AI導入の決裁に善管注意義務は及ぶ?|経営が確かめる範囲

「AIで事故が起きたら、決裁した役員が個人で責任を負うのですか」「稟議を上げる側として、どこまで調べておけば足りるのかが分かりません」——AIの投資判断が経営会議に上がり始めた会社では、この2つが同じ日に出てきます。どちらの質問も、善管注意義務を結果を保証する義務だと読んでいる点で共通しています。けれど条文と裁判所の物差しを並べると、見ている場所が違います。問われているのは結果の良し悪しではなく、決めるまでの過程と、決めた内容の合理性のほうです。AIは先が読みにくい投資ですから、この違いは実務にそのまま効きます。この記事では、義務がどの条文から来ているかを確かめ、AIを入れる決裁で何をどこまで調べ、何を記録に残せば説明が立つのかを整理します。
カメ先生善管注意義務は、失敗した結果を後から問う決まりだと思われがちですが、条文と裁判所が見ているのは決め方の側です。同じ失敗でも、決め方が違えば扱いが変わります。
カメ子結果が悪くても、決め方が悪くなければ責任にならない、ということですか。
カメ先生少なくとも裁判所は、経営上の判断について広い裁量を認めたうえで、決定の過程と内容に著しく不合理な点があるかどうかを見ています。結果そのものを採点してはいません。
カメ子先が読みにくいものほど、決めるまでに何をしたかが残っているかどうかで扱いが変わる、ということでしょうか。
- 善管注意義務の出どころは会社法330条と民法644条。役員と会社の関係は委任に関する規定に従い、受任者は「善良な管理者の注意をもって」事務を処理する義務を負う
- 最高裁は経営判断について「その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り」善管注意義務に違反しないと述べている。守られるのは結果ではなく、過程と内容
- 実態の棚卸しも想定問答も機械に作らせてよい。ただし「何を確かめたことにするか」の線引きは、決裁欄に押す人の手元に残る
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「AIで事故が起きたら役員が個人で払う」という言い方のずれ
最初に、社内で出回りやすい言い方を条文と突き合わせておきます。会社法423条1項は、取締役などの役員等が「その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。会社に対する責任で、しかも起点は「任務を怠った」かどうかです。AIが誤った出力を出したという事実だけでは、この条には届きません。
第三者に対する責任は別の条にあります。会社法429条1項は「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」と定めています。こちらは悪意または重大な過失が要件です。つまり、外部に損害が出たときに役員個人へ矛先が向くとしても、その手前に「任務を怠ったか」「重大な過失があったか」という関門がある。AIの誤りと役員の責任は直結していません。
この整理は、責任を軽く見るためのものではありません。むしろ逆で、関門が「怠ったかどうか」である以上、決裁のときに何をしたかが、そのまま関門を通るかどうかを決めます。だから経営層と経営企画にとって実務上意味があるのは、「責任を負うか」の議論ではなく、怠っていないと言えるだけの手続を、決裁の場で踏んでおくことのほうです。
善管注意義務は、どの条文から来ているか
経路は2段です。会社法330条が「株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う」と定め、その委任に関する規定である民法644条が「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」と定めています。会社法の中に善管注意義務という言葉の定義は無く、民法から借りているのがこの義務の構造です。
並びで押さえておく条がもう1つあります。会社法355条の忠実義務で、「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない」。善管注意義務が注意の水準を問うのに対し、忠実義務は会社と自分の利害が対立する場面を問います。AIの案件で言えば、導入する事業者と役員個人に関係がある場合は、注意ではなく利害の側の話になります。ここは調べ方の工夫では消せません。
