プロンプトは書いただけでは守られない|指示文を資産にする条件

プロンプトは書いただけでは守られない|指示文を資産にする条件

「うちのチームで半年かけて育てた指示文を、退職した担当が次の勤め先でそのまま使っていました。会社のものだと思っていたのですが、止められるものなのでしょうか」「制作を任せている外注先に指示文を渡しています。あちらが別の会社の案件で同じものを使っていても、こちらからは何も言えないのでしょうか」。——この2つの問いは、同じ思い込みから出ています。書いた文には自動で権利が付き、その権利で相手の使い方を止められる、という思い込みです。実際に指示文を守っているのは、著作権ではなく、秘密として扱ってきた事実と、渡す前に結んだ契約の文言のほうです。この記事では、指示文にどこまで著作権が及びうるのかを日本の著作権法の考え方に沿って確かめ、及ばない部分を秘密の管理と契約でどう埋めるか、そして社内の指示文を会社の資産として置き直す手順までを書きます。


カメ先生カメ先生

指示文は書いた瞬間に会社の財産になると思われがちですが、法律の側から見ると、その前に「これは著作物なのか」という関門があります。ここを通らない文がとても多いのです。


カメ子カメ子

通らなかったら、まったく守られないということですか。


カメ先生カメ先生

いいえ。著作権が働かないだけで、別の道が残っています。秘密として扱ってきた事実があれば不正競争防止法の側で、渡す相手が決まっているなら契約の側で受け止められます。ただ、どちらも先に手を打っていないと使えません。


カメ子カメ子

起きてから「あれは秘密でした」と言っても間に合わない、ということでしょうか。


この記事のポイント
  • 一言の命令文に著作権が及ぶことは期待しにくい。著作物は「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義されており、やりたいことを言い当てただけの文は表現に届かない
  • 長く書けば守られるわけでもない。分かれ目は分量ではなく、書き手の選択が積み重なった部分がどれだけ入っているか
  • 残る手段は3つ。秘密として管理する、契約で帰属と持ち出しを決める、外に出す線を先に引く。どれも渡した後からでは成立しない

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目次

指示文に権利があるかは、著作物の定義に当てはまるかで決まる

著作権法は著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と定義しています(第2条第1項第1号)。指示文もこの定義に当てはまるかどうかで判断されます。ここで効くのは「創作的に表現した」の部分です。誰が書いても似た言い方になる文、やりたいことを短く言い当てただけの文は、表現ではなく思いつきの側に置かれます。指示文を守りたいという相談は、まずこの関門で足が止まります。

同じ条には著作者の定義もあり、「著作物を創作する者」とされています(同項第2号)。文化審議会著作権分科会法制度小委員会が2024年3月15日にまとめた「AIと著作権に関する考え方について」は、AIは法的な人格を有しないことからこの「創作する者」には該当し得ないと整理し、生成物が著作物に当たると判断された場合も、著作者になるのはそのAIを利用して創作した人であるとしています。ただし、この文書が扱っているのは出てきた生成物の側の話で、渡した指示文それ自体に著作権が生じるかは正面から扱われていません。断定できない領域だという前提を、社内の説明でも省かないほうがよいところです。

実務でこの前提が抜けると、順番が逆になります。「著作権があるはずだ」を土台にした社内規程は、争いになった場面でいちばん弱い土台です。権利があるかどうかが問題になるのは、その文が既に外へ出てしまった後だからです。出た後に定義の当てはめを議論するより、出る前に別の手段を積んでおくほうが確実に効きます。以下は、その別の手段を1つずつ確かめていく順に並べています。

一言の命令文と長い指示書で、分かれ目になるのは分量ではない

先の考え方は、生成物の著作物性を判断する要素として3つを挙げています。①指示・入力(プロンプト等)の分量・内容、②生成の試行回数、③複数の生成物からの選択です。①については「創作的表現といえるものを具体的に示す詳細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高める」としながら、「長大な指示であったとしても、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示は、創作的寄与の判断に影響しない」とも書かれています。長さは決め手にされていません。

②も同じ形で線が引かれています。「試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しない」一方で、生成物を確認して指示を修正しながら試行を繰り返した場合には著作物性が認められることも考えられる、とされています。③は「単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しない」です。3つを並べると、回数や量ではなく、直した跡が残っているかどうかを見ている構図が浮かびます。これは出力側の判断枠組みですが、指示文の側で何を残しておくべきかを考える材料にはなります。

