共同研究・委託開発の契約から、成果物の権利の帰属と実施条件を台帳にする
共同研究契約や委託開発契約の全文を入力に、成果物の権利が誰に帰属するのか、自社はどこまで使えるのかという知財の条件だけを抜き出し、条文の引用を添えた台帳の行の案を作ります。担当者の作業は、契約書を読んで書き写すことから、抜き出された結果を確かめることに変わります。
- 利用ツール
- ChatGPT/Claude/Gemini/Google Apps Script/Make/Power Automate
- 対象業界
- IT・SaaS/医療/商社/教育/製造
- 対象部門
- 法務/知財
- 対象業務
- 内容確認・チェック/台帳・マスタ管理
- 主な課題
- 属人化している/引き継ぎができていない/情報が見つからない
- AIで行う処理
- 抽出
- 主な効果
- 属人化解消/工数削減/検索時間短縮
- 導入難易度
- ★★☆☆☆
- 実装レベル
- 半自動化
- 費用感
- SaaS追加(小)
- 人間の確認
- 必須
01導入前 / 導入後の業務フロー
- 契約が締結されると、PDFがSharePointの契約フォルダに保存される
- 知財部の担当者が契約書を通読する
- 知財に関係する条項を探し、該当箇所に印を付ける
- 帰属、実施条件、出願手続、秘密保持の順に内容を読み解く
- Excelの知財台帳に、契約番号・相手方・帰属区分などを転記する
- 開発から問い合わせがあると、台帳を見て答える。台帳で分からなければ契約書を開く
- 締結済みの契約書PDFが、保管フォルダに保存される
- 自動保存を検知し、PDFの全文をそのまま処理に渡す
- 自動全文の中から、知財に関係する条項を特定する
- 自動権利の帰属、実施条件、出願の取り決めを、まとまりごとに分けて抜き出す
- 自動各項目に、条番号と条文の原文の引用を添える
- 自動台帳の1行分の案として構造化された形にまとめる
- 人知財担当が、引用と条文を突き合わせて確認し、直す
- 人確認済みの行を知財台帳に登録する
各工程の詳しい説明を読む
- 契約が締結されると、PDFがSharePointの契約フォルダに保存される
- 知財部の担当者が契約書を通読する
- 知財に関係する条項を探し、該当箇所に印を付ける
- 帰属、実施条件、出願手続、秘密保持の順に内容を読み解く
- Excelの知財台帳に、契約番号・相手方・帰属区分などを転記する
- 開発から問い合わせがあると、台帳を見て答える。台帳で分からなければ契約書を開く
問題は4つあります。
(a)条文の書きぶりが相手によって全部違う。 大学のひな形、受託先のひな形、自社のひな形で、同じことを違う言葉で書きます。「共有とする」「甲に単独で帰属する」「甲に帰属し、乙に対し通常実施権を許諾する」はいずれも帰属の定めですが、言葉で検索しても引っかかりません。
(b)開発の現場が知りたいのは条文ではなく答え。 「この成果、うちの別製品に使っていいですか」に即答するには、帰属・自社の実施可否・第三者への再実施の可否・独占か非独占か・期間・地域が、同じ形で並んでいる必要があります。
(c)「書いていない」がいちばん危ない。 不実施補償の定めが無い契約と、明示的に不要と書いてある契約は、意味がまったく違います。台帳の欄が空白だと、どちらなのか区別できません。
(d)契約が改定されると台帳が古くなる。 覚書や変更契約で実施条件が変わることがあります。追えていないと、台帳が嘘をつきます。
- 締結済みの契約書PDFが、保管フォルダに保存される
- 【自動】 保存を検知し、PDFの全文をそのまま処理に渡す
- 【自動】 全文の中から、知財に関係する条項を特定する
- 【自動】 権利の帰属、実施条件、出願の取り決めを、まとまりごとに分けて抜き出す
- 【自動】 各項目に、条番号と条文の原文の引用を添える
- 【自動】 台帳の1行分の案として構造化された形にまとめる
- 【人】 知財担当が、引用と条文を突き合わせて確認し、直す
- 【人】 確認済みの行を知財台帳に登録する
自動化されるのは「読む」「探す」「抜き出す」「並べる」の4つです。残るのは「抜き出された内容が条文と合っているかの確認」です。
7番目を軽く見ないでください。 権利の帰属を1文字間違えると、その契約に関する判断がすべて狂います。確認をとばす設計にはしません。
02今回想定するシステム構成
契約書PDFの保管フォルダ │ ▼【トリガー】新規ファイルの保存 │ ▼ 全文をそのまま渡す(分割・要約をしない) │ ├──▶ 知財条項の特定 │ ├──▶ 権利帰属の抽出 │ ├──▶ 実施条件の抽出 │ ├──▶ 出願の取り決めの抽出 │ └──▶ 条文番号と原文の引用を添える │ ▼ 台帳の行の案 ──【人が確認して直す】 │ ▼ 知財台帳へ登録
