預かった資料はAIに入れてよい?|取引先の情報を扱う線引き

「社外に配っているわけではないので、預かった資料を要約させるくらいは大丈夫だと思っていました」「相手に断りを入れる必要があるとは、正直なところ考えたこともありませんでした」——取引先から受け取った資料をAIに読ませている現場で、いちばんよく耳にする言い方です。ここには誤解が1つ混ざっています。社外に配っていないことと、資料が自社の中にとどまっていることは、まったく別の話だからです。外部の道具に入れた時点で、その資料は預かった範囲の外に出ていることがあります。この記事では、取引先や顧客から預かった資料をAIに入れてよいかを、5つの軸で順番に判断する形に整理します。
カメ先生預かった資料をAIに入れてよいかは、情報が漏れるかどうかで決まると思われがちなんだ。でも実際に問題になるのは、漏れたかどうかより、取り決めで約束した目的の外で使ったかどうかのほうでね。
カメ子漏れていなくても、約束に反することがあるということですか。
カメ先生そうなんだ。検討のために受け取った資料を、自社の道具を賢くするために使えば、情報は一歩も外に出ていなくても目的の外の使い方になる。逆に、目的の中の作業であれば、外の設備を通ること自体がただちに違反になるとは限らないんだよ。
カメ子漏れたかどうかと、目的の内か外かは、別々に見るのですね。どちらから先に確かめればよいのでしょう。
- 見る書類は1通で終わらない。秘密保持の取り決めのほかに、業務委託の基本契約・個別の発注書・データの取り扱いの特約にも条件が置かれる
- 判断の軸は5つ。目的の条項/手段としての入力か学習のための入力か/学習に使われない設定/保存先と保存期間/再委託にあたるか
- 入れてよいかの最終判断は人が持つ。入れた記録・設定の証跡・削除の記録を残しておく
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「社外に出していないから大丈夫」が通らない理由
この言い方で想定されているのは、資料を誰かに配ったり、別の会社に渡したりしていない、という状態です。たしかに配ってはいません。ただ、外部の道具に文章や資料を入れるという操作は、配ることとは別の経路で同じ結果に近づきます。入れた内容は自社の設備を離れて提供元の設備に届き、多くの場合はそこで一定期間保存されます。自社の中で使っているつもりでも、資料は自社の外に届いています。
ここで効いてくるのが、秘密保持の取り決めにある第三者への開示の条項です。不正競争防止法は第2条第6項で、営業秘密を、秘密として管理されている生産方法・販売方法その他の事業活動に有用な技術上または営業上の情報であって公然と知られていないもの、と定めています。法律事務所の解説では、この営業秘密における「開示」とは第三者に知られる状態に置くことを指すと整理されており、秘密保持の取り決めのもとでは原則として「開示」に当たる前提で判断すべきだと述べられています。つまり実際に誰かが読んだかどうかではなく、読める状態に置いたかどうかで見る、という考え方です。この視点で見ると、社外に配っていないという説明は、そのままでは説明になっていません。
もっとも、入れたらすべて違反になるという話でもありません。同じ解説では、生成AIへの入力は目的を達成するための手段にすぎないので、契約で定めた目的の範囲内での取扱いである限り、入力がただちに目的外利用の禁止に触れるわけではないとも書かれています。入れたか入れていないかではなく、何のために入れたかで結論が変わるということです。だから判断は、次の章から見る軸を順番に当てていく形になります。
見る書類は、秘密保持の取り決め1通では終わりません
最初に起きる実務の詰まりは、確認しようとした担当者が秘密保持の取り決めだけを読んで、書いていないから問題ないと結論を出してしまうことです。法律事務所の解説でも、この種の条件は1通で完結しないことがあり、業務委託の基本契約、個別の発注書、セキュリティの確認票、データの取り扱いの特約にも、利用の方法や委託先についての条件が置かれると指摘されています。
