統合報告書をAIで作る5工程|財務と非財務をつなぐ

「発行する会社は増えているのに、去年より薄い冊子になった気がする」「部門から集めた原稿を並べたら、同じ指標の数字が2か所で違っていた」——年次の1冊を作る現場で、この二つはほぼ同時に出てきます。企業価値レポーティング・ラボの集計では、国内で統合報告書を発行する企業等は2025年に1,225社、うち上場企業は1,134社です。一方、宝印刷の研究所が公表した「統合報告書発行状況調査2025」では1,214社で、前年同時期の1,150社から64社増えたとされています。同じ年を数えても、調査によって社数は違います。そして、発行が増えたことと、1冊が財務と非財務でつながっていることは別の話です。つながらない原因は文章力ではなく、材料の集め方と筋の決め方にあります。この記事では、載せる範囲を決めるところから第三者の確認までを5工程に分け、制度開示がいつから誰に義務を課すのか、そしてAIに任せてよい整合の確認と、人が決める開示の範囲を順に整理します。
カメ先生統合報告書は、財務と非財務を並べれば統合になると思われがちですが、並べただけでは冊子が真ん中で2つに割れます。割れるのは、両方を貫く筋が1本決まっていないからです。
カメ子筋というのは、価値創造ストーリーと呼ばれているもののことですか。
カメ先生そうです。何で稼いでいて、その稼ぐ力を何が支えているのか。そこが1本決まると、載せる指標も、落とす原稿も自動的に決まります。だから順番としては、筋を決めてから原稿を集めます。
カメ子先に原稿を集めてから筋を考えるのとは、何が違うのでしょうか。
- 発行社数は調査によって違う。数を社内資料に書くときは、どの調査のどの集計期間かを必ず添える
- 5工程の要は工程3。筋を1本決めてから原稿を集めると、載せる指標と落とす原稿が自動で決まる
- AIに任せるのは整合の確認と前年差分の抽出まで。載せる数字の確定と開示の可否は人が決める
コンテンツ制作にAIを活かす第一歩、まずは導入から始めませんか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
発行社数を原典で数えると、同じ年でも社数が違う
最初に数の話を片付けます。企業価値レポーティング・ラボの2025年版の一覧は、国内で統合報告書を発行する企業等が2025年も緩やかに増加し1,225社になったと書いています。そのうち上場企業は1,134社で、一覧のページに併記された比率は、1,134を1,225で割った値と一致します。他方、宝印刷の研究所の調査は集計期間を2025年1月から2025年12月末時点とし、1,214社という数を出しています。
11社の差は誤差ではなく、何を統合報告書として数えるかの違いから出ます。自己表明型として数えるのか、それに類するレポートまで含めるのか。上場企業に限るのか、それ以外の法人も含めるのか。どちらの調査も定義を持っていて、その定義のもとでは正しい数字です。だから社内の資料に書くときは、数だけを書かず、どの調査の、どの集計期間の数かを1行添えます。
この作業を最初に置く理由は、統合報告書そのものが同じ問題を抱えているからです。任意の開示書類なので様式がなく、同じ指標名でも会社によって範囲が違います。自社の1冊のなかで数字がぶれるのも、外部の統計で社数がぶれるのも、原因は同じ「定義が添えられていないこと」です。この記事の工程2で作る台帳は、この一点を潰すためのものです。
統合報告書とは何を1冊にまとめるものか
統合報告書は、財務の情報と非財務の情報を、価値をどう作っているかという筋で束ねて1冊にした報告書です。財務の側は決算の数字と資本効率の指標、非財務の側は人材、知的財産、環境への負荷、ガバナンスの体制といった、決算書に出てこない要素です。束ねる相手は投資家で、取引先から届く調達の質問状に答える書類とは、読み手が違います。
読み手が違うと、書く粒度も変わります。取引先向けの回答は、方針が文書としてあるか、認証を取っているか、体制が整っているかという確認の作業です。投資家向けの1冊は、その方針や体制が将来の稼ぐ力にどうつながるのかという説明を求められます。同じ「人材への投資」でも、前者は制度の有無、後者は投資額と成果の関係です。取引先からの質問状への答え方は当サイトの調達開示の記事に譲り、ここでは扱いません。
