ネット調査と会場調査の選び分け|手法で変わる結果

ネット調査と会場調査の選び分け|手法で変わる結果

日本マーケティング・リサーチ協会が2025年6月に公表した第50回経営業務実態調査によると、2024年度のアドホック調査のうち量的調査を100としたとき、インターネット調査(モバイル含む)は72.8パーセント、訪問調査と会場調査をまとめた区分は11.3パーセント、郵送調査は8.6パーセントでした。遠隔で聞く調査が大半ですが、一室に集めて聞く調査は消えていません。「ネットなら安く早く数が取れるので、まずネットで回した」「会場に集める調査を勧められたが、ネットとの違いを社内に説明できなかった」——調査の相談を受ける場では、この二つが並んで出てきます。手法の違いは費用と速さの違いではなく、何を測れて何を測れないかの違いです。この記事では、遠隔で大人数に聞く調査、一室に集めて実物を試してもらう調査、同じ人に何度も聞く調査の三つについて、測れることと測れないこと、選び分けの判断軸、繰り返し聞く調査で目減りする実数、そしてAIに任せられる範囲を整理します。


カメ先生カメ先生

手法の選び分けは費用と納期で決まると思われがちですが、実際には測りたいものの性質で決まります。


カメ子カメ子

同じことを聞くなら、どの手法でも近い答えが返ってくるのではないのですか。


カメ先生カメ先生

返ってきません。実物を手に取ってから答えた評価と、写真を見て答えた評価は別のものです。同じ人に毎年聞いた変化と、毎回別の人に一度ずつ聞いた変化も別のものです。


カメ子カメ子

聞き方が違えば、同じことを聞いても別の数字になるということですね。


この記事のポイント
  • 三つの手法は代替ではない。業界統計でも、遠隔に置き換わった形式と置き換わらなかった形式が分かれている
  • 選び分けは、量か理由か、実物に触らせるか、変化を個人単位で追うか、対象者の希少さ、日数と費用の桁の順に当てる
  • 設問の下書きと自由回答の仕分けはAIに任せられる。手法の選択と、結果を代表と見なしてよいかの判断は人が持つ

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目次

三つの手法は、置き換わっていない

まず実測から入ります。日本マーケティング・リサーチ協会の経営業務実態調査は、回答した会員社の売上を手法別に集計しています。アドホック調査の量的調査を100としたときの構成比を2019年度、2023年度、2024年度の3時点で並べると、遠隔で聞く調査に一本化したわけではないことがはっきり見えます。インターネット調査は68.7パーセントから73.3パーセント、そして72.8パーセントで、直近は横ばいです。訪問調査と会場調査をまとめた区分は13.0パーセントから9.2パーセントへ下がったあと、11.3パーセントまで戻っています。

量的調査を100としたときの構成比2019年度2023年度2024年度
インターネット調査(モバイル含む)68.773.372.8
訪問調査と会場調査をまとめた区分13.09.211.3
郵送調査7.08.08.6
電話調査0.70.10.2

もっと分かりやすいのは、人に話を聞く形式の側です。質的調査を100としたとき、グループインタビューは2019年度の37.3パーセントから2024年度は29.2パーセントに下がり、一人に長く聞くデプスインタビューは34.2パーセントから47.4パーセントに上がって、順位が入れ替わっています。同じ2024年度の集計には、それぞれの形式がどれだけオンラインで実施されたかも載っています。デプスインタビューのオンライン割合は68.9パーセント、グループインタビューは29.9パーセントでした。一人ずつ聞く形式は遠隔に移り、複数人を同じ場に集める形式は遠隔に移らなかった、という線がここに出ています。

継続して同じ相手に聞く調査も減っていません。調査デザイン別の売上構成比では、パネル調査が2019年度24.8パーセントから2024年度27.2パーセント、その他の継続調査が7.4パーセントから14.2パーセントで、二つ合わせると32.2パーセントから41.4パーセントに増えています。一方で一時点で完結するアドホック調査は57.9パーセントから52.6パーセントに下がりました。三つの手法は、それぞれ別の需要に応えているから並存している、と読むのが素直な解釈です。

三つの手法は、それぞれ何をする道具なのか

言葉の整理をしておきます。この記事で扱うのは、自分で人に聞く調査の三つの形です。一つ目は遠隔で大人数に聞く調査で、インターネット調査と郵送調査がこれに当たります。二つ目は一室に集めて実物を試してもらう調査で、会場調査、会場テストと呼ばれます。三つ目は同じ人に何度も聞く調査で、パネル調査や継続調査と呼ばれます。既にある情報を集めて読む机上調査は、自分で人に聞く行為が入らないので、この三つとは別の話です。

