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上場企業のIR担当が日本語の適時開示の文書を、Claude で過去の英文開示と用語集にそろえて英訳の下書きにし、数値と日付の照合結果を付ける

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

決裁に上がった日本語の適時開示の文書を、用語集と同じ種類の過去の英文開示とともに Claude に渡し、段落ごとの英訳の下書きを作ります。金額・株数・日付が日本語と一致しているかは機械で照合し、結果を付けてIR担当の確認に回します。

サマリー
生成AI
ChatGPT/Claude/Gemini
連携・自動化
Google Apps Script/Python
対象業界
IT・SaaS/商社/小売/製造
対象部門
経営企画/財務
対象業務
内容確認・チェック/書類作成
主な課題
人手が足りない/属人化している/確認ミスが多い
AIで行う処理
翻訳
主な効果
品質標準化/対応スピード向上/工数削減
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
半自動化
費用感
API連携(中)
人間の確認
条件付き
現在工数
24h/月
AI導入後
8h/月
想定削減
67%
年間削減
192h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 開示の担当が日本語の文書の案を作り、決裁に回す
  2. IR担当が案を受け取り、同じ種類の過去の英文開示を探して開く
  3. 過去の英文を下敷きに、変わった箇所を訳して英文の案を作る
  4. 社名・セグメント名・役職名を、以前の開示と見比べてそろえる
  5. 金額・株数・日付・比率を、日本語の案と1つずつ見比べる
  6. 日本語の案が決裁の途中で直ったら、直った箇所を探して英文も直す
  7. 日本語の確定後、開示の責任者が英文を確認し、日本語と同時に TDnet で開示する
導入後(After)
  1. 人開示の担当が日本語の案を決裁に回すと同時に、決まったフォルダに置き、開示の種類を選ぶ
  2. 自動処理が動き、日本語を段落に分け、開示の種類ごとに決めた「英文に入れる項目」の段落だけを選ぶ
  3. 自動用語集から、その文書に出てくる語の訳を引く。同じ種類の過去の英文開示を2件引く
  4. 自動Claude が段落ごとの英訳の下書きを作り、用語集に無い語を挙げる
  5. 自動日本語と英文から金額・株数・日付・比率を抜き出して突き合わせ、合わない箇所に印を付ける
  6. 人IR担当が英文の下書きを読み、用語集に無い語の訳を決め、印の付いた箇所を直す
  7. 自動日本語の案が直ったら、直った段落だけを訳し直し、照合をやり直す
  8. 人日本語の確定後、開示の責任者が英文を確認し、IR担当が日本語と同時に TDnet で開示する
各工程の詳しい説明を読む
  1. 開示の担当が日本語の文書の案を作り、決裁に回す
  2. IR担当が案を受け取り、同じ種類の過去の英文開示を探して開く
  3. 過去の英文を下敷きに、変わった箇所を訳して英文の案を作る
  4. 社名・セグメント名・役職名を、以前の開示と見比べてそろえる
  5. 金額・株数・日付・比率を、日本語の案と1つずつ見比べる
  6. 日本語の案が決裁の途中で直ったら、直った箇所を探して英文も直す
  7. 日本語の確定後、開示の責任者が英文を確認し、日本語と同時に TDnet で開示する

(a)日本語が直るたびに英文を追いかける。 6番は、日本語の案の差分を目で探すところから始まります。決裁の途中で3回直った案件では、3回とも英文の対応する箇所を探して直します。 直し忘れた1か所が、日本語と英語で内容の違う開示になります。

(b)訳語が人と時期でぶれる。 4番は、以前の開示をいくつも開いて見比べる作業です。どの開示を正とするかが決まっていないので、見比べた開示ごとに訳語が違うことがあります。 用語集はありますが、新しい子会社や新しい製品の名前は載っていません。

(c)数字の見比べがいちばん重い。 5番では、「百万円」を英文で million yen にするのか、千円単位の金額を桁を変えて書くのか、和暦と西暦、全角と半角を頭の中で変換しながら見比べます。目で見比べるほど、変換の途中で間違えます。 間違いが開示後に見つかれば、英文の訂正を出すことになります。

