業務委託契約書に入れる項目一覧|AIを使う外注で増える条項

「納品されたバナーが、よその会社のサイトで見た絵とよく似ていました」「制作会社のほうから、この案件で生成AIを使ってよいかと確認の連絡が来ました。うちのひな形には、それを書く欄がありません」。外注の契約をめぐって持ち込まれる相談は、この2、3年で中身が入れ替わりました。報酬と納期の話ではなく、作り方と権利の話になっています。業務委託契約書は、揉めたときに読む紙ではなく、作らせる前に確かめるための紙です。誰が何を作り、できたものを自社が自由に使えるのか。そこが書かれていない契約は、平時には一度も問題になりません。この記事では、どの外注にも要る項目をいったん並べ直したうえで、成果物が生成AIで作られる前提になったときに書き足しが要る5か所を、1つずつ組み立てます。
カメ先生業務委託契約書というと、報酬と納期を書く紙だと思われがちですが、実際に困りごとになるのはそこではありません。作らせたものを自社が自由に使えるかどうか、そこが書かれていない契約が驚くほど多いのです。
カメ子権利のことは、著作権法のほうで決まっているのではないのでしょうか。
カメ先生法律が決めているのは初期値だけです。制作物の著作権は作った側に生まれるので、発注側へ移すには契約に書く必要があります。しかも、生成AIで作られた部分については、移すべき著作権がそもそも生じていない場合があります。
カメ子移す条項を入れても、移す中身が無いことがある、ということになりますね。
- 最初に決めるのは条項ではなく仕事の型。請負か準委任かで、完成の義務も再委託の扱いも変わる
- 生成AIが前提になると増えるのは条項の数ではなく、既存の5か所(申告・帰属・学習・保証・再委託)の書き方の細かさ
- ひな形との差分の洗い出しと用語のゆれの統一は機械に回せる。入れる条項を選ぶ判断と、相手と合意する範囲は発注側の人が背負う
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「ひな形にAIの1条を足す」で終わると、どこが抜けるか
生成AIの話が出たとき、多くの会社がまず考えるのはひな形の末尾に1条を足すことです。「乙は本業務において生成AIを利用してはならない」と書くか、「利用する場合は事前に甲の承諾を得る」と書くか。この1条があるだけで、社内の説明は一度は通ります。しかし実務でつまずくのは、たいていその条項の外側です。
なぜかというと、生成AIが持ち込む問題は1か所にまとまっていないからです。使ってよいかどうかは作業の進め方の話、できたものを自社が使えるかは権利の帰属の話、預けた資料が外に流れないかは秘密保持の話、他社の権利を侵していないかは保証と補償の話、外部のサービスを通すことをどう扱うかは再委託の話です。増えるのは条項の本数ではなく、もともとあった5つの条項の書き方の細かさです。
末尾に1条だけ足した契約書がよく壊れるのは、その1条と既存の条項が食い違うときです。たとえば「生成AIの利用を禁止する」と末尾に書きながら、権利の帰属条項は「本件成果物の著作権は甲に移転する」のままにしてある。この状態で、相手が下絵の一部に生成AIを使っていたことが後から分かると、契約違反の話と、移転する著作権が存在するかどうかの話が同時に立ち上がります。禁止するなら禁止したなりに、認めるなら認めたなりに、帰属も保証も検収も、同じ前提で書き直す必要があります。
最初に決めるのは条項ではなく、仕事の型
項目を並べる前に決めることが1つあります。その外注が仕事の完成を約束させるものなのか、作業を任せて、丁寧にやってもらうものなのかです。民法は前者を請負として第632条に置き、「請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる」と書いています。後者は委任で、第643条が法律行為の委託を定め、第656条が「この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する」として、法律行為でない作業の委託にも同じ規定を及ぼしています。これがいわゆる準委任です。
