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英文契約の締結前に、英文と和訳を条項ごとに並べた対訳表を作り、訳の抜けと定義語の訳のずれを拾って稟議に回せる形にする

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

締結前の英文契約を Microsoft 365 Copilot で条項ごとに和訳し、英文と並べた対訳表にします。あわせて、訳の抜けの候補と定義語の訳のずれを一覧にし、法務の担当者はその行だけを確かめて稟議に添付します。

サマリー
生成AI
ChatGPT/Claude/Gemini/Microsoft Copilot
対象業界
EC/IT・SaaS/医療/商社/製造
対象部門
営業/法務
対象業務
内容確認・チェック/書類作成
主な課題
人手が足りない/書類作成に時間がかかる/確認ミスが多い
AIで行う処理
翻訳
主な効果
入力漏れ削減/品質標準化/工数削減
導入難易度
★★☆☆☆
実装レベル
半自動化
費用感
既存ツールのみ(小)
人間の確認
条件付き
現在工数
120h/月
AI導入後
40h/月
想定削減
67%
年間削減
960h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 営業から英文契約の最終案(Word か PDF)が法務に届く
  2. 担当者が Word に2列の表を作り、英文を条項ごとに区切って左の列に貼る
  3. 機械翻訳にかけた訳を右の列に貼り、1条ずつ手直しする
  4. 定義の条項を読み、定義語の訳を決めて本文の訳を直す
  5. 英文と和訳を見比べ、訳の抜けと数字の写し違いを探す
  6. できた対訳表を営業に返し、営業が稟議に添付する
導入後(After)
  1. 人営業から届いた英文契約の最終案を、案件ごとの SharePoint のフォルダに置く
  2. 人法務の担当者が、共有の Copilot Notebook に契約を参照先として加える
  3. 【AI】 定義の条項と本文から定義語を拾い、訳語集に照らして訳を決めた定義語表を作る
  4. 【AI】 定義語表に従って、条項ごとに和訳し、英文と並べた対訳表を作る
  5. 【AI】 別の指示で、英文から数字・期限・義務の言葉・否定・但し書きを拾い、和訳に同じものがあるかを条項ごとに突き合わせる
  6. 【AI】 定義語が定義語表と違う訳になっている箇所と、一般の語が定義語の訳になっている箇所を一覧にする
  7. 人担当者が、5番と6番で印の付いた行だけを英文と見比べ、訳を直す
  8. 人定義語表に新しい語があれば、訳語集に足すかを決める
  9. 人対訳表を確定し、営業に返す。営業が稟議に添付する
各工程の詳しい説明を読む
  1. 営業から英文契約の最終案(Word か PDF)が法務に届く
  2. 担当者が Word に2列の表を作り、英文を条項ごとに区切って左の列に貼る
  3. 機械翻訳にかけた訳を右の列に貼り、1条ずつ手直しする
  4. 定義の条項を読み、定義語の訳を決めて本文の訳を直す
  5. 英文と和訳を見比べ、訳の抜けと数字の写し違いを探す
  6. できた対訳表を営業に返し、営業が稟議に添付する

(a)表づくりと手直しに時間がかかる。 英文を条項ごとに区切って貼るだけで、20ページの契約では手間がかかります。機械翻訳の訳は「shall」を「するものとする」と「しなければならない」で揺らし、主語を落とし、長い一文の後半を訳さずに終えることがあります。手直しは、ほぼ全文を読み直す作業になります。

(b)定義語の訳が契約ごと・担当ごとにばらばら。 訳語集はありますが、照らし合わせるのは担当者の記憶です。定義語は大文字で始まるという見分け方を知らない担当者は、一般の語と定義語を同じ訳にします。 「products」と「Products」の違いは、和訳では消えます。

(c)訳の抜けは、読むだけでは見つからない。 抜けやすいのは、長い一文の中の但し書き(provided that)、例外(except、unless)、否定(shall not)、そして数字と期限です。和訳だけを読むと、文として自然につながっているので、抜けていることに気づきません。 稟議の後、相手方との交渉の場で「その但し書きは訳に無かった」と分かることがあります。

