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健康保険組合が加入者からの給付・手続の質問に、組合の規約と案内を根拠にチャットで答え、法定給付と付加給付を分けて示す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

被保険者が組合のポータルで聞いた給付と手続の質問に、組合の規約・規程と加入者向けの案内を検索して、根拠の文書と条番号を付けて答えます。その人の記録や審査が要る質問、病気やけがの相談には答えず、窓口と相談先へ回します。

サマリー
生成AI
Azure OpenAI Service/ChatGPT/Claude
連携・自動化
Power Automate
対象業界
保険/商社/製造/金融
対象部門
総務
対象業務
問い合わせ対応/情報検索
主な課題
人手が足りない/問い合わせが多い/属人化している
AIで行う処理
対話
主な効果
品質標準化/対応スピード向上/工数削減
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
本格構成
費用感
RAG・個別開発(大)
人間の確認
必須
現在工数
120h/月
AI導入後
45h/月
想定削減
63%
年間削減
900h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 電話・メール・ポータルの問い合わせを、担当が受け付けて受付の一覧に記録する
  2. 質問を読み、規約・規程・しおりのどれに答えがあるか見当を付ける
  3. 文書を開いて該当の条文を探し、今年度の改正で変わっていないかを確かめる
  4. 個人の記録が要る質問は、基幹のシステムで資格や給付の記録を見る
  5. 回答を電話で伝えるか、メールを書いて送る
  6. 審査が要る質問(被扶養者の認定など)は、必要な書類を案内して申請を待つ
  7. 受付の一覧に、回答の要点と対応の結果を記録する
導入後(After)
  1. 人被保険者がポータルにログインし、チャットで質問する
  2. 自動質問を前処理し、番号や病名らしい語を伏せる
  3. 自動Azure OpenAI が質問を「文書で答えられる」「個人の記録・審査が要る」「健康・医療の相談」「苦情・その他」に分ける
  4. 自動文書で答えられる質問は、Azure AI Search で、現在有効な版の規約・規程・案内の条文を検索する
  5. 自動Azure OpenAI が条文だけを根拠に答え、法定給付か付加給付かの区分と、文書名・条番号・引用を付ける
  6. 自動引用が原文にあるかを照合し、通ったものだけを加入者に返す
  7. 自動個人の記録・審査が要る質問は、受付として事務局の一覧に入れ、加入者には受付の番号を返す
  8. 自動健康・医療の相談は答えず、医療機関と組合の健康相談の窓口を案内する
  9. 人事務局が、受付の一覧と、照合で止まった回答に答える。返った回答を抜き取りで確かめる
各工程の詳しい説明を読む
  1. 電話・メール・ポータルの問い合わせを、担当が受け付けて受付の一覧に記録する
  2. 質問を読み、規約・規程・しおりのどれに答えがあるか見当を付ける
  3. 文書を開いて該当の条文を探し、今年度の改正で変わっていないかを確かめる
  4. 個人の記録が要る質問は、基幹のシステムで資格や給付の記録を見る
  5. 回答を電話で伝えるか、メールを書いて送る
  6. 審査が要る質問(被扶養者の認定など)は、必要な書類を案内して申請を待つ
  7. 受付の一覧に、回答の要点と対応の結果を記録する

(a)答えは文書にあるのに、毎回探している。 900件のうち、規約か案内に答えがそのまま書いてある質問が多くを占めます。それでも1件ずつ文書を開いて条文を探すので、1件に数分かかります。

(b)法定給付と付加給付が混ざって伝わる。 「出産育児一時金はいくらか」と聞かれ、組合の上乗せを含めた額を答えると、加入者は健康保険の制度としてその額が出ると受け取ります。 退職や転職の後に「前は出たのに」という問い合わせが、別の組合や協会けんぽに届きます。

(c)改正の前後で答えが割れる。 4月の改正の後、改正前の答えを覚えている担当が古い額を伝えることがあります。どの時点の規約で答えたかが記録に残っていないので、後から確かめられません。