この区別は、書類の題名では決まりません。同じ「業務委託契約書」でも、記事20本の納品を求めれば請負に寄り、月40時間の運用支援を求めれば準委任に寄ります。違いが表に出るのは3か所です。完成しなかったときに報酬を払うのか、できたものの出来が悪かったときに何を請求できるのか、相手が別の会社に投げてよいのか。3つ目は条文がはっきり分かれていて、準委任のほうには第644条の2第1項があり、「受任者は、委任者の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復受任者を選任することができない」と定めています。請負にはこの規定がないので、書かなければ再委託は原則として自由という初期値になります。
準委任のときにもう1つ効いてくるのが第644条で、「受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う」と定めています。完成の義務はないが、その分野の事業者として当然払うべき注意は求められる、という位置づけです。運用の外注で「思ったような数字が出なかった」ときに、義務違反を言えるかどうかは、この注意義務の中身を契約でどこまで具体にしていたかに掛かります。月次の報告、実施した施策の記録、判断の根拠の提出。こうした過程を残す義務を書いておくと、結果だけを争う展開になりません。
どの外注にも要る項目を、一覧で並べ直す
型が決まったら、項目を並べます。ここは生成AIの有無に関係なく必要な部分で、先に埋めておかないと、後から足すAI関連の条項が宙に浮きます。順番は、上から「何を」「いつまでに」「いくらで」「できたものをどう扱うか」「うまくいかなかったらどうするか」の流れで並べると抜けが見つけやすくなります。
| 項目 | 書いておくこと | 抜けたときに起きること |
|---|---|---|
| 業務の範囲 | 作るもの、点数、仕様、含まない作業を名指しで | 追加依頼が無償の当然になり、途中から険悪になる |
| 納品の形 | 何を、どの形式で、どこへ渡すか。元データを含むか | 完成品だけ届いて、後から差し替えができない |
| 期日と回数 | 納品日、修正の回数と1回あたりの範囲 | 修正が無限に続き、どちらの負担かが決まらない |
| 報酬と支払期日 | 金額または算定方法、支払日、実費の負担 | 受領から支払いまでの日数が法定の上限を超える |
| 検収 | 誰が、何日以内に、どの基準で合否を出すか | 合格したのかどうかが宙に浮き、権利の移転時期も定まらない |
| 知的財産権 | 譲渡か許諾か、範囲、著作者人格権の扱い | 二次利用や改変のたびに相手の許可が要る |
| 秘密保持 | 対象、期間、返却と消去、社外の道具への入力の可否 | 預けた資料の行き先が追えない |
| 再委託 | 可否、事前承諾の要否、同等の義務を負わせる責任 | 知らない相手が作業に入っていても言えることがない |
| 保証と補償 | 第三者の権利を侵さない旨、侵害を主張されたときの費用と協力 | 止められた業務の損失を、発注側が丸ごと抱える |
| 解除と中途終了 | 解除事由、途中で止めたときの精算、成果物の扱い | 止めた時点の仕掛かりが誰のものか決まらない |
| 記録と報告 | 作業記録、使った素材の出どころ、報告の頻度 | 後から検証しようとしても材料が残っていない |
この表で見落とされやすいのは、上から6番目の知的財産権よりも、その2つ上の検収です。多くのひな形は「甲は納品後速やかに検査する」としか書いていません。速やかにが何日かを書いていないと、合格したのかどうかが決まらないまま案件が進み、権利が移る時点も、代金を払う起算日も定まりません。検収は事務手続きに見えて、実は権利と支払いの両方の起点になっています。
契約書より先に、法律が決めている項目がある
項目を自由に決められるかというと、そうではありません。相手の規模や取引の中身によっては、発注の時点で明示しなければならない事項が法律で決まっています。個人に直接発注する場合は、2024年11月1日に施行された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律、いわゆるフリーランス法が働きます。同法第3条は、業務委託をしたら直ちに、書面または電磁的方法で取引条件を明示することを求めています。