(d)法務の手が足りない。 月40本の和訳を8名で回すと、契約の中身の審査に使う時間が削られます。本来見るべき条項の不利な点より、和訳を整える作業に時間が取られています。

  1. 【人】 営業から届いた英文契約の最終案を、案件ごとの SharePoint のフォルダに置く
  2. 【人】 法務の担当者が、共有の Copilot Notebook に契約を参照先として加える
  3. 【AI】 定義の条項と本文から定義語を拾い、訳語集に照らして訳を決めた定義語表を作る
  4. 【AI】 定義語表に従って、条項ごとに和訳し、英文と並べた対訳表を作る
  5. 【AI】 別の指示で、英文から数字・期限・義務の言葉・否定・但し書きを拾い、和訳に同じものがあるかを条項ごとに突き合わせる
  6. 【AI】 定義語が定義語表と違う訳になっている箇所と、一般の語が定義語の訳になっている箇所を一覧にする
  7. 【人】 担当者が、5番と6番で印の付いた行だけを英文と見比べ、訳を直す
  8. 【人】 定義語表に新しい語があれば、訳語集に足すかを決める
  9. 【人】 対訳表を確定し、営業に返す。営業が稟議に添付する

5番目を4番目と分けているのが、この設計の要です。 訳を作る指示と、訳を疑う指示を分けると、疑う側は英文から出発して和訳を探すことになります。和訳から出発すると、和訳に無いものは見えません。

7番目で人が見るのは、印の付いた行だけです。 全文を読み直す設計にすると、第4章の②と③がほとんど減りません。印の無い行は、決裁者と同じく英文と並べて流し読みします。

02今回想定するシステム構成

構成図
英文契約の最終案(Word/PDF)
   ▼ 案件フォルダ(SharePoint)へ保存
【人】共有の Copilot Notebook に参照先として加える
   │   固定の参照先:訳語集、指示文、過去の確定済み対訳表
   ▼
Microsoft 365 Copilot(Copilot Notebooks)
   ├── 指示1:定義語表を作る(定義の条項+本文中の定義+訳語集)
   ├── 指示2:条項ごとに和訳し、対訳表にする
   ├── 指示3:英文から数字・期限・義務の言葉・否定・但し書きを拾い、和訳と突き合わせる
   └── 指示4:定義語の訳のずれを一覧にする
   ▼
Word の Copilot ── 対訳表と一覧を稟議用の書式に整える
   ▼【人が印の付いた行を確かめる】
確定した対訳表 → 営業 → 稟議に添付
役割想定する製品代替候補
処理Microsoft 365 Copilot(Copilot Notebooks と Word の Copilot)ChatGPT Enterprise、Gemini、Claude
保管SharePoint ドキュメントライブラリ(案件フォルダと訳語集)OneDrive、Box
稟議既存の稟議のワークフロー契約管理のシステム

新しく足すのは、共有の Notebook と指示文だけです。 契約管理の台帳にも稟議のワークフローにも触りません。最初の準備作業は、訳語集を「定義語」と「頻出の言い回し」に分け、定義語の訳を1つに決めることです。

翻訳そのものは、Copilot Chat でファイルを指定して頼めます。 Microsoft のサポートページでは、Copilot Chat で「/」を入力して資料を探すか「Add and manage sources」から仕事のコンテンツを加え、別の言語への翻訳を頼む手順が案内されています。ただし、そのページには対応するファイル形式や長さの上限が書かれていません。 そのため本記事では、30ページの契約を一度に訳させず、条項のまとまりごとに分けて頼む前提にします。

束ねる場所に Copilot Notebooks を使うのは、訳語集と指示文を毎回入れ直さないためです。 Notebook の参照先には .docx、.pdf、.xlsx などのファイルと SharePoint のフォルダを加えられ、参照先はデータの変更に合わせて最新に保たれるとされています。訳語集のスプレッドシートを参照先に固定しておけば、訳語集を直したときにそのまま次の契約に効きます。