| 役割 | 想定する製品 | 代替候補 |
|---|---|---|
| 処理 | Gemini(Gemini API の構造化出力とロングコンテキスト) | Claude API、OpenAI API |
| 連携 | Google Apps Script | Power Automate、Make |
契約書の保管先は SharePoint を想定しますが、Google ドライブでも同じ形で組めます。台帳はスプレッドシートに置き、確認済みの行だけを人が登録します。台帳への自動書き戻しは行いません。
連携の層はできるだけ薄く作ります。 Google Apps Script に持たせるのは、フォルダの監視、契約書の受け渡し、結果をシートに並べることの3つだけです。条文をどう読むかの判断をスクリプトに書き始めると、ひな形が増えるたびに手が入ります。 判断は指示文と選択肢の定義に寄せ、スクリプトは運び役にとどめます。
この構成の土台は、ロングコンテキストです。 Gemini API は100万トークン以上の大規模なコンテキストウィンドウを持ちます。従来は8,000トークンから128,000トークンが一般的でした。100万トークンは、5万行のコードや小説8冊に相当する量です。契約書40ページは、分割しなくてもそのまま入ります。
これが効きます。古い部分を恣意的に切り捨てたり、要約してから渡したりする戦略が不要になると明記されています。契約書を章ごとに切って渡すと、「前条に定める成果物」のような参照が切れます。全文をそのまま渡せることが、契約書を扱ううえでの前提条件です。
ただし、同じ出典に注意すべき記述があります。単一の情報を探す場合は多くのケースで約99%の精度ですが、複数の情報を同時に探す場合は精度の幅が大きくなります。 また、コンテキストが長くなると最初のトークンまでの待ち時間が増えます。この2点が、次章の設計を決めます。
03どうやって実装するのか
処理の起点を決める
契約書PDFが保管フォルダに保存されたことを起点にします。締結後にPDFを所定のフォルダへ置く運用は、多くの会社ですでにあります。
改定にも同じトリガーを当てます。 覚書や変更契約も同じフォルダに入る運用にし、元契約と同じ契約番号で台帳の行を親子にします。 ここを設計しないと、(d)の「台帳が古くなる」が残ります。
入力データを集める
| データ | 中身 | 取得元 |
|---|---|---|
| 契約書PDF | 全文(表紙・目次・別紙を含む) | 保管フォルダ |
| 契約の基本情報 | 契約番号、相手方、締結日、契約種別 | ファイル名と台帳 |
| 帰属区分の選択肢 | 自社単独/相手単独/共有/記載なし | 自社で定義 |
| 既存の台帳 | 同じ相手方の過去の契約の行 | スプレッドシート |
| 自社ひな形の条番号 | ひな形ごとの知財条項の位置 | 知財部の資料 |
帰属区分の選択肢を先に決めることが、準備作業の中心です。 ここが決まっていないと、抜き出した結果を台帳の列に落とせません。
データの取得方法を決める
契約書PDF: 保管フォルダから取得します。スキャンしたPDFの場合は、文字が埋め込まれているかを先に確かめます。画像だけのPDFは、この構成の対象外にします。
契約の基本情報: ファイル名の規則(契約番号と相手方を含める)から機械的に取ります。
既存の台帳: 同じ相手方の過去の契約を引き、ひな形が同じなら条番号もほぼ同じという前提で、確認の順序を決めるのに使います。
AIへ渡す前に整形する
- 本文と別紙の分離 … 知財条項は本文にありますが、実施料や対象特許の一覧は別紙にあることがあります。両方を渡し、どちらから取ったかを記録させます
- 改定分の突き合わせ … 覚書がある場合は、元契約と覚書の両方を渡します。覚書で上書きされた条項を、元の条文で答えさせないためです
- ページ番号の付与 … 引用の確認を速くするため、全文にページ番号を残します
- 契約種別の判定 … 共同研究か、委託開発か、単純な業務委託かで、注目する条項が変わります。ファイル名と表題から判定します
- 秘密保持契約の除外 … 秘密保持契約だけの文書は、この台帳の対象外です。表題で弾きます
AIに処理させる
抜き出す項目は10種類です。
| 項目 | 見たいこと |
|---|---|
| 発明の帰属 | 契約から生まれた発明が誰のものか |
| 著作権の帰属 | プログラム・資料の著作権が誰のものか |
| ノウハウの扱い | 技術情報・データの帰属と利用の定め |
| 自社の実施の可否と範囲 | 独占か非独占か、地域、期間、分野の限定 |
| 第三者への再実施許諾の可否 | 子会社・外注先に使わせてよいか |
| 改良発明の扱い | 契約後に生まれた改良の帰属と実施 |
