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監査法人で、スタッフが作った監査調書を目的・手続・結論のつながりと記載ルールで点検し、主査のレビュー前に直し案を返す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

スタッフが作った監査調書を、主査が査閲する前に点検します。手続の目的・実施内容・結果・結論がつながっているかと、法人の記載ルールに沿っているかを見て、直しの案をスタッフに返します。

サマリー
生成AI
Azure OpenAI Service/Claude/Gemini
連携・自動化
n8n/Power Automate/Python
対象業界
士業
対象部門
経理
対象業務
内容確認・チェック
主な課題
人手が足りない/属人化している/確認ミスが多い
AIで行う処理
校正
主な効果
品質標準化/工数削減/教育コスト削減
導入難易度
★★★★☆
実装レベル
本格構成
費用感
API連携(中)
人間の確認
条件付き
現在工数
120h/月
AI導入後
40h/月
想定削減
67%
年間削減
960h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. スタッフが手続を実施し、調書を作る
  2. スタッフが調書を「査閲待ち」にする
  3. 主査が調書を開き、目的・手続・結果・結論を読み通す
  4. 記載ルールに沿っているか(入手元、ティックマーク、参照番号、例外事項)を見る
  5. 書き方の指摘をレビューノートに書いてスタッフに返す
  6. スタッフが直して、再び「査閲待ち」にする
  7. 主査が直しを確かめ、証拠の十分性と結論の妥当性を判断する
  8. 主査が査閲の記録を残し、業務執行社員の査閲に回す
導入後(After)
  1. スタッフが手続を実施し、調書を作る
  2. 人スタッフが調書を点検用の場所に書き出す
  3. 自動書き出しをきっかけに処理が動き、調書の欄の空き(実施者、完了日、参照番号など)をプログラムが確かめる
  4. 自動Claude API が、目的・手続・結果・結論のつながりを点検する
  5. 自動同じく、法人の記載ルールに沿っているかを点検する
  6. 自動指摘と直しの案を、スタッフに返す
  7. 人スタッフが指摘を読み、直すか、直さない理由を書いて、調書を「査閲待ち」にする
  8. 人主査が、AIの指摘とスタッフの返事を読み、調書を査閲する
  9. 人主査が証拠の十分性と結論の妥当性を判断し、査閲の記録を残す
各工程の詳しい説明を読む
  1. スタッフが手続を実施し、調書を作る
  2. スタッフが調書を「査閲待ち」にする
  3. 主査が調書を開き、目的・手続・結果・結論を読み通す
  4. 記載ルールに沿っているか(入手元、ティックマーク、参照番号、例外事項)を見る
  5. 書き方の指摘をレビューノートに書いてスタッフに返す
  6. スタッフが直して、再び「査閲待ち」にする
  7. 主査が直しを確かめ、証拠の十分性と結論の妥当性を判断する
  8. 主査が査閲の記録を残し、業務執行社員の査閲に回す

(a)主査の時間が書き方の指摘で埋まる。 3番から5番は、証拠の評価に入る前の作業です。主査が本来時間を使うべき7番に、書き方の指摘が終わるまでたどり着けません。 繁忙期には、7番が浅くなります。

(b)指摘が主査によって違う。 ティックマークの凡例を毎回求める主査と、求めない主査がいます。スタッフは、どの主査のチームに入るかで調書の書き方を変えています。 法人の記載ルールが、実際にはそろって運用されていません。

(c)同じ指摘を毎期くり返す。 レビューノートの指摘は、その調書を直したら閉じます。同じスタッフが翌期に同じ書き方をしても、気づくのは翌期の主査です。 指摘が育成に結びついていません。

