AIは国内で完結させるべきか|法域で決める調達の基準

AIは国内で完結させるべきか|法域で決める調達の基準

「生成AIの利用が社内で広がってきたので、国内で完結する構成に寄せたい、と役員から言われました」「国産と書かれたサービスを選べば、それで条件は満たせるのでしょうか」——AIの導入が二年目に入った会社の情報システム部門と調達部門から、この二つは同じ会議の中で出てきます。ただし、国内で完結させるかどうかは、事業者の国籍で決まる話ではありません。本当に効くのは、その構成に、どの国の法律が及ぶのかです。この記事では、国内で完結させるという言葉を三つの層に割る見方、法域が機材の所在地では決まらない仕組み、国内資本の事業者でも崩れる三つの条件、四つの軸での比べ方、政府の調達が国籍ではなく要件で選んでいるという事実、そしてAIに任せてよい棚卸しと人が決める判断の線を順に整理します。


カメ先生カメ先生

国産のサービスを選べば国内で完結する、と思われがちですが、実際に効くのは事業者の国籍ではなく、その構成に及ぶ法律です。


カメ子カメ子

国内にサーバーがあっても、外国の法律が及ぶことがあるということですか。


カメ先生カメ先生

あります。米国の法律には、記録が合衆国の内外どちらに所在するかを問わず開示や保全の義務に従わせる条文があります。だから機材の置き場所だけを見ても、答えは出ないのです。


カメ子カメ子

置き場所で決まらないとすると、どこを見れば法域が決まるのでしょうか。


この記事のポイント
  • 「国内で完結」は一つの状態ではない。保存・処理・基盤モデルの提供元の3層に割ると、どこまで寄せるかを層ごとに決められる
  • 国内資本の事業者でも、親会社の所在・再委託先・基盤モデルの提供元のどれかが外国にあれば、その国の法律が及びうる
  • 政府の調達は国内か外国かで選んでいない。305項目の技術要件を満たすかで選んでいる。民間が真似できるのは、この決め方のほう

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目次

「国内で完結」は、3つの層に割ってはじめて決められる

「国内で完結させたい」という要望を分解すると、たいてい三つの別の話が混ざっています。ひとつめは、入力した文と出力された文が保存される場所です。ふたつめは、推論、つまりモデルに文を渡して答えを作らせる処理が実行される場所です。みっつめは、その基盤モデルを作って提供している事業者の所在と、入力を学習に使うかどうかの扱いです。この三つは連動しません。国内のデータセンターに保存されていても、推論は外国の計算資源で行われることがあります。推論まで国内で完結していても、モデルそのものは外国の事業者が作ったものであることがあります。

割らずに「国内で」と言うと、調達の仕様書にも契約書にも落ちません。落ちないまま話が進むと、事業者の側は自社が答えやすい層だけを答えます。「データは国内の拠点に保存されます」という回答は、ひとつめの層についての回答であって、ふたつめとみっつめには何も答えていません。三つを別の行に分けて、それぞれ国内に寄せるか寄せないかを決められる形にしておくと、費用と機能の折り合いが、層ごとに付けられるようになります。保存先の国をどう指定するかという手続そのものは当メディアの別記事で扱いました。ここでは、層ごとに及ぶ法律が別に決まる、という一点だけを押さえます。

社内文書を検索して答えさせる仕組みまで含めると、確かめる場所は三つでは足りません。検索対象を並べた索引の置き場所、やり取りの記録、運用を監視する仕組み、精度を測るために取っておく評価用のデータ。ここまで数えると六か所になります。「国内で完結」と言った人が思い浮かべていたのは、たいてい最初のひとつだけです。会議の冒頭に、この六か所を並べた紙を出すところから始めると、以降の議論が具体になります。六か所のうち、実際に外国に出ているのがどれなのかを埋められないなら、その時点で決めるべきことは調達の可否ではなく、棚卸しのやり直しです。

法域は、機材の所在地では決まらない

2018年3月23日に成立した米国クラウド法は、合衆国法典第18編に第2713条を加えました。この条文は、電子通信サービスや遠隔計算サービスの提供者は、自らの占有・保管・支配のもとにある通信の内容や利用者に関する記録について、それが合衆国の内外いずれに所在するかを問わず、保全・複製・開示の義務に従わなければならない、と定めています。条文が明示しているのは所在地を問わないという点であり、つまり機材が日本国内にあっても、その事業者が米国法の管轄下にあれば、米国の手続にもとづく対象になりうるということです。

