火災保険の保険金請求で届くり災証明書・修理見積書・被害写真の説明書きを読み取り、事故日・被害箇所・見積額を受付票にそろえて、足りない書類を案内する
火災保険の請求で契約者から届くり災証明書・修理見積書・被害写真の説明書きを読み取り、事故日・被害箇所・見積額を受付票の項目にそろえます。書類どうしの食い違いと、足りない書類を拾って案内の下書きまで作ります。
- 生成AI
- ChatGPT/Claude/Gemini
- AIサービス
- AWS Textract/Azure AI/Google Document AI
- 対象業界
- 不動産/保険/金融
- 対象部門
- カスタマーサポート
- 対象業務
- データ入力・転記/内容確認・チェック
- 主な課題
- 人手が足りない/入力作業が多い/確認ミスが多い
- AIで行う処理
- 読み取り(OCR)
- 主な効果
- 入力漏れ削減/対応スピード向上/工数削減
- 導入難易度
- ★★★☆☆
- 実装レベル
- 本格構成
- 費用感
- API連携(中)
- 人間の確認
- 条件付き
01導入前 / 導入後の業務フロー
- 契約者が請求の提出画面から書類をアップロードする(郵送のものは受付でスキャンする)
- 担当者が請求の管理の仕組みで新しい請求を開き、添付ファイルを1つずつ開く
- ファイルごとに、り災証明書・見積書・写真・その他のどれかを見分ける
- り災証明書から火災の発生日時と場所を、見積書から工事の内容と合計額を、写真の説明書きから被害箇所を読み、受付票に書く
- 契約者が申告した事故日と、書類の日付が合っているかを見る
- 事故の種類ごとの必要書類の一覧と見比べて、足りない書類を書き出す
- 足りない書類があれば、契約者に案内のメールを書いて送る
- 人契約者が請求の提出画面から書類をアップロードする。郵送のものは受付でスキャンして同じ場所に置く
- 自動Cloud Storage への保存を起点に関数が動き、ファイルの形式・サイズ・ページ数・解像度を確かめる
- 自動Enterprise Document OCR で全ファイルの文字と、手書きかどうか、画像の品質の点数を取る
- 自動Claude が文字から書類の種類を見分ける(り災証明書/見積書/写真の説明書き/その他)
- 自動り災証明書と見積書は Form Parser でも読み、項目と表を取る
- 自動Claude が、受付票の項目(事故日、被害の場所と部位、見積の明細と合計)に値をそろえ、根拠の文字列を付ける
- 自動関数が、日付の前後関係と金額の合計の検算を規則で行い、食い違いに印を付ける
- 自動関数が、事故の種類ごとの必要書類の一覧と照らし、不足(書類が無い)と撮り直し(読めない)を分けて洗い出す
- 自動Claude が、契約者への案内の下書きを作る
- 人受付の担当が受付票の案と印の付いた項目を確かめ、確定する
- 人担当が案内の下書きを直して送り、請求を査定に回す
各工程の詳しい説明を読む
- 契約者が請求の提出画面から書類をアップロードする(郵送のものは受付でスキャンする)
- 担当者が請求の管理の仕組みで新しい請求を開き、添付ファイルを1つずつ開く
- ファイルごとに、り災証明書・見積書・写真・その他のどれかを見分ける
- り災証明書から火災の発生日時と場所を、見積書から工事の内容と合計額を、写真の説明書きから被害箇所を読み、受付票に書く
- 契約者が申告した事故日と、書類の日付が合っているかを見る
- 事故の種類ごとの必要書類の一覧と見比べて、足りない書類を書き出す
- 足りない書類があれば、契約者に案内のメールを書いて送る
(a)開くまで何の書類か分からない。 ファイル名が手がかりにならないので、3番目だけで1件あたり数分かかります。
(b)事故日の食い違いを見落とす。 契約者が申告した事故日、り災証明書の火災の発生日、見積書に書かれた調査日は、本来は前後の関係が決まっています。 見積書の調査日が事故日より前になっていれば何かの誤りですが、1件ずつ見比べる余裕がない日は、転記するだけで次に進みます。
(c)足りない書類の連絡が遅れる。 6番目は担当者の記憶に頼っています。慣れた担当者は1分で終わり、異動してきたばかりの担当者は一覧を開きながら10分かかります。 連絡が遅れた分だけ、査定に入れる日が後ろにずれます。
(d)読めない書類を「無い」と扱う。 写真が暗い、反射している、説明書きが小さい。読めないものを「記載なし」として案内すると、契約者は同じものを撮り直して送ってきます。 2往復目の連絡は、契約者の不満にそのままつながります。
- 【人】 契約者が請求の提出画面から書類をアップロードする。郵送のものは受付でスキャンして同じ場所に置く