(d)往復が増える。 5番の指摘に答えて直すと、直した箇所に新しい指摘が付くことがあります。1件の調書が3往復することもあり、その間は結論が固まりません。

  1. スタッフが手続を実施し、調書を作る
  2. 【人】 スタッフが調書を点検用の場所に書き出す
  3. 【自動】 書き出しをきっかけに処理が動き、調書の欄の空き(実施者、完了日、参照番号など)をプログラムが確かめる
  4. 【自動】 Claude API が、目的・手続・結果・結論のつながりを点検する
  5. 【自動】 同じく、法人の記載ルールに沿っているかを点検する
  6. 【自動】 指摘と直しの案を、スタッフに返す
  7. 【人】 スタッフが指摘を読み、直すか、直さない理由を書いて、調書を「査閲待ち」にする
  8. 【人】 主査が、AIの指摘とスタッフの返事を読み、調書を査閲する
  9. 【人】 主査が証拠の十分性と結論の妥当性を判断し、査閲の記録を残す

7番目が、この設計の分かれ目です。 AIの指摘はまずスタッフが読み、自分で直します。主査はAIの指摘を直接受け取りません。 主査の前に1往復が済んでいる状態を作ります。

8番目で、主査はAIの指摘とスタッフの返事も読みます。 「直さない」と書かれた指摘の理由が妥当かを見るためです。AIの点検を通ったことは、主査の査閲を軽くする理由にはしません。 査閲の範囲と責任は変わりません。

02今回想定するシステム構成

構成図
スタッフが作った調書(電子調書のシステム/表計算のファイル)
   │  PDFかテキストに書き出す
   ▼【トリガー】点検用のフォルダへの保存
Python(法人のサーバーで動く)
   ├──▶ 欄の空き・参照番号の存在を規則で確認(AIを使わない)
   ├──▶ ティックマークを凡例に沿って文字に置き換え
   ▼
Claude API ── 構造化出力でJSON
   │   ① 目的と結論の対応
   │   ② 手続の種類・時期・範囲の記載
   │   ③ 対象の識別(サンプルの選び方)
   │   ④ 結果と例外事項の扱い
   │   ⑤ 法人の記載ルールへの適合
   ▼
Python ── 指摘の根拠の文が調書にあるかを照合
   ▼
スタッフへの点検結果(調書と同じ場所)
   ▼
【スタッフが直す → 主査が査閲する】
役割想定する製品代替候補
処理Claude API(調書の点検と直しの案。構造化出力)Azure OpenAI(Microsoft Foundry)、Gemini API
連携Python(書き出しの読み込み、規則の確認、照合、結果の書き出し)Power Automate、n8n
保管法人のファイルサーバー(点検結果、ログ)SharePoint
調書の本体既存の電子調書のシステム各社の電子調書のシステム

電子調書のシステムは、新しく足すものではありません。 この構成は書き出された調書を読んで点検結果を返すだけで、調書の修正はスタッフが電子調書のシステムで行います。 査閲の記録も、今までどおり電子調書のシステムに主査が残します。

点検の基準になるのは、監査基準報告書230です。 第7項は、経験豊富な監査人が、以前に当該監査に関与していなくとも、実施した監査手続の種類・時期・範囲、手続の結果と入手した証拠、重要な事項とその結論を理解できるよう調書を作ることを求めています。第8項は、手続を実施した項目又は対象を識別するための特性、実施者と完了日、査閲者・査閲日・査閲の対象の記録を求めています。 適用指針のA12項には、識別の特性の例として、注文書なら日付と注文番号、系統的抽出なら母集団・開始点・サンプリング間隔、質問なら日付・対象者・役職名が挙げられています。

報告書230は改正が続いています。 2024年9月26日の改正は付録の修正で、2026年8月10日には監査基準報告書240の改正に伴う改正の公開草案が出ています(意見募集は9月10日まで)。点検項目は、法人の品質管理の部署が最新の版に照らして更新します。

AIの側は、Claude API の構造化出力を使います。 output_config.format に type: "json_schema" とスキーマを渡すと、応答がスキーマに沿ったJSONになります。ただし公式の説明では、Amazon Bedrock では構造化出力の対応が旧来の連携と一部のモデルに限られます。 クラウドの契約の都合で Bedrock を使う法人は、使えるモデルと機能を先に確かめます。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

スタッフが調書を点検用のフォルダに書き出したことを起点にします。 電子調書のシステムから外へ通知を出せるかは製品によるため、この構成では書き出しをスタッフの操作にします。法人のサーバーで Python のスクリプトを10分ごとに動かし、新しい書き出しを見つけて処理します。

