Media > AI活用ユースケース > 情報システム > 情報システム部が導入済みの SaaS の利用規約・DPA・セキュリティ資料を Vertex AI Search で検索し、社内からの照会に、データの保存先・再委託先・解約後の削除の条件を、契約しているプランと版で絞った引用付きで返す

情報システム部が導入済みの SaaS の利用規約・DPA・セキュリティ資料を Vertex AI Search で検索し、社内からの照会に、データの保存先・再委託先・解約後の削除の条件を、契約しているプランと版で絞った引用付きで返す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

導入済みの SaaS について社内から照会が届いたとき、その SaaS の契約しているプランと、いま効力のある版の規約・DPA・資料だけを検索します。データの保存先・再委託・削除の条件を、引用付きで返します。

サマリー
生成AI
Gemini
AIサービス
Azure AI/Google Vertex AI/OpenSearch
連携・自動化
Python
対象業界
IT・SaaS/広告/製造/金融
対象部門
情報システム/法務
対象業務
問い合わせ対応/情報検索
主な課題
判断に時間がかかる/問い合わせが多い/情報が見つからない
AIで行う処理
検索(RAG)
主な効果
判断支援/対応スピード向上/検索時間短縮
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
本格構成
費用感
RAG・個別開発(大)
人間の確認
条件付き
現在工数
40h/月
AI導入後
15h/月
想定削減
63%
年間削減
300h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 照会のフォームを読み、どの SaaS について何を問われているかを確かめる
  2. SaaS の台帳で、契約しているプランと契約日、扱ってよいデータの区分を見る
  3. 契約の文書の共有フォルダで、覚書と契約した時点の規約・DPA の写しを探す
  4. 事業者のサイトで、いまの規約・DPA・再委託先の一覧・セキュリティ資料を開き、改定の有無を確かめる
  5. 保存先・再委託・削除の記載を探し、該当する箇所を写す
  6. 記載が見つからない項目は、事業者の窓口に問い合わせる
  7. 回答を書いて照会した担当に返す。法的な判断の要るものは法務部に回す
導入後(After)
  1. 自動照会のフォームが送られると、中継プログラムが SaaS と問われている項目(保存先・再委託・削除)を受け取る
  2. 自動SaaS の台帳を引き、契約しているプラン、契約日、扱ってよいデータの区分、覚書の有無を付ける
  3. 自動Vertex AI Search(Agent Search)の answer メソッドで、その SaaS の契約しているプランの、いま効力のある版の文書と覚書だけから、問われた項目の記載を引用付きでまとめさせる
  4. 自動項目ごとに、記載があるか、記載が無いかを分け、記載の無い項目を事業者への問い合わせの下書きにする
  5. 自動同じ SaaS の過去の回答を search メソッドで一覧にする
  6. 人担当が引用の原文を見て、回答を確かめ、照会した担当に返す
  7. 人個人データを入れてよいかなど、法的な判断の要るものは法務部に回す
  8. 自動毎月、事業者のサイトの文書の写しを取り直し、版が変わった SaaS を担当に知らせる
各工程の詳しい説明を読む
  1. 照会のフォームを読み、どの SaaS について何を問われているかを確かめる
  2. SaaS の台帳で、契約しているプランと契約日、扱ってよいデータの区分を見る
  3. 契約の文書の共有フォルダで、覚書と契約した時点の規約・DPA の写しを探す
  4. 事業者のサイトで、いまの規約・DPA・再委託先の一覧・セキュリティ資料を開き、改定の有無を確かめる
  5. 保存先・再委託・削除の記載を探し、該当する箇所を写す
  6. 記載が見つからない項目は、事業者の窓口に問い合わせる
  7. 回答を書いて照会した担当に返す。法的な判断の要るものは法務部に回す

(a)どの文書を見ればよいかが決まらない。 3番と4番で、契約した時点の写し、事業者のサイトの最新の版、プランごとの別の DPA、覚書が並びます。企業向けのプランの DPA だけに保存先の地域を選べる条項があるといった違いを、毎回読み分けます。