Copilot の使い方はライセンスで決まります。 Copilot Chat(Basic)と Microsoft 365 Copilot(Basic)は Microsoft Graph 経由で組織データを使えず、プロンプトの作成時にファイルをアップロードするか選択する必要があるとされています。Notebook の参照先は、Microsoft 365 Copilot のユーザーは最初の300件まで、Copilot Chat のユーザーは50件までが根拠に使われるとされており、この構成は1件の契約と訳語集と指示文なので、どちらでも上限には当たりません。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

営業から「最終案」として契約が届いたことを起点にします。 交渉の途中の版で対訳表を作ると、版が変わるたびに作り直しになります。稟議に回す版が決まってから作ります。

営業は、案件フォルダに最終案を置き、法務の受付の Teams チャネルに案件番号と締結の希望日を投稿します。担当者は、投稿を見て Notebook に契約を加え、指示を順に流します。自動で走らせる設計にはしません。 契約の最終案は、届いた後に「やはりこの条だけ直したい」と差し替えられることが多く、誰がどの版で対訳表を作ったかを、担当者の操作として残すほうが確実です。

最終案の後に相手方から修正が入ったときは、Word の比較の機能で旧版との差分を出し、変わった条項だけを訳し直します。 全文を訳し直すと、確かめ終わった訳まで変わります。Word の「2つのバージョンの文書を比較(リーガル ブラックライン)」は、元の文書と変更後の文書を選ぶと、変更を変更履歴として示した3つ目の文書を作り、比べた元の2つの文書は変えないとされています。変更は文字単位か単語単位で示せます。変更履歴の付いた条項の条番号を拾い、その条項だけを指示2から流し直します。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
英文契約最終案の Word か PDF。条番号の付いた本文と別紙案件フォルダ
訳語集定義語と頻出の言い回しの訳。英語/訳語/使い方の注意/追加した日SharePoint のスプレッドシート
過去の対訳表同じ相手方、または同じ種類の契約で確定した対訳表SharePoint の確定済みフォルダ
案件の情報相手方、契約の種類、取引の内容(品目)営業の投稿

質を決めるのは訳語集です。 訳語集が無いと、定義語の訳は毎回その契約の中だけで決まります。契約ごとに「本製品」と「対象製品」が入れ替わる状態は、訳語集でしか止められません。

過去の対訳表を入れるのは、同じ相手方の言い回しをそろえるためです。 同じ相手方の書式は、毎回ほぼ同じ文で届きます。前回確定した訳と同じ文には、同じ訳を当てさせます。 決裁者が前回の稟議と見比べたときに、同じ条項の訳が違うと、条件が変わったように見えるからです。

Step3

データの取得方法を決める

取るものどこからどう取るか
英文契約案件フォルダ担当者が Notebook の参照先に加える
訳語集SharePointNotebook の参照先に固定しておく
指示文SharePoint の指示文のファイルNotebook の参照先に固定し、担当者は番号で呼び出す
過去の対訳表確定済みフォルダ相手方の名前で探し、あれば参照先に加える

PDFで届いた契約は、Word にしてから入れます。 スキャンした PDF は、条番号や段落の区切りが崩れて読まれることがあり、条項の区切りが崩れると対訳表の行がずれます。 相手方に Word の版を頼めるなら、そちらを使います。

別紙(Schedule、Exhibit)は本文と分けて扱います。 価格表や仕様の一覧のような別紙は、表のまま和訳すると崩れやすく、稟議で読まれるのは本文が中心です。別紙は見出しと説明文だけを訳し、表の中身は英文のまま添付します。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 条項の区切りを確かめる … 条番号(Article、Section、1.1 のような番号)で本文を区切れるかを確かめます。番号の無い前文と末尾の署名欄は、それぞれ1行として扱います
  2. 版を確かめる … ファイル名と本文の版の表示が最終案であることを確かめます。変更履歴が残っていれば、すべて反映した版にします
  3. 条項のまとまりに分ける … 30ページを超える契約は、5〜8条ずつに分けて訳させます。定義の条項は、どのまとまりにも付けます
  4. 定義語の候補を拾う … 定義の条項の見出し語と、本文中で「(the "Products")」のように定義されている語を一覧にします
  5. 個人の情報を外す … 署名欄の個人名と連絡先は、訳す対象から外します

