AIのベンダー選定で見る7項目|機能より先に契約を見る

「機能の比較表は作ったのですが、これで決めていいのか分かりません」「見積りは出てきたけれど、何を聞き返せばいいのか思いつかない」——AIの発注が最後の一歩で止まるとき、たいていこの2つのどちらかです。実は、確かめるべきことの多くは国の指針の側に書かれています。総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン(第1.1版、2025年3月28日)は、責任について「主体間の契約」等により「責任の所在を明確化する」と書き、提供する側が利用する側へ渡すべき情報として、学習するデータの集め方や実施体制、更新した内容とその理由、不具合の原因と対応状況などを名指しで並べています。つまり選定で読むのは機能の優劣ではなく、相手が何を約束できるかです。この記事では、発注前に相手の側を確かめる7項目と、そのまま送れる確認シートの形までを整理します。
カメ先生AIのベンダー選定って、どのモデルが賢いかを比べる作業だと思われがちなんだけど、本当は「何かが起きたとき誰が責任を持つか」を読む作業なんだ。
カメ子モデルの性能は決め手にならない、ということですか。
カメ先生決め手にはなりにくいね。性能の順位は半年で入れ替わるけれど、契約に書いた条項はそのまま残る。残るほうを先に読むのが順番として合っているんだ。
カメ子変わりにくいところから見る、という考え方なんですね。
- 確かめる相手は機能ではなく提供する会社。国の指針が「提供側が渡すべき情報」を列挙しているので、それを契約の言葉に置き換えれば項目は決まる
- 7項目は、学習と保存/再委託の範囲/漏れたときの連絡/出力の権利と責任/止まったときの扱い/監査と証跡/料金の形
- 答えは言葉ではなく数字と期間で受け取る。「速やかに」「柔軟に対応」は条件ではないので、時間・日数・回数に置き換えてもらう
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機能の比較で決まらないのは、指針の側に理由が書いてある
先に土台を1つだけ置きます。AI事業者ガイドラインは、関わる人を3つに分けて整理しています。AIを作る側、それに付加価値を加えて提供する側、そして使う側です。ここで大事なのは提供する側の定義で、指針は「AI開発者が開発するAIシステムに付加価値を加えてAIシステム・サービスをAI利用者に提供する役割」と書いています。つまり多くの案件で、目の前の発注先は作り手ではなく中間にいます。この一行が、以下の7項目のうち3つの理由になります。
同じ指針は、責任の扱いについても踏み込んでいます。アカウンタビリティの項に「関係者間の責任の分配」という見出しがあり、関係者間の責任について「主体間の契約、社会的な約束(ボランタリーコミットメント)等により、責任の所在を明確化する」と書かれています。責任は技術で決まるのではなく契約で決まる、と指針の側が言っているわけです。機能より先に契約を見る根拠は、ここにあります。
そして提供する側が利用する側へ渡すべき情報として、指針は6つを列挙しています。AIを使っているという事実と使ってよい範囲、技術的な特性と予見できるリスクとその緩和策、学習などによって出力や動きが変わる可能性、動作状況や不具合の原因と対応状況、更新したときの内容とその理由、そして学習するデータの集め方と学習方法と実施体制です。この6つは、発注前に聞いてよいことの一覧としてそのまま使えます。聞きにくいことを聞いているのではなく、指針が渡すべきだと書いている情報を求めているだけだと考えると、質問の出しやすさが変わります。
この記事では、その6つを契約の言葉に置き換えて7項目にしました。列挙が6つなのに項目が7つになる理由は料金です。指針は費用について触れませんが、AIの契約では実行するほど請求が増える形が主流で、ここを詰めずに始めた案件がいちばん揉めます。なお機能が統合型か単機能かという判断軸、内製と外部依頼のどちらで進めるかという体制の話、費用そのものの棚卸しは、それぞれ別の記事に整理しています。ここでは扱いません。
7項目の全体像
先に一覧を出します。左が項目、中央が確かめること、右が確認しないまま契約したときに実際に起きることです。右の列が発注前の説明材料になります。確認を省いた分は、後から時間か費用か説明責任のどれかで請求されます。
| 項目 | 確かめること | 確認しないまま契約すると |
