AIツールの契約名義を決める方法|解約の権限まで含める

AIツールの契約名義を決める方法|解約の権限まで含める

「使いたいと言った部署が自分たちのカードで申し込んでいて、いま誰の契約なのか社内で答えられません」「契約した担当者が異動してしまって、止め方が分からないまま請求だけが毎月続いています」——生成AIの道具を入れ始めた会社から、同じ形の相談が続けて届きます。どちらも、申し込んだ時点では誰も問題だと思っていなかったところから始まっています。契約の名義は、費用を誰の予算から出すかを書き分けるための事務ではありません。本当は、その道具を止められる人が誰になるかを、申し込んだ瞬間に決めてしまう取り決めです。この記事では、名義の置き方3通りの違いから、名義と一緒に決まってしまうもの、解約と停止の権限の置き方、いまある契約を寄せる手順までを、決める順番どおりに整理します。


カメ先生カメ先生

道具を入れる話になると、どれを選ぶかには何週間もかけるのに、誰の名前で契約するかは最後に事務として片づけられることが多いんだ。ところが、あとから効いてくるのはこの1行のほうでね。


カメ子カメ子

名前が誰であっても、払う金額は同じではないのですか。


カメ先生カメ先生

金額は同じだよ。変わるのは、止められる人だ。契約の当事者になった人しか、やめますと言えない仕組みがほとんどでね。その人が長期で休んでいたり、すでに会社にいなかったりすると、請求だけが残っていくんだ。


カメ子カメ子

どれを選ぶかを決める前に、誰の名前にするかを先に置いておくものなのですね。


この記事のポイント
  • 契約の名義は費用の担当を書く事務ではなく、その道具を止められる人を決める取り決め
  • 名義の置き方は3通り。支払いの経路・利用者の増減・データの持ち主・止める権限が一緒に動く
  • 名義とは別に、解約と緊急停止を押せる人を名前で決め、異動と退職の日に引き継ぐ

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目次

「部署のカードで契約する」から始まると、あとから戻せない

生成AIの道具は、これまでの業務システムとは社内への入り方が違います。月に数千円から始められ、申し込みは画面の上だけで完結し、使いたいと言った人がその日のうちに使い始められます。決裁を待つより先に試せてしまうところが利点であり、同時に厄介なところでもあります。クラウドで提供される道具全般について見ても、選定の主体が事業部門になっている企業は40.8%事業部門が契約している道具の数が全社契約の数を上回っている企業は50.6%という調査結果があります(2023年・回答1,021件)。買う人が現場に移ったこと自体は、速さの面ではむしろ利点です。困るのは、名義を決めないまま買えるようになったことのほうです。

始めた直後は、誰も困りません。試すだけのつもりですし、金額も小さい。ところが3か月もすると、その道具の上に業務が乗り始めます。作った資料がそこに溜まり、他の部署からも見せてほしいと言われ、顧客に出す文書の下書きもそこで作られるようになります。ここまで来ると、続ける判断も止める判断も、申し込んだ一人の手の中にしかない状態になります。その本人が休んでいれば、利用者を1人増やすことすらできません。困ったときに管理画面へ入れる人が社内に一人もいない、という事態は、この積み重ねの先に起きます。

見えていないことは、そのまま数字にも表れています。会社が把握していない道具の利用について、完全に検知できていると答えた企業は15.3%にとどまり、「まったく検知できていない」「分からない」と答えた企業が合わせて33.3%ありました。3社に1社は、自社で何が契約されているかを正確には答えられない状態にあるということです。名義を決める作業は、この見えない部分をこれ以上増やさないための、いちばん手前の一手にあたります。

名義は支払いの話ではない。誰が契約の当事者かという話

名義という言葉が費用の話に聞こえるのは、社内で名義を聞かれる場面が、たいてい経費の精算だからです。しかし契約における名義は、誰がその契約の当事者になったかを指します。当事者とは、提供する側と約束を交わした相手のことです。利用の条件に同意したのはその人であり、条件が変わったときに知らせが届くのもその人、条件を守らなかったときに問われるのもその人になります。支払いの経路は、この当事者が誰かによって後から決まる従属的なものです。先に決まるのは当事者で、支払いはその結果でしかありません

