Media > AI活用ユースケース > カスタマーサポート > 自動車保険の事故で契約者が送る車の損傷写真から部位と程度を見分け、修理見積書の明細と食い違う箇所と撮り直しが要る写真を調査担当へ出す

自動車保険の事故で契約者が送る車の損傷写真から部位と程度を見分け、修理見積書の明細と食い違う箇所と撮り直しが要る写真を調査担当へ出す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

契約者がスマートフォンで送ってくる車の損傷写真を1枚ずつ見分け、写っている部位と損傷の程度を区分で返します。修理見積書の明細と照らして食い違う部位と、撮り直しが要る写真を、損害調査の担当へ一覧で渡します。

サマリー
生成AI
ChatGPT/Claude/Gemini
連携・自動化
Google Apps Script/Make/Python
対象業界
その他/保険/物流/金融
対象部門
カスタマーサポート
対象業務
内容確認・チェック/比較検討
主な課題
人手が足りない/判断に時間がかかる/確認ミスが多い
AIで行う処理
画像認識
主な効果
判断支援/対応スピード向上/工数削減
導入難易度
★★★★☆
実装レベル
本格構成
費用感
API連携(中)
人間の確認
必須
現在工数
240h/月
AI導入後
90h/月
想定削減
63%
年間削減
1,800h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 契約者が写真の送信画面から写真を送り、写真の保管庫に案件番号で保存される
  2. 修理工場から見積書が届き、明細が損害調査システムに入る
  3. 担当者が案件を開き、写真を1枚ずつ見て、どの部位を撮った写真かを確かめる
  4. 損傷のある部位と程度(擦り傷・へこみ・割れなど)を目で見て、メモに書く
  5. 見積書の明細を1行ずつ読み、写真で確認できるかを照らす
  6. 写真で確認できない明細や、暗くて判断できない写真があれば、契約者に電話かメールで撮り直しを頼む
  7. 写真と明細が合わない部位があれば、修理工場に確認する
  8. 所見を損害調査システムに書き、技術アジャスターの確認が要るものを回す
導入後(After)
  1. 人契約者が写真の送信画面から写真を送る
  2. 自動送信の完了をきっかけに処理が動き、形式・大きさ・枚数を確かめる
  3. 自動Gemini API が写真ごとに写り具合を判定し、撮り直しが要る写真と理由を返す
  4. 自動撮り直しが要る写真があれば、決まった文面から選んだ撮り直しの案内を契約者へ送る
  5. 自動Gemini API が写真ごとに、写っている部位と損傷の程度を区分で返し、位置を枠で示す
  6. 自動見積書の明細が入っていれば、部位ごとに明細と写真の所見を規則で照らし、食い違いの種類を付ける
  7. 自動案件ごとの確認の一覧を作り、担当者の画面に出す
  8. 人担当者が枠を重ねた写真と食い違いの一覧を見て、所見を確かめ、直す
  9. 人修理工場への確認と、技術アジャスターへ回すかを決める
各工程の詳しい説明を読む
  1. 契約者が写真の送信画面から写真を送り、写真の保管庫に案件番号で保存される
  2. 修理工場から見積書が届き、明細が損害調査システムに入る
  3. 担当者が案件を開き、写真を1枚ずつ見て、どの部位を撮った写真かを確かめる
  4. 損傷のある部位と程度(擦り傷・へこみ・割れなど)を目で見て、メモに書く
  5. 見積書の明細を1行ずつ読み、写真で確認できるかを照らす
  6. 写真で確認できない明細や、暗くて判断できない写真があれば、契約者に電話かメールで撮り直しを頼む
  7. 写真と明細が合わない部位があれば、修理工場に確認する
  8. 所見を損害調査システムに書き、技術アジャスターの確認が要るものを回す

(a)撮り直しの依頼が遅れる。 写真の写り具合が分かるのは、3番目で担当者が案件を開いたときです。届いてから数日たっていることも多く、そのころには車がすでに修理工場に入り、損傷部が分解されていることがあります。 撮り直してもらえない写真のために、立会調査に切り替える案件が出ます。

(b)部位を探すところから始まる。 損傷部の接写は、それだけではどの部位か分かりません。全体の写真と見比べて、「この擦り傷は左フロントフェンダーの前寄り」と当たりを付けるところから始まります。1件あたりの時間の大半は、判断ではなく、写真の向きと部位を合わせる作業です。