(d)同時に出せないと、日本語を待たせることになる。 取引所は、英文の同時開示のために日本語の開示が遅れることがないよう求めています。英訳が間に合わないとき、急ぎの発生事実では日本語を優先して後から英文を出しますが、決定事実では同時に出す体制が求められます。

  1. 【人】 開示の担当が日本語の案を決裁に回すと同時に、決まったフォルダに置き、開示の種類を選ぶ
  2. 【自動】 処理が動き、日本語を段落に分け、開示の種類ごとに決めた「英文に入れる項目」の段落だけを選ぶ
  3. 【自動】 用語集から、その文書に出てくる語の訳を引く。同じ種類の過去の英文開示を2件引く
  4. 【自動】 Claude が段落ごとの英訳の下書きを作り、用語集に無い語を挙げる
  5. 【自動】 日本語と英文から金額・株数・日付・比率を抜き出して突き合わせ、合わない箇所に印を付ける
  6. 【人】 IR担当が英文の下書きを読み、用語集に無い語の訳を決め、印の付いた箇所を直す
  7. 【自動】 日本語の案が直ったら、直った段落だけを訳し直し、照合をやり直す
  8. 【人】 日本語の確定後、開示の責任者が英文を確認し、IR担当が日本語と同時に TDnet で開示する

6番目が、この設計の分かれ目です。 英文の下書きは、そのまま開示しません。IR担当が読み、用語集に無い語の訳を決めてから、開示の責任者に回します。 新しい語の訳を決めたら用語集に足し、次の開示からはその訳が使われます。

7番目で直った段落だけを訳し直すのも、意図してのことです。 全文を訳し直すと、直っていない段落の訳まで言い回しが変わり、IR担当がすでに読んだ箇所を読み直すことになります。直っていない段落の訳は、そのまま残します。

02今回想定するシステム構成

構成図
日本語の開示文書の案(Word)
   │  決裁に回すと同時に決まったフォルダへ
   ▼【トリガー】フォルダへの保存(版が変わるたび)
Python(段落に分け、前の版との差分を取る)
   ├──▶ 開示の種類ごとの「英文に入れる項目」で段落を選ぶ
   ├──▶ 用語集から、出てくる語の訳を引く
   ├──▶ 同じ種類の過去の英文開示を2件引く
   ▼
Claude API ── 段落ごとの英訳の下書きと、用語集に無い語
   ▼
Python ── 数値・日付・比率の照合(日本語 ↔ 英文)
   ▼
【IR担当が下書きを確認し、新しい語の訳を決める】
   ▼
【開示の責任者が確認】 → TDnet で日本語と同時に開示
役割想定する製品代替候補
処理Claude API(段落ごとの英訳、構造化出力、プロンプトのキャッシュ)OpenAI API、Gemini API
連携Python(段落分け、差分、用語集の引き当て、数値の照合、確認用の表の作成)Google Apps Script
用語集社名・セグメント名・役職名・製品名の公式の英訳の表-
保管文書管理の仕組みと共有フォルダ-

文書管理の仕組みと TDnet は、新しく足すものではありません。 この構成は決裁に回る日本語の案の写しを読むだけで、決裁の流れにも TDnet にも触りません。 開示の操作は、これまでどおり人が行います。

取引所は、英文開示を進めるための参考資料を上場会社に提供しています。 2024年10月のお知らせでは、機械翻訳の活用のノウハウなどをまとめた「英文開示実践ハンドブック」の改訂と、海外投資家が事案の概要を把握するために特に必要と考えられる開示項目に★印を付けた「英文開示様式例」の作成が案内されています。「英文に入れる項目」を開示の種類ごとに決めるときは、この様式例を出発点にします。

Claude API は、返すJSONの形をスキーマで縛れます。 公式のドキュメントでは、output_config.format に type: "json_schema" とスキーマを置き、オブジェクトには additionalProperties: false を付けるとされています。文字列の長さや数値の範囲の制約には対応していないので、英文の長さの確認は Python で行います。

用語集と過去の英文開示は、同じ種類の開示では毎回同じものを送ります。 プロンプトのキャッシュを使うと、同じ先頭部分の読み直しの費用が下がります。既定の有効期間は5分で、使うたびに延びます。 決裁の途中で版が変わるたびに訳し直すこの構成では、同じ案件の版の間でキャッシュが使い回されます。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

