介護施設が毎日の申し送りの記録を Azure OpenAI でやさしい日本語と外国人の介護職員の母語に訳し、数字と時刻の食い違いを確かめて配る
1日3回の申し送りの記録を、外国人の介護職員が読めるやさしい日本語と本人の母語に訳し、時刻・量・部屋の番号が原文と同じかを確かめてから、勤務に入る前に配ります。リーダーは訳の確認だけを行います。
- 生成AI
- Azure OpenAI Service/Claude
- 連携・自動化
- Power Automate
- 対象業界
- 介護/医療
- 対象部門
- 人事
- 対象業務
- 内容確認・チェック/書類作成
- 主な課題
- 人手が足りない/引き継ぎができていない/確認ミスが多い
- AIで行う処理
- 翻訳
- 主な効果
- 対応スピード向上/工数削減/教育コスト削減
- 導入難易度
- ★★☆☆☆
- 実装レベル
- 本格構成
- 費用感
- API連携(中)
- 人間の確認
- 条件付き
01導入前 / 導入後の業務フロー
- 前の勤務のリーダーが、介護記録のソフトの申し送りの欄に書く
- 次の勤務のリーダーが申し送りを読み、外国人の職員がいる勤務なら、補う箇所に印を付ける
- 外国人の職員に口頭で補い、言い換えた要点をメモに書いて渡す
- 外国人の職員は、メモと原文を見ながら勤務に入る
- 分からないことがあれば、勤務の途中でリーダーに聞く
- 人前の勤務のリーダーが、これまでどおり申し送りの欄に書く
- 自動申し送りの締めの時刻に、フローが申し送りを取り出す
- 自動利用者の氏名を部屋の番号と記号に置き換え、施設の用語集の言葉に印を付ける
- 自動Azure OpenAI が、やさしい日本語(ふりがな付き)と、次の勤務の外国人の職員の母語に訳す
- 自動プログラムが、原文と訳の数字・時刻・部屋の番号・確かさの印を突き合わせる
- 人次の勤務のリーダーが、やさしい日本語の訳と食い違いの印を確かめて、配布を承認する
- 自動承認された訳を、原文と並べた形で共有の端末に出す
- 人外国人の職員が原文と訳を並べて読み、分からないことをリーダーに聞く
各工程の詳しい説明を読む
- 前の勤務のリーダーが、介護記録のソフトの申し送りの欄に書く
- 次の勤務のリーダーが申し送りを読み、外国人の職員がいる勤務なら、補う箇所に印を付ける
- 外国人の職員に口頭で補い、言い換えた要点をメモに書いて渡す
- 外国人の職員は、メモと原文を見ながら勤務に入る
- 分からないことがあれば、勤務の途中でリーダーに聞く
(a)補う時間が勤務の始まりに集中する。 3番は、申し送りの時間の中で、日本人の職員への申し送りと並んで行います。10分ほどかかり、その間リーダーはフロアを見られません。
(b)夜勤の始まりに補う人がいない。 夕方の申し送りの後、日勤のリーダーが帰ると、夜勤に入る外国人の職員は、原文だけを読んで勤務に入ることがあります。
(c)時刻と量が読み違えられる。 「水分 200 mL を 14時までに」が「14時に 200 mL」と受け取られる、「とろみ 1 本」の「本」が分からない、といった読み違いが起きます。読み違いは、次の勤務の水分や食事の量にそのまま出ます。
(d)言い換えがリーダーによって違う。 「誤嚥」を「むせる」と言う人も「食べ物が気管に入る」と言う人もいます。同じ言葉がリーダーごとに違う言い方で伝わり、外国人の職員の中で言葉がそろいません。 介護福祉士の国家試験を目指す職員にとっては、試験で使う言葉と現場の言い方がつながらない原因にもなります。
- 【人】 前の勤務のリーダーが、これまでどおり申し送りの欄に書く
- 【自動】 申し送りの締めの時刻に、フローが申し送りを取り出す
- 【自動】 利用者の氏名を部屋の番号と記号に置き換え、施設の用語集の言葉に印を付ける
- 【自動】 Azure OpenAI が、やさしい日本語(ふりがな付き)と、次の勤務の外国人の職員の母語に訳す
- 【自動】 プログラムが、原文と訳の数字・時刻・部屋の番号・確かさの印を突き合わせる
- 【人】 次の勤務のリーダーが、やさしい日本語の訳と食い違いの印を確かめて、配布を承認する
- 【自動】 承認された訳を、原文と並べた形で共有の端末に出す
- 【人】 外国人の職員が原文と訳を並べて読み、分からないことをリーダーに聞く
