採用選考でAIを使うときの条件|応募者に説明できる形

「選考にAIを入れる方針は通ったのですが、応募者向けの案内に何と書くかが決まらず、半年止まっています」「書類の一次選考を機械に任せる案を出したら、法務から『落ちた人に理由を説明できますか』と返されて、そこで終わりました」。——導入の相談がたどり着く行き止まりは、たいていこの2つの手前にあります。道具の精度の問題ではありません。本当は、どの判断を人が持ち続けるのかを先に決めていないことが原因です。選考には相手がいて、しかも落ちた側には結果だけが届きます。「使えるかどうか」より先に「応募者に説明できるかどうか」が問われるのは、この非対称があるからです。この記事では、選考にAIを使うなら何を先に決めておく必要があるのかを、工程の切り分け、説明と同意、偏りの確かめ方、記録の残し方の順に整理します。
カメ先生選考にAIを使うと聞くと、合否を機械が決めるようになる話だと受け取られがちですが、実際に問われているのはその手前です。どの工程を機械に任せ、どの判断を人が持つのかを書き分けられているかどうかが見られます。
カメ子機械に任せる範囲が狭ければ、説明はいらないということですか。
カメ先生いりますね。狭くても、応募者が読まれる順番が機械の出力で動くなら、その応募者にとっては選考の一部です。説明が求められるかどうかは、影響の大きさではなく、影響があるかどうかで決まります。
カメ子影響があるかどうかは、どこを見れば分かるのでしょうか。
- 選考でAIが触る工程は、募集情報の出し方・応募書類の整理・候補者の評価の3つに分かれる。まとめて議論すると、何も決まらないまま止まる
- 日本では職業安定法が収集してよい情報の範囲を先に縛り、個人情報保護法が分析することを本人に示すよう求める。同意を応募の条件にすることは指針が禁じている
- 合否の判定はAIに渡さない。人が決めるのは、任せてよい工程かどうか、落とす基準、止めるかどうかの3つ
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「使えるか」の相談が「応募者に説明できるか」で止まる
採用にAIを入れる検討は、たいてい道具の比較から始まります。書類の読み取りの精度、面接の記録の要約、候補者の並べ替え。ここまでは資料が揃っていて、比較もできます。ところが人事と法務に回すと、資料に書かれていない質問が3つ出てきます。誰が最終的に落とすのか。応募者向けの案内に何と書くのか。後から理由を聞かれたら何を出すのか。この3つは道具の性能では答えられません。
止まり方には特徴があります。反対されて止まるのではなく、誰も反対していないのに前に進まないという形になります。情報システムは動かせると言い、人事は制度として通したいと言い、法務は止めてはいないと言う。決裁の資料に「応募者への説明」の欄がないため、誰の担当にもなっていないだけです。この空白は、道具を替えても埋まりません。
効果の側は、すでに整理されています。2026年1月に公表された弁護士の解説では、採用場面でのAIサービスの利用によって、採用活動に要する工数の削減、評価の公平性の向上、新たな応募者の発掘といった効果が生じているとされています。公平性の向上について、解説は属人化の回避という言い方をしています。担当者ごとに見る場所が違うという状態を揃えられる、という意味です。効果の整理が進んでいるのに手続きの側が空いている、というのが今の位置です。
選考でAIが触る工程は3つに分かれる。混ぜると決められない
「AI選考」という一語で議論すると決まりません。工程が3つあり、それぞれ応募者に起きることが違うからです。区分は海外の規則の条文にも表れていて、採用または選考のために使われるものとして、ターゲットを絞った求人広告の掲載、求人応募の分析とフィルタリング、候補者の評価の3つが並べて挙げられています。同じ条文の中で3つに書き分けられているという事実自体が、混ぜて扱えないことの根拠になります。
| 工程 | 機械がやること | 応募者に起きること | 先に決めること |
|---|---|---|---|
| 募集情報の出し方 | 求人の配信先や表示する相手を絞り込む | 求人を見る機会そのものが変わる | 絞り込みの条件に、選考で集めてはいけない属性が混ざっていないか |
| 応募書類の整理 | 記載を項目ごとに抜き出し、要約し、並べ替える | 読まれる順番が変わる。読まれない書類が出ることもある | 並べ替えで止めるのか、一定の点数で切るのか |
| 候補者の評価 | 点数を付ける。面接の受け答えを評価する | 評価が合否に直結する | 点数を誰がどう使うか。使わない場面を書き出せるか |
日本の現場では、2つ目と3つ目がまとめて語られます。同じ解説が挙げている類型を見ると、面接でAIと対話してその内容から資質を評価する型と、応募者情報と過去の自社の採用判断を基に合否のスコアを出す型が別立てになっています。前者は3つ目、後者は2つ目と3つ目の境目にあります。2つ目は並べ替えで止められるが、3つ目は落とす工程になるという違いが、決裁の軽重を分けます。