3番目で定義の条項をどのまとまりにも付けるのは、定義語の訳を全体で1つにするためです。 まとまりごとに定義を知らないまま訳させると、まとまりごとに違う訳が付きます。

4番目の一覧は、指示1の答え合わせにも使います。 本文の途中で定義される語は、定義の条項だけを見ていると漏れます。担当者が拾った一覧と指示1の定義語表を並べ、片方にしか無い語があれば、そこから確かめます。 漏れた定義語は、本文で一般の語として訳されてしまうからです。

Step5

AIに処理させる

させるのは4つの指示で、順に流します。

指示させること出すもの
1. 定義語表定義の条項と本文中の定義から定義語を拾い、訳語集にある語は訳語集の訳、無い語は訳の案を付ける定義語表
2. 和訳定義語表に従い、条項ごとに和訳する。条番号は英文のまま対訳表
3. 抜けの照合英文の側から、数字・日付・期間・金額・割合、義務と権利と禁止の言葉、否定、但し書き・例外を拾い、和訳に対応するものがあるかを見る抜けの候補の一覧
4. 定義語の照合本文の訳で、定義語が定義語表と違う訳になっている箇所と、小文字の一般の語が定義語の訳になっている箇所を拾う定義語のずれの一覧

3番目で拾う「義務と権利と禁止の言葉」が、この構成でいちばん大事です。 「shall」「shall not」「may」「must」「will use reasonable efforts」は、訳し分けを誤ると義務が努力目標に、禁止が任意に変わります。英文の側の言葉と、それに当てた和訳の言葉を対で書き出させ、人は対を見て確かめます。

させないこと理由
条項の有利・不利の評価本記事の範囲外。論点の整理は別の手順で行う
訳を読みやすくするための意訳英文と1対1で見比べられなくなる
数字・日付の書き換え「30 days」を「1か月」にしない。英文のまま数字で写す
訳しにくい文の省略訳せない文は「【訳出困難】」と書いて残す
抜けの候補を自分で直して消す候補は人が見る。直した訳は担当者が書く

4行目がいちばん効きます。 長い但し書きや二重否定の文で、訳が難しいところほど黙って短くされます。訳せないことを書かせれば、人が見るべき行がそこだと分かります。

Step6

指示内容を固定する

指示2(和訳)の例です。

あなたは商社の法務部で、英文契約の社内向けの参考訳を作る立場です。
参照先の英文契約と、指示1で作った定義語表だけを使ってください。

【作るもの】
条項ごとに1行の表。列は「条番号|英文|和訳」。
条番号と英文は、契約に書かれたとおりに写してください。

【厳守事項】
- 英文の1文に対して、和訳も1文で対応させてください。
  文をまとめたり、分けたり、順番を入れ替えたりしないでください。
- 定義語(大文字で始まり、定義語表にある語)は、定義語表の訳だけを使ってください。
  小文字の一般の語を、定義語の訳で訳さないでください。
- shall は「〜するものとする」、shall not は「〜してはならない」、
  may は「〜することができる」と訳してください。
  定義語表の「言い回し」の欄に別の訳があれば、そちらを使ってください。
- provided that、except、unless、notwithstanding、subject to の部分を省かないでください。
- 数字、日付、期間、金額、割合、通貨は英文のまま数字で写してください。
  日数を月数に直す、通貨を換算する、といった書き換えをしないでください。
- 意訳をしないでください。読みにくくても、英文と見比べられる訳にしてください。
- 訳せない、または訳が決められない文は、和訳の欄に「【訳出困難】」と書き、
  その理由を括弧で一言添えてください。省略しないでください。
- 条項の良し悪し、自社に不利かどうかは書かないでください。
- 署名欄の個人名と連絡先は訳さず、「(署名欄)」と書いてください。

