AI利用方針は外に出すべきか?|載せる項目と書き方

AI利用方針は外に出すべきか?|載せる項目と書き方

「社内のAI利用ルールは作りました。これ、会社のサイトにも載せたほうがよいのでしょうか」「取引先から届いた確認票に、AIの利用方針を公開しているかという欄があって、答えられませんでした」——情報システム部門と広報の間で、この話は宙に浮いたまま止まりがちです。決めるのは経営なのか、法務なのか、書くのは誰なのかが定まらず、議題に上がっては次回送りになる。そういう相談が続いています。外に出す方針は、社内の規程を短くして貼ったものではありません読む相手も、直すときの重さも、守れなかったときの意味も違う、別の文書です。この記事では、出すかどうかをどこで判断するか、出すと何が後からついてくるか、載せる項目と書き方、そして出したあとの回し方までを整理します。


カメ先生カメ先生

外向けのAI利用方針は、社内規程の要約版だと思われがちですが、実のところ役割が正反対です。社内規程は守らせるために書き、外向けの方針は約束するために書きます。


カメ子カメ子

守らせる文書と、約束する文書は、何が違うのでしょうか。


カメ先生カメ先生

守らせる文書は、抜け道をふさぐほど良い文書になります。約束する文書は逆で、書いた分だけ確かめられる側に回ります。だから、細かく書けば書くほど良いという文書ではありません。


カメ子カメ子

書いた分だけ、聞かれることが増えるということですか。


この記事のポイント
  • 総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン第1.2版は、AIガバナンスに関する方針を「策定し、公表する」ことを、透明性ではなくアカウンタビリティの項に置いている
  • 出すと、問合せを受ける窓口・方針を裏づける資料・毎年の進み具合の報告、この3つが後からついてくる
  • 下書きの整理と言い回しのそろえは機械に寄せられるが、どこまで書くかは、守る側の部門が引き受けられる範囲でしか決まらない

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目次

社内の決まりを作ったあとに、必ず出てくる問い

社内向けのAI利用ルールを整えた会社は、この2年でかなり増えました。そして整え終わった会社に、決まって次の問いが来ます。外にも出すのか、という問いです。来る経路は主に2つあります。1つは取引先から届く確認票で、AIの利用について方針を公開しているかを問う欄が増えてきました。もう1つは、統合報告や非財務の開示を担当する部署からの依頼です。どちらも情報システム部門の側から出た話ではありません。外から来た問いが、規程を持っている部署に回ってくる形になります。

公表そのものは、まだ多数派の行動ではありません。参考になる数字があります。主要国の枠組みで定められた国際行動規範について、遵守の状況を組織が自ら報告して公表する仕組みが2025年2月に正式運用に入りました。内閣府の指針は2025年12月時点で24組織が回答を提出したと記し、AI事業者ガイドラインは2026年3月現在で日本企業9社を含む25組織が提出して経済協力開発機構のサイトで公表されている、と記しています。1年で1組織増えた計算です。出す枠組みは整ったが、出している会社はまだ数えられる規模というのが現在地になります。

一方で、出している会社の中身を見ると、方針の1枚だけで終わっている例はほとんどありません。たとえば日本電気株式会社は、AIと人権に関する全社の方針を公開したうえで、推進の体制、リスクを減らす手順、人材育成、外部の有識者に諮る会議、苦情を受ける窓口、中長期の目標と年度ごとの進捗までを同じページに並べています。研修の修了率が2024年度で97パーセントという数字まで出ています。つまり、方針を出すというのは、方針の文章を1つ作る作業ではありません。その周りに並ぶものを含めて出す、ということです。ここが判断の入口になります。

外向けの文書と社内の規程は、読む人も直し方も違う

社内規程を読むのは従業員です。目的は行動をそろえることなので、迷いそうな場面を潰すほど良い文書になります。改定は決裁を通せば済み、旧版はふつう外に残りません。外向けの方針を読むのは、取引先の調達担当、顧客、応募者、投資家です。目的は判断材料を与えることなので、書いた内容はそのまま確かめられる対象になります。改定すれば履歴が残り、消した項目があれば理由を聞かれます。直すたびに説明が要る文書だと考えておくのが実務的です。