- 【自動】 Cloud Storage への保存を起点に関数が動き、ファイルの形式・サイズ・ページ数・解像度を確かめる
- 【自動】 Enterprise Document OCR で全ファイルの文字と、手書きかどうか、画像の品質の点数を取る
- 【自動】 Claude が文字から書類の種類を見分ける(り災証明書/見積書/写真の説明書き/その他)
- 【自動】 り災証明書と見積書は Form Parser でも読み、項目と表を取る
- 【自動】 Claude が、受付票の項目(事故日、被害の場所と部位、見積の明細と合計)に値をそろえ、根拠の文字列を付ける
- 【自動】 関数が、日付の前後関係と金額の合計の検算を規則で行い、食い違いに印を付ける
- 【自動】 関数が、事故の種類ごとの必要書類の一覧と照らし、不足(書類が無い)と撮り直し(読めない)を分けて洗い出す
- 【自動】 Claude が、契約者への案内の下書きを作る
- 【人】 受付の担当が受付票の案と印の付いた項目を確かめ、確定する
- 【人】 担当が案内の下書きを直して送り、請求を査定に回す
10番目が、この設計の分かれ目です。 担当は全ファイルを開くのではなく、受付票の案と、印の付いた項目の根拠だけを見ます。 印のない項目は、根拠の文字列を流し読みして確定します。全ファイルを開く設計にすると、①の8分はほとんど減りません。
7番目と8番目を規則にしているのも、意図してのことです。 日付の前後や合計の検算、必要書類の一覧との照合は、答えが1つに決まる作業です。AIに任せると、たまに「おおむね合っている」と書きます。決まった答えのある確認は規則で行い、AIには読み取った値をそろえることだけをさせます。
02今回想定するシステム構成
契約者の提出画面(PDF・写真)/郵送のスキャン ▼【トリガー】Cloud Storage への保存(object finalized) Cloud Run functions ── 形式・サイズ・ページ数・解像度の確認 ▼ Google Document AI ├─ Enterprise Document OCR(全ファイル。手書き・画像の品質の点数) └─ Form Parser(り災証明書・見積書。項目と表) ▼ Claude API ── 書類の種類の見分けと、受付票の項目への値のそろえ(根拠付き) ▼ Cloud Run functions ── 日付の前後・合計の検算・必要書類の照合(規則) ▼ Claude API ── 不足書類と撮り直しの案内の下書き ▼ 保険金請求の管理の仕組み(受付票の案) ▼【人】受付の担当が確定 → 案内を送る → 査定へ
| 役割 | 想定する製品 | 代替候補 |
|---|---|---|
| OCR | Google Document AI(Enterprise Document OCR と Form Parser) | Azure AI Document Intelligence、AWS Textract(英文の書類に限る) |
| 生成AI | Claude API(書類の種類の見分け、受付票の項目へのそろえ、案内の下書き) | Gemini API、OpenAI API |
| 連携 | Cloud Run functions(起動、規則の確認、受付票への書き込み) | Cloud Workflows |
| 保管 | Cloud Storage(届いた書類と読み取り結果) | ― |
| 請求管理 | 既存の保険金請求の管理の仕組み | ― |
保険金請求の管理の仕組みと契約の台帳は、新しく足すものではありません。 この構成は受付票の「案」を書き込むだけで、確定は担当が行います。契約の台帳には書き込みません。
読み取りは2つのプロセッサを使い分けます。 Form Parser は、OCRの文字に加えてキーと値のペア、表、チェックボックス、一般的なエンティティ(日付、住所、金額、組織など)を取り出すプロセッサで、v2.0 は200以上の言語に対応します。日本語も対応言語に入っていますが、日本語の手書きは対象外です。 Enterprise Document OCR は200以上の言語の文字を読み、日本語の手書きにも対応しています。
Enterprise Document OCR には、画像の品質を点数で返す機能があります。 読みやすさを機械学習で評価し、0〜1の点数を返します。点数が0.5を下回ると、ぼやけ、ノイズ、暗さ、薄い文字、小さすぎる文字、書類の見切れ、文字の見切れ、反射の8つの欠陥ごとに可能性が付きます。第1章の「読めなかった」を見分ける材料は、この点数です。
