Media > AI活用ユースケース > 品質管理 > 病院に毎月出されるインシデント・ヒヤリハットの報告を、事例の概要・発生場面・影響の程度で分類し、医療安全管理委員会に出す月次の集計と要点の下書きを作る

病院に毎月出されるインシデント・ヒヤリハットの報告を、事例の概要・発生場面・影響の程度で分類し、医療安全管理委員会に出す月次の集計と要点の下書きを作る

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

院内から毎月提出されるインシデント・ヒヤリハットの報告を読み、事例の概要・発生場面・患者に実施されたか・仮に影響が大きくなった場合の程度の分類の候補を、本文の根拠付きで付けます。医療安全管理者が候補を確かめて確定し、委員会に出す月次の集計と要点の下書きにします。

サマリー
生成AI
Azure OpenAI Service/Claude/Gemini
連携・自動化
n8n/Power Automate
対象業界
介護/医療
対象部門
品質管理
対象業務
分類・仕分け/集計・分析
主な課題
データ分析に時間がかかる/人手が足りない/属人化している
AIで行う処理
分類
主な効果
判断支援/品質標準化/工数削減
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
本格構成
費用感
API連携(中)
人間の確認
条件付き
現在工数
60h/月
AI導入後
25h/月
想定削減
58%
年間削減
420h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 職員が入力画面から報告を出す
  2. 医療安全管理室の担当者が、届いた報告を1件ずつ開いて本文を読む
  3. 報告者の付けた事例の概要・発生場面・影響の程度が本文と合っているかを見て、合っていなければ付け直す
  4. 影響の程度が高いものは、報告者や所属長に事情を聞き、電子カルテで経過を確かめる
  5. 月末に、付け直した分類を集計用の表に写し、事例の概要別・部署別・影響の程度別に数える
  6. 主な事例と傾向を、委員会の資料の文章にまとめる
導入後(After)
  1. 人職員が入力画面から報告を出す
  2. 自動報告の確定をきっかけに、本文と報告者の選んだ分類を取り出す
  3. 自動患者の氏名・ID・職員の氏名を符号に置き換える
  4. 自動生成AIが、院内の分類の語彙から、事例の概要・発生場面・実施の有無・影響の程度の候補と、根拠にした本文の箇所を返す
  5. 自動候補と報告者の分類を比べ、違いのあるもの・影響の程度が高いもの・根拠が薄いものに印を付ける
  6. 人医療安全管理者が印の付いた報告を読み、分類を確定する。印の無いものは一覧で確かめる
  7. 自動月末に確定した分類を集計し、事例の概要別・発生場面別・部署別・影響の程度別の表を作る
  8. 自動生成AIが、集計表と、医療安全管理者が選んだ事例の要旨から、委員会の資料の要点の下書きを作る
  9. 人医療安全管理者が要点を直し、委員会に出す
各工程の詳しい説明を読む
  1. 職員が入力画面から報告を出す
  2. 医療安全管理室の担当者が、届いた報告を1件ずつ開いて本文を読む
  3. 報告者の付けた事例の概要・発生場面・影響の程度が本文と合っているかを見て、合っていなければ付け直す
  4. 影響の程度が高いものは、報告者や所属長に事情を聞き、電子カルテで経過を確かめる
  5. 月末に、付け直した分類を集計用の表に写し、事例の概要別・部署別・影響の程度別に数える
  6. 主な事例と傾向を、委員会の資料の文章にまとめる

(a)分類の付け直しが担当者によって違う。 3名の担当者が手分けして読むため、同じ種類の事例を、ある担当者は「治療・処置」、別の担当者は「ドレーン・チューブ」に付け直します。 付け直したことで、かえってばらつく月もあります。

(b)全件を読み直す時間が無い。 300件を3名で読むと、1人100件です。報告が集中する月は、影響の程度が低いものを読み飛ばし、報告者の分類のまま集計に入れています。 そこに分類の誤りが残ります。

(c)集計が委員会の直前まで固まらない。 付け直しが月末にずれ込み、表に写す作業が委員会の数日前に集中します。集計が固まった後に傾向を考える時間がほとんど残りません。