点検は「査閲待ち」にする前に1回だけ行います。 直したあとにもう一度点検させることもできますが、AIの指摘がゼロになるまで直す運用にすると、AIに合わせた書き方が身につきます。 2回目以降はスタッフが必要と思ったときだけにします。

監査報告書日のあとに行う監査ファイルの最終的な整理の段階では、この点検を動かしません。報告書230は、最終的な整理が完了したあとの調書の修正や追加に、理由と実施者・査閲者などの記録を求めています。整理の段階でAIの指摘に沿って調書を書き換えることは、この構成の対象外です。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
調書目的、対象のアサーション、手続、対象の選び方、結果、例外事項、結論、参照番号電子調書のシステムか表計算のファイルの書き出し
調書の属性調書番号、勘定科目、手続の区分、実施者、完了日電子調書のシステムの書き出し
監査計画の該当部分その勘定科目について識別したリスクと、計画した手続監査計画の調書(該当部分だけ)
法人の記載ルール調書に書くべき事項と書き方の決まり、ティックマークの凡例法人の品質管理の部署が管理する文書
指摘の例主査が過去に付けた書き方の指摘と、直したあとの例法人で集めた文書(被監査会社の名前を除く)

質を決めるのは、監査計画の該当部分です。 調書の目的が計画で識別したリスクに対応しているかは、計画を見なければ分かりません。計画を渡さないと、AIは調書の中だけで目的と結論のつながりを見ることになり、計画とのずれを見落とします。

指摘の例は、主査の基準をそろえるための材料です。 法人の記載ルールは抽象的になりがちで、AIはそれを一般論で解釈します。「この書き方にはこう指摘した」という例を20〜30件渡すと、指摘の粒度が法人の主査に近づきます。

Step3

データの取得方法を決める

調書は、電子調書のシステムからPDFで、表計算で作った調書はテキストに変換して取り出します。Claude API はPDFをそのまま読めますが、表計算のファイル(.xlsx)は文書として渡せません。 公式の説明では、.xlsx や .docx はテキストかPDFに変換してから渡す必要があるとされています。

取るもの形式何に使うか
電子調書のシステムの調書PDF調書の本文
表計算の調書シートごとにテキスト(セル番地付き)調書の本文。指摘でセルを指せるようにする
調書の属性CSV規則の確認(実施者・完了日の空き)
監査計画の該当部分PDFかテキスト目的とリスクの対応の確認

表計算の調書はセル番地を残してテキストにします。 「C15のティックマークの説明が無い」と指せるようにするためです。画像にしてPDFにすると、どのセルの話かを指せなくなります。 数式のセルは、計算結果の値と数式の両方を書き出します。値だけだと、合計の行が手で打ち込まれたものか計算されたものかが分からず、「合計の根拠が書かれていない」という指摘が誤って出ます。

被監査会社から入手した資料(試算表、明細、契約書の写し)は送りません。 点検するのは調書の書き方で、資料そのものではないからです。調書の中に資料の内容が貼り付けられている場合も、入手元と参照番号が書かれているかだけを見ればよく、資料の中身を読ませる必要はありません。

PDFには上限があります。 公式の説明では、1リクエストあたり32MB、600ページ(コンテキストが100万トークン未満では100ページ)までで、パスワードや暗号化のかかったPDFは扱えません。 電子調書のシステムがパスワード付きで書き出す設定なら、点検用の書き出しだけ設定を分けます。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 欄の空きの確認 … 実施者、完了日、参照番号、勘定科目が空いていないかを、調書の属性から確かめます
  2. 参照番号の存在の確認 … 調書に書かれた他の調書への参照番号が、同じ監査ファイルに実在するかを、調書番号の一覧と照らします
  3. ティックマークの置き換え … 記号を、法人の凡例に沿って「証憑と照合済み」のような文字に置き換えます。凡例に無い記号はそのまま残し、印を付けます
  4. 被監査会社の特定情報の扱い … 会社名、取引先名、個人名を記号に置き換えます。金額は残します
  5. 監査計画の該当部分の切り出し … 調書の勘定科目に対応するリスクと計画の部分だけを取り出します