起動は Cloud Storage のイベントです。 Cloud Run には、Cloud Storage のバケットでオブジェクトが作成・上書きされたとき(google.cloud.storage.object.v1.finalized)に関数やサービスを呼び出す仕組みがあります。関数とバケットは同じ Google Cloud のプロジェクトに置く必要があります。
03どうやって実装するのか
処理の起点を決める
提出画面からのアップロードで書類が Cloud Storage に保存されたことを起点にします。 バケットの中は請求番号ごとのフォルダに分け、ファイルが1つ保存されるたびにイベントが届きます。
ただし、1ファイルごとに受付票を作るわけではありません。 契約者は書類を数回に分けて送ってくることがあり、最初の1枚で受付票を作ると、残りが届く前に「不足」と判定してしまいます。 そこで、ファイルごとの読み取りはイベントのたびに行い、受付票の案を作るのは「提出を完了する」ボタンが押されたときにします。提出画面にそのボタンが無い場合は、最後のファイルから30分たったところで受付票を作ります。
郵送で届いた書類は、受付でスキャンして同じ請求番号のフォルダに置きます。経路で処理を分けません。 分けると、郵送の請求だけ食い違いの確認が抜ける期間ができます。
入力データを集める
| データ | 中身 | 取得元 |
|---|---|---|
| 請求の書類 | り災証明書、修理見積書、被害写真と説明書き、その他(請求書、委任状など)。PDFまたは写真 | Cloud Storage の請求番号のフォルダ |
| 請求の申告 | 契約者が提出画面で書いた事故日、事故の種類、被害の概要 | 保険金請求の管理の仕組み |
| 契約の情報 | 証券番号、保険の対象(建物/家財)、所在地 | 契約の台帳 |
| 必要書類の一覧 | 事故の種類と保険の対象ごとに求める書類 | 自社で用意する一覧 |
質を決めるのは、いちばん下の必要書類の一覧です。 これが担当者の記憶にしか無いと、不足の洗い出しを規則にできません。一覧は、自社の請求の案内に載っている必要書類をそのまま表にしたもので十分です。
契約の所在地は、被害の場所の照合に使います。 り災証明書の火災の場所と、契約の保険の対象の所在地が違えば、別の建物の書類が混ざっているかもしれません。ここもAIではなく規則で見ます。
データの取得方法を決める
読み取りは、関数から Document AI のプロセッサを呼ぶだけです。すべてのファイルを先に Enterprise Document OCR に通し、そのあと種類に応じて Form Parser にも通します。
| 取るもの | どこから | 何に使うか |
|---|---|---|
| 全文の文字と読み順 | Enterprise Document OCR | 書類の種類の見分け、写真の説明書きの読み取り |
| 手書きかどうか | Enterprise Document OCR の書体の情報 | 手書きの説明書きの判別 |
| 画像の品質の点数と欠陥の種類 | Enterprise Document OCR(enableImageQualityScores) | 「読めなかった」の判定 |
| キーと値のペア | Form Parser | り災証明書の項目(発生日時、場所、り災の程度など) |
| 表 | Form Parser | 見積書の明細(工事の内容、数量、単価、金額) |
| 日付・住所・金額のエンティティ | Form Parser | 項目の値の候補 |
画像の品質の点数は、既定では返りません。 リクエストの processOptions.ocrConfig.enableImageQualityScores を有効にします。公式の説明では、この機能はOCRの処理と同じくらいの時間を処理に足すとされています。全ファイルで有効にすると時間が倍になるので、写真(JPEG・PNG)だけで有効にし、PDFでは切る運用にします。
言語のヒントも付けます。 processOptions.ocrConfig.hints.languageHints に ja を入れると、データの性質に合わせて読み取りの精度を上げられるとされています。
AIへ渡す前に整形する
- 形式の確認 … PDF、GIF、TIFF、JPEG、PNG、BMP、WebP のいずれかであることを確かめます。HEIC の写真は JPEG に変換します
- サイズとページ数の確認 … オンライン処理は1ファイル40MBまで、Form Parser は15ページまでです。超えるものはバッチ処理(Form Parser は100ページまで)に回します
- 解像度の確認 … スキャンは200dpi以上が最低、300dpi以上が最適とされています。郵送の書類は300dpiでスキャンします