この違いが効いてくるのは、条件が変わったときです。生成AIの道具では、画面上の利用規約が更新され、その内容が自動的に契約の中身に取り込まれる仕組みが採られていることがあります。法務の解説でも、利用する側はいつ時点のどの文書が契約の内容なのかを意識しておく必要があると指摘されています。更新の知らせは当事者に届きます。当事者が個人であれば、その人の受信箱で止まります。会社としては、条件が変わったことにも、変わった中身にも気づけません。

もう一つ、当事者が誰かで答えが変わるのが、使ってよい人の範囲です。契約の確認項目として、正社員だけなのか、契約社員や派遣社員も含むのか、業務委託先のメンバーも使ってよいのか、そして利用者の口を共有することが禁止されていないか、といった点が挙げられます。会社が当事者であれば、この範囲は社内の規程として答えられます。個人が当事者のまま人を増やしていると、範囲を決めているのが会社なのか本人なのかが曖昧になり、外部の人に使わせてよいかを誰も判断できなくなります。

個人の名義で始まった契約には、会社の権限が届かない

生成AIの道具には、個人向けの申し込みと、法人向けの申し込みが並んでいます。この2つの違いは、機能の多さよりも先に、誰がその契約を管理できるかにあります。個人向けは利用者自身が自分の契約として管理する形で、法人向けは会社が利用者や設定を管理できる形です。言い換えると、個人向けの契約では、会社の側から強制的に止めることができません。止めるには本人に頼むしかなく、本人が動けない状況になれば、止める手段そのものが無くなります。

ここでよくある誤解が、法人のカードで払っているのだから会社の契約だろう、というものです。しかし支払い元は、管理の権限が付いてくるかどうかを決めません。個人向けの有料の申し込みを法人のカードで払っている場合でも、会社の側に停止の権限や管理の記録が付くかどうかは、契約の種類と機能の側で決まります。経理から見れば会社の費用として処理されているのに、道具の側から見れば一人の利用者の契約のまま、という状態が普通に成立します。

データの扱いの前提も、契約の種類で変わります。法人向けの契約は、入力したものを学習に使わない前提で設計されているものが中心です。個人向けは、既定のままだと対話の内容が改善や学習に使われる場合があり、設定で変えられることもあります。ただし解説の中でも契約名だけで判断してはいけないと念を押されています。有料だから安全、無料だから必ず学習される、という単純な線は引けません。名義を決めるときに見るのは契約の呼び名ではなく、書かれている条件と、管理画面で実際にできることの2つです。

すでに個人の名義で使っているものを会社の名義へ移す場合、同じ口をそのまま引き継げるかどうかは提供元によって違います。会社の管理下へ招き直すことで引き継げるものもあれば、新しい口を作り直すしかないものもあります。後者では、それまでの対話の履歴、作り込んだ指示、共有していた設定が、本人の領域に残ったままになります。移したつもりで、中身だけ置き去りになるという形です。だから切り替えの手順は、名義を移す前に「本人の領域にあるもののうち、会社に残すものを取り出す」工程から始めます。取り出せるかどうかも、出てくる形も提供元ごとに違うので、移す日を決める前に1件ずつ確かめます。ここを飛ばすと、移した当日に現場から「前のほうが揃っていた」という声が出て、二重に契約したまま止められなくなります。

名義を決めると、6つのものが一緒に決まる

名義は台帳の中では1行ですが、その後ろに実務が6つぶら下がっています。名義を決めるという作業は、この6つの置き場所を同時に決めることにほかなりません。どれか1つだけを都合よく変えることはできない、という点が大事なところです。