(d)要点の書き方が担当者に依存している。 委員会の資料の文章は、その月の担当者がまとめます。どの事例を取り上げ、どの傾向を書くかが担当者によって変わり、月ごとの比較がしにくくなっています。

  1. 【人】 職員が入力画面から報告を出す
  2. 【自動】 報告の確定をきっかけに、本文と報告者の選んだ分類を取り出す
  3. 【自動】 患者の氏名・ID・職員の氏名を符号に置き換える
  4. 【自動】 生成AIが、院内の分類の語彙から、事例の概要・発生場面・実施の有無・影響の程度の候補と、根拠にした本文の箇所を返す
  5. 【自動】 候補と報告者の分類を比べ、違いのあるもの・影響の程度が高いもの・根拠が薄いものに印を付ける
  6. 【人】 医療安全管理者が印の付いた報告を読み、分類を確定する。印の無いものは一覧で確かめる
  7. 【自動】 月末に確定した分類を集計し、事例の概要別・発生場面別・部署別・影響の程度別の表を作る
  8. 【自動】 生成AIが、集計表と、医療安全管理者が選んだ事例の要旨から、委員会の資料の要点の下書きを作る
  9. 【人】 医療安全管理者が要点を直し、委員会に出す

6番目が、この設計の分かれ目です。 300件のすべてを同じ深さで読むのではなく、印の付いたものを読み、印の無いものは一覧で確かめます。 全件を最初から読み直す設計にすると、時間はほとんど減りません。

8番目の要点の材料は、集計表と、人が選んだ事例だけです。 生成AIに300件の本文をそのまま渡して「傾向をまとめて」とは頼みません。どの事例を委員会で取り上げるかは、医療安全管理者が決めることだからです。

02今回想定するシステム構成

構成図
職員の報告(院内のインシデント報告の仕組み)
   ▼【トリガー】報告の確定
Azure Functions(取り出しと符号化)
   ▼
Azure OpenAI(Microsoft Foundry)── 分類の候補と根拠(構造化出力、語彙は enum で固定)
   │   ① 事例の概要(8区分)  ② 発生場面
   │   ③ 実施の有無          ④ 仮に影響が大きくなった場合の程度(4段階)
   ▼
Azure Functions ── 報告者の分類との比較、印の付与
   ▼
【医療安全管理者が確定】
   ▼【トリガー】月末
Azure Functions ── 集計表の作成
   ▼
Azure OpenAI ── 集計表と選んだ事例から要点の下書き
   ▼
【医療安全管理者が直す】──▶ 医療安全管理委員会
役割想定する製品代替候補
生成AIAzure OpenAI(Microsoft Foundry)の Standard デプロイClaude、Gemini
連携Azure Functions(取り出し、符号化、比較、集計)Power Automate、n8n
保管Azure Blob Storage(候補と確定の記録、集計表)報告の仕組みの添付の機能
報告の受付既存の院内のインシデント報告の仕組み―

院内の報告の仕組みは、新しく足すものではありません。 この構成は、報告の本文を読み出して分類の候補を返すだけで、報告そのものと報告者の分類には書き込みません。 確定した分類は、医療安全管理室の別の表に持ちます。

生成AIに Azure OpenAI を選ぶ理由は、データの扱いが公開されていることです。 Microsoft Learn のデータとプライバシーのページは、プロンプトと応答が他の顧客にも OpenAI にも提供されず、提供元がモデルの改善に使わないこと、モデルはステートレスで、プロンプトと応答をモデルの中に保存しないことを示しています。

デプロイの種類は、処理の場所で選びます。 同じページによると、プロンプトと応答は顧客が指定した地域(ジオグラフィ)の中で処理されますが、Global と付くデプロイでは、そのモデルが展開されているどの地域でも処理されうるとされます。患者に関わる記述を扱う本記事では、地域指定の Standard デプロイを前提にします。

分類の語彙は、構造化出力の enum で固定します。 公式のページでは、構造化出力は呼び出しのときに渡した JSON Schema にモデルを従わせる機能で、対応する型に Enum が含まれています。事例の概要の8区分を enum にしておけば、語彙に無い「点滴関連」のような分類が返ってくることがありません。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