その材料を指示文に置き換えると、価値が乗っているのは次のような部分です。工程をどの順に並べたか、どの断り書きをどこに置いたか、出力の形をそろえるための書式をどう決めたか、過去に出た失敗をどの一文で防いだか。ここには書き手の選択が積み上がっています。逆に、目的をそのまま日本語にしただけの一行には、その積み上がりがありません。ただし、出力側の枠組みをそのまま入力側に当てはめられると読むのは行き過ぎです。読み取れるのは「長く書いたから守られる」という考え方が採られていない、というところまでです。

指示文を3つの層に分けると、守る手段が層ごとに変わる

指示文をひとまとめに「プロンプト」と呼んでいる限り、守り方の話は前に進みません。実際には性質の違う3つの層が同じ名前で呼ばれています。層に分けると、著作権に期待できる度合いと、現実に効く守り方が層ごとに違うことが見えます。

中身の例著作権に頼れるか現実に効く守り方
一言の命令この文章を要約して/もっと短く/表にして期待しにくい。表現に届く部分がほとんどない守る対象にしない。隠す手間のほうが高くつく
手順と条件をそろえた指示書役割の指定、工程の順、禁止事項、出力の形、断り書き、失敗例と直し方部分的にありうるが、争えば決着まで長い秘密として管理する。閲覧範囲と表示を先に決める
指示文と資料と評価基準を束ねた仕組み渡す材料の置き場所、合否の基準、直した履歴、担当の割り当て束ね方に価値があっても、権利で囲うのは難しい秘密の管理に加えて、契約で帰属と持ち出しを決める

表の右列を見ると、層が上がるほど著作権から離れ、管理と契約に寄っていくことが分かります。ここで多いのが、いちばん上の層に手間をかけてしまう型です。一言の命令は同じ発想が誰の手元にもあり、隠しても得るものが少ない。手をかける先は真ん中と下の層で、しかも下の層は文だけを守っても意味がなく、材料と基準と履歴を一緒に扱わないと束が崩れます。

層の分け方は、社内の呼び名にも反映させたほうがよいところです。一言の命令を「うちの指示文」と呼び続けると、外部の人に見せるときの判断ができません。3つの層に別の呼び名を与えて、見せてよいのはどの層までかを名前の側で決めておくと、その場の判断に頼らずに済みます。次の3つの節で、真ん中と下の層に効く手段を1つずつ確かめます。

著作権が使えない部分は、秘密として管理する側で受け止める

不正競争防止法は営業秘密を、①秘密として管理されている(秘密管理性)、②生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報である(有用性)、③公然と知られていない(非公知性)、と定義しています(同法第2条第6項)。経済産業省の「営業秘密管理指針」は、この三要件のすべてを満たすことが法に基づく保護を受けるために必要だとしています。指針は平成15年1月30日に策定され、最終改訂は2025年3月31日です。この改訂では、在宅勤務やクラウドの普及、生成AIの広まりを踏まえた記載が加えられました。

3つのうち、指示文が落ちにくいのは②です。指針は有用性の要件について、公序良俗に反する情報を範囲から除いたうえで、広い意味で商業的価値が認められる情報を保護することに主眼があると説明し、必ずしも現に事業活動に使用されていることを要するものではないとしています。使うのをやめた古い版の指示文でも、この要件だけで落ちるとは考えにくい、ということです。要件そのものの解説は別の記事の領分なので、ここでは指示文に当てはめたときの当たり外れだけを見ます。

落ちるのはほぼ①です。理由は指示文の置かれ方にあります。会話の履歴の中、担当者の端末の作業用フォルダ、共有の表計算の1つの列、思い出せる人の頭の中。同じ1本の指示文が、社内の4か所に別の姿で散らばっているのがふつうの状態です。この状態に対して、指針が求めているのは高度な仕組みではありません。次の節で確かめる通り、求められているのは見た人が秘密だと分かるようになっているかの1点です。

秘密として管理していると言えるのは、見た人が秘密だと分かる状態

指針は秘密管理性について、営業秘密保有者の秘密管理意思が秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、その意思に対する従業員等の認識可能性が確保される必要があると書いています。そして、秘密であると単に主観的に認識しているだけでは不十分だとも明記しています。「大事なものだと全員が分かっているはずだ」という説明は、この基準では通りません。分かっているはずと、分かるようにしてある、は別の状態です。