この違いを見落とすと、社内規程を要約して貼るという最短経路を選んでしまいます。ところが社内規程には、外に出すと確実に困る行が混ざっています。使ってよい道具の一覧、申請が要る金額の線、違反したときの処分、承認の権限を持つ役職の一覧。どれも社内では必要ですが、外向けの文書に入れると、更新のたびに公表文を直すか、実態とずれた文を放置するかの二択になります。外向けは、社内規程の要約ではなく別に書き起こす文書だという前提で始めてください。

なお、記事や資料の制作にAIをどこまで使ったら表記するか、という社内の表記ルールは、ここでは扱いません。それは社内規程の側で決める話で、当メディアでは別の記事が扱っています。本稿が引き受けるのは、社内で決まっている行のうち、どれを外向けの文書に移せるかという仕分けの部分です。この2つを同じ会議で混ぜると、規程の議論に引きずられて公表の判断が進みません。

公的な指針は、方針を「策定し、公表する」と書いている

判断の土台になる文書があります。総務省と経済産業省がまとめたAI事業者ガイドラインで、最新版は2026年3月31日公表の第1.2版、本編はPDFで42ページです。この本編の第2部に、10項目の共通の指針が並びます。そのうち7番目のアカウンタビリティの中に、次の一文があります。「必要に応じ、AIシステム・サービスの利用に伴うリスク管理、安全性確保のための各主体のAIガバナンスに関するポリシー、プライバシーポリシー等の方針を策定し、公表する」。括弧書きで「社会及び一般市民に対するビジョンの共有、並びに情報発信・提供を行うといった社会的責任を含む」とも添えられています。

重要なのは、この一文が単独で置かれていないことです。同じ項目の中に、指摘を受け付ける機会を設けてモニタリングを実施すること、利益を損なう事態が生じた場合の対応方針を策定して進捗を定期的に報告すること、アカウンタビリティを果たす責任者を設定すること、そして関係する情報を文書化して一定期間保管し参照できる状態にすること、が並んでいます。公表は、この一連の中の1工程として書かれています。方針を出して終わる書き方には、そもそもなっていません。

もう1つ、根拠の性格を押さえておきます。この文書は法令ではなく、事業者の自主的な取組を促すための指針です。2025年12月19日に人工知能戦略本部が決定した適正性確保の指針も、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律の第13条に基づくものとしたうえで、「自主的かつ能動的な取組を促す」ためのものだと位置づけを明示しています。したがって、出さないことが直ちに違反になるわけではありません。どの条件で説明が難しくなるか、という形で読むのが正確です。

公表は、透明性ではなくアカウンタビリティに置かれている

ここが本稿でいちばん見落とされている点です。AI事業者ガイドラインには、6番目に透明性、7番目にアカウンタビリティという別々の指針があります。方針の公表は、6番ではなく7番のアカウンタビリティに置かれています。本編の脚注は、その理由を明記しています。「アカウンタビリティを説明可能性と定義することもあるが、本ガイドラインでは情報開示は透明性で対応することとし、アカウンタビリティとはAIに関する事実上・法律上の責任を負うこと及びその責任を負うための前提条件の整備に関する概念とする」。

言い換えると、情報を出すこと一般は透明性の側で扱い、方針を公表することは責任を負う側に分類されている、ということです。この配置は実務にそのまま効きます。出した方針は、知らせたものではなく、引き受けたものとして読まれるからです。同じ文面でも、社内に配れば行動指針ですが、外に出せば約束になります。書く前に、この違いを関係部署で言葉にしておくと、「もっと詳しく書きましょう」という善意の提案に歯止めがかかります。

あわせて、どの立場で書くかを最初に決めてください。同じガイドラインが載せる国際指針には、「リスクベースのアプローチに基づくAIガバナンス及びリスク管理方針を策定し、実施し、開示する」という項目があります。ただしこれは、高度なAIシステムを開発する組織に向けた項目です。自社でモデルを作らず、外部のサービスを業務に使っているだけの会社が、そのまま当てはまるわけではありません。使う側として書くのか、組み込んだ製品を売る側として書くのか、両方あるのか。立場が定まらないまま書くと、答えられない問いが来ます