この構造は米国だけの話ではありません。外国の事業者を使うときに確かめるのは二点です。その事業者はどの国の法律の管轄下にあるのか。そしてその国の法律に、国外にある記録まで及ぶ規定があるのか。「国内に置いてあります」という営業の説明は、一点めの答えになっていません。管轄を尋ねると、運営会社の登記地、契約の相手方になる法人、紛争になったときの裁判管轄と準拠法の三つが別々に出てくることがあります。契約書の末尾にある準拠法の条項は、その契約についての話であって、刑事や行政の手続がどの国の法律で動くかを決めるものではありません。

ここは誇張しないほうがいいところです。実際に開示が求められる場面は限られており、手続の要件も、事業者が争う余地もあります。だから「外国の事業者を使えば情報が出ていく」という書き方は正確ではありません。書くべきなのは、その可能性が制度として存在するかどうかを、自社のどの情報について許容するのか、という線引きです。許容できない情報が具体的に挙げられないうちは、国内に寄せる工事の見積りも意味を持ちません。

「国内の事業者だから安全」が崩れる3つの条件

国内資本の事業者を選んだのに、外国の法律が及ぶ構成になっている。この食い違いは、次の三つのどれかで起きます。

  • 親会社や支配株主の所在が外国にある:日本法人として登記されていても、外国の親会社の指示や、その国の法律の影響を受ける余地が残ります
  • 再委託先が外国にある:基盤の提供、監視、保守、障害時の解析といった一部の工程が外国の事業者に出ていると、その先で法域が変わります
  • 基盤モデルの提供元が外国にある:国内の事業者が提供する画面の裏側で、外国の事業者のモデルを呼び出している構成は珍しくありません

確かめ方は、三つとも公開情報と質問状で足ります。資本と親会社は登記事項と、上場していれば有価証券報告書の関係会社の記載で分かります。再委託は、委託先の一覧を出せるかを聞きます。基盤モデルは、モデルの提供元と版を明記できるかを聞きます。このとき大事なのは、答えられなかったという事実そのものを記録に残すことです。空欄のままにすると、次の担当者が「確認済み」と誤解します。「不明」は、確認していないことと同じ扱いにしないのがこの表の使い方です。

三つめについては、もう一段だけ深く聞く価値があります。モデルの提供元が変わったときに通知が来るのか、という点です。画面の裏側のモデルは、事業者の判断で差し替えられることがあります。差し替えの通知が契約に書かれていなければ、国内で完結していたはずの構成が、ある日から別の法域を通るようになります。それに気づける仕組みがないなら、その構成は「いま国内」であって「国内で固定」ではありません。

比べるときは、この4つの軸で横に並べる

候補が複数あるとき、機能の一覧で比べると必ず外国の事業者が勝ちます。機能の数と更新の速さで比べているからです。比較の軸を先に決めておくと、勝ち負けではなく組み合わせの検討になります。次の四つを列に置いて、候補を横に並べます。

確かめること答えが出ないときの扱い
法域運営会社がどの国の法律の管轄下にあるか。その国に、国外の記録まで及ぶ規定があるか管轄を答えられない候補は、機能が良くても一次のふるいで落とす
資本と親会社株主の構成、支配株主、親会社の所在地。登記と公開資料で裏を取る登記で確かめられる範囲までを書き、推測は書かない
基盤モデルモデルの提供元と版、入力を学習に使わない設定が既定かどうか、差し替え時の通知提供元を書けない構成は、社外秘の情報を入れる用途から外す
機能と費用使える機能の差、更新の速さ、実行量に応じた費用の増え方落ちる機能を業務の一覧で書き出し、受け入れるかを人が決める

この四軸を横に並べると、「国産だが機能は数世代前」「外国製だが機能は最新で法域は外」という二択には収まらないことが見えてきます。たとえば入力の受け口と社内データの索引は国内の事業者にまとめ、推論だけを機能の良い外国の事業者に出して、そこに渡す情報を公開情報と社内一般に限る。この組み合わせは、四軸を別々に評価してはじめて選択肢として出てきます。軸を混ぜて総合点にすると、この形は表に現れません。