最初に手を付ける工程は、2つ目の中でも並べ替えに限った範囲です。理由は2つあります。記載漏れの指摘や項目の抜き出しは、応募者を先に進めなくする働きを持たないこと。そして、やり直しができることです。並べ替えは順番を戻せますが、一定の点数で切った結果は戻せません。切られた応募者は、その後の工程に姿を現さないためです。
止まる原因は、判定と補助の境目を決めずに道具から選んでいること
比較表を作ることから始めると、境目の議論が後回しになります。比較表の列は機能名で埋まるので、どの機能が判定に当たるのかという列は立ちません。そのまま導入を決めると、運用が始まってから「これは判定ではないのか」という指摘が出て、止まります。順番が逆になっているだけで、検討の内容が足りないわけではありません。
境目の決め方は1行で書けます。その工程の出力によって、応募者が1人でも先に進めなくなるなら判定、ならないなら補助。この物差しを当てると、「参考にするだけ」と説明されていたものが判定に入ることがあります。人が全件を読んでいても、読む順番が点数で決まっていて、下位を読む前に枠が埋まるなら、その点数は落とす働きをしています。
実際に判定になっているかどうかは、数えれば分かります。直近の1回の募集で、機械の出力の下位に並んだ応募者のうち、何人が次の工程に進んだかを数えます。下位3割から次に進んだ人が0人なら、その出力は判定として働いていると見て差し支えありません。この数え方の良いところは、道具の説明書きを読まずに済むことです。提供元が補助だと書いていても、自社の運用で判定になっていれば、判定として扱う必要があります。
日本の法は、集めてよい情報の範囲を先に縛っている
選考の個人情報には、2つの法律が重なって適用されます。個人情報保護法と職業安定法です。職業安定法の個人情報に関する規定は1999年12月に施行されていて、2005年4月に全面施行された個人情報保護法より早く置かれました。2つは統一的に整理されておらず、個人情報の定義すら異なっています。片方を満たせば済む、という話にならないのはこのためです。
見落とされやすいのは適用対象です。職業安定法の規定は仲介事業者向けだと思われがちですが、求職者等の個人情報の取扱いに関する規律の対象には「労働者の募集を行う者」も含まれます。つまり自社で雇い入れるために選考を行っている会社そのものが対象です。同法5条の5第1項は、業務の目的の達成に必要な範囲内で、インターネットの利用その他適切な方法により当該目的を明らかにして収集し、収集の目的の範囲内で保管し使用しなければならないと定めています。指針は、求職者等が一般的かつ合理的に想定できる程度に具体的に明示することを求めています。
さらに、原則として収集してはならない情報が3つの類型で挙げられています。厚生労働省が公表している業務取扱要領の具体例と合わせると、次のようになります。
| 原則として収集してはならない情報 | 行政の資料に挙げられた具体例 | 選考にAIを使うと入り込む経路 |
|---|---|---|
| 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項 | 家族の職業、収入、本人の資産等(税金や社会保険の取扱い等、労務管理を適切に実施するために必要なものを除く) | 応募フォームの自由記述欄、面接の文字起こし、外部の調査サービスの報告書 |
| 思想及び信条 | 人生観、生活信条、支持政党、購読新聞・雑誌、愛読書 | 志望動機の文章の分析、公開されている投稿の読み取り |
| 労働組合への加入状況 | 労働運動、学生運動、消費者運動その他社会運動に関する情報 | 経歴の空白期間の説明、課外活動の記載の自動分類 |
例外は狭く書かれています。指針の但書は、特別な職業上の必要性が存在することその他業務の目的の達成に必要不可欠であって、収集目的を示して本人から収集する場合にのみ許されるとしています。収集の手段についても、本人から直接収集する、本人の同意の下で本人以外の者から収集する、本人により公開されている情報を収集するといった、適法かつ公正な手段によることが求められます。個人情報保護法が偽りその他不正の手段による取得を禁じているのに比べると、文言の上ではやや厳しい書き方です。
実務に落とすと、3類型が入ってくるかどうかは、AIに渡す前の入力欄で決まっているということになります。自由記述欄を広く置けば、応募者は自分から家族のことを書きます。書かれてしまえば収集したことになり、機械に読ませれば分析したことになります。入力欄を狭めるほうが、後の工程で削るより確実です。既に集めた書類を機械に読ませる前に、どの欄を渡さないかを決めておく必要があります。
分析するなら、分析すると書く。利用目的の特定はここで効く
