月次決算の担当が交代するときに、前任者の作業メモ・メール・Teams のやり取りから、作業の順番・注意点・例外の処理をまとめた引継ぎ手順書を作る
月次決算の作業の担当が替わるときに、前任者の作業メモ・メール・Teams のやり取りを Microsoft 365 Copilot に読ませ、営業日ごとの作業の順番・注意点・例外の処理をまとめた引継ぎ手順書の下書きを作ります。前任者は白紙から書かず、下書きを直して補います。
- 生成AI
- ChatGPT/Claude/Gemini/Microsoft Copilot
- 連携・自動化
- Make/n8n/Power Automate
- 対象業界
- IT・SaaS/その他/商社/小売/製造
- 対象部門
- 経理/財務
- 対象業務
- 書類作成/要約
- 主な課題
- 属人化している/引き継ぎができていない/期限・対応漏れが起きる
- AIで行う処理
- 要約
- 主な効果
- 属人化解消/工数削減/機会損失防止
- 導入難易度
- ★★☆☆☆
- 実装レベル
- 半自動化
- 費用感
- ノーコード連携(中)
- 人間の確認
- 条件付き
01導入前 / 導入後の業務フロー
- 担当替えが決まると、上長が前任者に引継ぎ手順書を書くよう頼む
- 前任者が自分の作業メモを読み返し、作業の順番を思い出しながら書き出す
- ここ数か月のメールと Teams を見返し、例外の処理や子会社とのやり取りを探す
- 書式の決まっていない Word に、作業の順番と注意点を書き込む
- 後任と読み合わせ、分からないところを口頭で補う
- 後任が最初の月を担当し、詰まったところで前任者に Teams で聞く
- 人上長が担当替えの一覧(SharePoint リスト)に、会社コード・作業の単位・前任・後任・交代の月を登録する
- 自動一覧への登録をきっかけに、作業の単位ごとの素材フォルダができる
- 自動決算チームの Teams のチャネルから、その会社コードの付いた投稿と返信を集めてファイルにする
- 人前任者が、自分の作業メモと、子会社・取引銀行とのメールのうち手順に関わるものを選んで素材フォルダへ入れる
- 人前任者が、Copilot Notebooks に素材フォルダを参照先として加え、共有の指示文で手順書の下書きを作らせる
- 人前任者が、下書きの「確認が要る点」に答え、抜けている手順を書き足す
- 人上長が、例外の処理の欄を読み、続ける取り扱いと一度きりのものを確定する
- 人前任と後任で読み合わせ、翌月の決算を一度並走する
- 人並走で見つかった直しを入れて、手順書を確定し保存する
各工程の詳しい説明を読む
- 担当替えが決まると、上長が前任者に引継ぎ手順書を書くよう頼む
- 前任者が自分の作業メモを読み返し、作業の順番を思い出しながら書き出す
- ここ数か月のメールと Teams を見返し、例外の処理や子会社とのやり取りを探す
- 書式の決まっていない Word に、作業の順番と注意点を書き込む
- 後任と読み合わせ、分からないところを口頭で補う
- 後任が最初の月を担当し、詰まったところで前任者に Teams で聞く
(a)手順書の厚さが前任者によって違う。 書式が決まっていないため、2ページで終わる人も20ページ書く人もいます。短い手順書でいちばん抜けるのは例外の処理です。 毎月の作業は書けても、四半期の月だけ増える作業、為替の換算に使うレートの取り方、子会社から資料が遅れたときの代わりの手順は、思い出せた分しか書かれません。
(b)探す時間がかかる。 例外の処理は、何か月も前のメールのスレッドや Teams の返信の奥に残っています。前任者が「どこかでこう決めたはず」と探し回るうちに、引継ぎの期限が来て、探しきれなかった分は書かれずに終わります。
(c)毎月の手順と一度きりの対応が混ざる。 先々月だけシステムの障害で手入力した、ある月だけ子会社の締めが遅れて仮の数字で計上した。こうした一度きりの対応が、手順書では毎月の手順のように書かれることがあります。 後任は書かれたとおりに続けます。
(d)後任の最初の月に、締めが遅れる。 手順書に無いことは作業の当日に分かり、前任者も締めで忙しいため、聞いても返事が遅れ、営業日の期限を一つずつ落としていきます。
- 【人】 上長が担当替えの一覧(SharePoint リスト)に、会社コード・作業の単位・前任・後任・交代の月を登録する
- 【自動】 一覧への登録をきっかけに、作業の単位ごとの素材フォルダができる
- 【自動】 決算チームの Teams のチャネルから、その会社コードの付いた投稿と返信を集めてファイルにする
- 【人】 前任者が、自分の作業メモと、子会社・取引銀行とのメールのうち手順に関わるものを選んで素材フォルダへ入れる