全部を国内にしない。層ごとに決める

現実的な結論から書くと、「全部を国内で」という決め方は、ほとんどの会社で維持できません。維持できないのは意志の問題ではなく、機能の差が業務に直接効く場面があるからです。そこで、決めるのは全体ではなく層です。入力の受け口と認証、推論、社内データの索引、やり取りの記録と運用監視、評価と改善のための保管。この五つについて、寄せるか寄せないかを別に決めます。

決める順番は、層から入らずに情報の区分から入ります。まず扱う情報を三区分に切ります。公開してよい情報、社内限りの情報、そして漏れたときに本人や取引先に影響が及ぶ情報です。次に、区分ごとに使ってよい層の組み合わせを決めます。三つめの区分は国内で完結する系統だけ、一つめの区分は機能を優先して外国の事業者も可、といった形です。最後に、例外を申請する経路と、誰が承認するかを決めます。この順番を逆にして層から決めると、現場は区分を意識せずに、いちばん便利な系統に全部を入れます

例外の経路を用意することは、緩めることではありません。禁止だけを出した組織で実際に起きるのは、個人の端末と個人の契約で外部のサービスを使うという形の迂回です。迂回は記録に残らないので、棚卸しにも現れません。申請すれば通る道を細くても開けておくほうが、把握できる範囲は広くなります。申請の様式に持たせる項目は、業務名、入れる情報の区分、使う層の組み合わせ、期限、承認者の五つで足ります。

政府の調達は「国内か外国か」で選んでいない

国内に寄せる議論をしていると、「国が国産を選んでいるのだから」という理由が持ち出されます。公表資料は、そうは書いていません。デジタル庁はガバメントクラウドの説明で、国内企業と外国企業を問わず、最新かつ最高レベルの情報セキュリティを確保できることや、データ保存の安全性を確保できることなどの基準を満たすことが必須であるとして、令和5年度の調達では305項目の技術要件を示したと明記しています。選び方の基準は国籍ではなく、要件を満たすかどうかです。

民間が真似できるのは、この決め方のほうです。「国産を選ぶ」を目的にすると、要件を満たさない構成でも国産であれば通ってしまいます。逆に要件で書けば、国内外どちらの事業者も同じ土俵で比べられます。自社版の要件に落とすときの粒度は、たとえばこうなります。保存先の国を指定できるか。処理の実行地を指定できるか。入力を学習に使わない設定が既定か。委託先の一覧を開示するか。監査の証跡をどこまで出せるか。外国の当局から開示を求められたときに、法令上許される範囲で通知する条項があるか。

要件で書くことの副産物として、社内の説明が短くなります。「なぜこの外国の事業者を使うのか」という問いに、「六項目のうち五項目を満たし、残る一項目は入れる情報を絞ることで補っている」と答えられるようになります。国籍で説明していると、この問いに「国産に替えます」以外の答えが作れません。

評価済みの一覧を、民間でも一次のふるいに使う

要件を自社で全部作る必要はありません。政府情報システムのためのセキュリティ評価制度は、政府が求めるセキュリティ要求を満たしているクラウドサービスをあらかじめ評価・登録する仕組みとして、令和2年6月に運用を開始しました。所管は国家サイバー統括室、デジタル庁、総務省、経済産業省です。登録されたサービスの一覧は令和3年3月に初回の登録と公開が行われ、政府機関等がクラウドサービスを調達する際には、原則としてこの一覧に掲載されたサービスから調達を行うとされています。

民間にとって有用なのは、同制度の説明に、公開されるリストを民間等においても参照することにより、安全性を評価されたクラウドサービスの適切な活用が推進されることが期待される、と書かれている点です。つまり一次のふるいとして使うことが想定されている。ただし注意が要ります。掲載は「政府の要求水準を満たすと確認された」ことを示すもので、法域の問題を解消するものではありません。掲載されているサービスの中には、外国の事業者が提供するものも含まれます。一覧に載っているから国内で完結する、という読み方はできません。