電子で持っている場合の具体例も並んでいます。ファイル名やフォルダ名にマル秘を付記する、ファイルを開いたときに画面上にマル秘と表示されるようヘッダーに付記する、そのファイルや上のフォルダの閲覧にパスワードを設定する、記録媒体にマル秘の表示を貼る。指針は、外部のクラウドを利用して営業秘密を保管・管理する場合も、秘密として管理されていれば秘密管理性が失われるわけではないとしています。どれも、指示文の置き場所に今日から足せる手当てです。

順番の話も指針に書かれています。閲覧できる人を絞ることは、認識可能性を担保する1つの手段として位置づけられており、脚注では、情報にアクセスした者が秘密であると認識できる場合に、十分なアクセス制限がないことを根拠に秘密管理性が否定されることはないと整理されています(東京高判平成29年3月21日を参照)。つまり、閲覧範囲の設計が終わらないうちでも、表示を先に付けるほうが効く。権限の議論が長引いている会社では、この順番だけで数か月分の遅れを取り戻せます。

指示文に固有の難所が、もう1つあります。指針は、従業員が体得した無形のノウハウについて、原則としてその内容を紙その他の媒体に可視化することが必要だとし、方法として営業秘密のカテゴリーをリストにすることや、具体的に文書等に記載することを挙げています。口伝えで回っている指示文は、まず書き出してリストに載せる作業から始まるということです。ここを飛ばすと、守るべき対象そのものが特定できません。

生成AIに渡したことだけでは、秘密ではなくなったとは言えない

指示文を守る話でいちばん質問が集まるのがこの点です。2025年3月改訂の指針には、生成AIに関する整理が注として入りました。ある管理単位で秘密管理されている情報を生成AIに利用していた場合に、その後、同じ管理単位でその情報が生成物として出力されることがあったとしても、その一事をもって秘密管理性が否定されることはないと考えられるとしています。別の管理単位で出力された場合についても、同じ整理が示されています。

ただし同じ注には脚注が付いており、当該企業にとどまらず、その情報が企業以外の第三者、例えば生成AIの提供事業者等に提供される場合は、秘密管理性が否定される場合もあり得るとも書かれています。読み分けはこうなります。社内で使うこと自体は否定の材料にならないが、外の事業者に渡る形での使い方は別に確かめる必要がある。だから提供元の契約と設定を見る工程が、法務の後回しの宿題ではなく、秘密として扱う前提条件になります。

ここで出てくる「管理単位」という言葉も押さえておく価値があります。指針は、規模や物理的環境や業務内容を勘案しつつ、秘密管理措置の要否や内容の決定とその遵守状況の監督に関する自律的決定権限の有無などから判断して、営業秘密の管理について一定の独立性を有すると考えられる単位だと定義し、典型例として支店や事業本部を挙げています。指示文を部門ごとに別々の場所で持っている会社では、単位ごとに表示と閲覧範囲の手当てが要る。全社で1か所に集めるほうが、手当ての回数は減ります。

公開されている知識の寄せ集めでも、組み合わせ方に価値が残る

3つ目の要件についても、指示文にとって重要な整理が入っています。非公知性は、一般的には知られておらず、又は容易に知ることができないことを求めるものです。指示文の書き方は解説記事にいくらでも載っているので、この要件で落ちるのではないかという心配がよく出ます。指針はこの心配に正面から答えています。

ある情報の断片が様々な刊行物に掲載されていて、その断片を集めれば近い情報が再構成され得るとしても、そのことをもって直ちに非公知性が否定されるわけではない、と書かれています。理由として、断片に反する情報も複数あり得る中で、どの情報をどう組み合わせるかといったこと自体に価値がある場合は営業秘密たり得ると説明されています。さらに、組み合わせが知られていたり容易であったとしても、取得に要する時間や資金的なコストがかかるため財産的価値があるという場合にも非公知と言いうる、とされています。