5番目と6番目の分け方が、この設計の分かれ目です。 数字と時刻の一致は機械が全件見ます。リーダーが見るのは、機械では確かめられない、やさしい日本語の訳の意味が原文と同じかどうかです。母語の訳はリーダーには読めないので、数字と時刻の照合と、後で述べる逆向きの訳で確かめます。
7番目で、訳だけを出すことはしません。 原文と並べて出し、原文が正であることを画面の上に書きます。
8番目の「リーダーに聞く」は、これまでより増えてかまいません。 訳が出ると、外国人の職員は原文のどこが分からないかを指して聞けるようになります。聞かれた言葉は用語集に足す候補として記録し、次の申し送りから訳に反映させます。補う時間が減り、聞かれる質問が具体的になる、という変わり方を想定しています。
02今回想定するシステム構成
介護記録のソフト(申し送りの欄) │ 申し送りの書き出し(CSV)を共有のフォルダへ ▼【トリガー】1日3回の締めの時刻 Power Automate ── 書き出しのファイルを取り、勤務表から次の勤務の職員と言語を引く ▼ Azure Functions ├──▶ 氏名を部屋の番号と記号に置き換える ├──▶ 施設の用語集の言葉に印を付ける └──▶ 原文の数字・時刻・部屋の番号・確かさの言葉を取り出す ▼ Azure OpenAI(Microsoft Foundry)── やさしい日本語と母語に訳す/母語の訳を日本語に戻す ▼ Azure Functions ── 原文と訳の数字・時刻・確かさを突き合わせる ▼ 【リーダーがやさしい日本語の訳と食い違いの印を確かめ、承認】 ▼ 共有の端末(原文・やさしい日本語・母語を並べて表示)
| 役割 | 想定する製品 | 代替候補 |
|---|---|---|
| 生成AI | Azure OpenAI(Microsoft Foundry) | Claude API |
| 連携 | Power Automate(定時の起動、書き出しの取得、承認の依頼) | Azure Logic Apps |
| 連携 | Azure Functions(置き換え、用語集の印、数字と時刻の照合) | AWS Lambda |
| 用語集 | SharePoint のリスト(介護の言葉・やさしい日本語の言い換え・言語ごとの訳) | 共有の表計算のファイル |
| 表示 | SharePoint のページ(共有の端末で開く) | 施設の掲示用の印刷 |
介護記録のソフト、勤務表、共有の端末は、いまあるものです。 足すのは Power Automate のフロー、Functions の処理、施設の用語集です。最初の準備作業は、用語集を作ることです。 リーダーごとに違っていた言い換えを、ここで1つにそろえます。
申し送りの取り出し方は、記録のソフトによって違います。 書き出しの機能や API の有無は製品ごとに異なり、この構成は、ソフトから申し送りを CSV に書き出して共有のフォルダに置ける場合を想定しています。 書き出せない場合は、利用環境に応じた個別の取り出しが必要です。
やさしい日本語の作り方の土台は、出入国在留管理庁と文化庁の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」です。 日本人にわかりやすい文章にする、外国人にもわかりやすく直す、日本語教師や外国人に伝わるか確認する、の3つのステップで作ることが重要とされています。
生成AIは、Azure OpenAI の構造化出力で、文ごとの訳と照合の材料を決まった形で返させます。 Chat Completions API の response_format に JSON のスキーマを渡し、strict を有効にします。
03どうやって実装するのか
処理の起点を決める
申し送りの締めの時刻に、1日3回動かします。 日勤の始まりの30分前、夕方の申し送りの30分前、夜勤の始まりの30分前です。Power Automate の定時の起動で、その時刻までに書き出された申し送りを取り出します。
締めの後に申し送りが書き足されたときは、もう一度動かします。 書き出しのフォルダにファイルが足されたことでも起動し、前の訳から増えた行だけを訳して、追加の印を付けて出します。 夜間の急な変化(発熱、転倒、受診)は締めの後に書かれることが多いからです。
