AI利用ログを人事評価に使う危うさ|見てよい範囲を決める

AI利用ログを人事評価に使う危うさ|見てよい範囲を決める

「管理画面を開いたら、誰が何回使ったかが一覧で出てきました。この数字は人事に渡してよいものなのでしょうか」「利用が伸びない部署があるので、個人別の回数を評価の材料にしてはどうかと役員から言われました」。——AIを全社に配った会社から、半年ほど経つと必ず届き始める相談です。ここで先に解いておきたい誤解があります。問題なのはログを取ること自体だ、という受け止め方です。そうではありません。記録は取らなければならないものです。費用を部門に配るときも、情報が外に出た疑いが出た日を追うときも、規程どおりに使われているかを確かめるときも、記録が無ければ何も確かめられません。本当の論点は、取ってしまった記録を、どの単位で開き、何に使ってよいのかのほうにあります。この記事では、見てよい範囲をどこで区切るか、見る前に何を決めて働く人に何を伝えるか、そして決めた線が半年で形だけにならないようにする手順を整理します。


カメ先生カメ先生

利用ログを見るのは監視だから避けるべきだ、と言われることがありますが、順序が逆です。記録を残すこと自体は安全のために要るもので、問題になるのは、残った記録をどの単位で開き、何の判断に使うかのほうです。


カメ子カメ子

部門ごとの合計を見るのと、個人ごとの回数を見るのとでは、何が違うのでしょうか。


カメ先生カメ先生

合計は業務の話ですが、個人ごとの回数はその人の働きぶりの話に変わります。同じ記録でも、単位を細かくした瞬間に、評価と結びつく情報になるということです。


カメ子カメ子

見てよいかどうかは、記録の中身ではなく、開く単位のほうで決まるということですか。


この記事のポイント
  • ログを取ること自体は必要。論点は「取るな」ではなく、取った記録をどの単位で開き、何に使ってよいかを先に決めること
  • 使った回数が多い人ほど成果を出している、という関係は成り立たない。回数を評価に持ち込むと、回数を稼ぐ振る舞いが増え、記録そのものが使えなくなる
  • 見る前に決めるのは4つ。何を記録するか、何には使わないか、誰の承認で個人の記録を開くか、いつ消すか。集計と洗い出しはAIに渡せるが、個人の評価に結びつける判断は人が持つ

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目次

「ログを見るのは監視だ」で止めない。取ること自体は要る

生成AIを全社に配ると、管理画面には自動的に記録が貯まります。多くの製品で、誰がいつどの機能を使ったかは初期の設定のまま記録されます。止める設定が用意されていないこともあります。つまり取るかどうかを選ぶ余地は、思っているより小さいのが実態です。議論を始める時点で、記録はすでに存在しています。

取る理由もはっきりしています。1つめは費用です。席数で買った分がどの部門でどれだけ使われているかが分からないと、翌年の契約数を決められません。部門に費用を割り当てる場合も同じで、割り方の議論に入る前に、そもそも使用量の記録が要ります。2つめは事故が起きた日の追跡です。取引先の情報が入力された疑いが出たとき、いつ誰の操作だったかを追えなければ、影響の範囲が確定できず、報告も謝罪もできません。3つめは規程違反の確認です。扱ってはいけない情報を入れない、という規程を作ったなら、守られているかを確かめる手段が要ります。

だからこの記事は、取るのをやめようという話ではありません。押さえたいのは、記録は特定の目的のために取ったものであって、別の目的に流用してよいとは限らないという一点です。ここが混ざると、現場は「見られている」という部分だけを受け取り、AIの利用そのものが表から消えていきます。

実務で危ないのは、目的を決めないまま取り始めることです。先に記録が貯まってしまうと、後から「せっかくあるのだから」という理由で使い道が増えます。記録は、使い道を決めてから取る。すでに取ってしまっているなら、いま取れている項目を一覧にして、それぞれ何の目的で取っているのかを1行ずつ書き出すところから始めます。目的が書けない項目が、後で問題になる項目です。