1番目と2番目をAIにさせないのは、規則で確実に見られるからです。 欄が空いているか、参照先が実在するかは、プログラムで漏れなく見られます。AIには、文章を読まなければ分からないつながりだけを渡します。

3番目は、AIの読み違いを防ぐためです。 ティックマークは記号で、そのままでは意味が分かりません。凡例に無い記号に印を付けておけば、それ自体が「凡例の書き漏れ」という指摘になります。

4番目の置き換えは、監査チームの中で対応表を持ちます。 置き換えた記号と元の名前の対応は、点検用のフォルダの外、監査ファイルと同じ権限の場所に置きます。点検結果をスタッフに返すときに、記号を元の名前に戻してから返します。 記号のまま返すと、スタッフが調書と照らすのに手間がかかります。

Step5

AIに処理させる

させるのは、5つの観点で指摘を挙げ、直しの案を付けることだけです。

観点見ること指摘の例
目的と結論の対応冒頭の目的・アサーションと、末尾の結論が同じことについて述べているか。計画のリスクに対応しているか「目的は実在性、結論は評価の妥当性を述べている」
手続の種類・時期・範囲何を、いつ、どこまで行ったかが書かれているか「実施した時期の記載が無い」
対象の識別サンプルの選び方、母集団、開始点、間隔、対象の日付や番号が書かれているか「母集団と抽出の方法が書かれていない」
結果と例外事項手続の結果が書かれ、例外事項があればその扱いが書かれているか「差異3件の扱いが結論に反映されていない」
法人の記載ルール入手元、凡例、参照番号の書き方など「資料の入手元の記載が無い」

いちばん効くのは、1つ目の「目的と結論の対応」です。 スタッフの調書でいちばん多いのは、手続をこなしたあと、結論に「問題ない」とだけ書いてしまう形です。何について問題が無いのかが目的と対応していないと、関与していない人には何が確かめられたのかが分かりません。

させないこと理由
証拠が十分かを判断する職業的専門家としての判断。主査と業務執行社員が行う
結論が妥当かを判断する同上
追加の手続を提案する手続の選択は監査人の判断。AIの提案が既定の答えになる
調書の文を書き直した全文を出すスタッフが貼り付けるだけになり、書き方が身につかない
金額の計算を検算する検算は手続そのもの。点検の範囲を超える

3行目を禁じるのが大事です。 「売掛金の確認状の回収率が低いので、代替手続を追加してください」とAIが書くと、監査の判断がAIの提案に引っ張られます。 手続が足りないかどうかは主査が判断し、AIは書かれていることのつながりだけを見ます。

Step6

指示内容を固定する

あなたは監査法人で、スタッフが作成した監査調書を、主査の査閲の前に点検する担当です。
点検するのは調書の書き方だけです。監査上の判断はしないでください。

【点検の観点】
1. objective_conclusion: 冒頭の目的・アサーションと末尾の結論が同じことを述べているか。
   監査計画で識別したリスクに対応しているか。
2. nature_timing_extent: 実施した手続の種類・時期・範囲が書かれているか。
3. item_identification: 手続の対象を識別する特性(母集団、選び方、開始点、間隔、
   日付・番号、質問の相手と役職など)が書かれているか。
4. results_exceptions: 結果が書かれ、例外事項があればその扱いが結論に反映されているか。
5. firm_rules: 法人の記載ルールに沿っているか。

【指摘の書き方】
- 指摘ごとに、根拠にした調書の文をそのまま evidence に写してください。
- 書かれていないことの指摘は、evidence に「記載なし」と書き、
  どこに書かれているべきかを location に書いてください。
- 直しの案は、何を書き足せばよいかを1〜2文で示してください。
  調書の文を書き直した全文は出さないでください。
- 指摘の例と同じ粒度で書いてください。

