決裁者との面談を組み立てる5工程|準備をAIで整える

決裁者との面談を組み立てる5工程|準備をAIで整える

「先方の役員に30分もらえたのですが、何を持っていけばよいか分からず、結局いつもの提案資料を短くして持ち込みました」「その場の反応は悪くなかったのに、そのあとが何も動きません」。——決裁者との面談の話を聞くと、この2つはほぼ必ず並んで出てきます。手応えはあった、けれど進まない。多くの人が、決裁者との面談を「担当者との商談を、偉い人向けに短くしたもの」だと考えています。そうではありません。本当は、決裁者がその30分で出している答えは「買うかどうか」ではなく「社内で進めてよい案件かどうか」です。買うかどうかは、そのあとに別の人たちが何週間もかけて決めます。この記事では、30分に何を持ち込み、何を聞き、何を持ち帰らないのかを5つの工程に分け、準備のどこまでを生成AIに任せられるのかを整理します。


カメ先生カメ先生

決裁者との面談は、担当者との商談を短くまとめたものだと思われがちですが、扱っている問いそのものが違います。決裁者がその場で答えを出すのは、買うかどうかの手前にある「この話を社内で進めてよいか」という問いです。


カメ子カメ子

買うかどうかを決める人が、買うかどうかを決めないということですか。


カメ先生カメ先生

決めないというより、その場では決めきれないのです。金額の大きい買い物には何人もの関与者がいて、稟議の過程で何度も差し戻されます。決裁者はそこまで見えているので、30分で確かめているのは、これが社内で回る形になっているかどうかになります。


カメ子カメ子

製品の説明を厚くすることと、社内で回る形にすることは、何が違うのでしょうか。


この記事のポイント
  • 決裁者の30分で決まるのは「買うか」ではなく「社内で進めてよい案件か」。成果は場の空気ではなく、相手の社内で回せる材料が残ったかで測る
  • 準備は5工程。会う目的を1つに絞る、相手の言葉を先に集める、論点を3つに畳む、持ち込む紙を1枚にする、終わり方を先に決める
  • AIに任せるのは公開情報の収集と要約、論点の候補出し、想定問答の下書きまで。どの論点を落とすか、価格や条件の言い方、断られたあとの引き際は人が決める

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目次

会えたら決まる、という誤解が空振りを生む

決裁者に会うところまでは、どの会社もよく設計されています。紹介をたどる、催しに呼ぶ、書面を送る。そこまでは手順が言語化されていることも多い。ところが、会えたあとの30分を同じ密度で設計している会社は多くありません。会えたこと自体が成果に見えてしまうため、その時点で一度緊張が解けるからです。面談の直後に「感触は悪くなかった」という報告だけが上がり、そのまま止まる案件は、たいていこの緩みから生まれます。

空振りの中身はどこでも似ています。担当者向けの提案資料を短くまとめ直し、機能の説明を圧縮して持ち込む。相手は丁寧に聞いてくれますし、質問も出ます。しかし相手の頭の中では、その30分は製品の良し悪しを測る時間ではありません。目の前の会社が自社の懸案に手を出す相手としてふさわしいかを見る時間です。測っている物差しが違うので、製品の説明をどれだけ上手にしても目盛りが動きません。

決裁者がその場で出している答えは、買うかどうかの手前にある「この話を社内で進めてよいか」という問いへの答えです。進めてよいと判断されれば、社内の誰かに検討が渡り、そこから比較や見積りや稟議が始まります。進めなくてよいと判断されれば、丁寧な礼のあとで何も起きません。この分岐は面談の場で決まりますが、決まった内容がその場で言葉になることはまずありません。

だから面談の成果は、終わったあとに相手の社内で回せる材料が残ったかどうかで測ります。相手が部下にそのまま転送できる1枚があるか。相手が自分の言葉で説明できる短い理由があるか。次に誰と話せばよいかが決まっているか。この3つが残っていなければ、どれだけ和やかに終わっても空振りです。逆に、場が固くても3つが残っていれば案件は動きます。