生成AIのログは3つの層に分かれる。層ごとに重さが違う

ひと口にログといっても、中身は同じではありません。実務では3つの層に分けると議論が進みます。分けずに「ログ」と一語で話している限り、見てよいかどうかの結論は出ません。

利用ログの3つの層

第1層・計数……誰が、いつ、何回、どの機能を使ったか。人数と回数だけの数字で、中身は含みません。管理画面の初期の状態でも、たいていここまでは残ります。

第2層・文脈……どの業務で、どの型の指示で、社内のどの資料を参照したか。中身そのものではありませんが、その人が何の仕事をしていたかは、かなりの精度で推測できます。

第3層・中身……入力した文章そのもの、添付した資料、返ってきた回答。本人の業務の中身であり、取引先の秘密や第三者の個人情報が含まれることもあります。開くことの重さが、前の2層とは別の次元になります。

多いのは、第1層しか見ていないつもりでいて、実際には第3層まで保存されている状態です。製品によっては、対話の内容が一定の期間そのまま保存される設定が初期値になっていることがあります。保存の期間も対象も製品と契約によって違うため、一般論では決まりません。自社の設定画面で、いま何がどれだけ残っているのかを最初に調べます。無いと思っていた記録が残っていた、という形で後から問題になるのが典型です。

層を分けておくと、後の会議が短くなります。「ログを見てよいか」ではなく「第2層までを部門単位で見てよいか」という問いになるからです。議論が止まるのは、層と単位を分けずに一語で話しているからです。逆に、層を分けずに規程を書くと、第1層のつもりで書いた一文が第3層の閲覧の根拠として読まれます。

使った回数が多い人ほど成果を出している、は成り立たない

回数を評価に使いたくなる最大の理由は、数えやすいからです。成果は測るのが難しく、回数はすでに管理画面に出ています。ところが、回数と成果のあいだにはほとんど関係がありません。理由は次の4つで、どれも業務の性質から来ています。

  • 仕事の種類で回数が変わる。文章や資料を大量に作る仕事は回数が伸び、会議と折衝が中心の仕事は伸びない。伸びない人が使っていないわけではない
  • 慣れた人ほど回数が少ない。指示の出し方が的確なら1往復で終わる。手探りの人は5往復も10往復もする。回数で並べると、うまい人が下に来る
  • 1回の重さがそろっていない。30分かけて資料を1本作らせた1回と、言い回しを1語だけ試した1回が、同じ1回として数えられる
  • 数えると振る舞いが変わる。回数が評価に効くと分かった時点で、要らない問い合わせが増える。記録だけが増えて、仕事は増えない

4つめが特に厄介です。評価に結びついた指標は、その指標を満たす行動を誘発し、指標としての意味を失います。AIの利用に限った現象ではありませんが、利用ログは記録が自動で貯まるぶん、数字を作る行動が起きていても気づけません。回数が2倍になった部署が、本当に2倍活用しているのか、回数を稼いでいるのかは、回数そのものからは区別できません。

では何を見るのか。見るなら個人ではなく業務の単位です。たとえば見積書の下書きにかかる時間が導入の前後でどう変わったか、という見方であれば、個人の働きぶりではなく業務の型の話になり、評価と結びつきません。差が出ているのは人ではなく業務の型のほうだった、という結論になることも珍しくありません。

背景にある事情も見ておきます。帝国データバンクが2026年3月17日から31日にかけて実施した調査(有効回答1万312社)では、生成AIを活用していると答えた企業は34.5%、悪影響として「使いこなし格差の拡大」を挙げた企業は18.8%、大企業に限ると23.6%でした。格差が見えてくると、誰が使えていないのかを個人の単位で知りたくなります。格差を把握するという目的は正当でも、個人の回数という手段がその目的に合っていないのが、この話のねじれです。

回数を評価に持ち込んだ職場で、実際に何が起きるか

起きることは3つに整理できます。要らない利用が増えること、相談が表から消えること、そして記録そのものが信用できなくなることです。3つは順番につながっていて、最後には最初に取っていた目的まで壊れます。

