AIは閉域網の中で使うべき?|共用と専用の分かれ目

AIは閉域網の中で使うべき?|共用と専用の分かれ目

2026年8月17日、NTTドコモビジネスとエクサウィザーズが、利用企業ごとに専用に構築した環境を閉域ネットワーク経由で使う「クローズドAIエージェント」の提供を始めました。提供方法はプライベートクラウド版とオンプレミス版の2つで、環境の構築から運用、保守、セキュリティ管理までを提供側が担う形です。選べる形が増えたぶん、社内の議論は「AIを使うか」から「どの形で契約するか」に移りました。「稟議書に『閉域網で』と一行だけ書き足されて戻ってきた。前提だけが増えて、比べる材料は増えていない」「専用環境の見積もりが、いま使っている共用の契約の年額を大きく超えて返ってきた。この差を経営に説明する言葉が手元にない」。どちらも技術の話に見えて、実際には決め方の話です。閉域網にするかどうかは、安全性の高い順に並べれば決まる問題ではありません。本当は、扱う情報の区分と、監査で説明する範囲と、止めるときの手順の3つが書けたときに、はじめて形が定まります。この記事では、共用テナント・専用テナント・閉域接続・自前という4つの型を、どの条件でどれに寄せるかという形で整理します。


カメ先生カメ先生

閉域網にすれば安全になる、と思われがちですが、閉じることで変わるのは通り道と置き場だけです。その中で誰が何を見られるかは、閉じても変わりません。


カメ子カメ子

通り道を変えても、社内の見え方は別に決めないといけない、ということですか。


カメ先生カメ先生

経路と置き場は事業者の側で切り替わりますが、参照権限の設計は共用でも専用でも同じだけ必要になります。閉じたから権限の設計を省ける、という交換は成り立ちません。


カメ子カメ子

共用と専用では、何がどう違ってくるのでしょうか。


この記事のポイント
  • 閉じて変わるのは経路と置き場の2つ。その中で誰が何を見られるかは、どちらの形でも別に設計する
  • 共用テナント・専用テナント・閉域接続・自前の4つは排他ではない。経路・置き場・契約の形を別々に選ぶ
  • 棚卸しと構成案の下書きはAIのほうが速い。形の決定と費用の負担部門、監査で説明する範囲、止め方は人が決める

AI活用を戦略に落とす前に、まずは導入・定着から始めませんか?

デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。

目次

「閉じる」で変わるのは、通り道と置き場だけ

閉域網は、インターネットから論理的または物理的に切り離された通信の経路を指します。ここを閉じると変わるものは、はっきり2つです。1つはデータが流れる経路で、公衆の通信網を通るのか、自社が契約した専用の経路を通るのか。もう1つは処理と保存が行われる場所で、他社と同じ基盤の上に区切られた領域なのか、自社のために切り出された基盤なのか。この2つ以外は、閉じても変わりません。

変わらないものを具体で挙げます。社内の誰がどの文書を参照できるか。入力欄に何を書いてよいか。返ってきた文章をそのまま社外に出してよいか。記録がどこまで残り、誰がそれを読めるか。総務省が2026年3月に公表した「AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン」でも、提供者側が講じる対策として、参照して答えさせる仕組みのデータおよびその置き場への参照権限を、利用者や役割に応じて適切に設定することが挙げられています。3.4節に置かれたこの項目は、経路を閉じたかどうかとは無関係に必要になります。経路の話と権限の話は、別の層にあるということです。

だから稟議書に「閉域網で」と書き足されていたとき、最初に確かめるのは技術の可否ではありません。書いた人が経路の話をしているのか、置き場の話をしているのか、それとも社内の見え方の話をしているのか。3つのどれなのかで、打つべき手も費用の水準も変わります。混ざったまま見積もりを取ると、要らない専用環境に費用を払い、必要だった権限設計だけが抜け落ちます。

4つの型を、同じ列に並べて見る

提供形態は、事業者ごとに呼び方が違います。比べるには、呼び方ではなく中身の列をそろえる必要があります。ここでは経路・処理と保存の場所・契約の形・向く場面の4列で並べます。