(d)健康の相談が混ざる。 「この症状で病院に行くべきか」「この薬は保険が効くか」のような質問も届きます。事務局は医療の判断ができないので、毎回相談先を案内しますが、その案内の言い方も担当で違います。

  1. 【人】 被保険者がポータルにログインし、チャットで質問する
  2. 【自動】 質問を前処理し、番号や病名らしい語を伏せる
  3. 【自動】 Azure OpenAI が質問を「文書で答えられる」「個人の記録・審査が要る」「健康・医療の相談」「苦情・その他」に分ける
  4. 【自動】 文書で答えられる質問は、Azure AI Search で、現在有効な版の規約・規程・案内の条文を検索する
  5. 【自動】 Azure OpenAI が条文だけを根拠に答え、法定給付か付加給付かの区分と、文書名・条番号・引用を付ける
  6. 【自動】 引用が原文にあるかを照合し、通ったものだけを加入者に返す
  7. 【自動】 個人の記録・審査が要る質問は、受付として事務局の一覧に入れ、加入者には受付の番号を返す
  8. 【自動】 健康・医療の相談は答えず、医療機関と組合の健康相談の窓口を案内する
  9. 【人】 事務局が、受付の一覧と、照合で止まった回答に答える。返った回答を抜き取りで確かめる

3番目の振り分けが、この設計の分かれ目です。 文書で答えられる質問だけを検索と回答に進め、ほかの3種類は、回答の生成に入る前に分かれます。 審査が要る質問に条文で答えようとすると、条文としては正しいのに、その人には当てはまらない回答になります。

6番目の照合を通らない回答は、加入者に返しません。 引用が原文に無い回答は、AIが条文を言い換えたか、存在しない条文を作ったかのどちらかです。事務局の確認待ちに回し、加入者には「担当から回答します」と返します。

02今回想定するシステム構成

構成図
被保険者(ポータルにログイン)
   ▼【トリガー】チャットで質問を送信
Azure Functions ── 前処理(番号・病名らしい語を伏せる、長さの確認)
   ▼
Azure OpenAI ── ①質問の種類の判定(構造化出力)
   │
   ├─ 個人の記録・審査 ──▶ 事務局の受付の一覧/加入者へ受付の番号
   ├─ 健康・医療の相談 ──▶ 医療機関と健康相談の窓口の案内(定型文)
   ├─ 苦情・その他 ──▶ 事務局の受付の一覧
   │
   └─ 文書で答えられる
        ▼
     Azure AI Search ── 現在有効な版の条文をハイブリッド検索
        ▼
     Azure OpenAI ── ②条文だけを根拠に回答(法定給付/付加給付の区分付き)
        ▼
     引用の照合(Azure Functions)
        ├─ 照合OK ──▶ 加入者へ回答(文書名・条番号・引用付き)
        └─ 照合NG/答え無し ──▶ 事務局の確認待ち
役割想定する製品代替候補
生成AIAzure OpenAI(Microsoft Foundry)Claude API(Amazon Bedrock)、OpenAI API
連携Azure Functions(判定・検索・回答の順番と、引用の照合)Power Automate
文書検索Azure AI Search(ハイブリッド検索)Azure OpenAI の埋め込みと自前の全文検索の組み合わせ
画面組合の加入者向けポータルへのチャットの埋め込み新しく作るチャットの画面
保管Azure Blob Storage(条文の原本と会話の記録)組合の文書管理

Azure OpenAI を選ぶのは、加入者の質問を組合の契約の中で扱うためです。 公式のページでは、Azure の提供するモデルに渡したプロンプトと応答は、他の顧客や OpenAI などのモデルの提供元に提供されず、モデルの改善や基盤モデルの学習に使われないとされています。質問には、本人や家族の出産・入院・退職のような事情が書かれます。

検索は自前で行い、取り出した条文をプロンプトに入れます。 Azure OpenAI には自社のデータを直接つなぐ仕組みがありますが、公式のページでは、構造化出力は自社のデータを持ち込む使い方ではサポートされないとされています。回答を決まった形の JSON で受け取って引用を照合するので、Azure AI Search で検索し、その結果を回答の呼び出しに渡します。