担当者との商談と違う4つの点

違いは4つに整理できます。時間の短さ、質問の抽象度、その場で決まることの中身、そして同席者の構成です。この4つは互いに絡んでいて、1つだけ対策しても効きません。たとえば時間の短さだけを見て資料を減らしても、質問の抽象度に答えられなければ、余った時間が沈黙になるだけです。

見る点担当者との商談決裁者との面談
時間60分前後。次回に続けられる30分。次回がある保証はない
質問機能・条件・運用の具体自社のどの課題に効くのか、という抽象
その場で決まること検討を進めるか、条件を詰めるか社内で進めてよい案件かどうか
同席者実務の担当者が中心決裁者と、あとで実務を負う人
成果物議事録と次回の宿題相手が社内に回せる1枚と、次に会う相手

時間の短さから見ます。30分と言われた面談の実質は20分強です。入室と挨拶で3分、相手の予定が押していれば開始が5分遅れ、終わりは次の予定に合わせて切られます。最初の3分で今日の主題を言い切れないと、本題に入る前に半分が過ぎます。資料を順に説明していく組み立ては、この時間では最後まで到達しません。

次に質問です。決裁者からは「それで、うちのどこが変わるのか」「先にやるべきことは他にないのか」といった問いが来ます。質問の抽象度が一段上がるので、機能の一覧では答えになりません。答えの形は「御社が公表しているこの方針のこの部分に対して、この範囲が変わり、この範囲は変わりません」という限定つきの言い方になります。

最後に同席者です。決裁者は多くの場合1人では出てきません。あとで実務を負う部門の人が同席します。面談の相手は2人いると考えたほうが正確で、決裁者に向けた話だけをすると、同席者は自分の仕事が増える話としてだけ受け取ります。同席者が後ろ向きになった案件は、決裁者が前向きでも止まります。

数字で見ると、面談の後ろに何人いるのか

面談の設計を変える理由は、感覚ではなく調査の数字にあります。ハブスポット・ジャパンが2026年6月11日から16日にかけて、従業員50人以上の企業に勤め、直近12か月にBtoB商材の比較・選定・承認・決裁・意思決定のいずれかに関与した1,573名に聞いた調査では、社内の関与者が5人以上だった案件が46.9%、2社以上を比較したのが80.3%、検討に1か月以上かかったのが50.9%でした。決裁者と会っている30分の後ろに、少なくとも数人が控えている計算になります。

金額が大きくなると関与者はさらに増えます。アイデアテックが2026年5月25日から26日に、年間契約金額500万円以上の業務ソフトや情報システム関連の商材の導入などに2名以上で関わった330名に聞いた調査では、意思決定に7名以上が関与した案件が58.5%でした。面談の相手の後ろに、5人から7人が控えているという前提で持ち物を決めると、資料の形が変わります。1人に向けた説明ではなく、転送されて読まれる前提の1枚になります。

その先にあるのが稟議です。ネオマーケティングが2026年8月17日から18日に、直近1年以内にBtoB商材導入の社内稟議に関与した国内BtoB企業の勤務者540名に聞いた調査では、差し戻しの経験がある人が57.2%、稟議が通らずに導入を断念した経験がある人が57.8%でした。半分以上が一度は押し戻されている過程に、面談で渡した材料が乗っていくことになります。

同じ調査では、承認のポイントとして最も多く挙がったのが「明確な費用対効果」で43.7%でした。一方で、ハブスポットの調査で意思決定の課題として最多だったのは「社内で費用対効果を説明しにくい」の21.9%です。求められているものと、用意できていないものが同じ場所にあるという構図です。面談で渡すべきものが何かは、この2つの数字がほぼ言い当てています。

準備を5工程に分ける

準備を思いつく順にやると、いつも資料作りに時間が吸われます。工程に分けるのは、作業を増やすためではなく、時間の配分を先に決めて、資料作りを最後に置くためです。実際には、下の5工程のうち前半3つで全体の7割の時間を使い、資料は残りで作るくらいの配分になります。