「必要に応じ」の3文字を、どう読むか

先の一文には「必要に応じ」という条件が付いています。全社一律で出せとは書かれていません。では、どの会社に必要が生じるのか。指針の他の項目と、実際に問い合わせが来る場面を突き合わせると、必要が高くなる条件は4つに整理できます。どれにも当たらない会社は、急ぐ理由がありません。

  • AIの出力が社外の人に直接届く。問い合わせへの自動応答、生成した文章や画像の公開など
  • AIの出力を、人の評価の参考に使っている。選考、与信、審査、点数付けなど
  • 取引の条件として聞かれる立場にある。受注する側、業務を委託されている側
  • AIを組み込んだ製品やサービスを外部に売っており、使う側と提供する側の両方の顔がある

この4つのうち、2番目だけは性格が違います。他の3つは取引や広報の要請ですが、2番目は評価される本人に対する説明の問題だからです。ガイドラインの利用者向けの記述は、出力を特定の個人や集団の評価の参考にする場合、AIを利用している旨を評価の対象になっている本人に通知すること、求めに応じて説明責任を果たすことを挙げています。この点は後の章でもう一度扱いますが、2番目に当たった時点で、公表するかどうかとは別に、やることが1つ確定すると覚えておいてください。

逆に、社内の下書き支援だけに使っていて、出力が社外に出ず、取引先からも聞かれていない会社は、いま出す必要はありません。ただし、使う範囲は静かに広がります。半年前は社内の議事録の要約だけだったものが、気づくと顧客あての一次回答の下書きに使われている、という広がり方をします。だから判断は一度で終わらせず、使う範囲を広げる決裁のたびに、この4条件に当たっていないかを見る運用にしてください。

出すと来るもの その1。問合せの窓口を置くことになる

方針を公表すると、その日から問い合わせが来ます。これは想定の話ではなく、公表先に連絡先が書いていなくても、代表の問い合わせフォームか営業の担当者あてに届く、という形で起きます。AI事業者ガイドラインの利用者向けの記述にも、「利用するAIシステム・サービスの性質に応じて、関連するステークホルダーからの問合せに対応する窓口を合理的な範囲で設置し、AI提供者とも連携の上説明及び要望の受付を行う」とあります。窓口は、方針とセットで決めるものです

窓口を決めるときに、あわせて決める項目は4つです。一次で受けるのはどの部署か。判断が要る問いをどこに回すか。答えられない問いをどう返すか。そして、来た問いと返した内容をどこに記録するか。4つ目を省くと、同じ問いに人によって違う答えを返す状態になります。実際に来る問いは、道具の名前、学習に使われるかどうか、出力を人が確認しているか、事故が起きたときの連絡先、この4種類にほぼ収まります。先に答えを用意しておけば、往復は1回で終わります。

落とし穴は、窓口を1か所に決めてしまうことです。広報に置くと、技術的な問いに答えられず往復が増えます。情報システム部門に置くと、どこまで外に出してよいかの判断ができません。現実的なのは、受けるのは1か所、判断は2段構えにする形です。先の日本電気株式会社の例でも、製品やサービスの相談を受ける国内の総合窓口が別に置かれていて、方針のページからそこへつながる構成になっています。受ける口を1つにして、答える人を分けるのが基本形です。

出すと来るもの その2。裏付けの資料を求められる

方針を読んだ相手が次にすることは、決まっています。その方針が実際に回っているかを確かめる質問です。どんな質問が来るかは、調達の様式を見ると具体的に分かります。デジタル庁が2026年6月12日に決定した行政の生成AIの調達・利活用に関する標準ガイドラインには、納入する事業者に確かめる調達チェックシートが付いています。行政の調達の話ですが、同じ様式は、民間の調達にも降りてきます