明示する項目は8つで、発注事業者と受注者の名称、業務委託をした日、給付の内容、給付を受領する期日、その場所、検査完了期日(検査をする場合)、報酬の額および支払期日、現金以外で払う場合の支払方法です。見落とされやすいのは3番目の給付の内容で、公正取引委員会の考え方では、作るものの中身だけでなく、著作権など知的財産権の譲渡の有無や、使用を認める範囲まで明示が必要とされています。実際に、放送の制作を個人に委託していた事業者が「給付の内容として知的財産権の譲渡・許諾の範囲を明示しなかった」として指導の対象になった例が、弁護士の解説で紹介されています。
会社に発注する場合は、規模の要件しだいで別の法律が働きます。従来の下請法は、2026年1月1日に「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」として施行され、略称は中小受託取引適正化法になりました。用語も入れ替わり、親事業者は委託事業者、下請事業者は中小受託事業者と呼ばれます。改正で加わったのが従業員数による規模の区分で、従業員数300人(役務の提供の委託などは100人)の線が新設されました。資本金が小さくても人数が多ければ委託事業者になり得るということで、「うちは資本金が小さいから対象外」という従来の見立てが外れる場合があります。
この法律が課す義務は4つです。発注内容を明示する義務(第4条)、取引に関する書類等を作成して2年間保存する義務(第7条)、受領後60日以内で支払期日を定める義務(第3条)、遅れたときの遅延利息を年率14.6パーセントで支払う義務(第6条)。発注書面に書く事項は12項目あり、当事者の名称、委託をした日、給付の内容(品目、品種、数量、規格、仕様等)、受領期日、受領場所、代金の額、支払期日が必須で、検査をする場合は検査完了期日が加わります。12番目には、決まっていない事項がある場合の定められない理由と、定める予定の期日を書くことが入っています。
契約書を1本、案件用に組み立てる5工程
ひな形はあるが、案件ごとにどこまで直すかが決まっていない。この状態がいちばん時間を食います。順番を固定してしまうと、毎回の判断が減ります。要点は、条項を書く工程より先に、その案件の仕事の型と成果物の使い道を決める工程を置くことです。逆にすると、書いた条項を後から全部見直すことになります。
作らせたものを、いつまで、どこで使うのか。自社サイトだけか、広告に回すか、二次的な資料に転用するか、他社に見せるか。ここを紙に書き出すと、譲渡が要るのか許諾で足りるのかが自動的に決まります。使い道が広いのに許諾で組むと、使うたびに相手へ確認が要る運用になります。
完成を約束させるのか、作業を任せるのか。準委任なら再委託には許諾が要るのが原則、請負なら書かなければ自由が原則です。外部のサービスを使う工程がどれだけ入るかを、この段階で相手に聞いておきます。
相手が個人か会社か、会社なら規模はどうか。明示の義務が働く場合は、契約書ではなく発注の時点で通知する形になります。知的財産権の譲渡の有無と範囲は、ここで書き漏らすと後から直しにくい項目です。
生成AIの利用の可否と申告、預けた資料の学習利用の禁止、第三者の権利に関する保証と補償、記録の提出。この4つを、既存の帰属条項と秘密保持条項に接続する形で書きます。末尾に独立した1条として置くと、既存条項と食い違います。
検収の期間を何日にするか、誰が見るか、不合格の場合に何回まで直させるか。この日数と、受領から支払いまでの日数を足したものが、法律の定める上限を超えていないかを確かめます。支払日は期間ではなく1日を特定して書くのが安全です。
5工程を回すと、案件ごとに書き換えるのは1と4だけになります。残りは自社の型として固定できます。毎回すべての条項を読み直している会社ほど、実は使い道と作り方の2か所しか変わっていないことに気づきます。ここが分かると、法務に相談する範囲も自然に狭まります。
増える条項1 使ってよいか、使ったら申告させるか
最初の書き足しは、作り方の申告です。選べる形は3つあります。全面的に禁止する、事前の承諾を条件に認める、認めたうえで、使った範囲の申告を義務づける。実務でいちばん機能しているのは3つ目ですが、選ぶ前に確かめることがあります。禁止した場合、相手がそれを守っているかどうかを、発注側が確かめる手立てがあるのかどうかです。