「善良な管理者の注意」という言い回しは、その人個人の能力を基準にしていません。その地位にある人に一般に期待される注意、という読み方をします。だから「自分は技術が分からないので判断できない」は、注意の水準を下げる理由になりません。分からないなら分かる人に聞いた記録を残す、というのが実務での置き換えになります。この点は後で、記録の話として具体化します。
経営判断の原則が守るのは、結果ではなく過程と内容
経営判断について裁判所がどこを見るかは、最高裁の判示が物差しになっています。平成22年7月15日の第一小法廷判決は、事業再編に伴う株式取得の価格が争われた事案で、「その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り、取締役としての善管注意義務に違反するものではないと解すべきである」と述べました。見ているのは過程と内容の2つで、結果が良かったか悪かったかは物差しに入っていません。
同じ判決が、過程について不合理な点は見当たらないと判断した理由の書き方が実務では効きます。判決は、決定に至る過程において「全般的な経営方針等を協議する機関である経営会議において検討され、弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践されている」ことを挙げています。会議体で検討したこと、外部の専門家の意見を聴いたこと。この2つは、後から証明できる形で残せるものです。調べた内容そのものより、調べたという手続が跡になっているかが問われています。
留保を1つ付けます。この判示の言い回しは従来の下級審の表現と異なっており、どこまで先例としての意義を持たせたのかについては見方が分かれる、という指摘が公表されている解説にあります。一方で、東京地裁が平成25年2月28日の判決で同じ言い回しを用いた例も紹介されています。個別の事案でどう当てはまるかは事情次第ですから、この物差しがあれば安全だとは読まず、決め方を整える指針として使うのが妥当です。
「著しく不合理」が決まるのは、決めた後ではなく決める前
物差しの性質から、実務の順番が決まります。過程と内容が見られる以上、説明の材料は決裁の場で作られていなければなりません。事後に作った説明資料は、事後に作ったことが日付から分かります。後から足せないものを、先に置いておくのが唯一の対応です。
AIの案件では、この順番が特に効きます。効果の見積りが外れやすいからです。業務時間が2割減ると見込んだ仕組みが1割しか減らなかったとき、結果だけを見れば失敗ですが、見込みの根拠と、外れたときの扱いを決裁の時点で書いてあれば、それは想定の範囲内の出来事として説明できます。逆に見積りだけを載せて外れたときの扱いを書かなかった資料は、外れた瞬間に説明の材料を失います。
もう1つ、内容の側の合理性についても、決める前にしか手当てできない部分があります。代替案です。他の手段を比べたうえでこれを選んだ、という記述があるかどうか。比べていない選択は、内容が不合理でないことを示す材料が乏しくなります。比較といっても大掛かりな調査は要りません。見送った案とその理由を各1行ずつ書いてあれば足ります。
AIの決裁で「調べた」と言えるのは、どこまで調べたときか
では日本の会社は今どこまで調べているのか。令和8年版の情報通信白書が、リスク対策の取組状況を国別に聞いています。日本でいちばん多い回答は「全社的な指針やガイドラインを整備している」で41.1%。次いで、推進する部署や責任者が明確になっている35.9%、導入後の定期的な評価・検証が行われている29.1%と続きます。
目を引くのは、「製品・サービスの企画・導入段階で、専門的な知見から審査する体制がある」が日本で26.1%だった点です。同じ設問で米国は52.5%、中国は59.0%、ドイツは38.1%。導入後の評価・検証も、米国45.7%、中国51.9%、ドイツ42.2%に対して日本は29.1%です。白書自身も、他の3か国では顧客向けの製品やサービスに生成AIを使うことが積極的に行われており、それに伴って事前の審査や事後の評価・検証を行う体制が整いつつあると考えられる、と書いています。