次の勤務に外国人の職員がいないときも、やさしい日本語の訳は作ります。 日本語の記録に慣れていない新人の日本人の職員や、派遣の職員にも読みやすいからです。母語の訳だけは、勤務表に外国人の職員がいる勤務のときに作ります。
勤務表は、急な交代で当日に変わります。 起動のたびに勤務表を読み直し、前の回から次の勤務の職員が変わっていれば、足りない言語の訳を追加で作ります。 勤務表の更新が遅れたときのために、リーダーが画面から言語を足して作り直せるようにもしておきます。
入力データを集める
| データ | 中身 | 取得元 |
|---|---|---|
| 申し送り | 利用者(部屋の番号)ごとの申し送りの文、書いた時刻、書いた職員の職種 | 介護記録のソフトの書き出し |
| 勤務表 | 次の勤務の職員、外国人の職員の母語、やさしい日本語の訳の要否 | 勤務表のファイル |
| 施設の用語集 | 介護の言葉(誤嚥、とろみ、体位変換など)、やさしい日本語の言い換え、言語ごとの訳 | SharePoint のリスト |
| 確かさの言葉の一覧 | 「〜かもしれない」「様子を見る」「確認中」「〜とのこと」など、確かさを表す言葉 | 施設で作る一覧 |
| 単位の一覧 | mL、本、包、杯、割など、施設で使う量の単位と、その意味 | 施設で作る一覧 |
質を決めるのは、施設の用語集です。 「とろみ 1 本」の「本」は、とろみ剤の小袋の数のことです。施設の中だけで通じる言い方は、用語集に意味を書いておかないと、生成AIは「1本の瓶」と訳します。
確かさの言葉の一覧は、この構成で特に大事です。 申し送りの「熱っぽいとのこと」は、看護職員が測った値ではなく、家族や他の職員から聞いた話です。この「とのこと」を訳で落とすと、伝聞が事実に変わります。
データの取得方法を決める
申し送りの書き出しは、利用者ごとの行に分けて読みます。 1行に部屋の番号、時刻、申し送りの文が入る形を想定し、行ごとに H-0612-N-07(6月12日の夜勤の始まりの7行目)のような番号を付けます。
書き出しの CSV は、文字コードと改行を先に確かめます。 記録のソフトによっては Shift_JIS で書き出され、申し送りの文の中の改行がセルの中に入ったままになります。読み込みの処理で文字コードを指定し、引用符で囲まれたセルの中の改行を1行の文として扱わないと、1件の申し送りが2行に割れて、部屋の番号の無い行ができます。
勤務表は、次の勤務の時間帯で引きます。 外国人の職員の母語は、勤務表とは別に人事が持つ一覧(職員の番号と母語)から引きます。
| 取るもの | どこから | 何に使うか |
|---|---|---|
| 申し送りの行 | 記録のソフトの書き出し | 訳と照合 |
| 次の勤務の職員と母語 | 勤務表、人事の一覧 | 訳す言語を決める |
| 用語集 | SharePoint のリスト | 言い換えと訳をそろえる |
| 確かさの言葉・単位 | 施設の一覧 | 照合の材料 |
AIへ渡す前に整形する
- 氏名を置き換える … 利用者の氏名を、部屋の番号と
利用者Aのような記号に置き換えます。家族や医師の氏名も同じです - 用語集の言葉に印を付ける … 申し送りの中の用語集の言葉に
[[誤嚥]]のような印を付け、生成AIに用語集の言い換えを使わせます - 数字・時刻・単位を取り出す … 「14時」「200 mL」「1 本」「302号室」を、値と単位の組にして一覧にします
- 確かさの言葉を取り出す … 確かさの言葉の一覧に当たる語を、行ごとに記録します
- 省略の言い方をそろえる … 「Dr.」「Ns.」「BP」のような略語を、用語集の言葉に直します
- 記号を言葉に直す … 「済」「未」「○」「×」「↑」「→」のような記号を、施設の決まりで「終わりました」「まだです」「上がった」「次の勤務へ」などの言葉にします
6番目は、見落とされやすい前処理です。 申し送りの欄には、「眠剤 ×」「Ns. → 」のような記号の書き方が多く、日本人の職員には通じても、外国人の職員には意味が分かりません。 生成AIに任せると記号の意味を推測して訳すので、施設で意味を決めて、前処理で言葉にしてから渡します。
1番目は、訳の前に必ず行います。 申し送りには、病名、服薬、排せつの状態が書かれています。生成AIに渡す必要があるのは、何が起きたかと、どうするかで、誰のことかは部屋の番号で足ります。