いちばん損が大きいのは2つめです。評価に使われると分かった時点で、判断に迷う相談や、書きかけの下手な文章は、会社の管理下にあるAIには入らなくなります。行き先は個人の端末や、会社が把握していない無料のサービスです。管理外に移るので、情報が外に出る危険はむしろ上がります。監視を強めたことで、監視できない領域が増えるという逆転が起きます。

3つめは数字の問題です。回数が行動によって作られたものになると、その数字は契約数を決める根拠にも使えなくなります。評価に一度使うと、費用の判断にも使えなくなるという二重の損です。安全のために取っていた記録の精度が落ちる、という言い方をすると分かりやすいかもしれません。評価への利用と安全管理は、同じ記録の上では両立しません。

現場の受け止め方も具体で見ておきます。見られていると感じた人が最初にするのは、使い方を工夫することではなく、目立たない使い方を選ぶことです。質問の文面を当たり障りのないものにする、うまくいかなかった試行を途中でやめる、といった動きが出ます。本来なら改善の材料になるはずの、失敗した使い方の記録から先に消えていきます

見てよい範囲を4段に分ける。2値では線が引けない

見る・見ないの2択で決めようとすると、どちらにも倒せずに止まります。実務では4つの段に分けて、段ごとに開く条件を変えます。段が変わると、見えるものも、使ってよい用途も、必要な手続きも変わります。

見えるもの使ってよい用途開くときの条件
部門・全社の合計部門ごとの利用量と費用契約数の見直し、費用の割り当て、全社の状況把握担当者が随時。申請は不要
業務・用途ごとの傾向どの業務でよく使われているか手順書の更新、教える順番の優先づけ随時。ただし単位が小さいと個人が見える
個人ごとの計数誰が何回、いつ使ったか使われていない席の整理、規程違反の疑いの確認目的を書いた申請と、管理責任者の承認
個人の入力内容入力した文章、添付した資料情報が外に出た疑いの調査、重大な規程違反の調査目的と範囲を限定した申請、2名以上での閲覧、記録の保存

注意が要るのは2段目です。3人の課であれば、業務ごとの傾向はほとんど個人の傾向と同じになります。集計の単位が小さいと、合計のつもりでも個人が見えるということです。実務では、5人未満の単位では出さずに上位の部署にまとめる、といった下限を先に決めておきます。決めていないと、合計だから問題ないという理屈で個人が特定できる表が出回ります。

3段目は、誰が何回という数字だけでも、並べれば順位になります。順位は評価の材料に見えます。だから3段目は、目的を書いた申請を通してから開きます。3か月まったく使っていない人の席を外す、という整理は正当な目的ですが、その結果を評価や面談の場に持ち出さないことを、同時に決めておきます。目的が正当でも、出口を決めていなければ流用されます。

4段目は原則として開きません。開くのは、情報が外に出た疑いや重大な規程違反の調査に限ります。そして開く前に範囲を絞ります。期間、業務、対象者の3つを先に決めてから開くのであって、全部を開いてから探すのではありません。探す対象を決めずに開くと、調査の過程で関係のない記録まで読むことになります

評価と結びつくかどうかは、単位ではなく用途で決まる

段で区切っても、まだ足りません。同じ個人の計数でも、契約数の見直しに使うのと、面談の資料に載せるのとでは、意味がまったく違うからです。段の次は、用途の側でもう一段の判定をかけます。使うのは3つの問いです。

  • その使い方は、本人の不利益(評価、処遇、配置、指導)につながりうるか
  • 本人は、そういう使い方があることを事前に知らされているか
  • その使い方は、記録を取ったときに示した目的の範囲に入っているか

1つめが「はい」で、2つめか3つめが「いいえ」なら、その使い方は線を越えています。逆に3つとも満たしていれば、個人の単位を見ること自体が直ちに問題になるわけではありません。たとえば、規程で禁じた種類の情報を入力した疑いがある場合の確認は、本人の不利益につながりうる行為ですが、事前に周知されていて、記録を取った目的の範囲にも入っています。個人を見るかどうかではなく、3つがそろっているかで判定します