個人情報保護法は、利用目的をできる限り特定することを求め、取得の際には利用目的の通知または公表を求めています。採用の場面では「応募者の採用選考手続を行うため」といった書き方が普通です。ところが、本人が自分の情報の扱われ方を利用目的から合理的に予測・想定できない場合は、できる限り特定したことにならないと整理されています。行動や関心を分析する場合は、予測できる程度まで特定しなければならない、という筋です。
解説は、適当な書き方の例を具体的に示しています。「履歴書や面接で得た情報に加え、行動履歴等の情報を分析して、当該分析結果を採否の検討・決定のために利用いたします」という形です。ここで重要なのは、分析するという事実と、分析結果を採否に使うという事実の両方が書かれている点です。採用選考のためという目的だけでは、この2つが読み取れません。選考でAI等を使って情報の分析を行う場合は、その旨を通知等することが適当だとされています。
この文言が抜ける理由は、社内の分担にあります。募集の案内文は人事が書き、分析の中身は情報システムか外部の提供元が決めます。案内文と分析の中身を突き合わせる人が、どの部署にもいないという空白が生まれます。半年後に案内文だけが古いまま残る事故は、この空白から起きます。案内文の改定と分析内容の変更を、同じ承認の中に入れておくだけで防げます。
応募者の記録を外部のAIに渡す前に、委託か提供かを決める
外部のサービスを使うとき、応募者の記録は社外に出ます。個人情報保護法では、個人データを第三者に提供するには原則としてあらかじめ本人の同意が必要です。一方で、取扱いを委託することに伴って提供する場合は、本人の同意は要りません。選考で外部の道具を使うなら、この2つのどちらとして整理するのかを先に決めることになります。決めずに使い始めると、後から遡って同意を取り直すことになります。
生成AIを使う場合には、もう一段の論点があります。入力した内容に個人データが含まれる場合の扱いには議論があるものの、解説は、入力した個人データがその外部のサービスの側で学習データとして利用される場合には、第三者提供に該当し、委託に伴うものとは整理できないと述べています。つまり本人の同意が必要になると解される、という整理です。学習に使われるかどうかが、委託と提供の線を分けます。
確認する場所は契約と設定の2つです。契約では、入力した内容を学習に使わない旨の条項があるか、その範囲が選考で使う機能にも及ぶかを見ます。設定では、その挙動を切り替える項目が既定でどちら側になっているかを見ます。いちばん危ないのは、担当者が個人の契約で使っている状態です。会社として契約していない道具に応募書類が入っていれば、条項も設定も会社側の管理外にあります。禁止の通達を出すより先に、社として使える道具を用意するほうが実効性があります。
2019年の事案が示したのは、同意があっても止まることがあるという事実
選考とAIの関係を考えるときに外せない事案が、2019年に起きています。就職情報サイトの運営会社が、過去の利用者の行動履歴等から内定を辞退しやすい学生の特徴を予測するしくみを作り、新規に応募してきた学生の行動履歴を当てはめて内定辞退率のスコアを算出し、定期的に更新しながら応募先の企業に提供していた、という事案です。運営会社は、行動履歴を分析して利用企業に情報提供することを含むプライバシーポリシーを示し、同意を得ていました。
それでも行政指導が出ました。個人情報保護委員会の指導では、運営会社に対して、第三者提供に当たっては本人が同意に係る判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切な範囲の内容を明確に示すこと、利用目的をできる限り特定して通知または公表を適切に行うことが求められました。注目すべきは、スコアを利用していた企業の側にも、利用目的の通知や公表を適切に行うよう指導が出ていることです。道具を使った側も、説明の責任を負います。
厚生労働省が業界団体に発出した通知の文言は、さらに踏み込んでいます。本人があずかり知らない形で合否決定前に募集企業へ提供することは、学生等の立場を弱め、不安を惹起し、就職活動を委縮させるなど不利に働くおそれが高く、このことは本人同意があったとしても直ちに解消する問題ではないと書かれています。事業者団体向けには、こうした情報を集めるための第三者のサービスの利用は控えるようにとも示されました。同意を整えれば通る、という前提が成り立たない領域があるということです。
解説は、この事案から実務の物差しを引き出しています。内定辞退の可能性のように応募者にとって好ましくない情報を分析することについて、応募者から直接収集した情報に基づいて自社で分析するのであれば直ちに問題視されるものではないと思われるが、社外に依頼をして社外にある情報も取り込む形で分析する場合には、個人情報保護法上の建付けを整えることはできても職業安定法上は問題視される可能性があるという整理です。自社の中か外か、応募者から直接もらった情報か否か。この2つの軸が、実務では効きます。