実務でいちばん見落とされるのが、個別の発注書に付いてくる条件と、取引開始時に出したセキュリティの確認票です。確認票は自社が相手に提出した書類なので、社内では契約と同じ扱いにされていないことがあります。ところがそこに書いた回答は、相手から見れば守ると宣言した内容です。外部の道具を使わないと書いていれば、契約本体に禁止の条項が無くても、約束を破ったことになります。
だから確認の順番は、取り決め、基本契約、発注書、特約、確認票の5点セットで固定します。5点を1つの束にして、案件ごとに保管場所を決めておくと、確認にかかる時間は最初の1回で済みます。なお、これらの条項をどう書くかそのものは別の記事の領分です。ここで扱うのは、既にある取り決めを読む側の手続きだけになります。
判断の軸は5つ。上から順に当てていく
ここからが判断の本体です。軸は5つあり、上から順に当てます。1つ目が取り決めの目的の条項、2つ目が入力の性質、3つ目が学習に使われない設定、4つ目が保存先と保存期間と閲覧できる人、5つ目が再委託にあたるかどうか。上の軸で止まったら、下の軸は見ません。目的の外の使い方であれば、設定がどれだけ厳しくても結論は変わらないからです。
順番があることには実務上の意味があります。多くの現場では、3つ目の設定の話から入ります。学習に使われない設定になっているから大丈夫だ、という進み方です。ところが設定は、目的の外の使い方を目的の中に変える力を持ちません。設定の確認から入ると、いちばん重い判断を飛ばしたまま結論を出すことになります。順番は運用の紙に明記して、飛ばせないようにします。
現場に渡す形は、5行の確認票が扱いやすくなります。各行に軸の名前、確かめる場所、確かめた結果、確かめた人と日付の欄を置きます。5行すべてが埋まって初めて入れてよい、という決まりにします。埋まらない行が1つでもあれば入れない。判断の迷いをこの1本の決まりに集約しておくと、案件ごとの押し問答が起きなくなります。
軸1:取り決めの目的の条項に、何と書いてあるか
最初に読むのは目的の条項です。秘密保持の取り決めでは、秘密情報の取扱いについて、取引開始の検討という目的、業務提携の可能性の検討という目的など、契約で定めた特定の目的の範囲内でのみ行うことができる旨が規定されているのが通例だと、法律事務所の解説では説明されています。つまり目的は契約ごとに違い、資料ごとに違うということです。
読むときの要点は、目的の文言がどこまで広いかを見ることです。取引の検討のためとだけ書かれていれば、検討に必要な作業は広く入ります。一方で、特定の案件の見積もりの作成のためと限定されていれば、その案件の見積もり以外に使うことはできません。ここで自社がやろうとしている作業が、その目的の中に収まっているかを言葉で書き出します。書き出せないなら、収まっていない可能性が高いと考えます。
目的の条項が見当たらない、あるいは読んでも判断が付かない場合の扱いも決めておきます。実務で安全なのは、判断が付かないものは入れない側に倒し、相手に確かめる手続きへ回すことです。迷ったら入れないという既定値を先に置いておくと、現場が個別に判断しなくなります。既定値を書いていない会社では、忙しい日ほど入れる側に倒れます。
軸2:手段としての入力と、学習のための入力は別物です
2つ目の軸が、この記事でいちばん誤解の多いところです。法律事務所の解説では、生成AIへの入力は目的達成のための手段にすぎないので、契約で定めた目的の範囲内での取扱いである限り、入力がただちに目的外利用の禁止に抵触するわけではないとされています。見積もりを作るために資料を読ませて要点を整理する、といった使い方は、目的の中の作業に当たりうるということです。
一方で同じ解説は、受領した秘密情報を、自社が利用する生成AIのモデルの学習の目的で利用した場合や、契約で定めた目的から離れた自社の研究開発能力の向上のための追加の学習に利用した場合などは、目的外利用に該当する可能性があると述べています。この2つの違いは操作の見た目では区別できません。同じ画面に同じ資料を入れても、その作業が相手との約束の中の仕事かどうかで、結論が反対になります。