| 出願の手続 | 単独出願の可否、相手の同意の要否、費用負担 |
| 第三者への開示の制限 | 成果を外部に出すときの制約 |
| 契約終了後の権利の扱い | 終了後も実施できるか |
| 不実施補償の定め | 相手が実施しない場合の対価の定め |
1回の呼び出しで10項目すべてを取りにいきません。 出典に「複数の情報を同時に探す場合は精度の幅が大きい」とあるためです。「権利帰属」「実施条件」「出願手続」の3つのまとまりに分け、それぞれ別の呼び出しで取ります。 全文は毎回そのまま渡し、聞く内容だけを絞ります。
分け方は、契約書の中で条項がまとまっている単位に合わせます。 帰属の定めは1か所に集まっていることが多く、実施条件はその直後か別紙に、出願の手続はさらに別の条項に置かれます。探す範囲が近い項目どうしをまとめると、1回の呼び出しで見るべき場所が減ります。 逆に、帰属と出願費用を同時に聞くと、離れた条項を同時に探させることになります。
各項目には4つの値を持たせます。
| 値 | 中身 |
|---|---|
value | 固定の選択肢から選んだ区分 |
quote | 根拠になった条文の原文 |
article | 条番号(第◯条第◯項) |
confidence | explicit / inferred / not_stated |
confidence がこの構成の要です。 条文に明記されているのが explicit、書きぶりから読み取ったのが inferred、条項が無いのが not_stated です。inferred と not_stated は必ず人が読みます。
指示内容を固定する
あなたは共同研究契約・委託開発契約から、知的財産に関する条件だけを
抜き出す作業を支援する立場です。以下の契約書の全文を読み、
指定された項目について、条文に書かれている内容を抜き出してください。
【厳守事項】
- 条文に書かれていないことを書かないでください。
一般的な慣行や、他の契約でよくある内容で補わないでください。
- 該当する条項が見つからない場合は、value を not_stated にし、
quote と article を空にしてください。
「おそらく共有だろう」のような推測で埋めないでください。
- value は指定された選択肢の中からのみ選んでください。
選択肢に当てはまらない書きぶりの場合は other にし、
条文の原文を quote にそのまま入れてください。
- quote には、条文を要約せず、原文をそのまま入れてください。
複数の条項にまたがる場合は、該当する条項をすべて入れてください。
- article には条番号を入れてください。項や号まで特定できる場合は
そこまで書いてください。特定できない場合は空にしてください。
- confidence は次の3つから選んでください。
explicit(条文に明記されている)
inferred(条文の書きぶりから読み取った。断定されていない)
not_stated(該当する条項が無い)
- 覚書または変更契約が添えられている場合は、そちらの定めを優先し、
上書きされた元の条文を答えとして使わないでください。
- 契約の有効性や、条項が法令に適合しているかを判断しないでください。
書かれている内容を抜き出すだけにしてください。
【契約書の全文】
{contract_text}
【抜き出す項目と選択肢】
{field_definitions}
上記の契約書について、指定された項目を抜き出してください。
「条文に書かれていないことを書かない」が、この指示のいちばん重要な部分です。 知財条項は世の中に典型的な書きぶりがあるため、放っておくと「よくある内容」で欄が埋まります。 埋まった台帳は、空欄の台帳より危険です。
「有効性を判断しない」も必ず入れます。 この構成は条文を読むものであって、法的な評価をするものではありません。
指示文の最後に、もう一度「抜き出してください」と置いています。 出典にクエリはプロンプトの末尾に置くと性能が上がるとあるためです。契約書の全文を先に置き、聞きたいことを末尾に置く順序にします。
出力形式を固定する
{
"contract_no": "",
"counterparty": "",
"contract_type": "joint_research | commissioned_dev | service",
"fields": [
{
"key": "invention_ownership",
"value": "own_sole | counterparty_sole | joint | other | not_stated",
"quote": "",
"article": "",
"confidence": "explicit | inferred | not_stated"
