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他社特許の相談が知財部に来たときに、過去の鑑定書・社内見解・回避設計の検討記録を探し、似た相談でどう判断したかを根拠付きで返す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

開発部門から他社特許の相談が来たとき、同じ特許や似た構成要件を扱った過去の鑑定書・社内見解・回避設計の検討記録を探します。当時の結論と、その結論を支えた記載を引用付きで並べ、知財担当の検討の出発点にします。

サマリー
生成AI
Gemini
AIサービス
Azure AI/Google Vertex AI/OpenSearch
対象業界
IT・SaaS/製造
対象部門
法務/知財
対象業務
情報検索/比較検討
主な課題
判断に時間がかかる/属人化している/情報が見つからない
AIで行う処理
検索(RAG)
主な効果
判断支援/属人化解消/検索時間短縮
導入難易度
★★★★☆
実装レベル
本格構成
費用感
RAG・個別開発(大)
人間の確認
条件付き
現在工数
60h/月
AI導入後
21h/月
想定削減
65%
年間削減
468h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 受付フォームで相談を受け、案件の台帳に登録する
  2. 台帳とファイルサーバで、同じ特許番号や同じ競合の過去の案件を探す
  3. 見つかった鑑定書・見解・対比表を開き、どの構成要件が争点だったか、結論は何かを読む
  4. 見つからなければ、在籍の長い担当者や当時の担当者に覚えていないかを聞く
  5. 過去の判断を検討メモの冒頭にまとめ、今回の製品との違いを洗い出す
  6. 必要なら外部の弁理士に鑑定を依頼する
導入後(After)
  1. 人開発部門が受付フォームに、対象の特許番号、関係する製品、気になっている請求項を書いて出す
  2. 自動中継プログラムが、案件の台帳から対象の特許のファミリーの番号を引く
  3. 自動Vertex AI Search(Agent Search)で、ファミリーの番号で絞って同じ特許の過去の判断を探す
  4. 自動気になっている請求項の文で、絞り込みをかけずに似た構成要件の過去の判断を探す
  5. 自動2つの結果それぞれに、answer メソッドで当時の結論と根拠を引用付きでまとめさせる
  6. 自動監視の台帳と突き合わせ、当時から特許の状態が変わったもの(訂正・消滅など)に印を付ける
  7. 人知財担当が一覧と引用元を確かめ、今回の製品との違いを検討する
  8. 人必要なら当時の担当者や外部の弁理士に確かめ、相談への回答を書く
  9. 自動相談が終わったら、今回の検討の記録をメタデータ付きで取り込む
各工程の詳しい説明を読む
  1. 受付フォームで相談を受け、案件の台帳に登録する
  2. 台帳とファイルサーバで、同じ特許番号や同じ競合の過去の案件を探す
  3. 見つかった鑑定書・見解・対比表を開き、どの構成要件が争点だったか、結論は何かを読む
  4. 見つからなければ、在籍の長い担当者や当時の担当者に覚えていないかを聞く
  5. 過去の判断を検討メモの冒頭にまとめ、今回の製品との違いを洗い出す
  6. 必要なら外部の弁理士に鑑定を依頼する

(a)特許番号で探しても漏れる。 同じ発明が分割出願や外国出願として別の番号で出ていると、番号では過去の案件に当たりません。 台帳にファミリーの情報を持っていない年代の案件は、特に漏れます。

(b)似た特許の判断を探す手段がない。 今回の特許は初めてでも、同じ構成要件(たとえば「光量の補正をセンサーの温度に基づいて行う」)を別の特許で検討したことがあることは珍しくありません。その記録は、ファイル名にも台帳にも構成要件が書かれていないので、言葉で探せません。

(c)経緯を知っているのが当時の担当者だけ。 鑑定書に結論は書かれていても、なぜその鑑定を取ったか、結論を受けて設計をどう変えたかは、メールと担当者の記憶にしかありません。異動や退職で、その記憶は消えます。