この並びの読み方は1つです。日本は決まりは作ったが、決裁の前に見る場が無いという形になっている。ところが先の物差しが見ているのは、決まりがあるかどうかではなく、その案件について検討した過程です。全社の指針は、個別の決裁の過程の代わりにはなりません。指針を作った41.1%の会社でも、審査の場が無ければ、案件ごとの説明材料は増えていないことになります。
- 白書の数値は設問ごとに回答対象者が異なる場合があります。活用方針の設問で「利用を禁止している」と答えた企業を除いて尋ねている設問があると本文に明記されているため、異なる設問の割合どうしを引き算しないでください
- 本記事は2026年9月時点で公表されている法令と資料に基づいています。個別の案件で責任が問われるかどうかは事情によって変わるため、判断が要る場面では専門家に相談してください
- 引用した判決の判示は、原文を引用している公表文書2件を突き合わせて同じ文言であることを確認しています
決裁の重さは、金額だけで決まらない
次に、その案件をどの階段に上げるかです。会社法362条4項は、取締役会が「次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を取締役に委任することができない」として、1号に「重要な財産の処分及び譲受け」、2号に「多額の借財」を挙げています。重要かどうか、多額かどうかの金額の線は、法律には書かれていません。各社が取締役会規程や職務権限規程で定めています。
AIの案件で階段を踏み外しやすいのは、金額の形が違うからです。従来のシステム投資は初期費用と保守費用でおおよその総額が読めますが、AIの利用は使うほど増える形のものが多い。初年度の見積り額だけで階段を選ぶと、2年目に権限の枠を超えているのに、決裁を取り直していない状態が生まれます。契約時点の金額ではなく、上限を超えたときにどうするかを決裁文書に書いておくのが対処になります。
もう1つ、金額以外の重さもあります。扱う情報の種類、外部に出る成果物かどうか、止まったときに業務が止まるかどうか。金額が小さくても、顧客に見える場所で使うなら重い案件です。階段の選び方を金額だけにしている会社では、小さく始めた仕組みが顧客接点まで広がったときに、誰の決裁も通らないまま重要な業務になっていた、ということが起きます。
決裁の前に確かめる項目の一覧
ここまでを、決裁の場に持ち込む形に落とします。確かめる項目、誰が資料を出すか、どういう形で記録に残すかの3列で並べました。全部を厚く調べる必要はありません。空欄のまま上げないことのほうが、深く調べることより効きます。調べていない欄は、調べていないと書いてあれば、それも1つの記録になります。
| 決裁の前に確かめること | 資料を出す側 | 記録に残す形 |
|---|---|---|
| 何のために入れるのか。他にどんな手段があったか | 起案部門 | 比べた案と、選ばなかった理由を各1行 |
| どの情報を渡すのか。渡してはいけない情報は何か | 情報システム | 情報の区分ごとに、渡してよいかどうかの一覧 |
| 出力を誰が確認するのか。確認しない範囲はどこか | 起案部門 | 確認の担当者と、確認を省く範囲の明記 |
| 止まったときに何をするか | 情報システム | 代替手段と、戻すまでの目安の時間 |
| やめるときに何が残るか | 調達・法務 | 情報の廃棄とアカウントの扱いの取り決め |
| 費用はどう増えるか。上限を超えたらどうするか | 起案部門 | 増える要因と、超えたときの決裁の取り直しの条件 |
| 外部の助言を得たか | 法務 | 誰に、いつ、何を聞いたか |
| いつ見直すか。何が起きたら見直すか | 起案部門 | 次に見る日と、前倒しの引き金 |
8項目のうち、多くの会社で最初に空欄になるのは下の3つです。費用の増え方、外部の助言、見直しの引き金。いずれも導入の可否とは直接関係しないため、起案の段階で落ちやすい。けれど後から問われるのはこの3つです。導入するかどうかの資料は厚く、導入した後の資料は薄いという偏りが、そのまま説明の弱点になります。
何を記録に残せば、説明が立つか
記録については、会社法と施行規則が最低限を決めています。会社法369条3項は、取締役会の議事について法務省令の定めにより議事録を作成し、書面で作成されているときは出席した取締役と監査役が署名または記名押印しなければならない、としています。その法務省令が会社法施行規則101条で、3項4号に「取締役会の議事の経過の要領及びその結果」を内容とすることが挙げられています。AIの決裁で何を確かめたかは、この「議事の経過の要領」に入ります。