}
],
"amended_by": [],
"needs_review": []
}
Gemini API の構造化出力は、レスポンス形式に MIME タイプ application/json とJSONスキーマを指定して受け取ります。ここで enum を使い、value を固定の選択肢に縛ります。 出典に、文字列型では分類タスク用に enum で特定の可能な文字列セットを列挙できると書かれています。
これを使わないと、台帳の列がそろいません。 「甲に帰属」「甲単独」「甲の単独所有」が別の値として入ってくると、あとで集計も検索もできません。選択肢に縛ることが、台帳を台帳にします。
スキーマの設計で注意する点があります。出典に、すべてのJSONスキーマ機能がサポートされるわけではなく、非常に大きい、または深くネストされたスキーマは拒否されることがあると明記されています。これも、10項目を一度に取らず3つのまとまりに分ける理由になります。 1回あたりのスキーマを浅く小さく保ちます。
オブジェクトには properties でプロパティ名とスキーマを、required で必須プロパティを指定します。quote と article を required に入れておくと、根拠のない値が返りにくくなります。 値が無い場合は空文字で返させ、confidence と組み合わせて意味を読み取ります。
システムへ連携する
| つなぎ先 | 方式 | 内容 |
|---|---|---|
| 保管フォルダ | 標準機能 | 契約書PDFの取得 |
| 生成AIサービス | API | 知財条項の抽出 |
| Google Apps Script | スクリプト | トリガーと呼び出しの制御 |
| スプレッドシート | 参照・追記 | 確認用の一覧と台帳 |
台帳への登録は人が行います。 抽出結果はいったん確認用のシートに出し、人が確認したものだけを台帳の行にします。 自動で台帳を書き換えると、間違いが入ったことに誰も気づけません。
Google Apps Script を使うのは、スプレッドシートを確認画面として使えるためです。 Power Automate や Make でも同じ構成が組めます。
人が確認する
全件、人が確認します。 とくに次の3つは必ず読みます。
confidenceがinferredの項目(条文が断定していない)confidenceがnot_statedの項目(条項が無い)valueがotherの項目(選択肢に収まらない書きぶり)
確認を速くするための設計が重要です。
quoteを項目のすぐ下に展開しておく(契約書PDFを開かせない)articleから契約書の該当ページへ飛べるようにする- 同じ相手方の過去の契約の値を横に並べる(ひな形が同じなら値も同じはず)
inferredとnot_statedの項目を上に出すexplicitの項目は既定でたたんでおく
確認にかかる時間の目標は、1件15分です。 それ以上かかるなら、選択肢の定義が現場の契約に合っていません。
例外に対処する
| 起きること | 対応 |
|---|---|
| 画像だけのPDFで文字が取れない | 対象外にして人手に回す。推測で処理させない |
| 知財条項が見つからない | すべての項目を not_stated にし、needs_review に入れる |
| 覚書で条件が変わっている | 元契約と覚書を同時に渡し、amended_by に覚書の番号を残す |
| 条文の書きぶりが選択肢に収まらない | other にして原文をそのまま quote に入れる |
| 「共有」とあるが持分の定めが無い | 持分は not_stated として残す。均等と決めつけない |
| 別紙に条件が書かれている | 別紙も渡し、article に別紙の番号を入れる |
| 契約書が長く待ち時間が延びる | 非同期で処理し、確認シートに順次追加する |
| 同じ契約が二重に保存された | 契約番号で突き合わせ、既存の行があれば新規作成しない |
| 抽出結果が前回と食い違う | 両方を残して人に見せる。上書きしない |
| 英文契約が混ざる | 対象言語を先に決める。混在する場合は分けて運用する |
記録を残す
- 抽出に使った契約書のファイル名とページ数
- 抽出結果の全項目(
valuequotearticleconfidence) - 人が直した項目と、直す前の値
- 台帳に登録した日時と担当者
- 覚書による上書きの履歴
3つ目を残すと、この構成の弱点が見えます。同じ項目が毎回直されているなら、選択肢の定義か指示文に原因があります。 直した箇所の傾向が、そのまま改善点になります。
quote は台帳に残します。 開発から問い合わせが来たときに、「契約書のどこにそう書いてあるのか」をその場で示せます。これが台帳の信頼の土台です。