同意を応募の条件にはできない。だから同意で設計は通せない
同意を取れば進められる、という設計は選考では通りません。職業安定法の指針は、同意を得る際の方法を3つ定めています。同意を求める事項について、求職者等が適切な判断を行うことができるよう可能な限り具体的かつ詳細に明示すること。業務の目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を収集し、保管し、または使用することに対する同意を、労働者の募集の条件としないこと。求職者等の自由な意思に基づき、本人により明確に表示された同意であること。
2番目が設計を縛ります。「分析に同意しない方は応募できません」という形にできない、という意味です。したがって、同意しない応募者が出る前提で工程を組む必要があります。具体的には、分析を受けない応募者を人が読む列に回す経路を用意することになります。この列を作らずに始めると、同意しない応募者が現れた時点で運用が破綻します。
同意で広げられない範囲もあります。職業安定法5条の5第1項の但書によれば、本人の同意があれば業務の目的の達成に必要な範囲内ではない収集等も可能です。ところが原則収集禁止の3類型については、本人の同意が収集を可能にする要件として定められていません。解説は、同意があっても官報や不動産登記簿から原則収集禁止の情報を収集することは許容されないと解されると述べています。同意は万能の鍵ではない、ということです。
同意の取り方そのものも見直す価値があります。個人情報保護法の同意は、事業の性質と取扱状況に応じた合理的かつ適切な方法によることが求められますが、職業安定法の指針は可能な限り具体的かつ詳細な明示を求めていて、より厳格な方法が求められていると整理されています。応募フォームのチェック1つに全部を束ねる形は、この求めに合いません。工程ごとに分けて示し、分けて同意を得る形にします。
偏りは学習の材料から入る。見るのは平均ではなく落とし方の内訳
偏りの話は抽象論になりがちですが、実際に運用が止まった例が報じられています。海外の大手事業者が人材採用のしくみを開発していたところ、学習させた履歴書のほとんどが男性からのものだったため、機械が男性の応募者により高い評価を付けるという結果になり、運用を取りやめたという報道です。技術職の応募の多くが男性からだったことが、そのまま出力に写りました。材料の偏りは、処理の途中で消えません。
同じことが日本で起きた場合の位置づけも、解説が示しています。採用選考において能力及び資質の有無等を判断する場合に、その方法や基準について男女で異なる取扱いをすることや、募集または採用に当たって男女のいずれかを優先することは、男女雇用機会均等法5条と指針が禁じる措置に当たり得ます。加えて、個人情報保護法は違法または不当な行為を助長し、または誘発するおそれがある方法による利用を禁じていて、特定の属性のみにより正当な理由なく差別的取扱いを行うために個人情報を利用することは、この適正利用義務の違反になり得ます。
では、どう確かめるか。全体の通過率を見ても分かりません。通過率は変わらないまま、内訳だけが入れ替わることがあるからです。確かめるのは、落とした理由の内訳が、機械を入れる前と後でどう動いたかです。ここで厄介な矛盾が出ます。属性ごとの通過率を出すには属性を集めることになり、その属性の一部は原則収集禁止の類型に触れます。確かめるための収集も、無条件には許されません。
- 同じ書類を複製し、1か所の記載だけを入れ替えて流す。氏名の表記、学校名、経歴の空白期間の長さを変えて、点数がどう動くかを見る。属性を集めずに確かめられる
- 落とした理由を、機械が使った項目の単位で集計する。誰を落としたかではなく、どの項目で何人が落ちたかを数える
- 人が読んだ結果と機械の出力が食い違った件だけを読む。一致した件は判断材料にならないので読まない
- 自由記述欄の語が点数に効いていないかを確かめる。趣味や課外活動の記載が効いているなら、原則収集禁止の類型に触れている疑いがある
確かめる時期も決めておきます。導入の前に1回では足りません。募集の対象や職種が変わると、材料の分布が変わります。募集の区切りごとに、同じ手順でもう一度確かめるという形にして、確かめた日付と結果を残します。残っていなければ、後から聞かれたときに何も出せません。
海外では選考が高リスクに置かれ、感情の推定は禁じられている
日本の法だけを見ていると、選考にAIを使うことそのものへの規律は薄く見えます。海外の規則を並べると、線の引き方が具体的に見えてきます。欧州では人工知能に関する統一の規則が2024年に採択され、禁止されるもの、リスクが高く要求事項の遵守が求められるもの、透明性に基づく開示が求められるもの、特段の規制がないものという4つに分けられています。