  • 支払いの経路:請求が1本で立つのか、部署ごとに立つのか、立替の精算になるのか
  • 利用者の追加と削除:増やす・減らすを誰が押せるのか。押せる人が1人か複数か
  • データの持ち主:入れたものと作ったものが、会社の領域にあるのか個人の領域にあるのか
  • 規約に同意した主体:条件が変わったときに、知らせが誰に届き、誰が判断するのか
  • 止めるときに押せる人:やめる手続きと、いますぐ使えなくする操作を誰ができるのか
  • 監査で出す証跡:誰がいつ何を使ったかの記録を、どこから何本集めれば揃うのか

この6つのうち、後から動かしにくいのがデータの持ち主と、規約に同意した主体です。利用者の追加や支払いの経路は、手間はかかっても社内の運用で組み替えられます。ところが、個人の領域に入ってしまったデータを会社の領域へ移すには、提供する側の機能が対応している必要があり、対応していなければ手作業で作り直すしかありません。同意の主体にいたっては、契約を結び直すまで動きません。

だからこそ、名義は「あとで整える」に回してはいけない項目になります。整えるための作業量が、時間とともに増え続けるからです。使い始めて1週間なら名義を移すのは申し込み直しで済みますが、半年分の履歴と資料が乗った後では、移すか、残すか、両方を並べて動かすかという選択になります。名義は、最初の1件を申し込む前に決めておくのがいちばん安く済みます。

名義の置き方は3通り。横に並べて見る

名義の置き方は、細かく分ければきりがありませんが、実務で選べる形は3つに収まります。情報システム部門が全社分をまとめて持つ形、各部署が自分の名前で契約する形、購買や総務が窓口になって名義は会社に置きつつ実務は部署が回す形です。どれが正しいというものではなく、会社の規模と、道具を使う部署の数と、止める必要が出る速さで選ぶものです。先ほどの6つが、置き方によってどう動くのかを横に並べて見ます。

変わるもの①全社でまとめて持つ②部署ごとに持つ③窓口を1つ置く
支払いの経路請求が1本で立ち、社内で割り振る部署の経費やカードから直接出る窓口が受けて、部署に付け替える
利用者の追加と削除管理画面から一括で押せる契約した部署の担当者しか押せない申し出を受けて窓口が押す
データの持ち主会社の領域に入る部署または個人の領域に閉じる会社の領域。運用は部署が回す
規約に同意した主体会社(担当部門が代表して同意)契約した個人になりやすい会社(窓口の名前で記録が残る)
止めるときに押せる人管理者が即日押せる契約した本人しか押せない窓口が押す。部署は申し出まで
監査で出す証跡1か所から出せる部署ごとに集め直す必要がある窓口の台帳から出せる
向く場面同じ道具を全社で使う業務が特殊で、件数が少ない部署の数が多く、速さも要る

表にすると、②だけが「止めるときに押せる人」の欄で明確に弱いことが分かります。他の欄は運用の手間の差ですが、この欄だけはできるかできないかの差です。逆に①は止めるのは速い代わりに、申し込みの列が情報システム部門に集まります。③はその中間ですが、窓口が押す権限を実際に持っているかどうかで、①寄りにも②寄りにも転びます。以下、3つを順に見ていきます。

置き方① 情報システム部門が全社分をまとめて持つ

情報システム部門が名義を持つ形は、止める権限と記録が1か所に集まるという点で、いちばん扱いやすい置き方です。利用者を増やすのも減らすのも管理画面から押せますし、条件が変わったときの知らせも部門の窓口に届きます。監査や取引先から「どの道具に何を入れていますか」と聞かれたときに、集め直さずに1本で答えられるのも、この形の強みです。まとめて契約することで、利用者の数に応じた条件を引き出しやすくなる面もあります。

弱点は、申し込みの列がそこに集まることです。部署が使いたいと言ってから使えるようになるまでの日数が延び、待てなくなった部署が別のところで勝手に契約するという、名義を統一したかったのに逆の結果になる事態が起きます。これは担当者の怠慢ではなく、処理の量と人数の問題です。だから、この形を選ぶなら「申し込みを受けてから何営業日で答えるか」を先に約束として置き、守れる件数まで自動化するところまでを設計に含める必要があります。