【厳守事項】
- 証拠が十分か、結論が妥当か、手続が適切かは書かないでください。
- 追加の手続を提案しないでください。
- 金額を計算し直さないでください。
- 調書に無い事実を補わないでください。
- 判断がつかないものは severity を check にしてください。

【法人の記載ルール】{firm_rules}
【指摘の例】{review_examples}
【監査計画の該当部分】{plan_excerpt}
【調書の属性】{wp_meta}
【調書】(このあとに添付)

「追加の手続を提案しない」は、書かないと必ず出てきます。 手続の記載が薄い調書を渡すと、AIは親切に「〜も実施してはどうか」と書きます。それは書き方の指摘ではなく監査の判断です。 禁じたうえで、出力の項目にも提案の欄を作りません。

「記載なし」の書き方を決めておくのも大事です。 書かれていないことの指摘は、写す文がありません。写す文が無いときの書き方を決めておかないと、AIは調書に無い文を作って写します。 「記載なし」とどこにあるべきかを書かせれば、照合で区別できます。

Step7

出力形式を固定する

次の形のJSONで受け取ります。

{
  "workpaper_id": "",
  "findings": [
    {
      "aspect": "objective_conclusion | nature_timing_extent | item_identification | results_exceptions | firm_rules",
      "severity": "fix | check",
      "location": "",
      "evidence": "",
      "comment": "",
      "suggestion": ""
    }
  ],
  "unknown_tickmarks": [""]
}

1つ目の理由は、aspect で指摘を数えられることです。 観点は5つの値に限っているので、スタッフごと、チームごとに、どの観点の指摘が多いかが出ます。item_identification が多いスタッフには、サンプリングの記録の書き方を教えれば済みます。

2つ目は、evidence を照合できることです。 「記載なし」以外の evidence は、調書の文に文字どおりあるかをプログラムが確かめます。見つからない指摘はスタッフに返さず、点検のログにだけ残します。 根拠の無い指摘を返すと、スタッフはAIの指摘全体を読まなくなります。

location は、調書のどこを直せばよいかを指す欄です。 PDFならページと見出し、表計算ならシート名とセル番地を書かせます。場所の無い指摘は、スタッフが調書の中を探すことになり、直す時間が延びます。 プログラムで location が空の指摘を見つけたら、点検結果の最後に回します。

3つ目は、出力に「判断」の欄が無いことです。 証拠の十分性や結論の妥当性を書く欄を作らなければ、AIがそこに何かを書くことはありません。禁止の指示と欄の設計の両方で、判断を出させないようにします。

スタッフへの点検結果の並び中身
1. 規則の確認の結果欄の空き、実在しない参照番号、凡例に無い記号
2. severity: fix直したほうがよい書き方
3. severity: check確かめてほしい点
Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
点検用のフォルダファイルサーバーの読み取り調書の書き出しを見つける
Claude APIMessages API を Python から呼ぶ点検と直しの案
点検結果調書と同じフォルダにファイルで置くスタッフが読む
電子調書のシステムなし調書の修正と査閲の記録は人が行う
集計点検のログから月次で集計観点ごとの指摘の数

電子調書のシステムへは書き込みません。 AIの点検結果を調書に取り込むと、査閲の記録とAIの指摘の区別がつかなくなります。 報告書230が求める査閲者・査閲日・査閲の対象の記録は、主査が残すものです。

点検結果のファイルは、調書番号を名前に入れて置きます。 スタッフは自分の調書番号でファイルを開き、主査は査閲のときに同じ番号のファイルを並べて開きます。通知は監査チームの中のやり取りに限り、外部のメールには流しません。 点検結果には調書の文が写されているので、調書と同じ扱いが要ります。

Step9

人が確認する

AIの指摘は、スタッフと主査の2段で読みます。

  1. スタッフが指摘を読む … 指摘ごとに「直した」「直さない(理由)」を書きます
  2. スタッフが調書を直す … 直しの案は書き足すべき内容の示しで、調書の文はスタッフが自分で書きます
  3. 主査が指摘と返事を読む … 「直さない」の理由が妥当かを見ます
  4. 主査が調書を査閲する … 証拠の十分性と結論の妥当性を判断し、査閲の記録を残します