もう一つ押さえておきたいのは、統合報告書が制度で義務づけられた書類ではないことです。様式が決まっていないので、何を書いても形式違反にはなりません。その代わり、何を書くかを自分で決めなければならず、決めないまま作ると各部門から届いた原稿の順番どおりに並ぶだけの冊子になります。そこで、外の枠組みを骨として借ります。次の2章がその話です。
有価証券報告書とアニュアルレポートとの線引き
実務でいちばん混ざるのが、この3つです。有価証券報告書は制度開示で、記載する項目と場所が定められています。だからどの会社の有価証券報告書でも、同じ場所に同じ種類の記述があります。アニュアルレポートは年次の事業報告で、財務の実績が中心です。統合報告書は任意の書類で、筋で束ねるところに存在意義があります。
| 有価証券報告書 | アニュアルレポート | 統合報告書 | |
|---|---|---|---|
| 性格 | 制度開示 | 任意の年次報告 | 任意の年次報告 |
| 様式 | 定められている | 自由 | 自由(枠組みを借りる) |
| 主な読み手 | 投資家と規制当局 | 株主と投資家 | 中長期の投資家 |
| 中心 | 事実と数字 | 業績の説明 | 価値を作る筋 |
| 数字の出どころ | 会計の確定値 | 会計の確定値 | 確定値から引く |
使い分けの原則は1つです。数字は有価証券報告書と同じ確定値から引き、統合報告書では筋を語る。重複を避けようとして統合報告書だけ違う数字を載せると、読み手はどちらが正しいのか判断できません。重複は避けるものではなく、一致させるものです。一致させるための仕組みが、次の章から始まる台帳です。
なお、他社の統合報告書や有価証券報告書を読んで競合の状況を掴む作業は、読む側の技術で、当サイトの公開資料の分析の記事で扱っています。この記事は出す側の作業に絞ります。読む側の視点が役に立つのは工程1で、自社が何を書かないと読み手に不足と見えるかを確かめるときです。
枠組みは2つある。どちらを骨にするか
骨として使える枠組みは、実務では2つです。1つは経済産業省の「価値協創のための統合的開示・対話ガイダンス2.0」で、表紙に「2017年5月29日 策定」「2022年8月30日 改訂」と書かれています。本体の大項目は6つで、価値観、長期戦略、実行戦略(中期経営戦略など)、成果(パフォーマンス)と重要な成果指標(KPI)、ガバナンス、実質的な対話・エンゲージメントという並びです。
このうち長期戦略は、改訂で新しく設けられた大項目です。ガイダンスは、自社が目指す姿を示す「長期ビジョン」、長期的かつ持続的な企業価値向上の基盤となる「ビジネスモデル」、リスク要因や事業機会となり得る要因を把握・分析して短・中・長期それぞれの対応へ活かしていくための「リスクと機会」の三つから構成されると説明しています。また、気候関連の開示で定着した「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」という4つの区分との整合性を確保するため、それぞれに対応する項目を活用できる構成にしたと明記されています。つまり、この枠組みで書けば制度側の記述と章立てがぶつかりません。
もう1つは国際統合報告フレームワークです。策定した国際統合報告評議会は、2021年6月にサステナビリティ会計基準審議会と統合して価値報告財団となり、2022年8月に価値報告財団が国際財務報告基準財団に統合されました。この経緯は価値協創ガイダンス2.0の本文にも書かれています。使い分けの目安は読み手です。国内の機関投資家との対話が主なら価値協創ガイダンス2.0を骨にし、英語版を出して海外の投資家に読ませるなら、国際統合報告フレームワークの内容要素に自社の章を対応づけておくと質問に答えやすくなります。
- 価値協創ガイダンス2.0は「各企業は、本ガイダンスの各項目を形式的・固定的に捉えることなく、自社のビジネスモデルや戦略にとって重要なものを選択し、これを自らの価値創造ストーリーに位置づけるなどして活用することが期待されています」と書いている。全項目を埋める作業にしないこと
- 気候関連財務情報開示タスクフォースの提言は2017年6月に公表され、価値協創ガイダンス2.0の記述では日本で1,000を超える企業・機関が賛同の意を示している(2022年7月25日時点)
制度開示の側が動いた。いつから誰に義務がかかるか