開示の担当が日本語の案を決裁に回すとき、同じファイルを決まったフォルダにも置くことを起点にします。 Python の処理がフォルダを見て、新しいファイルがあれば動きます。ファイル名に案件の番号と版の番号を入れる決まりにし、同じ案件の新しい版が置かれたら、前の版との差分だけを訳し直します。

開示の種類は、置くときに担当が選びます。 フォルダを開示の種類ごと(月次売上、自己株式の取得状況、子会社の異動、役員の異動、その他)に分けておけば、置いた場所で種類が決まります。種類が決まらないと、英文に入れる項目も、引く過去の英文開示も決まりません。 「その他」に置かれたものは、項目を選ばず全段落を訳し、IR担当に項目の選び方を確かめる印を付けます。

決裁の前に置かせるのは、日本語の確定を待つと間に合わないからです。 第2章のとおり、確定から開示までは数時間しかありません。決裁の途中から下書きを作り始め、確定の時点では直った段落の訳し直しだけが残る形にします。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
日本語の案表題、本文、表(Word のファイル)決まったフォルダ
開示の種類ごとの項目表種類ごとに英文に入れる項目と、全文か概要かの別IR担当が作る表
用語集日本語の語、公式の英訳、使い始めた日、使わなくなった訳IR担当が持つ表
過去の英文開示同じ種類の直近2件の、日本語と英文の組開示の控えのフォルダ
書き方の決まり金額の単位、日付、会社名の書き方IR担当が作る文書

質を決めるのは、用語集と過去の英文開示の組です。 用語集は語の訳をそろえ、過去の英文開示は文の組み立て方をそろえます。過去の開示は日本語と英文を組で渡します。 英文だけを渡すと、どの日本語をどう訳したかが分からず、言い回しを写すだけになります。

用語集には「使わなくなった訳」の列を持たせます。 セグメントの名前を変えた、子会社の英文の社名を変えた、というときに古い訳を残しておくと、AIが過去の英文開示から古い訳を拾ったときに、照合で見つけられます。

書き方の決まりは短くても必ず渡します。 「金額は百万円単位なら millions of yen と表の見出しに書き、本文では ¥1,234 million と書く」「日付は November 5, 2026 の形」のような決まりで、これが無いと、過去の開示2件の書き方が違うだけで訳が揺れます。

Step3

データの取得方法を決める

取るものどこから何に使うか
日本語の案の段落と表Word ファイルを Python で読む訳す対象
前の版の段落同じ案件の前の版のファイル差分を取り、直った段落を決める
項目表の該当行開示の種類で引く訳す段落を選ぶ
用語集の該当行日本語の案に出てくる語で引く訳語の指定
過去の英文開示2件同じ種類の控えから日付の新しい順文の組み立ての手本

Word のファイルは段落と表に分けて読みます。 表はセルごとに読み、行と列の位置を持たせます。表の数字は照合のいちばん大事な対象なので、セルの位置を失わないように読みます。 表が画像で貼られている案は、PDF にして Claude に渡す扱いにします。公式のドキュメントでは、PDF は各ページを文章と画像の両方として扱い、1回のリクエストは32MBまでで、パスワードや暗号化のかかった PDF は使えないとされています。

用語集は、文書に出てくる語だけを引いて渡します。 用語集全体を毎回渡すこともできますが、関係の無い語が多いと、AIが似た語の訳を取り違えます。 引き当ては Python の文字列の一致で行い、一致した行だけを渡します。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 段落への分割と番号付け … 本文を段落に、表をセルに分け、P01・T01-R02-C03 のような番号を振る
  2. 前の版との差分 … 同じ案件の前の版と段落ごとに比べ、変わった段落・足された段落・消えた段落を決める
  3. 項目による段落の選択 … 開示の種類の項目表に従って、英文に入れる段落を選ぶ。概要とする項目は印を付ける
  4. 用語の引き当て … 用語集の日本語の語を段落の中で探し、当たった行を集める
  5. 数値の抜き出し(日本語側) … 金額・株数・日付・比率を段落ごとに抜き出し、単位と一緒に正規化する(和暦は西暦に、全角は半角に、「億」「百万」は数に)
  6. 過去の英文開示の選択 … 同じ種類の控えから直近2件を選ぶ。項目表を変えた後の開示を優先する