Azure AI Search のハイブリッド検索は、全文検索とベクトル検索を1つの要求で並列に実行し、逆ランク融合(RRF)で結果をまとめます。 公式のページでは、ベクトル検索は語が一致しなくても意味の近い情報を見つけられ、製品の番号や専門用語、日付のような語は、完全一致を見つけられる全文検索のほうがよく当たるとされています。「産休」から「出産手当金」の条文に届くのはベクトル検索の側、「第53条」「任意継続」に正確に当たるのは全文検索の側です。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

被保険者がポータルのチャットで質問を送ったときに動かします。 ポータルにはログインが必要なので、質問の時点で被保険者の記号・番号は分かっています。 ただし、この記号・番号は AI に渡さず、受付の一覧と会話の記録を結ぶ鍵としてだけ使います。

1回の質問ごとに、判定 → 検索 → 回答 → 照合を1つの流れとして実行します。会話の続きの質問は、直前の質問と回答の要約を添えて、同じ流れをもう一度通します。 続きの質問でも、毎回振り分けからやり直すのは、「では私の場合は」と個人の話に移ったときを拾うためです。

電話とメールの問い合わせは、いまどおり事務局が受けます。チャットに移すのは、加入者が自分で選んだ質問だけです。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
質問被保険者が入力した文と、直前の質問・回答の要約ポータルのチャット
規約組合の規約の条文(付加給付、保健事業、掛金の負担など)組合の文書
規程給付の事務の取扱い、保健事業の補助の規程組合の文書
加入者向けの案内しおり、手続の案内、申請書の書き方組合の文書
法定給付の一覧健康保険法に定める保険給付の種類と、組合の案内のどこで説明しているか事務局が作る対応表
定型の案内文健康・医療の相談や、審査が要る質問に返す文事務局が作る

質を決めるのは、下の2つです。 法定給付の一覧が無いと、AIは条文がどちらの給付について書かれたものか分からず、区分を推測で付けます。 健康保険法は、療養の給付、傷病手当金、埋葬料、出産育児一時金、出産手当金、家族療養費、高額療養費などを保険給付として並べています。事務局はこの種類ごとに、組合の案内のどこで説明しているかの対応表を作ります。 付加給付は規約の条で定まるので、規約の側の条番号を対応させます。

規約と規程には、版ごとに施行日を持たせます。 4月の改正で付加給付の額が変わったら、改正前の版も消さずに残し、施行日と失効日を付けます。

Step3

データの取得方法を決める

規約・規程・案内は、条や見出しの単位に分けて Azure AI Search の索引に入れます。 ページ単位で分けると、1つの検索結果に別の給付の条文が混ざり、回答に紛れ込みます。

索引の項目中身何に使うか
本文条文・見出しの本文全文検索とベクトル検索の対象
文書名・条番号「規約 第○条」「しおり 3-2」回答の根拠として示す
区分法定給付/付加給付/保健事業/手続回答の区分の材料。絞り込みにも使う
施行日・失効日版の有効な期間今日の時点で有効な版だけに絞る
対象被保険者/被扶養者/任意継続被保険者対象の取り違えを防ぐ

検索のときは、施行日と失効日で今日の時点の版に絞ってから探します。 公式のページでは、ハイブリッド検索でも絞り込み(filter)などのテキストの機能を使えるとされています。改正前の版を索引から消さずに置けるのは、この絞り込みがあるからです。

区分の項目は、索引に入れるときに事務局が付けます。 AIに条文を読ませて付けさせると、付加給付の条を法定給付と付けることがあります。区分は回答の正しさに直結するので、人が付けて固定します。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 長さの確認 … 長すぎる質問は、先頭の一定の文字数で切り、「要点を短く」と案内します
  2. 番号を伏せる … 被保険者の記号・番号、マイナンバー、電話番号、口座番号の形の数字列を [番号] に置き換えます
  3. 病名らしい語を伏せるかの判断 … 病名の一覧に当たる語は [病名] に置き換えます。質問の意味が分からなくなる場合は、伏せたまま判定に回し、医療の相談として扱われてもよいとします
  4. 直前の会話の要約 … 続きの質問のときだけ、直前の質問と回答を短く添えます
  5. 今日の日付 … 回答の基準日として渡します