- 【人】 前任者が、Copilot Notebooks に素材フォルダを参照先として加え、共有の指示文で手順書の下書きを作らせる
- 【人】 前任者が、下書きの「確認が要る点」に答え、抜けている手順を書き足す
- 【人】 上長が、例外の処理の欄を読み、続ける取り扱いと一度きりのものを確定する
- 【人】 前任と後任で読み合わせ、翌月の決算を一度並走する
- 【人】 並走で見つかった直しを入れて、手順書を確定し保存する
5番目は人が動かします。 前任者が自分の素材を選び、自分で作らせて、自分で直すほうが確認の質が上がります。
6番目と7番目を分けているのは、決める人が違うからです。 前任者は「何をしていたか」を知っていて、上長は「それを続けてよいか」を決めます。前任者だけで決めると、個人の判断で始めた取り扱いが、そのままチームの手順になります。
02今回想定するシステム構成
担当替えの一覧(SharePoint リスト:会社コード/作業の単位/前任/後任/交代の月) ▼【トリガー】一覧への登録 Power Automate ├──▶ 作業の単位ごとの素材フォルダを作る ├──▶ 決算スケジュールとチェックリストの該当行を写す → C-番号 └──▶ Teams の決算チャネルから会社コードの投稿と返信を集める → T-番号 ▼ 前任が作業メモ(N-番号)とメール(M-番号、PDF化)を選んで素材フォルダへ ▼【人が作らせる】 Microsoft 365 Copilot(Copilot Notebooks) │ 参照先:素材フォルダ(C-/N-/M-/T-) │ 共有の指示文で ①営業日ごとの手順 ②注意点 ③例外の処理 ④確認が要る点 ▼【人が確かめて補う】 前任の加筆 → 上長の確定 → 後任と読み合わせ・並走 → 手順書を確定して保存
| 役割 | 想定する製品 | 代替候補 |
|---|---|---|
| 処理 | Microsoft 365 Copilot(Copilot Notebooks と Word の Copilot) | ChatGPT Enterprise、Gemini、Claude |
| 連携 | Power Automate(素材フォルダの作成と、Teams の投稿の取りまとめ) | Make、n8n |
| 保管 | SharePoint ドキュメントライブラリ | OneDrive、Google ドライブ |
| 決算の予定 | 決算スケジュールとチェックリスト(スプレッドシート) | 決算管理のシステム |
| 通知 | Microsoft Teams | Slack |
新しく足すのは、担当替えの一覧と Power Automate のフローと Copilot の利用だけです。 会計システムには触りません。最初の準備作業は、決算チャネルの投稿の頭に会社コードを付ける決まりを作ることです。 これが無いと、Teams から集める素材が会社ごとに分けられません。
Copilot の使い方は、ライセンスで決まります。 Microsoft の公開資料では、Copilot Chat(Basic)と Microsoft 365 Copilot(Basic)は Microsoft Graph 経由で組織データを使えず、組織のコンテンツを使うには、プロンプトの作成時にファイルをアップロードするか選択するか、Teams や Outlook でコンテンツを開いた状態で使う必要があるとされています。Microsoft 365 Copilot(Premium)は Microsoft Graph と Work IQ を通じて組織データを自動で参照し、フォーカスするファイルを指定できるとされています。
この構成は、どちらのライセンスでも動くように、素材を素材フォルダに集めてから読ませます。 受信箱全体から探させると、手順書のどの行がどのメールから来たのかが分からなくなります。 決算の手順は監査で説明を求められることがあり、出どころの追えない手順書は使えません。
束ねる場所に Copilot Notebooks を使います。 参照先にできるのは .docx、.pptx、.xlsx、.pdf、.loop、.page、.txt、.rtf と OneNote のページで、SharePoint のサイト、ドキュメントライブラリ、フォルダも参照先にできます。 参照先はデータの変更に合わせて最新の状態に保たれるとされ、前任者がメールを素材フォルダに足すと、そのまま読み直せます。前任者の作業メモが OneNote にあれば、そのページをそのまま参照先にできます。