報告が確定したときに、1件ずつ動かします。 報告者が下書きのまま保存しているものは対象にしません。確定した報告だけを分類し、その日のうちに候補が付くようにします。月末にまとめて処理すると、第3章の(c)がそのまま残ります。

報告が修正されたときにも動かします。 報告者が後から経過を書き足すことはよくあります。書き足された本文で候補を付け直し、前の候補と違えば印を付けます。 確定済みの分類は自動では変えず、医療安全管理者に知らせます。

集計と要点の下書きは、月末の締めの翌日に動かします。 締めの日に確定していない報告は、「未確定」として件数だけを集計表の脚注に出します。 未確定を抜いて数えると、月ごとの比較で件数が動いて見えます。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
報告の本文事例の内容、発生の経過、対応、報告者の考える要因院内の報告の仕組み
報告者の選んだ分類事例の概要、発生場面、影響の程度、実施の有無院内の報告の仕組み
報告の属性発生日時、発生場所、部署、関わった職種と経験年数院内の報告の仕組み
分類の語彙と定義事例の概要・発生場面・程度ごとの定義と、迷いやすい例医療安全管理室が管理
過去の確定例迷いやすい事例の、確定した分類と理由医療安全管理室の表

質を決めるのは、下の2つです。 生成AIは、語彙の定義と過去の確定例を見て候補を選びます。定義があいまいなら、候補もあいまいになります。 「輸液ポンプの設定の誤り」を「薬剤」にするか「医療機器等」にするかを院内で決めていなければ、生成AIも決められません。

語彙は、医療事故情報収集等事業のヒヤリ・ハットの報告項目にそろえます。 同事業の集計表では、事例の概要は薬剤/輸血/治療・処置/医療機器等/ドレーン・チューブ/検査/療養上の世話/その他、誤った医療行為または管理の実施の有無は「患者に実施された」と「誤りがあったが患者に実施されなかった」、仮に患者への影響が大きくなった場合の事例の程度は「死亡もしくは重篤な状況に至ったと考えられる」「濃厚な治療・処置が必要であったと考えられる」「軽微な治療・処置が必要であったと考えられる」「治療・処置は不要であったと考えられる」の4段階で示されています。同事業は2025年4月に報告項目を変えているので、院内の語彙は新しい項目に合わせます。

発生場面は、事例の概要ごとに語彙が違います。 同事業の集計表では、薬剤なら「処方・指示」「指示受け」「調剤」「準備」「投与」「薬剤管理」、検査なら「オーダ・指示」「検体採取」「検体提出・受け取り」「結果報告」「結果確認」のように分かれています。事例の概要を先に決め、その中の発生場面の語彙から選ぶ二段の形にします。

Step3

データの取得方法を決める

取るものどこからどうやって
報告の本文と属性院内の報告の仕組み確定の通知、または定期的な出力のファイル
報告者の分類同上同上
語彙・定義・確定例医療安全管理室の表版の番号と一緒に読む

報告の仕組みから取り出す方法は、製品によって違います。 確定の通知を外へ送れる製品なら1件ずつ、送れなければ1日数回の出力のファイルを読む形にします。どちらが使えるかは導入している製品の機能によるため、この部分は個別の実装が必要です。

電子カルテからは取りません。 影響の程度の判断に経過の確認が要るときは、医療安全管理者が自分でカルテを見ます。生成AIに渡すのは報告の本文だけにして、扱う情報の範囲を報告の仕組みに閉じます。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 符号化 … 報告の本文に書かれた患者の氏名・患者ID・職員の氏名を、符号に置き換えます。名簿と職員の一覧で照合し、照合できない固有名は伏せ字にします
  2. 定型の除去 … 入力画面の見出しや「特になし」のような記入を除きます
  3. 長さの確認 … 本文が極端に短い報告(「転倒あり」だけなど)は、候補を付けずに印を付けて医療安全管理者に回します。根拠の取れない報告に候補を付けると、それらしい分類が付いて確認から漏れます
  4. 部署と職種の付与 … 部署と関わった職種は属性の欄から取り、本文から推し量らせません
  5. 語彙の版の付与 … どの版の語彙で分類したかを記録に付けます