3番目と4番目を前処理で取り出すのは、訳の後で照合するためです。 訳の後の文から数字を拾っても、原文の数字と組にできなければ比べられません。原文の側で先に組を作っておきます。
AIに処理させる
させることは3つです。 申し送りの1行ずつを、やさしい日本語に訳すこと、次の勤務の職員の母語に訳すこと、母語の訳を日本語に戻すことです。
| させること | 中身 | 判断できないときの扱い |
|---|---|---|
| やさしい日本語に訳す | 1文に1つのこと、ふりがな付き、用語集の言い換え、時刻は「から〜まで」 | 意味が取れない行は unclear |
| 母語に訳す | やさしい日本語ではなく原文から訳す。用語集の言語ごとの訳を使う | 用語集に訳が無い言葉は no_glossary |
| 母語の訳を日本語に戻す | 母語の訳だけを見て日本語にする(照合用) | - |
| 確かさの印を付ける | 訳の各文が、確定/伝聞/様子見/疑いのどれか | 原文から決められなければ unknown |
| させないこと | 理由 |
|---|---|
| 確かさの度合いを変える | 「かもしれない」を言い切りにすると、様子見が問題なしに変わる |
| 原文に無い指示を足す | 「〜してください」の指示は、原文にあるときだけ |
| 数字を丸める・換算する | 200 mL を「コップ1杯」にしない |
| 医療・介護の判断を書く | 症状の意味や対応の要否はリーダーと看護職員が判断する |
| 置き換えた記号を戻す | 利用者を特定しない |
1行目が、この構成でいちばん起きやすい失敗です。 ガイドラインは、推測の表現を避けて言い切りにすることを勧めつつ、言い切れないときは「〜かもしれません」「たぶん〜です」を使うとしています。生成AIは前半だけを守って短く言い切りがちなので、後半を指示に明記します。
母語の訳を原文から作るのは、誤りを重ねないためです。 やさしい日本語の訳から母語に訳すと、やさしい日本語で落ちた細かさが母語でも落ちます。
敬語は丁寧語だけにします。 申し送りの原文には「ご家族より連絡あり」「お休みになっている」のような尊敬語・謙譲語が混ざります。ガイドラインは、尊敬語と謙譲語を使わず、敬語は丁寧語だけにするとしています。誰がしたことかが分かりにくくなるからです。「ご家族から電話がありました」「寝ています」のように直させます。
指示内容を固定する
あなたは特別養護老人ホームで、介護の申し送りを外国人の介護職員が
読めるように訳す立場です。申し送りの1行ずつについて、
やさしい日本語の訳と、{language} の訳を作ってください。
【やさしい日本語の書き方】
- 1文に1つのことだけを書く。3つ以上のことは箇条書きにする
- 文末は「です」「ます」。指示は「〜してください」
- 時刻は「午後2時」のように午前・午後を書く。「〜」を使わず
「から」「まで」と書く
- 【用語集】の言葉は、用語集の言い換えを使う。大事な言葉は
そのまま残し、<=説明>を付ける(例:誤嚥<=食べ物が気管に入ること>)
- 漢字には( )でふりがなを付ける
【厳守事項】
- 確かさを変えないでください。原文が「かもしれない」「様子を見る」
「〜とのこと」なら、訳も「かもしれません」「様子を見ます」
「〜と聞きました」にしてください。言い切りにしないでください。
- 原文に無い指示や注意を足さないでください。
- 数字・時刻・単位・部屋の番号は、原文のとおりに書いてください。
丸めたり、別の単位に直したりしないでください。
- {language} の訳は、やさしい日本語の訳からではなく、原文から
作ってください。用語集に {language} の訳がある言葉はそれを使い、
無い言葉は no_glossary に書いてください。
- 症状の意味や、どうすべきかの判断を書かないでください。
- 利用者A などの記号を、元の氏名に戻そうとしないでください。
- 意味が取れない行は、推測で訳さず status を unclear にしてください。
【用語集】{glossary}
【確かさの言葉の一覧】{certainty_terms}
【単位の一覧】{units}
【申し送り(行の番号付き)】{handover_lines}
「言い切りにしない」を例を付けて書かないと、確かさが消えます。 生成AIは、やさしい日本語の決まりを「短く言い切る」と受け取ります。どの言葉をどの言葉にするかまで書いて、初めて残ります。