5番目を訳の前に済ませておくのが、この構成でいちばん大事な前処理です。 日本語の数字を正規化した一覧を先に作っておけば、英文が返ってきたときに同じやり方で英文の数字を抜き出し、一覧どうしを突き合わせるだけで照合が済みます。 AIの訳がどれほど自然でも、数字が合っているかはこの突き合わせで決めます。

2番目の差分は、段落の文字列を比べるだけで足ります。 句読点や空白の違いだけで「変わった」と判定すると訳し直しが増えるので、比べる前に全角・半角と空白をそろえます。数字が1つでも変わった段落は、必ず変わった段落として扱います。

3番目で概要とする項目は、AIに要約させずに、IR担当が概要の日本語を書いておく運用も選べます。 概要の中身を誰が決めるかを、開示の種類ごとに決めておいてください。

Step5

AIに処理させる

させるのは、選ばれた段落を1つずつ英訳し、用語集の訳を使い、用語集に無い語を挙げることだけです。

させることやり方迷ったときの扱い
段落ごとの英訳段落番号を保ったまま訳す。段落を足さない・減らさない意味が二通りに取れる日本語は、両方を note に書く
用語集の訳の使用渡した用語の訳をそのまま使う文脈に合わないと思っても変えず、note に書く
用語集に無い語の列挙社名・製品名・役職名・制度の名前で、用語集に無いもの訳の候補を2つまで挙げる
過去の英文開示の言い回しの踏襲同じ意味の定型文は過去の開示の英文を使う定型文が見当たらなければ新しく訳す
概要の印の付いた項目IR担当が書いた概要の日本語を訳す概要が無ければ訳さず note に書く

最後の行で、AIに概要を作らせないことを明確にしています。 英語では一部又は概要の開示で足りますが、概要に何を入れ、何を落とすかは、開示の責任者が日本語の内容に責任を持って決めることです。 AIが落とした1文が、投資家にとって重要な情報だったということが起こりえます。

させないこと理由
数字の一致の確認プログラムで照合する。AIの「一致」は確認にならない
金額の単位の換算単位は書き方の決まりのとおりにし、桁の変換はしない
英文に入れる項目の取捨選択項目表で決める
日本語に無い説明の付け足し投資家向けの補足でも、日本語と異なる内容の開示になる
開示の要否や時期の判断開示の責任者が決める

2行目の単位の換算がいちばん起きやすい失敗です。 日本語で「1,234百万円」とあるのを、AIが気を利かせて ¥1.2 billion と書くことがあります。意味は近くても、日本語と英文で数字の見た目が変わると、照合が「合わない」と判定し、IR担当が一つずつ確かめることになります。 書き方の決まりで単位をそろえさせ、桁を変えることを禁じます。

Step6

指示内容を固定する

あなたは上場会社のIR担当で、日本語の適時開示の文書を英文開示のために訳す立場です。
渡された段落だけを、段落番号ごとに英訳してください。

【書き方の決まり】
{style_rules}

【用語集(この文書に出てくる語だけ)】
{glossary_hits}

【同じ種類の過去の開示(日本語と英文の組)】
{past_pairs}

【訳す段落】
{segments}
※ [概要] の印がある段落は、IR担当が書いた概要の日本語です。

【厳守事項】
- 段落番号ごとに1つの英訳を返してください。段落を足したり、まとめたり、省いたりしないでください。
- 日本語に書かれていない事実、説明、背景、見通しを英文に足さないでください。
  海外の読者向けの補足も足さないでください。
- 数字は日本語に書かれた桁と単位のまま英文にしてください。
  百万円を billion に、千株を million shares に、といった桁の変換をしないでください。
  端数の丸めもしないでください。
- 日付は書き方の決まりの形にしてください。和暦は日本語の横に書かれた西暦に従い、
  西暦が書かれていなければ和暦を変換せず、note に「和暦のみ」と書いてください。
- 用語集の語は、用語集の英訳をそのまま使ってください。文脈に合わないと思っても変えず、
  note に理由を書いてください。
- 用語集に無い社名・製品名・役職名・制度の名前は new_terms に挙げ、
  訳の候補を2つまで書いてください。英文の中では候補の1つ目を使ってください。
- 過去の開示に同じ意味の定型文があれば、その英文を使ってください。
- 意味が二通りに取れる日本語は、どちらかに決めて訳し、note にもう一方を書いてください。
- 数字が合っているかの確認は、あなたの役割ではありません。「数字は一致しています」と書かないでください。

