派遣や常駐の人にAIを使わせてよい?|指揮命令と情報の線

「同じ会議に出て同じ資料を見ている人なのに、その人だけAIの席がありません。理由をうまく説明できませんでした」「常駐しているベンダーの方から、御社のAIを使わせてもらえませんかと聞かれて、その場で答えられませんでした」。——社外の人が席を並べている職場では、この問いが必ず一度は情報システムの側に回ってきます。答えに詰まるのは、その人を信用していないからではありません。本当は、使わせてよいかどうかが、その人の信用度ではなく、結んでいる契約の形で決まるからです。そして契約の形ごとに、変わるものと変わらないものがはっきり分かれています。この記事では、派遣・業務委託・出向の3つで何が変わるのか、情報とアカウントと成果物のどこに線を引くのか、開始前に人が確かめる項目は何かを、公的な基準に沿って整理します。
カメ先生社外の人にAIを使わせてよいかという問いは、その人を信用してよいかという話だと受け取られがちですが、実際に効いてくるのは、その人に誰が指示してよいのかという契約の側の条件です。
カメ子使ってよいかどうかが、人ではなく契約で変わるということですか。
カメ先生そうです。同じ部屋に座っていても、直接指示を出してよい相手と、出してはいけない相手がいます。しかも難しいのは道具を渡す場面そのものではありません。渡したあとに使い方をどう言えるかのほうが、先に線をまたぎます。
カメ子道具を貸すことと、使い方を指示することは、別々に数えるということでしょうか。
- 社外の人にAIを使わせてよいかは、契約の形で変わる。派遣は受け入れ側が指揮命令する前提なので道具も出しやすく、業務委託や請負では道具そのものより使い方の指示のほうが先に線をまたぐ
- 同じ道具に相手を入れること自体は線を越えない。越えるのは、作業の進め方を一人ひとりに直接指示する言い方と、誰に席を出すかを発注側が個人を選んで決める形
- 人が決めるのは、誰に使わせてよいかの可否と、どの情報をAIに入れてよいかの最終判定。AIに任せてよいのは、契約書から該当しそうな条項を拾って一覧に整えるところまで
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「この人には出してよいのか」で止まる。最初に起きること
生成AIの席を社内に配り終えた組織で、次に必ず出てくるのがこの問いです。開発の常駐要員、事務の派遣スタッフ、制作を任せている委託先の担当者。同じ部屋で同じ案件を進めている人たちに、自社が契約したAIの席を出してよいのか。現場からの申請が情報システム部門に上がり、そこで止まります。
止まる理由は、判断の材料が2種類まざっているからです。1つは情報の話で、その人に見せてよい情報の範囲はどこまでか。もう1つは労働法の話で、その人に誰が指示してよいのか。片方だけで決めようとすると噛み合いません。情報の側だけで考えると「見てよい資料しか触らせないなら問題ない」となりますし、労働法の側だけで考えると「委託先には何も渡さない」となります。どちらも実態からずれます。
止まったまま放っておくと、現場は2つのどちらかに転びます。1つは一律禁止です。社外の人には出さないと決めると、その人は自分で契約した手元のAIを使い始めます。会社の資料を自分の道具に貼り付けるので、もっとも見たくない形で情報が出ていきます。もう1つは一律開放です。社員と同じ扱いにして席を出し、共有の場で「このAIでこの手順で作ってください」と細かく書き始める。契約の形と実態がずれていきます。
先に射程を断っておきます。外注先が自分たちで契約したAIを使う場面は、発注側が条件を握る側の話で、この記事とはちょうど向きが逆です。ここで扱うのは、自社が契約したAIの中に社外の人を入れる側だけです。発注書にどんな条項を置くかには踏み込みません。
違いは人ではなく契約の形から来る。3つの形で変わるもの
社外の人として職場にいる形は、大きく3つに分かれます。派遣、業務委託や請負(準委任を含みます)、そして出向です。この3つは、見た目が同じでも法律上の立ち位置が違います。見るべき観点も3つで、誰が指示してよいか、誰の道具として使うことになるか、作ったものが誰のものになるかです。
| 契約の形 | その人に直接指示してよいのは誰か | 自社のAIを使わせるときの位置づけ |
|---|---|---|
| 派遣 | 受け入れ側(派遣先)。労働者派遣契約に指揮命令する者を定める | 指揮命令する側が業務に必要な道具を用意する形。社内の貸与品と同じ線で扱える |
| 業務委託・請負・準委任 | 受注側の会社。発注者と受注側の担当者のあいだに指揮命令関係を生じないのが原則 | 業務処理に直接必要な器材を発注者から借りる形に当たり得る。貸与の条件を別に書面にする |