経路処理と保存の場所契約の形向く場面
共用テナント公衆の通信網他社と同じ基盤の中に区切られた領域規約への同意、または規約に加えた個別契約公開してよい情報と社内一般の文書が中心の用途
専用テナント公衆の通信網でも可自社のために切り出された基盤個別契約機微な情報を扱うが、機材までは持ちたくない用途
閉域接続自社が契約した専用の経路事業者の基盤。専用でも共用でも組める個別契約に回線の契約が加わる社内網を分離しており、経路の指定が要求として来る用途
自前社内網のみ自社の建物、または自社が借りたラック機材とモデルの調達外に出せない設計図面や実験データが主対象の用途

この4つは排他の選択肢ではありません。閉域接続は専用テナントとも組み合わせられ、自前と閉域接続は同じ社内に同居します。冒頭で触れたクローズドAIエージェントも、専用に構築した環境を閉域ネットワーク経由で使い、さらにプライベートクラウド版とオンプレミス版から選ぶ、という重ね方になっています。ですから「4つのどれか1つを選ぶ」ではなく、経路・置き場・契約の3つをそれぞれ選ぶと考えたほうが実態に合います。

並べるときに列に置いてはいけないものが1つあります。「安全か危険か」です。安全は結果であって、型に付いている属性ではありません。安全を列にすると、閉じている型が自動的に上に来て、費用の列と記録の列が読まれなくなります。列に置くのは、経路・置き場・契約の形・記録の残り方・費用の増え方・止め方の6つで足ります。

この記事での言葉の使い方
  • 閉域網:インターネットから論理的または物理的に切り離された通信の経路
  • テナント:1つの基盤の上で、利用企業ごとに区切られた領域のこと
  • プライベートクラウド:他社と共有しない形で用意されたクラウドの基盤
  • オンプレミス:機材を自社の建物、または自社が借りた区画に置く形

型1 共用テナント:規約に同意すれば今日から使える形

他社と同じ基盤の上に区切られた領域を借りる形です。今日から使えます。新しいモデルが出れば、こちらが何もしなくても使えるようになります。費用は使った量に応じて増え、使わない月は減ります。この3つは、閉じた形では得られない性質です。

共用を「安全性を下げた妥協」と説明する資料は多いのですが、公的な文書はそう書いていません。デジタル庁の標準ガイドライン(文書番号 DS-920、2026年6月12日決定)の6.3.1では、共通の基盤の上で提供される生成AIの仕組みを積極的に活用することで、費用対効果の向上、セキュリティの確保、業務システムとの連携を効率的に行える可能性があると書かれています。共用は、統制の面でも積極的に選ぶ対象として扱われています。

では限界はどこか。同じガイドラインの6.1.1には、不特定多数の利用者に提供され、かつ定型約款や規約等への同意のみで利用できるクラウドサービス型の生成AIの仕組みを業務で使う場合には、原則として要機密情報を取り扱うことはできない、と書かれています。ここで効いているのは「共用だから」ではありません。効いているのは、規約への同意だけでは条件を自社の側から書き込めないという点です。この区別を取り違えると、条項を1つ足せば済む話に対して、基盤ごと切り出す費用を払うことになります。

型2 専用テナント:個別に契約を結び、条件を書き込む形

自社のために切り出された基盤を借りる形です。入力したものが学習に使われないこと、保存の期間、記録を誰が読めるかを、契約の条項として固定できます。先のガイドラインの別紙4は「契約チェックシート」として取決め事項を9項目に整理しており、その1項目目が入力したもの、つまりインプットの取決めです。定義、利用目的、利用条件、権利の帰属を定める条項を置くこととされ、補足には、提供目的以外の目的で入力したものを利用・保持しないことを目的外利用禁止義務として定めること、利用を認める場合は学習の有無やデータの保存方法といった利用条件を定めることが望ましい、と書かれています。

同じチェックシートは、入力したものと「入力したものを加工した結果」を別の項目として立てています。2項目目がそれです。文書を検索して答えさせる仕組みを組む場合、こちらが渡した文書そのものではなく、文書を分割して数値に変換した中間の成果物が事業者側に残ります。専用テナントを選ぶ理由が「渡したものを取り戻せる状態にしたい」であるなら、1項目目だけでなく2項目目を書かないと目的を達しません。

専用にすると失うものもあります。モデルの更新が自社の合意の速さに引きずられ、選べるモデルの幅が狭まります。事業者の解説では、共用のクラウド型で提供されるモデルの更新や仕様の変更によって、昨日まで正しく動いていた指示文が期待どおりの結果を返さなくなることがある、と指摘されています。専用環境はこの揺れを止められますが、止めた状態を誰がいつまで維持するかを決めていないと、数世代前のモデルのまま固まります。判断の前に自問すべきは1つです。更新の揺れを止めたいのか、それとも契約に条件を書き込みたいのか。後者だけなら、共用テナントに個別契約を重ねる形で足ります。