もう一つ参考になるのは、用途の重さで求める水準を変えるという考え方です。同制度には、リスクの小さな業務や情報の処理に用いるサービスを対象にした枠組みが別に設けられ、令和4年11月1日から運用が始まっています。自社の基準を作るときも、全社一律の高い水準を一本だけ置くと、軽い用途の申請が通らなくなって迂回が増えます。情報の区分ごとに求める水準を段にしておくほうが、運用として続きます。

要件を満たすまでには年単位かかる

要件で選ぶという方針には、時間の見積りが必要になります。ガバメントクラウドの経緯が、その目安になります。さくらインターネットは、2025年度末までに提示されたすべての技術要件を満たすことを前提に、2023年11月に条件付きで採択されました。そして2026年3月27日、デジタル庁は、さくらのクラウドについてすべての技術要件を満たしたことを確認できたので同日以降に本番環境の提供が可能となる、と公表しています。同社も同日、令和5年度と令和8年度の募集の双方で対象クラウドサービスとして採択され、305項目すべての技術要件への適合が確認されたと発表しました。

条件付きの採択から要件充足の確認まで、2年4か月かかっているという事実は、自社の移行計画の立て方にそのまま効きます。デジタル庁は途中の進捗も四半期ごとに公表しており、2025年に公表された回には、体制および計画の見直しが必要となる開発項目があることを確認したという記載が残っています。計画全体には影響がないと併記されていますが、途中で見直しが入るのは異常ではなく通常だと読むのが実務的です。

だから調達の資料では、「現在できること」と「予定」を必ず別の列に書かせます。同じ列に混ぜて書かれた回答は、読む側が予定を現在と誤読します。予定の列には、いつ時点の計画かという日付も入れてもらいます。そして自社側の移行の順番は、予定の列に依存する工程を最後に置きます。先に置くと、相手の計画が動いたときに自社の期日ごと動きます。

国内に寄せると落ちるものを、先に書き出す

国内に寄せる判断には、必ず失うものが伴います。落ちやすいのは四つです。使えるモデルの世代。音声や画像を混ぜて扱う機能。更新の速さ。そして外部の道具や社内の仕組みとつなぐための接続の口の数です。この四つを抽象的に「機能が劣る」とまとめないで、自社の業務名と並べて書き出すと、判断が具体になります。議事録の要約はどちらでも成り立つ、図表を含む資料の読み取りは寄せると落ちる、といった粒度です。

書き出したうえで、受け入れる条件を先に決めます。「この業務では、応答の速さや機能の新しさより情報の所在を優先する」「この業務では最新の機能が要るので、入れる情報を公開情報に限る」。この二つを業務ごとに割り当てておけば、現場から「使いにくい」と言われたときに、議論が精神論ではなく区分の見直しになります。落ちる機能を隠して寄せると、半年後に迂回が始まります

逆に、寄せない判断を選んだ業務については、入れてはいけない情報の一覧を短く作ります。長い規程ではなく、五行から七行で終わる紙です。個人の氏名と連絡先を含む一覧、未公表の決算に関わる数字、取引先から秘密として受け取った資料、採用の選考に関わる評価、そして本人の同意なく預かった健康や信条に関わる情報。この程度の粒度で書いておくと、現場が判断に使えます。

AIに任せてよいのは棚卸しと比較表の下書きまで

ここまでの作業のうち、AIに任せられる範囲は明確です。任せてよいのは棚卸しと下書きです。契約書、利用規約、データの取り扱いに関する条項、システムの構成図を読ませて、事業者名、運営会社の所在、契約の相手方、保存先の記載、再委託の記載、基盤モデルの提供元という列に起こさせる。候補を四つの軸で並べた比較表の下書きを作らせる。要件一覧に対して返ってきた回答を、要件の行に突き合わせて過不足を出させる。この三つは、人が手で表を作るより速く、抜けも少なくなります

任せてはいけないのは、どこまで国内に寄せるか、落ちる機能を受け入れるか、例外を認めるかという判断です。AIに判断させないための仕掛けは二つあります。ひとつは、出力の各行に出典の列を必ず持たせること。どの文書のどの見出しの記述から取ったのかを書かせ、書けない行は棚卸しの結果として採用しません。もうひとつは、人が原文で確認する列を先に決めておくことです。法域と再委託の二列は、AIの出力をそのまま使わず、必ず人が原文に当たると決めておきます。