1番目は、外へ出す範囲を決める処理です。 報告の本文には、患者の氏名や病室番号がそのまま書かれていることがあります。分類に患者が誰かは要りません。 符号にしてから渡します。

Step5

AIに処理させる

させるのは、語彙の中から候補を選び、その根拠にした本文の箇所を写すことだけです。

分類選び方判断できないとき
事例の概要8区分から1つ。主となるものを選び、関係する区分があれば副として1つまで本文から決められなければ undetermined
発生場面選んだ事例の概要の中の発生場面の語彙から1つ同上
実施の有無患者に実施されたか、実施されなかったか本文に書かれていなければ undetermined
仮に影響が大きくなった場合の程度4段階から1つ同上。迷ったら重いほうではなく undetermined

右端の列の「迷ったら undetermined」が、この構成で最も大事な指示です。 影響の程度は、委員会での扱いと、原因の分析にどれだけ手をかけるかを決めます。生成AIが迷った末に軽いほうを選ぶと、深く見るべき事例が一覧に埋もれます。 重いほうを選ばせても、今度は印が多すぎて確認が回りません。迷ったものは迷ったまま人に渡します。

させないこと理由
院内の影響度の最終判断経過の確認と聞き取りを経て医療安全管理者が決める
医療事故に当たるかの判断管理者が判断する。報告の本文だけでは決められない
原因の分析・要因の特定委員会と部署で行う。本文の「報告者の考える要因」をそのまま写すにとどめる
再発防止策の提案委員会で決める
報告者の評価誰の誤りかを書かせない

月末の要点の下書きでさせることは、別に決めます。 渡すのは、確定した分類から作った集計表(前月・前年同月との比較を含む)と、医療安全管理者が選んだ数件の事例の要旨だけです。

要点でさせること要点でさせないこと
集計表の数字の増減を文にする(例:「薬剤の報告が前月より12件多い」)増減の理由を推し量る
選ばれた事例の要旨を、委員会の資料の書式にそろえる選ばれていない事例を取り上げる
語彙の版が変わった月は、その旨を冒頭に書く改善策を提案する

数字の増減は、集計表の値から機械で計算して渡します。 生成AIに引き算をさせず、「前月差:+12」のように計算済みの値を渡して文にさせます。下書きに出てくる数字は、集計表と照合してから医療安全管理者に回します。

分類で「させないこと」の表の4行目と5行目(再発防止策の提案、報告者の評価)は、報告の文化を守るための線です。 報告を読んだ生成AIが「確認不足が原因」「ダブルチェックの徹底を」と書き添えると、それが委員会の資料に残り、報告した職員を責める材料に見えます。 報告がためらわれるようになれば、集計そのものが成り立ちません。

Step6

指示内容を固定する

あなたは病院の医療安全管理室で、インシデント・ヒヤリハットの報告を分類する補助をします。
報告の本文だけを読み、下の語彙から分類の候補を選んでください。

【分類する項目】
1. 事例の概要(主):薬剤/輸血/治療・処置/医療機器等/ドレーン・チューブ/検査/療養上の世話/その他
2. 事例の概要(副):関係する区分があれば1つ。なければ none
3. 発生場面:1で選んだ区分の発生場面の語彙から1つ
4. 実施の有無:implemented(患者に実施された)/not_implemented(誤りがあったが患者に実施されなかった)
5. 仮に患者への影響が大きくなった場合の程度:
   death_or_severe/intensive_treatment/minor_treatment/no_treatment

【厳守事項】
- 本文に書かれていることだけで選んでください。書かれていない経過を補わないでください。
- 決められない項目は undetermined にしてください。
  特に5は、迷ったときに重いほうも軽いほうも選ばず undetermined にしてください。
- 項目ごとに、根拠にした本文の箇所を evidence にそのまま写してください(60字以内)。
  根拠を写せない項目は undetermined にしてください。
- 原因、要因、再発防止策、誰の誤りかを書かないでください。
- 医療事故に当たるかどうかを書かないでください。
- 下の「定義と迷いやすい例」に当てはまる事例は、その例の分類に従ってください。
- 符号(P01、S01 など)は符号のまま扱ってください。