2番目と3番目は、加入者がチャットに書いてしまうものを受け止めるためです。 画面には「番号や病名は書かないでください」と表示しますが、書く人は必ずいます。 病名は健康に関わる情報で、組合の事務に必要のない形で AI に渡す理由がありません。伏せても、給付の手続の質問には答えられます。

Step5

AIに処理させる

呼び出しを2回に分けます。 1回目は質問の種類の判定、2回目は条文を根拠にした回答です。

1回目に判定する種類例行き先
document 文書で答えられる高額療養費の申請に要る書類、任意継続の手続の期限検索と回答へ
personal 個人の記録・審査が要る私の場合いくら戻るか、母を扶養に入れられるか事務局の受付へ
medical 健康・医療の相談この症状で受診すべきか、この治療は保険が効くか定型の案内へ
other 苦情・その他対応への不満、制度への意見事務局の受付へ
2回目にさせること中身
回答渡した条文に書かれていることだけで答える
区分回答の中の各項目が、法定給付・付加給付・保健事業・手続のどれかを、条文に付いた区分から写す
根拠文書名・条番号と、本文をそのまま写した引用
答え無し条文に答えが無ければ answerable を false にする
させないこと理由
その人がもらえる額の計算所得の区分や記録で決まる。窓口で答える
被扶養者に認定されるかの判断組合が書類を審査して決める
受診や治療についての助言医療の判断は医療機関が行う
区分の推測条文に付いた区分だけを写す
他の組合や協会けんぽの制度の説明渡した文書の外のこと

4行目が、この構成でいちばん大事な制約です。 AIは「出産育児一時金」という語を見て、法定給付と付けがちです。組合の上乗せの条文から答えているなら、その部分は付加給付です。 区分は検索結果に人が付けたものを写させ、自分で決めさせません。

Step6

指示内容を固定する

1回目(判定):

あなたは健康保険組合の事務局で、加入者からの質問を振り分ける担当です。
質問に答えないでください。種類を1つだけ選んでください。

- document … 規約・規程・案内の文書を読めば、誰に対しても同じ答えになる質問
- personal … その人の記録、所得、家族の状況、審査の結果で答えが変わる質問
             「私の場合」「うちの母は」「いくら戻るか」は personal です
- medical  … 病気・けが・症状・治療・薬について、医療の判断を求める質問
- other    … 苦情、意見、上のどれにも当たらない質問

迷ったときは document を選ばないでください。
document と personal が混ざっている質問は personal にしてください。

2回目(回答):

あなたは健康保険組合の事務局として、加入者の質問に答えます。
下の【条文】に書かれていることだけで答えてください。

【厳守事項】
- 条文に書かれていないことは答えないでください。
  答えが条文に無ければ answerable を false にし、answer は空にしてください。
- 金額を計算しないでください。条文に書かれた額と条件を、そのまま示してください。
- 回答の各項目の category は、その項目の根拠にした条文の【区分】をそのまま写してください。
  自分で法定給付か付加給付かを判断しないでください。
- 付加給付の項目を含むときは、「当組合独自の給付です」と必ず書いてください。
- citations の quote には、根拠にした条文の本文をそのまま写してください。
  言い換えたり、要約したりしないでください。
- この人がもらえるか、認定されるかを書かないでください。
- 受診や治療について助言しないでください。
- 他の健康保険組合や協会けんぽの制度について書かないでください。

【基準日】{today}
【質問】{question}
【直前の会話の要約】{history}
【条文】{retrieved_chunks}  ← 各条文に文書名・条番号・区分・施行日が付いている

判定に「迷ったときは document を選ばない」と書くのは、誤りの重さが左右で違うからです。 personal の質問を document として答えると、加入者は自分のことを答えてもらったと受け取ります。逆に document の質問を事務局の受付に回しても、返事が遅れるだけです。