そのチェックシートが求める確認資料の例を、原文の表から拾うと次のようになります。組織としてのAIガバナンスの在り方や取組がわかる資料。生成AIシステムの開発・運用ルール。参照している業界ガイドラインや技術のリスト。加盟しているAI関連の研究会や業界団体のリスト。さらに基本項目として、利用している生成AIモデルはバージョン情報を含めて明示可能であること、という条件も置かれています。つまり、方針の文章は入口で、求められるのはその後ろにある資料です。

ここから導かれる順番があります。方針を先に出して、資料は後から整える、という進め方は成り立ちません。出した瞬間に資料の提出を求められるからです。実務としては、方針の各行に対して「この行を裏づける資料はどれか」を横に書く作業を先に行ってください。裏づける資料が無い行は、書けない行です。この突き合わせをやると、多くの会社で方針の分量は当初案の半分ほどになります。減ることを失敗と思わないでください。残った行は全部答えられます。

出すと来るもの その3。進んだかどうかを、毎年聞かれる

3つ目が、いちばん見落とされます。AI事業者ガイドラインのアカウンタビリティの項には、「進捗状況については必要に応じて定期的にステークホルダーに報告する」という記述があります。そして実際に公表している会社のページは、この形になっています。先の日本電気株式会社の例では、中長期の目標を掲げたうえで、年度ごとの目標、進捗と成果と課題、翌年度の目標が並びます。外部の有識者に諮る会議は2019年から毎年2回開催され、そこで出た意見と、それを受けた対応まで書かれています。

この構造を先に知っておくと、最初に出す方針の書き方が変わります。翌年に進捗を書ける粒度で書く、という基準が立つからです。「AIを適切に管理します」は進捗が書けません。翌年に書けることが何もないので、去年と同じ文が並びます。「利用している道具の一覧を年1回棚卸しします」は書けます。何件あって、何件減ったかを翌年に書けます。研修の修了率のような数字が公表文に載るのも、同じ理屈です。数えられる約束だけが、翌年の報告に耐えます。

もう1つ、進捗が書けない方針には別の副作用があります。社内で誰も見なくなることです。翌年に報告する場が決まっていない指標は、担当者が代わった時点で消えます。逆に、報告する場と日付が決まっていれば、方針は生きた文書として残ります。公表は、外向けの行為に見えて、社内の運用を固定する装置としても働くという面があります。出すかどうかを迷っている会社は、この副次的な効果も判断材料に入れてください。

載せる項目の一覧

ここまでを踏まえて、外向けの方針に載せる項目を一覧にします。全部を最初から書く必要はありません。上から4つが骨格で、残りは運用が回り始めてから足しても遅くありません。注意の列は、実際に書き始めてから議論が止まりやすい箇所です。

項目書く内容書くときの注意
目的と適用の範囲何のために定めたか。どの会社のどの業務にかかるかグループ会社を含めるかを先に決める。後から広げるより、最初に狭く書くほうが直しやすい
どの立場で書くか外部のサービスを使う側か、AIを組み込んで提供する側か両方ある会社は節を分ける。混ぜると答えられない問いが来る
人が確認する範囲どの出力を、誰が確かめてから外に出すか全件と書くと全件分の記録が要る。用途で区切って書く
入力しないと決めているもの何を入れない方針かを、分類の名前まで機密情報とだけ書いても伝わらない。相手が自分の情報が該当するか判断できる粒度にする
人の評価への使い方選考や審査の判断にどこまで使うか使っていないなら、使っていないと書くほうが強い。将来使うなら書き換える
責任者と問合せ先誰が責任を負い、どこに聞けばよいか個人名ではなく役職と部署。異動のたびに公表文を直すことになる
見直しの周期いつ、何を引き金に見直すか書いた周期は守る。守れない周期を書くと、次の改定で必ず遅れが目に見える
版と日付制定日と最終改定日、改定の履歴履歴を残す。項目を消したときは、消した理由を聞かれる前提で書く

この一覧のうち、社内で最も揉めるのは3行目です。人が確認する範囲を狭く書くと不安に見え、広く書くと守れない。解き方は、範囲を広げるのではなく、確認しない範囲を明示することです。「社外に出す文書は担当者が確認したうえで発信します。社内での下書きや検索の補助については、この確認の対象としていません」。この書き方なら、守れるうえに、何をしていないかも伝わります。