(b)記載が文書をまたいで散らばっている。 5番で、保存先はセキュリティ資料に、再委託先は別のページの一覧に、解約後の削除は DPA の末尾と利用規約の解約の条に分かれて書かれています。1つの照会に答えるために、4つか5つの文書を開きます。

(c)「無い」のか「見つけていない」のかが分からない。 保存先の記載が見つからないとき、本当に書かれていないのか、まだ読んでいない文書にあるのかの区別がつきません。急ぐ照会ほど、事業者の本社の所在地や過去の回答から推して答えかけます。

(d)同じ SaaS の照会がくり返し届く。 同じ問い合わせの管理のサービスについて、営業と顧客対応から月に何度も似た照会が届き、そのたびに同じ文書を開き直します。 過去の回答は担当のメールに残るだけです。

  1. 【自動】 照会のフォームが送られると、中継プログラムが SaaS と問われている項目(保存先・再委託・削除)を受け取る
  2. 【自動】 SaaS の台帳を引き、契約しているプラン、契約日、扱ってよいデータの区分、覚書の有無を付ける
  3. 【自動】 Vertex AI Search(Agent Search)の answer メソッドで、その SaaS の契約しているプランの、いま効力のある版の文書と覚書だけから、問われた項目の記載を引用付きでまとめさせる
  4. 【自動】 項目ごとに、記載があるか、記載が無いかを分け、記載の無い項目を事業者への問い合わせの下書きにする
  5. 【自動】 同じ SaaS の過去の回答を search メソッドで一覧にする
  6. 【人】 担当が引用の原文を見て、回答を確かめ、照会した担当に返す
  7. 【人】 個人データを入れてよいかなど、法的な判断の要るものは法務部に回す
  8. 【自動】 毎月、事業者のサイトの文書の写しを取り直し、版が変わった SaaS を担当に知らせる

3番目の「いま効力のある版」の絞り込みが、この設計の要です。 事業者のサイトの最新の版が、自社の契約にすでに効いているとは限りません。効力の始まる日が先の版は、検索の対象から外して「改定の予定あり」とだけ出します。

8番目を毎月の作業にしているのも、意図してのことです。 再委託先の一覧は、DPA よりも頻繁に変わります。写しを取り直さないと、半年前の一覧で「海外の再委託先はありません」と答え続けます。

02今回想定するシステム構成

構成図
照会のフォーム(SaaS・問われている項目・照会の背景)
   ▼【トリガー】フォームの送信
中継プログラム(Python。Cloud Run)
   │   SaaS の台帳で、プラン・契約日・データの区分・覚書の有無を引く
   ▼
Vertex AI Search(Agent Search)
   ├── answer メソッド ── 保存先・再委託・削除の記載(引用つき)
   └── search メソッド ── 同じ SaaS の過去の回答の一覧
   │   データストア:規約・DPA・再委託先の一覧・資料・覚書(版ごと、条ごと)
   ▼
中継プログラム ── 記載の有無の分け、問い合わせの下書き、版の確認
   ▼
回答の画面(項目ごとの記載/引用の原文/記載なしの項目/過去の回答)
   ▼
【担当が確かめて返す。法的な判断は法務部へ】

(毎月)事業者のサイトの文書の写しを取り直し、版の変化を知らせる
役割想定する製品代替候補
検索基盤Vertex AI Search(Agent Search)の answer メソッドと search メソッドAzure AI Search、Amazon OpenSearch Service
生成AIGemini(answer メソッドの回答の生成に使うモデル)―
連携中継プログラム(Python。Cloud Run で動かし、照会のフォーム・契約の台帳・検索・回答の画面をつなぐ)Node.js で同じものを書く
保管Cloud Storage(規約・DPA・資料・覚書の版ごとの写し、メタデータ、照会と回答の記録)―

SaaS の台帳と契約の文書には、読みにいくだけで書き込みません。 台帳の「扱ってよいデータの区分」を変えるのは、いまどおり情報システム部と法務部が決めたときだけです。