実務でよく崩れるのは3つめです。目的の欄に「安全管理のため」とだけ書いておくと、後からほとんどの用途がその中に読めてしまいます。目的は、後から広く読める言葉で書かない。「安全管理のため」ではなく「情報が外部に出た疑いが生じたときの調査のため」と、発動する条件まで含めて書きます。条件が書いてあれば、条件に当てはまらない依頼を断る根拠になります。

もう1つ、現場から必ず出てくるのが、上司が自分の部下の分だけを見たい、という要望です。これは1つめの問いが確実に「はい」になります。上司には個別の閲覧の権限を渡さないのが基本です。見るのは管理部門で、上司に返すのは部門の合計までにとどめます。部下の数字を上司が随時見られる状態は、規程に何を書いていても、実態としては評価への利用と区別がつきません。

法令と公的な指針で、確かめられること

ここでは、公表されている資料で確認できる範囲だけを書きます。自社の就業規則や労使協定にどう落とすかは、労働法の専門家に確認してください。扱いは業種や雇用の形態によっても変わるため、一般論をそのまま当てはめると外れます。

まず、個人情報保護委員会が公開しているよくある質問には、個人データを取り扱う従業者を対象としたモニタリングを実施する場合の留意点として、次の4つが挙げられています。映像による監視とオンラインによる監視の両方を想定した記載です。

  1. モニタリングの目的をあらかじめ特定したうえで、社内規程等に定め、従業者に明示すること
  2. 実施に関する責任者と、その権限を定めること
  3. 実施に関するルールをあらかじめ策定し、その内容を運用する者に周知徹底すること
  4. 定めたルールに従って適正に行われているかを確認すること

この4つは、そのまま社内の作業に変換できます。目的を書く、責任者の役割名を決める、手順を文書にする、確認する周期を決める。4つのうち1つでも欠けると、残りの3つも実態としては機能しません。責任者を決めずに手順だけ作ると、手順を守らせる人がいなくなるからです。

次に法律です。2020年6月12日に公布され、2022年4月1日に全面施行された改正個人情報保護法では、改正の柱の1つとして「不適正利用の禁止」が置かれました。違法または不当な行為を助長し、あるいは誘発するおそれのある方法で個人情報を利用してはならない、という趣旨の定めです。利用ログの扱いも、この枠の中にあります。同じ改正では、利用停止などの請求ができる場面の広がりや、情報が漏れたときの報告と本人への通知も柱として挙げられています。

裁判例も1つ。従業員の電子メールの監視が争われた東京地方裁判所の2002年2月26日の判決では、調査の必要性を欠く場合や、調査のやり方が社会的に許される限度を超える場合には違法となることがある、という判断が示されたとされています。弁護士による解説記事で紹介されているもので、判決文そのものは確認していません。ただ、必要性と、やり方の程度の2つで見るという枠組みは、利用ログの閲覧を設計するときにもそのまま使えます。

  • ここに挙げたのは、公表資料から確認できた範囲です。条文の番号や細かい解釈には踏み込んでいません
  • 海外に拠点や従業員がいる場合は、その国の規制が別に働きます。日本での整理をそのまま当てはめないでください

個人情報としての扱いと、労務上の扱いは別の物差し

この論点でいちばん混同されるのが、この2つです。個人情報の側の物差しは、情報の取り扱い方を縛ります。目的を特定したか、目的の範囲で使っているか、安全に管理しているか。労務の側の物差しは、労働契約に基づいて、どこまで指揮命令や調査ができるかを縛ります。見ているものが違うので、片方を満たしても、もう片方で問題になります。

具体的にはこうなります。利用目的を明示し、社内規程に書き、責任者も置いた。情報の扱いとしては整っています。それでも、特定の個人だけを理由なく継続的に見続ければ、労務の側では必要性のない調査として問題になりえます。逆に、就業規則に閲覧の根拠があっても、取った記録を当初の目的と関係のない用途に流用すれば、情報の扱いの側で問題になります。

だから実務では、文書を2つに分けます。記録の取り扱いを定める規程と、就業規則側の根拠の規定は、別々に用意する。1つの文書で兼ねようとすると、どちらの要件も中途半端になり、どちらから見ても足りない文書ができます。先に作るのは就業規則側の根拠です。根拠が無いまま運用の規程だけを作っても、実施の土台がありません。