文章にせよ画像にせよ、できあがったものを見て作り方を言い当てるのは現実的ではありません。確かめられない義務を課すと、契約は守られているかどうか分からない状態のまま進みます。そのため、禁止する場合でも「違反したら解除できる」だけでは足りず、作業記録の提出や、使った素材の出どころの一覧といった、確かめる材料を出させる条項を対にしておく必要があります。
申告させる形にするなら、申告の粒度を決めます。工程のどこで使ったか(構成案、下書き、清書、画像、翻訳)、そのまま納品したのか人が手を入れたのか、入れた場合はどの程度か。この3つが分かれば、後の条項がつながります。たとえば「下書きだけに使い、清書は人が全面的に書き直した」という申告があれば、権利の帰属も、保証の範囲も、それを前提に組み立てられます。逆に申告が「使いました」だけだと、次の条項が何一つ判断できません。
増える条項2 権利は、書けば移るとは限らない
ここが、生成AIで作られた成果物に特有のいちばん厄介な部分です。著作権の譲渡条項は「本件成果物に関する著作権は、検収の完了をもって甲に移転する」と書けば足りるように見えます。しかし移転できるのは、そもそも著作権が生じているものだけです。文化審議会著作権分科会法制度小委員会が令和6年3月15日にまとめた「AIと著作権に関する考え方について」は、「生成AIに対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるような場合には、当該AI生成物に著作物性は認められない」としています。
同じ文書は、著作物性を判断する要素として3つを挙げています。1つ目は指示・入力の分量と内容で、創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的な寄与があると評価される可能性を高めるとされます。2つ目は生成の試行回数で、「試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しない」とされます。3つ目は複数の生成物からの選択で、「単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しない」とされます。何度も出し直して良さそうな1枚を選んだ、という作り方は、それだけでは寄与にならない、という整理です。
同文書は「人間が、AI生成物に、創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分については、通常、著作物性が認められる」ともしています。つまり成果物は、権利が生じている部分と生じていない部分のまだらになり得ます。契約書としては、譲渡条項の隣に「著作権が発生しない部分については、乙は当該部分について何らの権利主張も行わず、甲の利用を妨げない」という趣旨の一文を置いておくのが実務的です。権利が無いものを譲渡すると書いても、その部分については独占が成立しないので、独占できると誤解したまま使わないことのほうが大事になります。
もう1つ、逆方向の注意があります。同文書は、著作物に当たらないものを著作物であると称して流通させた場合、ライセンス契約のような取引の場面では債務不履行責任や不法行為責任を生じさせるほか、詐欺罪に該当する可能性も考えられると述べています。発注側が受け取った成果物を、さらに他社へ「著作権ごと」渡すときは、自社が受け取ったものの中身を把握していないと、同じ問題を下流へ送ることになります。
増える条項3 預けた資料を学習に使わせない、をどう書くか
秘密保持条項は多くのひな形に入っていますが、書かれているのは「第三者に開示しない」までです。外部のAIサービスに文章を入力する行為がこの「開示」に当たるかどうかは、条項の文言しだいで割れます。そのため、開示の禁止とは別に、入力そのものを名指しで扱う一文を足すのが確実です。
書き分けたいのは2つです。1つは入力の可否で、預けた資料や自社の非公開情報を外部のサービスへ入力してよいかどうか。もう1つは学習利用の可否で、入力を認める場合に、その内容が提供元の学習に使われない設定であることを求めるかどうか。この2つは別の話で、入力してよいと認めることと、学習に使われてよいと認めることは同じではありません。