型3 閉域接続:経路を公衆の通信網から外す形

経路の側だけを閉じる形です。実務での実現の考え方は3つに整理できます。1つ目は、事業者の基盤への接続点を自社の閉じた網の中に置く方法。2つ目は、自社の拠点と事業者のデータセンターを専用の経路で結ぶ方法。3つ目は、すでに用意してあるインターネット分離の環境の中に、事業者側の窓口を引き込む方法です。

3つ目が実務でいちばん通りやすいのは、既存の境界とその審査の仕組みをそのまま流用できるからです。新しい経路を1本引くのではなく、すでに承認を通っている枠の中に足す形になるので、統制の部門との合意が取りやすくなります。逆に1つ目と2つ目は、経路の設計、切れたときの切り替え、帯域の見積もりが新しい仕事として増えます。この増分を担う人を決めないまま契約すると、経路の面倒だけが情シスの手元に残ります

閉域接続が効く場面と効かない場面は、はっきり分かれます。効くのは、社外に出せない理由が「経路上を流れること」そのものである場合です。監督官庁や取引先の要求として経路が指定されている、社内網がすでに分離されていて例外を作りたくない、といった場面です。効かないのは、心配の中身が「入力した文章が学習に使われること」だった場合です。それは経路ではなく、契約の条項と管理側の設定で決まります。経路を閉じても、学習に使われない保証はどこからも出てきません。

型4 自前:機材ごと自社の建物に置く形

4つ目は、機材まで自社に置く形です。この記事では比較の1列として、選ぶ条件だけに絞ります。自前が必要になるのは、経路も置き場も契約の相手も自社の内側でなければならない場合です。外に出せない設計図面、まだ出願していない技術文書、取引先から預かって持ち出しを禁じられた実験データが主な対象になる用途がこれに当たります。

見落とされる制約は、契約書ではなく建物の側にあります。事業者の解説では、演算を担う装置を積んだサーバは一般的なサーバに比べて消費電力と発熱が大きいため、設置先の電源容量や空調の能力を事前に確認する必要があり、既存のサーバ室では電力やラックの空きが不足する場合も多いとされています。稟議が通っても置けない、という止まり方をします。自前を検討に入れる時点で、情シスの担当者ではなく施設や総務の担当者に電源と空調の余裕を聞いておくのが、順番として正しくなります。

一方で、自前と「全部を自社で面倒を見る」の等式は崩れています。冒頭のクローズドAIエージェントでは、オンプレミス版でも専用環境の構築から運用、保守、セキュリティ管理までを提供側が担う形が示されました。発表の背景でも、プライベートクラウドやオンプレミスで進めるケースはあるが、基盤の構築・運用やセキュリティ対策を自社で担う必要があり負担になっている、という課題が名指しされています。ただし面倒を見てもらう範囲は契約で決まります。どこまでが自社の仕事として残るのかを、見積もりの段階で線として引いておく必要があります。

2026年に増えた選択肢は、運用を誰が担うかを変えた

2026年8月17日に始まった形は、利用企業ごとに専用に構築された環境を、閉域ネットワーク経由で利用するものです。設計図面や技術文書、契約情報、顧客情報といった機微なデータを扱うAIエージェントを動かし、データを外部に持ち出さず、専有の演算装置と、多数の処理をまとめて動かす基盤の上で処理する、と説明されています。提供方法はプライベートクラウド版とオンプレミス版の2つ。国産の大規模言語モデルや公開されているモデルを専用環境で実行でき、業務データや指示文が外部のAIサービスへ送信されることはない、とされています。

ここで新しいのは、経路でも置き場でもありません。閉じた経路も専用の基盤も、以前から選べました。変わったのは、その環境の面倒を誰が見るかです。構築から運用、保守、セキュリティ管理までを提供側が担う形になったことで、これまで「閉じたいが自社に運用体制がない」で止まっていた検討が、体制の話を外して進められるようになりました。逆にいえば、運用体制を理由に閉域を諦めていた会社は、その理由をもう一度点検する必要があります。