- 画素数の確認 … 画像は1ページ4,000万画素までです。スマートフォンの写真で超えるものは縮小します
- 写真の向きの補正 … 横向きに撮られた見積書は、読み順が崩れるので向きを直してから読ませます
- 重複の検知 … 同じファイルが2回アップロードされたものは、内容の一致で見つけて1つにします
3番目と5番目を軽く見ないでください。 見積書の明細は表の構造で読むので、表の罫線が斜めに写っているだけで、行と列が崩れます。 崩れた表から合計を読むと、第7章の検算で食い違いが大量に出ます。
AIに処理させる
AIの仕事は3つです。書類の種類の見分け、受付票の項目へのそろえ、案内の下書きです。
| させること | 中身 |
|---|---|
| 書類の種類の見分け | OCRの文字から、り災証明書/修理見積書/写真の説明書き/その他のどれかを決める。複数ページで1つの書類なら束ねる |
| 事故日のそろえ | り災証明書の発生日時、見積書の調査日、写真の説明書きの撮影日を、それぞれ別の項目として取り出す |
| 被害の場所と部位のそろえ | 「2階北側の洋室の天井」「キッチンのコンロ周りの壁」のような記載を、階・部屋・部位に分ける |
| 見積の明細と合計 | 表から工事の内容・数量・単価・金額を取り、合計・消費税・税込合計を別々の項目に入れる |
| 根拠の文字列 | 項目ごとに、どの書類のどの文字列から取ったかを付ける |
| 案内の下書き | 規則が出した不足と撮り直しの一覧から、契約者向けの文面を作る |
| させないこと | 理由 |
|---|---|
| 保険金を支払うかどうか | 査定の担当が約款に照らして決める |
| 損害の額の見積り | 見積書の金額を読むだけ。妥当かどうかは査定で見る |
| 日付の食い違いの理由づけ | 規則で印を付け、理由は担当が契約者に確かめる |
| 読めない文字の推測 | 品質の点数が低いところを「たぶん」で埋めない |
| 合計の計算による補完 | 合計が無い見積書に、明細を足して合計を入れない |
2行目と5行目がいちばん起きやすい失敗です。 見積書の合計が読めないと、AIは明細を足し上げて合計を入れようとします。その値が見積書に書かれた金額として受付票に載ると、査定はそれを前提に進みます。 合計は「書かれている値」だけを取り、検算は関数が別に行います。
指示内容を固定する
あなたは損害保険会社の保険金請求の受付担当です。
火災保険の請求で届いた書類のOCR結果から、受付票の項目に値をそろえます。
OCR結果に書かれていることだけを根拠にしてください。推測で埋めないでください。
【書類の種類】
- fire_certificate:消防署長が交付するり災証明書
- repair_estimate:修理業者の見積書
- photo_note:被害写真の台紙や余白に書かれた説明書き
- other:上のどれでもないもの(請求書、委任状、本人確認書類など)
【取り出す項目】
1. 事故日の候補(書類ごとに別々に。発生日時、調査日、撮影日を混ぜない)
2. 被害の場所(階、部屋)と部位(天井、壁、床、設備など)
3. 見積の明細(工事の内容、数量、単価、金額)と、
小計・消費税・税込合計(書かれているものだけ)
4. り災証明書の発行者と、り災の程度の記載
【厳守事項】
- 記載がなければ value を空にし、status を missing にしてください。
- 品質の点数が0.5未満の領域から取った値は、status を unreadable にしてください。
読めた部分から前後を推測して埋めないでください。
- 見積の合計が書かれていなければ、明細を足して合計を作らないでください。
- 日付の前後が合わなくても、どちらが正しいかを書かないでください。
- 保険金の支払の可否、損害の額の妥当性、事故の原因については書かないでください。
- 各項目に、根拠にした書類のファイル名とページ、文字列をそのまま付けてください。
- 電子申請で交付されたり災証明書には押印がありません。
押印が無いことを不備として扱わないでください。
【請求の申告】{claim_declaration}
【契約の情報(保険の対象と所在地)】{policy}
【OCR結果(ファイルごと、品質の点数付き)】{ocr_results}
「押印が無いことを不備として扱わない」は、書いておかないと起きます。 名古屋市の案内では、電子申請で交付されるり災証明書の電子データには押印が無いとされています。AIは「公的な証明書には押印がある」と考えて、押印の欠落を指摘しがちです。
「発生日時、調査日、撮影日を混ぜない」も同じです。 書類ごとの日付を1つの「事故日」にまとめさせると、どの書類の日付だったかが消え、食い違いを見つける材料がなくなります。