| 出向 | 出向先。出向元と出向先の双方と雇用関係がある | 出向先の貸与品として扱えることが多いが、どちらの社内規程に従うかを出向契約で確かめる |
派遣は、派遣元が雇用する労働者を、派遣先の指揮命令を受けて派遣先のために労働に従事させる形です。指揮命令が受け入れ側にあることが定義そのものに入っています。一方で請負は、労働の結果としての仕事の完成を目的とするもので、民法632条に定めがあります。委任や準委任も同じ扱いで、労働者派遣との違いは、発注者と受注側の労働者とのあいだに指揮命令関係を生じないという一点にあります。これは厚生労働省が公開している疑義応答集の第3集に、そのまま書かれている整理です。
大事なのは、この判定が契約書の題名では決まらないことです。準委任契約を結んでいても、実態として発注者が受注側の担当者に直接具体的な指示を出していれば、契約の形式を問わず労働者派遣に該当するとされています。区分の基準そのものは昭和61年の労働省告示第37号で、最終改正は平成24年です。40年近く動いていない土台の上に、業務ごとの応用が積み上がっている構図です。
- この記事で「委託」と書いているところは、請負・委任・準委任をまとめて指しています。3つは民法上の性質が違いますが、発注者と受注側の労働者のあいだに指揮命令関係を生じないという点では同じ扱いです
- 偽装請負という言葉は、請負契約等の形式をとりながら、実態として発注者が受注側の労働者に直接具体的な指揮命令をして作業を行わせている状態を指します。契約書の不備ではなく、日々の言動の積み重ねで成立します
派遣の人に使わせる。指揮命令が受け入れ側にあるという前提
派遣から見ていきます。派遣は受け入れ側が指揮命令する形なので、業務に必要な道具を受け入れ側が用意するのは筋が通ります。作業用のパソコン、社内システムのアカウント、入館証。AIの席も、原則としてこの延長に置けます。ここで悩む必要はあまりありません。
ただし、置けることと、置いてあることは別です。労働者派遣契約には定めるべき事項が法律で決まっていて、その第1号が業務の内容、第3号が就業中の派遣労働者を直接指揮命令する者に関する事項です。AIを日常的に使う業務に変わったなら、業務の内容の書き方がそれを反映しているかを見ます。契約に書いていない作業をさせる形になっていないか、という確認です。
派遣先には、労働者派遣契約の定めに反することのないように適切な措置を講じる義務もあります。つまり、契約に書いていない道具を現場の判断で急に使わせるより、更新のタイミングで業務の内容の記載を直すほうが素直です。次の更新まで待てないなら、派遣元と合意した覚書を1枚足します。手間は小さく、後で説明が要らなくなります。
もう1つ、見落としやすい確認先があります。派遣元の側です。派遣元が自社の就業規則や情報管理の規程で、生成AIの利用を制限していることがあります。受け入れ側が使ってよいと言っても、雇用主が禁じていれば本人が板挟みになります。席を出す前に、派遣元にも一報を入れて確認を取る。これは法律の要求というより、本人を守るための段取りです。
派遣で増える手続き。教育訓練と管理台帳に残るもの
派遣の人にAIを使わせると決めると、派遣先の側に元からある義務のいくつかが、そのままAIの話にかかってきます。知らずに進めると、後から台帳の記載が足りないという形で出てきます。
1つめは教育訓練です。派遣先は、派遣元事業主からの求めに応じて、同種の業務に従事する自社の労働者に実施している業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を、派遣労働者に対しても実施する等の必要な措置を講じることとされています。既にその能力を有している場合などは除かれます。社員向けにAIの使い方研修を必須にしているなら、求めがあったときに同じものを出せる形にしておく、ということです。
2つめは派遣先管理台帳です。派遣先は派遣労働者ごとに台帳を作り、従事した業務の種類や、教育訓練を行った日時と内容を記載し、3年間保存することとされています。AIの使い方の教育をしたなら、それも記載の対象になり得ます。研修をやりっぱなしにせず、日付と内容を残す運用にしておくと、ここで困りません。
3つめは周知の経路です。派遣先責任者は、法令の規定や労働者派遣契約の定め、派遣元からの通知の内容を、その派遣労働者を指揮命令する立場にある人に周知する役割を負っています。AIの利用の決まりも、この経路に乗せる。現場の指揮命令者が知らないまま本人に指示を出すと、決めたことが最初の1週間で崩れます。