約束として書けるのは、どれか

外向けの文を書くときは、1行ごとに3つのどれかに分類してください。事実(いま実際にこうしている)、方針(こうする考えである)、約束(必ずこうする)の3層です。問題が起きるのは、方針のつもりで書いた文が約束として読まれるときです。文末が「します」で終わっていれば、読む側は約束として受け取ります。断定するかどうかは、守れる範囲でしか決められません

  • 金額の決定、採否の決定、契約の可否を伴う判断は、権限を持つ従業員が行います
  • 社外に公開する文書については、担当部署の確認を経たうえで発信します
  • 利用する外部サービスの一覧は、年1回、責任部署が棚卸しします
  • お客さまから提供いただいた個人情報を、外部の生成サービスの学習に使うことはありません

上の4つが書けるのは、いずれも数えられるからです。権限の一覧がある、確認の記録が残る、棚卸しの実施日がある、契約に該当の条項がある。裏づけを示せと言われたときに、出せるものが手元にあります。対して、次の書き方は避けてください。どれも善意で書かれ、そして守れなくなります。

  • 当社はAIに最終判断をさせません(最終判断の定義が無いと、社内で解釈が割れる)
  • すべての出力を人が確認します(1件でも通れば、方針違反になる)
  • 常に最新の法規制に準拠しています(改正の当日から準拠していない期間が生まれる)
  • AIによる誤りは発生しません(技術の性質上、言い切れない)

1つ目は、直し方が分かりやすい例です。最終判断という言葉をやめて、判断の種類を並べれば書けます。先ほどの良い例の1行目が、その形です。2つ目は、対象を用途で区切れば書けます。3つ目は「準拠しています」を「改定を確認し、必要な見直しを行います」に変えれば、行為の約束になるので守れます。4つ目は書かないのが正解です。できないことを書かないのは、弱腰ではなく、確かめられる文書を作るための条件です。

書かないほうがよいもの

次は、書けるけれども書かないほうがよいものです。取引先の確認票にどこまで書くかという論点は当メディアの別記事が扱っており、そこでは攻撃の手がかりになる情報を出さない、という観点で整理されています。本稿の観点は別です。改訂が要るものと、意図せず約束になるものを外す、という観点で見ます。同じ項目でも、外す理由が違うと判断が変わります。

  • 使っている道具やサービスの名前と版。乗り換えるたびに公表文の改訂が必要になる
  • 社内の承認の金額の線や、権限の一覧。外に出す理由がなく、交渉の材料になる
  • 利用者数や月間の処理件数。伸びても減っても、翌年に説明が要る
  • 保存期間や設定の細かい数字。確認票で答える内容であって、公表文の役目ではない
  • 一切、決して、絶対にといった全否定の語。例外が1つ出た時点で文全体の信用が落ちる
  • 担当者の個人名と直通の連絡先。異動のたびに直すことになる

1つ目は、迷う会社が多い項目です。具体的な道具の名前を書いたほうが誠実に見えるからです。しかし、名前を書いた瞬間から、その公表文は製品の更新に追随する文書になります。半年で乗り換えたのに公表文が古いままなら、それ自体が指摘の対象になります。書くとしたら、名前ではなく条件です。「入力した内容が学習に使われない契約条件の下で提供されるサービスを利用しています」。この書き方なら、乗り換えても文は生きます。

5つ目の全否定も、実務でよく踏みます。「当社は個人情報を一切入力しません」と書いた会社が、顧客からの問い合わせメールを要約させていた、という食い違いが後から見つかる。この場合、問題は運用ではなく文のほうにあります。「原則として入力せず、入力が避けられない業務については別に手順を定めています」と書いておけば、実態と一致します。外向けの文書で強い言葉を使うと、後から実態のほうを言葉に合わせる作業が発生します