土台は、Vertex AI Search の answer メソッドと、メタデータでの絞り込みです。 公式ページでは、answer メソッドは検索の結果から回答を作り、引用のメタデータを付けられるとされています。絞り込みでは、日付の項目を ISO 8601 の文字列で比べられるとされており、版の効力の始まりと終わりの日で文書を絞るのに使います。公式ページには、Vertex AI Search が Agent Search へ改称中である旨の記載があります。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

照会のフォームが送られたことを起点にします。 フォームでは、SaaS を台帳の一覧から選ばせ、問われている項目を保存先・再委託・削除・その他から複数選ばせます。照会の背景(「お客様の質問票」「新しい使い方」など)は自由な文で書かせます。

毎月1日に、写しの取り直しを別に動かします。 台帳のすべての SaaS について、事業者のサイトの規約・DPA・再委託先の一覧・セキュリティ資料のページを取り、前回の写しと中身が違えば新しい版として取り込み、担当に知らせます。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
照会SaaS、問われている項目、照会の背景、入れようとしているデータの種類照会のフォーム
SaaS の情報事業者、サービス名、契約しているプラン、契約日、更新日、扱ってよいデータの区分、覚書の有無SaaS の台帳
規約・DPA版ごと・条ごとの文。効力の始まりと終わりの日、対象のプランデータストア
再委託先の一覧再委託先の名前、所在の国、委託する業務。写しを取った日データストア
セキュリティ資料保存先の地域、暗号化、障害の連絡などの記載データストア
覚書自社が事業者と個別に結んだ合意の条データストア
過去の回答照会、回答、根拠にした文書と版、回答した日データストア

質を決めるのは、規約と DPA の各版の「効力の始まりと終わりの日」と「対象のプラン」です。 事業者のサイトの文書には、改定の日と効力の始まる日が冒頭に書かれていることが多く、取り込むときに担当が確かめて付けます。 書かれていない文書は、写しを取った日を始まりの日とし、effective_known を偽にします。

Step3

データの取得方法を決める

取るものどこから何に使うか
契約した時点の規約・DPA・覚書契約の文書の共有フォルダデータストアの中身
いまの規約・DPA・資料・再委託先の一覧事業者のサイトのページを毎月取り、PDF にして Cloud Storage へ写すデータストアの中身
SaaS の情報SaaS の台帳の読み取り絞り込みの条件
答えと一覧answer メソッドと search メソッドの応答回答の画面

事業者のサイトのページは、そのまま取り込まずに、取った日の写しとして保存します。 サイトのページは予告なく変わるので、答えの根拠にした文が、あとで見るとページから消えていることがあります。 写しを版として持てば、いつの文書で答えたかを後から示せます。

文書は、条ごとに1つの文書に分け、メタデータに SaaS・文書の種類・プラン・効力の日を持たせます。 公式ページでは、非構造のデータのメタデータは JSON Lines(NDJSON)のファイルで、各行に id、structData(または jsonData)、Cloud Storage の文書を指す content の mimeType と uri を持たせるとされています。1つの条は、たとえば次の1行にします。

{"id": "saas-0412-dpa-ent-v7-s09",
 "structData": {"saas_id": "S0412", "doc_kind": "dpa", "plan": "enterprise",
                "doc_ver": "v7", "effective_from": "2026-04-01",
                "effective_to": "9999-12-31", "effective_known": true,
                "topics": ["deletion"], "captured_at": "2026-10-01"},
 "content": {"mimeType": "application/pdf", "uri": "gs://<bucket>/saas/S0412/dpa/v7/s09.pdf"}}