参照先の数には上限があります。Microsoft 365 Copilot のユーザーは300件を超えて追加できますが、根拠に使われるのは最初の300件まで、Copilot Chat のユーザーは50件までです。1つの作業の単位の素材は数十件に収まるように、メールはスレッド単位でまとめてPDFにします。
03どうやって実装するのか
処理の起点を決める
担当替えの一覧への登録を起点にします。 上長が一覧に1行足すと、Power Automate が素材フォルダを作り、決算スケジュールの該当行と Teams の投稿を集め始めます。前任者への依頼は、素材フォルダのリンクが付いた Teams のメッセージで届きます。
登録する時期は、交代の月の前月の第10営業日までと決めます。前月の締めが終わってから翌月の締めが始まるまでの、前任者に比較的余裕のある期間に下書きと読み合わせを入れるためです。締めの最中に引継ぎを始めると、第4章の②がまた削られます。
Copilot に下書きを作らせるのは前任者が自分で行います。自動で作らせて自動で配る設計にはしません。 下書きは前任者が直す前提の材料で、直されていないものが後任に届くと、それが手順書として扱われます。
入力データを集める
| データ | 中身 | 取得元 |
|---|---|---|
| 決算スケジュールとチェックリスト | 作業の名前、期限の営業日、前後の作業、確認者 | スプレッドシートの該当行(C-番号) |
| 作業メモ | 前任者が書いてきた手順、ファイルの場所、操作のこつ | OneNote・Word(N-番号) |
| メール | 子会社の担当、取引銀行、監査法人とのやり取り。スレッド単位でPDF化 | Outlook(M-番号) |
| Teams の投稿 | 決算チャネルの、会社コードの付いた投稿と返信 | Teams(T-番号) |
| 過去の仕訳の摘要 | 手作業で入れている仕訳の摘要の一覧(直近6か月) | 会計システムの書き出し(C-番号に含める) |
質を決めるのは作業メモです。 前任者が日々書き足してきたメモには、ファイルの場所と順番が残っています。メモがほとんど無い前任者の場合、下書きはメールと Teams に寄った「例外ばかりの手順書」になります。 その場合は第8章の試し方で、前任者に口頭で手順を話してもらい、その文字起こしを素材に足します。
手作業の仕訳の摘要を入れるのは、例外の処理を拾うためです。 毎月同じ摘要で入っている手入力の仕訳は、メモにもメールにも書かれていない毎月の作業であることが多く、摘要の一覧から逆に見つかります。
データの取得方法を決める
| 取るもの | どこから | どう取るか |
|---|---|---|
| スケジュールとチェックリストの該当行 | スプレッドシート | Power Automate で会社コードと作業の単位の行を抜き、素材フォルダに書き出す |
| Teams の投稿 | 決算チャネル | Teams コネクタの「チャネルのメッセージを取得」で投稿を取り、会社コードで絞る |
| Teams の返信 | 同上 | 「チャネルのメッセージへの返信を一覧表示」で、投稿ごとに返信を取る |
| メール | 前任者の Outlook | 前任者が選んでPDFにし、素材フォルダへ入れる |
| 作業メモ | OneNote・Word | 前任者が素材フォルダへ入れるか、Notebook の参照先に加える |
Teams の返信は、取り方に注意が要ります。 Teams コネクタの返信の一覧は、返す件数が既定で20件、指定できるのは1〜50件です。決算のやり取りは1つの投稿に返信が長く続くことが多く、既定のままだと古い返信が落ちます。 件数を上限まで上げ、それでも足りない投稿は担当者に知らせます。また、「チャネルに新しいメッセージが追加されたとき」のトリガーは返信では動かないとされているため、集めるのは担当替えの登録のときに一括で行い、投稿のたびに集める作りにはしません。
Teams のチャットにある Copilot を直接使う方法もあります。 Teams のチャットとチャネルの Copilot は、既定では直近30日の履歴を参照し、期間を指定することもできます。ただし、画像、Loop コンポーネント、スレッドで共有されたファイルは要約できないとされています。決算のやり取りでは、試算表の画面の画像や Excel のファイルがよく貼られるため、Teams の中で要約させずに、投稿をファイルに起こして Notebook に入れます。 画像とファイルが貼られていた投稿には、ファイルに起こすときに「添付あり」の印を付けます。