同時に、過大に読まないための材料も発表の中にあります。今後の展開として、指示文に細工をして不正な出力をさせる攻撃への対策など、AIエージェント特有の脅威への対応と、統制の機能の強化を進めるとされています。つまり専用環境を選んでも、エージェント特有の対策はこれから積み増される領域です。料金についても記載はなく、申し込みは営業担当への問い合わせとされています。だから比較の段では、金額そのものではなく、何に対して費用が増えるかで見ることになります。

分かれ目は、安全性の順位ではなく3つの問い

4つの型は、順位表からは選べません。選べるのは、次の3つの問いに別々の答えを出したときです。3つはどれも、技術の担当者だけでは答えが出ない問いになっています。

  • この用途で扱う情報は、規約への同意だけで使えるサービスに入れてよいものか。入れてよくないなら、規約に個別契約を重ねる形が最初の選択肢になる
  • 監査や取引先の確認で、どこまで説明する義務を負うか。記録が残るか、その記録を自社が読めるかを、契約の前に確かめる
  • 止めるとき、出るときに、渡したものと加工された成果物をどうやって回収するか。回収の条項を書けない相手なら、置き場を自社側に寄せる

1つ目がいいえなら、共用テナントに個別契約を重ねる形以上が必要になります。デジタル庁のガイドラインは6.1.2で、導入の類型を開発を伴うかどうかと、契約の形態の2軸で3つに分けています。個別開発をせず定型約款や規約への同意だけで使う形、個別開発はしないが約款への同意に加えて個別契約を結ぶ形、個別開発を実施して個別契約を結ぶ形の3つです。そして、求める必要のある要求事項がある場合には、1つ目ではなく2つ目か3つ目の形で調達することを検討する、と書かれています。共用のまま2つ目に寄せるという道が、専用環境の検討より先に置かれているわけです。

2つ目と3つ目は、多くの社内検討で後回しにされます。後回しにできる理由は単純で、契約の前に聞かなくても導入は進むからです。ただし監査の場で聞かれるのは導入の1年後で、そのときに条項がなければ交渉のやり直しになります。3つの問いは、順番に答えるのではなく、同じ1枚の紙に3つの欄として並べて、空欄のまま次に進まないようにするのが実務では効きます。

費用は、型ごとに増える対象が違う

金額の比較表は作れません。公表されていない形が多いからです。代わりに、何に対して増えるかを型ごとに書き出します。共用テナントは、処理した文章の量に対して増えます。使う人が増えれば増え、使わない月は減ります。専用テナントは、切り出した容量に対して増えます。使わない月も減りません。閉域接続は、経路の本数と帯域に対して増えます。切れたときに備えて経路を二重にすると、通信の費用は2倍に近づきます。自前は、機材の調達に加えて、電力、空調、置き場所、そして面倒を見る人に対して増えます。

増え方の違いは、同じ出来事が別の症状として現れることを意味します。手順を踏んで考えさせる使い方やAIエージェントでは、1つの仕事で消費する文章の量が、短い要約と比べて大きく跳ね上がる傾向があると指摘されています。この増加は、共用の従量課金では請求書の数字として現れます。専用の定額では、請求書は変わらず待ち時間として現れます。どちらが困るかは会社によって違いますが、どちらの形で現れるかを知らずに契約すると、原因の見当がつかない不調として扱われます。

費用の話でいちばん揉めるのは、金額ではなく負担部門です。全社に開ける形にすると、使う部門と払う部門がずれます。使う部門と払う部門がずれたまま始めない。情シスの予算で全社分を持ったまま半年が過ぎると、「うちは使っていないのに費用が乗っている」という指摘で止まります。逆に部門ごとの契約に割ると、同じサービスの契約が社内に複数でき、記録が分断されて監査で説明できなくなります。どちらに寄せるかは、費用の総額よりも先に決める項目です。

見積りの前に数える4つの量

専用テナントや閉域接続の見積もりは、こちらが数を出さないと出てきません。出てきたとしても、根拠のない前提の上に乗った数字になります。数えるのは次の4つです。1つ目は利用者数で、席数ではなく月に1回以上使う人の数。2つ目は同時に使う人の最大数で、朝の始業直後や月末など、時間帯を特定して数えます。3つ目は1件あたりの処理の重さで、短い要約か、長い文書の読解か、手順を踏むエージェントかで桁が変わります。4つ目は参照させる文書の量と、その更新の頻度です。