(c)見積書と写真の食い違いを見落とす。 明細が十数行ある見積書で、写真に写っていない部位の明細が1行だけ混ざっていても、目で照らしているとそのまま通ります。 逆に、写真には別の部位の損傷が写っているのに、見積書に載っていないこともあります。どちらも、後から契約者や工場とのやり取りが増える元になります。

  1. 【人】 契約者が写真の送信画面から写真を送る
  2. 【自動】 送信の完了をきっかけに処理が動き、形式・大きさ・枚数を確かめる
  3. 【自動】 Gemini API が写真ごとに写り具合を判定し、撮り直しが要る写真と理由を返す
  4. 【自動】 撮り直しが要る写真があれば、決まった文面から選んだ撮り直しの案内を契約者へ送る
  5. 【自動】 Gemini API が写真ごとに、写っている部位と損傷の程度を区分で返し、位置を枠で示す
  6. 【自動】 見積書の明細が入っていれば、部位ごとに明細と写真の所見を規則で照らし、食い違いの種類を付ける
  7. 【自動】 案件ごとの確認の一覧を作り、担当者の画面に出す
  8. 【人】 担当者が枠を重ねた写真と食い違いの一覧を見て、所見を確かめ、直す
  9. 【人】 修理工場への確認と、技術アジャスターへ回すかを決める

3番目と4番目を、部位の見分けより先に置いているのが、この設計の要です。 写り具合の判定は見積書を待たずにでき、写真が届いた数分後には契約者に撮り直しを頼めます。 第3章の(a)は、ここで解消します。

4番目の案内は、AIに文章を書かせません。 AIが返すのは撮り直しの理由の区分だけで、文面はあらかじめ用意した定型文から理由ごとに選びます。契約者に届く言葉を、保険会社として確かめた文に限るためです。

6番目の照合は規則で行います。 AIには「写真に何が写っているか」だけを答えさせ、見積書と合うかどうかの判定には加わらせません。 部位の対応表と照合の規則はプログラムの側に置き、後から直せるようにします。

02今回想定するシステム構成

構成図
契約者のスマートフォン ── 写真の送信画面(案件番号ごとのURL)
   ▼【トリガー】写真の送信完了
受付の処理(Python)── 形式・大きさ・枚数の確認
   ▼
Gemini API ── ①写り具合の判定(ok/retake + 理由の区分)
   ├── retake ──▶ 定型文から選んだ撮り直しの案内を契約者へ
   ▼
Gemini API ── ②部位と損傷の程度(区分 + 位置の枠)
   ▼
照合の処理(Python)── 損害調査システムの見積書の明細と部位ごとに照らす
   │   一致/写真に無い明細/見積書に無い損傷/程度と作業の不一致/写っていない
   ▼
確認の一覧(担当者の画面)── 枠を重ねた写真と食い違いの一覧
   ▼【損害調査の担当者が確かめる】
損害調査システムへ所見を登録 ──▶ 修理工場への確認、技術アジャスターへ
役割想定する製品代替候補
処理Gemini API(写り具合の判定、部位と損傷の程度の見分け、位置の枠)Claude API、OpenAI API
連携Python(受付の処理、照合の規則、損害調査システムとのやり取り)Google Apps Script、Make
保管自社の写真の保管庫(案件番号ごとのフォルダ)Google Cloud Storage、Amazon S3

損害調査システムと写真の送信画面は、新しく足すものではありません。 足すのは、送信の完了を受けて Gemini API を呼ぶ受付の処理と、見積書の明細と照らす照合の処理の2つです。損害調査システムへは、担当者が確かめた所見だけを書き込みます。

判定の土台は Gemini API の画像理解です。 対応する形式は PNG、JPEG、WEBP、HEIC、HEIF で、スマートフォンの写真によくある HEIC もそのまま渡せます。画像の内容を直接リクエストに入れる場合、指示やシステムの指示と合わせたリクエスト全体が20MBまでとされ、それを超えるときや同じ画像を使い回すときは File API でアップロードします。