再委託先の一覧は、表のまま取り込みます。 公式ページでは、レイアウトの解析は PDF の段落・表・画像・見出しを検出し、表に説明を付ける設定もあるとされています。再委託先の名前と所在の国が同じ行に並んだまま検索に当たるよう、データストアを作るときにレイアウトの解析を有効にします。文書の分割はデータストアを作ったあとに切り替えられず、見出しを各チャンクに付ける includeAncestorHeadings は既定で無効なので、条の見出しが本文から離れないよう、作るときに有効にします。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. SaaS の引き当て … フォームの SaaS を台帳で引き、プラン・契約日・データの区分・覚書の有無を決めます
  2. 今日の日付で版を決める … 効力の始まりが今日以前で、終わりが今日より後の版だけを対象にします
  3. 先の版の確認 … 効力の始まりが今日より後の版があれば、「改定の予定あり」として別に持ちます
  4. 問い合わせ文の組み立て … 問われた項目ごとに、「顧客データの保存先の地域」「再委託先の名前と所在の国」「契約終了後のデータの削除と返却の期限」のような文を作ります
  5. 絞り込みの条件の組み立て … 答えの側はその SaaS・そのプラン・いまの版と覚書、一覧の側はその SaaS の過去の回答に分けます

2番目と3番目を、検索の前に中継プログラムで行います。 モデルに「いまの版で答えて」と頼んでも、どれが今日に効いている版かは、検索結果の文の中からは分かりません。

絞り込みの条件は、たとえば次のようになります(公式ページの書き方による)。

filter(保存先・再委託・削除の答え):
  saas_id: ANY("S0412")
  AND ((doc_kind: ANY("terms", "dpa", "security", "subprocessors")
        AND plan: ANY("enterprise", "all")
        AND effective_from <= "2026-10-29" AND effective_to > "2026-10-29")
       OR doc_kind: ANY("addendum"))
filter(過去の回答の一覧):
  saas_id: ANY("S0412") AND doc_kind: ANY("past_answer")

公式ページでは、ANY は指定した値のどれかに完全に一致するときに真になり、日付の項目は比較の演算子と ISO 8601 の文字列で比べられ、AND・OR と括弧で組み合わせられるとされています。絞り込みに使う項目は、スキーマの画面でインデックス可能にしておく必要があります。プランを問わない文書は plan を all にします。

Step5

AIに処理させる

answer メソッドにさせるのは、その SaaS のいまの版の文書と覚書から、問われた項目の記載を、文書の言葉のまま引用付きでまとめることです。 個人データを入れてよいかの結論は、書かせません。

返させるもの中身返せないときの扱い
保存先顧客データを保存する国・地域、地域を選べるかの記載「保存先の記載なし」
再委託再委託先の名前と所在の国、再委託の前の通知や異議の手続の記載「再委託の記載なし」
削除契約の終了後のデータの返却・削除の期限と方法「削除の記載なし」
覚書の記載上の3つについて覚書に書かれていること覚書が無ければ出さない
させないこと理由
個人データを入れてよいかの結論を書く委託に当たるか、どの安全管理措置が要るかは法務部が決める
事業者の本社の所在地から保存先を推す記載の無い項目は事業者に確かめる
別のプランや先の版の記載を、いまの契約のものとして書く自社に効いていない
覚書と規約のどちらが優先するかを書く契約の解釈になる
過去の回答を、いまの根拠として書く過去の回答のあとに版が変わっていることがある

2行目がいちばん起きやすい失敗です。 保存先の記載が無い SaaS について問うと、モデルは検索結果の中の事業者の住所を見て、「米国のデータセンターに保存されると考えられます」と結びがちです。 記載が無ければ「記載なし」とだけ書かせます。

Step6

指示内容を固定する

answer メソッドでは、回答の口調や詳しさをプロンプトの前置き(preamble)で指定できます。前置きを次のようにします。

あなたは情報システム部の SaaS の管理の担当のための、契約の文書の資料係です。
検索で見つかった利用規約・DPA・再委託先の一覧・セキュリティ資料・覚書だけを根拠に、
問われた項目ごとに答えてください。

【項目】
- 保存先:顧客データを保存する国・地域と、地域を選べるか
- 再委託:再委託先の名前と所在の国、再委託の前の通知や異議の手続
- 削除:契約の終了後のデータの返却・削除の期限と方法