「当組合独自の給付です」を必ず書かせるのは、第3章の(b)を防ぐためです。 区分を JSON に入れるだけでは、加入者の画面に出る文からは区別が消えます。加入者が読む文の中に、区別が残る形にします。

Step7

出力形式を固定する

1回目は種類だけを、2回目は次の形のJSONで受け取ります。

{
  "answerable": true,
  "answer_items": [
    { "text": "出産育児一時金は、健康保険法に定める給付です。…",
      "category": "法定給付", "citation_ids": ["c1"] },
    { "text": "当組合独自の給付として、出産育児付加金があります。…",
      "category": "付加給付", "citation_ids": ["c2"] }
  ],
  "citations": [
    { "id": "c1", "document": "加入者のしおり", "section": "4-1",
      "quote": "" },
    { "id": "c2", "document": "規約", "section": "第○条", "quote": "" }
  ],
  "next_step": ""
}

1つ目の理由は、category を項目ごとに持てることです。 1つの回答の中に法定給付と付加給付が並ぶので、回答全体に1つの区分を付けるのでは足りません。画面では、付加給付の項目に印を付けて表示します。

2つ目は、quote を照合できることです。 Azure Functions は、quote が検索で渡した条文の本文にそのまま含まれるかを確かめます。含まれない引用が1つでもあれば、その回答は加入者に返さず確認待ちに回します。 あわせて、category が引用元の条文に付いた区分と一致するかも確かめます。

3つ目は、構造化出力の制約に合わせやすいことです。 公式のページでは、構造化出力ではすべての項目を必須にし、additionalProperties: false を置く必要があり、配列の minItems・maxItems や文字列の maxLength はサポートされないとされています。answer_items が空でないか、answer の長さが画面に収まるかは、照合と同じ関数で確かめます。category は enum で4つの値に縛ります。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
加入者向けポータルチャットの埋め込みログインした被保険者だけが使える
Azure OpenAIChat Completions API の構造化出力判定と回答の2回
Azure AI Searchハイブリッド検索の問い合わせ今日の時点で有効な版に絞って条文を引く
事務局の受付の一覧Azure Functions から書き込むpersonal・other・確認待ちを入れる
組合の基幹のシステムつながない資格・給付の記録は窓口の担当が見る

document 以外の種類には、AIが文を作らず、事務局が決めた定型の文を返します。

種類加入者に返す文(例)事務局の側
personal「ご本人の記録を確認する必要があるため、担当からお答えします。受付番号は○○です」受付の一覧に、質問と受付番号を入れる
medical「病気やけがのご相談には、このチャットではお答えできません。かかりつけの医療機関か、当組合の健康相談の窓口にご相談ください」件数だけを記録する
other「ご意見を承りました。担当が内容を確認します」受付の一覧に入れる
確認待ち「この質問は担当からお答えします。受付番号は○○です」確認待ちの一覧に、応答の全文と照合の結果を入れる

定型の文にするのは、ここでAIに文を作らせる理由が無いからです。 種類が決まれば、返すべき内容は決まっています。AIに作らせると、medical の案内の中に「念のため受診をおすすめします」のような一言が混ざり、それ自体が医療の助言になります。

基幹のシステムにはつなぎません。 つなげば「あなたの場合」に答えられますが、AIに個人の給付の記録を渡す経路ができ、誤った回答がその人の記録に基づく答えとして返ります。 個人の質問は受付として事務局に渡し、担当が記録を見て答えます。

Step9

人が確認する

人が見るのは、事務局の受付の一覧と確認待ちです。 照合を通って返った回答は、全件を見るのではなく抜き取りで確かめます。

  1. 確認待ちを先に見る … 引用が原文に無かった回答と、答え無しの質問です。条文に答えが無い質問が続くなら、案内の文書の側が足りていません
  2. personal と other の受付に答える … 基幹のシステムで記録を見て、いまどおり回答します
  3. 返った回答を毎日10件抜き取る … 区分と引用が合っているか、付加給付の一文が入っているかを見ます
  4. 振り分けの誤りを記録する … personal のはずが document で答えていた質問を、判定の指示の見直しに使います