運用に落とすときは、禁止の範囲を情報の区分で切ります。公開情報や、相手が自分で調べた一般的な事実まで禁止すると、作業そのものが止まって守られません。実際に守れる線は、「甲が提供した資料および甲の非公開情報については入力を禁じ、それ以外については学習に利用されない設定であることを条件に認める」あたりです。そのうえで、設定の証跡(管理画面の状態や提供元との契約区分)を求めるかどうかを決めます。求めるなら、確かめる手間が発注側に発生することも同時に見込んでおきます。
増える条項4 保証は「侵害しない」だけでは止まらない
第三者の権利を侵さないことを保証させる条項は、ほとんどのひな形に入っています。問題は、その保証があっても発注側の業務が止まることです。先の考え方の文書は、侵害が認められた場合に受け得る措置について、「差止請求については、故意及び過失の有無を問わず可能」「損害賠償請求については侵害者に故意又は過失が認められることが必要」「刑事罰が科せられるためには、侵害者に故意が認められることが必要」と整理しています。
ここが実務では効いてきます。制作した側も発注した側も、元の作品を知らなかったとしても、使うのをやめろという請求は成り立ち得るということです。同文書はさらに、「AI利用者が侵害の行為に係る著作物等を認識していなかった場合でも、AI利用者に対しては、不当利得返還請求として、著作物の使用料相当額として合理的に認められる額等の不当利得の返還が認められることがあり得る」とも述べています。知らなかったという事情は、賠償の話には効いても、使えなくなることには効きません。
だから条項は3つに分けて書きます。1つ目は表明と保証で、第三者の権利を侵していないこと、必要な許諾を得ていることを相手に言わせる部分。2つ目は補償で、主張を受けたときの対応費用、和解金、差し替えの制作費を誰が負担するか。3つ目は協力義務で、主張を受けたときに、使った素材の出どころや作業記録を速やかに提出させる部分です。3つ目が無いと、争う材料が発注側の手元に何も残りません。
依拠性についても、同文書は「当該生成AIの開発に用いられた学習データに当該著作物が含まれていないこと等の事情が、依拠性を否定する間接事実となる」としています。発注側が学習データの中身を知る手立ては通常ありませんが、少なくともどの道具を使ったかの記録があれば、後から確かめる糸口にはなります。作業記録の提出義務を、保証条項と対で置く理由がここにあります。
増える条項5 外部のサービスを使うことは、再委託なのか
外部のAIサービスに作業の一部を通すことが再委託にあたるのか。この問いは、契約書の文言を読んでも答えが出ないことが多い部分です。再委託の条項は通常、「乙は、甲の事前の書面による承諾なく、本業務の全部または一部を第三者に委託してはならない」という形で書かれています。道具を使うことがこの「委託」に当たるかは、書き手がその状況を想定していなかった以上、はっきりしません。
実務的な整理のしかたは2通りあります。1つは、人が関与するかどうかで線を引くやり方です。外部の人間が作業に加わる場合は再委託とし、道具として通すだけなら再委託には当たらないとしたうえで、道具の利用は前述の申告と入力制限の条項で別に縛ります。もう1つは、情報が外へ出るかどうかで線を引くやり方で、自社の非公開情報が社外の設備へ出る場合は、人か道具かを問わず承諾の対象とします。どちらを採るにせよ、契約書のどこかに定義として書いておかないと、後から解釈が割れます。
ここで法律の初期値も思い出しておきます。準委任なら第644条の2第1項により、許諾かやむを得ない事由がなければ復受任者を選任できないのが原則です。請負にはこの規定がないため、書かなければ自由が原則になります。つまり同じ「業務委託契約書」でも、型によって再委託の初期値が逆になっている。禁止したいなら請負のときこそ明記が要る、という順番になります。
検収と修補の期限を、法律の1年とどう並べるか
納品されたものに問題が見つかったとき、いつまで言えるのか。民法は請負について第637条第1項で、「注文者がその不適合を知った時から一年以内にその旨を請負人に通知しないときは、注文者は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、報酬の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない」と定めています。起算点は納品日ではなく知った時である点が要点です。売買についても第566条が同じ形の1年を置き、第559条によって売買の規定は有償契約に準用されます。