数えないまま専用に切り出すと、容量が上限として効いてきます。実務の報告では、同時にアクセスが集まった時点で処理が落ちる、という形の失敗が挙げられています。共用テナントでは混雑は事業者の側で吸収されますが、専用では自社が見積もった容量がそのまま上限になります。使えない時間帯が固定で発生すると、利用者は使わなくなり、翌年の稟議で「使われていない」という理由で削られます。

数え方には順番があります。すでに共用で試している用途があるなら、その利用の記録から2つ目と3つ目は取れます。試していないなら、共用で2週間から4週間動かして数えてから、専用の見積もりを取る。逆にすると、見積もりの前提を事業者が決めることになり、その前提が自社に合っているかを検証できません。概念検証の段では対策を全部そろえなくてよい、というのもガイドラインが6.1.2で示している考え方です。段階やリスクの程度に応じて、対策が不十分にも過剰にもならないよう釣り合いを考える、と書かれています。

監査で見られるのは形ではなく記録の残り方

閉じた形にしたことが、監査の場でそのまま評価されるわけではありません。総務省のガイドラインは3.5で、AIに固有の脅威への対策だけでなく、情報システムとして基本的な対策が重要だとして、監査ログの保存による追跡可能性の確保、大量のアクセスを抑えるための回数制限の導入、開発環境における開発者の権限管理、構成要素の信頼性の確認を挙げています。形ではなく、この4つが揃っているかを聞かれます

同じ節の脚注には、実務で効く一文があります。AIの仕組みの用途や目的、提供の条件などによって、監査ログを保存できるかどうか、保存された記録を参照できる者の範囲が異なり得る、という留意です。つまり記録が残るかどうかは、型ではなく提供の条件で決まります。閉じた経路と専用の基盤を選んだのに、その中の記録を自社では参照できない、という組み合わせは成立します。デジタル庁のガイドラインも6.3.1で、入力や出力、アクセスの履歴といった記録の取得と管理を適切に行う必要があるとしています。何をどの粒度で残すかは、契約の前に文字にしておく項目です。

もう1つ、専用環境を選んでも自動的には揃わないものがあります。同ガイドラインの要求事項には検証可能性の項目があり、仕組み、モデル、データについて、概要や成り立ち、動作を記録や技術仕様から検証できるようにする管理が求められています。その手段として、仕組み、モデル、データそれぞれの説明書を作成して管理する例が示されています。専用に切り出した基盤の中身は自社の説明責任の対象になるので、説明書を誰が書いて誰が更新するかを、契約の役割分担に含めておく必要があります。

閉じても消えない3つの穴

1つ目は、社内の参照権限です。総務省のガイドラインが3.4で挙げているとおり、文書を検索して答えさせる仕組みのデータと、その置き場への参照権限は、利用者や役割に応じて設定する必要があります。閉域の中に全社の文書を1つの索引としてまとめない。まとめた時点で、等級や部門で見えてはいけない文書が回答の中に現れます。デジタル庁のガイドラインも6.3.1で、扱う情報の格付や取扱制限に従い、権限を持つ者だけがアクセス制御の設定を行える機能を設けることを求めています。その脚注では、入力が学習される設定になっている場合、入力した本人以外にも漏れる形のリスクへの対処が必要だと補われています。

2つ目は、入力してよいものの線引きです。閉じても、入れてよいものと入れてはいけないものの区別は残ります。ここは経路の設計では埋まらないので、閉域接続の工事と同じ時期に、線引きを書いて配る作業を別立てで走らせることになります。順番を間違えて経路だけを先に完成させると、線引きのない閉じた入口ができあがります。

3つ目は、外から来る指示文です。総務省のガイドラインが対象としている主な脅威は2つで、細工をした入力によって意図しない出力をさせる攻撃と、膨大な処理を要する入力で負荷をかける攻撃です。対策としては、入力の検証、外部から参照するデータの検証、入力と外部参照データを明確に区分させること、出力の検証、そして各仕組みを操作する部分の権限を必要最小限にすることが挙げられています。そして同ガイドラインは、AIエージェントについては技術が急激な発展の途上にあり、特有の脅威や対策を安定的に確定することが現時点では困難であるため対象外としていると明記しています。閉じた環境でエージェントを動かすなら、拠り所になる公的な整理がまだない範囲を、自社で決めることになります。