STEP1
会う目的を1つに絞る

面談が終わった瞬間に相手の中に残ってほしい一文を決める。2つ目以降の目的は書き出したうえで、この面談では落とすと明記する。

STEP2
相手の言葉を先に集める

決算の説明資料、中期の計画、求人、登壇の記録などの公開情報から、相手が自社の課題を呼んでいる名前を拾う。ここが生成AIの主戦場になる。

STEP3
論点を3つに畳む

集めた材料から、30分で扱える3つに絞る。どれを落とすかの判断は人が行う。落とした理由も1行で残す。

STEP4
持ち込む紙を1枚にする

相手の言葉で書いた現状、効果の幅と前提、次の1歩と期限。この3つだけを1枚に載せる。補足資料は鞄に入れておき、求められたときだけ出す。

STEP5
終わり方を先に決める

面談の最後の3分で何を確かめるかを決めておく。その場で決めてもらう小さな1項目を、あらかじめ用意する。

この5工程は順番に意味があります。目的を決める前に情報を集めると、集めた材料の量に引きずられて論点が増えます。論点を畳む前に資料を作ると、作った資料を捨てられなくなって持ち込み枚数が膨らみます。捨てる判断は、作る前にしか下せません。作ったあとでは、労力が判断を鈍らせます。

所要時間の目安は、初めての相手で合計4時間から6時間です。内訳は、目的の決定に30分、情報の収集と読み込みに2時間から3時間、論点の絞り込みに1時間、1枚の作成に1時間、終わり方の設計に30分。このうち情報の収集と要約の部分が、生成AIで最も短くなる工程です。ただし短くなった時間は、削るのではなく論点の絞り込みに回します。

工程1・会う目的を1つに絞る

最初にやるのは、面談が終わった瞬間に相手の中に残ってほしい一文を決めることです。「この領域なら、この会社に相談してよさそうだ」でもよいし、「うちの来期の課題に、外の手を入れる選択肢があると分かった」でもよい。大事なのは、その一文を相手が自分の言葉として言えるかという基準で書くことです。自社の商品名が入った一文は、相手の言葉にはなりません。

次に、落とす目的を書き出します。見積りの話を出したい、他部門も紹介してほしい、自社の実績を知ってほしい。どれも本音ですが、30分に3つ載せると全部が薄くなります。会う目的は1つに絞り、2つ目からは意識して落とす。落とした目的は消さずに残し、次の接点でどれを扱うかを書いておくと、面談後の設計が楽になります。

目的が絞れているかどうかは、簡単な検算で分かります。面談の終わりに相手が部下に一言だけ伝えるとしたら何になるか、を書いてみる。それが2文以上になるなら、まだ絞れていません。1文で書けないものは、30分では伝わりません。ここで時間をかけておくと、あとの工程で迷いが減ります。

  • 目的を「受注につなげる」と書くのは絞ったことになりません。相手の中に残る一文の形で書きます
  • 同席者が複数いる場合も、残したい一文は1つにします。人ごとに変えると、面談後に社内で話が食い違います

工程2・相手の言葉を先に集める

次が公開情報の読み込みです。使うのは4種類。決算の説明資料、中期の経営計画や統合報告書、求人の募集要項、そして経営層の登壇や取材の記録です。この4つを選ぶ理由は、どれも相手が自分の言葉で書いたものだからです。業界の分析記事や他社の解説は、相手の言葉ではありません。面談で使うと、外から当てはめた話に聞こえます。

読む順番は、中期の計画から入り、直近の決算の説明資料で今どこにいるかを確かめ、求人で実際に人を採ろうとしている領域を見て、最後に登壇の記録で経営層自身の言い回しを拾う、という順です。求人を見るのは、計画の文書には出てこない具体が出るからです。どの職種を何人採っているかは、その会社が今どこに手が足りていないかの直接の表れになります。