同じ第637条の第2項は、請負人が不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは第1項を適用しないとしています。生成AIで作られた成果物の文脈では、この2項が意味を持つ場面が出てきます。作った側が、元になった素材の出どころを確かめないまま納品していた場合に、重大な過失があったといえるかどうかは事案によりますが、確かめた記録があるかどうかが判断の材料になり得ます。断定はできませんが、記録を残させる条項の価値はここにも表れます。
実務では、この1年とは別に、契約で短い期間を置くのが通例です。検収の期間を7営業日から14営業日、検収後に見つかった不具合の修補請求を3か月から6か月、といった具合です。短くすること自体は当事者の合意で可能ですが、短すぎる期間は、権利の侵害のように数か月から数年たって表に出る問題には効きません。そのため、契約不適合の期間とは別に、権利に関する保証と補償の有効期間を長めに置く二段構えにしておきます。
途中で止めるときの規定も並べておきます。第641条は「請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる」と定めています。止められるが、損害は賠償する、という組み立てです。契約書に途中終了の精算方法(出来高の算定、仕掛かりの引き渡し、引き渡した分の権利の扱い)を書いておかないと、止めたい場面で金額の交渉から始めることになります。
指図と支給素材の落とし穴
発注側が素材や指示を出す場合には、もう1つ条文が絡みます。民法第636条は本文で、注文者の供した材料の性質または注文者の与えた指図によって生じた不適合については、追完の請求、報酬の減額、損害賠償、解除ができないとしています。ただし書は、請負人がその材料または指図が不適当であることを知りながら告げなかったときはこの限りでないとしています。
これが生成AIの文脈で効くのは、発注側が指示文や参照資料を渡すときです。「この作品の雰囲気で」と特定の他社作品を指し示して渡した場合、それは指図に当たり得ます。できあがったものが元の作品に似てしまったとき、指図した側の責任が問われる余地が生まれます。参照させる資料を渡すときは、渡した記録と、渡してよいと判断した理由を残しておく。これは相手を疑うためではなく、後で経緯をたどれるようにするためです。
逆に受託側の立場では、不適当な指図に気づいたら告げる、というのがただし書の前提になります。契約書に「乙は、甲の指示が第三者の権利を侵すおそれがあると認めたときは、速やかに甲に通知する」という趣旨の一文を置いておくと、この告げる行為が義務として明確になります。現場では、言いにくいことを言う根拠が契約書にあるかどうかで、報告が上がる速さが変わります。
秘密情報の線を、契約のどこに書くか
預ける情報の側も整理しておきます。発注側が相手に渡すのは、企画書、顧客名の入った資料、未公表の数字、社内の議事録などです。秘密保持条項でひとまとめにすると、実際の作業では守られません。現場が判断できる形にするには、渡した情報を3つの箱に分けるのが早い方法です。
- 箱1:外部のサービスに入力してはならないもの(顧客名、未公表の数字、個人が特定できる記述)
- 箱2:入力してよいが、学習に使われない設定であることが条件のもの(社内の企画書、構成案)
- 箱3:制限しないもの(すでに公開している自社の情報、一般的な事実)
- 3つの箱に入らない情報が来たときの問い合わせ先と、判断が出るまでの扱い
- 案件終了時の返却または消去の方法と、完了の報告の形
箱の区分を契約書の別紙にしておくと、案件ごとに中身だけ差し替えられます。本文に細かく書き込むと、情報の種類が変わるたびに契約書を巻き直すことになります。また、返却と消去は完了の報告まで含めて書くのが実務です。消しましたという一言があるだけで、終わった案件の資料がどこに残っているかを追う作業が消えます。
なお、預ける情報に個人データが含まれる場合は、委託先の監督という別の枠組みが重なります。選定の基準、契約に入れる項目、定期的な点検など、扱いが一段細かくなるため、本稿の一般的な業務委託の設計とは分けて考えるほうが安全です。ここでは、個人データを渡すかどうかを案件の最初に判断するという点だけを押さえておきます。