「原文に無い指示を足さない」も同じくらい大事です。 「発熱あり」の行に、生成AIは「水分をとってもらってください」と親切に足すことがあります。足された指示は、看護職員の指示ではありません。
出力形式を固定する
{
"handover_id": "H-0612-N",
"language": "vi",
"lines": [
{
"line_id": "H-0612-N-07",
"room": "302",
"easy_ja": "利用者A は、午後2時までに 水分(すいぶん)を 200 mL 飲(の)んでください。",
"native": "",
"back_translation": "",
"certainty": "confirmed",
"numbers": ["午後2時まで", "200 mL"],
"no_glossary": [],
"status": "ok"
}
]
}
JSON にする1つ目の理由は、照合を機械にできることです。 前処理で取り出した原文の数字・時刻・単位の組と、numbers と訳の文の中の数字を比べます。原文が「14時までに」で、訳が「午後2時に」なら、「まで」が落ちた食い違いとして印を付けます。
2つ目は、確かさを比べられることです。 前処理で原文の行に確かさの言葉があったのに、certainty が confirmed なら、確かさが変わった疑いとして印を付けます。 back_translation の中に確かさの言葉が残っているかも見ます。
スキーマは、Azure OpenAI の決まりに合わせます。 すべての項目を必須にし、すべてのオブジェクトに additionalProperties: false を付けます。minItems や pattern は使えないので、行の数と番号の形はプログラムで確かめます。
システムへ連携する
| つなぎ先 | 方式 | 内容 |
|---|---|---|
| 介護記録のソフト | 書き出しの CSV(共有のフォルダ) | 申し送りの行を取る |
| 勤務表・人事の一覧 | Power Automate が読む | 次の勤務の職員と母語 |
| Azure OpenAI | Chat Completions API(構造化出力) | 訳と逆向きの訳 |
| リーダー | Power Automate の承認 | 訳の確認と配布の承認 |
| 共有の端末 | SharePoint のページ | 原文・やさしい日本語・母語を並べて出す |
介護記録のソフトには書き込みません。 訳は記録ではなく、記録は原文だけです。 訳を記録に書き戻すと、どれが正の記録かが分からなくなります。
共有の端末に出す訳は、次の申し送りが出たら外します。 古い訳が残っていると、前の勤務の申し送りを今の申し送りと読み違えます。
人が確認する
- 食い違いの印を先に見る … 数字・時刻の食い違い、確かさが変わった疑いの行を見ます
- やさしい日本語の訳を原文と並べて読む … 意味が同じか、確かさが同じかを確かめます
- 母語の訳は、逆向きの訳で見る … 日本語に戻した文が原文と同じ意味かを確かめます
- 承認して配る … 直した行があれば、直してから承認します
- 直した行を記録する … どの行をどう直したかを残し、用語集と指示の見直しに使います
1番目を省かないでください。 時刻と量の食い違いは、そのまま次の勤務の水分や食事の量に出ます。機械が印を付けた行は、必ず原文と並べて見ます。
3番目の逆向きの訳は、母語の訳の正しさを保証しません。 逆向きの訳が正しくても、母語の訳が不自然なことはあります。月に1回、母語を話す職員(介護福祉士の資格を持つ先輩など)に、訳を数件読んでもらう時間を取ります。
目標は、1回3分で承認することです。 印の付いた行が無ければ、やさしい日本語の訳を流し読みして承認します。
承認が勤務の始まりに間に合わないときは、訳を出しません。 承認前の訳を「仮」として出すと、仮のまま読まれて動かれます。間に合わなかった回は、これまでどおり口頭で補い、承認の遅れを記録します。 遅れが続く時間帯は、締めの時刻を早めるか、承認する人を変えます。
例外に対処する
| 起きること | 対応 |
|---|---|