ここが生成AIを使う中心です。任せてよいのは、公開資料を読み込ませて要点を抜き出させること、複数の資料にまたがって同じ話題が出てくる箇所を並べさせること、相手が繰り返し使っている言い回しを頻度つきで一覧にさせることです。相手が自社の課題を呼んでいる名前を、そのまま借りるのがこの工程の目的なので、要約を自分の言葉に直させてはいけません。原文の表現のまま抜き出させます。

指示の書き方にも形があります。資料の範囲を先に指定し、抜き出す粒度を決め、出力の形を表で指定する。たとえば「この資料の中で、事業の課題として挙げられている記述を、原文のまま、掲載ページとともに一覧にする」という指示です。原文のままと、どこに書いてあったかの2つを毎回入れると、あとの検算が短くなります。

工程3・論点を3つに畳む

集めた材料は、そのままでは面談に持ち込めません。中期の計画からは10個以上の課題が出てきますし、求人からも複数の領域が見えます。ここで行うのは、その中から30分で扱える3つを選び、残りを落とす作業です。3つという数は、30分の実質20分強で、1つあたり6分から7分という配分から逆算した数字です。

選ぶ基準は3つあります。1つ目は、自社が実際に手を出せる範囲であること。関心はあっても手が出せない領域を挙げると、話が広がったあとで戻せなくなります。2つ目は、相手が公開資料で自ら言及していること。3つ目は、論点は3つまで。30分で扱えるのはそこまでという枠に収まる大きさに切られていることです。大きすぎる論点は、6分では入口の説明で終わります。

落とす判断は人が行います。ここをAIに任せると、資料の中で言及の回数が多いものが上位に来ます。回数の多さは、その会社にとっての重要度とは限りません。決算の説明資料で何度も出てくる言葉は、投資家向けの説明で強調している言葉であって、社内で手を焼いている課題とは別のことがあります。順位づけの根拠が回数である限り、この取り違えは直りません。

落とした論点は、1行の理由とともに残します。「手が出せないので落とす」「相手の言及が1回だけなので落とす」。この記録は面談後に効きます。相手から想定外の論点が出たとき、落としたものの中にあれば、なぜ落としたかを即座に説明できるからです。落とした理由を持っている人は、その場で拾い直せます。

工程4・持ち込む紙を1枚にする

持ち込むのは1枚です。載せるのは3つだけ。相手の言葉で書いた現状、効果の幅と前提、次の1歩と期限。この3つが、面談後に相手の社内を回っていく本体になります。補足の資料は作ってもかまいませんが、鞄に入れておき、求められたときだけ出します。手元にあるものは全部出したくなるので、机の上には1枚だけ置くという形で縛ります。

1つ目の欄は、相手の言葉で書いた現状です。工程2で原文のまま抜き出した表現を使い、出どころを小さく添えます。ここを自社の言い回しに直すと、外から当てはめた説明に見えます。相手が自分で書いた文が目の前の紙に載っているという状態が、話の前提を一致させます。

2つ目が効果です。ここで1つの数字を大きく書くと、面談では通っても稟議で潰れます。効果は1つの数字ではなく、幅と前提で書く。たとえば、作業時間が2割から4割減る、ただし対象は定型の作業に限り、担当者が手順書を維持していることが前提、という形です。ネオマーケティングの調査では、稟議でROI試算を実際に準備していた人は19.3%にとどまる一方、使った人のうち33.7%が「非常に影響した」と答えています。用意している人が少ないからこそ、用意した側に効きます

3つ目が次の1歩と期限です。契約の話ではなく、その手前にある小さな行動を書きます。担当部門との実務の打ち合わせを1回、範囲を確かめるための資料の共有、試す場合の対象部署の候補。アイデアテックの調査では、購買検討の段階で約6割が「ROI計算シミュレーター」や「運用負荷の見積もり情報」を有用と評価した一方、約半数が機能比較表は購買判断に影響しないと答えています。載せる情報の順番は、この評価の差がそのまま答えになります。