守ること:
- 文書の言葉のまま書いてください。言い換えないでください。
- 記載が見つからない項目は「記載なし」とだけ書いてください。
  事業者の所在地、ほかの項目、一般的な慣行から推して書かないでください。
- 覚書に記載がある項目は、覚書の記載を別に書いてください。
  覚書と規約のどちらが優先するかは書かないでください。
- 個人データを入れてよいか、法令上問題がないかを書かないでください。
- 国名、地域名、日数、期限は原文の表記のまま写してください。
- 検索結果に無いことを書かないでください。

「一般的な慣行から推して書かない」まで入れるのは、削除の期限でも同じことが起きるからです。 削除の条が無いとき、モデルは「通常は契約終了後30日以内に」のように、どこにも書かれていない日数を書きます。

あわせて、answer メソッドの設定を次のようにします。

設定値理由
引用(includeCitations)有効文ごとに出典を示させる。既定は無効
関連性の低い内容の無視(ignoreLowRelevantContent)有効関係の薄い条から無理に答えさせない
根拠の支持による絞り込み(groundingSpec の filteringLevel)FILTERING_LEVEL_HIGH から試す支えの弱い答えを外す。未設定だと絞り込みが掛からない
回答の言語(answerLanguageCode)ja英語の規約でも日本語で答えさせる
絞り込み(filter)前処理で組み立てた答えの側の条件その SaaS・プラン・いまの版と覚書

英語の規約を日本語で答えさせるときは、引用の原文は英語のまま出します。 日本語の答えの文と、英語の原文の条を並べて、担当が見比べられるようにします。引用の位置は UTF-8 のバイト単位と公式ページにあるので、答えに印を差し込むときは文字の位置に直します。

Step7

出力形式を固定する

中継プログラムが、応答と台帳の値を次の形にそろえて回答の画面に渡します。

{
  "inquiry_id": "",
  "saas_id": "",
  "plan": "",
  "as_of": "2026-10-29",
  "addendum_exists": false,
  "items": [
    { "topic": "storage_region | subprocessors | deletion",
      "status": "stated | not_stated",
      "answer": "",
      "citations": [ { "doc_id": "", "doc_kind": "", "doc_ver": "",
                       "effective_from": "", "quote": "" } ],
      "addendum_note": "" }
  ],
  "upcoming_versions": [ { "doc_kind": "", "doc_ver": "", "effective_from": "" } ],
  "vendor_question_draft": "",
  "past_answers": [ { "inquiry_id": "", "answered_at": "", "doc_ver": "" } ]
}

1つ目の理由は、項目ごとに status を持てることです。 not_stated の項目は、回答の画面で「事業者に確認が要る」として赤く出し、vendor_question_draft に、事業者の窓口に送る問い合わせの下書きを作ります。 下書きは中継プログラムが定型の文で作り、生成はさせません。

2つ目は、upcoming_versions で改定の予定を答えと別に持てることです。 いまの答えに、「2027年1月1日から効力のある新しい版があります」と添えられ、照会した担当が、いまと先とで条件が変わりうることを知れます。

3つ目は、past_answers に根拠の版を持てることです。 過去の回答の版といまの版が違えば、過去の回答をそのまま使い回せないことが一目で分かります。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
照会のフォームフォームの送信の通知照会の受け取り
SaaS の台帳SaaS の番号での引き当て(読み取りのみ)プラン・契約日・データの区分・覚書の有無
Vertex AI Searchanswer メソッドと search メソッドの API項目ごとの記載と引用、過去の回答
Cloud Storage文書の版ごとの写し引用した箇所の原文の表示
照会した担当への返信回答の画面からの送信担当が確かめた回答

事業者への問い合わせは、下書きを担当が直して送ります。 事業者の答えが届いたら、その答えを vendor_reply の文書として、その SaaS とその日付で取り込みます。次に同じことを問われたとき、事業者の答えが根拠として当たるようにします。