(d)同じ検討を何度もやり直す。 過去の判断が見つからなければ、ゼロから対比表を作り、外部の鑑定を取り直します。見つかっていれば数時間で済んだ検討に、数週間と鑑定の費用をかけることになります。

  1. 【人】 開発部門が受付フォームに、対象の特許番号、関係する製品、気になっている請求項を書いて出す
  2. 【自動】 中継プログラムが、案件の台帳から対象の特許のファミリーの番号を引く
  3. 【自動】 Vertex AI Search(Agent Search)で、ファミリーの番号で絞って同じ特許の過去の判断を探す
  4. 【自動】 気になっている請求項の文で、絞り込みをかけずに似た構成要件の過去の判断を探す
  5. 【自動】 2つの結果それぞれに、answer メソッドで当時の結論と根拠を引用付きでまとめさせる
  6. 【自動】 監視の台帳と突き合わせ、当時から特許の状態が変わったもの(訂正・消滅など)に印を付ける
  7. 【人】 知財担当が一覧と引用元を確かめ、今回の製品との違いを検討する
  8. 【人】 必要なら当時の担当者や外部の弁理士に確かめ、相談への回答を書く
  9. 【自動】 相談が終わったら、今回の検討の記録をメタデータ付きで取り込む

3番目と4番目を分けているのが、この設計の分かれ目です。 同じ特許の判断は番号で絞った確実な検索、似た判断は文の近さによる手がかりで、重みがまったく違います。画面でも、上下に分けて出します。

9番目を最初から組み込むのも、意図してのことです。 取り込みを後回しにすると、この仕組みを入れた後の判断ほど見つからないという逆転が起きます。

02今回想定するシステム構成

構成図
【取り込み】過去の鑑定書・見解・回避設計・対比表(PDF・Word・Excel)
   ▼  案件の台帳から、特許番号・ファミリー・製品・結論・閲覧者のメタデータを作る
Cloud Storage + メタデータの JSONL(acl_info 付き)
   ▼【トリガー】相談の終了の登録
Vertex AI Search(Agent Search)── アクセス制御を有効にしたデータストア
   │  レイアウトパーサーで表と見出しを検出し、見出し付きで分割

【相談】受付フォーム(特許番号・製品・気になる請求項)
   ▼
中継プログラム(Cloud Run)── 台帳からファミリーの番号を引く
   ├─▶ answer メソッド(filter:ファミリーの番号)── 同じ特許の過去の判断
   └─▶ answer メソッド(filter なし)── 似た構成要件の過去の判断
   ▼
中継プログラム ── 監視の台帳で特許の状態の変化を確かめ、印を付ける
   ▼
【人】知財担当が引用元を確かめ、今回の検討へ
役割想定する製品代替候補
検索基盤Vertex AI Search(Agent Search。アクセス制御付きのデータストアと answer メソッド)Azure AI Search、Amazon OpenSearch Service
生成AIGemini(answer メソッドの回答の生成に使うモデル)─
連携中継プログラム(Cloud Run 上で動かす。台帳の照会、2つの検索、状態の照合)Cloud Functions
保管Cloud Storage(記録の原本と、メタデータの JSONL)─
台帳既存の案件の台帳と、他社特許の監視の台帳(読み取りのみ)─

案件の台帳とファイルサーバは、置き換えません。 記録の原本はこれまでどおり知財部が持ち、Cloud Storage には取り込み用の写しを置きます。最初の準備作業は、約1,200件の記録に、対象の特許番号・ファミリー・製品・結論・閲覧者を付けることです。

土台になるのは、Vertex AI Search です。 Google Cloud のドキュメントでは、Agent Search へ名称が変わりつつあると注記されています。

閲覧の制限は、データソースのアクセス制御で行います。 文書ごとに読める人とグループを acl_info で付け、利用者の身元に応じて検索の結果から外します。この設定は、データストアを作るときに有効にする必要があり、既存のデータストアで後から入れたり切ったりできません。