|---|---|---|
| 1 学習と保存 | 入力が学習に使われるか、保存は何日か、置かれる場所はどこか | 社内規程に照らすと使えない設定のまま運用が始まる |
| 2 再委託の範囲 | 裏にいる提供元と地域、変わるときの通知 | 契約相手ではない会社の都合で寿命と条件が変わる |
| 3 漏れたときの連絡 | 一次連絡までの時間、含める内容、休日の窓口 | 法の報告期限に間に合わず、自社が説明できない |
| 4 出力の権利と責任 | 権利の帰属、守ってもらえる条件と除外、責任の上限 | 権利を主張されたときに、守られる条件を満たしていない |
| 5 止まったときの扱い | 通知の期間、代替の提示、移行と持ち出し | 更新で出力が変わる、または期限で動かなくなる |
| 6 監査と証跡 | 出せる文書、説明の場、記録の保存期間 | 社内監査や取引先の調査に答える材料が手元にない |
| 7 料金の形 | 従量か予約か、上限に当たったときの扱い、改定の通知 | 処理する件数が同じでも請求が数倍になる |
順番にも意味があります。1から3は情報の扱いなので、社内規程との照合が要ります。4から6は事故と検証の話で、法務と監査の担当が読む部分です。7は財務が読みます。7項目を1人で抱えると必ず抜けが出るので、最初に読む人を割り振ってから質問を送ります。所要は、質問を送ってから回答を読み合わせるまでで2週間から3週間を見ておくと無理がありません。
項目1:入力したデータの学習利用と、保存される場所
最初の項目です。「学習には使いません」という一文で安心してしまう場面が多いのですが、この言葉は少なくとも4つの別の約束を含んでいます。学習に使わない、そもそも保存しない、保存はするが不正利用の監視だけに使う、申請すれば保存をゼロにできる。学習に使わないと、保存しないは別の約束です。片方だけ確認して契約すると、社内規程には触れていないのに監査で説明できない状態になります。
2026年7月に主要な提供元の一次情報を当たって整理された比較を見ると、実務の相場が分かります。企業向けの呼び出しでは、入力と出力を学習に使わないことが既定になっている提供元が主流です。そのうえで不正利用の監視のために最大30日保存する形が広く採られており、保存をゼロにする扱いは申請と承認が必要で、組織単位やプロジェクト単位に付きます。ここまでは横並びに近いので、比較の軸にはなりません。
差が出るのは例外の側です。同じ比較では、保存ゼロにしても対象から外れる機能が挙げられています。会話をためておく仕組み、助手のような仕組み、ファイルを預ける仕組みは対象外になる例があり、画像を作る系統の一部は保存ゼロにできない、検索と組み合わせる機能のログは30日保存で断れない、常時やり取りする仕組みは24時間残る、といった具合です。自社が使いたい機能が、ちょうどその例外に入っていないかを機能名で確かめます。
無償の枠と有償の枠で既定が逆になる例もあります。国内の提供元でも、無償の枠は学習に使い有償の標準の枠は使わない、という分け方が見られます。別の提供元は既定で学習に使い、断ることはできるものの過去にさかのぼらないと書かれています。設定を変えても、それより前に入れた分は戻りません。試用の期間に本番のデータを入れてしまう事故は、この非遡及の一行で取り返しがつかなくなります。
保存される場所も同じ項目で確かめます。ある基盤の公開文書では、置き方が3つに分かれています。もっとも広い範囲で使える形、処理を決められた地理的な境界の内側にとどめる形、そして特定の地域だけで動かす形です。政府機関向けの環境ではもっとも広い形は使えないとも書かれています。指針の脚注も、AIを提供する側と使う側の所在地、学習を行う機械の所在地に応じて準拠する法が変わると注意しています。置き場所は性能や待ち時間との交換条件なので、決めるのは情報システム部門だけでなく法務も含めた場になります。
- 聞き方は1問にせず5問に割る。学習に使うか/保存するか/保存するなら何日か/保存ゼロにできるか/その対象外になる機能はどれか
- 答えは画面の設定名まで書いてもらう。設定で消せるのか、契約書の付属文書で約束されるのかを区別する
- 断る設定が過去にさかのぼるかを確かめる。さかのぼらない場合は、試用に入れてよいデータの範囲を先に決める
- 指針は、法令で定められていなくても関係者間の契約でデータの利用が禁止される場合があると注意している。他社から預かったデータを入れる予定があるなら、その契約も併せて読む