なお、法律が利用の機会を与えるように義務づけているのは、給食施設や休憩室といった福利厚生施設の範囲です。AIの席がその中に入っているわけではありません。だから派遣だから自動的に社員と同じ、とはなりません。出すかどうかは契約と社内の決めごとで決める、という順番は変わらないと考えておくのが安全です。
委託の人に使わせる。貸すことと、使い方を指示すること
難しいのはこちらです。業務委託や請負では、発注者と受注側の担当者のあいだに指揮命令関係を生じないことが前提になっています。そのうえで、適正な請負等と判断されるための条件が告示に並んでいます。道具の話に直接効いてくるのは、単に肉体的な労働力を提供するものでないことを示す2つの選択肢です。
告示は、次のいずれかに該当することを求めています。1つは、自己の責任と負担で準備し調達する機械、設備もしくは器材(業務上必要な簡易な工具を除きます)または材料もしくは資材により業務を処理すること。もう1つは、自ら行う企画または自己の有する専門的な技術もしくは経験に基づいて業務を処理すること。つまり、道具を自前でそろえるか、専門性で処理するか、どちらかで説明できればよいという構造です。
ここが要点です。受注側が発注者のAIを使う形にすると、1つめの自前の器材で処理しているという説明はしにくくなります。残るのは2つめの、専門的な技術や経験に基づいて処理しているという説明です。だからAIの席を出す前に確かめるのは、アカウントの数ではありません。その委託が、そもそも専門性で成り立っている契約なのか、それとも人手を出してもらっているだけの契約なのか、という点です。後者なら、AI以前に契約の形そのものを見直す話になります。
借り方についても、公的な整理があります。疑義応答集の第1集には、請負業務の処理自体に直接必要とされる機械、資材等を発注者から借り入れたり購入したりする場合は、請負契約とは別個の双務契約が必要だとあります。一方で、処理に間接的に必要なもの(作業を行う場所の賃貸料や光熱費)や、処理自体には直接必要ではないが伴って提供されるもの(更衣室やロッカー)は、別個の双務契約までは必要なく、利用を認めることなどを請負契約中に包括的に規定していれば問題ないとされています。この整理は平成21年3月31日のものです。
AIの席がどちらに当たるかは、その業務での使われ方で変わります。設計や制作の中心で使うなら、処理自体に直接必要な器材に近い。社内の言い回しを調べる程度の補助なら、間接に近い。迷ったら、貸与の条件を書いた書面を1枚足しておくほうが早いです。無償で貸す場合でも、対象者の範囲・用途・期間・返却(停止)の条件を書いておけば、後から説明できます。
同じ道具に入れること自体は線を越えない。越えるのは言葉と指名
ここが実務でいちばん誤解されているところです。委託先の人を自社のチャットや管理ツールに入れること自体が偽装請負になる、という理解が広まっていますが、公的な整理はそうなっていません。
疑義応答集の第3集には、会議や打ち合わせ、連絡や業務管理のための電子メールやチャットの道具、プロジェクト管理の道具の利用において、発注者側と受注者側の双方の関係者が全員参加している場合であっても、実態として対等な関係の下で情報の共有や助言・提案が行われ、受注者側の担当者が自律的に業務を進めているのであれば、偽装請負と判断されるものではない、と書かれています。同じ場に入れること自体は、線を越えません。
越えるのは中身のほうです。同じ整理の続きには、その場で発注者側から受注者側の担当者に対し、直接、業務の遂行方法や労働時間等に関する指示が行われていると認められる場合には偽装請負と判断される、とあります。AIの共有スペースに委託先の担当者を入れること自体は問題にならないのに、そこに「この手順でこの順番に作ってください」と書けば、同じ行為が別の意味を持ちます。設計すべきなのはアカウントの有無ではなく、誰が誰に何と言うかのほうです。
もう1つ、席の出し方にも触れる論点があります。同じ第3集には、発注者が特定の者を指名して業務に従事させたり、特定の者について就業を拒否したりする場合は、発注者が受注者の労働者の配置等の決定および変更に関与していると判断され、適正な請負等とは認められない、とあります。委託先の担当者を1人ずつ選んでアカウントを出す形は、この線の近くにあります。この問いが直接扱っているのは指名と就業拒否なので、そのまま当てはまるとは限りませんが、避けられるなら避けたほうが説明が楽です。
避け方は簡単です。委託先の会社に席数で渡し、誰に割り当てるかは委託先が決める形にします。自社が管理するのは席の総数と、その席で触れてよい情報の範囲まで。個人の割り当ては相手の会社の裁量に置く。この置き方なら、配置への関与という論点に触れません。
使い方の説明会は、誰に向けて開くのか