会場調査には、業界団体が定めた実施の規範があります。同協会の会場テストのガイドラインは1998年6月1日に初版が出て、2018年1月1日に改訂されています。街頭で声をかけて会場に来てもらう形を前提に、許可、人数、時間、対象者の権利までを規定した文書です。つまりこの手法は、調査票の設計より前に、実施の段取りが決まっている手法だということです。後の章でその数字を見ます。

混ざりやすいものも挙げておきます。操作の詰まりを少人数で見つけるユーザーテストは、実物を触らせるという点では会場調査と似ていますが、目的が割合の把握ではなく問題箇所の発見なので、必要な人数の考え方が違います。自前でやるか外部に頼むかの判断、費用と精度の兼ね合い、設問の作り方や回収数の決め方は、手法を決めたあとの話なので、この記事では踏み込みません。いずれも別の記事で扱っています。

何を測れて何を測れないかの対照表

三つの手法を、測れるものと測れないもので並べます。費用と納期の欄をあえて外しました。費用と納期から選ぶと、測れないものを測ろうとしている状態に気づけません。先に見るのは、測りたいものが手法の射程に入っているかどうかです。

見る点遠隔で大人数に聞く一室に集めて試してもらう同じ人に何度も聞く
得意なこと量の把握(割合・順位)実物に触れたうえでの反応個人単位の変化
一度に届く規模数百から数千数十から百数十登録して続けている人の範囲
実物の提示できない(写真と文章まで)できる(味・香り・重さ・操作)原則できない
取れないもの触ったら違ったという反応全体に当てはめられる割合新しく入ってくる人の姿
一度に聞ける量の目安10分前後長くても30分程度毎回短く、回数で稼ぐ
結果が動く主な原因登録者の偏り、流し読み会場の雰囲気、その場の説明抜けていく人、聞き方の変更
向く使いどころ割合を出す、案を絞り込む案を実物で比べ、理由を聞く施策の前後を追う

この表で一番使えるのは「取れないもの」の行です。遠隔で聞く調査は、写真と文章で伝わる範囲までしか反応を取れません。会場調査は、少人数なので出てきた比率を全体の割合として扱えません。同じ人に何度も聞く調査は、登録して続けている人の変化しか見えないので、あとから市場に入ってきた人の姿が抜けます。手法を一つ選んだ時点で、この行に書かれたものは今回の調査では分からないと決まります。決まったことを先に書き出しておくと、報告のときに分からないことを分かったように書く事故が減ります。

遠隔で大人数に聞く調査で取れるもの、取れないもの

遠隔で聞く調査の取り分は、です。どの案を何割が支持したか、どの言い方が一番選ばれたか、どの層で差が出たか。数百から数千の回答が数日で集まるので、割合と順位を出す用途では他の手法が追いつきません。第1章で見たとおり、量的調査の7割強がこの手法に寄っているのは、この取り分が強いからです。

取れないのは、実物に触れたあとの反応です。パッケージの持ちやすさ、開けにくさ、香りの強さ、想像より重かったという感触は、画面の写真からは出てきません。ここを混同すると、写真では選ばれた案が、実物では選ばれないというずれが後から出ます。遠隔で聞けるのは「この写真と説明を見てどう思うか」までで、「これを使ってどう思うか」は別の手法の担当です。

もう一つ、構造的な限界があります。同協会のインターネット調査品質ガイドラインは、「住民基本台帳の閲覧ができない今、何かしらの手段で生活者の声を聞くためには、インターネット調査のアンケートモニターに頼らざるを得ない」と書いています。つまり回答者は、登録している人の中から選ばれます。同じガイドラインは「1年間継続しているモニターは全体では約4割にとどまっている」とも書き、定期的に回答する人の割合は2013年を1.0としたとき2018年は0.54の水準まで下がり、2019年は0.66へやや戻ったと報告しています。遠隔で大人数に聞けたという事実は、その大人数が市場全体を代表している証拠にはなりません

  • 回答した人数が多いことと、対象を代表していることは別の話。人数は代表性の根拠にならない
  • 回答デバイスは2018年にスマートフォンが半数を超え、2019年は56パーセント。新規登録者は2019年時点で約8割がスマートフォンからの登録
  • 登録者の年齢や職業の分布は調査会社ごとに違う。同じ設問でも会社が違えば数字が動く前提で読む