決める場に呼ぶ人も違います。情報の扱いは情報システムと法務、労務の扱いは人事と、労働組合または従業員の過半数を代表する人です。片方だけで決めて、後から差し戻されるというのがよくある手戻りで、しかも差し戻しは規程がほぼ完成した段階で起きます。最初の1回だけは、両方を同じ机に呼びます。以降の細部は分かれて進めてかまいません。

働く人に先に伝える5項目と、書く場所

事前の周知は、形式だけ整えても効きません。読んだ人が、自分の何がどこまで見られるのかを具体的に思い浮かべられる書き方になっているかどうかで決まります。伝える内容は次の5つです。

  • 何を記録するか(3つの層のどこまでが残るのか、どの操作が記録されるのか)
  • 何に使うか(費用の把握、事故の調査、規程違反の確認など、用途を具体名で)
  • 何には使わないか(人事評価、処遇、配置の判断に使わないなら、そう書く)
  • 誰が見られるか(部署名と役割名で。個人名ではなく役割名で書く)
  • どこに問い合わせればよいか、個人の記録を開いたとき本人に知らされるのか

書く場所は3か所に分けます。就業規則または付属の規程に根拠を置き、AIの利用規程に具体的な内容を書き、実際の利用を始める画面でも短く示します。分ける理由は改定の重さです。就業規則の改定には手続きが要り、そう頻繁には変えられません。一方、記録される項目は製品の更新で変わります。重い文書には根拠だけを置き、軽い文書に具体を書くと、実態とのずれが小さくなります。

書き方の落とし穴は、「必要に応じて閲覧することがあります」の一文で済ませてしまう形です。これは何も伝えていないのと同じで、しかも後からどんな用途にも読めてしまいます。必要に応じて、ではなく、どういうときに、と書きます。発動する条件を書いた文章は、現場の不安を下げると同時に、目的外の依頼を断る根拠にもなります。

周知したという事実も記録に残します。いつ、どの文書で、誰に伝えたか。後から「聞いていない」となったときに確かめられる形にしておきます。あわせて、新しく入った人への周知の手順も決めておきます。入社時の説明に1項目足すだけですが、これを決めていないと、1年後には周知されていない人のほうが多い部署が出てきます

「何には使わないか」を書けるかどうかが分かれ目

5項目のうち3つめが、いちばん難しく、いちばん効きます。人事評価には使いません、と書くには、書く前に経営の側が合意している必要があるからです。ここを避けて周知の文書を作ると、他の4項目をどれだけ丁寧に書いても、現場の受け止めは変わりません。

書けた場合の効果ははっきりしています。現場が表で使い始めます。うまくいかなかった試行も記録に残ります。記録の精度が上がるので、本来の目的である安全の確認と費用の把握にも効きます。使わないと約束できた範囲の分だけ、記録が正直になるという関係です。

書けない場合は、書けないまま正直に書くほうが安全です。評価そのものには使わないが、規程違反の調査には使う。業務上あきらかに不自然な利用があった場合には、管理部門が確認する。こうした条件つきの書き方なら、実態と食い違いません。曖昧に書いた約束は、破られたときにだけ思い出されます

  • 個人ごとの利用回数は、契約数の見直しと使われていない席の整理にだけ使います。評価や面談の資料には使いません
  • 入力した内容は、情報が外部に出た疑いが生じた場合と、規程で禁じた情報を扱った疑いがある場合に限り、管理部門の2名以上で確認します
  • 確認を行ったときは、対象となった方に事後にお知らせします。お知らせしない場合の条件は規程に定め、判断する役職を決めています

例外を書くときの注意も1つ。例外の条件は、書いた人が読んで分かるのではなく、読んだ現場が自分に当てはまるかを判断できる粒度で書きます。「不自然な利用」では判断できません。「業務時間外に、通常の10倍を超える回数の利用が続いた場合」のように、数え方まで書けるなら書きます。数え方を書けない条件は、運用でも判定できません