選考は、上から2番目に置かれています。附属書の第4項が、自然人の採用または選考のために、特にターゲットを絞った求人広告の掲載、求人応募の分析とフィルタリング、および候補者の評価のために使用されることを目的とするものを高リスクとして挙げ、提供する側と導入する側の双方に義務を課しています。導入する側の義務として挙げられているものの中身が、社内規程に写せる形になっています。適切な技術的および組織的措置を講じること。そして、必要な能力、訓練、権限と必要なサポートを有する自然人に、人による管理を担当させなければならないことです。
禁じられている用法もあります。同じ規則は、生体データに基づいて人種、政治的意見、労働組合への加入、宗教上または思想上の信念、性生活または性的指向を推測または推論する目的で自然人を個別的に分類するしくみを禁止しています。職場および教育機関において生体データに基づいて感情を推論するしくみも、禁止の類型に入っています。2026年3月に公表された海外の研究機関の解説では、欧州委員会の指針が、この禁止における職場の文脈には採用の過程も含まれることを明確にしていると整理されています。例外は医療機器としての治療用途と、生命や健康の保護に限った安全上の用途で、ストレスや燃え尽きの検知のような一般的な健康状態の監視には及ばないとされています。
この規則は日本の会社に直接適用されるものではありません。それでも3つの理由で関わります。欧州に拠点があるか、欧州から応募がある場合。道具の提供元が欧州向けの仕様に合わせて機能を作っている場合。そして、取引先から自社のAI利用方針を問われたときに、参照先として名前が挙がる場合です。少なくとも、面接の映像から表情や声の調子で感情を読む機能については、使わないと決めておくほうが説明が楽になるという判断が成り立ちます。
応募者への説明は、募集の画面に書く5つの項目
職業安定法5条の5第1項は、インターネットの利用その他適切な方法により目的を明らかにすることを求めています。つまり募集の画面に書くという形が、法の側から既定されているということです。別紙を作って内定後に渡す、という形では要件を満たしません。応募する前に読める場所に置く必要があります。書く内容は5つに整理できます。
- どの工程でAIを使うか。募集情報の出し方、応募書類の整理、候補者の評価のどれに使っているかを、工程名で書く
- 何を材料にするか。応募書類の記載だけか、面接の記録も含むか、応募書類の外にある情報も使うのかを区別して書く
- 出力を誰がどう使うか。判定に使うのか、読む順番の決定に使うのかを書き分ける。最終的に人が決めるなら、その役割の名前を書く
- 分析を受けない場合の申し出先。同意を応募の条件にできないため、この経路を書かないと工程が成立しない
- 保管する期間と問い合わせの窓口。何をいつまで持つのかと、問い合わせを受ける部署を書く
書き方には具体性の水準があります。「選考の一部でAIを活用しています」だけでは、応募者は自分の情報がどう扱われるかを予測できません。2019年の事案で不十分とされたのは、まさにこの水準でした。工程名と材料と使い方の3つが揃って初めて、予測できる水準になります。文字数は増えますが、増えるのは案内文の側だけで、選考の手間は増えません。
運用で効くのは、5つ目の窓口です。窓口を書くと問い合わせが来る、と心配されますが、実際に来る問い合わせの多くは「自分の書類は人が読んだのか」という1点です。読んだ人の役割を答えられるようにしておけば、ほとんどの問い合わせは1往復で終わります。答えられないときに、はじめて話が大きくなります。
不合格の理由と記録は、人ではなく項目の単位で残す
日本には、自動的な判断について説明を求める権利を一般的に定めた条文はありません。それでも記録が必要になる場面は3つあります。応募者からの問い合わせ。行政からの照会。そして、社内で運用を変えるときに、前の状態を説明する必要が出る場面です。3つ目がいちばん頻繁に起きます。半年前の設定がどうだったかを誰も言えない状態は、運用の変更そのものを止めます。
残す単位を間違えると、記録が新しい問題になります。応募者ごとに落ちた理由を文章で残すと、それ自体が新しい個人情報として積み上がり、しかも書きぶりが担当者ごとに揺れます。残すのは項目の単位です。どの項目を見ていたか、それぞれの重みはどうだったか、いつ変えたか、誰が承認したか。この4つを設定の履歴として残せば、後から「この時期はこう見ていた」と説明できます。
応募者ごとに残すのは、3つに絞ります。どの工程を通ったか。人が確認したか。確認したのは誰か。この3つだけなら、増えても管理でき、聞かれたときにそのまま出せます。逆に、機械が出した点数そのものを応募者ごとに長く保管すると、保管の目的を説明しにくくなります。職業安定法は収集の目的の範囲内で保管することを求めているので、保管の期限を先に決めておかないと、目的の範囲を超えた保管になります。