項目2:再委託と、その先にいる会社の範囲
2つ目は、契約相手の裏側です。指針が提供する側を「作り手が開発したものに付加価値を加えて提供する役割」と定義しているとおり、AIの案件では発注先の後ろに別の会社が並んでいることが普通です。基盤を貸す会社、モデルを作る会社、周辺の道具を売る会社、そして運用を受ける会社。この並びのどこかが条件を変えると、契約書を1文字も直していないのに実態が変わります。
実際に公開されている例で見ると分かりやすいです。ある基盤の公式文書には、自社が売っているモデルは正式提供の開始から18か月の寿命だが、他社から預かって並べているモデルは12か月の寿命に従うと書かれています。同じ画面から同じ手順で呼べるのに、寿命が6か月違うわけです。いつまで使えるかは、契約相手の寿命ではなく、その裏にいる会社の都合で決まります。この一行を知らずに3年の予算を組むと、途中で作り直しが入ります。
確かめることは4つです。裏にいる提供元と処理が行われる地域の一覧を出せるか。その一覧が変わるときに事前の通知があるか、通知の期間は何日か。自社が結んだ条件、たとえば学習に使わない、保存は何日、漏れたら何時間で連絡する、が下流の会社にも同じ内容で流れているか。そして、下流の会社が条件を守らなかったときに責任を負うのは誰か。3つ目が背中合わせの契約と呼ばれる部分で、ここが抜けていると自社の約束だけが空回りします。
言葉の使い分けにも注意が要ります。「当社のデータセンターで処理します」と「当社が処理します」は違う話です。前者は場所の説明で、実際に処理する会社が別なのかは何も言っていません。運用の担当者が常駐するのか、遠隔で別会社が入るのかも分かれます。聞き方は「処理する会社と、その会社が置かれている国を、一覧で出してください」と場所ではなく主体を主語にします。なお、個人情報を外部に預けるときの管理そのものは別の記事に整理しているので、ここでは契約に書く範囲だけを扱います。
一覧が出てこないときの扱いも先に決めておきます。全部は出せないという回答は珍しくありません。その場合は、出せない理由が守秘なのか把握していないからなのかを分けます。把握していない場合は、事故が起きたときに原因を追う経路がないという意味になります。守秘が理由なら、種類と国だけを開示する、変更のときは通知する、という二段構えで折り合いをつけられます。
項目3:情報が漏れたときの連絡の義務と期限
3つ目は事故の連絡です。ここは自社側の期限が先に決まっているので、そこから逆算します。個人情報保護委員会が示している対応では、報告が必要になる類型が4つあり、要配慮個人情報を含む場合、財産的な被害のおそれがある場合、不正の目的によるおそれがある場合、そして本人の数が一定数を超える場合です。民間の事業者では1,000人を超える漏れが目安として示されています。
期限は2段になっています。速報は発覚した日から3日から5日以内、確報は発覚した日から30日以内で、不正な目的で行われたおそれがある場合は60日以内です。本人への通知が求められる類型もあります。ここで押さえたいのは、外部に任せて処理していた場合でも、この時計は自社の側で動くという点です。相手から連絡が来た時点から数えるわけではありません。
だから契約に書くのは、法の期限ではなく相手からの一次連絡の期限です。速やかにという言葉は、期限にはなりません。書き方を数字にします。発覚から何時間以内に一次連絡をするか、一次連絡に何を含めるか、原因の中間報告を何営業日以内に出すか、続報の頻度はどれくらいか、休日と夜間の窓口は誰か。指針も、提供する側は合理的な範囲で事故の事例を含む関連情報の共有を行うことが期待されると書いており、渡すべき情報の列挙にも動作状況や不具合の原因と対応状況が入っています。
逆算の目安を置きます。確報が発覚から30日なので、原因と影響範囲の確定に自社側で2週間はかかると見て、一次連絡は24時間以内、対象データと件数の一次的な特定は5営業日以内を線にすると間に合います。速報が3日から5日なので、一次連絡が3日後に来る契約では最初の報告に自社の判断材料がありません。時間の単位は日ではなく時間で書きます。
一次連絡に含める項目も先に決めます。何が起きたか、対象になったデータの種類、対象になった件数の見込み、原因の見立て、止めた措置、次の連絡の予定時刻。この6つで足ります。詳しい調査結果は後から来るもので、最初に要るのは自社が判断を始められる材料です。詳報を待つ設計にすると、待っているあいだに自社の期限が過ぎます。