4番目は、AIの点検の前と変わりません。 AIの点検を通ったことを、査閲の範囲を狭める理由にしません。変わるのは、主査が4番目にたどり着くまでの時間です。

スタッフの「直さない」には、主査が一言返します。 理由が妥当なら「了解」、妥当でなければ直してもらいます。この往復が、以前のレビューノートの代わりになります。 主査が書く量は減りますが、スタッフの判断を見る機会は残ります。

主査がAIの指摘に同意しなかったときは、その記録を残します。 「この指摘は法人のルールの読み違い」と主査が書いたものは、品質管理の部署が集めて、記載ルールか指摘の例を直します。

Step10

例外に対処する

起きること対応
書き出しのPDFにパスワードがかかっている処理せず、点検用の書き出し設定で出し直してもらう
調書が上限のページ数を超える手続ごとに分けて点検する
監査計画の該当部分が見つからない目的と計画の対応の点検を飛ばし、その旨を点検結果に書く
凡例に無いティックマークがある置き換えずに残し、unknown_tickmarks に入れる
指摘の根拠が調書に無いスタッフに返さず、ログにだけ残す
指摘が15件を超える調書が途中である可能性。スタッフに完成を確かめる
APIが応答しない間を空けて再送し、だめなら点検せずに「査閲待ち」にしてよいとスタッフに知らせる

凡例に無いティックマークは、その調書だけの問題でないことが多いものです。 同じ記号が複数のスタッフの調書に出るなら、法人の凡例のほうに足りないものがあります。

最後の行で、点検できないときに調書を止めないのは意図してのことです。 AIの点検は主査の査閲を助けるためのもので、査閲の前提条件ではありません。 点検できなかった調書は、今までどおり主査が査閲します。

Step11

記録を残す

  • 点検した調書の番号と、書き出しの日時
  • Claude API に送った内容(置き換え後)と、返ってきたJSON
  • 規則の確認の結果
  • スタッフの返事(直した/直さない理由)
  • 主査が同意しなかった指摘と、その理由
  • 使った記載ルールと指摘の例の版

ログは監査ファイルの外に置きます。 AIの点検結果は査閲の前の作業の材料で、監査調書そのものではありません。監査ファイルに入れるかどうかは、法人の品質管理の部署が決めます。 置く場所と保存の期間も、法人の文書管理の決まりに合わせます。

04実装レベルの3段階

最小構成:置き換えた調書をAIの画面に貼り、書き方を点検させる / 1件ごとの点検
半自動化:上記+点検用のフォルダを起点に、規則の確認・置き換え・API呼び出し・照合・点検結果の書き出しを自動で行う / 点検と結果の返却
本格構成:上記+監査計画の該当部分の自動の切り出し、主査の不同意の集計と記載ルールの見直し案、観点ごとの月次の集計 / 点検と、ルールと育成の見直しの材料づくり

最小構成では件数がさばけません。 置き換えを手で行うので、月400件には使えません。確かめるための段階です。 半自動化で、1件18分が10分程度になります。 書き方の指摘の多くは主査の前に片付きますが、監査計画との対応は主査が見ることになります。本格構成で6分になり、この段階が本記事の想定です。 監査計画の該当部分を自動で切り出して渡せるようになると、目的とリスクの対応の確認までが主査の前に済むからです。 段階を飛ばさないでください。 半自動化で3か月、主査の不同意を集めると、AIが法人のルールを読み違えている箇所が見えます。ルールと指摘の例を直してから本格構成に進むほうが、主査が指摘を信用します。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
12 名
月間件数
400 件
1件あたり現在時間
18 分
1件あたり導入後時間
6 分
現在  400件 × 18分 ÷ 60 = 120 時間/月
導入後 400件 × 6分 ÷ 60 = 40 時間/月
月間削減時間
80h
削減率
67%
年間削減時間
960h
年間金額換算(時間単価6,000円)
576万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 被監査会社が数十社あり、決算期や期中の手続の時期が会社ごとに違うため、調書の作成と査閲が毎月続いている中堅・中小の監査法人。主査が査閲のたびに、目的と結論のずれ、対象の特定の書き漏れ、ティックマークの説明漏れといった記載の指摘をくり返している場合。調書の記載ルールが法人で文書になっている場合。
向いていない
  1. 被監査会社が数社で、主査が全調書を直接見ても負担にならない場合。調書の記載ルールが文書になっておらず、主査ごとの経験に頼っている場合。監査証拠が十分か、結論が妥当かの判断までAIに任せたい場合。なお、監査手続の選択、証拠の評価、結論の形成は監査人の職業的専門家としての判断であり、この構成では代替できません。