Step9

人が確認する

  1. 版とプランを見る … 回答の画面の上に出る、根拠にした文書の版・効力の始まりの日・プランを、台帳と照らします
  2. 引用の原文を読む … 項目ごとに、引用の条を開いて、答えの文と原文が合っているかを確かめます
  3. 記載なしを確かめる … not_stated の項目について、本当に見当たらないかを、その SaaS の文書の目次で確かめます
  4. 法的な判断を分ける … 個人データを入れてよいかを問われたものは、記載をそろえたうえで法務部に回します
  5. 回答を返す … 確かめた回答を照会した担当に返し、記録に残します

1番目と3番目を省かないでください。 版を取り違えた回答は、お客様の質問票にそのまま書かれ、外に出ていきます。

目標は、60件をならして1件15分です。 版とプランを照らし、原文を読み、回答を返す時間です。4名は毎月、not_stated の多い SaaS を見ます。 同じ SaaS で同じ項目の記載なしが続けば、事業者の別の文書を取り込めていないか、事業者に確かめる時期です。

Step10

例外に対処する

起きること対応
SaaS が台帳に無い検索に回さず、台帳に無いことを返し、導入前の審査の窓口を案内する
契約した時点の写しが無いいまの版で答え、「契約時の版が不明」を画面の上に出す
効力の日が分からない版しか無い写しを取った日を始まりの日として答え、effective_known が偽であることを出す
効力の始まりが先の版がある答えはいまの版で作り、改定の予定を別に出す
事業者のサイトのページが取れない前回の写しを使い、取れなかったことを担当に知らせる
答えが作られなかった(支持が低い)答えを出さず、その SaaS の文書の一覧だけを出す
覚書と規約で違うことが書かれている両方の原文を並べて出し、法務部に回す
検索が応答しないいまどおり契約の文書と事業者のサイトを開いて探す

7行目の「両方を並べて法務部へ」は、自動で片方を選ばないための決まりです。 どちらが効くかは、契約の書き方の問題で、検索では決められません。

Step11

記録を残す

  • 照会の内容と、そのとき引いた台帳の値(プラン、契約日、データの区分、覚書の有無)
  • 絞り込みの条件と、そのとき「いまの版」とした文書の版の一覧
  • answer メソッドと search メソッドの応答の全文
  • 担当が返した回答と、法務部に回したかどうか
  • 事業者への問い合わせと、その答え
  • 毎月の写しの取り直しで変わった文書と版

2つ目の「そのときのいまの版」は、後から問われたときにいちばん要る記録です。 お客様の質問票に書いた答えが、どの日のどの版に基づいていたかを示せます。

04実装レベルの3段階

最小構成:10個の SaaS の文書だけのデータストアを作り、短いスクリプトで問い合わせる / 保存先・再委託・削除の検索
半自動化:上記+台帳のすべての SaaS の文書を取り込み、担当が SaaS と項目を選んで問い合わせる / すべての SaaS の文書の検索
本格構成:上記+照会のフォームからの自動の問い合わせ、今日の日付での版の絞り込み、記載なしの問い合わせの下書き、毎月の写しの取り直しまでつなぐ / 照会から回答の下書きまで

半自動化で、1件40分が25分ほどになります。 文書を探す時間は減りますが、版を決めることと、記載の無い項目を事業者に問い合わせる文を書くことが残ります。本格構成で15分になり、この段階が本記事の想定です。 段階を進める前に、契約した時点の写しが無い SaaS を洗い出してください。 写しが無いと、いまの版で答えるしかなく、契約時の条件と違っていても気づけません。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
4 名
月間件数
60 件
1件あたり現在時間
40 分
1件あたり導入後時間
15 分
現在  60件 × 40分 ÷ 60 = 40 時間/月
導入後 60件 × 15分 ÷ 60 = 15 時間/月
月間削減時間
25h
削減率
63%
年間削減時間
300h
年間金額換算(時間単価3,500円)
105万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 導入済みの SaaS が数十から百を超え、利用規約・DPA(データ処理に関する合意)・再委託先の一覧・セキュリティ資料が事業者ごと・版ごとに散らばっている会社。事業部や顧客対応の担当から、データの保存先・再委託・削除の照会が毎月何十件も情報システム部に届いている場合。お客様からのセキュリティの質問票に、自社が使う SaaS の条件を答える必要がある場合。Google Cloud を使っている、または使い始められる場合。
向いていない
  1. 使っている SaaS が数個で、照会がほとんど無い場合。事業者の規約と DPA を自社で保存しておらず、契約したときの版が分からない場合。照会の多くが、新しく SaaS を入れる前の審査である場合(導入前の審査は別の仕組みで扱う)。なお、その SaaS に個人データを入れてよいか、委託に当たるかといった法的な判断、事業者との契約の変更は、この構成では代替できません。