「和暦のみなら変換しない」を書いているのは、和暦の変換が照合の外で起きる誤りだからです。 令和の年を西暦にする計算をAIに任せると、まれに1年ずれます。日本語側にも西暦が書かれていれば照合で確かめられますが、和暦しか無いと照合の手がかりがありません。 変換しないで印を付け、IR担当が書きます。

最後の行で「数字は一致しています」と書かせないのは、IR担当がその一文を信じてしまうからです。 照合の結果は Python が別の欄に出します。AIの自己申告と機械の照合が並ぶと、人は楽なほうを読みます。

Step7

出力形式を固定する

構造化出力で、次の形のJSONを返させます。

{
  "doc_id": "",
  "version": 3,
  "segments": [
    { "segment_id": "P04", "en": "", "note": "" }
  ],
  "new_terms": [
    { "ja": "", "candidates": ["", ""], "segment_ids": ["P04"] }
  ]
}

1つ目の理由は、段落番号で日本語と英文を並べられることです。 確認用の表は、左に日本語、右に英文、その右に照合の結果と note を並べます。IR担当は、段落ごとに左右を見比べるだけで済みます。

2つ目は、差分の訳し直しと組み合わせられることです。 版が変わって P04 だけが直ったなら、P04 だけを渡し、返ってきた P04 で表の行を置き換えます。ほかの段落の英文は前の版のまま残ります。

3つ目は、new_terms を用語集に足す候補にできることです。 IR担当が候補から訳を決めたら、その語を用語集に足し、使い始めた日を書きます。

受け取った後に Python で行う照合は次のとおりです。

照合することやり方合わないとき
段落の数渡した段落番号と返ってきた段落番号を突き合わせる足りない段落を回し直す
金額・株数・比率段落ごとに日本語と英文の数字を正規化して一覧どうしを比べるその段落に赤い印を付ける
日付日本語の日付と英文の日付を同じ形に直して比べる赤い印。和暦のみの段落は黄色の印
用語集の訳用語集の英訳が英文に含まれているかを見る含まれていなければ黄色の印
使わなくなった訳用語集の古い訳が英文に入っていないかを見る赤い印

数字の照合は、段落ごとに行います。 文書全体の数字の一覧を比べると、同じ数字が別の段落に出ているだけで「合う」と判定してしまいます。表のセルは、セルごとに比べます。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
決まったフォルダPython がフォルダを見る日本語の案の版ごとのファイルを読む
用語集・項目表共有フォルダの表計算ファイル訳語の指定と、英文に入れる項目
開示の控え共有フォルダ同じ種類の過去の開示の組を引く
Claude APIPython からの API 呼び出し段落ごとの英訳と新しい語
確認用の表共有フォルダの表計算ファイル日本語・英文・照合の結果・メモを段落ごとに並べる

英文の開示用のファイルは、IR担当が確認用の表から作ります。 この構成は確認用の表までを出し、開示用の体裁(社名のロゴ、表の罫線)を整えたファイルは作りません。 開示用のファイルに写す段階で、照合の結果が赤の段落が残っていないことを確かめます。

TDnet での開示は人が行います。 取引所のよくある質問と回答では、決算情報の英文資料は海外投資家へのタイムリーな情報提供の観点から TDnet で開示する必要があるとされています。開示の操作を自動にしないのは、日本語と英文を同時に出すかどうかを、その場で開示の責任者が決めるからです。

Step9

人が確認する

英文は、IR担当と開示の責任者の2人が見てから開示します。

  1. 赤い印の段落を先に直す … 数字・日付・使わなくなった訳の食い違いです。英文の側が誤っているのか、日本語の版が古いのかを確かめます
  2. 新しい語の訳を決める … new_terms の候補から選ぶか、自分で書きます。決めたら用語集に足します
  3. 黄色の印の段落を読む … 用語集の訳が入っていない段落、和暦のみの段落です
  4. 全段落を日本語と並べて読む … 意味の取り違えと、日本語に無い内容が足されていないかを見ます
  5. 開示の責任者が確認する … 英文で出す範囲と、日本語との整合を確かめます