統合報告書は任意ですが、制度開示の側が基準に従う形へ動いています。企業内容等の開示に関する内閣府令の第19条の9第1項は、金融庁長官が指定する取引所金融商品市場に上場する株券等の発行者のうち平均時価総額が1兆円以上である者について、有価証券報告書等の「サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載すべき事項を一般に公正妥当と認められるサステナビリティ情報の作成及び開示に関する基準に従って記載しなければならないと定めています。同条第2項は、それ以外の者も同じ基準に従って記載することができるとしています。
時期は附則で段階が付いています。附則第2条第1項は、この規定を令和10年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書から適用するとしつつ、平均時価総額が3兆円以上である者を「第一次適用会社」と呼び、こちらは令和9年3月31日以後に終了する事業年度からとしています。2027年3月期に3兆円以上、2028年3月期に1兆円以上という順番です。平均時価総額は、直前事業年度の前事業年度の末日と、その開始の日前4年以内に開始した事業年度の全ての末日における時価総額の合計を5で除して得た額と定義されています。
従う先の基準は、サステナビリティ基準委員会が2025年3月5日に公表しました。3つあり、正式名称は「サステナビリティ開示ユニバーサル基準『サステナビリティ開示基準の適用』」「サステナビリティ開示テーマ別基準第1号『一般開示基準』」「サステナビリティ開示テーマ別基準第2号『気候関連開示基準』」です。なお附則第2条第2項は、適用の初年度とその翌事業年度については当該記載事項を記載しないことができるとし、その場合はそれぞれの翌事業年度に係る半期報告書を提出すべき期間の末日までに訂正報告書を提出しなければならないと定めています。
実務にとっての意味は1つです。制度側の記述が基準に従う形になると、統合報告書に書いた非財務の記述と、有価証券報告書の記述が食い違えなくなります。食い違いは、これまでは体裁の問題でした。これからは、どちらかが訂正の対象になりえます。だから台帳は、統合報告書のためではなく、両方の書類のために作ります。
5工程の全体像
ここから作業の順番です。5つの工程に分けますが、入れ替えてよいのは工程4と工程5の一部だけで、工程1から3の順番は動かせません。順番を崩すと、集めた原稿を捨てる作業が発生します。
連結の範囲、対象期間、主な読み手を1つに決めます。同時に「今年は載せない」ものを決めます。
1行1指標の台帳を作り、定義・範囲・出どころ・確定日を埋めます。原稿依頼より前に作ります。
何で稼いでいて、その力を何が支えるのか。ここが決まると載せる指標と落とす原稿が決まります。
数字、用語、前年版との差分の3つを順に確認します。AIがいちばん効く工程です。
経営企画から経営会議までの順路を決め、最後に有価証券報告書との数字の一致を1回確認します。
この5工程で、いちばん飛ばされるのが工程2です。各部門への原稿依頼は目に見える進捗なので先に出したくなりますが、台帳がない状態で集めた原稿は、数字の定義がそろっていないので後から全部直すことになります。工程2に1週間かけると、工程4が2週間短くなります。
工程1 載せる範囲と読み手を決める
決めるのは4つです。連結の範囲、対象期間、主な読み手、そして今年載せないもの。連結の範囲は、財務が連結なのに非財務が単体という食い違いがいちばん多い箇所です。海外子会社の従業員数を含めるのか、温室効果ガスの算定範囲に持分法適用会社を入れるのか。範囲は指標ごとに違ってよいので、違うことを明記します。そろえられないものを無理にそろえると、数字が壊れます。
主な読み手を1つに絞るのは、複数置くと筋が割れるからです。中長期の機関投資家、採用の応募者、取引先。この3つを同じ冊子で満たそうとすると、章ごとに語り口が変わり、全体として何の本なのか分からなくなります。主を1つ決め、従の読み手には別の冊子や採用サイトを充てます。会社案内を紙と画面のどちらで作るかという判断は別の論点なので、この記事では扱いません。
最後の「今年載せないもの」が、いちばん効きます。前年に載せた章をそのまま残すと、毎年ページが増えて薄い記述が積み上がります。落とす基準は、筋との距離です。工程3で筋を決めたあとに、前年版の目次を1行ずつ「筋に効くか」で判定します。効かない章は、落とすか、統合報告書ではなく別の場所に移します。
工程2 財務と非財務の材料を集める台帳を作る