07最小構成で試す方法

  1. 照会の多い SaaS を10個選ぶ(企業向けのプランで契約しているものと、覚書があるものを混ぜる)
  2. その10個の契約した時点の規約・DPA・覚書と、事業者のサイトのいまの版を写し、条ごとに分けて、版・効力の日・プランを付けて、Vertex AI Search のデータストアを作る
  3. 過去3か月の照会から、その10個についての30件を選ぶ
  4. 30件の照会から絞り込みの条件と問い合わせ文を作り、answer メソッドを短いスクリプトで呼んで、答えと引用を見る
  5. 答えが、当時の担当の回答と合うか、根拠の版が正しいかを、担当の4名で突き合わせる

30件のうち、記載が無いのに推して答えた件数と、別のプランや先の版を根拠にした件数を最初に数えます。 どちらか1件でもあれば、前置きと絞り込みの条件を直してから先へ進みます。

出てきた内容判断
いまの版の引用付きで答え、記載の無い項目を分けた照会のフォームと台帳の連携に進む
記載が無いのに推して答えた前置きを直す
別のプランや先の版が根拠になった効力の日とプランのメタデータを直す

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
別のプランや先の版の記載で答える版に効力の日とプランを持たせ、今日の日付で絞ってから検索する
記載が無いのに推して答える前置きで推測を禁じ、not_stated を分けて事業者に確かめる
再委託先の一覧が古い毎月写しを取り直し、変わったら知らせる
再委託先と国が別の行に分かれるレイアウトの解析を有効にし、表のまま取り込む
条の見出しが本文から離れるデータストアを作るときに見出しを各チャンクに付ける
覚書が検索に当たらない覚書は版の絞り込みから外し、その SaaS なら常に対象にする
英語の規約の答えの言い換えがずれる日本語の答えと英語の原文を並べて出す
過去の回答を使い回す過去の回答に根拠の版を持たせ、いまの版と違えば印を付ける

上の2行が、この構成の失敗のほとんどです。 どちらも、「それらしい答え」が根拠の無いまま外に出る問題です。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 事業者の規約と DPA、自社が結んだ覚書、SaaS ごとに扱ってよいデータの区分です。照会の中に、お客様の名前や入れようとしているデータの中身が書かれることがあります。

  1. 個人データの扱いの判断を法務部に残す … 個人情報保護委員会のガイドライン(通則編)は、個人データの取扱いを委託する場合の委託先の監督として、適切な委託先の選定、委託契約の締結、委託先における取扱状況の把握を挙げ、委託先が再委託を行おうとする場合は、再委託する相手方、業務の内容、取扱方法等について事前報告を受け又は承認を行うこと等が望ましいとしています。この構成が出すのは記載の有無と原文までで、委託に当たるか、どの監督が要るかは法務部が決めます
  2. 外国での取扱いの記載を必ず拾う … 同じガイドラインは、外国において個人データを取り扱う場合、当該外国の個人情報の保護に関する制度等を把握した上で安全管理措置を講じなければならないとしています。保存先と再委託先の国の記載は、この把握の材料になるので、記載なしを推測で埋めないことが特に大事です
  3. 照会の中のお客様の情報を入れない … 照会のフォームの自由な文は検索の問い合わせ文に使いますが、お客様の名前を書かないよう、フォームに注意書きを置きます
  4. データの置き場所を確かめる … 公式ページでは、データストアの場所は global のほか us、eu のマルチリージョンで、日本のリージョンは載っていません。 契約の文書と覚書を置いてよいかを社内の決まりで確かめます
  5. 台帳を書き換えない … 中継プログラムは台帳を読むだけにし、扱ってよいデータの区分を答えから変える経路は作りません