席を出したら、使い方を説明する場が要ります。ここで多くの組織が、社員向けの研修に委託先の担当者をそのまま呼びます。手っ取り早いのですが、呼び方を間違えると、発注者が受注側の労働者に直接指導している形になります。
疑義応答集の第1集には、この点についての例示があります。請負事業主が発注者から新たな設備を借り受けた後に初めて使用する場合などにおいて、業務処理の開始に先立って、当該設備の貸主としての立場にある発注者が、借り手としての立場にある請負事業主に対して操作方法等について説明を行う際に、請負事業主の監督の下で労働者にその説明を受けさせる場合は、それをもって偽装請負と判断されるものではない、とされています。操作方法等の理解に特に必要となる実習も含むと書かれています。
この形をAIに移すと、段取りははっきりします。説明会は委託先の会社に向けて開く。案内も相手の会社の窓口あてに出す。当日は相手側の責任者が同席し、その監督の下で担当者が説明を受ける。説明する内容は、貸す道具の操作方法と、貸与の条件です。業務の進め方や作業の順番の話に踏み込まない。区切りはここです。
この考え方が製造現場だけのものではないことも、資料の上ではっきりしています。令和3年5月13日の事務連絡で、第1集のこの問いと、業務内容が変わった場合の技術指導の問いの考え方が、システム開発を請負業務とする場合にも当てはまるとされました。さらに第3集には、2026年5月25日に問いが1つ追加され、アジャイル型開発について示された考え方が、それ以外のシステム開発を請負業務とする場合にも当てはまる、と明記されています。
「常駐」で判断しない。契約書のどの語を見るか
現場では、社外の人をまとめて常駐と呼びます。便利な言葉ですが、常駐は場所の話であって契約の形ではありません。常駐の派遣もあれば、常駐の委託もあり、常駐の出向もあります。呼び名で判断すると必ずずれます。
確かめ方は単純で、契約書の中身を見ます。題名ではなく、次の語があるかどうかです。
- その人を直接指揮命令する者を定めた条項があるか(あれば派遣の色が濃い)
- 成果物の定義と検収の手続きが書かれているか(あれば委託の色が濃い)
- 始業終業の時刻や休憩、休日の管理を受け入れ側が行う定めがあるか
- 再委託の可否と、再委託先の扱いがどう書かれているか
- 機器や設備の貸与に関する条項があるか、別紙に逃がされていないか
- 秘密保持と個人情報の条項が、会社あてなのか個人あてなのか
6つめは見落とされがちですが効きます。秘密保持の約束が個人あてで取られているか、会社あてで取られているかで、AIの決まりをどこに書き足すかが変わります。委託なのに個人あての誓約書だけで運用している場合、会社としての約束が抜けていることがあります。
出向についても一言。出向は出向元と出向先の双方と雇用関係がある形で、指揮命令は出向先にあります。道具は出向先が出すのが通常です。ただし、どちらの社内規程に従うのかは出向契約と出向規程で決まっています。AIの利用ルールを出向先のものに従わせるのか、二重に適用するのかを先に確かめます。ここを曖昧にすると、事故が起きたときに、どちらの会社の手続きで調べるのかで止まります。
分からないときは、契約書を管理している部署に「この人の契約は3つのどれか」を1行で答えてもらうのが最短です。現場の申請書に契約の形を書く欄を1つ足すだけでも、判断の入口が揃います。ここを空欄のまま席だけ出すと、後から戻すのが難しくなります。
情報の線。見せてよい範囲と、AIに入れてよい範囲は別に引く
契約の形が決まったら、次は情報です。ここで手が止まるのは、線を1本で済ませようとするからです。その人に見せてよい情報の範囲と、AIに入れてよい情報の範囲は、別の線です。2本引くと決めた時点で、話が進みます。
2本が食い違う例はすぐに出てきます。委託先の担当者が閲覧権限を持っている案件フォルダの資料でも、他社の名前や条件が入っていれば、AIの提供先に渡ることのほうが問題になり得ます。逆に、社内の手順書のようにAIに入れても差し支えない資料でも、その人に見せる必要がなければ見せない、という判断はあり得ます。2本を掛け合わせて、初めて扱いが決まります。
| 情報の区分 | 社外の人に見せてよいか | その人がAIに入れてよいか |
|---|---|---|
| 公開済みの資料・一般的な手順書 | よい | よい |
| 自社の内部資料で、他社や個人の情報を含まないもの | 案件の範囲で必要ならよい | 入力の可否を提供側の契約で先に確認する |
| 他社の秘密情報を含む資料(他社との取り決めの対象) | 取り決めの範囲でのみ | 原則として入れない。相手先の同意の範囲を先に確認する |