この線を引く理由は具体的です。AIは、規約に書かれていない事項をなめらかに埋めます。保存先について何も書いていない規約に対して、「国内に保存されると推定される」と書いてくることがあります。推定と記載は別ですが、表の上では同じ一行に見えます。出典の列を必須にすると、この行は空欄になり、空欄が「まだ聞いていない質問」の一覧になります。棚卸しの価値は、埋まった行より空欄の行にあります。

棚卸しの表に持たせる列(実務仕様)

棚卸しを一度きりで終わらせないために、表の列を固定しておきます。列が固定されていれば、事業者が増えても、担当者が替わっても、同じ質問ができます。次の項目を列に持たせてください。

  • 業務名と、その業務で扱う情報の区分(公開・社内限り・本人に影響が及ぶ)
  • サービス名と、契約の相手方になる法人名
  • 運営会社の登記地と、親会社または支配株主の所在地
  • 保存先の国と、指定できるかどうか(既定値と、変更の手段)
  • 処理の実行地と、指定できるかどうか
  • 基盤モデルの提供元、版、差し替え時に通知が来るかどうか
  • 入力を学習に使わない設定の有無と、それが既定かどうか
  • 再委託先の一覧を開示できるかどうか、開示された時点の日付
  • 外国の当局から開示を求められたときの通知条項の有無と、その留保の文言
  • やり取りの記録と運用監視のデータが置かれる場所
  • 出典(どの文書のどの記述か)と、確認した日付、確認した人

最後の列を軽く見ないでください。確認した日付が入っていない表は、半年後に使えません。サービスの規約は改定され、再委託先は入れ替わります。日付と確認者が入っていれば、「この行はいつの時点の話か」を後から判断できます。更新の頻度は、契約更新の時期と、規約改定の通知が来た時点の二つを引き金にすれば足ります。

契約で固定できること、契約では変えられないこと

契約で固定できることは、はっきりしています。保存先の国。処理の実行地。再委託の事前承諾。入力を学習に使わないこと。監査と証跡の提供範囲。これらは条項として書けますし、書けば効きます。契約項目の一覧そのものは当メディアの別記事で扱ったので、ここでは繰り返しません。この章で押さえたいのは、契約で変えられないものが一つあるということです。

変えられないのは、その事業者に及ぶ外国の法律そのものです。契約書に「外国の法令に基づく開示要求には応じない」と書いても、その国の手続の効力が変わるわけではありません。だから法域は、契約条項ではなく構成の選択で決めるしかありません。言い換えると、契約は「置き場所」を固定でき、構成は「及ぶ法律」を変えられる。役割が違うものを、同じ交渉のテーブルで代替させないことです。

契約側で効くのは、通知の条項です。外国の当局から開示を求められたとき、法令上許される範囲で速やかに通知する、という形が一般的です。ここで読むべきは「法令上許される範囲で」という留保のほうです。許されない場合には通知が来ません。だから設計では、通知が来ない場合も想定して、そもそも入れない情報の区分を先に決めておく必要があります。通知条項は保険であって、区分の代わりにはなりません。

決め方の順番(5工程)

ここまでを、着手できる順番にまとめます。六か所の棚卸しから入りたくなりますが、先に情報の区分を切ったほうが、棚卸しの表に書く内容が定まります。

STEP1
扱う情報を3区分に切る

公開してよい情報、社内限りの情報、漏れたときに本人や取引先に影響が及ぶ情報。この三つに、いま生成AIに入れている実際の文書を割り当てます。割り当てられない文書が出たら、それが最初に決める対象です。

STEP2
いまの構成を層に割って棚卸しする

入力の受け口、推論、社内データの索引、記録と運用監視、評価用の保管。前章の列を持たせた表に、いま使っているものを全部書き出します。AIに下書きを作らせ、法域と再委託の列だけ人が原文で確認します。