回答の生成は、answer メソッドで行います。 根拠を付ける設定(includeCitations)と、回答の文ごとの支持スコア(0〜1)に加え、支持スコアが基準に届かない回答を返さない設定(groundingSpec の filteringLevel)があります。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

取り込みと相談で、起点が2つあります。

取り込みは、知財部が案件の台帳で相談の終了を登録したことを起点にします。 結論が出るまでの記録は取り込みません。検討の途中のメモに書かれた仮の見立てが、過去の判断として検索に出るのを防ぐためです。 終了の登録を検知できない台帳なら、毎晩、終了日で絞った一覧を取りに行きます。

過去の約1,200件は、別に一括で取り込みます。 台帳から特許番号と結論が引けない古い記録は、知財部が1件ずつメタデータを付けてから入れます。 付けられないものは、結論を unknown にして入れ、画面にそう出します。

相談の側は、受付フォームの送信を起点にします。 対象の特許番号が書かれていない相談は、同じ特許の検索ができないので、受付の担当者が番号を確かめてから動かします。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
鑑定書外部の弁理士・弁護士の非侵害・無効などの鑑定。PDFファイルサーバ
社内見解のメモ知財部の検討の結論と理由。Word同上
回避設計の検討記録設計の変更案、評価、採用の結果。Word と PDF同上と開発部門の設計審査の記録
対比表請求項の構成要件と自社製品の構成の対比。Excel同上
案件の台帳案件の番号、対象の特許番号、ファミリー、競合、製品、結論、終了日、担当者知財部の表計算
監視の台帳他社特許の状態(存続・消滅)、訂正や審判の有無と日付知財部の表計算
新しい相談特許番号、関係する製品、気になっている請求項、開発部門の担当者受付フォーム

質を決めるのは、案件の台帳のファミリーの列です。 分割出願や外国出願の番号がファミリーとしてまとまっていないと、同じ発明の過去の判断が「似た判断」の側に落ち、重みを取り違えます。

回避設計の検討記録には、採用されたかどうかを必ず持たせます。 検討しただけで採用しなかった案が、「この特許は回避設計で解決した」という記録に見えてしまうためです。

Step3

データの取得方法を決める

取り込みでは、案件の台帳から JSONL を作ります。 1文書につき1行で、structData に台帳の項目、acl_info に読める人とグループを入れます。

{"id": "IP-2021-0143-op01",
 "structData": {"case_id": "IP-2021-0143", "doc_type": "external_opinion",
   "target_patent": "JP7XXXXXX", "family_id": "FAM-0388",
   "competitor": "C社", "product_line": "PL-03",
   "conclusion": "non_infringement", "design_around_adopted": "none",
   "closed_on": "2021-11-30"},
 "content": {"mimeType": "application/pdf",
   "uri": "gs://ip-archive/IP-2021-0143/opinion_01.pdf"},
 "acl_info": {"readers": [{"principals": [
   {"group_id": "[email protected]"},
   {"user_id": "[email protected]"}]}]}}

doc_type は external_opinion(鑑定書)/internal_view(社内見解)/design_around(回避設計)/claim_chart(対比表)の4つ、conclusion は non_infringement / invalidity / license / design_changed / unknown です。family_id・doc_type・conclusion・closed_on は、スキーマで索引可能にします。 絞り込みに使う項目は、索引可能にしておく必要があります。

閲覧者は、人ではなくグループで付けます。 ドキュメントでは、1つの文書に付けられる閲覧者は3,000までとされています。知財部のグループと、製品群ごとの開発の責任者のグループに分け、異動はグループの側で直します。

相談のときの同じ特許の検索は、ファミリーの番号で絞ります。

family_id: ANY("FAM-0388") AND NOT conclusion: ANY("unknown")