指示3(抜けの照合)の例です。

参照先の英文契約と、指示2で作った対訳表を突き合わせてください。
英文の側から出発してください。和訳の側から出発しないでください。

条項ごとに、英文から次のものをすべて拾ってください。
1. 数字・日付・期間・金額・割合・通貨
2. shall/shall not/may/must/will/agree to/use reasonable efforts
3. not、no、neither、nor などの否定
4. provided that/except/unless/notwithstanding/subject to/in no event

拾ったものそれぞれについて、和訳の側で対応する言葉を探し、
「英文の言葉|和訳の言葉|判定」で書き出してください。
判定は、対応あり/対応なし/訳が弱い(義務が努力に、禁止が任意に変わっている等)
のいずれかです。迷ったときは「対応あり」を選ばないでください。
英文の文の数と、和訳の文の数も条項ごとに書いてください。

指示3で「英文の側から出発する」を2回書いているのは、そうしないと和訳を読んで問題なしと答えるからです。 和訳だけを読めば、抜けた但し書きは見えません。

文の数を書かせるのは、1文まるごとの抜けを拾うためです。 英文が5文で和訳が4文なら、どこかが抜けたか、2文がまとめられています。どちらでも、人が見るべき条項です。

Step7

出力形式を固定する

Word の文書に、次の3つの表を出させます。 Notebook の回答を Word の Copilot に渡して、稟議用の書式にそろえます。

表列
対訳表条番号/英文/和訳/確認の印
定義語表英語の定義語/定義している条項/訳/訳の出どころ(訳語集・新規の案)/本文での出現条項
確認の一覧条番号/種類(抜けの候補・訳が弱い・定義語のずれ・訳出困難・文の数の違い)/英文の言葉/和訳の言葉/担当者の対応(空欄)

確認の印は、確認の一覧に行がある条項に付けます。 対訳表を開いた人が、どの条項を疑ってよいかを一目で分かるようにします。

定義語表と確認の一覧の1行は、たとえば次の形になります。

英語の定義語定義している条項訳訳の出どころ本文での出現条項
Territory1.8本地域訳語集2.1、3.4、9.2
Minimum Purchase Quantity1.6最低購入数量新規の案4.2、4.3
条番号種類英文の言葉和訳の言葉担当者の対応
4.3訳が弱いshall purchase購入するよう努める(空欄)
9.2抜けの候補provided that ... within thirty (30) days(対応なし)(空欄)
11.1文の数の違い英文4文和訳3文(空欄)

1行目の「訳が弱い」は、義務が努力目標に変わった例です。 和訳だけを読むと自然な文なので、確認の一覧が無ければ見落とされます。2行目は但し書きごと消えた例で、30日という期限がまるごと抜けています。

表にする1つ目の理由は、決裁者が左右で見比べられることです。 和訳だけを渡すと、英文と対応させる手間が決裁者に移ります。

2つ目は、定義語表を稟議に一緒に付けられることです。 「本製品」が何を指すのかを、決裁者が定義の条項に戻らずに確かめられます。訳の出どころの列で「新規の案」と出た語は、担当者が訳を決めて訳語集に足すかを判断します。

3つ目は、確認の一覧の「担当者の対応」の列です。 直した、問題なし、相手方に確認、のどれかを書きます。この列が全部埋まるまで、対訳表は確定させません。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
案件フォルダ(SharePoint)担当者が参照先に加える英文契約の最終案
訳語集(SharePoint)Notebook の固定の参照先定義語と言い回しの訳
確定済みフォルダ(SharePoint)保存と参照確定した対訳表と定義語表。次の契約の参照先にもなる
Word担当者が操作稟議用の書式に整える
稟議のワークフロー営業が添付確定した対訳表

稟議のワークフローには、この構成からは何も書き込みません。 確定した対訳表を営業に返し、営業が添付します。Copilot が作ったままの訳が、確認を経ずに稟議に乗る経路を作らないためです。

確定した対訳表は、確定済みフォルダに置き直します。 次に同じ相手方の契約が来たとき、これが過去の対訳表として参照先に入ります。ファイル名には相手方・契約の種類・締結日を入れ、契約管理の台帳の番号とそろえます。 相手方の名前で探せないと、過去の訳が参照先に入らず、同じ文に違う訳が付きます。