STEP3
区分ごとに、寄せる層と寄せない層を決める

三つめの区分は国内で完結する系統だけ、一つめは機能を優先して可。この割り当てを紙一枚にして、落ちる機能も同じ紙に書きます。

STEP4
4つの軸で候補を並べ、要件表に回答をもらう

法域、資本と親会社、基盤モデル、機能と費用。回答は「現在できること」と「予定」を別の列に書かせ、予定には日付を入れてもらいます。

STEP5
例外の申請経路と、見直しの時期を決める

申請の様式は業務名、情報の区分、使う層、期限、承認者の五項目。見直しの引き金は、契約更新の時期と、規約改定の通知が来た時点の二つにします。

五工程のうち、最も飛ばされやすいのは一つめです。区分を切らずに棚卸しから始めると、表は埋まるのに判断が出ません。「この行は許容できるのか」を判定する基準が、まだどこにもないからです。

この記事に出てきた言葉の意味

この分野の言葉は、同じ語が別の意味で使われがちです。社内で議論するときに食い違いやすいものを、短くそろえておきます。

言葉この記事での意味混同されやすいもの
法域その事業者や記録に、どの国の法律が及ぶかという範囲データを置いている国。置き場所と法域は別に決まる
主権自国の法律と手続のもとで、データと処理を統制できている状態国産であること。資本の国籍は主権の一要素にすぎない
保存と処理保存は置いておくこと、処理は演算が実行されること「保存先は国内」という回答は処理の実行地を答えていない
推論と学習推論は入力に答えを返す実行、学習はモデルを更新すること「学習に使わない」設定は、推論の実行地を国内にする設定ではない
基盤モデル文や画像を扱う大きなモデル本体。提供元と版で特定する画面を提供している事業者。両者が別会社である構成が多い
再委託契約した事業者が、その一部を別の事業者に出すこと共同利用。誰が決めて誰が責任を持つかが異なる

表の右の列が、実際の会議で食い違う場所です。とくに二段目と四段目は、営業資料の言葉づかいがそのまま社内に入ってきます。会議の最初に用語をそろえるのは形式ではなく、後から要件の書き直しをしないための実務です。

やってはいけない決め方

最後に、決め方そのものが原因で失敗する型を挙げます。

  • 国籍を要件の代わりにする:国産であることを条件に書くと、要件を満たさない構成でも通ってしまう。満たすべき項目を先に書き、国籍は結果として現れる形にする
  • 全部を国内でと宣言して、例外の経路を作らない:個人の端末と個人の契約による迂回が始まり、棚卸しに現れなくなる
  • 保存先の回答だけで層の判定を終える:処理の実行地と基盤モデルの提供元が空欄のまま、確認済みとして記録される
  • AIの出力した比較表を、出典の列なしで採用する:規約に書かれていない事項が推定で埋まり、後から差し替えの根拠を示せなくなる
  • 落ちる機能を書き出さずに寄せる:現場が業務で困った理由を説明できず、判断がやり直しになる

五つとも共通しているのは、決めた理由が後から追えなくなるという点です。この分野は、規約も事業者の資本関係も動きます。動いたときに再判定できるかどうかは、初回の判断に出典と日付が付いていたかで決まります。

まとめ

国内で完結させるべきかという問いに、一つの答えはありません。答えを出せる形に変えるなら、「保存・処理・基盤モデルの三層それぞれについて、どの国の法律が及ぶ構成を選ぶか」になります。米国クラウド法が加えた合衆国法典第18編第2713条のように、所在地を問わず義務が及ぶ規定がある以上、機材の置き場所だけでは判定できません。国内資本の事業者を選んでも、親会社の所在、再委託先、基盤モデルの提供元のどれかが外国にあれば法域は動きます。だから確かめるのは国籍ではなく、四つの軸です。

政府の調達が国内外を問わず305項目の技術要件で判断していることは、民間にとっても現実的な手本です。要件で書けば、国内外の候補を同じ土俵で比べられ、社内の説明も短くなります。そして条件付きの採択から要件充足の確認まで2年4か月かかった例があるとおり、この種の移行は年単位で動きます。AIには棚卸しと比較表の下書きまでを任せ、出典のない行は採用せず、寄せる範囲と落ちる機能の受け入れは人が決める。この線を先に引いておけば、判断が動いたときにも同じ表でやり直せます。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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