メールは前任者が選びます。 受信箱全体を渡さないのは、決算と関係の無いやり取りと個人のメールが混ざるためです。スレッドが長いときは、Outlook の「Copilot による要約」でスレッドの要点を先に見て、手順に関わるものかを判断できます。要約には、スレッド内の該当メールへ飛べる番号付きの引用が付くことがあるとされています。
AIへ渡す前に整形する
- 素材に番号を振る … C-01、N-01、M-01、T-01 のように種類ごとに番号を付け、ファイル名の頭に入れます
- 日付をそろえる … 各素材の先頭に、その素材の日付を書き出します。メールは送信日、Teams は投稿日です
- 会社コードで絞る … Teams の投稿は会社コードの付いたものだけを残します。付いていない投稿は前任者に一覧で見せ、要るものだけを足してもらいます
- 営業日の表を付ける … 交代の月の営業日の表(第1営業日が何日か)を素材に入れます。ただし、手順書では営業日のまま書かせ、日付に直させません
- 添付の印を付ける … 画像やファイルが貼られていた投稿とメールに「添付あり」と書き、中身を推測させない
- 個人のことを外す … 休職の理由、評価、家族の事情に触れたやり取りは素材から外します
4番目を「直させない」としているのは、手順書を翌月以降も使うためです。 「10月3日」と書かれた手順書は11月には使えません。営業日で書いた手順書は、毎月そのまま使えます。
AIに処理させる
させるのは、素材から手順と例外を読み分け、営業日の順に並べ、すべての行に根拠の番号を付けることです。
| 欄 | 中身 | 読み分けの決まり |
|---|---|---|
| ① 営業日ごとの手順 | 期限の営業日、作業、使うファイル・画面、前後の作業、確認者 | チェックリストの作業を骨にし、メモから順番と中身を足す |
| ② 注意点 | 間違えやすいところ、時間がかかるところ、待ちが発生するところ | 「いつも」「毎月」と書かれたもの、または3か月以上くり返し出てくるもの |
| ③ 例外の処理 | 取引先・子会社ごとの特別な扱い、四半期の月だけの作業、遅れたときの代わりの手順 | 「〜の場合は」「〜のときだけ」と書かれたもの。誰と決めたかも書く |
| ④ 確認が要る点 | 一度しか出てこない対応、結論の無いやり取り、添付の中身が要るもの | 毎月のものか一度きりか分からないものはすべてここ |
③で「誰と決めたか」を必ず書かせます。 子会社の経理部長と合意した、監査法人の指摘で変えた、という出どころがあるかどうかで、その例外を続けるかの判断が変わります。出どころの書かれていない例外は、前任者が自分で始めた取り扱いかもしれません。
| させないこと | 理由 |
|---|---|
| 一度きりの対応を手順に入れる | 後任が毎月続けてしまう。④に回す |
| 営業日を日付に直す | 翌月以降に使えなくなる |
| 金額やレートを計算する | 素材にある数字だけを写す。計算は会計システムの側で行う |
| 例外の処理を続けるべきか書く | 決めるのは上長。事実だけを書く |
| 素材に無い手順を一般論で補う | 「通常は〜」は手順書を誤らせる |
いちばん起きやすいのは最後の行です。 「売掛金の消込」と書かれていれば、一般的な消込の手順を補って文章を整えようとします。その会社で実際にどうしているかが分からないなら、④に入れて前任者に聞くのが正しい流れです。
指示内容を固定する
あなたは経理部門で、月次決算の作業の引継ぎ手順書の下書きを作る立場です。
参照先の素材ファイルに書かれていることだけを使ってください。
推測で埋めないでください。一般的な経理の手順で補わないでください。
【会社】{会社コード}/{会社名}
【作業の単位】{作業の単位}
【前任】{前任} 【後任】{後任} 【交代の月】{交代の月}
【作る欄】
① 営業日ごとの手順
期限の営業日、作業、使うファイルや画面、前の作業・後の作業、確認者。
チェックリスト(C-)の作業の並びを骨にし、作業メモ(N-)で中身を足す。
② 注意点
素材の中で「いつも」「毎月」と書かれているか、
3か月以上にわたってくり返し出てくるもの。
③ 例外の処理
「〜の場合は」「〜のときだけ」と書かれた特別な扱い。
取引先・子会社の名前、条件、処理、誰と決めたか(素材にある場合)。
④ 確認が要る点
一度しか出てこない対応、結論の無いやり取り、
毎月のものか一度きりか分からないもの、添付の中身が要るもの。
【厳守事項】
- すべての行の末尾に、根拠にした素材の番号(C-/N-/M-/T-)を付けてください。
番号を付けられない内容は書かないでください。
- 期限は「第3営業日」のように営業日のまま書いてください。
日付に直さないでください。素材に日付しかない場合は日付のまま写し、
④に「営業日に直す確認が要る」と書いてください。