【語彙の定義と迷いやすい例】{definitions}
【発生場面の語彙】{scene_vocab}
【報告の本文】{report_text}
【報告の属性】部署:{dept}/発生場所:{place}/関わった職種:{role}

「根拠を写せない項目は undetermined」を入れないと、本文に無い経過から程度を推し量ります。 「点滴の速度を誤った」とだけ書かれた報告に、「濃厚な治療・処置が必要であったと考えられる」と付けるような場合です。写せる根拠があるかどうかで、選ぶか保留するかを分けます。

迷いやすい例を指示に入れるのは、院内の決め事を守らせるためです。 「輸液ポンプの流量の設定の誤りは医療機器等を主、薬剤を副」のような例を医療安全管理室で決め、確定した例を版ごとに増やしていきます。

Step7

出力形式を固定する

構造化出力で、次の形のJSONを受け取ります。

{
  "report_id": "",
  "vocab_version": "",
  "summary_category": {
    "main": "drug | transfusion | treatment | device | drain_tube | exam | care | other | undetermined",
    "sub": "none | drug | transfusion | treatment | device | drain_tube | exam | care | other",
    "evidence": ""
  },
  "scene": { "value": "", "evidence": "" },
  "implemented": { "value": "implemented | not_implemented | undetermined", "evidence": "" },
  "impact_if_worse": {
    "value": "death_or_severe | intensive_treatment | minor_treatment | no_treatment | undetermined",
    "evidence": ""
  }
}

1つ目の理由は、語彙の外の値が返らないことです。 main や impact_if_worse.value を enum にしておけば、集計の表に「点滴関連」のような列が増えることがありません。 公式のページでは、スキーマのすべての項目を required にすること、オブジェクトに additionalProperties: false を付けることが求められています。

2つ目は、印を機械で付けられることです。 次の条件のどれかに当たる報告に印を付け、医療安全管理者が先に読みます。

印条件
程度が高いimpact_if_worse が death_or_severe か intensive_treatment
保留どれかの項目が undetermined
報告者と違う事例の概要か程度が、報告者の選んだものと違う
実施されたimplemented が implemented

3つ目は、evidence で確認が速くなることです。 医療安全管理者は、本文の全体を読む前に、どの一文を根拠に候補が付いたかを見て、合っていればそのまま確定できます。

月末の集計表は、確定した分類から次の形で作ります。

事例の概要件数前月差実施された程度が高い(上位2段階)保留のまま確定
薬剤74+122130
療養上の世話68-54021

「保留のまま確定」の列を残すのは、人が程度を決めきれなかった報告の数を見えるようにするためです。 この数が多い分類は、定義を見直す候補になります。

発生場面は、事例の概要ごとに語彙が違うため、スキーマでは文字列にし、照合で語彙に入っているかを確かめます。 公式のページでは、スキーマ全体で項目は最大100、入れ子は5段までとされているので、事例の概要ごとに発生場面の enum を全部並べるより、照合で確かめるほうが扱いやすくなります。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
院内の報告の仕組み確定の通知、または出力のファイル本文・属性・報告者の分類を読む
Azure OpenAIAPI呼び出し(構造化出力)分類の候補と根拠、要点の下書き
医療安全管理室の表書き込み候補、印、確定した分類と確定者
集計用の表書き込み(月末)確定した分類から集計表を作る

報告の仕組みには書き込みません。 報告者の選んだ分類は、そのまま残します。報告者の分類と確定した分類の違いそのものが、どの部署にどの分類の説明が要るかを示す材料になるためです。

Step9

人が確認する

分類の確定は、すべて医療安全管理者が行います。 確かめ方を、印の有無で分けます。

  1. 印の付いた報告を先に読む … 程度が高い・保留・報告者と違う・実施された、のどれかに当たるもの。本文を読み、evidence を確かめて確定します
  2. 程度が高い報告は、経過を確かめる … 必要に応じて報告者・所属長に聞き、カルテを見ます。これは従来どおりの仕事で、この構成では減らしません
  3. 印の無い報告は一覧で確かめる … 候補と evidence を一覧で流し見て、まとめて確定します
  4. 候補を覆したら理由を書く … どの項目をどう変えたかと、その理由を残します。同じ理由が続けば、迷いやすい例に足します