この整理は指示文の実情と噛み合います。個々の言い回しは公開されていても、どの断り書きをどの位置に置き、どの工程を先に回し、どの失敗をどう封じたかの束は自社の中にしかありません。半年の手直しで積み上げた順番そのものが、要件の側で評価されうる部分です。反対に、この要件はこちらから壊すこともできます。指針の脚注は、一般的には知られていないが容易に知ることができる状態は非公知とはいえないと書いています。登壇の画面に全文を映す、記事にそのまま貼る、といった行為がここに当たります。

帰属は立場で変わる。社員と派遣と業務委託と外注で条件が違う

誰が作ったものを会社のものとするかは、相手の立場で決まり方が変わります。まず社員の場合です。著作権法第15条第1項は、法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、作成の時における契約や勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とすると定めています。かっこ書きでプログラムの著作物が除かれており、プログラムについては公表の条件が外れた第2項が用意されています。

指示文はプログラムの著作物ではないので、第1項の側に置かれます。ここで引っかかるのが「自己の著作の名義の下に公表するもの」という条件です。社内で使う指示文は、ふつう公表しません。公表を前提としない社内文書にこの条項が及ぶかは解釈に幅があると指摘されている領域なので、及ぶとも及ばないとも断定はできません。実務上の含みは1つだけはっきりしています。公表しない文書ほど、規程や契約で帰属を先に書いておく価値が上がる。第15条自体が「別段の定めがない限り」と書いているので、定めを置くこと自体は制度と衝突しません。

業務委託や外注は、そもそも「業務に従事する者」に当たらないので、第15条は働きません。著作権は作った側に生じ、譲り受ける手当てが要ります。第61条第1項は著作権の全部又は一部を譲渡できると定め、第2項は、譲渡する契約において第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定するとしています。指示文を書き換えて別の用途に作り替える側の権利が、書かなければ相手に残ると推定されるということです。指示文は使いながら直す文なので、この推定はほかの成果物より痛く効きます。派遣で来ている担当者の扱いは、指揮命令の関係と契約の書き方の両方で変わるため、社員と同じ前提で進めないほうが安全です。

契約に書く項目は、帰属と特掲と返却の3群に分けて並べる

契約の話は項目が多すぎて着手できなくなりがちです。指示文に限れば、書くべきものは3群に収まります。取り決め全体を固める工程はそれ自体が別の作業なので、ここでは指示文に固有の中身だけを挙げます。

  • 帰属を先に置く。誰が職務で作った指示文を会社のものとするか。第15条は「その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り」と書いているので、作った後ではなく先に規程を置く
  • 外注に作らせるなら譲渡を特掲する。第27条と第28条に規定する権利を譲渡の目的として明記する。書き換えて別の用途に使う場面が必ず来るため、ここを落とすと自社で直せない指示文が残る
  • 秘密として示したことを形に残す。指針は、別法人に営業秘密を示す場合に自社の秘密管理意思が明確に示されている必要があるとし、営業秘密を特定した秘密保持の取り決めが典型だとしている
  • 口頭で足りるかを当てにしない。指針は、文書へのマル秘表示や口頭の伝達でも理論上は可能としながら、立証を考慮すれば送り状への記載などの書面が望ましいと書いている
  • 返却と削除の範囲を決める。渡した指示文の本体だけでなく、写された先(作業用の共有場所、会話の履歴、下請けへの再委託分)まで書く
  • 他の案件での再利用の禁止範囲を書く。秘密として指定していない部分は、書いていなければ止める根拠が細くなる

6つの中で最も落ちやすいのは2番目です。譲渡の条項に「著作権を譲渡する」とだけ書いてある契約書を、実務でよく見かけます。第61条第2項の推定が働くと、渡された指示文をこちらで改造して別の商品に使う場面で足が止まります。外注先のAI利用について決める項目は別の一覧になりますが、その一覧の中でも指示文の帰属と特掲は独立して確かめる価値があります。

提供元の規約側で確かめる4項目

指示文を秘密として扱う前提が、提供元の側の条件で崩れることがあります。先に見た通り、企業以外の第三者に提供される場合は秘密管理性が否定される場合もあり得ると整理されているためです。確かめる項目は4つで足ります。主要な生成AIの法人向け契約では、個人向けの既定と条件が違うことがあるので、契約書の文言と管理画面の設定の両方を見るのが要点です。