4番目を省かないでください。 照合が見るのは数字と用語だけで、「取得する」と「取得を検討する」のような意味の違いは照合に出ません。 開示ではこの違いが投資家の判断を変えます。

日本語の開示を英文のために遅らせないでください。 取引所のよくある質問と回答では、発生事実に係る開示など急遽対応が必要になる場合で、英語の同時開示をしようとすると日本語の開示が遅れるときは、この限りでないとされ、まずは日本語による開示を優先するよう求めています。 英文の確認が終わらないときに日本語を先に出すかは、開示の責任者が決めます。

Step10

例外に対処する

起きること対応
開示の種類が「その他」全段落を訳し、項目の選び方を確かめる印を付ける
表が画像で貼られているPDF にして渡し、表の数字は人が照合する印を付ける
パスワード付きのファイル処理せずに担当へ戻す。PDF もパスワード付きは使えない
返ってきた段落が足りない足りない段落だけを回し直す。2回足りなければ人が訳す
数字の照合で赤が出る日本語の版が新しいかをまず確かめ、そのうえで英文を直す
用語集に無い語が多い新しい事業の開示であることが多い。用語集を先に足す
構造化出力がエラーで返る回し直す。スキーマを変えた直後は最初の呼び出しに時間がかかる
日本語の確定が開示の直前直った段落だけを訳し直す。間に合わなければ日本語の開示を優先するかを責任者が決める
API が応答しないIR担当が従来どおり訳す。処理の失敗で開示を止めない

最後の行を運用の前提にしてください。 この構成は英訳の下書きを早くするためのもので、動かないときに開示が止まる設計にはしません。 従来の手順を残しておきます。

Step11

記録を残す

  • 日本語の案の版ごとのファイルと、置かれた日時
  • 版ごとに Claude に渡した段落・用語集の該当行・過去の開示の組と、返ってきたJSONの全文
  • 照合の結果(段落ごとの数字の一覧と判定)
  • IR担当が直した英文と、直す前の下書き
  • 新しく用語集に足した語と、決めた人・日付
  • 開示した英文のファイルと、開示の日時

4つ目の「直す前の下書き」は、指示を直す材料です。 IR担当がよく直す言い回しは、書き方の決まりか過去の開示の選び方が合っていません。

開示前の情報を含むので、ログの置き場所は開示前の重要事実を扱う場所と同じ管理にします。 閲覧できる人を開示の担当とIR担当に限ります。

04実装レベルの3段階

最小構成:日本語と用語と過去の開示を AI の画面に貼り、英訳させる / 1件ずつの英訳の下書き
半自動化:上記+フォルダに置いた案を段落に分け、用語集を引き、API で訳し、数字を照合して確認用の表を作る / 下書きと照合と差分の訳し直し
本格構成:上記+文書管理の仕組みの決裁の版と連動し、新しい語を用語集に足す流れと、直した言い回しの集計を足す / 決裁との連動と用語集の更新

本記事の想定は半自動化です。 版はファイル名で管理し、文書管理の仕組みとは連動させません。決裁の版と連動させるのは、文書管理の仕組みから版を取り出す手段があるかを確かめてからです。 最小構成と半自動化の差は、数字の照合と差分の訳し直しです。 最小構成では数字の見比べは人の目のままで、第4章の④は減りません。照合が付いて初めて、見比べの時間が確認の時間に変わります。 段階を飛ばさないでください。 半自動化を3か月回すと、用語集に足りない語と、IR担当がよく直す言い回しが見えます。用語集と書き方の決まりを固めてから決裁と連動させるほうが、直しの手間が減ります。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
3 名
月間件数
12 件
1件あたり現在時間
120 分
1件あたり導入後時間
40 分
現在  12件 × 120分 ÷ 60 = 24 時間/月
導入後 12件 × 40分 ÷ 60 = 8 時間/月
月間削減時間
16h
削減率
67%
年間削減時間
192h
年間金額換算(時間単価4,500円)
86万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. プライム市場に上場していて、決算情報と適時開示情報の日英同時開示に対応している会社で、月次の売上・自己株式の取得状況・子会社の異動・役員の異動などの開示が毎月10件以上あり、IR担当の数名で英訳を回している場合。翻訳会社に出すと日本語の確定から英文が戻るまでに時間がかかり、同時に出すために社内で英訳している場合。過去の英文開示が揃っていて、社名・セグメント名の英訳を決めた用語集を作れる場合。
向いていない
  1. 適時開示が年に数件で、翻訳会社に出して間に合っている会社。英文開示を全文の翻訳で行い、翻訳会社の校閲を必ず通す体制を変えない会社。開示前の重要事実を外部の API に送ることを社内の情報管理の規程で認めていない場合。なお、英文でどこまでを開示するか、開示の内容が正しいか、いつ開示するかの判断は、この構成では代替できません。