位置の枠も同じ API で返せます。 物体の検出では、位置を [ymin, xmin, ymax, xmax] の形で、0から1000に正規化した座標で返し、元の画像の大きさに合わせて戻して使います。損傷の位置に枠を付けておけば、担当者は写真を拡大して探す前に、どこを見ればよいかが分かります。

細かい傷を見るために、画像の解像度の扱いを指定します。 media_resolution は画像に割り当てるトークンの上限を決める設定で、low・medium・high のほか、Gemini 3 のモデルでは画像ごとに ultra_high も指定できます。公式の案内では、細かい部分を読み取る用途には high が勧められています。全体の写真は medium、損傷部の接写は high のように、写真の種類で分けると費用と精度の釣り合いが取れます。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

写真の送信画面で、契約者が「送信を完了する」を押したことを起点にします。 1枚ずつのアップロードを起点にすると、全体の写真が届く前に接写だけで部位を判定してしまいます。部位の見分けは全体の写真があって初めて確かになるので、1件分がそろってから動かします。

ただし、写り具合の判定は送信の完了を待たずに1枚ずつ行ってかまいません。 送信画面の上で「この写真は暗いので撮り直してください」と出せれば、契約者はその場で撮り直せます。この記事では、送信の完了で写り具合と部位をまとめて判定し、撮り直しの案内を数分以内に送る形で説明します。

見積書の明細は、写真より後に届くことが多いです。 照合の処理は、写真の判定が終わった時点と、損害調査システムに明細が入った時点の両方で動かし、両方がそろった時点で照合の結果を出します。 明細の取り込みの時刻を毎時見に行き、写真の判定が済んでいて照合がまだの案件を拾います。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
損傷写真1件10〜20枚。撮影の日時、送信の日時写真の保管庫
事故の受付記録事故の日、事故の形態(追突・接触・単独など)、契約者が申告した損傷の箇所損害調査システム
見積書の明細部位、作業の区分(交換・脱着・板金・塗装)、部品名損害調査システム
車両の情報車名、型式、ボディの形(セダン・ミニバン・軽トラックなど)契約の情報
部位の対応表自社の部位の区分と、見積書の部位の表記の対応自社で用意する表

質を決めるのは、いちばん下の部位の対応表です。 見積書では「Fバンパー」「フロントバンパカバー」「バンパーフェイス」と、工場や見積の仕組みによって同じ部位の書き方が違います。AIに返させる部位の区分と、見積書の部位の表記を1つの表で結んでおかないと、照合ができません。

ボディの形を渡すのは、部位の候補を絞るためです。 軽トラックに「リアドア」はありません。ボディの形ごとに候補の部位の一覧を渡すと、存在しない部位を答える誤りが減ります。

受付記録の損傷の箇所は、照合に使いますが、AIには渡しません。 申告を渡すと、写真にそれらしいものを探しにいき、見えないものを見えたと答えやすくなります。AIには写真と車両の情報だけを渡し、申告との照らし合わせは照合の処理で行います。

Step3

データの取得方法を決める

写真は、送信画面が保存した保管庫から案件番号で取り出します。元の写真はそのまま残し、AIに渡すのは前処理で整えた写しです。

取るものどこから何に使うか
写真のファイルと撮影の日時写真の保管庫AIへの入力と、事故の日との前後の確認
車両のボディの形契約の情報部位の候補の一覧を選ぶ
見積書の明細損害調査システム照合の処理で部位ごとに照らす
受付記録の損傷の箇所損害調査システム照合の処理で申告と照らす

撮影の日時は、写真の付帯情報から取ります。 事故の日より前の日時が入っている写真は、照合の結果に印を付けて担当者に見せます。判断はしません。 スマートフォンの設定や送り方によって付帯情報が消えていることも多く、日時が無いこと自体は異常として扱いません。