似た構成要件の検索には、絞り込みをかけません。 問い合わせの文には、受付フォームの「気になっている請求項」の文をそのまま入れます。特許番号を文に入れると、番号の一致が強く効いて、似た判断が出にくくなります。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. メタデータの点検 … 台帳とファイルの対応を取り、ファイルの無い行と行の無いファイルを一覧にして、取り込みを止めます
  2. ファミリーの付け直し … 同じ発明の分割出願・外国出願の番号を1つの family_id にまとめます。台帳に無いものは、知財部が公報を見て付けます
  3. 閲覧者の点検 … acl_info に知財部のグループが入っていない文書が無いかを見ます。入っていない文書は、知財部からも検索できなくなります
  4. 解析の設定 … レイアウトパーサーを使い、段落・表・リスト・見出しを検出させます。対比表の行(構成要件と自社の構成の組)が表として取れることが要です
  5. 分割の設定 … 分割の大きさは100〜500トークン(既定500)です。見出しを各部分に付ける設定(includeAncestorHeadings)を有効にします
  6. 古いスキャンの扱い … 紙で受け取った古い鑑定書はOCRのパーサーで読みます。PDFの最初の500ページまでしか読まれません

5番目は、データストアを作る前に決めます。 ドキュメントでは、文書の分割はデータストアを作った後で有効にも無効にもできないとされています。アクセス制御も同じで、作り直すと1,200件の取り込みとメタデータの点検をやり直すことになります。

includeAncestorHeadings が効くのは、鑑定書が「構成要件Aについて」「構成要件Bについて」と見出しで分けて書かれているからです。 見出しが無い断片は、どの構成要件の話か分からないまま引用されます。 既定は無効なので、明示して有効にします。

Step5

AIに処理させる

させるのは、過去の記録から当時の結論と、その結論を支えた記載を引用付きで並べることだけです。

させること中身
当時の結論の要約案件ごとに、結論の区分と、結論を支えた構成要件の議論
争点の構成要件の指摘どの構成要件を、どういう理由で充足しない・無効と判断したか
回避設計の結果採用された変更と、採用されなかった案の区別
当時の前提の書き出し当時の製品の世代、当時の請求項の版、鑑定を取った事務所
させないこと理由
今回の製品が当たるかの結論侵害の判断は知財部と弁理士・弁護士が行う
過去の結論の今回への当てはめ製品の構成も請求項も当時と違うことがある
似た特許の結論を今回の特許の結論として書くこと別の特許の判断である
引用の無い要約誰がどの文書でそう判断したかが追えなくなる
記録の書き手の評価当時の判断の良し悪しは検討の場で扱う

2行目が、いちばん起きやすい失敗です。 同じ特許について「非侵害」と結論した鑑定書が見つかると、AIは「本件も同様に非侵害と考えられます」と書きたくなります。当時と今回で製品の構成が1か所違えば、結論は変わりえます。 だから、当時の前提(製品の世代と請求項の版)を必ず並べさせます。

Step6

指示内容を固定する

answer メソッドの promptSpec.preamble に、次の指示を入れます。同じ特許の検索と似た判断の検索で、【検索の種類】だけを変えます。

あなたは製造業の知財部で、他社特許の相談を受けた担当者を手伝います。
回答を読むのは知財部の担当者で、引用された記録の原文を開いて確かめてから
今回の検討を始めます。

【検索の種類】{same_family | similar_elements}

【答え方】
1. 案件ごとに、案件番号、対象の特許番号、終了日、結論の区分を最初に書いてください。
2. 結論を支えた議論を、どの構成要件について、どういう理由で、という形で書いてください。
3. 回避設計の記録があれば、採用された変更と、採用されなかった案を分けて書いてください。
4. 当時の前提として、製品の世代と、検討した請求項の版(訂正の前か後か)が
   記録に書かれていれば、書いてください。書かれていなければ「記載なし」と書いてください。
5. 【検索の種類】が similar_elements のときは、各案件の最初に
   「別の特許についての判断です」と書いてください。