04実装レベルの3段階
最小構成だけでも、60分が35分程度になります。 通読が消えるためです。この段階の効果がいちばん大きく、作るのに時間もかかりません。 半自動化で35分から25分程度になります。 確認シートに quote が並ぶことで、契約書PDFを開く回数が減ります。本格構成で21分程度になりますが、覚書の管理を作り込む必要があります。 月20件の規模なら、半自動化で止めても十分です。 本格構成の価値が出るのは、改定が多く、1つの契約に覚書が何本もぶら下がる場合です。
05工数削減シミュレーション
導入後 20件 × 21分 ÷ 60 = 7 時間/月
自社条件で導入効果を整理したい方へ
このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。
06向いている企業・向いていない企業
- 大学・研究機関との共同研究や、開発の一部を外部に委託することが月に十数件以上ある企業。契約書は法務が保管しているが、知財の条件を知りたいのは開発と知財の担当者で、そのたびに契約書を開いている場合。契約の相手ごとにひな形が違い、知財条項の書きぶりがそろっていない場合。
- 外部との共同開発がほとんど無い場合。契約がすべて自社ひな形で、知財条項の書きぶりが1種類しかない場合。契約管理システムで知財条項まで構造化して管理できている場合。成果物の権利の判断そのものを機械に任せたい場合も、この構成では対応できません(抜き出すのは条文に書かれた条件だけです)。
07最小構成で試す方法
- 過去の契約書を3件選ぶ(大学のひな形、受託先のひな形、自社ひな形を1件ずつ)
- 帰属区分の選択肢を紙に書き出す(自社単独/相手単独/共有/記載なし/その他)
- AIの画面に契約書の全文を貼り、「発明の帰属について、条文の原文と条番号を添えて答えてください。書かれていない場合は記載なしとしてください」と指示する
- 自分が読んだ結果と比べる
この3件だけは必ずやってください。 ひな形によって、抜き出しやすさがまったく違います。
判断の目安は次のとおりです。
| 抽出の正しさ | 判断 |
|---|---|
| 3件とも条番号まで合っている | 自動化する価値が大きい。項目を10種類に広げる |
| 帰属は合うが実施条件がずれる | 選択肢の定義を細かくする。地域・期間・分野を分ける |
| 「記載なし」を推測で埋めてくる | 指示文の制約を強める。直らないなら対象外の項目にする |
3つ目が出たら、そこで止めてください。 推測で埋まる台帳を作るくらいなら、その項目は空欄のまま人が埋めるほうが安全です。
08実装時につまずきやすいポイント
| 問題 | 対策 |
|---|---|
| 選択肢を決めないまま始める | 帰属区分と実施条件の選択肢を先に紙で決める。ここが全部の土台 |
| 書いていない項目が埋まる | not_stated を必ず選べる選択肢に入れ、指示文で推測を禁じる |
| 10項目を1回で取ろうとする | 3つのまとまりに分ける。複数を同時に探すと精度の幅が大きい |
| 契約書を分割して渡す | 分割しない。参照が切れて「前条に定める」が解けなくなる |
| スキーマを深くしすぎる | 大きい・深いスキーマは拒否されることがある。浅く小さく保つ |
| 覚書を見落とす | 元契約と覚書を同時に渡し、amended_by に残す |
| 条番号が合わない | article を必須にし、確認時に必ず突き合わせる |
| 別紙の条件を取りこぼす | 別紙も入力に含め、どこから取ったかを記録させる |
| 台帳に自動で書き戻す | 書き戻さない。確認シートを挟み、人が登録する |
| 画像だけのPDFが混ざる | 文字が取れるかを先に判定し、取れないものは対象外にする |
| 待ち時間が長いと言われる | 長いコンテキストは最初のトークンまでの待ち時間が増える。非同期にする |
09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点
この構成で扱うデータ: 締結済みの契約書の全文、相手方の名称、共同研究の対象技術、実施料や費用負担の条件。未公表の技術情報と、相手方の秘密情報が含まれます。
- 秘密保持義務との関係 … 契約書そのものが秘密保持の対象であることがあります。外部のAPIに渡してよいかを、契約ごとに確認してください。 第三者への開示の制限に、委託先への開示の扱いが書かれている場合があります
- 外部AIへの入力可否 … 入力を学習に使わないことが契約で保証されるサービスを選んでください。 社内規程で外部送信が禁じられている契約種別がある場合は、対象から外します