画像の渡し方は、1件分の写真の合計の大きさで決めます。合計がリクエストの20MBに収まるなら直接入れ、収まらないなら File API でアップロードします。 File API のファイルは48時間保存されて自動で消えるので、案件の記録として残す写真は自社の保管庫の側に置きます。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 形式の確認 … PNG、JPEG、WEBP、HEIC、HEIF のどれかであることを確かめ、それ以外は JPEG に変換します
  2. 向きの補正 … 付帯情報の向きに合わせて画像を回転させます。公式の案内でも、画像が正しく回転しているかを確かめることが勧められています
  3. 大きさの調整 … 長い辺を一定の大きさに縮めた写しを作ります。接写は細部を残すため縮める幅を小さくします
  4. 重複の除去 … 同じ写真が二度送られたものは、画像の特徴の一致で1枚にまとめます
  5. 写真の種類の仮分け … 全体の写真と接写を、画像の大きさの比ではなく、次の写り具合の判定でAIに区分させます
  6. 個人の情報の扱い … 人の顔や他人の車のナンバーが写り込んだ写真は、照合には使いますが、担当者以外への共有の前に隠します

2番目を軽く見ないでください。 スマートフォンの写真は、付帯情報の向きを読まない仕組みに渡すと横倒しになります。横倒しの車では、右と左、前と後ろの取り違えが起きます。 部位の左右を答えさせる構成なので、向きの補正は欠かせません。

Step5

AIに処理させる

させるのは2つです。写真ごとの写り具合の判定と、写っている部位と損傷の程度の見分けです。 1回目と2回目の呼び出しを分け、1回目で retake になった写真は2回目に渡しません。

見るもの返させる値判断できないときの扱い
写り具合ok / retake と、理由の区分(暗い・ぶれ・反射・遠すぎる・損傷部が切れている・車が写っていない)迷えば retake
写真の種類全体(前・後・左・右・斜め)/接写/ナンバー/車内/その他分からなければ other
部位部位の区分(ボディの形ごとの候補の一覧から選ぶ)と左右・前後接写で部位が決められなければ unknown
損傷の程度擦り傷/へこみ(小)/へこみ(大)/割れ・欠け/変形の疑い/損傷が見えない光の加減で決められなければ unclear
位置損傷ごとの枠(0〜1000の座標)枠が付けられなければ空

部位の欄の unknown が、この構成でいちばん大事な値です。 接写だけでは「どこかのパネルのへこみ」までしか分かりません。そこで部位を推測させると、右と左、フロントフェンダーとフロントドアの取り違えがそのまま照合に入ります。 決められない接写は unknown とし、照合の処理が同じ案件の全体の写真の所見と合わせて扱います。

「損傷が見えない」と「写っていない」は別の値です。 部位が写っていて損傷が見えないなら程度を「損傷が見えない」に、部位そのものが写っていなければ、その部位はどの写真の所見にも出てきません。照合の処理は、出てこなかった部位を「写っていない」として扱います。

させないこと理由
事故との関係の判断今回の事故の損傷かどうかは、技術アジャスターと担当者が決める
修理の方法と金額の見積もり交換か板金かは工場と技術アジャスターの協議で決める
不正の疑いの判定根拠が写真だけでは足りない。契約者を疑う文言を一覧に残さない
申告に合わせた答え申告を渡さないことで防ぐ
照合の結論見積書と合うかは規則で決める

3行目を明記しておく理由は、AIが聞かれなくても書くからです。 古い傷とも見える、と書かせると、その一言が案件の記録に残ります。根拠の弱い一言が、契約者との関係を長く損ねます。

Step6

指示内容を固定する

1回目(写り具合)と2回目(部位と程度)のうち、2回目の指示の例です。

あなたは自動車保険の損害調査で、契約者が送った車の写真を見て、
写っている部位と損傷の程度を記録する立場です。
写真に見えるものだけを答えてください。推測で埋めないでください。

【車両】ボディの形:{body_type}
【部位の候補】次の一覧からだけ選んでください:{part_list}

【答えること】写真ごとに
1. 写真の種類(全体の前・後・左・右・斜め/接写/ナンバー/車内/その他)
2. 写っている部位と、その部位ごとの損傷の程度
3. 損傷ごとの位置(box_2d:[ymin, xmin, ymax, xmax]、0〜1000)

【程度の選び方】
- scratch ........ 塗装の表面の擦り傷
- dent_small ..... 手のひらに収まる程度のへこみ
- dent_large ..... 手のひらを超えるへこみ
- crack .......... 割れ・欠け(灯火類やバンパーなど)
- deform_suspect . パネルのすき間のずれや、形のゆがみが見える
- no_damage ...... 部位は写っているが、損傷は見えない
- unclear ........ 光の反射や影で、損傷の有無を決められない