Step9

人が確認する

  1. 定義語表を先に見る … 「新規の案」の訳を決め、訳語集にある語の訳が正しく当たっているかを見ます。ここが違うと、対訳表の全体が違います
  2. 確認の一覧を上から見る … 抜けの候補、訳が弱い、訳出困難を、英文と見比べて直します
  3. 義務と禁止の言葉の対を見る … shall not が「しないよう努める」になっていないか、may が「しなければならない」になっていないかを見ます
  4. 印の無い条項を流し読みする … 決裁者と同じ読み方で、英文と並べて通読します
  5. 担当者の対応の列を埋めて確定する

1番目を最初にするのは、定義語の訳を後で変えると全文に響くからです。 定義語表を直したら、指示2から流し直します。

3番目は、確認の一覧に出ていなくても見ます。 義務と禁止の言葉は、照合の指示が「対応あり」と判定していても、当てた訳が弱いことがあります。対の一覧を縦に読むと、「〜するものとする」の列の中に「〜するよう努める」が混ざっているのが目で拾えます。

目標は、1本をならして60分です。 確認の一覧が10行前後で収まる契約なら、定義語表と一覧の確認で30分、通読で20分ほどです。一覧が30行を超える契約が続くなら、訳語集の言い回しの欄が足りていません。

Step10

例外に対処する

起きること対応
条項の区切りが崩れて読まれるWord の版を相手方に頼む。無ければ担当者が条番号で区切り直す
契約が長く、一度で訳しきれない5〜8条ずつに分け、定義の条項を毎回付ける
訳語集に無い定義語が多い「新規の案」を担当者が決め、確定後に訳語集へ足す
同じ定義語が英文の中で揺れている(Product と Products など)英文の側の問題。訳では統一せず、確認の一覧に出して営業と相手方に確かめる
準拠法が英米以外で、英文に現地の法律用語が混ざる訳出困難として残し、現地の専門家に確かめる
最終案の後に修正版が届くWord の比較で差分を出し、変わった条項だけ訳し直す
確認の一覧が多すぎる指示文と訳語集の当たり方を見直す。和訳の質より先に、訳語集の未整備を疑う
相手方が和訳を出してきた相手方の訳は使わず、自社で作る。食い違いがあれば確認の一覧に出し、英文で判断する
英文と日本文の2言語併記の契約対訳表を作る対象ではない。正本の言語の定めを先に確かめ、別の手順で扱う

4行目は、訳の問題ではなく契約の問題です。 英文の中で定義語が揺れているなら、相手方の書式の誤りかもしれません。訳で勝手にそろえると、英文の揺れが見えなくなります。

Step11

記録を残す

  • 対訳表を作った版の英文契約(ファイル名と版の表示)
  • そのとき使った訳語集の版と、指示文の版
  • Copilot が出した対訳表・定義語表・確認の一覧(直す前のもの)
  • 担当者が直した後の確定版と、担当者の対応の列
  • 訳語集に足した語と、足した日・足した人

直す前と直した後の両方を残すのは、指示文と訳語集を直すためです。 担当者が毎回同じ言い回しを直しているなら、訳語集の「言い回し」の欄に足せば次から直さずに済みます。どの契約にどの版の訳語集を使ったかが残っていれば、訳語集を変えた前後で訳が変わった理由も説明できます。

04実装レベルの3段階

最小構成:担当者が Copilot Chat に契約と訳語集を加え、指示を手で流す / 和訳と照合の下書き
半自動化:上記+共有の Notebook に訳語集・指示文・過去の対訳表を固定し、Word の Copilot で稟議用の書式に整える / 和訳・照合・書式の下書き
本格構成:上記+Copilot Studio で作るエージェントに指示1〜4を順に流させ、確定した定義語を訳語集の追加候補として集める / 指示の順番の管理と、訳語集の更新候補の作成