項目4:出力の権利と、責任の分担
4つ目は、出てきたものの扱いです。まず権利の帰属を確かめます。主要な提供元では、生成された内容を顧客のデータとして扱い、出力にもとづく新しい知的財産権の所有を主張しないという立場が取られています。逆に言えば、そうでない規約も存在するということなので、確認は必要です。指針も、学習と利用に用いるデータや作られたモデルに関する権利関係は関係者間の契約で整理が必要になりうると書いています。
次が、第三者から権利を主張されたときに守ってもらえるかどうかです。2025年11月に3社の条件を並べた整理を見ると、内容と除外がはっきり書かれています。アマゾンのクラウドは、対象のサービスが生成した出力が第三者の知的財産権を侵害したと主張された場合に顧客を防御し、不利な最終判決や和解の金額を支払うと書いています。マイクロソフトは対象を有料の商用サービスに限り、無料や消費者向けは対象外です。グーグルは有償で一般提供されているサービスを対象にしています。
実務で効くのは除外の側です。3社に共通して並ぶのは、侵害する入力を自分で行った場合、安全のための仕組みを妨害したり無効にしたりした場合、規約に反した場合、そして商標に関する請求です。グーグルは出典の表示やフィルターや指示を無視・無効化・変更・回避した場合と、申し立ての通知を受けた後も同じ出力を使い続けた場合を挙げています。マイクロソフトは条件として、指示文に権利侵害を防ぐ文言を入れること、継続的な検証と報告を行うことを挙げています。つまり補償は守ってもらえる約束ではなく、条件を守っているあいだだけ効く約束です。
ここが運用側の宿題になります。安全のための仕組みを外して精度を上げるという運用は、守ってもらえる範囲を自分で捨てる行為です。フィルターを外した、指示文を書き換えた、出典の表示を止めた。どれも現場では性能改善のつもりで行われます。だから契約の読み合わせのときに、外してはいけない設定の一覧を運用の文書に写して残します。あわせて、申し立ての通知が来たときに該当の出力の利用を止める手順も決めます。通知後の継続使用は除外の理由に並んでいるからです。
責任の上限も同じ項目で扱います。金額の水準は契約ごとに違うので一般化はできませんが、詰めるべき論点は決まっています。上限の額はどう決まるのか、上限の外に置く範囲があるか、情報の漏れと権利の侵害はその外に置けるか。指針が「契約により責任の所在を明確化する」と書いているのは、この線引きのことです。なお著作権そのものの論点は別の記事に整理しているので、ここでは契約の読み方に絞ります。
項目5:止まったときの扱い。提供終了と仕様変更と移行
5つ目が、いちばん見落とされる項目です。サービスが終わるより先に、使っているモデルが終わります。ある基盤の公開文書(2026年7月更新)には時間の刻みがはっきり書かれています。正式提供が始まったモデルには、その時点で18か月後の提供終了日が機械的に設定される。12か月が過ぎると新しい顧客は使えなくなり、すでに使っている契約だけが残る。提供終了の約90日前から代替のモデルを試せるようになり、予約型で使っている地域では約30日前。提供終了日を過ぎた呼び出しは、もう存在しないという応答だけを返します。
通知の期間も書かれています。正式提供のモデルの提供終了は少なくとも60日前、試験提供のモデルは少なくとも30日前。試験提供のモデルはそもそも90日以内の提供終了日を持って登場し、代替へ強制的に切り替えられるか、代替なしで終わります。代替として案内されるモデルは、提供終了日の約90日から120日前に決まる、とも書かれています。サービスが終わる前に、モデルのほうが先に終わります。
| 時点 | 公開されている方針の内容 | 自社がしておくこと |
|---|---|---|
| 正式提供の開始 | その時点で18か月後の提供終了日が設定される | 採用したモデルと提供終了日を台帳に書く |
| 12か月後 | 新しい顧客は使えなくなり、既存の契約だけが残る | 後継の候補を1つ決め、切替の担当を置く |
| 約90日前 | 代替のモデルを従量の形で試せるようになる | 検証用の入力と期待値で結果を並べて比べる |
| 60日前 | 正式提供のモデルはこの時期までに通知が来る | 通知の受け取り先を担当者個人にしない |
| 約30日前 | 予約型で使っている地域でも代替を試せる | 予約型は自動で上がらないので移行日を決める |