  • この記事の型分けは、経路・処理と保存の場所・契約の形の3つを軸にした整理です。事業者ごとに呼び方は異なります
  • 引用したデジタル庁と総務省の文書は、いずれも政府や行政機関を対象にしたものです。民間企業に直接適用されるものではありませんが、確認すべき項目の立て方としては参考になります
  • 各サービスの料金は公表されていない場合があります。金額ではなく、何に対して増えるかで比べてください

AIに任せる工程と、人が決める工程を先に分ける

この検討でAIに任せてよい範囲は、3つに絞れます。1つ目は、いま社内で使われているAIサービスの棚卸しです。部門ごとの契約の有無、使っている入口、入れている情報の種類を表に起こさせます。2つ目は、要件と構成案の下書きです。経路・置き場・契約の形の候補を3案の形で書かせます。3つ目は、監査で聞かれる項目の洗い出しです。公表されているガイドラインの章立てを渡し、自社の用途に当たる項目を列に起こさせます。この3つは、人が手で作るより速く、抜けも少なくなります。

人が決めるのは4つです。共用か専用かの決定費用の負担部門監査で説明する範囲止めるときの手順。この4つをAIに預けてはいけない理由は、能力の限界ではなく判断の性質にあります。どれも、間違えたときに元へ戻す先が社外にある決定です。

線引きを仕組みにする方法を2つ書きます。1つは、下書きを2回に分けて頼むことです。1回目は事業者の資料をいっさい渡さず、自社の用途と扱う情報の区分だけを書いた紙を渡して、構成案を3つ出させます。2回目に事業者の資料を渡し、3案のどれに当てはまるかを判定させます。1回目と2回目を混ぜると、資料に書いてある形に構成案が引き寄せられ、比較の役に立ちません。もう1つは、決定の書式にAIが埋めてはいけない4つの欄を空欄として印刷しておくことです。型の決定、負担部門、説明範囲、停止手順の4欄を承認者の署名欄と並べておくと、下書きのまま回付されても、その4欄は空のまま承認者の前に届きます。

もう1つ、やらせてはいけない頼み方があります。この用途は専用が必要かをAIに判定させない。質問文に機微、顧客情報、設計図面といった語が入っていると、ほぼ常に専用が必要という答えが返ってきます。安全側に寄った答えは一見正しく見えますが、費用の側の検討がまるごと消えます。判定を頼むのではなく、判定に使う条件の一覧を出させて、当てはまるかどうかは人が丸と叉で埋める。埋める人が誰かも、一覧と一緒に決めておきます。そして構成案には、その案を選んだときに落ちる機能を必ず併記させます。落ちるものが書かれていない案は、比較の対象に入れません。

形を変えるときの順番

いま共用で動いているものを閉じた形に移す、あるいは閉じた形で作ったものを共用へ戻す。どちらの向きでも、順番は同じです。

STEP1
いま使われているものを数える

部門ごとの契約、使われている入口、入れている情報の種類を1枚に集めます。ここで必ず、把握していなかった契約が出てきます。

STEP2
用途を3つの束に分ける

公開してよい情報だけを扱う束、社内限りの情報を扱う束、出たら取引先や本人に影響が及ぶ情報を扱う束の3つに割ります。

STEP3
束ごとに、経路・置き場・契約を別々に選ぶ

3つの束に同じ形を当てないこと。ここで4つの型のうち複数が同時に選ばれるのが正常です。

STEP4
1つの束だけを新しい形に移し、量を数える

2週間から4週間動かし、利用者数、同時に使う人の最大数、1件あたりの重さ、参照させる文書の量を実測します。

STEP5
記録・負担部門・停止手順を書式に落とす

実測した数と一緒に、記録の粒度、費用の負担部門、止め方の3つを文字にしてから、次の束に進みます。

逆にやってはいけない順番は、全社の形を先に決めて、あとから用途を当てはめることです。この順で進めると、いちばん重い用途に合わせた形が全社に適用されます。費用は跳ね、軽い用途の担当者は使いにくさを理由に別の入口を探します。探した先は記録に残らないので、棚卸しにも現れません。全社に1つの形を敷くことは、統制を強めるように見えて、把握できる範囲を狭めます。

移すときの実務で、いちばん見落とされるのは出力の癖の違いです。共用で動いていた指示文が、専用環境の別のモデルでそのまま動くとは限りません。移す前に、実際に使われている入力を20件そろえて答えを保存しておき、移した後に同じ20件を通して並べます。差が出た指示文だけを直せば済むので、全部を書き直す事故を避けられます。総務省のガイドラインも3.5で、対策を見直す時機として、基盤となるモデルに変更があった段階や、新たな学習をした段階を挙げています。移設は、その見直しの時機そのものです。

