権利者が分からない写真は使える?|新しい裁定の仕組み

創業50年の記念誌を作ることになった。倉庫から出てきた段ボールに、工場の落成式の写真が入っている。撮ったのは当時の取引先のカメラマンらしい。会社名は分かるが、その会社はもう存在しない。この写真は使えるのか、という問いが必ず出てきます。この記事では、2026年4月に始まった新しい仕組みと、使う前に必要な手順を整理します。
カメ先生権利者に連絡がつかない写真を、記念誌に載せたいと相談されたらどう答えますか。
カメ子権利者が分からないなら使えない、と答えていました。他に道はありますか。
カメ先生2026年4月から、意思が確認できない場合に使える新しい仕組みが動き始めました。
カメ子使えない前提で企画から外していた素材が、使えるかもしれないということですね。
- 2026年4月1日から、意思が確認できない著作物を使える新しい裁定が始まった
- 文化庁長官の裁定と補償金の納付を条件に、3年を上限として使える
- 使う前に、権利者を探す努力と、その記録を残すことが前提になる
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倉庫から出てきた40年前の写真
この問題は、特定の業務で必ず立ち上がります。社史や記念誌の制作、周年の企画、工場や店舗の歴史をまとめた展示。古い素材を扱う仕事では、権利者の所在が分からないものが必ず混ざります。撮影者が個人で、既に亡くなっている場合。制作を請け負った会社が解散している場合。資料に撮影者の記録がない場合。
従来の実務では、こうした素材は諦めるのが基本でした。使ってしまえば後から権利者が現れる可能性があり、その危険を抱えるより企画から外すほうが安全だという判断です。結果として、残っているのに使われない資料が倉庫に眠り続けます。
この状況には、社会的な損失もあります。歴史的な価値がある写真や文書が誰にも見られないまま劣化していく。権利を守るための仕組みが、結果として文化の継承を止めているという指摘は以前からありました。
そこで用意されたのが、権利者の意思が確認できない場合に一定の条件で使えるようにする仕組みです。従来からある仕組みを補う形で、2026年4月1日から動き始めました。法人の広報やコンテンツの制作に関わる立場なら、知っておく価値があります。
権利者が分からないと使えないのが原則
前提を確認します。他人が作った写真や文章を自社の媒体で使うには、原則として権利者の許諾が必要です。許諾を得られなければ使えない、という原則は変わっていません。新しい仕組みはこの原則を崩すものではなく、例外的な道を手続として用意したものです。
許諾が得られない状況には、いくつかの型があります。権利者が誰か分からない、誰かは分かるが連絡先が分からない、連絡はついたが返事が来ない。この三つ目が、実務では最も多く、そして最も扱いに困る型です。
連絡がついたのに返事が来ない場合、許諾があるともないとも言えません。待ち続けるしかない状態が、制作の予定を止めます。記念誌には締切があり、展示には開催日があります。この行き詰まりに対する答えが求められていました。
なお、許諾が不要な場合もあります。権利の保護の期間が過ぎているもの、引用の要件を満たす使い方、権利者が自由な利用を認めているもの。新しい仕組みを検討する前に、これらに当たらないかを先に確かめてください。当たるなら、手続は要りません。
保護の期間については、作った人が亡くなってから一定の期間が過ぎているかどうかで判断します。期間は法改正で延長されてきており、作られた時期によって適用される規定が違います。古い素材だから期間が過ぎているはず、という思い込みは危険です。個別に確かめてください。
2026年4月に始まった新しい裁定
本題に入ります。令和5年の著作権法の改正で、新しい裁定の仕組みが作られました。公布は2023年5月26日、施行は2026年4月1日です。準備に時間がかかったのは、運用の仕組みを作る必要があったためです。
仕組みの骨格はこうです。対象となる著作物について、利用の可否に関する権利者の意思が確認できない場合に、補償金を納めることなどを条件として文化庁長官の裁定を受ける。裁定を受ければ、定められた範囲で利用できます。
利用できる期間には上限があります。3年が上限とされています。期間が区切られているのは、後から権利者が現れたときに話し合いの機会を確保するためです。永久に使えるようになる仕組みではありません。
根拠となる条文は著作権法の第67条の3です。手続の細部については、政令や規則、文化庁が出す案内で具体化される部分があります。実際に使う場面では、最新の案内を必ず確かめてください。この記事の整理は制度の考え方の紹介です。
対象になるのは「未管理公表著作物等」