誤りが起きた場合のリスクは、効いていない版で答えることと、記載の無い項目を推測で答えることの2つです。 前者は今日の日付での版の絞り込みで、後者は not_stated を分けて事業者に確かめることで防ぎます。

10まず何から始めるか

1週目:照会の多い SaaS と、契約時の写しの有無を洗い出す

過去3か月の照会を数え、件数の多い SaaS を10個選びます。その10個について、契約した時点の規約・DPA・覚書の写しがあるかを確かめます。

2週目:10個の文書を版ごとに写す

事業者のサイトのいまの版を PDF にして写し、条ごとに分けて、版・効力の日・プランを付けます。効力の日が書かれていない文書は、写しを取った日を付けて印を付けます。

3週目:30件で試す

第8章の手順でデータストアを作り、30件の照会で答えと引用を確かめます。記載が無いのに推して答えていないかと、根拠の版が正しいかを最優先で見ます。

4週目:法務部と線を引く

照会のうち、記載をそろえて返せばよいものと、法務部に回すものの線を法務部と決め、照会のフォームの項目に反映します。

2か月目: 台帳のすべての SaaS の文書を取り込み、担当が SaaS と項目を選んで使い始めます。3か月目以降: 照会のフォームからの自動の問い合わせ、今日の日付での版の絞り込み、問い合わせの下書き、毎月の写しの取り直しを足し、1件40分が何分になったかを実測します。お客様の質問票に書く保存先・再委託・削除の答えに、根拠の版と日付をいつでも添えられるようになった時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-29/最終更新:2026-10-29
確認した内容情報源確認日
answer メソッドが検索結果から回答を作り、引用のメタデータを付けられること(includeCitations の既定は無効)。前置き(preamble)で回答の口調・詳しさを指定できること。filteringLevel の値と、未設定なら絞り込みが掛からないこと。引用の位置が UTF-8 のバイト単位であること。Vertex AI Search が Agent Search へ改称中であることGoogle Cloud: Get answers and follow-ups2026-10-29
絞り込みに使う項目をインデックス可能にすること。ANY が完全一致であること。日付の項目を比較の演算子と ISO 8601 の文字列で比べられること。AND・OR と括弧で組み合わせられることGoogle Cloud: Filter search for structured or unstructured data2026-10-29
非構造のデータのメタデータが JSON Lines(NDJSON)で、各行に id・structData または jsonData・content の mimeType と uri を持つことGoogle Cloud: Prepare data for ingesting2026-10-29
レイアウトの解析が PDF の段落・表・画像・見出しを検出し、表に説明を付ける設定があること。文書の分割をデータストアの作成後に切り替えられないこと。includeAncestorHeadings の既定が無効であることGoogle Cloud: Parse and chunk documents2026-10-29
データストアの場所が global と、us・eu のマルチリージョンで、日本のリージョンの記載が無いことGoogle Cloud: Agent Search locations2026-10-29
委託先の監督として、適切な委託先の選定、委託契約の締結、委託先における取扱状況の把握を挙げていること。再委託の際に相手方・業務の内容・取扱方法等について事前報告を受け又は承認を行うこと等が望ましいとしていること。外国において個人データを取り扱う場合に当該外国の制度等を把握した上で安全管理措置を講じなければならないとしていること(10-7 外的環境の把握)。令和8年6月一部改正の版であること個人情報保護委員会: 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)2026-10-29

その SaaS に個人データを入れてよいか、委託先の監督として何が要るかは、法務部と自社の決まりで判断してください。 本記事は、上記の公開情報で確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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