| 申し送りの書き出しが締めの時刻に無い | 訳を作らず、リーダーに知らせる。これまでどおり口頭で補う |
| 締めの後に申し送りが書き足された | 増えた行だけを訳し、追加の印を付けて出す |
| 入力が安全方針で止まる | 転倒の傷、褥瘡、自傷のおそれ、利用者の暴言・暴力の記録が既定の安全方針で止まることがある。止まった行は訳さず「原文を読んでください」と出し、リーダーが口頭で補う |
| 用語集に無い言葉が出る | no_glossary を一覧にし、人事と看護職員で用語集に足す |
| 数字・時刻の食い違いが直らない | その行の訳を出さず、原文だけを出す |
意味が取れない行(unclear) | 訳を出さず、リーダーが口頭で補う |
| 次の勤務の職員の母語が一覧に無い | やさしい日本語の訳だけを出す |
| 勤務表と実際に出勤した職員が違う | リーダーが画面から言語を足して作り直す |
| 共有の端末が使えない | 承認された訳を印刷し、原文と並べて渡す |
| 構造化出力の応答が途中で切れる | 応答の最大の長さを見直し、行を分けて呼び直す |
3行目は、介護の記録では避けて通れません。 既定の安全方針は、暴力・自傷などの区分を重大度で判定し、「中」以上を入力でも出力でも止めます。 公式のページは、分類のモデルが学習・評価された言語を日本語・英語・中国語など8つの言語と書いており、ベトナム語やネパール語の出力の判定は精度が変わりうるとしています。止まった行は訳さずに原文へ戻す、を決まりにします。設定の変更には条件があるため、変えるかどうかは施設の責任者と決めます。
記録を残す
- 申し送りの書き出しのファイルと、置き換えの前後の対応(施設の中だけに置く)
- 用語集の版と、確かさの言葉・単位の一覧の版
- 生成AIの入力と出力の全文(置き換えた後のもの)
- 照合の結果(数字・時刻・確かさの食い違いの印)
- リーダーが直した行と、直した内容
- 安全方針で止まった行の数と、そのときの対応
- 承認が勤務の始まりに間に合わなかった回と、その理由
5つ目が、用語集と指示を育てる材料になります。 同じ言葉で直しが続くなら、用語集の言い換えがリーダーの言い方に合っていません。
生成AIの入出力は、施設の側にだけ残します。 Responses API は既定で応答のデータを30日保持するので、この構成では Chat Completions API を使い、記録は施設の SharePoint に置きます。
04実装レベルの3段階
最小構成では、1日12回はさばけません。 確かめるための段階です。 半自動化で、1回10分が5分程度になります。 やさしい日本語の訳は自動で出ますが、母語での補いと配布が手で残ります。本格構成で3分になり、この段階が本記事の想定です。 段階を飛ばさないでください。 半自動化でやさしい日本語の訳を1か月出すと、用語集に足りない言葉と、リーダーが直す癖が分かります。用語集を整えてから母語の訳を足すと、母語の訳の質もそろいます。
05工数削減シミュレーション
導入後 360件 × 3分 ÷ 60 = 18 時間/月
自社条件で導入効果を整理したい方へ
このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。
06向いている企業・向いていない企業
- 特定技能・技能実習・介護福祉士の資格で働く外国人の介護職員を複数の国から受け入れている特別養護老人ホーム・介護老人保健施設・介護付き有料老人ホーム。申し送りの記録は日本語で書かれ、ユニットのリーダーが勤務の始まりに口頭で補い、要点をメモに書き直して渡している場合。夜勤の始まりなど、リーダーが補えない時間帯に外国人の職員が申し送りを読み違えた経験がある場合。
- 外国人の職員が日本語の記録を十分に読め、補う手間がほとんど無い場合。申し送りの記録を介護記録のソフトから取り出す手段が無く、手で写すしかない場合(先に記録の取り出し方を決める必要があります)。訳した申し送りだけで外国人の職員が判断して動く運用にしたい場合(この構成は読む助けで、原文が正であり、迷ったときはリーダーに確かめる運用が前提です)。
07最小構成で試す方法
- 先月の申し送りから、1ユニットの3日分(9回)を選ぶ(時刻と量の多い日を入れる)
- 利用者の氏名を記号に置き換える