- 一度しか出てこない対応を①や②に入れないでください。④に入れてください。
- ③で誰と決めたかが素材に無い場合は「決めた相手:素材に記載なし」と書いてください。
- 金額、為替レート、件数は素材に書かれた数字をそのまま写してください。
計算や合算をしないでください。
- 例外の処理を続けるべきか、やめるべきかは書かないでください。
- 「添付あり」の印が付いた素材は、中身を推測せず、
④に「添付の確認が要る」として番号を挙げてください。
- 人の評価、休職や異動の理由、家族の事情は書かないでください。
- 同じ内容が複数の素材にあるときは、1行にまとめて番号を全部付けてください。
- 最後に、使わなかった素材の番号を一覧にしてください。
「一般的な経理の手順で補わない」を冒頭に置かないと、手順書がきれいになりすぎます。 素材に断片しか無い作業ほど、教科書どおりの手順が足されて読みやすくなります。読みやすい手順書ほど、その会社の実際と違っていても気づかれません。
「3か月以上くり返し出てくるもの」という線を引いているのは、毎月の手順と一度きりの対応を分けるためです。 素材の日付を手がかりにすると、先々月だけの障害対応が②に入りにくくなります。線の上か下か迷うものは④に落ちるので、最後は前任者が決めます。
最後の「使わなかった素材」の一覧は、前任者のためにあります。 入れたはずのメールが手順書に反映されていなければ、ここで分かります。
出力形式を固定する
Word の文書に、次の4つの表と1つの一覧で出させます。 Copilot Notebooks の回答を Word の Copilot に渡して、表の体裁をそろえます。Word の Copilot は、参照するファイルを指定して下書きを作れます。
| 欄 | 列 |
|---|---|
| ① 営業日ごとの手順 | 営業日/作業/使うファイル・画面/前の作業/後の作業/確認者/根拠 |
| ② 注意点 | 作業/注意点/根拠 |
| ③ 例外の処理 | 対象(取引先・子会社)/条件/処理/決めた相手/根拠 |
| ④ 確認が要る点 | 内容/なぜ確認が要るか/根拠/前任の回答(空欄) |
| 使わなかった素材 | 番号の一覧 |
①の1行は、たとえば次の形になります。
| 営業日 | 作業 | 使うファイル・画面 | 前の作業 | 後の作業 | 確認者 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 第3営業日 | 売掛金の消込 | 銀行明細の取込画面、入金予定表 | 銀行明細の取込(第2営業日) | 貸倒引当金の見直し(第4営業日) | 主任 | C-02、N-05、T-11 |
表にする1つ目の理由は、営業日の列で並べ替えられることです。 後任は手順書を、交代の月の営業日の表と並べて使います。営業日の列があれば、自分の予定表にそのまま写せます。
2つ目は、③の「決めた相手」の列が空欄で目立つことです。 上長は③だけを読み、「素材に記載なし」の行について、続けるか一度きりかを決めます。文章の中に埋もれていると、この判断の対象が見つかりません。
3つ目は、④に回答の列を空けておくことです。 前任者はこの列を埋めながら手順書を直し、埋め終わった④は、①〜③のどこかへ移すか、消すかのどちらかになります。 ④が空になったときが、下書きが手順書になったときです。
システムへ連携する
| つなぎ先 | 方式 | 内容 |
|---|---|---|
| 担当替えの一覧 | Power Automate のトリガー(SharePoint の項目の作成) | 素材フォルダの作成と素材の収集を始める |
| 決算スケジュール | Power Automate でスプレッドシートを読む | 該当する会社と作業の行を素材フォルダへ写す |
| Teams の決算チャネル | Teams コネクタ | 投稿と返信を取り、会社コードで絞ってファイルにする |
| Copilot Notebooks | 前任者が操作 | 素材フォルダを参照先に加え、下書きを作る |
| Word | 前任者が操作 | 下書きを表の体裁にそろえ、手順書として仕上げる |
| SharePoint | 保存 | 確定した手順書を作業の単位ごとのフォルダに置く |
会計システムへは何も書き込みません。 この構成が出すのは手順書だけで、仕訳にも決算の数字にも触れません。手作業の仕訳の摘要の一覧は、会計システムの書き出しを読むだけです。
確定した手順書は、作業の単位ごとに1つの置き場所に置きます。 次の担当替えでは、前回の手順書も素材に入れて読み直させます。手順書が担当替えのたびに積み上がるので、2回目からは下書きの精度が上がります。