| 提供終了日 | 呼び出しはもう存在しないという応答だけを返す | 終了後に残るデータの削除の扱いを確かめる |
同じ文書には、覚えておくべき2行があります。1つは、提供終了日を延ばす例外は認めないと明記されていること。もう1つは、コンプライアンスやセキュリティの問題が判明した場合は短縮した通知で緊急の提供終了を行う権利を留保する、という一文です。18か月という期間は約束された運用期間ではなく、最長の目安だと読みます。
更新の扱いも決めどころです。従量で使う形では、提供終了のときに新しいモデルへ自動で切り替わります。予約型は自動では切り替わらず、手で移す作業が必要です。自動で切り替えない設定も選べますが、その設定にすると提供終了の時点で動かなくなります。つまり自動で上がると出力が変わり、上げない設定にすると期限で止まります。どちらを選ぶかは、稼働が止まる痛みと出力が変わる痛みのどちらが大きいかで決めます。
契約に書くのは6つです。仕様変更と提供終了の通知期間、代替の提示の有無、移行にかける支援の内容、移行期間中の価格の扱い、データの持ち出しの形式と期限、そして終了後の削除の証明。指針も、提供する側は変更管理と構成管理とサービスの維持を適切に行うことが重要だと書き、更新したときの内容とその理由を利用者へ情報提供する対象に挙げています。更新のたびに同じ検証をやり直せるよう、検証用の入力と期待値は自社側に持ちます。相手のモデルが変わっても自社の物差しは変えない、という置き方です。
項目6:監査と証跡に、どこまで応じるか
6つ目は確かめる手段です。相手の建物に入って調べる形の監査は、共用の基盤では現実に難しいことが多く、断られることも珍しくありません。だから確かめるのは「立ち入れるか」ではなく「代わりに何を出せるか」です。ここでも指針が助けになります。提供する側は、追跡と透明性を高めるために、仕組みの構成とデータの処理の流れを文書化することが重要だと書かれています。
指針が挙げている出せるはずの材料を並べると、質問状がそのまま作れます。仕組みの構成とデータの処理の流れの文書。動作状況と不具合の原因と対応状況、事故の事例。更新したときの内容と理由。学習するデータの集め方と学習方法と実施体制。データの出所と、どんな判断を行ったかを追える状態。運営の方針と個人情報の方針。サービス規約。高度なAIを扱う事業者向けの指針では、見張りの結果の報告書や、安全とセキュリティのリスクに関する関連文書が具体例として挙げられています。
説明の頻度も指針に書かれています。共通の指針への対応状況を、供給する側を含む関係者に対して、それぞれの知識と能力に応じて定期的に説明する、という書き方です。文書化についても、情報を文書化して一定期間保管し、必要なときに必要なところで入手できるようにすると書かれています。年1回の説明の場を契約に入れておくと、担当者が代わっても確認が続きます。
機械から取れる証跡も忘れないでください。ある基盤では、モデルの状態や提供終了の予定日を問い合わせで取得できる仕組みが用意されており、稼働状況の通知を電子メールや管理画面のアラートで受け取れます。人が画面を見に行く運用は続かないので、通知の受け取り先を組織の窓口に設定します。項目5の台帳も、この問い合わせの結果を毎月書き写す形にすれば手作業が減ります。
言葉の食い違いにも気をつけます。監査に応じますという回答が、質問票に答えますの意味だったことがあります。書き方を分解します。何を出すか、いつ出すか、どの形式か、記録の保存期間は何年か、事故のときに開示する範囲はどこまでか。第三者による評価の報告書で代える場合は、その報告書の対象範囲が自社の使う機能を含んでいるかまで見ます。なお、自社側で残す記録の項目と、AIの管理の国際規格については、それぞれ別の記事に整理しています。
項目7:料金の形。実行するほど増える課金の見積り方
最後は料金です。ここでは総額の妥当性ではなく、料金の形だけを見ます。公開されている基盤の文書を見ると、大きく2つあります。使った分だけ払う従量の形と、あらかじめ処理できる量を確保して払う予約の形です。予約した量はモデルに縛られず予約型のあいだで振り替えられる、といった細かい決まりもあります。形が違うと、増えたときの怖さの向きが逆になります。従量は使うほど増え、予約は使わなくても減りません。