期限の決め方は、既にある社内規程に合わせるのが早道です。応募書類の保管期間が定まっているなら、機械の出力もその期間に合わせます。合わせられない理由があるなら、その理由を書きます。期限を決めない選択肢だけは残さないことです。決めなければ、いつまでも消えず、いつ消したかも分かりません。
決める順番。道具を選ぶ前に社内で通す5工程
順番を守ると、検討が止まりません。道具の選定は最後です。先に社内で通すことがあり、そこで決まった内容が、そのまま選定の条件になります。
複数の工程を同時に検討すると、判定と補助が混ざって議論が発散します。1つに絞り、その工程の出力によって応募者が1人でも先に進めなくなるかを見ます。答えが「なる」なら判定として扱い、決裁の重さを上げます。この1問の答えを、検討資料の1行目に書きます。
応募フォームの自由記述欄、面接の記録用の様式、外部から受け取る報告書の3つを並べ、家族のこと、思想や信条、労働組合への加入状況が書き込まれる余地がないかを見ます。余地があるなら、欄を狭めるか、機械に渡す前に外す工程を置きます。既に集めた書類をそのまま渡さないことが要点です。
案内文に書いた工程名・材料・使い方の3つが、実際の設定と一致しているかを確かめます。一致していない項目を表にして、案内文を直すか設定を直すかをその場で決めます。この会議の議事録が、後から説明を求められたときの一次資料になります。
委託として整理するのか、本人の同意を得て提供するのかを決め、決めた側に合わせて契約の条項を確認します。入力した内容が学習に使われない旨の条項があるか、その範囲が選考で使う機能にも及ぶかを見ます。確認した日付と該当箇所を残します。
落とし方の内訳がどう動いたら止めるのかを数で書きます。戻す作業が設定の切り替えだけで済む形にしてから切り替えます。止める権限は、作った担当ではなく、毎回の募集を回している採用の現場に置きます。作った側は、調整すれば直ると判断しがちで、止める決断が遅れます。
この5工程は、道具の選定と並行して進められません。4番目は、選定の候補が絞られていないと確認できないように見えますが、逆です。1番目から3番目で決まった内容が、候補を絞る条件になります。判定に使わないと決めたなら、判定の機能が主役の道具は候補から外れます。順番を守ると、比較する道具の数そのものが減ります。
AIに任せてよい工程と、人が決める3つ
この検討の中でAIに任せられる範囲は、はっきりしています。応募書類の記載漏れを指摘すること、同じ項目の書きぶりを揃えること、面接の記録を文字に起こして要約すること、過去の質問の一覧から聞き漏れを指摘すること、募集の案内文と設定の記載のずれを洗い出す下書きを作ること。いずれも指摘と下書きまでで、削除や判定そのものは含みません。
指摘には根拠の箇所を併記させます。「この応募者は要件に合わない」ではなく、「この応募者の書類には、募集要項の3番目の必須要件に対応する記載がない」という形です。根拠の箇所を書けない指摘は採用しないという規則を先に置くと、確認の手間がかえって減ります。読む側が、根拠のある指摘だけを追えばよくなるためです。
人が決めるのは3つです。この工程を機械に任せてよいか。落とす基準をどこに置くか。止めるかどうか。この3つをAIに尋ねてはいけません。尋ねれば、それらしい根拠を並べた賛成意見が返ってきます。判断を求める問いは、答えが返ってくること自体が危険で、返ってきた答えに人が引きずられます。材料として賛成と反対の両方を出させ、決めるのは会議の場に戻します。
合否の判定を渡さない理由は2つあります。1つは、説明の責任が移らないことです。機械が決めたと説明しても、応募者に対して答えるのは会社です。もう1つは、海外の規則が導入する側の義務として、人による管理を担当する自然人を置くことを挙げていることです。担当する人がいる状態を作るという発想は、規則の適用を受けない会社でも写せます。写すのに費用はかかりません。役割の名前を1つ決めるだけです。
よくある質問
応募者から「AIで落とされたのか」と聞かれたら何と答えるべきですか
答えられる形を先に作っておきます。使っている工程名、機械の出力を何に使ったか、最終的に誰が決めたかの3つを、その場で答えられるようにします。3つを言えるなら、多くの問い合わせは1往復で終わります。言えないときは、答えを作る前に、記録の残し方のほうを直す必要があります。
応募書類をそのまま外部のAIに読ませてよいですか
2つを先に確かめます。入力した内容がそのサービス側で学習データとして利用されるかどうか。そして、書類の中に原則収集禁止の類型が含まれていないかどうか。前者に該当する場合は第三者提供に当たり、委託とは整理できないものとして本人の同意が必要と解されています。後者は、渡す前に欄を外すほうが確実です。
面接の録画をAIに評価させるのは問題がありますか