個人の記録を開くときの手続きを、6工程で決める

線を決めても、開くときの手続きが無ければ、線は守られません。手続きは重すぎても軽すぎても壊れます。重いと緊急時に無視され、軽いと日常的に開かれます。実務で回っている形は、おおむね次の6工程です。

STEP1
申請する

何のために、誰の、どの期間の、どの層を見るのかを書きます。目的の欄に「念のため」と書けない様式にしておくのが要点です。自由記述ではなく、規程に定めた発動条件から選ぶ形にします。

STEP2
承認する

承認するのは申請者の上司ではなく、記録の管理責任者です。人事部門が申請する場合は法務が承認するというように、申請する部門と承認する部門を分けます。

STEP3
範囲を絞ってから開く

期間、対象者、層の3つを絞ってから開きます。全件を開いてから絞るのではありません。絞り込みの条件は申請書に書いた内容と一致させます。

STEP4
2名以上で開く

1人では開きません。開いた内容をその場から持ち出さない、他の用途の話題に使わない、という2点も手順に書いておきます。

STEP5
開いた記録を残す

誰がいつ何を開いたかを、閲覧の記録として残します。この閲覧の記録自体も、同じ規程で保護と保存の対象にします。

STEP6
本人への扱いを決める

原則は事後に通知します。通知しない場合の条件と、それを判断する役職を先に決めておきます。案件ごとにその場で判断すると、通知しない側に寄ります。

2つめの、申請する部門と承認する部門を分ける点が実務の要です。同じ部門の中で申請から承認まで完結すると、手続きは3か月ほどで形だけになります。判子の欄が増えただけの様式は、判定の機能を持ちません。却下されることがありうる相手が承認する形にして初めて、様式が判定として働きます。

5つめの閲覧の記録は、監査のためだけのものではありません。見た記録が残ると分かっていること自体が、不要な閲覧を減らします。半年に一度、開いた件数とその目的の内訳を見直す前提にしておくと、記録を残す意味が現場にも伝わります。

緊急時の経路も1本だけ用意します。情報が外に出た疑いの初動では、承認を待てない場面があります。だから、先に開いて後から申請を出す経路を認めます。ただし発動できる役職を限定し、発動したこと自体を必ず記録に残します。この経路を用意しないと、緊急時に手続きが丸ごと無視され、その後も戻りません。1度無視された手続きは、2度目からは無いものとして扱われます。

保存期間を決めていない記録は、いつか別の用途に使われる

線を引いても、記録が残り続ける限り、使い道の提案は来続けます。半年後に人が変わり、1年後に新しい役員が来れば、また同じ提案が出ます。期間を決めて実際に消えるようにすることが、決めた線を守る最後の仕組みになります。

期間は層ごとに分けます。部門ごとの月次の集計値は長く持ってかまいません。契約数の判断には、少なくとも過去1年から2年分の推移が要るからです。個人ごとの計数は短く。入力の中身はもっとも短く。決め方は目的から逆算します。事故の追跡に必要な期間は、自社で実際に事故の疑いが浮かんでから調査に着手するまでの日数から決めます。一般論の日数を借りると、長すぎる側に倒れます。

消し方も同時に決めます。自動で消えるのか、誰かが手で消すのか。手で消す運用は、必ずどこかで止まります。期間を決めたら、消える仕組みまで作る。製品側の設定で消えるなら、その設定を変更できる人を限ります。変更できる人が多いと、保存期間は事実上存在しないのと同じになります。

書き出した先も規程の対象に入れます。管理画面から表計算のファイルに落とした瞬間、その記録は保存期間の管理から外れます。個人の共有フォルダに置かれたまま3年残る、という形がいちばん多い抜けです。書き出せる人を限り、書き出したファイルの置き場所と消す期限も同じ規程に書きます

  • 退職した人の記録の扱いも決めておきます。在籍中の規程だけでは足りず、退職を機に自動で消える設計になっていないことがほとんどです
  • 閲覧の記録そのものにも保存期間が要ります。ここだけ無期限にすると、確認の目的を超えて個人の記録が残り続けます