だから運用の紙には、入れてよい作業の名前を具体的に書きます。この案件の見積もりの根拠を整理する、受け取った要件を一覧に直す、といった書き方です。逆に書いてはいけない作業も名前で挙げます。社内の道具を賢くするために資料を集める、他の案件でも使える型を作る、といったものです。作業の名前で書いておくと、現場は自分の手を動かす前に自分の作業がどちらかを判断できます。
軸3:学習に使われない設定になっているか、どこで確かめるか
3つ目の軸が設定です。ここで確かめるのは、入れた内容が提供元のモデルの学習やサービスの改善に使われるかどうか。確かめる場所は道具の画面ではなく、規約と契約の文面です。画面の切り替えだけを見て判断すると、プランによって扱いが違う場合や、外部の連携を通したときだけ扱いが変わる場合を取りこぼします。
法律事務所の解説では、相手の黙示の承諾が認められる方向に働く要素として、入出力が機械学習の目的に使われないこと、応答の出力以外の目的に使われないこと、開示の範囲外の利用者に反映されないこと、提供元が契約上の守秘の義務を負っていること、利用者の承諾なく閲覧されないこと、国際的な情報管理の規格に適合していること、通信時と保存時に暗号化されていること、提供元でデータを保存しない仕様であることが挙げられています。8つのうちいくつが満たされるかを確認票に書き出すと、社内で説明できる形になります。
注意したいのは、これらが満たされていても、それは黙示の承諾が認められる方向に働く要素であって、承諾そのものではないという点です。設定が厳しいことは、相手に確かめない理由にはなりません。設定の確認は、相手に確かめるときに示す材料を作る作業だと位置づけておくと、順番を間違えません。契約に外部の道具への入力を禁じる条項がある場合、黙示の承諾は認められにくくなるとも指摘されています。
軸4:保存先と保存期間、そして誰が見られるか
4つ目は、入れた後に情報がどこにどれだけ残るかです。確かめる項目は5つあります。保存される期間、保存される場所、人が閲覧する条件、削除の方法、そして控えから消えるまでの期間。最後の1つは見落とされやすく、削除の操作をしても控えの側に一定期間残る仕様であれば、相手に説明するときの前提が変わります。
保存される場所は、国内か国外かだけでなく、どの事業者の設備かまで見ます。取り決めの中に、情報を保管する場所についての条件や、持ち出しについての条件が置かれていることがあるためです。場所の条件は、目的の条項とは別に書かれていることが多いので、束にした5点セットを最後まで読みます。担当者が最初の1ページで判断を止めると、ここを飛ばします。
人が閲覧する条件も具体的に押さえます。不正の検知や品質の確認のために提供元の担当者が内容を見る場合がある、という定めは珍しくありません。これが分かっていれば、相手に確かめるときに事実として伝えられます。確かめた内容には必ず確認日を添えます。規約は改定されるので、日付の無い確認結果は半年後には使えません。
軸5:再委託にあたるかどうかを、契約の言葉で判定する
5つ目は、外部の道具を使うことが再委託に当たるかどうかです。業務委託の基本契約に、再委託には事前の承諾が必要だという条項が置かれていれば、道具の利用が再委託に当たるかどうかが直接の争点になります。ここは契約の文言に依存するので、一般論で決めずに、その契約の再委託の定義を読みます。処理を外部に行わせることを広く含む書き方であれば、承諾の手続きが必要になる可能性が高くなります。
個人を特定できる情報が混ざっている場合は、もう1つ見る条文があります。個人情報保護法の第27条第5項第1号にある委託の規定です。この条文は令和2年の改正を経た現在の条文で、その改正は2022年4月に全面施行されています。法律事務所の解説では、委託の範囲との関係も論じられており、委託元の企業自身が利用するサービスの機能の改善の目的であれば許容される場合があると示唆されています。ただしこれは場合によるという書き方であって、常に許されるという意味ではありません。個人を特定できる情報が入っているときは、社内の個人情報の担当に必ず回します。