残す期間も条文にあります。会社法371条1項は、取締役会の日から十年間、議事録等を本店に備え置かなければならないと定めています。さらに同条4項は、債権者が役員の責任を追及するため必要があるときは、裁判所の許可を得て議事録等の閲覧や謄写を請求できるとしています。10年後に他人が読む前提で書かれているかが、この記録の質を決めます。「AI導入の件、承認」の一行では、10年後に何を確かめたのかが分かりません。
もう1つ、反対や留保をした側にとって重要な条があります。会社法369条5項は、決議に参加した取締役であって議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定する、と定めています。AIの案件は判断が割れやすく、条件付きの賛成が出ます。その条件が議事録に書かれていなければ、条件なしの賛成として扱われうるということです。留保を述べた本人が、述べた内容が要領に入っているかを確かめる。これは事務局の仕事ではありません。
「使わない」という決定にも、同じ物差しが当たる
見落とされやすいのが、見送りの側です。経営判断の物差しは、やると決めた判断だけに当たるものではありません。やらないと決めた判断も、決定の過程と内容で見られます。白書の調査で「利用を禁止している」と答えた日本企業は3.5%。少数ですが、禁止は不作為ではなく、1つの決定です。決定である以上、根拠が要ります。
同じ調査で「方針を明確に定めていない」は20.2%、中小企業では31.5%にのぼります。禁止と未決定は、外から見ると似て見えますが、記録の上では正反対です。禁止には、何を懸念して禁止したかという記録が残せる。未決定には残せません。調べて見送ったのか、調べていないから決まっていないのかは、記録でしか区別できないのです。
見送るときに残しておくと後で効くのは3つです。何を懸念して見送ったか。その懸念が解消したと判断できる条件は何か。いつ再検討するか。3つ目まで書いてあると、翌年の経営会議で同じ議論を最初からやり直さずに済みます。見送りの決裁が1年後の議題を用意する形になります。
現場が勝手に使っている状態は、決めていないのではなく決裁が抜けている
実務でいちばん厄介なのは、決裁を経ずに利用が始まっている状態です。無料で使える道具が多いため、購買の手続を通らずに業務に入り込みます。この状態の問題は、危険だからというより、誰の判断でもないため、会社として決めた範囲が示せないことにあります。何かあったときに、許可していたのか黙認していたのかを説明できません。
対処の順番を間違えると、事態が悪くなります。実態を把握する前に禁止を出すと、利用は止まらず記録だけが消えます。先にやるのは棚卸しです。どの部署が、どの業務で、何に使っているか。把握したうえで、使ってよい範囲を示してから、その外側を禁止する。順番を逆にすると、管理下の利用まで地下に潜ります。
棚卸しの結果は、そのまま決裁の材料になります。現に使われている業務が15あり、そのうち顧客の情報に触れるものが3つあると分かれば、決裁で議論すべきはその3つに絞れる。残り12は、使ってよい範囲として追認する決定を1件通せば済みます。実態の把握は、規制を増やす作業ではなく、議題を減らす作業として設計したほうが通りやすくなります。
体制を整えること自体が、別に書かれた宿題
ここまでは決裁1件ごとの話でしたが、決裁の仕組みそのものについては別の条があります。会社法362条4項6号が、取締役会が取締役に委任できない事項として「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務…の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備」を挙げ、同条5項は大会社である取締役会設置会社は、これを決定しなければならないとしています。