台帳は1行1指標です。列は7つあれば足ります。指標名、単位、定義、算定の範囲、出どころ、確定日、担当。これに前年値の列を足すと、工程4の前年差分がそのまま出せます。出どころは「決算短信の何ページ」「人事の集計表の何行」まで書きます。書けない指標は、その時点では載せられない指標です。
- 指標名は社内の呼び方ではなく、開示で使う名前に統一している
- 単位を千円と百万円で混ぜていない。人数の指標に「名」と「人」を混ぜていない
- 定義に、分母と分子を書いている(比率の指標はここでずれる)
- 算定の範囲を、連結・単体・国内のみ、のいずれかで明記している
- 出どころを、資料名と場所まで書いている
- 確定日を書いている。未確定の行は色を変えて残す
- 前年値を同じ行に置き、前年と定義が変わった行に印を付けている
台帳を作ると、原稿の書き方が変わります。本文に数字を直接打たず、台帳の行を参照して書くという運用にすると、数字が変わったときの直しが1か所で済みます。統合報告書は決算の確定と並行して作るので、作業の途中で数字が動くのが前提です。打ち込みで書いていると、動いたときに全ページを探すことになります。
台帳が効くもう一つの場面は、前年との比較です。定義を変えた指標は、変えたことを本文に書かないと読み手には数字が急に動いたように見えます。台帳に前年値と定義変更の印を置いておけば、「今年から範囲を連結に変えたため前年比は参考値」という一文を書き忘れずに済みます。この一文の有無が、対話の質を大きく変えます。
工程3 筋を1本に決める
筋は3つの問いで決まります。何で稼いでいるのか。その稼ぐ力を支えているのは何か。その支えを崩す、あるいは伸ばす要因は何か。この3つは、価値協創ガイダンス2.0の長期戦略の3項目、つまり長期ビジョン、ビジネスモデル、リスクと機会に対応します。3つを1枚に書けなければ、冊子は割れます。
ここで注意したいのが定型化です。価値協創ガイダンス2.0は「内容の定型化(ボイラープレート化)に陥ることなく、主体的に価値創造ストーリー及び開示情報を検討していくことが求められる」と書いています。定型化は、他社の統合報告書を並べて共通する言い回しを集めると起きます。どの会社にも当てはまる文は、自社について何も言っていない文です。筋の1枚は、他社の冊子を閉じてから書きます。
筋が決まると、作業が急に軽くなります。載せる指標は、筋のどこに効くかで選べます。落とす原稿は、筋に効かないもので決まります。章の順番は、3つの問いの順番になります。逆に、原稿を集めてから筋を考えると、届いた原稿を全部使う方向に力が働き、筋のほうが原稿に合わせて曲がります。
- 財務の章と非財務の章を別の担当が独立に書き、最後に並べる
- 他社の統合報告書から共通する言い回しを集めて筋を作る
- 筋を決める前に各部門へ原稿を依頼する
- 3つの問いのうち「何で稼いでいるのか」を、事業の一覧で済ませる
- 去年の筋をそのまま使い、今年の環境変化を反映させない
工程4 原稿を集めて整合をとる
集まった原稿で起きる不整合は、3種類しかありません。1つ目は数字の食い違いです。同じ指標が本文と図表で違う、前年版と当年版で同じ年の値が違う、単位が違う。2つ目は用語の不統一です。「人的資本」「人材」「従業員」が章ごとに入れ替わる、同じ制度を別の名前で呼ぶ。3つ目は前年版との言い方の変化で、方針が変わっていないのに表現だけ変わっている状態です。
確認は順番があります。数字、用語、前年差分、表現の順です。先に表現を整えると、数字が動いたときに整えた文をまた直します。数字が固まる前に文章を磨かない。これは校正の常識に反しますが、決算と並走する制作物では逆になります。
用語の不統一は、統一表を1枚作れば止まります。左に開示で使う語、右に社内で使われている言い換えを並べます。「人的資本への投資」の右に「人材投資」「教育研修費」「人への投資」を置く形です。この表があると、部門から届いた原稿を機械的に置き換えられます。そして、この置き換えと数字の突合が、次の章で扱うAIの担当範囲です。
工程5 社内の確認と第三者の確認を通す
社内の順路を先に決めます。経営企画が筋と全体、財務が数字、法務が書ける範囲、広報が表現、最後に経営会議という並びが標準です。順路を決めないと、同じ原稿が並行して直され、版が分岐します。分岐した版を後から合わせる作業が、この工程でいちばん時間を食います。版は1本にし、誰がいつ何を直したかを残します。