| 個人データを含む資料 | 業務上必要な範囲でのみ | 入力してよいかを個別に確認する。担当者の判断で決めない |
表の右の列で「確認する」と書いた行が多いのは、ごまかしではありません。AIの提供先に情報を入力することが、法律上どういう行為に当たるかは、サービスの仕様と契約の書き方で変わります。一般論で決めてよい領域ではない、というのが正直なところです。だからこそ、この判断を担当者やAIに任せず、法務と情報システムが持つと決めておきます。
実務で一度は引っかかるのが、AIが社内の資料を検索して答える形にしている場合です。その検索の範囲が本人の閲覧権限と連動しているかを、席を出す前に確かめます。連動していない仕組みに社外の人を入れると、その人が本来開けない資料の中身が、答えの中に混ざって出てきます。見せない設定をしていたつもりが、別の入口から出ていた、という形です。
個人情報は、相手によって監督の条文が分かれる
個人情報を扱う場面では、線がもう一段はっきり分かれます。同じ職場にいる人でも、監督の根拠になる条文が違うからです。ここは押さえておくと、社内の説明が一気に楽になります。
個人情報保護委員会が公開しているガイドライン(通則編)では、従業者を、組織内にあって直接間接に事業者の指揮監督を受けて事業者の業務に従事している者等としています。そして、雇用関係にある従業員だけでなく、取締役、執行役、理事、監査役、監事、派遣社員等も含まれると書かれています。このガイドラインは平成28年11月のもので、令和8年6月に一部改正されています。
つまり、派遣の人は自社の従業者として、従業者の監督の枠で自社が直接監督します。一方で委託先の人は、委託先の監督の枠に入り、委託先の会社を通じて監督する形になります。法律の条文としても、従業者の監督と委託先の監督は別の条に置かれています。同じ部屋にいても、監督の経路がまるごと違うわけです。
この違いはAIの運用にそのまま出ます。派遣の人であれば、自社の利用規程と自社の教育で直接届きます。委託先の人であれば、届けるのは委託契約と、委託先が講じる安全管理措置の確認を通じてです。委託先の担当者に直接、社内規程を守れと言い続ける形にしない。守ってほしい条件は、相手の会社あてに書面で渡し、相手の会社が自社の担当者に守らせる。この順路にしておくと、指揮命令の論点にも触れません。
アカウントの配り方。共有を使わせない3つの理由
席を出すと決めたら、配り方です。もっとも多い失敗が、共有のアカウントを1つ作って社外の人に使い回させる形です。手続きが軽く、費用も抑えられるので選ばれますが、後で困る点が3つあります。
- 事故のときに範囲が絞れない。共有の記録は誰の操作か分からないので、情報がどこまで出たかを確かめる作業が、関係者全員への聞き取りになる
- 終わる日に止められない。1人が抜けても他の人が使い続けるので、契約が終わった人のアクセスだけを切ることができない
- 権利と秘密保持の確認ができない。誰が作ったかが残らないので、成果物の扱いを後から確かめようがない
配るときは、社外の人のアカウントを社内と見分けられる形にしておきます。表示される名前に所属が出るようにしておくと、共有スペースでのやり取りのときに、相手が社外の人だと全員に分かります。見分けがつくこと自体が、言い方の歯止めになります。相手が委託先の担当者だと分かっていれば、作業指示めいた書き方は自然に減ります。
渡し方は、契約の形で変えます。派遣なら個人に出します。指揮命令するのは受け入れ側なので、本人に直接出して差し支えありません。委託なら席数で会社に渡し、割り当ては相手に決めてもらいます。先に触れた配置への関与という論点を避けるための形です。
そして、法律の前に見る必要があるものが1つあります。提供側の利用規約です。利用者を契約者の従業員に限ると書いているものもあれば、業務委託先を含むと明示しているものもあり、書き方は分かれます。ここを見ずに席を出すと、労働法の議論にたどり着く前に規約違反になります。席を出す前に、規約でどこまでが利用者に含まれるかを読む。読む場所は、利用者の定義と、再許諾や第三者利用についての条項です。
終わる日に止める段取りと、記録が誰のものとして残るか
出す段取りより忘れられるのが、止める段取りです。しかも止める日は、最終出社日ではありません。契約の終了日です。この2つがずれることは珍しくなく、ずれた日数のあいだ、誰のものでもないアクセスが生きたままになります。
止める日には、4つを同じ日に寄せます。アカウントの停止、その人の会話や作業の履歴の扱い、作りかけの成果物の引き渡し、共有スペースからの除外です。ばらばらに進めると、どれか1つが必ず残ります。実務では、契約の終了日を起点にした一覧を作り、4つに担当者名を付けるだけで漏れが減ります。