法務省令にあたる会社法施行規則100条1項は、その体制の中身を列挙しています。1号が「取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制」、2号が「損失の危険の管理に関する規程その他の体制」、3号が職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制、4号が使用人の職務の執行が法令および定款に適合することを確保するための体制、5号が企業集団における業務の適正を確保するための体制です。AIの利用について何をどう記録し、危険をどう管理するかは、1号と2号の範囲に素直に収まります。
押さえておきたいのは、この整備が案件ごとの決裁とは別に、決めなければならない事項として書かれているという点だけです。誰にどの持ち分を置くか、どの線でどこまで見るかという体制の設計そのものは、内部統制の組み立て方として別に整理されているので、ここでは踏み込みません。この記事の範囲では、決裁の材料をそろえる仕組みが無いこと自体が、上の条が求めるものと距離があると読めることを確認しておけば足ります。
AIに任せてよい工程と、決裁者が決める工程
決裁の材料をそろえる作業には、手数が多くて判断の少ない部分があります。そこは機械に寄せられます。任せてよいのは4つ。社内の利用実態の棚卸しの下書き、他社の公表資料からの抜き出し、想定問答の一覧づくり、そして議事の要約です。特に棚卸しは、部門から集めた自由記述をそろった形に整えるだけで半日分の手間が消えます。
条件を先に付けます。他社の公表資料を抜き出させるときは、会社名と文書名と公表日を必ず併記させること。そして経営会議に上げる数字は、必ず原典に当たり直すこと。要約の段階で、注記に書かれていた調査対象や時期の条件が落ちるからです。落ちた条件のまま数字だけを役員に見せると、後で条件を聞かれたときに答えられない資料になります。
議事の要約についても、癖を知っておく必要があります。要約は言われたことを残しますが、言われなかったことを残しません。反対意見や条件付きの賛成は、量が少ないぶん要約で落ちやすい。先に見たとおり、議事録に異議をとどめないと賛成したものと推定されますから、この落ち方は記録の意味を変えてしまいます。要約は下書きとして使い、留保と反対の部分は発言者本人が確かめる、という手当てが要ります。
決裁者が決めるのは3つです。何を確かめたことにするか。投資するかどうか。公表するかどうか。1つ目が抜けやすい。確かめる範囲を決めるのは調査の前であって、調査結果を見た後ではありません。後から決めると、集まった材料に合わせて範囲が動きます。
- 棚卸しと抜き出しと想定問答の下書きまでは任せてよい。採否の判断はさせない
- 他社の資料からの抜き出しには、会社名・文書名・公表日を必ず併記させる
- 経営会議に上げる数字は、調査対象と時期の条件ごと原典で確かめ直す
- 議事の要約は下書き扱い。留保と反対意見は発言者本人が確認する
- 確かめる範囲は、調べ始める前に決裁者と合意しておく
資料を上げる側が、先に埋めておく欄
最後に、情報システム部門や経営企画が決裁の資料を用意するときの順番です。決裁者に判断させる前に、判断の材料が欠けていないことを、起案側が保証するのがこの工程の目的になります。5工程のうち重いのは工程2だけで、あとは事務です。
直近1年の議事録から、システム投資の議案で出た質問を書き出す。同じ質問が3回以上出ていれば、それは資料に最初から入れておくべき欄。
前掲の8項目を叩き台に、この案件で確かめる範囲を決裁者と合意しておく。調べた後に範囲を決めると、集まった材料に合わせて範囲が動く。
空欄にせず、調べていないことと、その理由を書く。「事業者の再委託先までは確認していない」と書いてあれば、それも決定の材料になる。
助言の内容だけでなく、聞いた相手と日付を残す。分からない領域を分かる人に聞いた事実は、後から作れない。
何を確かめたうえで決めたのかを1行にして、議案書の末尾に添える。事務局が要領を書くときの下敷きになり、記録の粒度が安定する。
説明が立たなくなる書き方
決裁文書の書き方で、後から効いてくる失敗には型があります。どれも書いた時点では問題に見えないため、指摘されないまま通ってしまいます。先に知っておけば、起案の段階で避けられます。
- 「安全性は確認済み」とだけ書く。何をどう確認したかが無いので、確認の中身が再現できない
- 効果の見積りだけを載せ、外れたときにどうするかを書かない。外れた瞬間に説明の材料が消える
- 事業者の提案資料の文言を、そのまま自社の判断として書き写す。誰が判断したのかが分からなくなる