持ち込む1枚に載せる3つ
  1. 相手の言葉で書いた現状……公開資料から原文のまま引いた表現と、その出どころ
  2. 効果の幅と前提……単一の数字ではなく、上下の幅と、成り立つための条件を併記する
  3. 次の1歩と期限……契約の手前にある小さな行動と、それをいつまでに行うか

工程5・終わり方を先に決める

面談の終わり方は、その場の流れに任せてはいけません。残り3分で何を確かめるかを、準備の段階で決めておきます。多くの面談は「では持ち帰って検討します」で終わります。これ自体は自然な終わり方ですが、持ち帰りの中身が決まっていないと、そのまま消えます。誰が、何を、いつまでに見るのかが空白のまま終わるからです。

そこで、持ち帰りを負けにしないために、その場で決めてもらう小さな1項目を用意するという組み立てにします。小さな1項目とは、決裁者が即答できて、かつ次の動きが確定するものです。次に話す相手の名前を1人挙げてもらう。実務の打ち合わせの候補日を1つ決めてもらう。資料の送り先を、決裁者本人ではなく担当部門にしてよいか確認する。どれも決裁を必要としない大きさです。

この1項目を用意しておくと、断られたときも情報が残ります。次に話す相手を挙げてもらえなかった場合、それは「社内で動かす気がまだない」という答えです。断りの形にも段階があり、どの段階の断りかが分かると次の判断ができます。手応えの有無という主観ではなく、何が決まって何が決まらなかったかという事実で持ち帰れます。

終わり際の言い方も先に決めておきます。残り3分になったら、今日出た3つの論点を1文ずつで戻し、1枚を置いて帰ることを伝え、小さな1項目を確認する。この順です。論点の戻しを先にするのは、相手の記憶の最後に自分の言葉が残るようにするためです。自社の話で終えると、相手の中に残るのは営業を受けたという印象だけになります。

工程ごとに、AIに任せる範囲と人が決める範囲

生成AIをどこまで使うかは、役職や経験で決めるものではありません。線は役割ではなく作業の名前で引くのが実務的です。同じ人が同じ面談の準備をしていても、作業によって任せてよい範囲は変わります。下の表は、5工程それぞれについて、任せてよい作業と人が決める作業を作業名で分けたものです。

工程AIに任せてよい作業人が決める作業
1 目的を絞る候補となる目的を複数出させる1つを選び、残りを落とす判断
2 言葉を集める公開資料の読み込み、原文のままの抜き出し、出どころの付記どの資料を範囲に入れるか、抜き出しの正しさの確認
3 論点を畳む論点の候補の列挙、重複の統合落とす論点の決定、順番づけ
4 紙を1枚にする文の短縮、表現の言い換えの候補出し効果の幅と前提の確定、価格や条件の言い方
5 終わり方を決める想定問答の下書き、確認事項の一覧化小さな1項目の選定、断られたあとの引き際

表の右側に共通しているのは、取り消しの効かない判断だという点です。落とした論点は面談中に戻せますが、口に出した価格の言い方は戻せません。引き際も同じで、粘るか引くかはその場の1回きりです。この種の判断を下書きの段階でAIに委ねると、判断した人が誰なのか分からないまま面談に入ることになります。

逆に、左側の作業を人が抱え込む必要もありません。公開資料を読んで要点を並べる作業は、丁寧にやるほど時間を食います。短縮した時間を論点の絞り込みに回すのが、この分け方の狙いです。実際、準備で差が出るのは集めた量ではなく、集めたものをどれだけ捨てられたかのほうです。

もう1つ、人が必ず持つものがあります。面談の場で使う言葉の最終確認です。下書きに含まれる表現のうち、自社として言い切れない範囲がないかを、面談の前に声に出して読みます。読んでみて引っかかる文は、たいてい根拠が薄い文です。引っかかった文は、面談前に消します

想定問答をAIに作らせる。そのまま読むと事故になる場面

想定問答の下書きは、生成AIが得意な作業です。論点を3つ渡し、決裁者の立場から出そうな問いを20個ほど挙げさせる。この段階までは任せてかまいません。問題はその先で、答えの側をそのまま持ち込むと事故が起きます。下書きの答えをそのまま読むと事故になる場面は、経験上おおむね5つの型に分かれます。