- 手元のAIサービスに、施設の言葉の言い換えを10語ほど添えて貼り、「1行ずつやさしい日本語に訳してください。『かもしれない』『様子を見る』『とのこと』は言い切りにしないでください。数字と時刻は原文のとおりにしてください。原文に無い指示を足さないでください」と指示する
- 原文と訳を並べ、数字・時刻・確かさが同じかを自分で確かめる
- 外国人の職員に訳を読んでもらい、原文だけのときと比べて分かりやすいかを聞く
この段階で確かめたいのは、確かさと数字が訳で変わらないかです。 そこが守れれば、照合を機械にする意味があります。
| 出てきた内容 | 判断 |
|---|---|
| 確かさも数字もほぼ同じ | 書き出しの取得と、照合の処理の作成に進む |
| 「かもしれない」を言い切りにする | 指示に例を足して直る。照合の処理で拾う前提で構成は有効 |
| 原文に無い指示を足す | 指示で禁じ、足された文を照合で拾う |
| 施設の言葉を誤って訳す | 用語集を作るのが先 |
聞き取りでは、漢字かな交じりとひらがなのどちらが読みやすいかも聞きます。 ガイドラインは、漢字圏か非漢字圏かといった言語の背景によって、漢字かな交じりの文とひらがなの文を用意すると効果的としています。職員ごとに出し分けるかを、ここで決めます。
5番目の聞き取りを省かないでください。 ガイドラインの3つ目のステップは、外国人に伝わるかを確かめることです。リーダーが読みやすいと思っても、外国人の職員に伝わらなければ意味がありません。
08実装時につまずきやすいポイント
| 問題 | 対策 |
|---|---|
| 「かもしれない」が言い切りになる | 指示に言葉の対応を書き、確かさの印で照合する |
| 原文に無い指示が足される | 指示で禁じ、逆向きの訳で足された文を拾う |
| 「〜までに」が「〜に」になる | 時刻は「から」「まで」の語ごと照合する |
| 施設の中の言い方を誤って訳す | 用語集に意味を書き、単位の一覧を作る |
| 介護の記録が安全方針で止まる | 止まった行は訳さず原文に戻し、リーダーが口頭で補う |
| 母語の訳の質が分からない | 逆向きの訳と、月1回の母語を話す職員の確認 |
| 訳だけを見て動いてしまう | 原文と並べて出し、原文が正と画面に書く |
| 古い訳が端末に残る | 次の申し送りで外す |
| 利用者の氏名が生成AIに渡る | 前処理で必ず置き換える |
| 締めの後の書き足しが届かない | フォルダへの追加でも起動する |
上の2行が、運用に乗るかを決めます。 どちらも生成AIの「分かりやすく、親切に」する性質から出ます。申し送りでは、分かりやすさより、確かさと原文に無いことを足さないことが先です。
09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点
この構成で扱うデータ: 利用者の体調、病気、服薬、排せつ、行動の記録です。病歴などは、本人に対する不当な差別や偏見が生じないよう特に配慮が要る情報に当たります。
- 氏名を置き換えてから渡す … 訳に氏名は要りません。部屋の番号と記号で足り、置き換えの対応は施設の中にだけ置きます
- 利用者・家族への説明と施設の決まりを確かめる … 記録をクラウドで処理することを、個人情報の取り扱いの決まりと利用者への説明に含めます
- データの扱いを確かめておく … Azure OpenAI の公式のページは、プロンプトと出力が他の顧客や OpenAI に提供されず、基盤モデルの学習に使われないとしています。Global のデプロイでは処理がどの地域でも行われうるので、デプロイの種類を選びます
- 訳を記録にしない … 記録は原文だけです。訳は勤務の間だけ端末に出し、介護記録のソフトに戻しません
- 判断をこの構成に置かない … 症状の意味や対応の要否は、リーダーと看護職員が判断します
- 外国人の職員の評価に使わない … 誰がどの言語の訳を使ったかを、日本語の力の評価に使わないでください。訳は全員が安全に働くための道具です
- 訳を個人の端末に配らない … 訳には利用者の体調が書かれています。共有の端末で、勤務の間だけ読める形にします
誤りが起きた場合のリスクは、確かさや時刻が変わった訳で動くことと、訳が止まって申し送りが届かないことの2つです。 前者は照合とリーダーの確認で、後者は「止まったら原文と口頭」に戻る決まりで防ぎます。