出力形式を固定する
次の形のJSONで受け取ります。 Claude の構造化出力(output_config.format に json_schema を指定)を使い、項目の名前と型を固定します。
{
"claim_id": "FC-2026-104233",
"documents": [
{ "file": "IMG_0412.jpg", "pages": [1], "doc_type": "repair_estimate",
"quality_score": 0.82, "handwritten": false }
],
"dates": [
{ "source_doc": "fire_certificate", "kind": "occurred_at",
"value": "2026-09-18", "status": "ok | missing | unreadable", "evidence": "" }
],
"damage_locations": [
{ "floor": "2F", "room": "洋室(北)", "part": "天井",
"source_doc": "photo_note", "status": "ok", "evidence": "" }
],
"estimate": {
"lines": [ { "item": "", "qty": "", "unit_price": "", "amount": "" } ],
"subtotal": "", "tax": "", "total": "",
"total_status": "ok | missing | unreadable"
},
"certificate": { "issuer": "", "damage_level_text": "" }
}
1つ目の理由は、dates を書類ごとに並べられることです。 申告の事故日、り災証明書の発生日、見積書の調査日、写真の撮影日を同じ配列に入れ、前後関係の確認を関数で行います。 たとえば調査日が発生日より前なら印を付けます。
2つ目は、status で「書かれていない」と「読めなかった」を分けられることです。 関数は missing の書類を「不足」、unreadable の書類を「撮り直し」に振り分けます。2つを混ぜないことが、案内の文面を正しくする前提です。
3つ目は、見積の合計を検算できることです。 lines の金額を関数が足し、subtotal と比べます。合わなければ、表の読み取りが崩れているか、見積書そのものの誤りです。 どちらかは担当が画像で確かめます。
構造化出力の制約にも注意します。公式の説明では、数値の範囲(minimum・maximum)や文字数の制約は使えないとされています。金額は文字列で受け、数値への変換と範囲の確認は関数の側で行います。
関数が規則で出す確認の結果は、次の形で受付票の案に添えます。
| 確認 | 規則 | 印 |
|---|---|---|
| 日付の前後 | 申告の事故日 ≦ 調査日、発生日 ≦ 撮影日 | date_order |
| 申告とり災証明書 | 申告の事故日とり災証明書の発生日が同じ日 | date_mismatch |
| 所在地 | り災証明書の場所と契約の所在地の一致 | location_mismatch |
| 見積の検算 | 明細の合計 = 小計、小計+消費税 = 税込合計 | estimate_sum |
| 必要書類 | 事故の種類ごとの一覧と、doc_type の照合 | missing_doc/retake |
システムへ連携する
| つなぎ先 | 方式 | 内容 |
|---|---|---|
| Cloud Storage | オブジェクトの作成のイベント | 書類の保存を検知して関数を起動する |
| Google Document AI | API呼び出し | 文字・手書き・品質の点数、項目と表を返す |
| Claude API | API呼び出し | 種類の見分け、項目のそろえ、案内の下書き |
| 契約の台帳 | 読み取り | 保険の対象と所在地を引く |
| 保険金請求の管理の仕組み | 受付票の案と印の書き込み | 担当の確認の一覧に載せる |
受付票は「案」として書き込み、確定のボタンは担当が押します。 確定された受付票だけが査定の担当の一覧に出ます。契約の台帳と査定の記録には、この構成から書き込みません。
案内のメールも自動では送りません。 下書きを受付票に添え、担当が直して送ります。不足の判定が誤っていた1件の案内は、契約者にとっては「出したのに出していないと言われた」連絡になります。
人が確認する
担当が見るのは、受付票の案と、印の付いた項目です。