人が確認する
下書きは3人が順に見ます。 前任者、上長、後任です。
- 前任者が④に答える … 一度きりか毎月かを決め、①〜③へ移すか消します。抜けている手順は、ここで書き足します
- 前任者が①の営業日を確かめる … 前後の作業の並びが、実際の締めの順番と合っているかを見ます
- 上長が③を確定する … 「決めた相手」の無い例外について、続ける取り扱いか、やめる取り扱いかを決めます
- 後任が読み合わせで質問する … 分からない行に印を付け、前任者がその場で補います
- 翌月の締めを一度並走する … 後任が手順書どおりに作業し、前任者が横で見ます。手順書に無い動きが出たら、その場で書き足します
5番目を省かないでください。 手順書の抜けは、読み合わせではほとんど見つかりません。実際に締めを回して初めて、前任者が無意識にしていた手順が出てきます。 並走の後に書き足された行は、次の担当替えでいちばん役に立ちます。
例外に対処する
| 起きること | 対応 |
|---|---|
| 作業メモがほとんど無い | 前任者に口頭で手順を話してもらい、文字起こしを素材に足す |
| Teams の返信が取り切れない | 返信の取得件数を上限の50件にし、それでも超える投稿は前任者へ一覧で知らせる |
| 画像やファイルが貼られた投稿 | 中身を推測させず、④で「添付の確認が要る」とする |
| 参照先が多すぎる | メールをスレッド単位でまとめてPDFにし、素材の数を減らす |
| 前任者がすでに休職・退職している | 下書きは作れるが確認ができない。上長と同じ作業の経験者が④に答える |
| 素材どうしで手順が食い違う | 新しい日付の素材を優先させず、両方を④に出させて前任者が決める |
| 一度きりの対応が①に入っていた | 前任者が④へ移す。指示文の線の引き方を見直す |
| 例外の「決めた相手」が分からない | 上長が子会社や監査法人の担当に確かめてから確定する |
6行目で「新しい日付を優先させない」のは、新しい素材が正しいとは限らないからです。 先月だけの対応が最新の素材になっていることがよくあります。どちらが今の手順かを決めるのは、前任者です。
記録を残す
- 素材フォルダの中身(番号付きの素材と、使わなかった素材の一覧)
- Copilot が作った下書きと、前任者・上長が直した後の手順書の両方
- ④の回答の列(前任者がどう答えたか)
- ③で上長が確定した内容と、確定した日
- 並走で書き足した行と、その月
- 担当替えの一覧の1行(会社、作業の単位、前任、後任、交代の月)
下書きと確定版の両方を残すのは、指示文を直すためです。 前任者が毎回同じ種類の行を消しているなら、指示文の線の引き方がずれています。前任者が書き足した行が多い作業は、作業メモの書き方を見直すきっかけになります。
上長が確定した例外の記録は、監査の説明にも使えます。 決算の手順で特別な扱いをしている理由と、誰が続けると決めたかが、作業の単位ごとに残ります。
04実装レベルの3段階
本記事の想定は半自動化です。 第4章の②の90分のうち、探す時間の多くは Teams とスケジュールの収集が自動になることで減ります。最小構成のままでも下書きの時間は減りますが、素材を探す時間が前任者に残ります。 本格構成は、毎月手順書を育てる形です。 ただし、毎月の差分を読む人を決めないまま作ると、誰も読まない一覧が増えるだけです。半自動化で3か月回し、確定した手順書がそろってから進みます。
05工数削減シミュレーション
導入後 12件 × 90分 ÷ 60 = 18 時間/月
自社条件で導入効果を整理したい方へ
このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。
06向いている企業・向いていない企業
- グループ会社の月次決算をまとめて受け持つ経理のシェアードサービスや、子会社が多い会社の経理部。会社ごと・作業ごとに担当が分かれ、異動・休職・負荷の付け替えで毎月どこかの作業の担当が替わる場合。決算のチェックリストはあるが、作業の細かな順番と例外の処理が担当者のメモとメール・Teams に散らばっている場合。Microsoft 365 を全社で使っている場合。
- 月次決算を数名で回しており、担当替えが年に1〜2回しかない場合。作業手順書が作業単位で整備され、毎月の更新も運用に乗っている場合。前任者がすでに退職していて、メモとやり取りを読み合わせる相手がいない場合(下書きの確認ができません)。なお、どの例外の処理を今後も続けるか、決算の方針として見直すかの判断は、経理の責任者に残ります。
07最小構成で試す方法