10まず何から始めるか
1週目:用語集を作る
人事、看護職員、各ユニットのリーダーで、申し送りによく出る言葉を50語ほど集め、やさしい日本語の言い換えを1つに決めます。 施設の中の単位(本、包、割)の意味も書きます。
2週目:3日分で試す
1ユニットの3日分の申し送りを、手元のAIサービスで訳させます。確かさと数字が変わっていないか、原文に無い指示を足していないかを見て、外国人の職員に読んでもらいます。
3週目:書き出しと照合を作る
記録のソフトからの書き出しを定時に取り、置き換えと数字の照合の処理を作ります。この時点では母語の訳を作らず、やさしい日本語の訳だけを出します。
4週目:承認と表示を作る
リーダーの承認と、共有の端末への表示をつなぎます。
2か月目: 母語の訳と逆向きの訳、確かさの照合を足します。3か月目以降: リーダーが直した行を見て用語集と指示を直し、1回10分が何分になったかを実測します。夜勤の始まりに外国人の職員が原文と訳で申し送りを読めるようになった時点で、この構成は完成です。
11関連ユースケース
12この仕組みを理解するための記事
13技術仕様の確認日・参考情報
| 確認した内容 | 情報源 | 確認日 |
|---|---|---|
| やさしい日本語を、日本人にわかりやすい文章にする/外国人にもわかりやすく直す/日本語教師や外国人に伝わるか確認する、の3つのステップで作ることが重要とされること。一文に言いたいことは1つ、3つ以上は箇条書き、推測表現を避けて断定し、断定できない場合は「〜かもしれません」「たぶん〜です」を使うこと。時刻は午前・午後を明記し「〜」を使わず「から」「まで」と書くこと。重要な言葉はそのまま使い<=…>で説明すること。漢字にふりがなを付けること。文末を「です」「ます」で統一し、尊敬語・謙譲語を使わず敬語は丁寧語だけにすること。言語の背景(漢字圏・非漢字圏など)によって漢字かな交じりの文とひらがなの文を用意すると効果的とされること。2020年8月に出入国在留管理庁と文化庁が作成したこと | 出入国在留管理庁・文化庁: 在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン(2020年8月) | 2026-10-28 |
構造化出力が Chat Completions API(response_format)で使えること。すべての項目を必須にし、additionalProperties: false を設定すること。minItems・pattern などが非対応であること | Microsoft Learn: Azure OpenAI で構造化出力を使用する方法 | 2026-10-28 |
| 既定の安全方針(DefaultV2)が、憎悪・暴力・性的・自傷の4つの区分について、入力と出力の両方で重大度「中」以上を止めること。分類のモデルが中国語・英語・フランス語・ドイツ語・イタリア語・日本語・ポルトガル語・スペイン語で学習・評価され、ほかの言語では精度が変わりうること。設定の可否と承認の要否が制御ごとに異なること | Microsoft Learn: Default safety policies in Microsoft Foundry | 2026-10-28 |
| プロンプトと出力が他の顧客や OpenAI に提供されず、基盤モデルの学習に使われないこと。Global のデプロイではどの地域でも処理されうること | Microsoft Learn: Data, privacy, and security for Foundry Models sold by Azure | 2026-10-28 |
| Responses API で応答のデータが既定で30日保持され、保存された応答を ID で削除できること | Microsoft Learn: Azure OpenAI Responses API | 2026-10-28 |
申し送りの内容に基づく介護・医療の判断は、リーダーと看護職員が行ってください。 本記事は公式の文書で確認できた範囲だけを扱っています。
実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。
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