【厳守事項】
- 部位の候補の一覧にない部位を答えないでください。
- 接写で、どの部位かを写真から決められない場合は part を unknown にしてください。
  ほかの写真から推測して部位を埋めないでください。
- 左右と前後は、車の運転席に座った向きで答えてください。
  決められない場合は side を unknown にしてください。
- 写っていない部位について、損傷が無いと答えないでください。
  部位が写っていなければ、その部位を答えに含めないでください。
- 損傷が今回の事故によるものか、古い傷かを書かないでください。
- 修理の方法(交換・板金など)や金額を書かないでください。
- 不正や虚偽の疑いについて書かないでください。
- 人の顔、他人の車のナンバーについて記述しないでください。
- 車の写真でないと判断した場合は、photo_type を other にして部位を答えないでください。

「写っていない部位について、損傷が無いと答えない」を明記しないと、写っていない部位まで no_damage で埋めます。 部位の候補の一覧を渡すと、一覧のすべてに答えようとするためです。no_damage は「写っていて損傷が見えない」ときだけの値に限ります。

左右の基準を書いているのは、写真の向きで答えが変わるからです。 車の正面から撮った写真では、見る人の左が車の右になります。基準を決めないと、正面の写真だけ左右が逆に記録されます。

Step7

出力形式を固定する

構造化出力で、次の形のJSONを返させます。 Gemini API では /v1beta/interactions の response_format に mime_type: "application/json" とスキーマを入れて指定し、enum と required で値を区分に縛ります。

{
  "claim_id": "",
  "photos": [
    {
      "photo_id": "",
      "photo_type": "overall_front | overall_rear | overall_left | overall_right | overall_diagonal | closeup | plate | interior | other",
      "findings": [
        { "part": "", "side": "left | right | center | unknown",
          "severity": "scratch | dent_small | dent_large | crack | deform_suspect | no_damage | unclear",
          "box_2d": [0, 0, 0, 0] }
      ]
    }
  ]
}

照合の処理は、このJSONと見積書の明細から、部位ごとに次の区分を付けます。

照合の区分条件
match見積書の部位が写真の所見にあり、損傷の程度が作業の区分と矛盾しない
not_photographed見積書の部位が、どの写真の所見にも出てこない
no_visible_damage見積書の部位が写っているが、すべての写真で no_damage
not_in_estimate写真に損傷がある部位が、見積書に無い
severity_gap例:所見が scratch だけなのに作業が交換
needs_humanunknown か unclear が含まれ、規則で決められない

この表の2行目と3行目を分けるのが、第1章で書いた区別です。 not_photographed は契約者への撮り直しの依頼、no_visible_damage は修理工場への確認に回します。同じ「写真で確認できない」でも、連絡する先が違います。

JSONを使う理由は、AIの答えと照合の規則を別の層に置けるからです。 severity_gap をどこから出すかは、技術アジャスターと決める取り決めで、後から変わります。規則を変えても、AIの答えを取り直す必要がありません。 公式の案内でも、出力がJSONとして正しくても値はアプリケーションの側で確かめるよう書かれています。部位の候補の一覧にない値が来たら、照合に入れずに needs_human にします。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
写真の送信画面送信の完了の通知受付の処理を起動する
写真の保管庫ファイルの読み取り元の写真を取り出し、整えた写しを置く
Gemini APIAPI呼び出し写り具合の判定と、部位と程度の見分け
契約者への案内自社の通知の仕組み定型文から選んだ撮り直しの案内を送る
損害調査システム読み取りと、確定後の書き込み明細と受付記録を読む。担当者が確かめた所見を書く

損害調査システムへの書き込みは、担当者が確かめた後だけです。 AIの区分をそのまま所見の欄に入れると、確かめていない所見が査定の記録として残ります。確認の一覧で担当者が「確定」を押したものだけを書き込みます。

撮り直しの案内は1件につき1回にまとめます。 写真ごとに送ると、契約者に何通も届きます。1件分の判定が終わってから、撮り直しが要る写真と理由をまとめて1通にします。