もう一つの弱点は、部署の事情が見えないまま契約の中身が決まることです。使う人が誰で、どの業務に効いていて、やめたら何が止まるのかを知らない部門が更新の判断を持つと、使われている道具を止め、使われていない道具を更新するという取り違えが起きます。これを避けるには、名義と権限は部門が持ちつつ、更新の可否を判断する材料は使っている部署から毎回もらう、という分担を台帳の上で決めておくことです。

この形を選んだ会社が必ずぶつかるのが、例外を認めるかという問いです。短期間だけ試したい、取引先の指定でその道具しか使えない、といった申し出は必ず出ます。すべて断ると②が裏で育ち、すべて認めると①ではなくなります。現実的なのは、例外にできる条件を先に3つだけ書いておくことです。使う期間が決まっていること、入れてよい情報の範囲が書かれていること、期間が終わったら自動的に切れること。この3つを満たす申し出だけを部署の名義で認め、満たさないものは全社の名義に寄せます。条件を先に書いておけば、申し出のたびに議論をやり直さずに済み、断る側の負担も減ります。

置き方② 各部署が自分の名前で契約する

各部署が自分で契約する形は、速さでは他の2つに勝ります。使いたいと思った週のうちに使い始められ、業務に合うかどうかも現場が自分で判断できます。費用も、使っている部署が自分で負担するので責任の所在が分かりやすい。生成AIのように、何に効くかを試してみないと分からない道具では、この速さに意味があります。実際、部門が主体で選ぶ形が広がっているのは、この利点が現場にとって大きいからです。

ただし、先ほどの表のとおり、この形は止める権限が会社に無いという一点で弱さを抱えます。加えて、規約に同意した主体が個人になりやすいこと、データが部署や個人の領域に閉じること、証跡を集めるのに部署の数だけ手間がかかることが重なります。取引先や監査から質問が来たときに、社内の誰も正確な一覧を出せない状態は、この形を放置したときの典型的な帰結です。

この形を選ぶのであれば、条件を付けることになります。扱う情報を業務の言葉で限る(顧客の名前や取引の条件を入れない、といった線)、契約したら決められた期日までに全社の台帳へ届け出る、支払いは個人のカードではなく会社の経路を使う、管理者の口は必ず2つ作り1つは全社の窓口に渡す、の4点です。速さを取る代わりに、届け出と管理者の口の2つは譲らない。この2つを落とすと、②は単に見えない契約が増えるだけの形になります。

置き方③ 購買・総務が窓口になり、実務は部署が回す

3つ目は、契約の名義は会社に置き、申し込みと解約は購買や総務が窓口として押し、日々の利用者の増減や使い方は部署が回す形です。①の「止められる」と②の「速い」を両立させようとする置き方で、部署の数が多い会社では現実的な落としどころになります。窓口が押すのは契約の入口と出口だけなので、情報システム部門に全部を集めるよりは列が短く済みます。

この形が形骸化する典型が2つあります。1つは、窓口が判子を押すだけの役になり、実質は部署が決めている状態です。このとき台帳には会社の名前が並びますが、条件が変わっても窓口は読まず、更新の可否も部署の言うとおりになります。もう1つは、台帳が更新されない状態です。申し込んだときだけ記録され、その後の利用者の増減も、途中で変わった条件も反映されません。台帳が古くなった瞬間に、この形は②と同じものになります。

形骸化を防ぐ条件は1つで、窓口が実際に押せる権限を持っていることです。管理画面に窓口の口があり、部署の申し出が無くても止められる状態にしておく。押す場面が年に1度も来なくてもかまいません。押せる状態を保っていること自体が、この置き方の中身です。あわせて、窓口が読む条件と部署が読む条件を分けておくと、実務が回ります。窓口は解約の申し出の期限と料金の条件を、部署は入れてよい情報の範囲と使ってよい人の範囲を読む、といった分け方です。