記録の扱いは、先に決めておかないと当日に揉めます。AIとのやり取りの記録は、契約上は自社の環境に残ります。一方でその中身は、その人の業務の記録でもあります。派遣元や委託元から、本人が入力した内容を渡してほしいと言われる場面があり得ます。渡すのか、渡さないのか、条件付きなのかを、開始前に書面で決めておく。終わった後に相談すると、双方の立場が固まってからの交渉になります。
- 一律に消すと、後から確かめたいことが出てきたときに検証できなくなります。一律に残すと、保存する期間と目的を説明できる状態にしておく必要があります。どちらにするかは、秘密保持の取り決めと個人情報の扱いから逆算して決めます
- 停止の手続きは、席を出すときの申請と同じ台帳に並べておきます。出した記録と止めた記録が別の場所にあると、半年後に照らし合わせる作業が丸ごと手作業になります
成果物の権利。AIで作ったものが誰のものになるか
社外の人が自社のAIを使って何かを作ったとき、それは誰のものか。この問いは2段になっていて、順番を守らないと答えが出ません。1段目はその人が作ったものが誰に帰属するか、2段目はAIの出力にそもそも権利が生じるかです。
1段目から見ます。著作権法には、法人等の発意に基づき、その法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物について、一定の要件の下で法人等が著作者になる仕組みがあります。ここで効いてくるのが、業務に従事する者に誰が入るかという点です。解説されている最高裁の基準では、法人等の指揮監督下において労務を提供するという実態にあり、支払う金銭が労務提供の対価であると評価できるかどうかを、業務態様、指揮監督の有無、対価の額および支払方法等の具体的事情から総合的に考慮して判断すべき、とされています。
この基準に照らすと、受け入れ側の指揮命令の下で働く形は当てはまりやすく、独立した事業者として自分の裁量で処理する形は当てはまりにくい、という向きになります。ただし、これはあくまで総合判断です。向きが読めることと、結論が決まっていることは違います。だから実務では、契約書に帰属を明示しておくのが唯一の確実な手当てになります。
2段目はもう少し慎重に扱う必要があります。AIの出力に著作物としての保護が及ぶかは、人がどれだけ創作的に関わったかで変わり得るとされており、場面ごとの判断になります。誰のものかを決める前に、そもそも権利が生じるのかを確かめるという順番が要ります。ここは担当者が結論を出す領域ではなく、法務に回す領域です。
契約書の確認点は1つに絞れます。成果物の定義に、AIを使って作ったものが含まれる書き方になっているか。数年前に結んだ契約書の多くは、そこを想定していません。更新のときに定義を直すか、覚書で足すか。どちらでもかまいませんが、先送りにすると、納品物が増えるほど確かめる手間が増えます。
秘密保持は重ねて足す。何を書き足すか
社外の人と働いている以上、秘密保持の取り決めは既にあるはずです。問題は、その取り決めがAIを想定していないことです。書いてあるのは持ち出しの禁止や複製の制限までで、外部のAIに入力する行為が対象に入っているかは、読んでも分からないことが多いです。
足す項目は、多くありません。次の5つで実務は足ります。
- 自社が貸すAIの席は、この契約の業務のためだけに使う。他の案件や自社の業務に使わない
- 入力してよい情報の範囲は、自社が示す区分に従う。区分が変わったときは書面で知らせる
- 出力を自分の手元の道具に転記しない。控えを個人の環境に残さない
- 契約の終了日に席を停止する。手元に残った控えは同じ日までに消す
- 再委託先には、この席を使わせない。必要な場合は事前に書面で協議する
書き足す先は、相手によって変わります。派遣なら派遣元との労働者派遣契約と、本人への周知の経路です。委託なら委託契約の秘密保持条項か、覚書を1枚。出向なら出向契約です。同じ内容でも、宛先を間違えると効きません。委託先の担当者本人にだけ誓約書を書かせても、会社としての約束にはなりません。
書き方にも1つだけ注意が要ります。覚書に、作業の進め方を指定するような言い回しを混ぜないことです。守ってほしい条件として会社あてに書く。個人あての作業指示にしない。中身は同じでも、書き方が指示の形になっていると、せっかく整えた契約の形と矛盾します。
AIに判断させない範囲を、作業名で引く
ここまでの確認作業は量があります。契約書を読み、規約を読み、区分を整える。AIに手伝わせたくなる作業ばかりですが、任せてよい範囲と任せてはいけない範囲を、作業の名前で分けておきます。役割や責任という言葉で分けると、現場では線が引けません。