従量の見積りは、処理する件数と、1件あたり何回呼ぶかと、1回あたりの分量の3つを掛けて出します。見積りを外すのはたいてい単価ではなく、1件あたり何回呼ぶかのところです。例えば月1,000件の問い合わせを1件あたり平均4回の呼び出しで処理するなら、月4,000回です。ここを自律的に動く仕組みに置き換えて1件あたり20回になれば、件数が同じでも月20,000回で5倍になります。件数は読めても回数は読めないので、回数の上限を契約と設定の両方に置きます。
上限の扱いも確かめます。使える量の割当が決まっている場合、上限に当たるとその時点で処理が出なくなります。自動で新しいモデルへ切り替わる形では割当も自動で引き継がれますが、予約型では移す前に対象のモデルで割当が使えるかを確かめる必要があると書かれています。つまり項目5の移行と項目7の上限は同じ日に効いてきます。移行の予定日は財務の担当にも共有します。
契約に書くのは4つです。単価を改定するときの通知期間、上限を超えたときの扱いを止めるか課金を続けるかのどちらにするか、最低の利用額があるか、試用の期間の条件と本番との差。加えて、見積りが平均で作られていないかを必ず見ます。問い合わせは月によって倍近く動くので、平均の月で組んだ見積りは繁忙月に破れます。ピークの月で組み、平均の月で余る形にします。
発注前に送る確認シートの項目一覧
7項目を、そのまま送れる質問の形に割ります。回答は言葉ではなく数字と期間で受け取ります。20問前後なら、相手も1週間程度で返せる分量です。質問の順番は表の順に固定して、複数社に同じ文面で送ります。文面を相手ごとに変えると、回答を並べたときに比べられなくなります。
- 項目1|入力した内容を学習に使いますか。使わない場合、それは設定ですか契約書の付属文書ですか
- 項目1|保存する期間は何日ですか。保存をゼロにできますか。その申請にかかる期間は何日ですか
- 項目1|保存ゼロの対象から外れる機能はどれですか。当社が使う予定の機能は含まれますか
- 項目1|断る設定は過去にさかのぼりますか。さかのぼらない場合、その境目はいつですか
- 項目1|処理と保存が行われる国と地域を挙げてください。地理的な境界を指定できますか
- 項目2|処理に関わる会社を、役割と所在国つきで一覧にしてください
- 項目2|その一覧が変わるとき、事前の通知は何日前ですか。当社は異議を出せますか
- 項目2|当社と結ぶ条件は、下流の会社にも同じ内容で適用されますか
- 項目2|下流の会社が条件を守らなかったとき、責任を負うのはどの会社ですか
- 項目3|漏れを把握してから当社への一次連絡までは何時間以内ですか
- 項目3|一次連絡に含める項目を挙げてください。原因の中間報告は何営業日以内ですか
- 項目3|夜間と休日の連絡窓口はどこですか。当社側の受け取り先は指定できますか
- 項目4|出力に関する権利は誰に帰属しますか。規約の該当箇所を示してください
- 項目4|第三者から権利を主張された場合に守られる範囲と、除外される条件を挙げてください
- 項目4|外してはいけない設定と、守るべき運用上の条件を一覧にしてください
- 項目5|仕様変更と提供終了の通知は何日前ですか。代替は提示されますか
- 項目5|移行の支援内容と、移行期間中の価格の扱いを教えてください
- 項目5|データの持ち出しの形式と期限、終了後の削除の証明はどうなりますか
- 項目6|出せる文書を一覧にしてください。記録の保存期間は何年ですか
- 項目6|年1回の説明の場を設けられますか。事故のときに開示する記録の範囲はどこまでですか
- 項目7|従量と予約のどちらですか。単価の改定は何日前に通知されますか
- 項目7|割当の上限に当たったときは止まりますか、課金が続きますか
この一覧は、社内の稟議の添付にも使えます。回答が空欄のまま残った行が、そのまま自社が引き受けるリスクの一覧になるからです。空欄をゼロにするのが目的ではありません。どこが空欄かを決裁の前に見えるようにするのが目的です。
返ってきた答えの読み方
回答が揃ったら、言葉を条件に置き換える作業をします。ここで手を抜くと、確認シートを送った意味がなくなります。まず「できます」の後ろに「個別のご相談」という言葉が付いていないかを見る。付いている場合、それは今できるという意味ではなく、交渉すれば検討するという意味です。次に「柔軟に対応します」を数字に置き換えてもらいます。何時間か、何日前か、何回までか。
- 数字と期間で返ってきた:そのまま契約書か付属文書に写せる
- できないと明記して返ってきた:代わりに何ができるかを聞ける。回答としては良い部類