解約と停止は、別々の権限として置く

名義を決めたら、次に決めるのが押す権限です。ここで多くの会社が1つにまとめてしまうのですが、「やめる」と「いますぐ止める」は別の操作であり、必要になる速さも、必要になる理由もまったく違います。やめるのは契約を終える手続きで、費用と期日の話です。いますぐ止めるのは、情報が出ていきそうなときや、条件に反する使われ方が見つかったときに、その場で使えなくする操作です。この2つを同じ人の同じ承認の列に置くと、どちらも遅れます。

やめる側には期日の制約があります。自動で更新される条件が付いている契約では、解約の申し出の期限が満了の1か月前から3か月前のあいだに置かれていることが一般的です。中途で解約できるのか、できるとして申し出の期限はいつか、違約金や残りの期間分の支払いが要るのかは、契約ごとに確認する項目として挙げられています。つまり、やめる権限を持つ人は、更新日から逆算した判断の期日を自分の予定として持っている人でなければ意味がありません。

止める側に必要なのは速さです。押せる人を名前で2人以上決め、夜間や休日に誰が押すのか、押した後に誰へ知らせるのかまでを一緒に書きます。ここで押す基準そのもの(どんなときに止めるか)は別の決めごとですが、押せる人を用意しておくことは名義を決める側の仕事です。基準だけ立派に作っても、押せる人が社内にいなければ何も起きません。

押せる人を置いたら、押した後のことも同じ行に書き足します。誰に知らせるか、いつ元に戻すかを判断するのは誰か、止めているあいだ現場の仕事をどう回すか、の3つです。とくに3つ目を決めていないと、止めた瞬間に業務が動かなくなるため、押すことをためらう空気が生まれます。止めた後に使える代わりの手順が用意されているかどうかが、実際に押せるかどうかを左右します。あわせて、押した記録は必ず残します。いつ、誰が、何を理由に止めたのかを1行残しておくと、再開の判断が速くなり、同じことが起きたときに一から議論せずに済みます。

押せる人が消える日を、先に織り込む

押せる人は、いつか必ずいなくなります。異動、退職、長期の休み。このうち退職については、退職時のアカウントの削除を「最も手間のかかる業務」に挙げた企業が半数を超えるという調査結果があります。手間がかかるということは、抜け漏れも起きるということです。名義と権限を決めるときは、決める時点で「この人が来月いなくなったら誰が押すか」まで書いておかないと、同じ作業を毎回やり直すことになります。

引き継ぐのは肩書きではなく、押せる状態そのものです。確かめる先は4つあります。管理者として登録された口が2つ以上あるか。連絡先として登録されているメールが個人宛てになっていないか。支払いに使っているカードが本人の名義でないか。二段階の確認の受け取り先が、本人の端末だけになっていないか。このうち1つでも本人に紐づいたままだと、名義を会社に移しても押せません。最後の受け取り先は特に見落とされやすく、名義だけ移して安心してしまう原因になります。

運用に落とすなら、異動と退職の手続きの中に1行足すのがいちばん確実です。最終出社日の前に、その人が押せる契約の一覧を出し、押せる人を移してから席を止める。順番を逆にすると、席を止めた時点で管理画面に入れなくなり、外部に連絡して手続きをやり直すことになります。席を止めるのはいちばん最後、という順番だけでも決めておく価値があります。

名義と権限を決める5工程

ここまでの内容を、実際に手を動かす順番に並べます。すでに何本か契約が走っている会社を前提にした順番です。まだ1本も契約していないのであれば、工程2から始めて、工程1は年に1度の確認として持てば足ります。

STEP1
いま誰の名前で何が契約されているかを集める

道具の名前だけでなく、契約の当事者が誰か、支払いがどの経路で出ているか、管理者の口が誰にあるかまでを1枚に集めます。ここが埋まらないと、以降の工程はすべて推測になります。

STEP2
名義の置き方を1つに決める

3通りのうちどれを自社の既定にするかを決めます。例外を認めるなら、例外にできる条件(金額、扱う情報、期間)も同時に書きます。決めないまま併存させると、結局②になります。