3番目の一覧の確認を省かないでください。 印の無い報告は「生成AIと報告者が同じ分類を付けた」ものですが、両方が同じ誤りをしていることもあります。 一覧で根拠の一文を流し見るだけでも、明らかなずれは拾えます。

目標は、300件をならして1件5分です。 印の無いものは1件1分に満たず、印の付いたものは本文を読むので数分かかります。

Step10

例外に対処する

起きること対応
本文が短く根拠が取れない候補を付けず保留の印で回す。報告者に書き足しを頼む
1件の報告に複数の事例が書かれている主の事例で分類し、副を使う。分けるべきなら報告者に分けて出し直してもらう
語彙に当てはまらない事例other か undetermined。続くなら語彙と定義を見直す
発生場面が語彙に無い値で返る照合で弾き、保留の印で回す
報告が確定後に修正された付け直し、前の候補と違えば知らせる。確定済みは自動で変えない
患者が亡くなった事例の報告候補を付けても、管理者と医療安全管理者に直ちに知らせる経路を別に持つ
構造化出力が拒否・途中終了で返る候補なしで保留の印を付ける
生成AIが応答しない報告者の分類のまま一覧に出し、保留の印を付ける

6行目は、この構成の外で扱う事態です。 死亡や重い障害に関わる事例は、医療法の医療事故の報告や院内の調査に関わり、月次の分類の流れに乗せて待つものではありません。 報告の仕組みの側で、従来どおりの緊急の連絡経路を残します。

Step11

記録を残す

  • 報告の番号と、符号化した後の本文
  • 語彙の版の番号と、そのときの定義・迷いやすい例
  • 生成AIの候補と evidence、付いた印
  • 確定した分類、確定者、確定日時、候補を覆した理由
  • 月次の集計表と、要点の下書き、委員会に出した版

2つ目の語彙の版が大事です。 迷いやすい例を足すと、同じ事例でも候補が変わります。ある月から「医療機器等」が増えたときに、事例が増えたのか例を足したからなのかを、版の記録で見分けます。

4つ目の覆した理由は、語彙の定義を良くする材料です。 同じ理由で覆す報告が月に何件も出るなら、定義か迷いやすい例が足りていません。

04実装レベルの3段階

最小構成:伏せた本文と定義を手でAIの画面に貼り、候補を付けさせる / 1件ごとの分類の候補
半自動化:上記+出力のファイルを読み、APIで候補と印を一覧に書き出す / 候補と印の一覧化
本格構成:上記+確定の通知で1件ずつ動かし、確定の記録から集計表と要点の下書きまで作る / 分類の候補から委員会の資料の下書きまで

最小構成では件数がさばけません。 1件ずつ伏せて貼るので、300件には使えません。語彙の定義を確かめるための段階です。 半自動化で、1件12分が8分程度になります。 候補と印は付きますが、集計の表への転記と要点の材料の書き出しが残ります。本格構成で5分になり、この段階が本記事の想定です。 差が出るのは、確定の記録からそのまま集計表ができ、転記が無くなるからです。 段階を飛ばさないでください。 半自動化で2か月回すと、覆した理由がたまり、迷いやすい例が増えます。例が増えてから集計まで自動にするほうが、委員会に出す数字が安定します。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
3 名
月間件数
300 件
1件あたり現在時間
12 分
1件あたり導入後時間
5 分
現在  300件 × 12分 ÷ 60 = 60 時間/月
導入後 300件 × 5分 ÷ 60 = 25 時間/月
月間削減時間
35h
削減率
58%
年間削減時間
420h
年間金額換算(時間単価4,000円)
168万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 院内のインシデント報告の仕組みで月に数百件の報告を受けており、医療安全管理室の専従・専任の担当者が、報告者の付けた分類を1件ずつ読み直して付け直している病院。報告者によって分類の付け方がばらつき、月次の集計が委員会の直前まで固まらない場合。医療事故情報収集等事業のヒヤリ・ハットの報告項目に合わせて院内の分類をそろえたい場合。Azure の契約があり、患者に関わる情報を自社のテナントの中で扱う構成を取れる場合。
向いていない
  1. 報告が月に数十件で、担当者が全件を読んで分類しても負担になっていない場合。インシデント報告がまだ紙で、文字として取り出せない場合(先に報告の仕組みの電子化が要る)。報告の仕組みの製品が分類の補助と集計の機能をすでに備えている場合。なお、事例の影響の程度の最終的な判断、医療事故に当たるかの判断、原因の分析と再発防止策の決定は医療安全管理者・委員会・管理者が行い、この構成はそれを代わりに行いません。