- 規約の該当箇所を示して返ってきた:後から誰でも同じ確認ができる
- 自社では把握していないと返ってきた:正直だが、事故のときに原因を追う経路がないという意味になる
読み比べのときは、社ごとに評価を付けず、項目ごとに横に並べます。1社ずつ点数を付けると、機能の印象が混ざってしまいます。7項目の表を横に置き、同じ行の答えだけを見比べます。そうすると、価格が安い社が項目3と項目5を空欄で返している、といった形が見えてきます。判断はそのあとです。
回答を鵜呑みにしない工程も1つ入れます。示された規約の該当箇所を、こちらでも読みます。「学習に使いません」の記載が、無償の枠を除くという条件付きだった例や、保存期間の記載が別の文書に飛んでいた例があります。相手の回答と規約の原文が食い違ったときは、原文が優先します。読んだ日付と参照した文書の場所を記録に残しておくと、更新されたときに差分を追えます。
7項目を確かめる進め方
順番を決めます。この順で進めると、後戻りが最小になります。2社から3社を並行で見る前提で、着手から決裁まで3週間から4週間が目安です。
項目1から3は情報システムと法務、4から6は法務と監査、7は財務。7項目を1人で抱えると必ず抜けます。割り振ってから質問を送ると、回答が来たときの読み合わせが早く終わります。
項目1の例外は機能ごとに違います。会話をためるのか、ファイルを預けるのか、検索と組み合わせるのか。使う機能が決まっていない状態で質問すると、答えも一般論で返ってきます。
順番も文言も変えません。回答期限は1週間から10日で切ります。期限を切らないと、機能の説明資料だけが先に届いて回答が後回しになります。
社ごとではなく行ごとに読みます。空欄と「個別のご相談」に印を付け、数字に置き換えられなかった行を洗い出します。
交渉で埋まる空欄と、構造上埋まらない空欄に分けます。共用の基盤で立ち入りの監査を求めるような要求は後者です。後者は自社側の運用で受け止める設計に切り替えます。
項目3なら自社の一次対応の手順、項目5なら検証用の入力と期待値、項目7なら上限と通知。相手が約束できない部分を、自社の手当てで埋めます。
埋まらなかった行と、それを自社でどう受け止めるかを1枚にします。後から問題が起きたときに、知らなかったのか引き受けたのかが区別できます。
並行して契約書のひな型も用意しておくと早く進みます。7項目のうち数字で答えが返ってきた行を、そのまま条項の文言に写す作業です。回答の文書と契約書の条項が1対1で対応していれば、更新のときに読み直す場所が特定できます。
相手の資料をAIに読ませるときの線引き
提案書や規約が数百ページになると、AIに読ませて要約したくなります。そこで線を引いておきます。AIに任せてよいのは、探すことと並べることです。7項目に当たる記載がどこにあるかを拾い、複数社の記載を同じ形に並べる。ここは手作業よりも速く、抜けも少なくなります。任せてはいけないのは、条件が十分かどうかの判断です。
運用としては3つを先に決めます。1つ目、AIに合否を判断させず、根拠になる箇所を引かせるところまでで止める。2つ目、要約には必ず出典の箇所を書かせ、原文と突き合わせられる形にする。3つ目、人が確認する範囲を先に決める。全部を読み直すのではなく、AIが該当なしと答えた項目と、判断が分かれた項目だけを人が読みます。7項目なら、この2種類は多くても6行か7行に収まります。
なぜ判断を渡さないかというと、規約は同じ言葉で違うことを書くからです。保存しないという記述が、学習に使わないという意味で書かれている文書もあります。前後の定義まで追わないと区別できません。要約は言い換えなので、定義の食い違いはいちばん落ちやすい情報です。相手の回答と原文が食い違ったときに気づけるのは、原文を読んだ人だけです。
読ませる前に確かめることもあります。相手から受け取った提案書には、相手の営業秘密が入っています。それを外部の仕組みに入れてよいかは、受領時の条件で決まります。項目1で確かめた保存の設定は、自社のデータのためだけでなくこの場面でも効いてきます。指針も、個人情報の不適切な入力については提供する側が注意喚起することを求めています。入れてよい資料の範囲を、読ませる前に一覧で決めます。
この記事に出てきた言葉の意味
社内で共有するときに詰まりやすい言葉を、短く言い換えておきます。定義がずれたまま議論すると、同じ言葉で違う条件を確認したことになります。
- 保存ゼロ:入力と出力を提供元の側に残さない扱い。多くは申請と承認が必要で、対象外になる機能が残る