本記事の想定は半自動化です。 担当者の手元で訳語集と指示文が毎回そろうことで、担当者ごとの訳のばらつきが減ります。 最小構成のままでは、訳語集を入れ忘れた契約から訳がずれます。 本格構成は、契約の本数がさらに増えたときの形です。 Copilot Studio は、エージェントの作成や他のデータ ソースへの接続に使えるローコードのツールとされています。ただし、指示を自動で流しても、確認の一覧を見るのは担当者です。 確認の時間は本格構成でもほとんど減らないため、半自動化で訳語集が育ってから検討します。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
8 名
月間件数
40 件
1件あたり現在時間
180 分
1件あたり導入後時間
60 分
現在  40件 × 180分 ÷ 60 = 120 時間/月
導入後 40件 × 60分 ÷ 60 = 40 時間/月
月間削減時間
80h
削減率
67%
年間削減時間
960h
年間金額換算(時間単価4,000円)
384万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 海外の取引先と売買契約・販売店契約・供給契約を毎月数十本結ぶ商社やメーカー。決裁者や事業部が英文を読まないため、稟議に和訳の添付を求めている場合。和訳を法務部員や営業が機械翻訳の手直しで作っており、定義語の訳が契約ごと・担当ごとにばらばらな場合。Microsoft 365 Copilot を全社で使っている場合。
向いていない
  1. 英文契約が月に数本で、毎回外部の翻訳会社に出せている場合。決裁者が英文で読むため、稟議に和訳が要らない場合。契約の和訳を正本として扱う必要がある場合(この構成の和訳は社内の参考訳です)。なお、条項の有利・不利の評価、修正の要否、締結してよいかの判断は、法務の担当者と決裁者に残ります。

07最小構成で試す方法

  1. 先月稟議に回った英文契約から5本を選ぶ(確定した対訳表があるもの。うち1本は後で訳の抜けが見つかったもの)
  2. 訳語集のうち、定義語の部分だけを1つのファイルにする
  3. 契約と訳語集を Copilot Chat に加え、第7章の指示1〜4を順に流す
  4. 出てきた対訳表と確認の一覧を、当時確定した対訳表と突き合わせる

見るのは、後で見つかった抜けが確認の一覧に出ているかです。 出ていれば、照合の指示は役に立っています。

出てきた内容判断
後で見つかった抜けが一覧に出た共有の Notebook と訳語集の整備に進む
抜けは出たが、一覧が長すぎる照合の判定の線を調整する。構成は有効
定義語の訳が契約の中でばらつく定義の条項を各まとまりに付けているかを見直す
訳が意訳になり、英文と見比べられない指示2の「1文に1文」を強める

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
和訳を作った指示の中で抜けも見させ、問題なしと出る訳す指示と疑う指示を分ける。 疑う指示は英文から出発させる
定義語の訳がまとまりごとに変わる定義の条項を各まとまりに付け、定義語表を先に作る
小文字の一般の語が定義語の訳になる指示に明記し、定義語の照合で拾わせる
訳しにくい但し書きが黙って短くされる「【訳出困難】」と書かせて残す
「30 days」が「1か月」になる数字の書き換えを禁じる
意訳で読みやすくなり、英文と見比べられない1文に1文で訳させる
スキャンの PDF で条項の区切りが崩れるWord の版をもらう
修正版で全文を訳し直し、確かめた訳が変わる変わった条項だけ訳し直す
対訳表が確認を経ずに稟議に乗る担当者の対応の列が埋まるまで確定しない
和訳が正本のように扱われる対訳表の冒頭に「参考訳。正本は英文」と書く

上の4行が、この構成の失敗のほとんどです。 どれも、訳がもっともらしく見えることから始まります。英文の側から出発して突き合わせる指示を持っているかどうかで、運用に乗るかが決まります。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 締結前の契約の条件(価格、数量、期間、責任の範囲)、相手方の名前、署名者の氏名です。締結前の条件は、競合に知られると交渉に響く情報です。