Step9

人が確認する

担当者は、全件の確認の一覧を開きます。 ただし、見る順番と深さは照合の区分で変えます。

  1. match だけの案件は、枠を重ねた写真を流し見て確定する … 部位と程度が見積書と合っているかを目で確かめます
  2. not_photographed の案件は、撮り直しの依頼が出ているかを確かめる … 自動の案内に返事が無ければ、電話で頼みます
  3. no_visible_damage と severity_gap は、写真を拡大して見る … 枠の位置と元の写真を見比べ、修理工場に確認するかを決めます
  4. needs_human は、全体の写真と接写を見比べて部位を決める … 決めた部位を記録します
  5. 技術アジャスターへ回すかを決める … 区分にかかわらず、担当者が決めます

3番目を省かないでください。 severity_gap は、AIの程度の見分けが誤っていても出ます。光の加減で浅く見えたへこみを scratch と答えれば、交換の明細が食い違いとして出ます。 修理工場に確認する前に、元の写真で程度を見直します。

担当者が直した所見は、すべて記録します。 どの写真のどの部位を、どの区分からどの区分に変えたかが、部位の候補の一覧と指示を直す材料になります。

Step10

例外に対処する

起きること対応
写真が暗い・ぶれている・反射で白い1回目の判定で retake。理由ごとの定型文で撮り直しを頼む
撮り直しを頼んでも届かない3日後に担当者が電話で頼む。それでも届かなければ立会調査を検討
車がすでに修理に入っていて撮り直せない修理工場に分解前の写真を頼む
接写ばかりで全体の写真が無い部位がすべて unknown になる。全体の写真の撮り直しを頼む
写真の大きさの合計がリクエストの上限を超えるFile API でアップロードして渡す
部位の候補にない値が返る照合に入れず needs_human
事故の日より前の撮影の日時がある一覧に印を付けて担当者に見せる。判断はしない
別の車の写真が混ざっているナンバーの写真と車の色・形が合わないものに印を付け、担当者が確かめる
API が応答しない案件を待ちの状態に残し、時間をおいて再実行する

上から4行目までが大半を占めます。 どれもAIの精度の問題ではなく、撮り方の問題です。 写真の送信画面に撮影の見本を出すほうが、判定を磨くより効きます。

Step11

記録を残す

  • 元の写真と、AIに渡した写し(向きの補正・大きさの調整の後)
  • 1回目と2回目の Gemini API の入力と出力の全文、呼び出しの日時、モデルの名前
  • 照合の区分と、そのとき参照した見積書の明細と部位の対応表の版
  • 撮り直しの案内を送った日時、選んだ定型文、写真が届いた日時
  • 担当者が所見を直した記録 … 写真、部位、直す前と後の区分
  • 部位ごと・写真の種類ごとの unknown と unclear の割合

3つ目で「そのときの対応表の版」を残すのは、対応表が後から変わるためです。 見積書の表記を足すと照合の結果が変わり、当時の版が残っていないと、過去の照合をたどれません。

04実装レベルの3段階

最小構成:写真を手でAIの画面に貼り、部位と程度を区分で答えさせる / 1件ごとの写真の所見の下書き
半自動化:上記+送信の完了で API を呼び、写り具合と部位を確認の一覧に書き出す / 撮り直しの判定と所見の一覧化
本格構成:上記+撮り直しの案内の自動送信、見積書の明細との照合、枠を重ねた写真の表示 / 撮り直しの依頼と、食い違いの洗い出しまで

最小構成では件数がさばけません。 1件分の写真を手で貼るので、900件には使えません。確かめるための段階です。 半自動化で、撮り直しの依頼が写真の到着直後に出せるようになります。 1件16分が10分前後になりますが、見積書との照合は担当者が行うので、②の5分はほとんど残ります。本格構成で照合が自動になり、この段階が本記事の想定です。 段階を飛ばさないでください。 半自動化の一覧を1か月見ると、unknown が多い撮り方と、部位の候補の一覧の抜けが先に分かります。部位の対応表は、照合を作る前に半自動化の結果で整えるほうが、食い違いの空振りが減ります。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
12 名
月間件数
900 件
1件あたり現在時間
16 分
1件あたり導入後時間
6 分
現在  900件 × 16分 ÷ 60 = 240 時間/月
導入後 900件 × 6分 ÷ 60 = 90 時間/月
月間削減時間
150h
削減率
63%
年間削減時間
1,800h
年間金額換算(時間単価3,500円)
630万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