第三者の確認については、誤解を解いておく必要があります。統合報告書は制度開示ではないので、会計監査人による監査の対象ではありません。非財務の情報について第三者の保証を受ける場合も、対象は温室効果ガスの排出量など特定の指標に限られるのが一般的です。冊子全体に第三者の保証が付いているわけではない点は、社内で共有しておきます。
最後に1回だけ、有価証券報告書との数字の一致を確認します。確認するのは、両方に出てくる指標だけです。台帳の出どころの列を見れば、どの行が両方に出るかは分かります。確認が終わったら、確定した値と根拠を翌年の台帳の初期値として保存します。この保存を毎年やると、3年目から工程2が半分の時間で終わります。
AIに任せる整合の確認と、人が決める開示の範囲
ここがこの記事のもう一つの主題です。統合報告書の制作でAIがいちばん効くのは、文章を書かせる場面ではなく整合を確認させる場面です。任せられるのは4つあります。財務の数字と本文の記述の突合、用語の不統一の洗い出し、前年版との差分の抽出、そして章をまたいだ重複の検出です。いずれも、判断ではなく機械的な照合です。
任せ方は具体的に書きます。台帳と原稿を渡して「本文に出てくる数値を全部抜き出し、台帳の値と一致しないものを、本文の該当箇所と台帳の行を対にして並べて」と頼みます。用語なら「統一表の右側の語が本文に残っている箇所を、章と行で並べて」。前年差分なら「前年版と当年版で、同じ年の同じ指標の値が違う箇所を並べて」。いずれも指示に「並べて」までを書き、直す作業は頼まないのが要点です。
| 工程 | AIに任せてよいこと | 人が決めること |
|---|---|---|
| 1 範囲と読み手 | 前年版の目次を筋との距離で仕分けた案を出す | 連結の範囲、対象期間、主な読み手 |
| 2 台帳 | 各部門の提出物から指標名と値を抜き出して行にする | 指標の定義、算定の範囲、確定日 |
| 3 筋 | 3つの問いに対する社内資料からの材料を集める | 筋そのもの。何を価値創造の中心に置くか |
| 4 整合 | 数値の突合、用語の不統一、前年差分、重複の一覧化 | どちらの数字を正とするか。表現の最終形 |
| 5 確認 | 確認の記録を様式にそろえる | 書ける範囲、開示の可否、公開の判断 |
人が決める側を3つに絞ると迷いません。載せる数字の確定。書ける範囲、つまり社内で決まっていないことを書かないという線。そして開示してよいかの判断です。この3つは、条文でも枠組みでもなく、発行主体としての責任の範囲にあたる部分なので、機械に渡す余地がありません。AIが出した一覧のうち、どれを直すかを1件ずつ人が決めます。
AIに書かせると起きること。定型化と、根拠のない見通し
では、章の文章をAIに書かせるとどうなるか。2つのことが起きます。1つは定型化です。前提として渡せる材料が薄いと、AIはどの会社にも当てはまる文で埋めます。「持続可能な社会の実現に向けて」「ステークホルダーとの対話を通じて」といった句が並び、読み終わっても社名を当てられない章ができます。価値協創ガイダンス2.0がボイラープレート化を名指しで避けよと書いているのは、この状態のことです。
もう1つは、根拠のない見通しです。AIは文の流れを整えるので、現状の説明の次に自然と目標の文を置きます。その結果、社内で決議されていない年限や数値目標が原稿に現れます。「2030年までに」という句が、誰も決めていないのに入っている。これは校正では見つかりません。読んで違和感がないからです。見つけるには、将来の記述だけを抜き出して、決議や公表済みの計画に当たる作業を別に立てます。
対策は2つです。1つ目は、AIに渡す枠を先に作ることです。「確定した事実と、台帳にある数字だけを使って書く」「将来に関する記述は、公表済みの中期経営計画からの引用に限る」「引用元を各段落の末尾に書く」。この3行を指示に入れます。2つ目は、文中の数値に台帳の行番号を必ず書かせることです。行番号のない数値は、AIが作った数値だと分かります。
- 材料を渡さずに「価値創造の章を書いて」と頼む。定型文が返る
- 将来の目標を含む章をAIに書かせ、そのまま社内確認に回す
- AIが整えた表現を先に固め、あとから数字を差し替える
- AIに「開示して問題ないか」を判断させる。書ける範囲は人の決定事項
- 前年版を渡さずに当年版を書かせる。前年との言い方の変化に気づけない
- 統合報告書は発行主体の責任で出す書類なので、下書きをAIが書いたかどうかは読み手にとって関係がない。誤りがあれば発行した会社の説明になる