- 最近担当替えがあった作業の単位を2つ選ぶ(手順書がうまく書けたものと、後任が最初の月に苦労したものを1つずつ)
- 前任者に、当時使った作業メモと、手順に関わるメール・Teams の投稿を10〜20件選んでもらう
- 素材に番号を振り、Copilot Notebooks に参照先として入れる
- 第7章の指示文で、①〜④の下書きを作らせる
- 当時の手順書と、後任が最初の月に前任者へ聞いたことの一覧と突き合わせる
見るのは、後任が聞いたことが下書きに入っているかです。 当時の手順書に無く、後任が Teams で聞いた内容が①〜④のどこかに出ていれば、構成は役に立ちます。
| 出てきた内容 | 判断 |
|---|---|
| 後任が聞いたことの多くが①〜③に入った | 素材の自動収集の作り込みに進む |
| 入っているが④に寄っている | 素材は足りている。④への線の引き方を指示文で調整する |
| 一般的な手順が足されて、その会社の実際と違う | 指示文の「一般論で補わない」を強める。構成は有効 |
| 素材にそもそも書かれていなかった | 作業メモの書き方が先。 AIの問題ではない |
最後の行が出ても失敗ではありません。 手順が記録されていなかったと分かったということで、前任者に口頭で説明してもらい、文字起こしを素材にします。
08実装時につまずきやすいポイント
| 問題 | 対策 |
|---|---|
| 一般的な経理の手順が足されて読みやすくなる | 「一般論で補わない」を指示文の冒頭に置く。 根拠の番号の無い行は消す |
| 一度きりの対応が毎月の手順に入る | 「3か月以上くり返し出てくる」の線を引き、迷うものは④へ |
| 営業日が日付に直される | 営業日のまま書かせる。 日付の手順書は翌月に使えない |
| Teams の古い返信が落ちる | 返信の取得件数を上限まで上げ、超える投稿を知らせる |
| 画像や Excel が貼られた投稿の中身が抜ける | 「添付あり」の印を付け、④に出させる |
| 参照先が上限に当たる | メールをスレッドでまとめてPDFにする |
| 会社コードの無い投稿が集まらない | 投稿の頭に会社コードを付ける決まりを先に作る |
| 例外の「決めた相手」が空のまま後任へ渡る | 上長が③を確定するまで手順書を確定しない |
| 前任者が下書きを読まずに渡す | ④の回答の列を埋めないと確定できない運用にする |
| 並走を省いて手順書を確定する | 翌月の締めを一度並走してから確定する |
| 個人の事情が手順書に入る | 素材の段階で外し、指示文でも禁じる |
上の3行が、この構成の失敗のほとんどです。 どれも、下書きがもっともらしく見えるところから始まります。下の4行は運用の問題で、③を誰も確定せず並走を省けば、例外の処理はまた前任者の頭の中に戻ります。
09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点
この構成で扱うデータ: グループ会社の月次決算の手順、子会社・取引銀行・監査法人とのやり取り、手作業の仕訳の摘要、そして担当者どうしの Teams のやり取りです。公表前の決算の数字が含まれます。
- 素材を素材フォルダの範囲に限る … 受信箱全体や Teams 全体を読ませず、前任者が選んだものだけを参照先にします。どの素材から手順書ができたかが追えるのは、範囲を限っているからです
- 素材フォルダのアクセス権を作業の単位で絞る … Notebook を共有すると、受け手はアクセス権のある範囲で中の参照先のファイルに招待されるとされています。決算チーム全体に共有せず、前任・後任・上長に限ります
- Entra アカウントでサインインして使う … Copilot は Microsoft Entra アカウントでサインインしたときにエンタープライズ データ保護の対象になるとされています。個人のアカウントで決算の素材を扱わないよう、利用の決まりに書きます
- 個人の事情を素材から外す … 担当替えの理由が休職や評価にかかわるときは、そのやり取りを素材に入れません
- 例外の処理を続けるかは人が決める … この構成が出すのは、素材に書かれていた取り扱いの事実だけです。決算の方針として続けるか見直すかは、経理の責任者が決めます
- 手順書を監査の説明に使うときは確定版を使う … 下書きは前任者と上長の確認を経ていません。確定版と、上長が確定した日の記録をあわせて出します
誤りが起きた場合のリスクは、例外の処理が抜けて締めが遅れることと、一度きりの対応が毎月の手順として続くことの2つです。 後者は何か月も気づかれないため、③の「決めた相手」の列と上長の確定で止めます。