- 反対意見や条件付きの賛成を、要領から落とす。異議をとどめない扱いになりうる
- 決裁の後に契約条件や利用範囲が変わったのに、決裁を取り直していない
- 比較した他の手段を書かない。内容が不合理でないことを示す材料が乏しくなる
6つのうち上の3つは、書き手が「当然のこと」だと思って省いた部分から生まれています。確認したのだから確認済みと書けば足りる、という判断です。けれど10年間備え置かれる記録を読むのは、その場にいなかった人です。省略が通じる相手ではありません。1行だけ足すなら、確認した対象と方法を書く行を選んでください。
この記事に出てきた言葉の意味
最後に、社内で説明するときに混ざりやすい語を整理します。どれも日常の使い方と法律上の使い方がずれていて、同じ会議で違う意味のまま話が進むことがあります。
| 語 | この記事での意味 | AIの決裁で読むときの注意 |
|---|---|---|
| 善管注意義務 | 会社法330条が委任の規定に従うとし、民法644条が定める「善良な管理者の注意」をもって事務を処理する義務 | 結果を保証する義務ではない。決めるまでの過程と、決めた内容が見られる |
| 忠実義務 | 会社法355条。法令・定款・株主総会の決議を遵守し、会社のため忠実に職務を行う義務 | 会社と役員個人の利害が対立する場面の話。調べ方を厚くしても消えない |
| 任務懈怠 | 会社法423条1項がいう「その任務を怠った」状態。会社に対する損害賠償責任の起点 | AIが誤ったこと自体ではなく、怠ったと言えるかどうかで決まる |
| 経営判断の原則 | 経営上の判断に広い裁量を認め、決定の過程と内容に著しく不合理な点があるかで見る考え方 | 事案ごとに当てはめが変わる。安全弁ではなく、決め方を整える指針として使う |
| 議事の経過の要領 | 会社法施行規則101条3項4号が議事録の内容とすべきとする事項 | 何を確かめて決めたかは、ここに入る。十年間備え置かれる前提で書く |
この5語のうち、社内で最も揉めるのは経営判断の原則です。「原則があるから責任は問われない」という読み方と、「原則があっても危ないから何もしない」という読み方の間に、調べて、記録して、決めたという状態があることが伝わりにくい。判示が過程と内容の両方を見ると言っている以上、この文書は3つ目の状態を正面から想定しています。
まとめ
善管注意義務の出どころは、会社法330条と民法644条です。会社と役員の関係は委任に関する規定に従い、受任者は「善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」。会社に対する責任は会社法423条1項が「その任務を怠ったとき」と定め、第三者に対しては同法429条1項が悪意または重大な過失を要件にしています。AIが誤った出力を出したという事実だけでは、どちらの条にも直接は届きません。
経営判断について、最高裁は平成22年7月15日の判決で「その決定の過程、内容に著しく不合理な点がない限り」善管注意義務に違反しないと述べ、その事案では、経営会議で検討され弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践されていたことを、過程に不合理な点が無い理由として挙げています。見られているのは結果ではなく、決めるまでに何をしたかと、決めた内容の合理性です。一方で、日本の企業で企画・導入段階に専門的な知見から審査する体制があるのは26.1%。全社の指針を整備した41.1%という数字とは、別の話になります。
だから手を動かす場所は決まっています。確かめる項目を8つ決めて、空欄のまま上げない。調べていない欄は、調べていないと書く。外部の助言は、誰にいつ何を聞いたかで残す。そして議事の経過の要領に、何を確かめて決めたかの1行を入れる。棚卸しの下書きも想定問答も機械に作らせてよく、そのときは出所を必ず併記させる。次の経営会議の議案書を1枚だけ開いて、8項目のうちいくつが空欄かを数えてみると、自社の記録が10年後の読み手に何を伝えるかが見えてきます。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
AIの導入・活用、何から始めるべきかお悩みですか?
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