【厳守事項】
- 検索結果の記録に書かれていることだけで答えてください。
  特許法の一般的な知識や、記録に無い判例で補わないでください。
- 今回の相談の製品が特許に当たるか、当たらないかを書かないでください。
  「本件も同様に」「今回も非侵害と考えられる」のような文を書かないでください。
- 別の特許についての判断を、今回の特許の判断として書かないでください。
- 鑑定書と社内見解で結論が違うときは、両方をそのまま並べてください。
  どちらが正しいかを書かないでください。
- 根拠になる記録が見つからないときは、答えを作らないでください。

「本件も同様に」を名指しで禁じているのは、要約の最後の一文に出やすいからです。 禁じるのが判断だけだと、まとめの文として「同様の結論が見込まれます」と書きます。相談した開発部門にその文が転送されれば、知財部の回答として読まれます。

5番目の定型の一文は、画面で上下に分けるだけでは足りないからです。 一覧の一部が切り出されてメールに貼られると、上下の区別は消え、文の頭の一文だけが残ります。

Step7

出力形式を固定する

中継プログラムは、2つの answer メソッドの応答を、次の形にまとめて画面に渡します。

{
  "consult_id": "",
  "target_patent": "",
  "family_id": "",
  "same_family": {
    "status": "answered | skipped | none",
    "skipped_reasons": [],
    "answer_text": "",
    "cases": [
      { "case_id": "", "closed_on": "", "conclusion": "",
        "patent_status_changed": false, "change_note": "" }
    ],
    "citations": [ { "doc_id": "", "doc_type": "", "snippet": "", "uri": "" } ]
  },
  "similar_elements": {
    "status": "answered | skipped | none",
    "answer_text": "",
    "citations": []
  },
  "support_score": 0
}

1つ目の理由は、same_family と similar_elements を別の欄にできることです。 画面でもログでも、確実に引けた判断と、手がかりとしての判断が混ざりません。

2つ目は、patent_status_changed で当時からの変化を示せることです。 中継プログラムが監視の台帳を引き、当時の終了日より後に訂正や審判、権利の消滅があれば true にして、change_note に台帳の記載を写します。請求項が訂正されていれば、当時の対比表はそのままでは使えません。

3つ目は、status で「無かった」と「答えなかった」を分けられることです。 none は検索で1件も当たらなかったもの、skipped は当たったが答えを返さなかったものです。後者は、記録を人が開けば使えることがあります。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
受付フォーム送信の通知相談の特許番号・製品・請求項を受け取る
案件の台帳読み取りファミリーの番号、過去の案件の結論
監視の台帳読み取り他社特許の状態の変化
Vertex AI Search1回ごとの取り込み終了した案件の記録と、acl_info 付きのメタデータ
Vertex AI Searchanswer メソッド同じ特許と似た判断の、2つの問い合わせ
知財の画面中継プログラムの画面一覧、引用、原文へのリンク、状態の変化の印

answer メソッドは、相談した開発部門の人ではなく、知財部の担当者の身元で呼びます。 アクセス制御は呼んだ人の身元で効くので、開発部門の人の身元で呼ぶと、その人に見せてよい記録だけで回答が作られます。 回答を開発部門に返すのは知財部の担当者です。

根拠の弱い回答は返させません。 groundingSpec の filteringLevel を FILTERING_LEVEL_HIGH にすると、基準に届かない回答は返らず、answerSkippedReasons に LOW_GROUNDED_CONTENT が入ります。その場合も、検索の段階で当たった記録の一覧は画面に出します。

検索の段階で返す件数は、既定の10件のままで始めます。 answer メソッドの検索の段階の件数は既定が10、上限が25です。同じ特許の検索は絞り込みが効いているので10件で足り、似た判断の検索で件数を増やすと、関係の薄い案件まで要約に混ざります。 検索結果は文書の単位ではなく、分割した部分の単位(searchResultMode の CHUNKS)で返させます。鑑定書のどの構成要件の段落を根拠にしたかを、引用で示すためです。