3番目を規約の改正の直後は増やしてください。 改正の版の施行日の付け方を誤ると、旧い額が今日の版として引かれます。

Step10

例外に対処する

起きること対応
引用が原文に無い返さずに確認待ち。加入者には「担当から回答します」
検索で条文が見つからないanswerable を false にし、確認待ちへ
判定と回答の内容が食い違う(document なのに回答が個人の話)返さずに確認待ち
安全のための絞り込みで応答が止まった自傷や暴力に触れる質問で起こりうる。定型の相談先の案内を返し、事務局に知らせる
応答が遅い・失敗した1回だけやり直し、だめなら受付の一覧へ
番号や病名を伏せきれなかった会話の記録から消し、伏せる規則を足す
改正の施行日の前後の質問(来月からの額)施行日が先の版は引かない。「改正後の内容は担当から」と返す

4行目は健康保険のチャットでは起こりえます。 公式のページでは、プロンプトと応答は有害な内容の種類について即時に評価され、設定したしきい値に従って生成が絞り込まれるとされています。止まった質問を機械的にやり直さず、相談先の案内を返したうえで、事務局が内容を見ます。

7行目は毎年3月に集中します。 4月からの付加給付の額を3月中に聞かれたとき、施行日が先の版を引けば答えられますが、理事会の議決の後に内容が変わることもあるので、施行日までは担当が答える扱いにします。改正の版を索引に入れるのは施行日の前で構いませんが、絞り込みの条件で引かれないようにしておきます。

会話が長く続いた場合も例外として扱います。 同じ人が短い間に10回以上質問を続けるときは、文書で答えられない事情を抱えていることが多いので、チャットを続けさせず、担当からの連絡を案内します。

Step11

記録を残す

  • 質問(伏せた後の文)と、被保険者の記号・番号と結ぶ受付の番号
  • 判定の結果と、2回目の応答の全文
  • 検索で渡した条文の文書名・条番号・版の施行日
  • 照合の結果(通った/引用が無い/区分の不一致)
  • 事務局が確認待ちに答えた内容と、抜き取りの結果
  • 答え無しになった質問の一覧

3つ目で版の施行日を残すのは、第3章の(c)を後から確かめられるようにするためです。 どの時点の規約で答えたかが分かれば、改正の前後で答えが割れたときに、誰にどの版で答えたかを洗い出せます。

最後の行は、案内の文書を直す材料になります。 同じ質問が答え無しで続くなら、しおりに1項目足すだけで、電話の問い合わせも減ります。

会話の記録は、組合の Azure のサブスクリプションの中に保存し、保存の期間を組合の文書の保存の規程に合わせて決めます。

04実装レベルの3段階

最小構成:条文と質問を生成AIの画面に貼り、区分付きで答えさせる / 1件ごとの回答の下書き
半自動化:上記+索引と検索を作り、事務局の画面で回答の下書きを出し、担当が確かめて送る / 文書を探す作業と下書き
本格構成:上記+加入者向けのチャットで直接答え、引用を照合し、個人の質問は受付に回す / 文書で答えられる質問の回答の全体

本記事の想定は本格構成です。 加入者に直接答えるので、1件8分が、ならして3分になります。 段階を飛ばさないでください。 半自動化で事務局が下書きを2〜3か月見ると、区分の付け方の誤りと、文書に答えが無い質問が先に見つかります。 そこを直してから加入者に直接返すほうが、誤った回答が加入者に届く数が減ります。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
4 名
月間件数
900 件
1件あたり現在時間
8 分
1件あたり導入後時間
3 分
現在  900件 × 8分 ÷ 60 = 120 時間/月
導入後 900件 × 3分 ÷ 60 = 45 時間/月
月間削減時間
75h
削減率
63%
年間削減時間
900h
年間金額換算(時間単価3,000円)
270万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 被保険者が数万人いる単一型・総合型の健康保険組合で、給付と手続の質問が電話とメールで毎月数百件届き、少人数の事務局が答えている場合。付加給付や保健事業の補助のように組合独自の制度があり、「健保から出るのか」「会社の制度か」の質問が多い場合。規約・規程と加入者向けのしおりが電子の文書でそろっている場合。
向いていない
  1. 加入者が数千人で、問い合わせが月に数十件の場合。規約や案内が紙だけで、改正の履歴が追えない場合。なお、個々の給付の支給の可否、被扶養者の認定、病気やけがについての医療の判断は、組合の職員と医療機関が行うもので、この構成では代替しません。