出口と止め方を、入る前に書いておく

デジタル庁のガイドラインの別紙4は、9項目の取決め事項のうち8項目目を、事故や特有のリスクが現れた場合の事業者の対応義務、協力、そしてその範囲に充てています。補足では、被害を最小限に食い止めること、原因を特定するための情報やデータを求めに応じて合理的な範囲で提供すること、サービスの停止、原因の特定と改善措置、必要に応じて監査を行うことを、あらかじめ合意しておく必要があるとされています。契約を結んだ後に頼めることではなく、結ぶ前に書く項目として並んでいます。

出口として書いておく項目は3つです。1つ目は、終わるときに、こちらが入れたものと、それを加工した成果物がどうなるか。先に触れたとおり、チェックシートはこの2つを別項目として立てているので、契約書でも別の条項にします。2つ目は、専用に切り出した基盤を解約したときに、記録がどう引き渡され、どこまでの期間保存されるか。3つ目は、次の形へ移るまでの並行稼働の期間と、その間の費用をどちらが持つかです。

止め方は、条項ではなく手順として書きます。止める順番を、入る前に1枚に書いておく。閉域接続を選んだ場合、AIの契約と経路の契約は別に存在します。AIの契約だけを止めると、使われていない経路の費用が残ります。逆に経路を先に落とすと、専用環境の中の記録を取り出せなくなります。誰が止められるかを役職ではなく名前で決め、止める順番と、止めたことを誰に知らせるかまで書いておくと、退任や異動をまたいでも手順が残ります。

うまくいかない4つの型

下に並べる4つに共通するのは、決める順番が入れ替わっている点です。用途を数える前に形を決める、形を決めた後に権限を設計する。この2つの入れ替えが、4つすべての手前に置かれています。

  • 安全性の高い順に4つを並べて、いちばん上を選ぶ。経路と置き場と契約は別の軸なので、1本の順位に潰すと費用だけが上がり、記録の要件が抜ける
  • 全社に1つの形を敷く。いちばん重い用途に合わせた形が、軽い用途の担当者を記録に残らない別の入口へ押し出す
  • 閉じたから社内の参照権限は後回しにする。全社の文書を1つの索引にまとめた時点で、見えてはいけない文書が回答に出る
  • 共用での利用記録を取る前に、専用環境の見積もりを依頼する。前提を事業者が決めることになり、その前提を自社で検証できない

4つのうち3つ目だけは、閉じたこと自体が原因のように見えます。実際には、閉じる工事と権限の設計を、同じ担当者が同じ期間に抱えたことが原因です。経路の工事には工期があり、期日が動きません。権限の設計には期日がないので、後ろに送られます。期日のない仕事に期日を付けるのが、この検討でいちばん効く一手です

4つ目は、見積もりを急ぐ会社ほど踏みます。年度の予算の締めに間に合わせるため、数える前に依頼を出す。返ってきた数字は、事業者が置いた前提の上に乗っています。前提が自社に合っているかを確かめる材料がないので、比較しているつもりで、事業者の想定を比較していることになります。2週間の実測を先に置くだけで、この構造から抜けられます。

まとめ

閉域網にするかどうかは、安全性の順位付けでは決まりません。決まるのは、経路・処理と保存の場所・契約の形という3つを別々に選び、扱う情報の区分と、監査で説明する範囲と、止めるときの手順を書き出したときです。共用テナントは妥協ではなく、規約への同意だけでは条件を書き込めないという点が限界であって、個別契約を重ねれば多くの用途はここで足ります。専用テナントは条件を固定できる代わりに更新の速さを失い、閉域接続は経路の指定が要求として来る場合に効き、自前は電源と置き場の制約が契約より先に来ます。2026年に増えた選択肢が変えたのは経路でも置き場でもなく、その環境の面倒を誰が見るかでした。そして閉じても、社内の参照権限と記録の残り方は自動的には揃いません。次の一手は、全社の形を決めることではありません。いま動いている用途を1つ選び、その1つについて経路・置き場・契約を別々に書き分けてみる。書き分けられなかった欄が、社内でまだ決まっていない項目です。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

AI活用を戦略に落とす前に、まずは導入・定着から始めませんか?

デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。

運営会社:株式会社デボノ

目次