何を読み取らせるかで分かれます。話した内容を文字に起こして要約させるのと、表情や声の調子から感情を推し量らせるのは別の行為です。後者は、海外では職場および教育機関における禁止の類型に置かれていて、採用の過程もその文脈に含まれると整理されています。日本に直接適用される規律ではないものの、使わないと決めておくほうが説明が楽になります。
応募者の公開されている投稿を機械で調べるのはどうですか
本人が公開している情報を取得すること自体は、個人情報保護法上も職業安定法上も基本的に問題になりません。ただし予測可能性の観点から、調べることをあらかじめ本人に示しておくのが適当だとされています。名前を出さずに投稿されている、いわゆる裏のアカウントについては話が変わります。真に本人のものだと断定できるのか、という問題が残るためです。本人の投稿でないものを本人の情報として誤って集めてしまった場合、偽りその他不正の手段による取得や、適法かつ公正な手段による収集でないものとして、両方の法律の違反となるおそれがあると整理されています。
前職への問い合わせの内容をAIにまとめさせるのは
まとめること自体より、集めることの側に要件があります。前職は第三者なので、職業安定法上、本人の同意を得て収集する必要があります。前職の側も、第三者に個人データを提供することになるため、本人の同意が必要です。基本的には、前職の会社が応募者に関する一定の情報を応募先に提供することについて、本人から同意を得れば足ります。要約は、同意の範囲内で集めた情報に対して行う作業です。
社内に規程がありません。何から作りますか
規程の文書から作りません。1つの工程について、判定か補助かを書いた1枚から作ります。その1枚に、材料、使い方、決める人、止める人、保管の期限を足していくと、そのまま規程の骨になります。全社の方針を先に書こうとすると、具体例がないため抽象論になり、現場で使えません。
進め方の失敗と、この記事で扱っていないこと
同じ失敗が繰り返されています。どれも検討の初期ではなく、運用が始まってから数か月後に表に出るものです。
- 道具の比較表から検討を始める。機能名の列は埋まるが、どの機能が判定に当たるかという列が立たない。運用が始まってから指摘が出て止まる
- 同意を取れば進められると考える。同意を応募の条件にすることは指針が禁じており、同意しない応募者を人が読む列に回す経路を作らないと運用が破綻する
- 案内文に「AIを活用しています」とだけ書く。工程名と材料と使い方の3つが揃わないと、応募者は扱われ方を予測できない。2019年の事案で不十分とされた水準がこれ
- 全体の通過率だけを見て偏りがないと判断する。通過率は変わらないまま内訳が入れ替わることがある。見るのは落とした理由の内訳
- 応募者ごとに落ちた理由を文章で残す。それ自体が新しい個人情報として積み上がり、書きぶりも担当者ごとに揺れる。残すのは項目と重みと変更の履歴
- 作った担当に止める権限を持たせる。作った本人は調整すれば直ると判断しがちで、止める決断が遅れる。権限は毎回の募集を回している現場に置く
- 案内文の改定と設定の変更を別の承認で回す。半年後に案内文だけが古いまま残り、書いてあることと実際の処理が食い違う
- 職業安定法5条の5と同法施行規則、指針に基づく原則収集禁止の3類型、収集手段の規律、同意の取得方法の規律、個人情報保護法の利用目的の特定・適正取得・適正利用義務・要配慮個人情報・第三者提供と委託の整理、生成AIへの入力が第三者提供に該当し得るという解釈、男女雇用機会均等法5条との関係、2019年の内定辞退率スコアの事案における行政指導と通知の内容、厚生労働省が示す公正な採用選考の14事項は、いずれも日本労働研究雑誌2026年1月号(第786号)に掲載された弁護士による解説「労働者の採用選考に伴う個人情報の取扱い」の記載に基づいています。発行は労働政策研究・研修機構です
- 厚生労働省が示す公正な採用選考の考え方そのものには実定法上の根拠がないと同解説は整理しています。ただし、これらの事項を把握したり実施したりすることが、プライバシーの侵害等として不法行為に該当する余地はあるとも述べられています
- 欧州の人工知能に関する規則の内容は、同解説の記載と、規則の条文を掲載している公開資料の原文で確認しました。採用または選考に用いられるものを高リスクとして挙げている項目について、解説と条文本文で枝番の表記が食い違っていたため、本記事では枝番を示していません。附属書に挙げられた高リスクの義務の適用開始時期については見直しの議論が報じられていますが、確定した内容は公表資料で確認する必要があります
- 職場および教育機関における感情の推論の禁止と、採用の過程もその文脈に含まれるという整理は、2026年3月24日に公表された海外の研究機関による解説の記載です。欧州委員会の指針の解釈を紹介したもので、原文そのものではありません。禁止の類型の適用開始日と罰則の水準は、この解説には記載がないため本記事でも日付を示していません