  • 価格や契約条件を、下書きにあった数字のまま口に出す。社内で承認されていない条件が相手に伝わり、あとから引き下げられなくなる
  • 他社との比較を、下書きの断定のまま話す。裏取りのない優劣の断定は、同席者が実務で知っている事実と食い違うと一気に信用を失う
  • 実績を「多くの企業で」といった量の表現で答える。件数の根拠を聞かれたときに答えられず、他の説明の信頼度まで下がる
  • 相手の社内事情の推測を、確定した話として答える。「御社は体制が足りていないので」という言い方は、当たっていても越権に聞こえる
  • 断られたときの切り返しを、粘る方向の下書きのまま使う。30分の面談での粘りは、次の接点を失わせる

防ぎ方は単純で、下書きの答えを3つに色分けすることです。そのまま使える答え、自社で確認してから使う答え、面談では使わない答え。3つ目を明示的に持つのが要点で、使わないと決めた答えを捨てずに残しておくと、当日その問いが来たときに「今は答えを持っていません」と即答できます。用意していない問いより、答えないと決めた問いのほうが落ち着いて扱えます。

もう1つの使い方として、下書きの問いだけを社内で回すという手があります。同席する予定の技術の担当者や、実務を知る人に問いの一覧だけを見せ、答えを書いてもらう。問いを作る作業と、答えを作る作業を別の人に割ると、自社の願望が混じった答えが減ります。生成AIに問いを作らせる価値は、この分業を成立させやすくするところにもあります。

推測を事実として書かせない。出どころの添えさせ方

公開情報を読ませる工程で最も起きやすい失敗が、推測が事実の顔をして出てくることです。「この会社は人手不足に悩んでいる」という一文が出てきたとき、それが求人の記述から読み取れたことなのか、業界の一般論から推し量ったことなのかは、出力の文面だけでは区別できません。区別できない文を面談で使うと、外れたときに一撃で信用が落ちます

歯止めは、出力の形を先に縛ることです。1行ごとに、記述の内容、出どころの資料名、公表年、その資料のどの部分かの4つを必ず書かせる。4つが埋まらない行は出力させない。出どころのない文は、下書きの段階で捨てるという運用にすると、推測が混じっていても検算の対象になります。

それでも推測を出したいときは、欄を分けます。事実の欄と、そこから考えられることの欄を並べ、後者には必ず「確認していない」と添えさせる。この2欄を混ぜないことが重要で、混ざった時点で全体が推測になります。ハブスポットの調査では、生成AIやAI検索がまとめた情報を信頼できるとした人は37.8%で、挙げられた情報源の中で最下位でした。相手の側にもこの警戒があると考えたほうが正確です。

同じ調査では、AIを使った人のうち48.3%が自分で検証や修正をしてから使い、35.7%が第三者に確認し、そのまま使うと答えたのは24.9%でした。使っている人ほど、そのまま使っていません。準備の側でも同じで、AIが出した1行を面談で口に出す前に、出どころの資料を自分の目で1回開く。この1回を飛ばさない運用にするだけで、事故の大半は消えます。

  • 公開資料の数字を引くときは、いつ時点の数字かを必ず添えます。決算の説明資料は四半期ごとに更新されるため、古い版のまま話すと相手の認識とずれます
  • 登壇や取材の記録は、話し手の個人の見解であることがあります。会社の方針として引用しないほうが安全です

30分の配分。何を話し、何を聞くか

配分は先に決めます。最初の3分、次の7分、中盤の15分、最後の5分という4つに割るのが扱いやすい形です。最初の3分で、今日の30分で何を確かめたいかを言い切る。会社紹介でも製品紹介でもなく、今日の主題です。ここを省くと、相手はこちらの意図が読めないまま話を聞くことになり、質問も出ません。