AIに渡してよい作業と、人が決めることを作業名で分ける

最終的には人が判断する、という一文は運用に落ちません。落とすには、作業の名前で分けます。数える・並べる・下書きするまでがAI、誰かの不利益につながる決めごとは人。この線で仕分けると、迷う場面が減ります。

作業AIに渡すか理由
月ごとの利用量を部門別に集計する渡せる数える作業。結果は元の数字と突き合わせて確かめられる
いつもと違う動きの候補を洗い出す渡せる候補を出すところまでは機械にできる。疑いに変わるかは人が見る
報告書や説明資料の下書きを作る渡せる文章の整形。数字の出どころを必ず添えさせる
利用規程の改定案の文案を作る渡せる出てくるのは案。採否と条文の確定は人が行う
個人の記録を開くかどうかを決める渡さない本人の不利益に直結する。発動の条件に当てはまるかの判断
利用状況を評価や処遇に結びつける渡さない人が行う場合でも慎重を要する判断。自動化すると止める人がいなくなる
異常と判定して本人に確認しに行く渡さない相手のある行為。前提が誤っていたときに取り消せない

上の4行にも条件が付きます。どの記録のどの範囲を見たのかを、必ず出力に添えさせることです。根拠が付いていなければ、確かめるために元の記録を全部開くことになり、開かなくてよかった範囲まで読むことになります。AIを使ったせいで閲覧の範囲が広がる、という本末転倒が起きます。

洗い出しを任せるときの落とし穴は、しきい値の根拠です。1日に100回を超える利用は異常、といった線をAIが出してきますが、その数字は一般論から来ていて、自社の実態から来ていません。線は自社の過去3か月の分布から人が決めます。AIに渡すのは、決めた線で該当するものを拾う作業までです。

もう1つ、渡すデータの側も絞ります。集計や洗い出しを依頼するときは、氏名や社員番号を伏せた形で渡し、誰かを特定する必要が出た段階で人が名寄せします。作業の順番を決めておくだけで、外に出る範囲が小さくなります。AIに渡すかどうかの前に、何を渡さずに済むかを決めます

決めた線が形骸化する4つの条件と、その防ぎ方

決めた直後は、たいてい守られます。崩れるのは半年から1年後です。崩れ方には型があり、4つに絞れます。どれも人の怠慢ではなく、仕組みの側に抜けがある形です。

  • 担当が変わる。決めた経緯を知らない人が引き継ぐと、規程の文字だけが残り、なぜその線なのかが失われる。次の依頼に反論できなくなる
  • 目的外の依頼が来る。あの部署の個人別の数字を出してほしい、と上位者から言われる。断る根拠が個人の記憶にしかないと、1回だけ通る。1回通ると前例になる
  • 保存期間が決まっていない。記録が残り続けるので、使い道の提案が何度でも戻ってくる
  • 取れる項目が勝手に増える。製品の更新で新しい記録項目が加わり、誰も決めていないのに見える範囲だけが広がっている

防ぎ方はそれぞれ1行で足ります。決めた理由を規程の本文に1行だけ残す。依頼は口頭で受けず、文書で受けて管理責任者が可否を判断し、結果を記録する。期間は文書ではなく製品の設定に落とす。更新のたびに取得できる項目の差分を確認する担当を決める。4つとも、決めるのは1時間、効くのは1年後です

2つめの、断る経路を先に決めておく点が実務では最も効きます。依頼を受けた担当者個人が断るのは、相手が上位者だと現実には難しいからです。断るのは人ではなく、決めておいた手続きという形にしておきます。文書で受ける様式があり、判断する役割が決まっていれば、断ることが個人の抵抗ではなくなります。

見直しは半年ごとに、次の4つの数字だけを見ます。件数の多い少ないを競うためではなく、決めた条件から外れていないかを確かめるためです。

  • 個人の単位で記録を開いた件数と、その目的の内訳
  • 申請のうち却下された件数(ゼロなら、様式が判定として働いていない)
  • 周知の文書を読んだ人の割合と、新しく入った人への周知の実施率
  • 保存期間を超えて残っている記録があるかどうか