一室に集めて実物を試してもらう調査でしか取れないもの

会場調査の取り分は、実物です。味、香り、重さ、手に持ったときの収まり、蓋の開けにくさ、二つ並べたときの見え方。写真と文章では代わりにならないものを、同じ条件で複数の人に試してもらえます。飲料や食品、日用品、化粧品のように使ってみないと評価が定まらない商品で、この手法が残っているのはそのためです。

見落とされがちなのが、答えた内容以外に取れるものです。どこを最初に見たか、どこで手が止まったか、説明を読まずに使い始めたか、開け方を間違えたか。回答用紙には出てこない行動が、その場では観察できます。遠隔の調査で「開けにくかったですか」と聞けば、開けにくかったという回答は取れますが、実際に開けられなかった人が何人いたかは取れません。この二つは同じ数字ではありません。

比較の設計も会場向きです。同じ人に案を順に試してもらえるので、「どちらが良いか」を本人の中で比べさせられます。遠隔で二案を別々の人に見せる方法では、人の違いと案の違いが混ざります。ただし順に試させると、先に触った案が有利になったり不利になったりするので、提示する順番を人ごとに入れ替えて配るのが前提になります。この配り方を決めずに実施すると、案の差ではなく順番の差を測ることになります。

会場に集める調査は、実施の制約と担い手が先に立つ

会場調査を検討するときに最初に見るべきは、費用ではなく実施の制約です。同協会の会場テストのガイドラインには、数字で書かれた条件が並んでいます。調査対象者の出現率については、「10%以下の調査は、この手法にこだわらず出現率に応じた有効な調査手法をクライアントに別途提案を行うことを原則とする」。会場での調査所要時間は「常識的な範囲(長くても30分程度)にとどめるよう努力する」。1日の調査時間は「午前10時~午後5時までを原則とする」。声をかける人数も「1会場につき常時3名までとする」と決まっています。

この四つを掛け合わせると、1日に会場を通せる人数の上限がおおよそ決まります。出現率が10パーセントを下回る対象者を、7時間、3名の声かけで集めるのは無理があるという判断が、ガイドラインの側から先に出ているわけです。声をかける前の絞り込みも「最低限の内容に留め」「時間にして1分以内を目安とする」と制限されているので、複雑な条件を街頭で確かめること自体が想定されていません。

運営側の義務も書かれています。会場には管理責任者を配置して「終日常駐」させる。「事前に会場へ連絡し、道路使用許可証の必要性を確認」し、必要なら取得して実施日に携帯する。対象者については「調査対象者の途中退出を妨げてはならない」「一切協力を強要することがあってはならない」と明記され、「拒否の意を明らかにした対象者に対し、さらに勧誘を行う」ことは禁じられています。会場調査は、人と場所と許可を押さえてから成り立つ手法だという前提を先に共有しておくと、社内での日程の見積もりが現実に寄ります。

制約に加えて、担い手の事情もあります。第50回経営業務実態調査で経営上の問題点を聞いた結果では、全回答社88社のうち調査員不足を挙げたのが29社で33.0パーセント、求人難が37社で42.0パーセント、人件費高騰が同じく37社で42.0パーセントでした。登録している調査員の数を答えた41社の合計は13,111人、1社平均320人です。現場で人に声をかける手が潤沢にある状況ではありません。

同じ調査の自由回答には、「訪問調査に対しての拒絶が急激に増加。強盗事件の影響が強」という記述も載っています。対面で声をかけて協力してもらう前提そのものが揺らいでいるという現場の報告です。第1章で見た訪問調査と会場調査の区分が2019年度の13.0パーセントから2023年度に9.2パーセントまで落ちたのは、需要が消えたからではなく、実施の難しさが増したという読み方もできます。

実務への含意は単純です。会場調査は、思い立ってから実施するまでの日数が他の手法より長く見積もられる。会場の確保、許可の確認、人の手配、実物の準備が並びます。逆に言えば、日程が動かせない案件でこの手法を選ぶと、対象者の条件を緩めて数を埋めるという妥協が起きます。条件を緩めた会場調査は、実物を試してもらえた点だけが残り、誰の反応なのかが分からなくなります。

同じ人に何度も聞く調査でしか取れないもの

繰り返し聞く調査の取り分は、誰がどう変わったかです。厚生労働省の中高年者縦断調査は、平成17年10月末時点で50歳から59歳だった全国の男女を毎年追いかけていて、第19回の概況が令和6年11月に公表されています。この調査で健康状態が「よい」と答えた人の割合は、第1回の84.8パーセントから第19回の75.1パーセントへ下がりました。ここまでなら、毎回別の人に聞いても近い数字は出せます。