  1. 入力した内容が学習に使われない扱いになっているか。既定でそうなっているのか、こちらで設定を変える必要があるのかまで確かめる
  2. 入力と出力がどこに、どれだけの期間残るのか。保存の期間と、期間が過ぎた後の扱い
  3. 誰が中身を見られるのか。提供元の側で内容を確認する場面があるのか、あるならどんな条件で行われるのか
  4. 契約を終えたときに、残っているものがどうなるのか。削除の申し出ができるのか、申し出の窓口はどこか

4項目を確かめる相手は、法務だけではありません。設定は使う部門の管理画面の中にあることが多く、契約は法務が持っています。どちらか片方だけを見て「大丈夫」と結論した会社が、後から設定の側で崩れているのをよく見ます。確認した日付と、そのとき見た画面の名前を1行残しておくと、契約の更新時に同じ調査をやり直さずに済みます。

指示文を資産として置き直す4つの工程

ここまでの手段を、着手できる順に並べます。設計や共有の型づくりは別の作業として切り離し、この4工程は記録と帰属と持ち出しの3点だけに絞っています。指示文の書き方そのものを整えたい場合は、別の記事の領分です。

STEP1
区分を決める

社外に出してよい、社内限り、限られた人だけ。3つで止めます。4つ目を作ると、どの区分に入れるかを迷う指示文が出て、迷った分がそのまま無印で放置されます。区分ごとに、名前の付け方を1つ決めておきます。

STEP2
置き場所と版を決める

1か所に集め、区分に応じてファイル名かヘッダーにマル秘を付記します。版は日付と、直した理由を1行だけ。理由の行が、直した跡として後から意味を持ちます。口伝えで回っていた分は、この工程で書き出してリストに載せます。

STEP3
帰属を契約と規程に書く

社員については勤務規則や規程、外注については契約に書きます。外注の契約では第27条と第28条の権利の特掲を落とさない。既に発注している相手には、次の更新のときに1条足す形で追いつけます。

STEP4
持ち出しを記録する

外に渡した相手、日付、渡した版の3つを1行で残します。行がたまると、契約終了時に何を回収すべきかがそのまま一覧になります。渡す前に書くのではなく、渡した直後に書くほうが続きます。

STEP5
工程の外に置くもの

提供元の規約の4項目の確認は、この4工程のどこにも属しません。1つ目と並行して先に済ませます。後回しにすると、区分を決め終わってから前提が崩れて、区分の議論をやり直すことになります。

4工程のうち、費用がかかるものは1つもありません。必要なのは、置き場所を1つに決める合意と、表示を付ける半日と、渡すたびに1行足す習慣です。先に効くのは仕組みではなく、渡した記録が1行ずつたまっていくこと。この行がないと、退職や契約終了の場面で「何を渡したか」から調べ始めることになります。

社外に出す指示文と、出さない指示文を、先に2つに分ける

指示文が外に出る場面は思ったより多いものです。採用の記事、登壇の資料、事例の紹介、提案書の付録、社外の勉強会での画面共有。ここで全部を隠す方針に振ると、社内の共有まで止まって使われない指示文が増えます。線の引き方を決めておく必要があります。

引き方は文の長さではありません。写して貼れば同じ結果が出るかどうかで引きます。考え方と効いた理由は出す側に、そのまま動く形と断り書きの並びは出さない側に置く。同じ内容でも、順番を崩して要点だけにすれば出せます。この判断をその場でやると必ず出しすぎるので、区分の名前の側で先に決めておく話に戻ります。

著作物性がない情報の後ろ盾についても、期待の水準をそろえておきます。先の考え方は、著作物性がないものであっても、判例上、その複製や利用が営業上の利益を侵害するといえるような場合には、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められ得ると整理しています。一方で引用されている最高裁の判示は、著作権法の対象とならない著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないというものです(最判平成23年12月8日)。頼れる場面は狭い、と読むのが妥当です。だから出す前の線引きが効きます。

版と置き場所と持ち出しの記録に絞る。それ以上の運用は続かない

運用を設計し始めると、承認の流れ、書式の統一、評価の点数付けと項目が増えていきます。権利を成立させるために必要なのは、そのうちの3点だけです。直した記録、帰属の定め、持ち出しの記録。この3点は要件の側と直結していて、増やした残りの項目は直結しません。