AIに任せる工程と、人が決める工程を先に切る
契約書を組み立てる作業そのものにも、AIを噛ませられる部分があります。ただし噛ませてよいのは、案件用の1本を起案する工程のうち、材料を並べる側だけです。任せられるのは4つあります。自社のひな形と、その案件で必要な項目の一覧を突き合わせて、対応する条項が無い項目を列挙させること。同じ意味の語が別の言い方で使われている箇所を拾わせること(成果物と納品物、委託業務と本件業務が混在している、など)。定義した語が本文で一度も使われていない、または定義せずに使われている箇所を出させること。相手から返ってきた修正案について、元の案との違いを条項ごとに一覧にさせること。
この4つに共通するのは、正しいかどうかではなく、あるかないかを数える作業だという点です。間違えても、次に人が読めば気づきます。出させる形も決めておきます。指摘の1件ごとに、どの条項の何行目か、何と突き合わせてそう言っているのかを添えさせる。その2つが書かれていない指摘は採用しない、というのを運用として決めておくと、もっともらしいが根拠のない指摘を追いかける時間が消えます。
人が決めるほうは3つです。どの条項を実際に入れるか、法務や外部の専門家に上げるかどうか、相手とどこまで合意するか。この3つを人に残す理由は、難しいからではありません。判断の材料が契約書の中に無いからです。その相手と今後も付き合うのか、この案件で譲ってでも進めたいのか、自社の他の契約と揃えておく必要があるのか。どれも社内の事情で決まる話で、文面をいくら読んでも答えは出てきません。
分け方の基準は、間違えたときに手前で誰かが気づくかどうかです。語のゆれを拾い損ねても、次の読み手が気づきます。入れる条項を間違えると、気づくのは何か月も先の、実際に困ったときです。だから、気づける側を機械に寄せ、取り返しのつかない側を人の手元に残す、という切り方をします。
やりがちな失敗と、契約前に確かめること
揉めた案件で抜けていたのは、条項そのものではありません。どれも、条項どうしがつながっていなかったために起きたものです。
- 生成AIの利用を末尾で禁止したが、権利の帰属条項は「著作権は甲に移転する」のまま。後から利用が発覚し、契約違反の話と移転の可否の話が同時に立った
- 禁止条項を入れたが、作業記録の提出を求めていない。守られているかどうかを確かめる材料が発注側に無い
- 検収の期間を「速やかに」としか書いていない。合格したかどうかが決まらず、権利の移転時期も支払いの起算日も定まらない
- 第三者の権利を侵さない保証だけを入れ、補償と協力義務を書いていない。主張を受けた場面で、費用も、出どころを確かめる材料も手元に無い
- 準委任なのに再委託を明記し、請負のほうには書かなかった。初期値が逆であることに気づかず、請負案件で知らない相手が作業に入っていた
- 個人への発注で、契約書は交わしたが発注時点の明示をしていない。知的財産権の譲渡の範囲が明示事項に含まれることを知らなかった
次は、発注する前に確かめる項目です。契約書を書き始める前の30分で埋まる分量にしてあります。
- この外注は完成を求めるものか、作業を任せるものか(型が決まらないと再委託の初期値が決まらない)
- できたものを、いつまで、どこで使うか(譲渡が要るのか許諾で足りるのかがここで決まる)
- 相手は個人か会社か。会社なら資本金と従業員数はどのあたりか(明示の義務が働くかが変わる)
- 作業のどの工程で外部のサービスを通す見込みがあるか(相手に先に聞く)
- 渡す資料に、入力してはならないものが含まれていないか
- 検収は誰が、何日以内に、どの基準で見るか
- 権利の主張を受けたときに、誰が最初に動くか
- 契約書と発注書は役割が違う。明示の義務が働く取引では、契約書を交わしていても、発注のたびに条件を通知する形が別に要る
- 支払日は期間ではなく1日を特定して書く。公正取引委員会の見解では、いつ支払われるか分からない書き方は避けるべきとされている
- 権利に関する保証と、契約不適合の責任は別の時計で動く。前者は数年たって表に出ることがあるため、期間を分けて置く
- 法令の適用は取引の中身と相手の規模で変わる。ここに書いたのはどの条件で問題になり得るかの整理で、個別の判断は専門家に確かめる
よくある質問
ひな形を1本作れば、全部の外注に使い回せますか?