07最小構成で試す方法

  1. 前期に査閲が終わった調書から20件を選ぶ(主査がレビューノートで書き方の指摘を付けたものを半分入れる)
  2. 会社名・取引先名・個人名を記号に置き換える
  3. 法人で使ってよいと決めたAIサービスの画面に、調書と法人の記載ルールを貼り付ける
  4. 「この調書の目的と結論が同じことを述べているか、手続の種類・時期・範囲と対象の選び方が書かれているかを点検し、根拠の文を写して指摘してください。証拠が十分か、結論が妥当かは書かないでください。追加の手続を提案しないでください」と指示する
  5. 出てきた指摘を、当時のレビューノートと突き合わせる

20件で、当時の主査の指摘と同じ点が出るかを見ます。

出てきた内容判断
当時の指摘と同じ点が出た書き出しとAPIの連携に進む
追加の手続を提案した指示と出力の設計で直る。構成は有効
根拠の文が調書に無い写させ方を直し、照合の仕組みを必ず作る
一般論の指摘ばかり指摘の例を先に集める

4行目が出たら、レビューノートを集める作業から始めます。 法人の記載ルールだけでは、AIの指摘は教科書のようになります。主査が実際に付けた指摘と直したあとの例があって初めて、法人の基準に近い指摘になります。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
AIが追加の手続を提案する禁じたうえで、出力に提案の欄を作らない
AIが証拠の十分性に触れる同上。判断の欄を作らない
根拠の文が調書に無い指摘が出る照合して、見つからない指摘はスタッフに返さない
書かれていないことの指摘で文を作る「記載なし」と書かせ、どこにあるべきかを示させる
指摘が教科書的で役に立たない主査のレビューノートから指摘の例を集めて渡す
ティックマークを読み違える凡例に沿って文字に置き換えてから渡す
表計算の調書がそのまま渡せないセル番地付きのテキストにする
AIの指摘がゼロになるまで直す運用になる点検は査閲待ちの前に1回だけにする
最終的な整理の後に調書を書き換える整理の段階では点検を動かさない
主査が査閲を軽くするAIの点検を査閲の範囲を狭める理由にしない と法人で決める

上の2行が、この構成でいちばん避けたい失敗です。 AIが監査の判断に触れ始めると、スタッフも主査も、その判断に引っ張られます。禁止の指示だけでなく、出力の欄を作らないことで、判断が出てくる余地をなくします。

最後の行は、導入のときに法人として決めておきます。 主査の査閲は、AIの点検の有無にかかわらず同じ範囲で行います。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 被監査会社の財務情報、取引の内容、監査上のリスクの評価、未公表の決算の数字など、公認会計士の守秘義務の対象になる情報です。

  1. 守秘義務を前提に、外部へ出す扱いを決める … 公認会計士法第27条は、公認会計士が正当な理由なく、業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならないと定めています。外部のAIサービスに調書を送ることを、法人としてどう位置付けるか、被監査会社との契約で何を約束しているかを先に確かめます
  2. API の保持の扱いを確かめる … Claude API の公式ページでは、会話の内容は既定では保持されないとされていますが、30日の保持が必要なモデルがあり、Files API と Batch 処理は ZDR の対象外です。 この構成では調書をメッセージに直接入れて送り、Files API と Batch 処理は使いません
  3. 送る範囲を絞る … 会社名・取引先名・個人名を記号に置き換え、監査計画は該当部分だけを送ります。置き換えても金額と取引の内容は残るため、それで送ってよくなるわけではありません
  4. 点検結果を監査調書と区別する … AIの指摘は査閲の前の作業の材料です。査閲の記録は主査が残し、AIの指摘を査閲の記録の代わりにしません
  5. 監査の判断をAIに寄せない … 証拠の十分性、結論の妥当性、手続の選択は、監査人の職業的専門家としての判断です。出力の設計でAIが判断を書く欄を作らず、査閲の範囲も変えません
  6. 報告書の改正に合わせて点検項目を直す … 報告書230には改正の公開草案が出ています。品質管理の部署が版を管理し、点検項目と指摘の例を更新します