読み方も先に決めておきます。開いた件数はゼロを目標にしません。ゼロは、必要な調査もできていないか、手続きを通さずに見ているかのどちらかです。見たいのは件数の少なさではなく、目的の内訳が決めた条件に収まっているかです。却下がゼロなら、様式が形だけになっている可能性を疑います。

よくある質問

利用回数を評価に使わないと決めたら、使っていない人を放置することになりませんか

放置にはなりません。見る単位を個人から業務に移すだけです。どの業務で使われていないかが分かれば、手順書や型の側を直せます。個人に働きかける必要が出た場合も、渡す先は上司ではなく推進の担当にし、渡す内容はこの業務で使われていない、というところまでにとどめます。個人の回数そのものを上司に返した時点で、評価に使わないという約束は実質的に崩れます。

本人の同意を取れば、入力した内容まで見てよいことになりますか

同意があれば何でもよい、とはなりません。雇用の関係では、断りにくい立場で取られた同意は同意として弱く見られる、という考え方があります。同意に頼るより、目的と発動の条件を先に定めて周知する形のほうが安定します。同意を取る場合も、拒んだ人が不利にならない扱いを同時に決めます。拒否が不利になるなら、それは同意ではありません。

部門ごとの合計だけなら、誰の承認もなく見てよいですか

原則として、自由に見てよい範囲です。ただし単位が小さいと個人が見えてしまいます。5人未満の部署は上位の単位にまとめて表示する、といった下限を先に決めておきます。下限を決めずに部門別の表を配ると、小さな部署だけが実質的に個人の記録として扱われます。

退職した人の記録は、どう扱えばよいですか

在籍中と同じ規程の対象です。多くの製品では、退職の処理をしても記録が自動では消えません。消す時期と、消す前に開いてよい条件を決めておきます。退職者の記録は、在籍者の記録より安易に開かれやすい、という点にも注意が要ります。開く条件は在籍者と同じ基準にそろえます

利用ログの分析を、外部のAIのサービスに任せてもよいですか

委託の形になるので、委託先を管理する責任が自社に残ります。順番としては、個人が特定できる項目を外す、分析の範囲と再利用の可否を契約で限る、記録の保存と消去の条件を確認する、という順に詰めます。ここは法務と情報システムの両方の確認が要る領域なので、担当者の判断だけで進めないほうが安全です。

まとめ

生成AIを配れば、利用ログは必ず貯まります。取ること自体は、費用の把握、情報が外に出た日の追跡、規程違反の確認のために必要です。だから論点は取得の可否ではなく、取った記録をどの単位で開き、何に使ってよいかという用途の側にあります。ログは計数、文脈、入力の中身という3つの層に分かれ、見てよい範囲は部門の合計、業務の傾向、個人の計数、個人の入力内容という4つの段に分かれます。段で区切ったうえで、本人の不利益につながるか、事前に知らされているか、取得したときの目的の範囲かという3つの問いで、用途の側からもう一度判定します。使った回数が多い人ほど成果を出している、という関係は成り立ちません。回数を評価に持ち込むと、回数を稼ぐ振る舞いが増え、機微な相談は会社の管理外に移り、安全のために取っていた記録の精度まで落ちます。

先に決めるのは4つです。何を記録するか、何には使わないか、誰の承認で個人の記録を開くか、いつ消すか。周知では、記録する範囲、使う用途、使わない用途、見られる役割、問い合わせ先の5つを伝え、就業規則には根拠を、利用規程には具体を書きます。開くときは、申請、承認、範囲の限定、2名以上での閲覧、記録、本人への通知の6工程を通します。集計や候補の洗い出し、報告書の下書きはAIに渡せますが、個人の記録を開くかどうかの決めと、利用状況を評価に結びつける判断は人が持ちます。決めた線は半年で形だけになるので、開いた件数ではなく目的の内訳を見て、断る経路を手続きとして残しておいてください。見てよい範囲を先に決めておくことは、働く人を守る仕組みであると同時に、記録を本来の目的に使い続けるための仕組みでもあります。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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