- 印の付いた項目を先に見る …
date_mismatch、location_mismatch、estimate_sumの付いた項目は、根拠の画像を開いて確かめます unreadableを確かめる … 品質の点数と欠陥の種類(反射、ぼやけなど)を見て、本当に撮り直しが要るか、担当が画像で読めるかを決めますmissing_docを確かめる … 不足とされた書類が、別のファイルに混ざっていないかを見ます。種類の見分けの誤りで「不足」になっていることがあります- 受付票を確定し、案内を送る … 下書きを直して契約者に送り、確定した受付票を査定に回します
1件あたり5分を目安にします。 印の無い請求は受付票の案を流し読みして2〜3分、印のある請求は画像を開いて確かめるので数分かかります。ならして5分です。
3番目を省かないでください。 見積書の2ページ目が別のファイルで届き、そちらを「その他」と見分けると、見積書が無いという案内が出てしまいます。
例外に対処する
| 起きること | 対応 |
|---|---|
| 品質の点数が低い写真 | 欠陥の種類(反射、暗さ、見切れなど)を添えて、撮り直しの案内の候補にする |
| 日本語の手書きを Form Parser に通した | 対象外。手書きの説明書きは Enterprise Document OCR の結果を使う |
| ファイルが40MBを超える/15ページを超える | バッチ処理に回す。写真は縮小する |
| HEIC など対応外の形式 | JPEG に変換してから読む |
| 書類の種類が決まらない | other にして担当の確認へ。不足の判定には使わない |
| 風水害・地震の「罹災証明書」が届いた | 市町村の罹災証明書は消防のり災証明書とは別の書類。種類を分けて記録し、担当に回す |
| 所在地が契約と違う | location_mismatch。別の建物の書類が混ざっていないかを担当が確かめる |
| 見積の検算が合わない | estimate_sum。表の読み取りの崩れか見積書の誤りかを担当が画像で見る |
| Document AI か Claude が応答しない | 再試行し、続けて失敗したら担当の一覧に「読み取り未完了」として出す |
6行目は、題材の名前にもかかわる区別です。 名古屋市の案内では、消防のり災証明書は火災又は焼損事故があったことを消防署長が証明するもので、風水害・地震等の被災者支援に係る「罹災証明書」とは異なるとされています。同じ読み方の書類でも、証明している中身と発行者が違います。 種類を1つにまとめると、火災の請求に風水害の証明書が付いていても気づけません。
記録を残す
- 届いた書類の原本と、アップロードの日時・経路(提出画面/郵送のスキャン)
- Document AI が返した結果の全文(文字、手書きの情報、品質の点数、項目、表)
- Claude が返したJSONと、使った指示の版
- 関数が付けた印と、規則の版(必要書類の一覧の版を含む)
- 担当が受付票の案を直した記録 … どの項目を、何から何に変えたか
- 送った案内の文面と日時、契約者から追加の書類が届いた日時
最後の行は、案内の効き目を測る材料です。 撮り直しの案内から追加の書類が届くまでの日数を、「不足」と「撮り直し」に分けて数えます。
04実装レベルの3段階
最小構成は、確かめるための段階です。 月600件には使えません。 半自動化で、1件15分が9分程度になります。 種類の見分けと転記は自動になりますが、食い違いの確認と必要書類の照合は担当が一覧を見ながら行います。本格構成で5分になり、この段階が本記事の想定です。 差が大きいのは、照合と案内の下書きが、1件ずつの手作業だからです。
05工数削減シミュレーション
導入後 600件 × 5分 ÷ 60 = 50 時間/月
自社条件で導入効果を整理したい方へ
このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。
06向いている企業・向いていない企業
- 火災保険の保険金請求の受付を自社で行う損害保険会社・共済、または請求の取次ぎをする保険代理店で、契約者からり災証明書・修理見積書・被害写真がPDFや写真で毎月数百件届き、受付票への転記と不足書類の連絡を人が行っている場合。書類の種類ごとに必要な項目が決まっているのに、担当者によって確認の深さが違う場合。Google Cloud を使っており、書類の保管先を Cloud Storage にできる場合。
- 請求の件数が月に数十件で、担当者が全件を目で見ても間に合う場合。請求書類が自社の決まった様式の入力画面からすべてデータで届き、読み取りの必要がない場合。大規模な自然災害の直後のように、請求の受付そのものを別の体制に切り替える期間。なお、保険金を支払うかどうか、損害の額をいくらと認めるかは査定の担当が決めることで、この構成はそれを代わりに行いません。