誤りが起きた場合のリスクは、被監査会社の秘密が意図しない先に渡ることと、AIの点検を通ったことで主査の査閲が浅くなることの2つです。 前者は送る範囲と保持の扱いを先に決めることで、後者は査閲の範囲を変えないと法人で決めることで防ぎます。どちらも、仕組みより先に法人の取り決めで守ります。

10まず何から始めるか

1週目:外部へ出す扱いを決める

法人の品質管理の部署と、守秘の扱いを決めます。送ってよい情報、置き換える情報、使うサービスと保持の条件、被監査会社との契約の確認を決めます。ここが決まらないうちは、前期の調書でも試しません。

2週目:指摘の例を集める

主査のレビューノートから、書き方の指摘とそのあとの直しを集めます。被監査会社の名前を除き、観点ごとに5〜6件ずつ、合わせて20〜30件にします。

3週目:20件で試す

前期の調書から20件を選び、AIの画面で点検させます。追加の手続を提案していないか、根拠の文が調書にあるかを最優先で見ます。

4週目:1つの監査チームで半自動化を始める

Python で、点検用のフォルダの監視、規則の確認、置き換え、API の呼び出し、照合、点検結果の書き出しを組みます。最初は1チームだけで、主査が全件のAIの指摘を読みます。

2か月目: スタッフへの返却を始め、返事を書いてもらいます。3か月目以降: 主査の不同意を集めてルールと指摘の例を直し、監査計画の切り出しを足します。1件18分が何分になったかを実測し、観点ごとの集計をスタッフの育成に使い始めた時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-14/最終更新:2026-10-15
確認した内容情報源確認日
監査基準報告書230の第7項(経験豊富な監査人が、以前に当該監査に関与していなくとも、手続の種類・時期・範囲、結果と証拠、重要な事項と結論を理解できるように調書を作成する)、第8項(対象を識別する特性、実施者と完了日、査閲者・査閲日・査閲の対象の記録)、第14項・第15項(最終的な整理の後の扱い)、A12項(識別の特性の例)日本公認会計士協会: 監査基準報告書230「監査調書」2026-10-14
2024年9月26日の改正が付録の修正(監査基準報告書260の改正の反映)であること日本公認会計士協会: 監査基準報告書230の改正について(2024年9月26日)2026-10-14
2026年8月10日に、監査基準報告書240の改正に伴う監査基準報告書230の改正の公開草案が出ていること(意見募集期限2026年9月10日)日本公認会計士協会: 監査基準報告書230の改正について(公開草案)2026-10-14
公認会計士法第27条(秘密を守る義務)e-Gov 法令API: 公認会計士法2026-10-14
構造化出力を output_config.format に type: "json_schema" で指定すること。Amazon Bedrock では対応が旧来の連携と一部のモデルに限られることClaude Docs: Structured outputs2026-10-14
PDF の上限が1リクエスト32MB、600ページ(コンテキストが100万トークン未満では100ページ)で、パスワードや暗号化のあるPDFは扱えないこと。.xlsx や .docx は文書として渡せず、テキストかPDFへの変換が要ることClaude Docs: PDF support2026-10-14
会話の内容が既定では保持されないこと。Covered Models は30日の保持が必要で ZDR の対象外であること。Files API と Batch 処理が ZDR の対象外であることClaude Docs: API and data retention2026-10-14

監査手続の選択、証拠の評価、結論の形成は、監査人が判断してください。 本記事は上記の公開情報で確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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