  1. Entra アカウントでサインインして使う … Copilot は Microsoft Entra アカウントでサインインしたときにエンタープライズ データ保護の対象になるとされています。個人のアカウントや社外の翻訳サービスに契約を貼らないよう、利用の決まりに書きます
  2. Notebook の共有を法務部に限る … Notebook を共有すると、受け手はアクセス権のある範囲で参照先のファイルに招待されるとされています。案件フォルダごと参照先に入れたまま、営業全体に共有しないでください
  3. 署名欄の個人の情報は訳さない … 稟議に要るのは条項の内容で、署名者の連絡先は要りません
  4. 和訳を正本として扱わない … 対訳表の冒頭に「社内の参考訳。正本は英文」と書きます。相手方に和訳を渡すと、和訳の解釈で争いになることがあります
  5. 条項の評価をこの構成に任せない … この構成が出すのは訳と、訳の抜けの候補だけです。自社に不利かどうか、修正を求めるかは、法務の担当者が英文で判断します

誤りが起きた場合のリスクは、訳の抜けで決裁者が義務を知らずに承認することと、定義語の訳のずれで対象の範囲を取り違えることの2つです。 どちらも、英文の側から突き合わせる指示と、定義語表を先に確定する手順で防ぎます。

10まず何から始めるか

1週目:訳語集の定義語を決める

訳語集から定義語を分け、「Products」「Territory」「Confidential Information」のように頻出の定義語から訳を1つに決めます。全部を一度に決めなくても、上位50語で多くの契約の定義語は埋まります。

2週目:5本で試す

先月の英文契約から5本を選び、指示1〜4を流します。後で抜けが見つかった契約で、その抜けが確認の一覧に出るかを最優先で見ます。

3週目:指示文を直す

意訳が混ざっていないか、但し書きが黙って短くされていないかを見て、指示2と指示3を直します。確認の一覧が長すぎるなら判定の線を、短すぎるなら英文から拾う言葉の一覧を見直します。

4週目:共有の Notebook を作る

訳語集・指示文・過去の確定済み対訳表を参照先に固定した Notebook を作り、法務部の担当者で共有します。対訳表の冒頭に「参考訳」の表示を入れた書式も決めます。

2か月目: その月の英文契約すべてで回し、確認の一覧の件数と、担当者が直した行の数を契約ごとに数えます。3か月目以降: 担当者が毎回直している言い回しを訳語集に足し、1本180分が何分になったかを実測します。訳語集に足す語が月に数語まで減った時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-07/最終更新:2026-10-07
確認した内容情報源確認日
Copilot Chat(Basic)と Microsoft 365 Copilot(Basic)は Microsoft Graph 経由で組織データを使えず、ファイルのアップロード・選択が要ること。Entra アカウントでのサインイン時にエンタープライズ データ保護の対象となること。Copilot Studio がエージェントの作成や他のデータ ソースへの接続に使えるローコードのツールであることMicrosoft Learn: Microsoft Copilot とは?2026-10-07
Copilot Chat で「/」または「Add and manage sources」から仕事のコンテンツを加え、別の言語への翻訳を頼めること。対応するファイル形式や上限の記載が無いことMicrosoft Support: Translate files into another language in Microsoft 365 Copilot Chat2026-10-07
Notebook の参照先にできるファイルの種類と SharePoint のフォルダ。根拠に使われる参照先が300件まで(Copilot Chat は50件)であること。参照先が最新に保たれること。共有時にアクセス権のある範囲でファイルに招待されることMicrosoft Support: Add references to your Microsoft 365 Copilot Notebook2026-10-07
Word の Copilot で、参照するファイルを指定して下書きを作れること。事実・数字・名前などを確認するよう求めていることMicrosoft Support: Draft and add content with Copilot in Word2026-10-07
Word のリーガル ブラックラインの比較が、変更を変更履歴として示した3つ目の文書を作り、元の2つの文書を変えないこと。文字単位か単語単位で示せることMicrosoft Support: Compare document differences using the legal blackline option2026-10-07

条項の解釈と、締結してよいかの判断は、各社の法務の担当者と必要に応じて弁護士に確認してください。 本記事は Microsoft の公開資料で確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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