担当交代と退職の場面で、3点が揃っているかが試されます。個人の端末の作業用フォルダにしか実体がない指示文は、退職の手続きの中で消えます。会話の履歴の中にだけある指示文も同じです。置き場所を1か所に決める合意は、権利の話であると同時に引き継ぎの話でもあります。交代の1か月前に慌てて集めると、版の新旧が分からないまま古い版だけが残ります。

外注に渡した指示文の回収も、記録の側から動きます。契約が終わるときに、渡した版の一覧がなければ回収の指示すら出せません。逆に一覧があれば、削除の申し出は3行の連絡で済みます。指示文を秘密として指定して渡したのに、渡した記録を残していない会社が実際にあります。示したという事実を後から証明できるようにしておくところまでが、秘密として扱うという行為の一部です。

誤りやすい型

失敗の型は、どれも「守れているつもり」で進むところが共通しています。共通の欠けは、確かめる工程が1つも入っていないことです。

  • 著作権があると思い込んで社外に配る。登壇の画面に全文を映し、記事に本文を貼り、提案書の付録に入れる。非公知性を自分で崩したうえで、後から止めようとして根拠がないことに気づく
  • 個人の端末に置いたまま退職で失う。作業用フォルダと会話の履歴にしか実体がなく、引き継ぎの一覧に載っていない。退職の手続きで消えたことに、次の四半期まで誰も気づかない
  • 外注先に渡した指示文の扱いを決めていない。譲渡の条項に「著作権を譲渡する」とだけ書いてあり、第27条と第28条の権利の特掲がない。こちらで改造して別の商品に使う場面で足が止まる
  • 秘密と言いながら誰でも見られる場所に置く。全社の共有場所に無印で置き、表示もパスワードもない。指針が求める認識可能性の側で崩れているのに、社内の説明では「重要書類」として扱われている
  • 口伝えのままリスト化しない。指示文の実体が担当者の記憶の中にあり、可視化もカテゴリーのリスト化もされていない。守るべき対象が特定できないので、手段の話に入れない
  • 提供元の設定を見ずに契約書だけで結論する。契約の文言は法人向けの条件になっているが、管理画面の設定が既定のまま。片方だけを見て安全だと社内に通知している
  • 著作物の定義と著作者の定義、職務上作成する著作物の帰属、著作権の譲渡と特掲の推定は、いずれも著作権法(昭和45年法律第48号)の第2条第1項第1号と第2号、第15条、第61条の規定です。条文は現行のもので、施行の時期は本文で扱った論点に影響しません
  • 生成物の著作物性と創作的寄与に関する記述は、文化審議会著作権分科会法制度小委員会「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日公表)の記載です。同文書は冒頭で、公表時点における小委員会としての一定の考え方を示すものであり、それ自体が法的な拘束力を有するものではないと明記しています。また、扱われているのは生成物の側の著作物性で、指示文それ自体の著作物性を正面から論じたものではありません
  • 秘密管理性、有用性、非公知性に関する記述と、生成AIに利用した場合の整理は、経済産業省「営業秘密管理指針」(平成15年1月30日策定、最終改訂2025年3月31日)の記載です。同指針も、一つの考え方を示すものであり法的拘束力を持つものではないとしており、個別事案の解決は最終的に裁判所において総合的に判断されるとしています
  • 不正競争防止法には、営業秘密とは別に限定提供データの保護があります。平成30年の改正で導入され2019年7月に施行、令和5年の改正で保護対象から営業秘密を除く整理がされ2024年4月に施行されています。業として特定の相手に提供する情報を対象とする仕組みなので、社内で使う指示文がそのまま当てはまる場面は限られます
  • この記事は指示文の権利と守り方を扱っています。指示文の設計や共有の型づくり、渡す材料の組み立て方、生成物の側の著作権(類似性と依拠性、学習段階の扱い)は、いずれも別の作業として整理する必要があります

マーケティング部門が先に決めるのは、外に見せてよい線

この話は法務や情報システム部門の内側で進みがちですが、指示文を外に出す機会がいちばん多いのはマーケティング部門です。事例の記事、登壇の資料、提案書の付録、記事の中のノウハウ公開。どれも仕事として正しく、どれも非公知性を削る方向に働きます。線引きをこの部門が持っていないと、社内の管理をどれだけ整えても外から漏れます。