人の評価に使っているなら、書き方が変わる

先に触れた条件のうち、2番目に当たる会社は別の扱いが要ります。AI事業者ガイドラインの利用者向けの記述は、この場面を名指しで書いています。出力結果を特定の個人または集団に対する評価の参考にする場合は、AIを利用している旨を評価の対象になっている本人に通知すること、自動化バイアスも踏まえて人間による合理的な判断のもとで行うこと、そして本人の求めに応じて説明責任を果たすこと。通知の相手は世の中ではなく、評価される本人です

だから、サイトに方針を載せただけでは足りません。応募の案内、審査の説明、契約の申込画面など、その本人が実際に読む場所に置く必要があります。方針のページには、どの場面で使っているかと、本人にどこで通知しているかを書く。この2階建てになります。1階を作らずに2階だけ作ると、公表文を読んだ人から「では応募者にはどこで知らせているのか」という問いが来ます。

あわせて、自動化バイアスという言葉が指針に入っている点を軽く扱わないでください。機械が出した結果を、人が過信して追認してしまう傾向のことです。「人が最終判断します」と書いていても、実際に機械の出力を覆した件数が0のまま続いているなら、通しているだけかもしれません。実務としては、覆した件数を月ごとに数えるのが手軽で効きます。0の月が3か月続いたら、確認の工程が形だけになっていないかを疑う。この数字は、外に出さなくても社内の点検に使えます。

AIに任せてよい工程と、人が決める工程

この作業自体にAIをどこまで使えるか、を線引きしておきます。任せてよいのは、材料を整える側の4つです。どれも、正解が社内の文書の中にあり、出てきた結果を人がその場で確かめられる作業に限られます。

  1. 社内規程からの抜き出し。外向けの各項目に対応する条を、規程から拾わせる
  2. 公表されている他社の文書の型の整理。見出しの並び方、粒度、分量の傾向を要約させる
  3. 言い回しのそろえ。敬体の統一、語尾の重複の解消、同じ意味で使っている別の語の統一
  4. 更新箇所の洗い出し。社内規程を改定したとき、公表文のどの行が古くなるかを突き合わせさせる

4つとも、作法は同じです。出どころを必ず併記させる。1番なら規程の条番号、2番なら参照した文書の名称と該当箇所、4番なら改定前後のどの行に対応するか。出どころが空欄のまま出てきた行は、人が確かめる対象として分けておきます。経験上、この空欄の行に、実在しない条文や存在しない社内制度が混ざります。

人が決めるのは3つです。どこまで書くか、約束として書けるのはどれか、そして公表するかどうか。この3つを機械に寄せられない理由は単純で、公表文は書いた側が守る文書だからです。守れる範囲を知っているのは、その業務を回している部署の人だけです。危ないのは、他社の公表文を整形させて自社名に置き換える使い方です。文章としては通りますが、実態と合わない行が必ず混じります。整形させるのは自社の材料だけにしてください。

出すまでの5工程

最後に、着手の順番です。文章を書く時間より、仕分けと窓口の調整に時間がかかります。多くの会社で1か月から2か月、社内規程がまだ無い会社ではその整備から始まるのでもう少しかかります。5つの工程に分けると、担当がそのまま決まります。

STEP1
どの立場で出すかを決める

外部のサービスを使う側として書くのか、AIを組み込んだ製品を提供する側として書くのか、両方の顔があるのかを決める。ここが決まらないと、以降のすべての行で主語が揺れる。決めるのは経営企画か、事業を持つ部門の責任者。

STEP2
社内規程を、出せる行と出せない行に仕分ける

規程の条を1行ずつ見て、外向けに移せるか、移せないかを分ける。移せない理由は、更新が頻繁だから、交渉材料になるから、約束として重すぎるから、の3つのどれかに落ちる。理由を記録に残す。

STEP3
残った行を、進捗が書ける粒度に言い換える

翌年に何を書けるかを想像しながら言い換える。数えられる約束になっているか、裏づける資料が手元にあるかを2列で確かめる。裏づけが無い行は、この段階で落とす。

STEP4
責任者と窓口を決め、受けたあとの経路を作る

一次で受ける部署、判断を回す先、答えられない問いの返し方、記録の置き場。この4つが決まるまで公開しない。公開してから決めると、最初の数件に一貫しない答えを返すことになる。