次の7分で、工程2で集めた相手の言葉を戻します。公開資料から引いた記述を示し、この理解で合っているかを確かめる。ここで訂正が入れば、それが最大の収穫です。訂正された箇所こそ、外からは見えない本当の課題だからです。合っていると言われた場合も、どの部分が一番重いのかを1つだけ聞きます。

中盤の15分が本体です。3つの論点を順に置き、それぞれについて自社ができる範囲とできない範囲を示します。できない範囲を先に言うのが効きます。できないことを先に言う相手のほうが、できると言った話も信じてもらえます。ここで相手が具体的な運用の話を始めたら、論点が当たった合図なので、残りの論点を捨ててそこを深めます。

最後の5分で、聞くことを3つ聞きます。この話を社内で進めるとしたら最初に相談する相手は誰か、進めるうえで一番の障害は何か、判断のためにあと何が要るか。この3つは、いずれも相手が答えやすく、かつ次の設計に直結する問いです。予算や決裁の時期を直接聞くより、はるかに多くのことが分かります。

面談後の記録と、誰に何を渡すと次が動くか

面談が終わったら、当日中に記録を作ります。翌日でも遅いのは、相手が使った言い回しが半日で薄れるからです。記録に残すのは、相手が使った言葉そのものです。要約した言葉に置き換えると、次の資料を作るときに自社の言い回しに戻ってしまい、せっかく合った前提がまたずれます。

書く欄は4つで足ります。相手が使った言葉、その場で出た反対や懸念、決まった小さな1項目、答えられなかった問い。4つ目を必ず立てるのが要点です。答えられなかった問いは、次の接点の議題そのものになります。ここを空欄のままにする記録は、読み返しても次の動きが出てきません。

録音を文字にして生成AIに要約させる場合は、要約の前に発言者の区別を確定させます。同席者が複数いる面談では、誰の発言かが入れ替わると、反対意見の出どころを取り違えます。また、録音は相手の許可を取ってから行います。許可が取れない場合は、面談直後に自分の記憶から書き起こし、その旨を記録に添えます。

渡す先は2つです。1つは自社の中で、次に動く人。もう1つは相手の社内で、面談後に材料が渡る先です。後者は多くの場合、同席していた実務の担当者になります。決裁者に長い資料を送るより、同席者に1枚を送り、決裁者には短い礼と要点3行という形のほうが、社内で回り始めます。なお、これは自社の経営層に向けた報告とは別の話で、書き方の作法も分けて考えたほうが混乱しません。

やってしまいがちな準備

最後に、準備の段階で起きる典型を挙げます。どれも熱心さから出るもので、手を抜いた結果ではありません。むしろ準備に時間をかけた人ほど陥りやすいところに、この問題の厄介さがあります。

  • 製品の説明を厚くする。30分のうち製品の話に15分を使うと、相手の話を聞く時間がなくなり、次の設計に使える情報が何も残らない
  • 資料を10枚以上持ち込む。ネオマーケティングの調査では、営業資料が役立たなかったという回答が40.2%ある。枚数は説得力に変換されない
  • 同席者を増やしすぎる。自社から3人以上で行くと、相手は話しにくくなり、率直な懸念が出てこない
  • 質問を用意しすぎる。20個の問いを持ち込むと、面談が聞き取りの場になり、相手の時間を使っただけで終わる
  • その場で値引きの話を始める。条件の話は、進めてよい案件かの判断が済んだあとの工程で、別の人が扱う

枚数の問題は数字で裏が取れています。ネオマーケティングの調査では、稟議書の平均記載項目数は4.35項目、添えた根拠データは平均2.91種類でした。社内で回る文書のほうが、こちらの提案資料よりずっと短いのです。10枚の資料は、4項目に圧縮される過程でほとんどが捨てられます。捨てられる前提で作るなら、最初から圧縮した形で渡すほうが、誰が捨てるかをこちらで決められます。