任せてよいのは、次の作業です。複数の契約書から、機器の貸与・秘密保持・成果物の帰属・再委託にあたりそうな条項を抜き出して並べる。契約ごとに書き方が違う条項を、同じ見出しの一覧に整える。提供側の規約の版が変わったときに、前の版との違いを並べる。確認項目の一覧と照らして、埋まっていない欄を指摘させる。どれも探す・並べる・照らすという作業で、結論を出す作業ではありません。
任せてはいけないのは、次の判断です。誰に使わせてよいかの可否。情報区分の最終決定。その契約が派遣なのか委託なのかの判定。成果物の権利がどちらにあるかの結論。いずれも、間違えたときに戻せない種類の判断です。AIが出した答えが正しく見えても、根拠にした条項が古い版だったというだけで結論は変わります。
条項を拾わせるときは、どの契約書の第何条のどの文を見てそう言ったのかを必ず添えさせます。添えられない項目は、無かったものとして扱います。この一手間を省くと、確認したつもりの一覧ができあがり、抜けに気づくのは相手から指摘されたときになります。
人が確認する範囲も、先に決めておきます。AIが出した一覧のうち、法務が見る行と、情報システムが見る行と、現場の責任者が見る行を分けておく。全部を全員で見る形にすると、結局は誰も見ません。行ごとに見る人の名前が入っている一覧だけが、実際に回ります。
開始前に確かめる項目と、つまずく決め方
最後に、席を出す前の段取りを5工程にまとめます。順番に意味があります。先に契約の形を決めないと、後の4つが全部やり直しになります。
派遣・委託(請負や準委任を含む)・出向のどれかを、契約書を管理している部署に1行で答えてもらう。現場の呼び名ではなく契約で決める。
利用者の定義と、第三者に使わせることについての条項を見る。法律の議論の前に、ここで止まることがある。
その人に見せてよい範囲と、その人がAIに入れてよい範囲を別々に決める。個人データを含む資料の扱いは、担当者の判断に落とさない。
派遣なら個人に、委託なら会社に席数で。止める日は契約の終了日に合わせ、停止・履歴・引き渡し・共有からの除外を同じ日に寄せる。
貸与の条件、入力してよい情報の範囲、成果物の扱い、終了時の手続き。個人あての作業指示にせず、会社あての条件として書く。
この5つを終えた時点で、開始前に確かめる項目は自然に一覧になります。申請の様式に次の欄を足しておくと、毎回同じ確認が回ります。
- 契約の形(派遣・委託・出向のどれか)と、契約の終了日
- 提供側の規約で、その人が利用者に含まれるかを確認した日付と、確認した人の名前
- その人に見せてよい情報の範囲と、AIに入れてよい情報の範囲(別々に記入する)
- 派遣元または委託元に一報を入れ、相手側の規程と矛盾しないことを確かめたか
- 席の出し方(個人あてか、会社に席数か)と、割り当てを決めるのは誰か
- 秘密保持と成果物の扱いについて、書面を足したか。足した書面の宛先は会社か
- 停止の担当者と、履歴・引き渡し・共有からの除外の担当者
逆に、つまずく決め方も型があります。どれも善意から出ていて、しかも最初の1か月はうまくいくように見えるのが厄介なところです。
- 一律に禁止する。社外の人は自分で契約したAIを使い始め、会社の資料が管理の外に出る。禁止したことで、見えなくなるだけ
- 社員と同じ扱いにする。委託先の担当者に直接、作業の進め方を書き送るようになり、契約の形と実態がずれていく
- 委託先の担当者を1人ずつ選んで席を出す。相手の会社の配置の決定に関与している形に近づく
- 共有アカウントを1つ作って使い回させる。事故のときに範囲が絞れず、終わった人だけを止められない
- 口頭の合意だけで始める。半年後に担当者が代わると、何を決めたのか誰にも分からなくなる
- 止める日を決めずに出す。契約が終わっても席が生き続け、気づくのは棚卸しのときになる
よくある質問
委託先の担当者に、自社のAIの使い方を細かく教えるのは問題になりますか
教える内容によります。貸す道具の操作方法や、貸与の条件についての説明であれば、貸主の立場からの説明として整理できます。公的な整理でも、設備を貸した際に、貸主である発注者が借り手である受注側の会社に対して操作方法等を説明し、受注側の監督の下でその担当者が説明を受ける形は、それだけで偽装請負と判断されるものではないとされています。一方で、業務の進め方や作業の順番にまで踏み込むと、話が変わります。説明会は相手の会社あてに開き、内容を操作方法と貸与の条件にとどめるのが安全です。
共有のチャットに委託先の人を入れていますが、それ自体が問題ですか