同じ人を追ったからこそ出るのは、その次の表です。第1回に「よい」と答えた人のうち、第19回に「わるい」に変わっていたのは18.6パーセントでした。世帯の側でも、第1回に「親なし子ありの世帯」だった人の47.4パーセントが第19回には「夫婦のみの世帯」に変わっています。全体の割合の推移からは、この移り方は取り出せません。全体の割合が動かないときでも、中では上がった人と下がった人が打ち消し合っていることがあります

マーケの場面に置き換えると、施策の前後で同じ人の評価がどう動いたか、離れていった人が何をきっかけに離れたか、使い続けている人が何を理由に続けているかが、この手法の担当です。逆に、施策を打つたびに別の人に聞く形では、数字が動いたときに「人が変わったのか、評価が変わったのか」を分けられません。同じ人に聞き続けるという設計だけが、この二つを分けます。

繰り返し聞く調査は、抜けていく

この手法の弱点も、同じ公的統計から実数で見えます。中高年者縦断調査の第1回は、調査客体40,877人に対して回収客体34,240人、回収率83.8パーセントでした。第19回は調査客体18,634人に対して回収客体17,875人、回収率95.9パーセントです。回収率だけを見れば、回を重ねるほど良くなっています。ところが概況は、「回収客体数(17,875人)のうち、第1回調査から第19回調査まで集計可能である15,523人を集計客体とした」と書いています。

第1回に答えてくれた34,240人と、19回すべて集計できた15,523人を並べると、18年で残ったのは45.3パーセントです。各回の回収率が90パーセント台後半でも、通しで残る人は半分を割ります。理由は分母です。各回の回収率は、その回の対象として残っていた人に聞けた率であって、最初の人たちに聞けた率ではありません。回を重ねるほど分母が小さくなるので、率は上がり、実数は減ります。

残った人が偏るという問題も付いてきます。19回答え続けた人は、18年間、住所が追えて、答えられる状態が続いた人です。引っ越した人、体調を崩した人、答えるのをやめた人は集計から抜けています。継続調査の数字は、続けられた人たちの数字だと言い直すと、報告の書き方が変わります。読み手に「誰の変化か」を先に伝えるだけで、全体の傾向と取り違える事故が減ります。

継続調査の報告に必ず添える三つの数
  • 最初の回に答えた人数と、今回まで通して集計できた人数
  • 今回の回収率と、その回収率の分母になっている人数
  • 途中で新しく入れた人がいるかどうかと、入れた場合の扱い

繰り返し聞く調査は、聞き方を変えると数字が動く

同じ統計には、手法を変えると結果が動くという実例も残っています。中高年者縦断調査の客体表には「※第5回まで、調査員調査により実施」という注が付いていて、第6回以降は郵送された調査票に本人が記入して返送する方法に変わりました。回収率を並べると、第5回が97.3パーセント、手法が変わった第6回が91.8パーセント、第7回が90.0パーセントです。対象者は同じ集団なのに、聞き方を変えた回で5ポイント以上動いています。

回を重ねた回答者の答え方が固まるという指摘もあります。選択肢の位置を覚えている、前回の自分の答えに寄せる、答えると次の質問が増える枝を避けるようになる。ただしこれは、その調査の中だけでは確かめにくい種類の変化です。確かめる手立てとしては、途中から入った人と最初から続けている人を分けて集計する方法が現実的です。同じ設問で二つの数字が離れていれば、慣れの影響を疑う材料になります。

運用の結論は三つです。継続する調査では、途中で聞き方を変えない。やむを得ず変えるときは、変えた回を記録して、その回をまたいだ比較を避ける。抜けた分を新しい人で埋めるなら、続けている人と混ぜず分けて集計する。この三つを最初に決めておかないと、数年後に「上がったのは施策の効果か、聞き方を変えたからか」を判別できなくなります。

  • 回を重ねるうちに設問の言い方を少しずつ直し、どの回から変わったのか分からなくなる
  • 抜けた人の分を新しい人で埋め、続けている人と混ぜて一つの数字として報告する
  • 各回の回収率が高いことを根拠に、通しで残っている人数を一度も確かめない
  • 変化が小さいので聞く間隔を詰め、回数だけ増やして回答者を疲れさせる
  • 遠隔で聞いていた調査を途中から対面に切り替え、前後を同じ折れ線でつなぐ