10まず何から始めるか
1週目:投稿の決まりと手順書の書式を決める
決算チャネルの投稿の頭に会社コードを付ける決まりを作り、チームに知らせます。あわせて、手順書の書式(第7章の4つの表)を決めます。書式を先に決めておかないと、下書きの良し悪しを比べられません。
2週目:2つの作業の単位で試す
最近担当替えのあった作業を2つ選び、前任者に素材を選んでもらって、Copilot Notebooks で下書きを作らせます。後任が最初の月に前任者へ聞いたことが、下書きに入っているかを最優先で見ます。
3週目:指示文を直す
一般論が足されていないか、一度きりの対応が①に入っていないかを見て、指示文を直します。④に寄りすぎているなら線を緩め、①に混ざっているなら線を締めます。
4週目:担当替えの一覧と素材集めをつなぐ
SharePoint に担当替えの一覧を作り、Power Automate で素材フォルダの作成とスケジュール・Teams の収集を組みます。この時点では、下書きを作らせるのは前任者の操作のままにします。
2か月目: その月の担当替えすべてで回し、前任者が直した行の数と、④の件数を作業ごとに数えます。3か月目以降: 並走で書き足された行を集め、指示文と作業メモの書き方に戻します。後任の最初の月に、前任者へ聞く回数が目に見えて減った時点で、この構成は完成です。
11関連ユースケース
12この仕組みを理解するための記事
13技術仕様の確認日・参考情報
| 確認した内容 | 情報源 | 確認日 |
|---|---|---|
| Copilot Chat(Basic)と Microsoft 365 Copilot(Basic)は Microsoft Graph 経由で組織データを使えず、ファイルのアップロード・選択か Teams・Outlook で開いた状態での利用が要ること。Premium は Microsoft Graph と Work IQ を通じて組織データを自動で参照し、フォーカスするファイルを指定できること。Entra アカウントでのサインイン時にエンタープライズ データ保護の対象となること | Microsoft Learn: Microsoft Copilot とは? | 2026-10-07 |
| Notebook の参照先にできるファイルの種類と、SharePoint のサイト・ライブラリ・フォルダ。根拠に使われる参照先が300件まで(Copilot Chat は50件)であること。参照先がデータの変更に合わせて最新に保たれること。共有時にアクセス権のある範囲でファイルに招待されること | Microsoft Support: Add references to your Microsoft 365 Copilot Notebook | 2026-10-07 |
| Teams のチャットとチャネルの Copilot が既定で直近30日の履歴を参照し、期間を指定できること。画像、Loop コンポーネント、スレッドで共有されたファイルを要約できないこと | Microsoft Support: Copilot in Teams chats and channels | 2026-10-07 |
| Outlook の「Copilot による要約」がスレッドの要点をまとめ、該当メールへ飛べる番号付きの引用が付くことがあること | Microsoft Support: Summarize an email thread with Copilot in Outlook | 2026-10-07 |
| Word の Copilot で、参照するファイルを指定して下書きを作れること。事実・数字・名前などを確認するよう求めていること | Microsoft Support: Draft and add content with Copilot in Word | 2026-10-07 |
| Teams コネクタにチャネルのメッセージの取得と、返信の一覧のアクションがあること。返信の取得件数が既定20件・1〜50件で指定できること。新しいチャネルメッセージのトリガーが返信では動かないこと | Microsoft Learn: Microsoft Teams connector | 2026-10-07 |
どの例外の処理を続けるかは、各社の経理の責任者と社内の決まりで判断してください。 本記事は Microsoft の公開資料で確認できた範囲だけを扱っています。
実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。
自社の業務に使えるAI活用候補を整理します
このユースケース(UC-0650)についてのご相談はこちらから。