対象の範囲には名前が付いています。「未管理公表著作物等」という呼び方です。漢字が並んでいて読みにくいのですが、分解すれば意味は取れます。公表されている著作物であって、権利の管理が行われていないものという意味合いです。
公表されているという条件は重要です。世に出ていないもの、たとえば個人が撮って誰にも見せていない写真は対象になりません。公表されたものを改めて使う場面を想定した仕組みです。
権利の管理が行われていないという条件も、実務では判断の要点になります。権利を集中して管理する団体に登録されている作品であれば、その団体に問い合わせれば許諾を得る道があります。管理されている作品は、この仕組みを使う必要がありません。
つまり、この仕組みが必要になるのは管理の仕組みから外れているものです。個人が撮った写真、地方の小さな会社が作った印刷物、記録として残された文書。法人の広報が扱う古い素材の多くは、この範囲に入る可能性があります。
従来の裁定制度との違い
紛らわしいのは、従来から別の裁定の仕組みがあることです。権利者が不明であるか存在しないことを前提として、長期の利用を可能にする仕組みです。こちらは以前から使われてきました。二つは目的が違います。
| 従来の裁定 | 新しい裁定(2026年4月から) | |
|---|---|---|
| 前提 | 権利者が不明または存在しない | 利用の可否についての意思が確認できない |
| 想定する場面 | 誰の作品か分からない | 誰の作品かは分かるが返事が得られない |
| 利用できる期間 | 長期の利用を想定 | 3年を上限とする |
| 位置づけ | 権利者を探しても見つからない場合 | 確認を試みても意思が分からない場合 |
この表の二行目が、実務で最も効く違いです。従来の仕組みは、権利者が分からない場合を想定していました。分かっているのに返事が来ないという状況には、うまく対応できませんでした。新しい仕組みはこの隙間を埋めます。
したがって、自社の状況がどちらに当たるかを先に見極める必要があります。撮影者が誰かまったく分からないのか、分かっているが連絡がつかないのか。分類が違えば使う仕組みも違います。どちらか迷う場合は、文化庁の案内で自社の状況に近い例を探してください。
3年という期間の意味
期間の上限は、使い方の設計に影響します。記念誌のように一度作って配るものであれば、3年で足りる場面が多いでしょう。しかし、自社のサイトに置き続ける、常設の展示に使う、といった使い方では期間の管理が必要になります。
期間が過ぎた後どうするかは、先に決めておくべきです。使用をやめるのか、改めて手続を取るのか。決めていないと、気づかないまま期限を過ぎた状態で公開が続くことになります。
実務としては、使用の記録に期限を書き込んでおきます。素材の管理の表に裁定を受けた日と期限の日を並べて記録する。年に一度、期限が近い素材を確かめる。この管理があれば、うっかり超えることはありません。
なお、期間の途中で権利者が現れた場合の扱いは、制度の中で定められています。この点も含めて、実際に手続を取る際には文化庁の案内と自社の顧問の専門家に確かめてください。判断の分かれる部分を自己流で進めるのは避けたいところです。
補償金という条件
この仕組みを使うには、補償金を納めることなどが条件になります。無料で使えるようになるわけではありません。権利者が後から現れたときに受け取れる金額を、先に預ける形です。
金額の水準は、通常の利用の対価を参考に定められる考え方です。つまり、許諾を得て使う場合と極端に有利になるものではありません。手続の手間も加わるため、許諾が得られるならそちらのほうが早くて安い場面も多いでしょう。
この点は、企画の予算に影響します。素材の使用料と手続の費用を、制作費に見込んでおく必要があります。見込んでいないと、後から追加の予算を申請することになります。点数が多い場合は、総額が大きくなります。
だからこそ、使う素材の点数を絞る判断も重要になります。記念誌に載せたい写真が50点あるとして、権利の確認が必要なものが20点。そのうち本当に載せたいものは何点か。企画の段階で優先順位を付ければ、手続の量も費用も現実的な範囲に収まります。
使う前にやるべき探索
この仕組みを使う前提として、権利者を探す努力が求められます。探さずに「分からないから使う」という進め方はできません。どこまで探したかが、手続の中で問われます。
裏面の記載、押印、袋や台紙の印刷、同封されていた書類を確かめます。撮影者や制作会社の名前が残っていることがあります。
当時の発注の記録、支払いの記録、契約書を探します。経理の保管や、退職者が残した資料に手がかりが残っている場合があります。
当時を知る社員やその関係者、取引先に尋ねます。口頭の情報でも、次の手がかりにつながることがあります。
撮影者の名前が分かれば、団体への登録や活動の記録を調べます。会社であれば、法人の登記や承継先の情報を確かめます。