- 非遡及:設定を変える前に入れたデータには効かないという意味。試用の期間に入れたデータが該当しやすい
- 速報と確報:漏れが起きたときの2段の報告。速報は発覚から3日から5日以内、確報は30日以内が目安で、不正の目的によるおそれがある場合は60日以内
- 背中合わせの契約:自社が結んだ条件を、相手が下流の会社と結ぶ契約にも同じ内容で流す取り決め
- 提供終了:モデルやサービスが使えなくなること。サービス全体ではなくモデル単位で先に起きる
- 予約型:あらかじめ処理できる量を確保して払う形。使わなくても費用は減らず、自動では新しいモデルに切り替わらない
- 割当:使える量の上限。上限に当たるとその時点で処理が返らなくなる
あわせて、社内での呼び方も統一しておきます。「ベンダー」という言葉が、基盤を貸す会社と運用を受ける会社の両方を指してしまう場面が多いからです。役割で呼び分けると、項目2の一覧を作るときに迷いません。作る会社、提供する会社、運用を受ける会社、そして使う自社。指針の3区分に運用の担い手を足した形が、実務では扱いやすい分け方です。
やってはいけない選び方
最後に、実際に起きている失敗の形を並べます。どれも悪意ではなく、順番を間違えた結果として起きます。
- 機能の比較表を作り終えてから契約条件を聞く。条件で落ちると比較の工数がそのまま無駄になる
- 学習に使うかどうかだけを確認して契約する。保存の期間と場所、対象外の機能が残ったままになる
- 試用の期間に本番のデータを入れる。断る設定が過去にさかのぼらない場合、後から取り消せない
- 連絡の期限を速やかにと書く。法の報告期限から逆算した時間になっていないので、事故のときに間に合わない
- 守ってもらえる約束があるからと安心して、安全のための設定を精度改善のために外す。除外の条件に自分から入る
- 18か月という寿命を運用できる期間だと読む。延長の例外は認めないと書かれており、緊急の提供終了もありうる
- 見積りを平均の月で組む。処理する件数が同じでも、呼び出しの回数が増えれば請求は数倍になる
- 規約の読み込みをAIの要約だけで済ませる。定義の食い違いは要約でいちばん落ちやすい
裏返すと、順番はこうなります。使う機能を決める、条件を数字で聞く、埋まらない条件を自社で受け止める、そのうえで機能を比べる。機能の比較を最後に置くと、条件で落ちる社に工数を使わずに済みます。
まとめ
AIのベンダー選定で読むのは、相手が何を約束できるかです。根拠は指針の側にあります。AI事業者ガイドライン(第1.1版、2025年3月28日)は、責任の所在を主体間の契約により明確化すると書き、提供する側が渡すべき情報として、使ってよい範囲、予見できるリスクと緩和策、出力や動きが変わる可能性、不具合の原因と対応状況、更新の内容と理由、学習するデータの集め方と実施体制の6つを列挙しています。聞きにくいことを聞いているのではなく、渡すべきだと書かれているものを求めているだけです。
その6つを契約の言葉に置き換えると7項目になります。入力の学習利用と保存、再委託の範囲、漏れたときの連絡、出力の権利と責任、止まったときの扱い、監査と証跡、料金の形。数字も出そろっています。保存は監視のために最大30日という形が主流で、保存ゼロは申請と承認が必要。漏れの報告は発覚から3日から5日で速報、30日で確報、不正の目的によるおそれがあれば60日。正式提供のモデルは18か月で提供終了し、12か月で新規は締められ、通知は少なくとも60日前で、延長の例外は認められない。他社から預かって並べているモデルは12か月。機能は比べれば分かりますが、約束は聞かないと分かりません。
最後に、AIの側に任せる範囲について1つだけ。7項目の確認でAIに任せてよいのは、記載を探すことと並べることまでです。条件が十分かどうかの判断は渡しません。要約させるときは根拠の箇所を必ず引かせ、人が読む範囲を先に決めておく。該当なしと答えた項目と、判断が分かれた項目だけを人が確認すれば、多くても7行です。使う機能を決め、条件を数字で聞き、埋まらない条件を自社の運用で受け止め、そのうえで機能を比べる。この順番にするだけで、決裁の場で答えられない質問はほとんど残らなくなります。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
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