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06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 自動車保険の車両・対物の事故で、契約者や運転者にスマートフォンで損傷の写真を送ってもらい、少額の損害を写真と修理見積書で調査している損害保険会社・共済。修理見積書の明細がすでに部位・作業の区分のデータとして損害調査システムに入っている場合。撮り直しの依頼が遅れて調査が長引いている場合。社用車やリース車両の損傷を写真で受け付けるリース会社・運送会社・レンタカー会社の車両管理にも当てはまります。
向いていない
  1. 技術アジャスターが立会調査で全件の車両を見ている場合。月の事故の件数が数十件で、担当者が写真を見る時間に困っていない場合。見積書の明細がまだ紙のままで、部位の区分のデータになっていない場合(先に見積書の読み取りを整えます)。なお、修理費が妥当か、事故と関係のある損傷か、保険金を支払うかの判断は、この構成では代替できません。

07最小構成で試す方法

  1. 先月の物損の案件から30件を選ぶ(うち数件は、見積書と写真が合わず工場に確認した案件を入れる)
  2. 30件について、当時の担当者が書いた所見と、撮り直しを頼んだかどうかを集める
  3. 写真を Google AI Studio の画面に1件分ずつ貼り付ける
  4. 「写真ごとに、写真の種類、写っている部位と左右、損傷の程度を次の区分で答えてください。どの部位か決められない接写は unknown にしてください。写っていない部位は答えないでください。事故との関係や修理の方法は書かないでください」と指示する
  5. 出てきた所見を、当時の担当者の所見と突き合わせる

30件は必ずやってください。 照合の処理を作る前に、「写真から部位と程度を区分で取れるのか」を確かめます。

出てきた内容判断
部位と程度が当時の所見とおおむね合う照合の処理と確認の一覧の作成に進む
左右や前後の取り違えが多い向きの補正と左右の基準で直る。構成は有効
接写の部位がほとんど unknown撮影の案内が先。 全体の写真の撮り方を変える

3行目が出ることは珍しくありません。 失敗ではなく、担当者の時間が部位合わせに使われていた理由が、写真の側にあると分かったということです。 送信画面に「損傷部を、その部位の端が入るように撮ってください」と足し、次の月の写真で取り直します。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
写っていない部位が no_damage になる部位が写っていなければ答えないと指示し、照合の側で「写っていない」を作る
接写の部位を推測で埋めるunknown を認め、全体の写真の所見と合わせて照合の側で扱う
正面の写真だけ左右が逆になる運転席に座った向きを基準として指示する
写真が横倒しで渡る付帯情報の向きで回転させてから渡す
細かい擦り傷が見えない接写は media_resolution を high にする
申告に合わせた所見が出る受付記録の損傷の箇所をAIに渡さない
見積書の部位の表記が照合できない部位の対応表を作り、表記を足し続ける
撮り直しの案内が何通も届く1件分の判定が終わってから1通にまとめる
AIの文章がそのまま契約者に届く定型文から選ぶ。生成した文は送らない
古い傷・不正の疑いの一言が残る指示で禁じ、出力のスキーマにも欄を設けない
AIの区分がそのまま査定の記録に入る担当者の確定の後だけ損害調査システムへ書き込む

上の2行が、この構成の失敗のほとんどです。 どちらも、AIに「全部の部位に答えさせよう」とすることから起きます。答えない自由を与えるほど、照合の結果が信用できるものになります。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 契約者が撮った車の写真(ナンバープレート、写り込んだ人の顔や家、ほかの車を含むことがある)、事故の受付記録、見積書の明細、車両の情報です。