STEP3
既存の契約を寄せる順番を決める

全部を一度に寄せません。更新日、利用者の数、溜まっているデータの量の3つで順番を付け、1件ずつ動かします。順番の付け方は次の章で扱います。

STEP4
追加・削除・解約を押せる人を名前で書く

役職ではなく個人の名前で書きます。やめるための解約と、いますぐ使えなくする停止を分けて、それぞれに2人以上を置きます。代わりに押す人も同じ行に書きます。

STEP5
更新の期日を台帳に載せる

満了日ではなく、判断を締め切る日を載せます。解約の申し出の期限から逆算して、社内で決める時間を足した日付です。誰に、いつ知らせるかまで決めて初めて機能します。

この5つのうち、飛ばされやすいのが工程4です。名義を会社に寄せたところで安心してしまい、押せる人を書かないまま運用が始まります。ところが実際に困るのは、止めたいときに誰も押せない場面です。名義は入口の話、権限は出口の話で、必要になるのは出口のほうだと考えておくと、工程4を落とさずに済みます。

工程1と工程3の実務——契約の拾い方と、寄せる順番

工程1で契約を拾う一番確実な方法は、経理から請求書とカードの明細をもらうことです。社内に聞いて回る方法は、答えてもらえた分しか集まりません。お金は必ずどこかを通るので、明細のほうが取りこぼしが少なくなります。集めたものを台帳にするときの項目は、一般的な契約管理ではサービス名・契約期間・更新期限・担当部門・支払額・利用者の数の6つが最低限とされています。名義の話をするなら、ここに2欄を足します。契約の当事者の氏名と、解約を押せる人の氏名です。

明細からも拾えないものが4種類あります。無料の枠から始まって、まだ支払いが発生していないもの。年に1回だけ請求が立つもの。個人が立て替えて、経費の精算の中に紛れているもの。そして、別の道具に後から付いてきたAIの機能です。最後の1つは契約が増えたようには見えないので、台帳に載りません。この4種類は明細ではなく、部署への聞き取りでしか出てきません。明細で骨組みを作り、聞き取りで4種類を足す、という二段構えにすると漏れが減ります。

工程3の寄せる順番は、3つの物差しで決まります。更新日が近いものから(次の更新の機会に切り替えられるため)、利用者が少ないものから(影響を受ける人が少ないため)、溜まっているデータが少ないものから(移す作業が軽いため)。この3つが一致する契約が、最初に動かすべき1件です。一致しない場合は、更新日を優先します。期日は動かせませんが、他の2つは待てるからです。

一度に全部を寄せない理由は、失敗したときに戻せる幅を残すためです。1件ずつ動かせば、移した先で使い勝手が落ちたときに、次の1件を止めて考え直せます。まとめて動かすと、問題が出た時点で全社が同時に困ります。最初の1件を動かし終えたら、そこで分かったこと(移せなかったもの、必要だった日数、現場から出た苦情)を次の1件の段取りに足してから進みます。

乱立したまま寄せるときに、実際に起きること

部署ごとの契約が何本も走っている状態から名義を寄せると、想定していなかった壁に当たります。最初に出てくるのが、データが移せないという壁です。契約を切り替えるとき、これまでの履歴、設定、作り込んだ指示、共有されている資料が、新しい契約にそのまま持っていけるとは限りません。契約の確認項目としても、終了時にデータを取り出せるか、どの形式で出てくるかは先に見るべき点として挙げられています。取り出せても、表計算で開ける形でしか出てこなければ、移した先で使える状態に戻す作業が別に要ります。

次が費用の壁です。契約を1本にまとめれば、更新の時期を揃えることでまとめた分の条件を引き出せる場合があります。一方で、期の途中で解約したときに払った分が戻らない、残りの期間分の支払い義務が残る、といった条件が付いていることもあります。寄せたほうが安い、が常に成り立つわけではありません。寄せる前に、いま走っている契約の残りの期間と、途中でやめたときの扱いを1本ずつ確認します。最も安く寄せられる日は、たいてい各契約の更新日の直前にあります