07最小構成で試す方法
- 先月の請求から30件を選ぶ(うち数件は、書類が足りなかったもの、撮り直しを頼んだものを入れる)
- その30件について、当時の受付票と、送った案内のメールを用意する
- 手元のAIサービスに、1件分の書類の画像をまとめて貼る
- 「この書類を、り災証明書・見積書・写真の説明書き・その他に分け、事故日(書類ごとに別々に)、被害の場所と部位、見積の合計を取り出してください。読めない部分と、書かれていない部分を分けてください。合計を計算で埋めないでください」と指示する
- 出てきた結果を、当時の受付票と見比べる
組む前に、種類の見分けと手書きの読み取りがどこまで当たるかを確かめます。
| 出てきた内容 | 判断 |
|---|---|
| 当時の受付票とほぼ同じ値が出た | Document AI と関数の連携に進む |
| 合計を明細から計算して埋めた | 指示の書き方で直る。構成は有効 |
| 写真の文字が読めず、判断できない件数が多い | 提出画面の撮り方の案内が先。 AIの問題ではない |
3行目が出たら、提出画面に撮り方の例(真上から、明るい場所で、全体が写るように)を載せます。
08実装時につまずきやすいポイント
| 問題 | 対策 |
|---|---|
| 手書きの説明書きが読めない | Form Parser は日本語の手書きが対象外。 Enterprise Document OCR を使う |
| 読めない写真が「不足」と案内される | 品質の点数で unreadable に分け、撮り直しの案内にする |
| 最初の1ファイルで「不足」になる | 受付票は提出の完了か、最後のファイルから一定時間後に作る |
| 見積の合計を明細から作る | 合計の補完を禁じ、検算は関数で行う |
| 表の行と列が崩れる | 写真の向きを直す。スキャンは300dpi |
| 空欄の項目が取れない | Form Parser は値の無いキーと値のペアを確実には読めない。 空欄は missing として扱う |
| 押印の無いり災証明書を不備とする | 電子申請で交付されたものには押印が無い。指示に明記する |
| 風水害の罹災証明書と混ざる | 発行者で種類を分ける |
| 画像の品質の点数で処理が遅い | 写真だけ有効にする |
| 案内が自動で送られる | 下書きまでにする。 送信は担当が行う |
上の2行が、この構成の失敗のほとんどです。 手書きは手書きの読める機能で、読めないものは点数で見分ける、という2つを守れば、受付票の案は崩れません。
09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点
この構成で扱うデータ: 契約者の氏名・住所・連絡先、建物の所在地と間取り、被害の状況の写真、見積の金額です。写真には、住まいの中の様子や家族の持ち物が写り込みます。
- 外部へ渡す範囲を、受付票に必要な項目までに限る … Claude に渡すのはOCRの結果の文字と品質の点数で、写真そのものは渡しません。 契約者の氏名と連絡先は、項目のそろえに要らないので渡す前に伏せます
- 保険金の支払を判断させない … この構成が出すのは、書類の受付票の案と不足の一覧までです。支払うかどうか、損害の額をいくらと認めるかは、査定の担当が約款に照らして決めます
- 食い違いを不正の疑いとして扱わない … 日付や所在地の食い違いの多くは、記入の誤りや書類の混在です。印は確認を促すもので、契約者を疑う材料ではありません。 担当は契約者に事実を確かめるところから始めます
- 案内を自動で送らない … 不足の判定の誤りは、契約者との関係に直接ひびきます。下書きまでにし、送るのは担当です
- 保管の場所と期間を決める … 書類の原本、OCRの結果、受付票の案は請求番号ごとに置き、読み出せる役割を受付と査定の担当に限ります。 本人確認書類の写しが混ざっていたら
otherに分け、項目のそろえには使いません
誤りが起きた場合のリスクは、足りている書類を「不足」と案内することと、食い違いを見落として査定に回すことの2つです。 前者は missing と unreadable を混ぜると起き、後者は検算と照合をAIに任せると起きます。どちらも設計の分け方で防ぎます。
10まず何から始めるか
1週目:必要書類の一覧を表にする
事故の種類(火災、落雷、破裂・爆発、風災、水濡れなど)と保険の対象(建物/家財)ごとに、求める書類を表にします。 請求の案内に載っているものをそのまま写せば足ります。あわせて、受付票の項目の名前をそろえます。