  1. AIに渡す範囲を、写真と車両の情報に限る … 契約者の氏名、連絡先、証券番号は、所見の判定に要りません。受付記録の損傷の箇所も渡しません(第7章)
  2. 有料の枠で使う … Gemini API の規約では、無料の枠で送った内容は製品の改善に使われ、人が読むことがあるとされています。有料の枠ではプロンプトや応答を製品の改善に使わず、禁止事項の違反を見つけるためなどに限って一定の期間記録するとされています。契約者の写真を扱う以上、有料の枠が前提です
  3. 契約者に届く言葉を、AIに書かせない … 撮り直しの案内は定型文から選びます。Gemini API の規約は、18歳未満が利用する、または利用しうるサービスでの利用を禁じています。この構成でAIの出力を受け取るのは社内の担当者だけで、契約者に直接AIの応答を返さない形にしています
  4. この構成は査定の判断を代替しない … 事故との関係、修理の方法、支払うかどうかは、技術アジャスターと担当者が決めます。AIの区分は所見の下書きで、担当者が確定したものだけが記録になります
  5. 疑いの言葉を記録に残さない … 不正の疑いを示す欄を出力に設けません。疑わしい案件は、担当者が自社の手順で扱います
  6. 写り込んだ第三者の情報を広げない … 人の顔や他人の車のナンバーが写った写真は、修理工場や技術アジャスター以外へ共有する前に隠します

誤りが起きた場合のリスクは、写っていない部位を損傷が無いと記録することと、見えた損傷の程度を誤ることの2つです。 前者は工場への不要な問い合わせと契約者の不信につながり、後者は severity_gap の空振りにつながります。前者は指示と照合の設計で、後者は担当者の確認で防ぎます。

10まず何から始めるか

1週目:部位の候補の一覧を作る

ボディの形(セダン、ミニバン、軽自動車、軽トラックなど)ごとに、部位の候補の一覧を作ります。見積書でよく使われる部位の表記を、件数の多い工場から集め、対応表の最初の版にします。

2週目:30件で試す

先月の案件から30件を選び、Google AI Studio に写真を貼って部位と程度を答えさせます。写っていない部位を no_damage で埋めていないか、左右を取り違えていないかを最優先で見ます。

3週目:照合の規則と撮り直しの定型文を決める

どの組み合わせを severity_gap とするかを、技術アジャスターと決めます。 あわせて、撮り直しの理由ごとの定型文を作り、契約者向けの文として社内の確認を通します。

4週目:写真の送信から確認の一覧までをつなぐ

送信の完了で受付の処理を動かし、写り具合と部位の所見を確認の一覧に書き出すところまで作ります。この時点では撮り直しの案内を自動で送らず、担当者が一覧を見て送ります。

2か月目: 撮り直しの案内を自動に切り替え、見積書の明細との照合を足します。not_photographed と severity_gap の件数を毎週数えます。3か月目以降: 担当者が直した所見の記録から部位の候補と指示を直し、1件16分が何分になったかを実測します。撮り直しの依頼が写真の到着の当日に出そろい、立会調査への切り替えの件数が見えるようになった時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-07/最終更新:2026-10-07
確認した内容情報源確認日
対応する画像の形式が PNG、JPEG、WEBP、HEIC、HEIF であること。画像を直接入れる場合、指示などと合わせたリクエスト全体が20MBに制限されること。大きいファイルや使い回す画像は File API でアップロードすること。物体の検出で位置を [ymin, xmin, ymax, xmax] の形で0〜1000に正規化して返し、元の画像の大きさに戻して使うこと。画像が正しく回転しているかを確かめるよう勧められていることGemini API: Image understanding2026-10-07
media_resolution が画像などに割り当てるトークンの上限を決めること。値が low・medium・high と、画像ごとの ultra_high であること。画像ごとの指定が Gemini 3 のモデルに限られること。細かい部分を読む用途に high が勧められていることGemini API: Media resolution2026-10-07
構造化出力を /v1beta/interactions の response_format に mime_type: "application/json" とスキーマを入れて指定すること。enum と required が使えること。出力がJSONとして正しくても値はアプリケーションの側で検証するよう案内されていることGemini API: Structured output2026-10-07
File API のファイルが48時間保存されること。ユーザーがアップロードしたファイルはダウンロードできないことGemini API: Files API2026-10-07
無料の枠では送った内容が製品の改善に使われ、人が読むことがあること。有料の枠ではプロンプトや応答を製品の改善に使わず、禁止事項の違反の検知などに限って一定の期間記録すること。18歳未満が利用する、または利用しうるサービスでの利用が禁じられていることGemini API Additional Terms of Service2026-10-07

損害調査の手順、技術アジャスターに回す基準、照合の規則は、自社の損害サービスの規程に合わせてください。 本記事は上の公開情報で確認できた範囲だけを扱っています。API の料金とモデルごとの性能は、Google の最新の案内を確認してください。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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