実務では、5つ目の軸で止まる案件がいちばん多くなります。止まったときの進め方は決まっていて、相手の承諾を取りに行くか、入れない道を選ぶかの2択です。承諾を取りに行くと決めたなら、次の章で見る7つの項目をそろえてから連絡します。承諾の依頼は、何をどう使うかを具体的に書いたときにだけ返事が返ります。抽象的に許可を求めると、相手も判断できないので保留になります。
資料の種類ごとに、可否と条件が変わります
5つの軸は同じでも、どの軸で止まるかは資料の種類によって変わります。現場で扱う機会が多い5種類について、いちばん効く軸と、そのまま入れてよいかの目安、入れるなら先に何をするかを並べたのが次の表です。目安とあるのは、最終的には個々の契約の文言で決まるためで、この表は社内で議論を始めるための出発点として使います。
| 預かった資料の種類 | いちばん効く軸 | そのまま入れてよいか | 入れるなら先にすること |
|---|---|---|---|
| 提案を依頼された資料 | 目的の条項 | 原則として入れない | 使い方を具体的に示して相手の承諾を取る |
| 設計や仕様の資料 | 目的の条項と再委託 | 入れない | 図と数値は外し、必要な部分は自分で書き直して使う |
| 取引先の、そのまた顧客の情報 | 再委託と個人の情報の扱い | 入れない | 名前と連絡先を落とす。落としきれないなら入れない |
| 価格や取引の条件が書かれた資料 | 目的の条項と保存 | 条件付きで入れられることがある | 保存の条件を確かめ、社名と金額を伏せる |
| 個人を特定できる情報を含む資料 | 委託の範囲と本人への説明 | 入れない | 委託の範囲に収まるかを確かめ、必要なら本人への説明まで戻る |
表の中でいちばん誤解が多いのが1行目です。提案を依頼された資料は、社外に配るものではないため軽く扱われがちですが、目的の条項がその案件の検討に限定されていることが多く、要約させる作業が目的の中に収まるかどうかは自明ではありません。受け取ってすぐ読ませる、という流れをまず止めるところから始めます。
4行目の価格や取引の条件は、条件付きと書きましたが、条件の中身は軽くありません。保存されない設定であること、社名と金額が伏せられていること、そして目的の中の作業であること。3つがそろって初めて条件付きになります。条件付きという欄を作ると、現場は条件を読まずに入れてよい側に分類しますので、条件は必ず同じ行に書いておきます。
入れる前に踏む5つの工程
軸と資料の種類が整理できたら、現場が実際に踏む手順に落とします。工程は5つです。判断を迷ったときに立ち止まる場所を作っておくことが目的なので、順番を入れ替えないようにします。特に4つ目は、相手の返事を待つ間に作業を止めないための工夫として効きます。
5工程のうち、現場から抵抗が出るのは2つ目です。5点を読むのは時間がかかるからです。ただしこれは案件ごとに最初の1回だけで、2回目以降は束を開くだけになります。時間がかかるのは書類を探す時間であって、読む時間ではありません。案件の開始時に束を作る決まりにすれば、この工程は数分で終わります。
選べる手は4つ。入れない道も同じ並びに置く
判断の結果として選べる手は4つです。相手に確かめる、伏せて入れる、要約だけを自分で作る、そもそも入れない。4つを同じ並びに置くことに意味があります。入れる方法を探す作業になってしまうと、伏せ方の工夫ばかりが増えて、いちばん確実な手が候補から外れるからです。
- 相手に確かめる:時間はかかるが、承諾が取れれば以降の同種の案件でも使える。承諾の範囲を文面で残す
- 伏せて入れる:相手の名前や金額を落として入れる。落としきれるかどうかは資料の形式によるので、毎回見極める
- 要約だけを自分で作る:資料は入れず、自分で書いた要約や論点のメモだけを入れる。預かった資料そのものは外に出ない