07最小構成で試す方法

  1. 先月の問い合わせの一覧から、答えが文書にある質問を30件選ぶ(うち5件は付加給付が関わるもの)
  2. 規約・規程・しおりの関係する部分を抜き出し、区分(法定給付/付加給付/保健事業/手続)を手で付ける
  3. 組合の契約で使える生成AIの画面に、区分付きの条文と質問を1件ずつ貼る
  4. 「この条文だけで答えてください。各項目に区分を写し、付加給付には『当組合独自の給付です』と書いてください。根拠の条文をそのまま引用してください。答えが無ければ『答え無し』と書いてください」と指示する
  5. 出てきた回答を、当時事務局が答えた内容と突き合わせる

30件で、区分の写し方と引用の正しさを確かめます。

出てきた内容判断
当時の回答とほぼ同じで、区分も合っている検索の索引づくりに進む
付加給付を法定給付と書く区分を写す指示を強める。条文側の区分の付け方も見直す
条文に無い額や条件を書き足す引用の照合が必須。本格構成で必ず入れる
答え無しが多い案内の文書が先。 質問に対応する説明が文書に無い

4行目が出ることは珍しくありません。 事務局が担当の記憶で答えていた質問が、文書の上ではどこにも書かれていなかったということです。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
付加給付を法定給付と書く区分は条文に人が付けたものを写させる
「私の場合」の質問に条文で答える判定で personal に分け、迷ったら document を選ばせない
改正前の額を答える施行日・失効日で今日の版に絞る
来月からの改正後の額を聞かれる施行日が先の版を引かず、担当に回す
引用を言い換える照合で落とし、加入者に返さない
受診の助言をするmedical に分け、定型の案内だけを返す
番号や病名がそのまま渡る前処理で伏せ、画面にも書かないよう表示する
自社のデータの持ち込みと構造化出力を併用しようとする併用できない。 検索は自前で行う
条文をページ単位で索引に入れる条・見出しの単位に分ける
基幹のシステムにつなぐつながない。 個人の質問は窓口で答える

上の2行が、この構成の失敗のほとんどです。 どちらも、AIに「どちらの話か」を自分で決めさせるところから出発しています。区分は人が付けて写させ、個人の話は答える前に分けます。

下の2行も効いてきます。 索引の単位が粗いと、出産の質問の回答に埋葬料の条文が混ざります。基幹のシステムにつなぐと、便利になる代わりに、誤りがその人の記録の話として返ります。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 被保険者の質問(出産、入院、退職、家族の状況などの事情)、組合の規約・規程・案内、会話の記録。健康に関わる事情が書かれうるので、個人情報の中でも慎重に扱う種類のものが混ざります。

  1. AIに渡す範囲を質問の文に限る … 被保険者の記号・番号は受付の鍵としてだけ使い、AIには渡しません。病名らしい語と番号は前処理で伏せます
  2. 組合の契約の中で処理する … 公式のページでは、Azure の提供するモデルに渡したプロンプトと応答は他の顧客やモデルの提供元に提供されず、明示の許可なくモデルの改善に使われないとされています。処理の場所はデプロイの種類で変わり、Global や DataZone では広がるとされているので、組合の情報管理の規程と照らして選びます
  3. 不正利用の監視の扱いを説明しておく … 公式のページでは、不正利用の兆候が検知されたときにプロンプトと応答の一部が自動の審査と、必要に応じて人の審査の対象になりうるとされています。加入者向けの利用の案内に、会話をどこに保存し、誰が見うるかを書きます
  4. 医療の判断をしない … 受診や治療の質問には、定型の相談先の案内だけを返します。チャットの回答が医療の助言として受け取られる形を作りません
  5. 給付の可否を約束しない … 回答は条文の説明までで、「あなたはもらえます」「認定されます」とは書きません。 画面にも「個別の支給・認定は申請の後に組合が決めます」と常に表示します
  6. 会話の記録を事業主に渡さない … 組合の加入者の事情は、母体の会社の人事に知られたくないものを含みます。会社の管理者が見える場所に記録を置きません