STEP5
置き場所と版と見直し日を決めて公開する

制定日を入れ、改定履歴の枠を先に作る。次の見直し日を社内の予定に入れ、その場に誰が出るかまで決める。見直しの場が無い方針は、1年で実態から離れる。

重いのは2番目と4番目です。2番目は法務と事業部門の合意が要り、4番目は部署をまたぐ調整が要ります。逆に3番目は、材料さえそろえば早く終わります。1番目を飛ばして書き始める会社が多いのですが、立場が決まらないまま書いた文は、後から全文を書き直すことになりやすいので、ここは急がないでください。

どこに置き、いつ見直すか

置き場所の候補は3つです。会社情報の配下、サステナビリティや非財務の情報の配下、そしてプライバシーに関する方針の隣。選び方は、誰が探しに来るかで決まります。取引先の調達担当が探すなら、会社情報かプライバシーの隣が見つかりやすい。投資家や求職者が読む想定なら、非財務の情報の配下が自然です。どこに置いたかを、方針を出したという社内の告知に必ず書いてください。営業が相手に案内できないと、置いた意味が半分になります。

見直しは、周期と引き金の2本立てにします。周期は年1回で足ります。根拠になる公的な文書がその頻度で動いているためです。AI事業者ガイドラインは2024年4月の第1.0版のあと、1.01版、1.1版、1.2版と改定されてきました。周期だけでは足りないので、引き金も置きます。社内規程を改定したとき、使う範囲を広げたとき、事故や苦情があったとき。この3つが起きたら、周期を待たずに見ます。

  • 本記事は2026年9月時点の公表資料に基づいています。指針は改定されるため、引用した記述の版と公表日を確かめたうえで参照してください
  • 本記事は一般的な整理であり、個別の公表文が法令上どう評価されるかを判断するものではありません。実際の公表にあたっては、自社の法務および顧問の専門家に確認してください

最後に、出さないという判断についても書いておきます。先の4条件のどれにも当たらず、窓口も裏づけも用意できない状態で出すのは、出さないより悪い結果になります。その場合の選択肢は、出さないことではなく、小さく出すことです。適用の範囲を1つの事業部門に限り、項目を骨格の4つに絞る。翌年に範囲を広げる、と書いておけば、進捗として書ける材料が最初から手元に残ります。

まとめ

外向けのAI利用方針は、社内規程の要約ではありません。総務省と経済産業省のAI事業者ガイドライン第1.2版は、AIガバナンスに関する方針を「策定し、公表する」ことを共通の指針に置いていますが、その位置は6番目の透明性ではなく、7番目のアカウンタビリティです。本編の脚注が、情報開示は透明性で扱い、アカウンタビリティは責任を負うことと前提条件の整備を指す、と明記しています。出した方針は、知らせたものではなく引き受けたものとして読まれる、という設計です。

そして、出すと3つが後からついてきます。問合せを受ける窓口。方針を裏づける資料。毎年の進捗の報告。1つ目は同じガイドラインの利用者向けの記述が求めており、2つ目はデジタル庁の調達の様式を見れば何を聞かれるかが具体的に分かります。3つ目は、実際に公表している会社のページが、方針だけでなく体制・研修・外部の会議・年度ごとの進捗まで並べている事実に表れています。だから、最初に出す方針は、翌年に進捗を書ける粒度で書くのが要点になります。

書き方は、1行ごとに事実・方針・約束のどれかに分けること。守れる範囲でしか断定しないこと。使っている道具の名前、承認の金額の線、利用者数、全否定の語は載せないこと。そして、抜き出し・型の整理・言い回しのそろえ・更新箇所の洗い出しは機械に寄せてよく、その際は出どころを必ず併記させて、空欄の行を人が引き取ること。どこまで書くか、約束として書けるのはどれか、公表するかどうかは、その約束を守る部署が決める。この分担で作った方針は、翌年に開いても書き足すことがある文書になります。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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