- そもそも入れない:件数として多くてよい。手を動かす時間は増えるが、後から説明できなくなる事態は起きない
4つのうち、実務でいちばん使われるべきなのに使われていないのが3つ目です。預かった資料を入れなくても、自分が理解した内容を自分の言葉で書いて、その文章について相談する形にすれば、目的の条項にも第三者への開示にも触れません。入れたいのは資料ではなく、資料から立てた問いであることが多いという点に気づくと、この手が使える場面は思ったより広くなります。
1つ目を選ぶときの注意は、承諾の範囲を決めて文面に残すことです。口頭でよいと言われただけでは、相手の担当者が代わった時点で消えます。承諾は、対象の資料・使う作業・使う期間の3つを書いた文面で残します。3つが書かれていない承諾は、後で範囲の争いになります。
相手に確かめるとき、何を示せば返事が返るか
承諾を求める連絡で最も多い失敗は、抽象的に聞いてしまうことです。生成AIを使ってよいかと尋ねると、相手も判断の材料を持たないので、社内で確認しますと言ったまま止まります。法律事務所の解説では、承諾を得るときに示す項目として、利用の目的、使うサービス、契約のプラン、入れる情報、保存と学習の条件、委託先、削除の方法が挙げられています。
この7項目を日本語で並べ直すと、連絡文の骨格がそのまま出来上がります。何のために使うのか、どの道具のどの契約で使うのか、どの資料のどの部分を入れるのか、学習に使われない設定であること、どこにどれだけ保存されるのか、ほかに渡る先があるか、終わった後にどう消すか。7項目が埋まった連絡には、たいてい数日で返事が返ります。埋まっていない連絡は、返事が返らないのではなく、返せないだけです。
返ってきた承諾は、案件の書類の束に一緒に入れます。次に同じ相手と同じ種類の案件を扱うときの出発点になるからです。あわせて、承諾に期限があるかどうかを必ず確かめます。契約の期間に合わせて区切られていることがあり、期間を過ぎた後も同じ承諾で使い続けると、また目的の外に出てしまいます。
伏せて入れれば安全、とは限りません
4つの手のうち2つ目の伏せて入れる形は、手軽に見えて落とし穴が多い方法です。社名と金額を伏せても、資料の様式、図の形、記載の順番、特徴のある条件の組み合わせから、どこの資料かが読み取れることがあります。特に業界が狭い場合、条件の組み合わせだけで相手が特定できます。伏せる作業は、読み取れなくすることではなく、読み取りにくくすることにしかならないと理解しておきます。
もう1つの落とし穴は、伏せる作業そのものをAIにやらせてしまう形です。伏せてくださいと頼んだ時点で、伏せる前の原文が道具に入っています。順番が逆になっているので、伏せた意味がまったくありません。伏せる作業は、道具に入れる前に自分の手で終わらせます。この1点だけは例外を作らないほうが安全です。
伏せた版を作ったら、その版の管理も決めます。伏せた版と元の版が同じ場所に並んでいると、次の担当者が間違えて元の版を入れます。保存する場所を分け、伏せた版のファイル名に分かる印を付けます。事故は判断を間違えたときではなく、取り違えたときに起きます。置き場所を分けるだけで、この型の事故はほとんど消えます。
事故は、だいたい同じ形で起きます
実際に問題になった案件の話を集めると、原因は判断の難しさではなく、手順を踏まなかったことに集中します。判断が難しい案件は、そもそも担当者が立ち止まるので事故になりにくく、簡単に見える案件ほど確認を飛ばします。次に挙げるのは、現場で繰り返し起きる形です。
- 受け取った提案依頼の資料を、そのまま外部の道具に読ませて要約する:目的の条項が案件の検討に限られていると目的外利用の禁止に触れ、資料を返しても取り消せない
- 個人向けの契約のまま、預かった資料を入れる:入れた内容が学習に使われない設定になっておらず、後から止める手立てがない
- 社内の承認だけを取って、相手に確かめずに入れる:社内の承認は相手との取り決めを上書きしないので、承認した人まで巻き込むことになる
- 伏せる作業そのものをAIに任せる:伏せる前の原文が先に入っているので、伏せた意味がなくなる