07最小構成で試す方法

  1. 先月の報告から、事例の概要が偏らないように30件を選ぶ(報告者の分類と医療安全管理室の確定が違ったものを10件含める)
  2. 30件の本文から、患者と職員の名前を手で伏せる
  3. 手元のAIサービスの画面に、事例の概要の8区分と程度の4段階の定義を貼る
  4. 1件ずつ本文を貼り、「定義の中から分類を選び、根拠にした本文の箇所を写してください。決められなければ保留としてください。原因や対策は書かないでください」と指示する
  5. 出てきた候補を、医療安全管理室が確定した分類と突き合わせる

30件は必ず実際の報告で作ってください。 見るのは正解率だけではなく、医療安全管理室の確定と違ったときに、根拠の一文に納得できるかです。

出てきた内容判断
確定と同じ分類が多く、違うものは根拠を読めば分かる連携の構築に進む
本文に無い経過から程度を推し量った指示の書き方で直る。構成は有効
担当者の間でも確定の分類が割れた語彙の定義が先。 迷いやすい例を決める

3行目が出ることは珍しくありません。 試すと、医療安全管理室の3名の間でも、同じ報告の分類が割れていたことが分かります。それは第3章の(a)が見えたということで、迷いやすい例を決める最初の材料になります。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
語彙に無い分類が返る事例の概要と程度を enum で固定する
発生場面が別の区分の語彙から返る文字列で受け、事例の概要ごとの語彙で照合する
迷った程度を軽いほうに付ける迷ったら undetermined。根拠を写せなければ保留
本文に無い経過から程度を推し量る根拠の一文を必ず写させる
原因や対策を書き添える指示で禁じ、evidence 以外の自由な文の欄を作らない
患者の氏名が本文に残っている名簿で照合して符号化し、照合できない固有名は伏せる
担当者の間で確定が割れる迷いやすい例を決め、版で管理する
語彙の版を変えて件数が動く版の記録で見分け、委員会の資料に版を書く
確定前の報告が集計から抜ける未確定の件数を脚注に出す
印の無い報告を確かめずに確定する一覧で根拠を流し見る手順を残す

上の4行は、生成AIの出力の形を決める部分です。 語彙の外の値と、根拠の無い程度を出さないことで、確かめる側の負担が読める範囲に収まります。

5行目は、報告の文化に関わります。 委員会の資料に原因の決めつけが残ると、職員は報告をためらいます。出力の欄を分類と根拠だけにして、書き添える場所を作らないでください。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 患者に起きた事例の経過、関わった職員の職種と経験年数、病室や処置の内容です。患者の診療に関わる情報と、職員の評価につながりうる情報の両方を含みます。

  1. 生成AIに患者と職員の名前を渡さない … 符号化してから渡し、照合できない固有名は伏せます。分類に誰の事例かは要りません
  2. 処理の場所が国内に収まるデプロイを使う … Global のデプロイでは処理がほかの地域で行われうるとされています。地域指定の Standard デプロイを使います
  3. この構成は医療安全の判断を代替しません … 影響の程度の最終判断、医療事故に当たるかの判断、原因の分析と再発防止策は、医療安全管理者・委員会・管理者が決めることです。 この構成が出すのは分類の候補と根拠だけです
  4. 報告者の評価に使わない … 分類の記録を、個人の誤りを数える目的に使わないことを院内で決めておきます。報告がためらわれると、集計そのものが成り立ちません
  5. 緊急の連絡経路を残す … 死亡や重い障害に関わる事例は、月次の分類の流れとは別に、従来どおり直ちに管理者へ上がる経路を持ちます
  6. 電子カルテにはつながない … 生成AIに渡すのは報告の本文だけにし、扱う情報の範囲を報告の仕組みに閉じます