07最小構成で試す方法

  1. 先月までに開示した適時開示から、種類の違う5件を選ぶ(数字の多い自己株式の取得状況と、文章の多い役員の異動を必ず入れる)
  2. その5件の日本語と、実際に開示した英文を用意する
  3. 用語集から、5件に出てくる語を抜き出した短い表を作る
  4. 事務所で契約している Claude の画面に、書き方の決まり、用語の表、同じ種類の過去の開示を1件、訳す日本語を貼り、第7章の指示文を渡す
  5. 出てきた英文を、実際に開示した英文と並べ、数字と訳語を見比べる

開示済みの文書で試してください。 開示前の文書を試しに使うと、試した段階で開示前の重要事実を外部に送ることになります。

出てきた内容判断
訳語と数字が開示した英文とほぼ同じ段落分けと照合の自動化に進む
訳はよいが、数字の桁を変えて書く書き方の決まりで直る。構成は有効
日本語に無い説明を足す指示を強める。足した文が残るなら下書きとして使えない

3行目が出たら、過去の開示の組を見直します。 過去の英文開示に、日本語に無い補足を足した例が含まれていると、AIはそれを手本にします。手本の組は、日本語と英文が対応している開示から選びます。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
AIが単位を換算して billion と書く書き方の決まりと指示で禁じ、照合で桁の違いを赤にする
照合が別の段落の数字で「合う」と判定する段落ごと・セルごとに照合する
和暦の変換で1年ずれる和暦のみの日付は変換させず、人が書く
用語集の古い訳が過去の開示から混ざる使わなくなった訳の列を持ち、英文に入っていたら赤にする
版が変わるたびに全文の言い回しが変わる直った段落だけを訳し直す
日本語に無い補足が足される指示で禁じ、手本の組を対応の取れた開示から選ぶ
概要の中身をAIが決めてしまう概要の日本語はIR担当が書き、AIは訳すだけにする
構造化出力でスキーマのエラーになる非対応の制約を外し、長さは Python で確かめる
開示前の情報を試しに使ってしまう試す段階は開示済みの文書だけにする
処理が止まって英文が出ない従来の手順を残し、日本語の開示を優先するかを責任者が決める

上の2行が、この構成の失敗のほとんどです。 どちらも「数字が合っている」という確認が崩れる誤りです。照合をAIに頼らない設計にしたうえで、照合そのものの作りを過去の開示で確かめてください。

下の2行は、運用の決まりで防ぎます。 開示前の重要事実を外に出さないことと、処理の都合で開示を止めないことは、技術ではなく手順の問題です。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 開示前の決定事実・発生事実(取得・提携・役員の異動など)、金額、株数、日付、相手先の名前です。開示前のものは、インサイダー取引の規制に関わる重要事実を含みえます。

  1. 開示前の情報を外部の API に送ってよいかを先に決める … 社内の情報管理の規程と照らし、送ってよい開示の種類を限ります。 送れない種類(相手先との関係で開示直前まで秘匿するもの)は、この構成の対象から外します
  2. 試す段階は開示済みの文書だけにする … 第8章のとおりです
  3. ログと確認用の表の閲覧者を限る … 開示前の重要事実を扱う場所と同じ管理にし、閲覧できる人の一覧を残します
  4. 英文で何を出すかをAIに決めさせない … 項目表と概要の日本語は人が決めます。英文が日本語と異なる内容の開示にならないことに、会社が責任を持ちます
  5. 日本語の開示を英文の都合で遅らせない … 取引所は、英文開示の負荷を考慮して日本語の開示を控えたり、英文の同時開示のために日本語の開示が遅延することがないよう求めています
  6. 照合の結果を英文の正しさの保証にしない … 照合が見るのは数字と用語だけです。意味の正しさは人が読んで確かめます