3つ目が現場の壁です。寄せた先の道具で機能が減ると、部署の仕事のやり方が変わります。ここで「全社方針だから」とだけ伝えると、表向きは従いながら別のところで使い続ける、という形になりがちです。統合の実務では、廃止ではなく移行として伝え、代わりの手段を先に示すことが勧められています。移行の空白期間をどれだけ短くできるか、その間の代わりの手順を用意できるかが、寄せ切れるかどうかの分かれ目になります。

やってはいけない契約の仕方

ここまでの内容を裏返すと、避けるべき契約の仕方が並びます。どれも、その場では最も手早い方法に見えるところが共通しています。

  • 個人のカードで申し込んで経費で精算する:会社の契約にならないまま費用だけ会社に付き、止める権限は個人に残る
  • 管理者の口を1つしか作らない:その人が休んだ日から、利用者を増やすことも減らすこともできなくなる
  • 登録する連絡先を個人のメールにする:条件の変更も更新の知らせも会社に届かず、気づいたときには適用済みになっている
  • 無料の枠だからと台帳に載せない:有料に切り替わった日も、条件が変わった日も、誰も追えない
  • 名義だけ会社に移して権限を移さない:請求先は会社、押せるのは前の担当者のまま、という最も気づきにくい形になる
  • 解約の申し出の期限を台帳に持たない:やめると決めた月には、すでに次の期間分が確定している

6つに共通しているのは、契約を「買う手続き」としてだけ見て、終わらせ方を見ていないことです。買うときは相手が手伝ってくれますが、終わらせるときは自社でやることになります。入口の手間を減らした分だけ、出口の手間が増えるという関係を、申し込む前に知っておくかどうかの差になります。

AIに任せてよい作業と、人が決める2つ

この作業にはAIが効く場面があります。1つ目が、工程1の台帳の突き合わせです。経理からもらった明細と、部署から集めた一覧と、管理画面から出した利用者の一覧は、表記が揃いません。同じ道具が別の名前で3行に分かれていたり、支払いの名義が提供元ではなく決済の代行会社になっていたりします。この表記の揺れを寄せて、同じものを1行にまとめ、どこにも当たらない行を抜き出す作業は、量が多いほどAIに向きます。出てきた結果は、突き合わせの根拠になった行を一緒に出させて、人が目で確かめます。

2つ目が、条件の差分の読み下ろしです。改定の前と後の文面を並べて、変わった箇所を業務の言葉に直させる。「入力したものの保存期間」「使ってよい人の範囲」「解約の申し出の期限」といった、自社が気にする項目を先に渡しておくと、関係する箇所だけを拾えます。ただし、変わっていないものを変わったと言う、あるいは逆を言う誤りは起きます。どの条項を根拠にしたかを必ず出させ、原文にあたるのは人の仕事として残します。読む量を減らす道具であって、読まなくてよくなる道具ではありません。

逆に、AIに決めさせてはいけないものが2つあります。名義をどこに置くかと、解約と停止を誰が押せるようにするかです。どちらも自社の体制と、止める必要が出たときの速さと、部署との力関係で決まるもので、一般論から導ける答えがありません。AIには材料を並べさせ、置き場所と押せる人は名前で人が決める。この線を先に引いておくと、便利さに押されて判断まで預けてしまう事故を避けられます。

まとめ

AIの道具の契約名義を決めるとは、その道具を止められる人を、契約する前に決めておくことです。名義を決めれば、支払いの経路、利用者の増減、データの持ち主、条件に同意した主体、押せる人、証跡の出どころの6つが一緒に決まります。置き方は全社でまとめる・部署ごとに持つ・窓口を1つ置くの3通りで、選ぶ基準は規模と部署の数と止める速さです。そして名義とは別に、やめるための解約と、いますぐ使えなくする停止を、名前を書いた2人以上に持たせます。まずは経理から請求とカードの明細をもらい、いま誰の名前で何が走っているかを1枚にするところから始めてみてください。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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