続けて聞くときは、セッションを使います。 answer メソッドは前の問い合わせのセッションの番号を受け取り、「その案件で、回避設計は採用されたか」のような続きの質問に答えられます。

Step9

人が確認する

  1. 同じ特許の判断を先に読む … same_family の引用元を開き、結論と争点の構成要件を確かめます
  2. 当時の前提を今回と比べる … 製品の世代、請求項の版、patent_status_changed を見て、当時の結論の前提が今回も成り立つかを検討します
  3. 似た判断は手がかりとして読む … similar_elements は、構成要件の議論の組み立て方の参考にします
  4. 当時の担当者に確かめる … 経緯が記録に無いものは、当時の担当者に聞きます
  5. 回答を書く … 今回の検討の結論は、知財部が自分の言葉で書きます

目標は、36件をならして1件35分です。 同じ特許の判断の確認に15分、似た判断の確認に10分、前提の比較と担当者への確認に10分を見ています。35分を大きく超える月は、unknown の記録が多く当たっているか、ファミリーの付け方に漏れがあります。

Step10

例外に対処する

起きること対応
相談に特許番号が無い受付の担当者が番号を確かめてから動かす
台帳にファミリーが無い番号だけで絞って探し、ファミリーの付け直しを知財部の作業に積む
同じ特許の判断が無いnone と出す。似た判断を同じ特許の欄に上げない
当時から請求項が訂正されているpatent_status_changed を true にし、対比表を作り直す前提で扱う
鑑定書と社内見解で結論が違う両方を並べる。どちらを採るかは知財部が決める
回答がスキップされた検索で当たった記録の一覧だけを出し、原文を開いてもらう
acl_info の無い文書が見つかった取り込みを止め、閲覧者を付けてから入れ直す
記録が見えないと言われた呼んだ人の身元と、文書の閲覧者のグループを確かめる
Vertex AI Search が応答しない台帳の検索とファイルサーバで従来どおり探す

上から3行目が、いちばん大事な例外です。 同じ特許の判断が無いときに、似た判断で欄を埋めると、初めての特許なのに「過去に検討済み」と読まれます。

Step11

記録を残す

  • 相談の番号、特許番号、ファミリーの番号、受け付けた日時
  • 2つの answer メソッドの要求(絞り込みの式、preamble の版)と応答の全文
  • 支持スコアと、スキップの理由
  • 監視の台帳から写した状態の変化
  • 知財担当が開いた引用元と、今回の検討で参照した過去の案件
  • 取り込んだ記録の番号、メタデータ、acl_info の内容と取り込んだ日時

5つ目は、次の取り込みのメタデータになります。 今回の検討でどの過去の案件を参照したかを残せば、同じ特許の次の相談で、判断のつながりをたどれます。

04実装レベルの3段階

最小構成:手で作った一覧と社内見解をAIサービスに貼り、2種類の判断を並べさせる / 1社分の試し
半自動化:上記+社内見解と対比表をデータストアに入れ、知財部だけが使える検索にする / 言葉と番号による過去の案件の検索
本格構成:上記+鑑定書の取り込み、文書ごとの閲覧者、2つの answer メソッド、状態の変化の印、終了時の自動の取り込み / 相談を受けてから根拠付きの一覧が出るまで