この四つを行っても意思が確認できない場合に、手続の検討に進みます。順番を飛ばすと、手続そのものが認められないことがあります。急いでいる企画ほど、この工程を早い段階で始めておくべきです。
探索の記録を残す
探した事実は、記録として残します。口頭で聞いた、電話をかけた、手紙を送った。いつ、誰に、どのような方法で連絡を試み、どうなったかを一件ずつ書きます。
形式は表で十分です。素材の番号、推定される権利者、連絡を試みた日、方法、結果。この五列があれば、後から誰が見ても経過が追えます。担当が代わっても同じ相手に何度も連絡する事故が防げます。
記録は、手続のためだけではありません。後から権利者が現れたときに、誠実に探した証拠になります。何もしていない場合と、記録を示せる場合では、相手の受け取り方がまったく違います。
送った手紙の控えや、返送された封筒も捨てずに保管します。宛先不明で戻ってきた封筒は、連絡がつかないことの分かりやすい記録になります。電子の記録だけでなく、紙も一緒に案件のフォルダに入れておいてください。
見つかった場合は交渉に戻る
探索の途中で権利者が見つかることもあります。その場合は、手続ではなく交渉に戻ります。許諾が得られるなら、それがいちばん早くて確実です。
交渉のときの伝え方には、工夫の余地があります。使いたい理由、使う範囲、期間、対価。この四つを最初のメールに書いておくと、相手が判断しやすくなります。「使わせてください」だけだと、相手は何を答えればよいか分かりません。
古い素材の場合、権利者の側も自分が権利を持っていることを意識していないことがあります。丁寧に事情を説明すれば、快く認めてもらえる場面は少なくありません。掲載時に撮影者の名前を入れることを提案すると、話が進みやすくなります。
断られた場合は、その素材を使わない判断になります。意思が確認できない場合の仕組みは、断られた場合には使えません。「返事が来ない」と「断られた」はまったく違う状況です。ここを混同しないでください。
社史・記念誌でよく起きる場面
実際の企画で起きる場面を並べておきます。最も多いのは、創業期の写真です。撮影者の記録がなく、社内の誰が撮ったかも分からない。この場合、自社の社員が業務として撮った可能性があります。そうであれば自社に権利がある場合もあります。
次に多いのが、地元の新聞や業界紙に載った記事の切り抜きです。これは新聞社に権利があるため、その社に問い合わせる道があります。会社が存続していれば連絡は付きます。この種の素材は、意思が確認できない状況になりにくいものです。
扱いに困るのは、取引先や関係者から提供された写真です。誰が撮ったのか、提供した人自身も知らないことがあります。提供された経緯を確かめ、撮影者にたどり着けるかを試すことになります。
あわせて、自社に権利があるかどうかの整理も同時に進めます。社員が業務として作ったものは、条件を満たせば会社が権利を持つ場合があります。この整理ができれば、手続が必要な素材の数は大きく減る可能性があります。
退職者が作った資料の扱い
前の節に関連する論点です。退職した社員が作った資料は誰のものか。業務として作られたものであれば、一定の条件のもとで会社が権利を持つ場合があります。この条件には、職務として作成されたことなどが含まれます。
問題になりやすいのは、境目が曖昧な場合です。業務時間外に作った、個人の趣味の要素が強い、自宅の機材で撮った。こうした事情があると、会社のものだと言い切れないことがあります。
実務としては、これから作るものについて先に決めておくのが確実です。写真や図の制作を依頼する際に、権利の帰属を契約や指示書に書いておく。過去のものは探索と確認になりますが、未来のものは設計で防げます。
外部に依頼する場合も同じです。撮影を頼むとき、図の制作を頼むとき、納品されたものをどの範囲で使えるのかを書面で決めておきます。10年後に記念誌を作る担当者がこの記録に助けられます。
写真に写っている人の権利は別
見落とされやすい点を押さえておきます。著作権の整理が済んでも、写真に写っている人については別の配慮が必要です。肖像に関する権利は、撮影者の権利とは別の問題です。
古い写真の場合、写っている人に連絡を取ることはほぼ不可能です。この場合の判断は、写り方と使う文脈によります。大勢が写った式典の風景か、個人が中心に写った写真か。
実務では、個人が特定できる形で中心に写っている写真は扱いを慎重にします。式典の全景や、後ろ姿、遠景であれば問題になりにくいでしょう。判断に迷う場合は、別の写真に差し替えるのが現実的な選択です。
社員が写っている場合は、在籍している人には確認を取ります。退職した人については、連絡が取れるなら確認する。取れない場合は、写り方を見て判断します。この整理も記録に残しておくと、後から問われたときに説明ができます。