使い回せる部分と、案件ごとに書き換える部分が分かれます。秘密保持、解除、記録、保証の枠組みは自社の型として固定できます。書き換えが要るのは、成果物の使い道と、作り方に関する条項の2か所です。この2か所だけを毎回埋める形にしておくと、法務に相談する範囲も狭くなります。全部を毎回読み直している会社ほど、実際に変わっているのはこの2か所だけです。
生成AIの利用を全面的に禁止しておけば安全ですか?
安全にはなりません。理由は2つあります。1つは、守られているかどうかを発注側が確かめる手立てが通常ないこと。もう1つは、禁止したことで作業の速さや費用の前提が変わり、見積もりや納期の側にはね返ることです。禁止するなら、作業記録の提出を対で求め、見積もりの前提として相手に伝えておくのが実務的です。
権利が移らない部分があるなら、独占できないということですか?
その部分については、独占の効力を著作権に頼れないという意味です。ただし、契約で相手に「当該部分について権利主張をしない」「同じものを他に提供しない」といった義務を負わせることはできます。著作権による独占と、契約による約束は別の仕組みです。独占が必要な素材ほど、契約側の約束を厚く書いておくことになります。
相手が使った道具の名前まで、契約で聞いてよいものですか?
聞くこと自体は問題になりませんが、聞いた情報を発注側がどう使うのかを先に決めておかないと、答えが返ってきても何もできません。実務では、道具の名前より「預けた資料を入力したかどうか」「出力をそのまま納品したか、人が手を入れたか」の2点のほうが役に立ちます。確かめたい事実から逆算して、聞く項目を決めます。
すでに交わしてある契約は、巻き直したほうがよいですか?
全部を巻き直す必要はありません。先に見るのは、外部に出る成果物を作らせている契約と、自社の非公開情報を渡している契約の2種類です。この2つに絞って、権利の帰属、保証と補償、秘密情報の入力の3点だけを確かめ、足りない場合は覚書で足す形が現実的です。次回の更新時にまとめて直す、という段取りでも間に合う契約のほうが多いはずです。
まとめ
業務委託契約書に入れる項目は、作るもの、納品の形、期日と修正回数、報酬と支払期日、検収、知的財産権、秘密保持、再委託、保証と補償、解除と中途終了、記録と報告の11です。この土台の上に、成果物が生成AIで作られる前提になったときの書き足しが乗ります。増えるのは条項の本数ではなく、申告、帰属、学習、保証、再委託という既存の5か所の書き方の細かさでした。
押さえどころを1つだけ挙げるなら、権利の帰属条項の隣に、権利が生じない部分の扱いを置くことです。移すと書いても移る中身が無い場合があり、そのときに独占を支えるのは著作権ではなく契約上の約束になります。そして保証は、表明と補償と協力義務の3つに割って書く。止められること自体は、知らなかったという事情では防げないからです。
次の一手としては、いま動いている外注のうち、外に出る成果物を作らせている契約を1本だけ開いてみてください。検収の期間が日数で書かれているか、保証の隣に補償と協力義務があるか。この2点を見るだけで、自社のひな形をどこから直すかの見当がつきます。デボノは制作と運用を受託する側でもあり、発注側の相談も受けています。契約の型を整えるところから相談したい場合は、お気軽にお声がけください。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
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