2週目:30件で試す
先月の請求から30件を選び、手元のAIサービスで書類の種類の見分けと項目の取り出しをさせます。手書きの説明書きが読めるか、合計を計算で埋めていないかを最優先で見ます。
3週目:Document AI の2つのプロセッサを作る
Enterprise Document OCR と Form Parser を作り、30件の書類を通します。写真の品質の点数と欠陥の種類が、当時撮り直しを頼んだ書類と合うかを確かめます。
4週目:保存から受付票の案までをつなぐ
Cloud Storage のイベントから関数を起動し、読み取りと項目のそろえを受付票の案として書き出すところまで作ります。この時点では規則の照合を入れず、担当が直した項目を数えます。
2か月目: 日付・所在地・検算・必要書類の照合を規則として足し、印を付けます。3か月目以降: 案内の下書きを足し、1件15分が何分になったかを実測します。撮り直しの案内と記入の案内が分かれて送られ、2往復目の連絡が減った時点で、この構成は完成です。
11関連ユースケース
12この仕組みを理解するための記事
13技術仕様の確認日・参考情報
| 確認した内容 | 情報源 | 確認日 |
|---|---|---|
| Form Parser がOCRの文字に加えてキーと値のペア、表、チェックボックス、一般的なエンティティ(日付、住所、金額、組織など)を取り出すこと。v2.0 が200以上の言語に対応すること。値の無いキーと値のペアを確実には読めないこと | Google Cloud: Form Parser | 2026-10-07 |
| Form Parser の対応言語に日本語が入り、日本語の手書きは対象外であること。Enterprise Document OCR は日本語の手書きに対応すること | Google Cloud: Processor list | 2026-10-07 |
Enterprise Document OCR が画像の品質を0〜1の点数で返し、0.5未満で8つの欠陥(ぼやけ、ノイズ、暗さ、薄い文字、小さすぎる文字、書類の見切れ、文字の見切れ、反射)の可能性を返すこと。enableImageQualityScores で有効にし、OCRと同程度の処理時間が加わること。言語のヒント(languageHints)と手書きの検出 | Google Cloud: Enterprise Document OCR | 2026-10-07 |
| オンライン処理の1ファイル40MB、バッチ処理の1GB。画像1ページ4,000万画素。Form Parser のオンライン15ページ・バッチ100ページ、Enterprise Document OCR のオンライン15ページ・バッチ500ページ | Google Cloud: Document AI limits | 2026-10-07 |
| 対応するファイル形式(PDF、GIF、TIFF、JPEG、PNG、BMP、WebP など)と、スキャンは200dpi以上、300dpi以上が最適とされること | Google Cloud: Supported files | 2026-10-07 |
Cloud Storage のオブジェクトの作成・上書き(google.cloud.storage.object.v1.finalized)で Cloud Run の関数やサービスを起動できること。バケットと同じプロジェクトに置く必要があること | Google Cloud: Cloud Storage triggers | 2026-10-07 |
構造化出力を output_config.format の json_schema で指定すること。数値の範囲や文字数の制約が使えないこと | Claude Docs: Structured outputs | 2026-10-07 |
| り災証明書が火災又は焼損事故があったことを消防署長が証明するもので、火災保険金の請求などで必要になる場合があること。風水害・地震等の「罹災証明書」とは異なること。電子申請で交付される電子データには押印が無いこと | 名古屋市: り災証明書の交付 | 2026-10-07 |
請求に求める書類と、食い違いがあったときの扱いは、自社の約款と請求の案内に従ってください。 り災証明書の様式や交付の方法は、管轄の消防本部によって異なることがあります。本記事は公開仕様と名古屋市のページで確認できた範囲だけを扱っています。
実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。
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