半自動化では、鑑定書を入れません。 閲覧者を付ける準備ができていない段階で鑑定書を入れると、知財部の中でも見るべきでない人に見えてしまうことがあります。 本格構成との差は、鑑定書と閲覧者の制御で、本記事の想定は本格構成です。 段階を飛ばさないでください。 半自動化の数か月で、ファミリーの付け漏れと、unknown の多い年代が分かります。そこを直してから鑑定書を入れます。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
6 名
月間件数
36 件
1件あたり現在時間
100 分
1件あたり導入後時間
35 分
現在  36件 × 100分 ÷ 60 = 60 時間/月
導入後 36件 × 35分 ÷ 60 = 21 時間/月
月間削減時間
39h
削減率
65%
年間削減時間
468h
年間金額換算(時間単価5,000円)
234万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 開発部門から「この他社特許に当たらないか」の相談が毎月数十件あり、過去に取った鑑定書や知財部の見解、回避設計の検討記録がファイルサーバやメールに散らばっている製造業・ソフトウェア企業。同じ競合の同じ特許ファミリーについて、何年かおきに別の製品で同じ相談が来る場合。過去の記録に、対象の特許番号と製品と結論を付けて整理し直せる場合。
向いていない
  1. 他社特許の相談が年に数件で、担当者が全件を覚えている場合。過去の鑑定書や見解を文書として残しておらず、口頭の判断だけで済ませてきた場合。鑑定書を社内のクラウドに置くことが、契約や社内の規程で認められていない場合。なお、新しい相談の製品が他社特許に当たるかどうかの判断は弁理士・弁護士と知財部が行うもので、この構成では代替できません。

07最小構成で試す方法

  1. 同じ特許について何度か相談が来た競合を1社選び、その競合の過去の案件を30件集める
  2. 30件それぞれに、対象の特許番号、ファミリー、製品、結論を手で付けた一覧を作る
  3. 最近の相談を10件選び、当時、どの過去の案件を参照したかを担当者に聞く
  4. 30件の社内見解のメモを、社内で利用が認められたAIサービスに貼り、10件の相談ごとに「同じ特許の判断」と「似た構成要件の判断」を分けて並べさせる
  5. 「今回の製品が当たるかを書かないでください。別の特許の判断には、そうと書いてください」と指示する
  6. 出てきた一覧と、担当者が参照した過去の案件を突き合わせる

鑑定書そのものは、この段階では貼りません。 外部の事務所との契約と社内の規程で、外部のサービスに入れてよいかを先に確かめてください。

出てきた内容判断
担当者が参照した案件が並ぶメタデータの整備とデータストアの構築に進む
同じ特許の案件が漏れるファミリーの付け方の問題。 台帳を先に直す
「本件も同様に」が混ざる指示の書き方で直る。構成は有効

2行目が出ることは珍しくありません。 失敗ではなく、これまで探すのに時間がかかっていた理由が1つ分かったということです。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
同じ特許の過去の判断が出ない分割・外国出願が別番号。ファミリーの番号で絞る
似た判断が今回の結論のように読める欄を分け、各案件の頭に「別の特許についての判断です」を入れる
過去の結論をそのまま当てはめる当時の製品の世代と請求項の版を並べさせ、状態の変化を台帳で示す
後からアクセス制御を入れられないデータストアの作成時に有効にする。 既存のものでは切り替えられない
後から分割の設定を変えられない作成時に決め、includeAncestorHeadings を有効にする
閲覧者が多すぎて付けられない1文書3,000まで。人ではなくグループで付ける
知財部から見えない文書があるacl_info に知財部のグループが入っているかを取り込み前に点検する
開発部門の人に見えない記録で回答が作られる知財部の担当者の身元で呼ぶ
根拠の弱い要約が返るfilteringLevel を高にし、スキップされたら記録の一覧だけを出す
採用しなかった回避設計が解決策に見える記録に採用の有無を持たせ、指示で分けさせる

上の3行が、この構成の失敗のほとんどです。 どれも「過去の判断」の重みを取り違えることで起き、取り違えた結果は、開発部門への回答として外に出ます。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 外部の弁理士・弁護士の鑑定書、知財部の見解、自社製品の未公開の仕様と設計の変更、競合の特許についての評価です。会社にとって最も外に出してはならない種類の記録です。