誤りが起きた場合のリスクは、深く見るべき事例を軽く分類することと、報告した職員を責めるような記述が資料に残ることの2つです。 前者は迷ったときの扱いで、後者は出力の欄の作り方で防ぎます。どちらも、生成AIに判断の言葉を書かせない設計から出ています。

10まず何から始めるか

1週目:語彙と定義を決める

医療事故情報収集等事業のヒヤリ・ハットの報告項目を土台に、事例の概要・発生場面・実施の有無・程度の語彙と、院内の定義を表にします。2025年4月の項目の変更に合わせてあるかも確かめます。

2週目:30件で試す

先月の報告から30件を選び、名前を伏せて手元のAIサービスで候補を付けさせます。医療安全管理室の確定と違ったものについて、根拠の一文に納得できるかを最優先で見ます。

3週目:迷いやすい例を決める

試した結果、3名の間で割れた分類と、候補が外れた分類について、どちらに付けるかと理由を決め、迷いやすい例の最初の版にします。

4週目:出力のファイルから候補の一覧までをつなぐ

報告の仕組みの出力のファイルを読み、符号化して Azure OpenAI で候補と印を付け、一覧に書き出すところまでを組みます。この時点では集計は従来どおり手で行います。

2か月目: 確定の記録を医療安全管理室の表に持ち、月末の集計表を自動で作ります。印の付いた件数と覆した件数を毎週数えます。3か月目以降: 要点の下書きを足し、1件12分が何分になったかを実測します。覆した理由が迷いやすい例に吸収され、覆す件数が落ち着いた時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-07/最終更新:2026-10-07
確認した内容情報源確認日
ヒヤリ・ハットの発生件数情報の項目として、事例の概要(薬剤/輸血/治療・処置/医療機器等/ドレーン・チューブ/検査/療養上の世話/その他)、誤った医療行為または管理の実施の有無、仮に患者への影響が大きくなった場合の事例の程度(4段階)が集計されていること(2026年4月-6月、第86回報告書分)日本医療機能評価機構 医療事故情報収集等事業: 発生件数情報に関する集計表2026-10-07
事例情報の集計で、事例の概要ごとの発生場面(薬剤の処方・指示/指示受け/調剤/準備/投与/薬剤管理、検査のオーダ・指示/検体採取/結果報告/結果確認 など)が用いられていること。2025年4月に報告項目が変更されていること日本医療機能評価機構 医療事故情報収集等事業: 事例情報に関する集計表2026-10-07
医療法施行規則第1条の11:病院等の管理者が医療安全管理委員会を設置し、重大な問題が発生した場合の原因の究明のための調査・分析、改善の方策の立案・実施・周知、実施状況の調査と見直しを行わせること。医療機関内における事故報告等の改善の方策を講ずることe-Gov 法令API: 医療法施行規則2026-10-07
プロンプトと応答が他の顧客や OpenAI に提供されず、提供元のモデル改善に使われないこと。モデルがステートレスであること。Global のデプロイでの処理の場所Microsoft Learn: Data, privacy, and security for Foundry Models sold by Azure2026-10-07
構造化出力が渡した JSON Schema にモデルを従わせること。対応する型に Enum が含まれること。すべての項目を required にすること、additionalProperties: false、項目は最大100・入れ子は5段までMicrosoft Learn: How to use structured outputs with Azure OpenAI2026-10-07

分類の定義と影響の程度の判断は、各病院の医療安全管理の取り決めによります。 本記事は上記の公開情報で確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

自社の業務に使えるAI活用候補を整理します

このユースケース(UC-0732)についてのご相談はこちらから。

AI活用について相談する
目次