- 数字はAIに出させない。台帳から引く。AIに計算させると、単位や範囲の異なる値を平気で足し合わせる
日程の逆算と、誰が何を持つか
日程は、公開したい日から逆算しません。決算の確定日と、有価証券報告書の提出日から逆算します。統合報告書に載る数字の多くは決算の確定を待つので、確定より前に置ける工程と、後にしか置けない工程が分かれます。前に置けるのは工程1と工程3、それに台帳の枠づくりです。後にしかできないのは、台帳の値の確定と工程4以降です。
だから並びはこうなります。読み手と範囲を決める、筋を1枚に書く、台帳の列と行を作る、ここまでを決算確定の前に終えます。決算が確定したら台帳の値を埋め、そのうえで各部門へ原稿を依頼します。台帳の確定を原稿依頼より前に置く。この一点だけで、工程4の手戻りがほぼ消えます。逆にすると、届いた原稿の数字を全部差し替える作業が発生します。
持ち場は4つに分けます。経営企画が筋と全体の版、財務が台帳の数字、法務が書ける範囲、広報が表現と制作の進行です。サステナビリティの担当部署がある会社では、非財務の指標の定義をその部署が持ち、財務が突合します。そして毎年、前年版の反省を台帳の備考欄に書き戻します。書き戻さないと、同じ食い違いを毎年見つけ直すことになります。
よくある質問
何ページくらいにすべきですか
ページ数の正解はありません。決めるのは筋のほうで、筋に効く章だけを残した結果としてページ数が出ます。前年より薄くなること自体は問題ではなく、薄い記述の章が増えることが問題です。判断に迷ったら、目次を1行ずつ「筋に効くか」で判定してください。
英語版は必要ですか
海外の投資家との対話があるなら必要です。そのときは、章を国際統合報告フレームワークの内容要素に対応づけておくと、先方の読み慣れた順路に載ります。英語版を出すなら、日本語版の筋の1枚を先に英語で書いてから章を訳すほうが、訳しながら筋が曲がるのを防げます。
初年度はどこから手を付ければよいですか
台帳からです。筋も範囲も初年度は決めきれませんが、台帳は決算と人事の集計表があれば作れます。台帳ができると、自社にどの指標がないかが見えます。その不足の一覧が、翌年の筋を決める材料になります。
AIに全部書かせてはいけないのですか
整合の確認と一覧化は任せてよく、筋の1枚と将来に関する記述は人が書きます。章の下書きを出させることは可能ですが、材料として台帳と社内資料を渡し、引用元を段落ごとに書かせるのが条件です。引用元を書けない段落は、そのまま消してかまいません。
第三者の保証は取るべきですか
義務ではありません。温室効果ガスの排出量のように算定方法が定まっている指標では、保証を付けると投資家からの質問が減ります。一方で冊子全体の保証という考え方はないので、どの指標にどの範囲の保証を付けたのかを冊子の中で明記してください。
まとめ
統合報告書を発行する会社は増えています。企業価値レポーティング・ラボの集計では2025年に1,225社、うち上場企業は1,134社、宝印刷の研究所の調査では1,214社で前年から64社増です。同じ年でも社数が違うのは、何を統合報告書として数えるかの定義が違うからで、この「定義を添える」という作業が、そのまま自社の1冊の作り方につながります。5工程の順番は、載せる範囲と読み手を決める、台帳を作る、筋を1本に決める、原稿を集めて整合をとる、社内と第三者の確認を通す、です。工程1から3の順番は動かせません。とくに台帳の確定を原稿依頼より前に置くと、後半の手戻りがほぼ消えます。枠組みは、国内の投資家が主な読み手なら価値協創ガイダンス2.0の6大項目を骨にし、英語版を出すなら国際統合報告フレームワークの内容要素に対応づけます。制度側は、平均時価総額3兆円以上が2027年3月期、1兆円以上が2028年3月期から基準に従った記載を求められるので、統合報告書と有価証券報告書の非財務の記述は食い違えなくなります。AIに任せるのは、数値の突合、用語の不統一の洗い出し、前年差分の抽出、重複の検出までです。載せる数字の確定、書ける範囲、開示の可否は人が決めます。将来の記述は公表済みの計画からの引用に限り、文中の数値には台帳の行番号を必ず添えてください。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
コンテンツ制作にAIを活かす第一歩、まずは導入から始めませんか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