誤りが起きた場合のリスクは、誤った給付の説明を加入者が信じて行動することと、個人の事情が組合の外に漏れることの2つです。 前者は区分の取り違えと個人の質問への回答から起き、後者は前処理と保存の場所から起きます。どちらも、AIに判断させない範囲を決めることで防ぎます。

10まず何から始めるか

1週目:法定給付の一覧と対応表を作る

健康保険法に定める保険給付の種類を並べ、組合のしおりと規約のどこで説明しているかを対応させます。付加給付と保健事業の補助は、規約・規程の条番号まで書きます。

2週目:30件で試す

先月の問い合わせから30件を選び、組合の契約で使える生成AIの画面で、区分付きの条文から答えさせます。付加給付を法定給付と書かないかを最優先で見ます。

3週目:振り分けの基準と定型の案内を決める

personal と medical の線引きを事務局で決め、健康・医療の相談に返す定型の案内文を、組合の健康相談の窓口と決めます。

4週目:索引を作る

規約・規程・しおりを条と見出しの単位に分け、区分と施行日・失効日を付けて Azure AI Search に入れます。改正前の版も入れ、絞り込みで今日の版だけが引かれることを確かめます。

2か月目: 事務局向けの画面で回答の下書きを出し、担当が確かめて送る半自動化で回します。3か月目以降: 引用の照合と受付の連携を足し、加入者向けのチャットを開きます。答え無しの質問に合わせて案内の文書を足し、改正の版の入れ替えが事務局だけで回るようになった時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-28/最終更新:2026-10-29
確認した内容情報源確認日
健康保険法第52条が、被保険者に係る保険給付として療養の給付、傷病手当金、埋葬料、出産育児一時金、出産手当金、家族療養費、家族埋葬料、家族出産育児一時金、高額療養費・高額介護合算療養費などを定めること。第53条(健康保険組合の付加給付)が、保険者が健康保険組合である場合に、前条の給付に併せて規約で定めるところによりその他の給付を行うことができると定めること(2026-10-01 施行の版)e-Gov 法令API: 健康保険法2026-10-28
構造化出力ですべての項目を必須にし additionalProperties: false を置く必要があること。配列の minItems・maxItems、文字列の maxLength などがサポートされないこと。構造化出力が自社のデータを持ち込む使い方(Bring your own data)ではサポートされないことMicrosoft Learn: How to use structured outputs with Azure OpenAI in Microsoft Foundry Models2026-10-28
プロンプトと応答が他の顧客や OpenAI などのモデルの提供元に提供されず、モデルの改善や基盤モデルの学習に使われないこと。Global・DataZone のデプロイで処理の場所が広がること。プロンプトと応答が有害な内容について即時に評価され絞り込まれること。不正利用の兆候が検知されたときに自動の審査と必要に応じた人の審査の対象になりうることMicrosoft Learn: Data, privacy, and security for Foundry Models sold by Azure2026-10-28
ハイブリッド検索が全文検索とベクトル検索を1つの要求で並列に実行し、RRF で結果をまとめること。ベクトル検索が語の一致が無くても意味の近い情報を見つけられること。製品の番号・専門用語・日付などは完全一致を見つけられる全文検索のほうがよく当たること。ハイブリッド検索でも絞り込みなどのテキストの機能を使えることMicrosoft Learn: Hybrid Search Overview - Azure AI Search2026-10-28

付加給付と保健事業の内容、回答の範囲、会話の記録の保存の期間は、組合の規約と事務局・理事会の判断で決めてください。 本記事は健康保険法の条文と Microsoft の公式ドキュメントで確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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