、運用の信頼を決めます。 緊急の連絡に一度でも生成した答えが返れば、研究者も安全管理の担当も、このチャットを使わなくなります。言葉の一覧は、emergency の件数を見ながら毎月足していきます。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 社内の安全の規程(社外秘)、研究者の質問の文面と会話の記録。質問の中に、開発中のテーマや試薬の名前、共同研究の相手先が書き込まれることがあります。

  1. 緊急の対応を仕組みに乗せない … 事故やばく露の連絡には、定型文と連絡先だけを返し、担当がすぐに動きます。チャットで受け付けて終わりにしません
  2. 安全の判断をしない … 返すのは規程の該当箇所までです。実験が安全かは、リスクアセスメントで、化学物質管理者と安全管理の担当が決めます
  3. 規程を軽く読ませない … 保護具や手順を省いてよいという方向の答えを、指示と抜き取りの両方で止めます
  4. 研究のテーマを外に出さない … 質問の文面から共同研究の相手先の名前を伏せ、会話の記録を見られる人を安全管理の担当に限ります
  5. AIが答えていることを示す … ボットの最初に、AIが規程から該当箇所を案内すること、安全の判断は担当が行うこと、緊急時はチャットではなく定めた連絡先へ連絡することを書きます

誤りが起きた場合のリスクは、違う区分の保護具を伝えることと、緊急の連絡への対応が遅れることの2つです。 前者は表の持ち方と原文の表記で、後者は検索の前の言葉の照合で防ぎます。

10まず何から始めるか

1週目:別表を作り直す

化学物質の取扱い規程の、保護具と保管の別表を、セルを結合しないWordかExcelの表に作り直します。 あわせて、規程の見出しの階層(章、節、別表)をそろえます。

2週目:30件で試す

先月の質問から30件を選び、手元の生成AIに規程を読み込ませて答えさせます。別表の行が崩れていないか、「安全です」と結論づけていないか、保護具を軽くしていないかを最優先で見ます。

3週目:緊急の言葉と、担当へ回す規則を決める

緊急の言葉の一覧と定型文、担当へ回す質問の種類を、安全管理の担当と化学物質管理者で決めます。 新しい物質、規程に無い操作、物質を混ぜること、実験ごとの届出の要否は必ず入れます。

4週目:データストアを作り、担当者で使う

チャンク分割とレイアウト パーサーを有効にして、Vertex AI Search(Agent Search)のデータストアを作ります。この時点では研究者に開かず、担当者が回答の根拠を探すのに使います。

2か月目: 中継プログラムとボットを作り、研究者に開きます。route ごとの件数を毎週数えます。3か月目以降: 回ってきた質問から規程の改定の候補を拾い、1件20分が何分になったかを実測します。担当へ回る質問がリスクアセスメントの要るものだけになり、規程を引くだけの質問が担当に届かなくなった時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-06/最終更新:2026-10-06
確認した内容情報源確認日
Vertex AI Search が Agent Search へ改称されつつあること。answer メソッドがセッションによる複数回のやり取りと質問の言い換えに対応すること。queryRephraserSpec.maxRephraseSteps(1〜5、既定1)、includeCitations、ignoreLowRelevantContent、ignoreAdversarialQuery、promptSpec.preamble、maxReturnResults(既定10、上限25)。答えの裏付けを0〜1の値で返せることGoogle Cloud: Agent Search の answer メソッド2026-10-06
レイアウト パーサーが段落・表・画像・リスト・タイトル・見出しを見分け、HTML・PDF・DOCX・PPTX・XLSX・XLSM に対応すること。RAG のためのチャンク分割を使うときだけ使えること。チャンクの大きさが100〜500トークン(既定500)、祖先の見出しを含める設定(既定 false)。表の注記で表の説明と表が1つのチャンクになること。ファイルの種類ごとにパーサーを上書きできること。チャンク分割はデータストアを作った後に変えられないことGoogle Cloud: Agent Search の文書の解析とチャンク分割2026-10-06
絞り込みに使う項目をスキーマで Indexable にすること。ANY() の完全一致、AND・OR・NOT。メタデータ付きの非構造化データでも絞り込めることGoogle Cloud: Agent Search のメタデータによる絞り込み2026-10-06
労働安全衛生規則等の改正の主なポイントとして、リスクアセスメント対象物を扱う事業場ごとの化学物質管理者の選任、SDS等による情報の伝達の強化、ばく露を最小限度にすること、皮膚や眼に障害を与える物質を扱う際の保護具の使用、衛生委員会での調査審議が挙げられていること厚生労働省: 化学物質による労働災害防止のための新たな規制について2026-10-06

化学物質のリスクアセスメントと、法令上の届出の要否は、化学物質管理者と安全管理の担当、必要に応じて労働基準監督署などの所管の機関に確認してください。 本記事は公開仕様と厚生労働省のページで確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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