出せる材料と出せない材料の分け方は、部門の日常の言葉で決められます。出すのは、何を狙ってその指示文を作ったか、どこで失敗して何を足したか、結果としてどの工程が短くなったか。出さないのは、そのまま貼れる本文と、断り書きの並び順です。効いた理由は出しても価値が減らず、そのまま動く形は出した瞬間に価値が消える。この差が線の位置を決めます。

外部の制作会社に渡すときの手当ても、この部門の側にあります。渡した相手と日付と版を1行書く欄を、既に使っている発注の管理表に1列足すだけで済みます。渡す判断をした人が、その場で1行書ける形にしておく。別の台帳を作ると書かれません。案件が終わったとき、その1列がそのまま回収の一覧になります。

よくある質問

指示文に「無断転載禁止」と書いておけば守れますか

表示だけでは足りませんが、無駄でもありません。守る側の根拠になるのは、その情報が営業秘密の三要件を満たしているか、または契約で相手を縛れているかです。表示は、そのうち秘密管理性の側で意味を持ちます。指針が挙げている電子の具体例にファイル名やヘッダーへのマル秘の付記があるので、社内の指示文であれば表示を付ける行為自体は要件の方向に働きます。ただし、社外に配った文書に一言添えるだけでは、非公知性を崩した事実を打ち消せません。

退職した社員が、頭の中で覚えた指示文を次の勤め先で使うのは止められますか

即座に止められる話ではありません。指針は、従業員が体得した情報が営業秘密に該当する場合でも、転職後の使用や開示によって直ちに民事上の措置や刑事罰の対象となるわけではないとしています。当該企業の利益と従業員の利益、営業秘密の内容などを踏まえた判断になるためです。加えて、体得した無形のノウハウについては原則として内容を紙その他の媒体に可視化することが必要だとされているので、可視化もカテゴリーのリスト化もしていない指示文は、対象の特定から詰まります。

外注先が作った指示文を、こちらが自由に書き換えて使えますか

契約の書き方で変わります。外注先は業務に従事する者に当たらないので職務上作成する著作物の規定は働かず、著作権は作った側に生じます。譲り受ける契約を結んでいても、第27条又は第28条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていなければ、これらの権利は譲渡した者に留保されたものと推定されます。書き換えて別の用途に使う予定があるなら、この特掲を入れておく必要があります。既に締結している契約は、次の更新のときに1条足す形で追いつけます。

まとめ

指示文に権利があるかは、著作物の定義に当てはまるかで決まります。著作権法は著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定義しているので、やりたいことを短く言い当てただけの一言は、表現ではなく思いつきの側に置かれます。分かれ目は分量ではありません。文化審議会著作権分科会法制度小委員会が2024年3月15日にまとめた考え方は、生成物の著作物性について、長大な指示であっても創作的表現に至らないアイデアを示すにとどまる指示は創作的寄与の判断に影響しないとし、試行回数そのものも影響しないとしながら、生成物を確認して指示を修正しつつ試行を繰り返した場合には著作物性が認められることも考えられるとしています。回数や量ではなく、直した跡が残っているかを見ている構図です。ただしこの文書が扱うのは出力側で、指示文それ自体の著作物性は正面から扱われていないので、当てはめには留保が要ります。だから手当ては別の側に置きます。営業秘密の三要件のうち、指示文が落ちるのはほぼ秘密管理性です。求められているのは高度な仕組みではなく、見た人が秘密だと分かる状態で、ファイル名やヘッダーへのマル秘の付記、閲覧のパスワードといった手当てが具体例として挙げられています。2025年3月31日改訂の指針は、秘密管理されている情報を生成AIに利用していた場合について、その一事をもって秘密管理性が否定されることはないと整理し、ただし提供事業者等の第三者に提供される場合は否定される場合もあり得るとしています。公開された知識の寄せ集めでも、どう組み合わせるかに価値があれば非公知たり得るとも書かれています。帰属は立場で変わります。社員は職務上作成する著作物の規定と規程で、外注は譲渡の契約で、しかも第27条と第28条の権利を特掲しないと書き換える側の権利が相手に留保されたものと推定されます。次の一手は、規程の整備でも道具の選定でもありません。いま使っている指示文を1本選び、それがどこに何通りの姿で置かれているかを数えてみる。4か所に散らばっていたら、集めて表示を付けるところから始まります。

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