誤りが起きた場合のリスクは、日本語と数字の違う英文を開示することと、日本語に無い内容を英文で開示することの2つです。 前者は段落ごとの照合で、後者は指示と人の読み直しで防ぎます。どちらも英文の訂正開示につながるので、開示の前に止める設計を崩さないでください。

10まず何から始めるか

1週目:用語集と項目表を整える

いまある用語集に、過去1年の英文開示で使った社名・セグメント名・役職名を足し、使わなくなった訳の列を作ります。あわせて、毎月出る開示の種類ごとに、取引所の英文開示様式例を見ながら、英文に入れる項目を決めます。

2週目:開示済みの5件で試す

開示済みの5件を AI の画面で英訳させ、実際に開示した英文と並べます。数字の桁を変えていないか、日本語に無い説明を足していないかを最優先で見ます。

3週目:送ってよい範囲を決める

開示前の文書を外部の API に送ってよい開示の種類を、社内の情報管理の担当と決めます。 送れない種類は従来の手順のまま残します。

4週目:段落分けと照合を作る

Python で Word の段落と表を読み、数字を正規化し、過去の開示の日本語と英文の組を流して照合が正しく「合う」「合わない」を出すかを確かめます。照合が誤って「合う」と出る例が無くなるまで、APIにはつなぎません。

2か月目: API で下書きを作り、確認用の表に出します。この時点では、IR担当が従来どおり英文を作り、下書きと見比べます。3か月目以降: 下書きを起点に切り替え、差分の訳し直しを足します。決裁の途中から下書きができ、日本語の確定から開示までに直った段落の確認だけが残る流れが定着した時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-27/最終更新:2026-10-27
確認した内容情報源確認日
2025年4月からプライム市場で決算情報及び適時開示情報の英文開示を義務化すること。英文開示実践ハンドブックに機械翻訳の活用のノウハウなどがまとめられ改訂されたこと。英語による開示は日本語の内容の一部又は概要で足りるとされ、海外投資家が事案の概要を把握するために特に必要と考えられる項目に★印を付けた英文開示様式例が作成されたこと日本取引所グループ: 英文開示の拡充に向けたコンテンツのご提供について2026-10-27
プライム市場の上場内国会社が決算情報及び適時開示情報について日本語による開示と同時に英語による開示を行うこと(規程第436条の4第1項)。英語は日本語の内容の一部又は概要で足りること(同第2項)。2025年4月1日施行で、所定の書面を出した会社は2026年4月1日から適用されること東京証券取引所: 有価証券上場規程等の一部改正について2026-10-27
発生事実に係る開示など急遽対応が必要な場合で、英語の同時開示により日本語の開示が遅れるときは同時でなくてもよく、日本語の開示を優先すること。英文開示の負荷を理由に日本語の開示を控えたり遅らせたりしないよう留意すること。決算情報の英文資料は TDnet で開示する必要があること東京証券取引所: プライム市場における英文開示の拡充に関して寄せられた主なご質問と回答(2025年3月更新版)2026-10-27
構造化出力を output_config.format に type: "json_schema" で指定し、オブジェクトの additionalProperties を false にすること。数値の範囲や文字列の長さの制約が非対応であること。スキーマを初めて使うときに時間がかかることClaude Docs: Structured outputs2026-10-27
プロンプトのキャッシュの既定の有効期間が5分で、使うたびに延びること。1時間の指定ができることClaude Docs: Prompt caching2026-10-27
PDF の各ページが文章と画像の両方として扱われること。1回のリクエストが32MBまでで、パスワードや暗号化のかかった PDF が使えないことClaude Docs: PDF support2026-10-27

英文で何を開示するか、開示の内容と時期は、開示の責任者が決めてください。 本記事は上記の公開情報で確認できた範囲だけを扱っています。上場規程の適用の細部は、取引所の最新の資料で確かめてください。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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