掲載の後に写っている本人から連絡が来る場合もあります。その場合の対応も先に決めておきます。求めがあれば速やかに差し替えるか削除する、という方針を持っておけば揉めません。増刷の予定がある印刷物では、次の刷りで差し替える形になります。電子の版であればすぐに直せます。
この観点から、記念誌のような印刷物では電子の版も同時に作っておく価値があります。紙は直せませんが、電子であれば対応できます。問い合わせの窓口を巻末に載せておくことも、誠実な姿勢を示す手立てになります。
企画の日程と予算にどう織り込むか
制度を知っていても、日程に織り込んでいなければ使えません。探索に数週間、手続にさらに時間がかかります。記念誌の校了の1か月前に気づいても間に合いません。企画が立った時点で、権利の確認を工程表に入れておく必要があります。
工程の組み方としては、素材の選定を早い段階で終わらせます。候補を広く集めてから絞るのではなく、早めに候補を確定し、権利の状態で三つに分ける。自社のもの、許諾を取れるもの、確認が必要なもの。三つ目に時間を割り当てます。
予算では、素材の使用料、手続の費用、そして差し替えの予備費を見込みます。確認が間に合わなかった素材を別の素材に差し替える場合、撮影や作図の費用が追加で必要になることがあります。予備費がないと、紙面が埋まりません。
差し替えの候補も先に用意しておきます。確認が必要な素材ごとに、代わりに使える素材を一つ決めておく。この備えがあると、締切の直前に慌てません。使えなかった素材は次の機会に持ち越せます。一度の企画で全部を解決しようとしないことも大切です。
外部の制作会社に任せている場合は、権利の確認をどちらが行うのかを決めます。制作会社が行う前提であっても、最終の責任は発行する側に残ります。確認の記録を自社にも共有してもらう形にしておけば、後から問われたときに説明ができます。
これから作るものへの備え
最後に、将来の担当者を助ける話をします。今回の問題は、40年前に権利の記録を残さなかったことから生じています。同じことを、今の自社が繰り返していないかを確かめる価値があります。
備えは三つです。一つ、外部に依頼して作ったものは権利の範囲を書面で残す。二つ、素材の管理の表に撮影者と制作者を記録する。三つ、素材の原本を会社として管理する場所に置く。
この三つを守るだけで、10年後、20年後の担当者は手続に悩まなくなります。記録を残す手間は数分ですが、残さなかった代償は数十時間になります。今日から始められる備えです。
あわせて、古い素材の整理も少しずつ進めます。倉庫の段ボールを開け、何があるかの一覧を作る。権利が明らかなもの、確認が必要なもの、自社のものと思われるもの。この分類ができていれば、次に企画が立ったときにすぐ動けます。
確認項目
実務で使える形にまとめておきます。古い素材を使う企画が立ったら、上から順に確かめてください。
- その素材は、権利の保護の期間が過ぎていないか
- 自社の社員が業務として作ったもので、自社に権利がある可能性はないか
- 権利を管理する団体に登録されている作品ではないか
- 素材そのもの、社内の記録、当事者、公開情報の四つを調べたか
- 連絡を試みた日・方法・結果を一件ずつ記録しているか
- 権利者が見つかった場合は、交渉に戻る前提になっているか
- 使う期間と、期限が来たときの扱いを決めているか
- 写っている人についての配慮を、別に検討したか
- 探す努力をせずに、分からないから使うと判断する
- 返事が来ないことと、断られたことを同じ扱いにする
- 手続の費用と使用料を制作費に見込まず、後から予算を追加する
- 利用できる期間を記録せず、期限を過ぎたまま公開を続ける
- 著作権の整理だけを済ませ、写っている人への配慮を忘れる
- この記事は制度の考え方の紹介であり、個別の判断に代わるものではない
- 手続の詳細は政令や規則、文化庁の案内で具体化される。実施の前に確かめる
- 判断が分かれる場面では、顧問の弁護士に確認してから進める
まとめ
他人が作った素材を使うには許諾が必要という原則は変わりません。しかし、誰の作品かは分かるのに返事が得られないという行き詰まりに対して、2026年4月1日から新しい裁定の仕組みが動き始めました。文化庁長官の裁定と補償金を条件に、3年を上限として使えます。
使う前に必要なのは、探す努力とその記録です。素材そのもの、社内の記録、当事者、公開情報の四つを調べ、連絡を試みた経過を一件ずつ残す。見つかったら交渉に戻り、断られたなら使わない。そして、これから作るものについては権利の記録を残しておく。手続の詳細は文化庁の案内で確かめてください。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
AIの導入・活用、何から始めるべきかお悩みですか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