- アクセス権限 … 台帳の閲覧範囲を、知財部・法務部と、必要な開発部門に限定します。契約書の全文と台帳では、必要な権限が違います
- 判断の代替にしない … 抜き出すのは条文に書かれた内容だけです。その条件で何ができるかの判断は、知財部と法務部が行います。 台帳は判断の材料であって、判断そのものではありません
- 保持期間 … 抽出結果と
quoteは、契約の有効期間を超えて残す必要があります。契約終了後の権利の扱いを問われるためです - 自動実行してよい範囲 … 台帳への登録は人が行います。権利の帰属が誤って登録されると、それに基づく事業判断が誤ります
誤りが起きた場合のリスクは、権利の帰属や実施範囲の取り違えによる、契約違反または事業機会の取りこぼしです。とくに「記載なし」を有利な内容で埋めてしまう誤りが、いちばん危険です。 confidence が inferred と not_stated の項目は必ず人が読む運用を、担当者全員で徹底してください。
10まず何から始めるか
1週目:選択肢を決める
帰属区分(自社単独/相手単独/共有/その他/記載なし)と、実施条件の持ち方(独占か非独占か、地域、期間、分野)を紙に書き出します。ここを決めずに始めると、抜き出した結果を置く場所がありません。 半日の作業です。
2週目:3件で試す
大学のひな形、受託先のひな形、自社ひな形を1件ずつ選び、契約書の全文を渡して発明の帰属だけを抜き出させます。条番号まで合っているかを見てください。
3週目:項目を広げる
10項目に広げ、3つのまとまりに分けて呼び出す形にします。この段階で confidence を入れ、inferred と not_stated が正しく付くかを確かめます。
4週目以降: 新規に締結された契約で1か月回し、60分が何分になるかを実測します。人が直した箇所を記録してください。 同じ項目が繰り返し直されるなら、選択肢の定義に原因があります。
2か月目以降: 覚書の突き合わせと、過去契約との比較を足します。改定を追えるようになって、はじめて台帳が信頼できるものになります。
11関連ユースケース
12この仕組みを理解するための記事
13技術仕様の確認日・参考情報
| 確認した内容 | 情報源 | 確認日 |
|---|---|---|
| Gemini API が100万トークン以上の大規模なコンテキストウィンドウを持ち、従来は8,000トークンから128,000トークンが一般的であったこと。100万トークンが5万行のコード、5年分のテキストメッセージ、小説8冊、200エピソードのポッドキャストに相当すること。古いメッセージを恣意的に切り捨てたり内容を要約したりする従来の戦略が不要になること。再利用するコンテキストをキャッシュするとリクエストあたりの入力・出力コストを下げられ、保存は時間単位の課金であること。単一の情報を探す場合は多くのケースで約99%の精度である一方、複数の情報を同時に探す場合は精度の幅が大きいこと。クエリをプロンプトの末尾に置くと性能が上がること。コンテキストが長くなると最初のトークンまでの待ち時間が増えること | Gemini API: Long context | 2026-09-22 |
Gemini API の構造化出力が、レスポンス形式に MIME タイプ application/json とJSONスキーマを指定して受け取る方式であること。サポートされる型が string number integer boolean object array null であり、null は type を配列にして含めること。オブジェクトで properties required additionalProperties を指定できること。文字列で enum による分類用の選択肢の列挙と format による構文指定ができること。数値で enum minimum maximum、配列で items minItems maxItems を指定できること。すべてのJSONスキーマ機能がサポートされるわけではなく、非常に大きい、または深くネストされたスキーマは拒否されることがあること | Gemini API: Structured output | 2026-09-22 |
契約書に書かれた知的財産に関する条件の解釈と、それに基づく事業上の判断は、自社の知財部門・法務部門および必要に応じて外部の専門家が行うものです。本記事は条文に書かれている内容を抜き出して一覧にする構成を示したものであり、権利関係についての判断を代替するものではありません。
実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。
自社の業務に使えるAI活用候補を整理します
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