- 海外の大手事業者が人材採用のしくみの運用を取りやめたという事実は報道に基づくものとして同解説が紹介しているもので、時期や詳細な経緯はここでは確認していません。日本法に照らした位置づけも、同解説による整理です
- この記事は、選考にAIを使う前に社内で決めておくことと、応募者への説明のしかたを扱っています。応募を集める側の話、つまり求人ページの見つかり方や採用広報の設計には踏み込んでいません。また、個別の事案が法に触れるかどうかの判断は、対象となる法令の最新の条文と指針を確認した上で、法務および外部の専門家の確認を経る必要があります
まとめ
選考にAIを使う検討が止まるのは、道具の精度ではなく、どの判断を人が持ち続けるのかを先に決めていないからです。決裁の場で出る質問は3つに収まります。誰が最終的に落とすのか。応募者向けの案内に何と書くのか。後から理由を聞かれたら何を出すのか。この3つは道具の資料には書かれていないので、自社で先に決めることになります。工程は3つに分かれます。募集情報の出し方、応募書類の整理、候補者の評価です。海外の規則の条文でも、ターゲットを絞った求人広告の掲載、求人応募の分析とフィルタリング、候補者の評価として書き分けられています。混ぜて議論すると決まらないので、1つに絞って始めます。判定と補助の境目は1行で書けます。その工程の出力によって応募者が1人でも先に進めなくなるなら判定、ならないなら補助です。提供元が補助だと書いていても、下位に並んだ応募者が誰も次に進んでいなければ、自社の運用ではそれは判定として働いています。日本では2つの法律が重なって適用されます。職業安定法の個人情報に関する規定は1999年12月施行で、適用対象には自社で雇い入れるために募集を行う会社も含まれます。同法は、業務の目的の達成に必要な範囲内で、インターネットの利用その他適切な方法により目的を明らかにして収集し、収集の目的の範囲内で保管し使用することを求めています。指針は、人種や本籍などの社会的差別の原因となるおそれのある事項、思想及び信条、労働組合への加入状況の3類型について、原則として収集してはならないと定めています。この3類型が入ってくるかどうかは、AIに渡す前の入力欄で決まるので、既に集めた書類をそのまま機械に渡さないことが要点になります。個人情報保護法の側では、利用目的をできる限り特定することが求められ、分析を行う場合は本人が予測できる程度まで書く必要があります。「採用選考のため」だけでは足りず、分析する事実と、分析結果を採否に使う事実の両方を書きます。外部の道具を使うときは、委託として整理するのか本人の同意を得て提供するのかを先に決めます。入力した内容がその外部のサービス側で学習データとして利用される場合は、第三者提供に該当し委託とは整理できないものとして本人の同意が必要と解されています。2019年の内定辞退率スコアの事案は、同意を整えれば通るという前提が成り立たない領域があることを示しました。規約に記載があって同意も得ていたのに行政指導が出て、スコアを利用していた企業の側にも指導が及び、行政の通知には、本人があずかり知らない形で合否決定前に提供することは本人同意があったとしても直ちに解消する問題ではないと書かれています。同意そのものにも制約があります。指針は、必要な範囲を超えた収集への同意を募集の条件としないことを求めているので、分析に同意しない応募者を人が読む列に回す経路を用意しないと、運用が成り立ちません。偏りの確かめ方は、全体の通過率ではなく落とした理由の内訳です。確かめるために属性を集めると収集の規律に当たるので、同じ書類の1か所だけを入れ替えて点数の動きを見る、落とした理由を項目の単位で集計するといった、属性を集めずに済む方法を使います。記録は人ではなく項目の単位で残します。どの項目を見ていたか、重みはどうだったか、いつ変えたか、誰が承認したか。応募者ごとに残すのは、どの工程を通ったか、人が確認したか、確認したのは誰かの3つに絞り、保管の期限を先に決めます。海外の規則は、選考を高リスクに置き、導入する側の義務として、必要な能力と訓練と権限を持つ自然人に人による管理を担当させることを挙げています。感情を生体データから推論するしくみは禁止の類型に入り、採用の過程もその文脈に含まれると整理されています。直接適用されない会社でも、担当する人の役割を1つ決めるという形は写せます。次の一手は、道具の比較表を作ることではありません。いま検討している工程を1つ選び、その出力によって応募者が先に進めなくなるかを1行で書いてみる。答えが「なる」なら、案内文に書く5つの項目を先に埋めます。埋まらない項目が残っているなら、そこが導入の止まっている場所です。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
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