  1. 閲覧者を文書ごとに付ける … データソースのアクセス制御で、知財部と、その製品群の責任者だけが検索の結果に出るようにします。設定はデータストアの作成時に決めます
  2. 身元の提供元を1つに決める … ドキュメントでは、身元の提供元は場所ごとに1つしか選べないとされています。社内の認証を Google の身元にするか、外部の提供元を連携させるかを、最初に決めます
  3. 鑑定書をクラウドに置けるかを確かめる … 外部の事務所との契約や社内の規程に、鑑定書の保管場所や第三者のサービスでの扱いの定めがないかを確かめます
  4. 判断を生成させない … 侵害の判断は知財部と弁理士・弁護士が行います。AIの要約が開発部門に転送されても判断と読まれないよう、定型の一文と禁止事項を指示に入れます
  5. ログにも閲覧の制限をかける … 応答の全文には、鑑定書の引用が入ります。ログの保管先も知財部だけが読めるようにします
  6. 取り込みを止める条件を決める … acl_info が無い、知財部のグループが無い文書は取り込みません

誤りが起きた場合のリスクは、見てはいけない人に鑑定書が見えることと、過去の結論を前提を比べずに使うことの2つです。 前者は作成時の設定と閲覧者の点検、後者は欄の分け方と状態の変化の印で防ぎます。

10まず何から始めるか

1週目:案件の台帳にファミリーの列を足す

案件の台帳に、ファミリーの番号と、回避設計の採用の有無の列を足します。全件を一度に埋める必要はありません。相談の多い競合3社の案件から埋めます。

2週目:1社分で試す

1社の過去の案件30件と最近の相談10件で、社内見解をAIサービスに貼って2種類の判断を並べさせます。担当者が参照した案件と突き合わせ、「本件も同様に」が出ていないかを最優先で見ます。

3週目:閲覧者と保管の取り決めを決める

どの記録を誰が見てよいかを、知財部長と法務で決めます。 鑑定書をクラウドに置けるかも、ここで確かめます。

4週目:データストアの設定を決めて作る

アクセス制御、パーサー、分割、includeAncestorHeadings を決めてデータストアを作り、社内見解と対比表から取り込みます。

2か月目: 2つの answer メソッドと状態の変化の印を足し、知財部だけで使います。3か月目以降: 鑑定書を閲覧者付きで取り込み、相談の終了時の自動の取り込みをつなぎます。1件100分が何分になったかを実測し、同じ特許の次の相談で、前回の判断がすぐに出てきた時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-07/最終更新:2026-10-07
確認した内容情報源確認日
データソースのアクセス制御で、利用者の身元に応じて検索の結果を制限できること。Cloud Storage の非構造化データでは acl_info の readers と principals(group_id・user_id)で閲覧者を付け、データストアの作成時に aclEnabled を有効にすること。既存のデータストアで切り替えられないこと。1文書あたり閲覧者3,000まで、身元の提供元は場所ごとに1つであることGoogle Cloud: Set up data source access control2026-10-07
Vertex AI Search が Agent Search へ改称中であること。answer メソッドの includeCitations、promptSpec.preamble、filter、セッションによる続きの質問、answerSkippedReasons。検索の段階で返す件数が既定10・上限25で、searchResultMode で文書と分割した部分を選べること。支持スコアが0〜1であること。groundingSpec の filteringLevel(FILTERING_LEVEL_LOW/FILTERING_LEVEL_HIGH)で基準に届かない回答を返さず、LOW_GROUNDED_CONTENT が入ることGoogle Cloud: Get answers and follow-ups(answer method)2026-10-07
絞り込みの ANY()、日付の比較、AND/OR/NOT の組み合わせ。絞り込みに使う項目を索引可能にする必要があることGoogle Cloud: Filter search by metadata2026-10-07
レイアウトパーサーが段落・表・リスト・見出しを検出すること。分割の大きさが100〜500トークン(既定500)で、includeAncestorHeadings の既定が無効であること。分割がデータストアの作成後に切り替えられないこと。OCRのパーサーがPDFの最初の500ページまでを読むこと。レイアウトとOCRのパーサーに Document AI の機能の料金がかかることGoogle Cloud: Parse and chunk documents2026-10-07

他社特許に当たるかどうかの判断は、知財部と弁理士・弁護士が行ってください。 本記事は Google Cloud の公開ドキュメントで確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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