それ自体は問題になりません。公的な整理では、電子メールやチャットの道具、プロジェクト管理の道具の利用において双方の関係者が全員参加していても、対等な関係の下で情報の共有や助言・提案が行われ、受注側の担当者が自律的に業務を進めているのであれば、偽装請負と判断されるものではないとされています。問題になるのは、そこで業務の遂行方法や労働時間等に関する指示が直接行われている場合です。入れるかどうかではなく、そこで何を書くかを整えてください。
派遣の人には、社員と同じようにAIの席を出してよいのでしょうか
出しやすい形ではありますが、自動的に同じになるわけではありません。派遣は受け入れ側が指揮命令する形なので、業務に必要な道具を受け入れ側が用意するのは筋が通ります。ただし、労働者派遣契約に定めた業務の内容と食い違わないか、派遣元の規程が生成AIの利用を制限していないかは、別に確かめます。法律が利用の機会を義務づけているのは福利厚生施設の範囲までで、AIの席はそこには入りません。出すかどうかは契約と社内の決めごとで決める、という順番になります。
委託先に席を出すとき、費用を請求すべきですか。無償だと問題になりますか
無償かどうかより、条件を書面にしてあるかどうかが効きます。公的な整理では、業務の処理自体に直接必要とされる機械や資材等を発注者から借り入れる場合には、請負契約とは別個の双務契約が必要とされています。一方で、処理に間接的に必要なものや、処理自体には直接必要ではないが伴って提供されるものは、請負契約中に包括的に規定していれば足りるとされています。どちらに当たるかはその業務での使われ方で変わるので、迷う場合は貸与の条件を1枚書いておくのが実務的です。
社外の人が使った記録は、どこまで見てよいのでしょうか
自社の環境に残る記録なので、自社の規程の対象にはなります。ただし、見てよい範囲と、見るための手続きは先に決めておく必要があります。とくに派遣元や委託元から、本人の入力内容を渡してほしいと求められる場面があり得ます。渡すのか、渡さないのか、条件付きなのかを開始前に書面で決めておくと、終了時に交渉になりません。個人が特定できる記録を開く場面では、誰の承認で開くのかも合わせて決めておきます。
契約の形が派遣か委託か、社内で意見が分かれています。AIに判定させてもよいですか
この判定はAIに任せないでください。契約の形は契約書の題名では決まらず、実態に即して判断されます。AIに渡してよいのは、契約書から指揮命令・成果物・検収・貸与にあたりそうな条項を抜き出して並べる作業までです。並べた材料を見て判定するのは人で、社内で割れるようなら、法務か外部の専門家に持ち込む段階にあると考えたほうがよいです。判定を急いで席を出すより、判定が付くまで待つほうが、後の手戻りは小さく済みます。
まとめ
社外の人に自社のAIを使わせてよいかは、その人の信用度ではなく契約の形で決まります。派遣は受け入れ側が指揮命令する形なので、業務に必要な道具を受け入れ側が用意するのは筋が通り、確かめるのは労働者派遣契約に書いた業務の内容との整合と、派遣元の規程との矛盾です。委託では、適正な請負等と判断されるために、自前の器材で処理しているか、専門的な技術や経験で処理しているかのどちらかで説明できる必要があり、自社のAIを使わせると前者の説明はしにくくなります。だから席を出す前に確かめるのはアカウントの数ではなく、その委託が専門性で成り立っているかどうかです。道具を貸すこと自体は線を越えません。公的な整理でも、チャットや管理の道具に双方の関係者が全員参加していること自体は偽装請負とされないとあります。越えるのは、そこで直接、業務の遂行方法や労働時間等の指示を書くことと、誰に席を出すかを発注側が個人を選んで決める形のほうです。
情報の線は2本引きます。その人に見せてよい範囲と、その人がAIに入れてよい範囲です。監督の根拠も相手で分かれ、派遣の人は従業者の監督、委託先の人は委託先の監督という別の経路になります。アカウントは共有にせず、委託には席数で渡して割り当ては相手に委ね、止める日は最終出社日ではなく契約の終了日に合わせて、停止と履歴と引き渡しと共有からの除外を同じ日に寄せます。成果物の権利は、帰属の向きが読めることと結論が決まっていることが別なので、契約書の成果物の定義にAIで作ったものが含まれるかを見て、含まれていなければ更新か覚書で足します。AIに任せてよいのは条項を探して並べて照らすところまでで、可否の決めと情報区分の最終判定は人が持ちます。一律に禁止すれば影で使われ、社員と同じ扱いにすれば契約と実態がずれる。どちらにも倒れないための足場は、契約の形を1行で確定させるところから始まります。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
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