同じ調査で、最も説得力があった根拠として挙がったのは、営業担当者からの提案書が14.6%、自社の売上や実績のデータが14.1%、他社の導入事例が9.3%、ROI試算が8.5%でした。どれも突出していません。つまり1種類で決まる根拠はなく、相手が自社のデータと並べられる形になっているかが効いています。1枚に効果の前提を書くのは、相手が自社の数字を当てはめられるようにするためでもあります。

よくある質問

面談の場で価格を聞かれたら、どこまで答えてよいですか

幅と、幅が動く条件までです。金額の範囲と、その範囲が上下する要因を2つか3つ挙げ、確定した数字は持ち帰ります。ここで具体的な1つの数字を出すと、相手の社内ではその数字が基準になり、あとから上げられなくなります。幅で答えることは、はぐらかしではなく条件の説明です。条件を挙げられれば、価格の話そのものが論点の確認になります。

30分と言われた面談が、10分で終わりそうなときはどうしますか

3つの論点のうち1つに絞り、最後の小さな1項目だけは必ず確認します。短く終わるのは、多くの場合こちらの話が相手の関心から外れているか、相手の予定が押しているかのどちらかです。前者なら残り2つを話しても変わりません。短く終わった事実そのものを記録に残すと、次の接点の設計で使えます。

自社から何人で行くのがよいですか

2人までが扱いやすい形です。話す人と、記録を取りながら実務の質問に答える人の2役です。3人以上になると、相手からは体制を見せに来た印象になり、率直な懸念が出にくくなります。技術の説明が必要な場合も、面談に連れて行くより、次の実務の打ち合わせに出すほうが、面談の主題が保たれます。

公開情報が少ない会社が相手のときは、何を手がかりにしますか

求人と、業界団体への加盟や出展の記録が残りやすい手がかりです。非上場で開示が少なくても、採用の募集要項には職種と人数と業務内容が書かれています。それでも手がかりが足りない場合は、無理に推測で埋めず、面談の最初の7分を聞く時間に振り替えます。調べきれなかったことを正直に伝えて聞くほうが、外れた推測を話すより印象がよくなります。

持ち帰って検討すると言われたら、それは断りですか

断りかどうかは、その一言では判断できません。判断できるのは、小さな1項目が決まったかどうかです。次に話す相手の名前が出たなら進んでいますし、出なかったなら今は進める気がないという答えです。持ち帰りという言葉ではなく、決まった事実の有無で読みます。進まなかった場合も、なぜ今ではないのかを1つだけ聞いておくと、次の時期の見当がつきます。

まとめ

決裁者との面談で決まるのは、買うかどうかではなく、社内で進めてよい案件かどうかです。だから成果は場の空気ではなく、終わったあとに相手の社内で回せる材料が残ったかで測ります。準備は5工程に分けます。会う目的を1つに絞り、公開情報から相手の言葉を原文のまま集め、論点を3つに畳み、持ち込む紙を1枚にし、終わり方を先に決める。前半3つに時間の7割を使い、資料作りは最後に置きます。持ち込む1枚に載せるのは、相手の言葉で書いた現状、効果の幅と前提、次の1歩と期限の3つだけです。効果を単一の数字で書くと面談では通っても稟議で潰れるので、幅と条件で書きます。

生成AIに任せる線は、役割ではなく作業の名前で引きます。公開資料の読み込みと原文のままの抜き出し、論点の候補出し、想定問答の下書き、文の短縮まではAIの担当です。どの論点を落とすか、効果の幅と前提の確定、価格や条件の言い方、断られたあとの引き際は人が決めます。推測を事実として書かせないために、1行ごとに出どころと公表年を添えさせ、埋まらない行は捨てる。面談の前に、その資料を自分の目で1回開く。数字の側も同じ方向を指しています。社内の関与者が5人以上の案件が46.9%、稟議の差し戻しを経験した人が57.2%、AIがまとめた情報への信頼は37.8%で最下位。相手はすでに調べ終えていて、そのうえで確かめる相手を探しています。30分で渡すべきものは、新しい情報ではなく、相手が自社の事情に当てはめられる前提と幅です。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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