- 入れた記録を残さない:後から問われたときに、入れたことも入れていないことも示せない
5つに共通するのは、どれも1つの操作で完結してしまう点です。止める仕掛けが無ければ、忙しい日には必ず起きます。だから対策も操作の側に置きます。預かった資料の保存場所を分ける、その場所のファイルを開いたときに確認票へ誘導する、道具の契約を業務用のものに統一する。気をつけるという対策は、5つのどれにも効きません。
記録に何を残し、どこをAIに判断させないか
事故が起きたとき、あるいは相手から問い合わせが来たときに示せるのは記録だけです。残す項目は、使ったサービスの名前、契約のプラン、規約を確かめた場所と日付、学習への利用の有無、保存の条件、承認した人、そして次に見直す日。法律事務所の解説でも、ほぼ同じ項目が確認票として挙げられています。1件につき1行で足ります。
- 承諾のやり取りは口頭ではなく文面で残す。相手の担当者が代わると、口頭の合意は消える
- 道具の規約は改定される。確かめた日を書いておかないと、いつの規約を見たのかが分からなくなる
- 削除の記録は、控えから消えるまでの期間も含めて残す。消したという操作だけでは足りない
- 入れなかったと判断した件も1行残す。後から同じ資料を別の担当が入れる事故を防げる
この判断にAIを使うなら、任せる範囲を先に区切ります。向いているのは3つです。資料を出どころで振り分ける下書きを作ること、規約の長い文面から確かめたい5項目にあたる箇所を抜き出すこと、確認票の記入の抜けを指摘すること。いずれも材料を作る作業です。要約や抜き出しをさせるときは、元の文のどこからそう書いたのかという根拠を必ず添えさせます。根拠が無ければ、担当者は原文に戻って確かめられません。
総務省と経済産業省がまとめたAI事業者ガイドラインも、第1.0版が2024年4月19日、第1.1版が2025年3月28日、第1.2版が2026年3月31日に公表され、AIを使う側には人間の判断を適切に介在させる仕組みの構築が重要だとしています。反対に任せないのは、入れてよいかという結論そのものです。目的の条項の解釈は契約の文言と案件の経緯に依存するので、AIに判断させると、もっともらしい理由が付いた誤りが出ます。あわせて人が確認する範囲を先に決めておきます。個人を特定できる情報を含む資料と、再委託の条項がある案件は全件を人が読む。それ以外は月に何件かを抜き取る。この2段を書いておくと、件数が増えても確認の手間が比例して増えることはありません。なお、出した結果を別の用途に回してよいかという二次利用の話は、別の記事の領分になります。
まとめ
預かった資料をAIに入れてよいかは、漏れるかどうかではなく、約束した目的の内か外かで決まります。判断は5つの軸を上から順に当てます。取り決めの目的の条項、手段としての入力か学習のための入力か、学習に使われない設定になっているか、保存先と保存期間と閲覧の条件、そして再委託にあたるかどうか。上の軸で止まったら、下の軸は見ません。読む書類は秘密保持の取り決め1通ではなく、業務委託の基本契約、個別の発注書、データの取り扱いの特約、セキュリティの確認票を加えた5点です。選べる手は、相手に確かめる、伏せて入れる、要約だけを自分で作る、そもそも入れないの4つで、入れない道も同じ並びに置きます。入れてよいかの最終判断は人が持ち、AIには振り分けと抜き出しまでを任せます。抜き出しには根拠を添えさせ、人が確認する範囲は先に2段に分けておきます。まず今週やることは1つです。直近3か月に取引先から受け取った資料を並べて、どれをAIに入れたかを思い出してください。入れたものが1件でもあるなら、その案件の5点セットを開いて目的の条項を読むところから始めます。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
AIの導入・活用、何から始めるべきかお悩みですか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