選び分けの判断軸は、五つで足りる

ここまでの材料を、選ぶための軸に組み直します。軸は五つで、しかも順番があります。上から当てていって、候補が一つに絞れたらそこで止めます。費用と日数を最後に置くのが要点です。先に置くと、測れないものを測ろうとしている状態のまま安い手法が選ばれます。

  1. 測りたいのは量か、理由か。割合や順位が欲しいなら遠隔で大人数、なぜそう思ったのかが欲しいなら少人数に長く聞く形
  2. 実物に触らせる必要があるか。味・香り・重さ・操作が評価に効くなら会場、写真と文章で伝わるなら遠隔
  3. 変化を個人単位で追うのか、一時点でよいのか。誰がどう変わったかが要るなら同じ人に何度も聞く形
  4. 対象者はどれくらい希少か。出現率が10パーセントを下回るなら街頭で集める形は避け、登録者の中から探す
  5. かけられる日数と費用の桁。会場と実物と人の手配が入る手法は、日数の桁が一つ上がる前提で見積もる

実務で効くのは第4の軸です。対象者の出現率を先に見積もらないまま手法を決めると、条件を緩めて数を埋める妥協が必ず起きます。会場テストのガイドラインが出現率10パーセントという線を明記しているのは、この妥協を先回りして止めるためだと読めます。出現率の見積もりは、既存の顧客データや過去の調査から概算で構いません。桁が合っていれば判断できます。

五つの軸を順に当てる

軸を当てる手順を並べます。所要は会議1回分です。重要なのは最後の工程で、選んだ手法で取れないものを先に書き出しておくことです。ここを飛ばすと、報告の段階で取れなかったものを推測で埋めることになります。

STEP1
測りたいものを一文で書く

「どの案が何割に支持されるか」「なぜ二番目の案が選ばれなかったか」「施策の前後で同じ人の評価がどう動いたか」のいずれかに寄せます。三つ全部を一文に入れられたら、それは三つの調査です。分けます。

STEP2
実物が要るかを確かめる

評価が実物の手触りや味に左右されるかを、社内の誰かが写真だけを見て判断できるかで試します。判断できないなら会場に寄せます。

STEP3
同じ人を追う必要があるかを決める

知りたいのが全体の割合の推移なら、毎回別の人でも足ります。誰がどう変わったかなら、同じ人に聞き続ける設計にします。

STEP4
対象者の出現率を見積もる

既存データや過去の調査から、100人に何人が条件に当てはまるかを概算します。10人を下回るなら、街頭で集める形は候補から外します。

STEP5
日数と費用の桁を当てる

会場、実物、人の手配が入る手法は、日数の桁が一つ上がります。動かせない締め切りがあるなら、その締め切りに合う手法の中で測れるものを選び直します。

STEP6
取れないものを書き出す

対照表の「取れないもの」の行を、今回の調査の注記として先に文書化します。報告書の限界の章は、この時点で書き終えておけます。

手法ごとに、一度に聞ける量の上限が違う

選び分けで見落とされやすいのが、聞ける量の差です。同協会のインターネット調査品質ガイドラインは、「本調査の回答所要時間は10分以内となるように設計する」「スクリーニング調査での回答所要時間は5分以内となるように設計する」と推奨しています。根拠として、「設問数が20問程度(回答所要時間が約10~15分)になると、離脱率が10%を超える場合がある」こと、絞り込みの調査では「15問程度(回答所要時間約5分)で離脱率が10%を超える可能性がある」ことを挙げています。

回答者側の意識も同じ方向です。同ガイドラインは「スマートフォン回答者は10分以上回答できるという人は2割に満たない」と報告しています。スマートフォンからの回答は2018年に半数を超え、2019年は56パーセントです。一方、会場調査の所要時間は「長くても30分程度」が目安とされています。遠隔で聞けるのは10分、一室に来てもらえば30分、繰り返し聞く形は毎回短くして回数で稼ぐ、という三つの上限が最初から違うわけです。

だから、聞きたいことが30分分あるなら、遠隔で聞く手法は最初から候補に入りません。分割して複数回に分けるか、来てもらう手法に切り替えるか、聞くことを削るかの三択です。10分に収まらない設問一覧を持ったまま遠隔で回すと、後半の設問だけ回答が薄くなり、その薄さが集計時には見えません。同ガイドラインは選択肢を増やしすぎることについても、「読み飛ばされる可能性が高く、回答品質が低下が懸念される」と書いています。画面の下まで読まれていない回答も、集計上は回答として並びます。

手法を決める前に、発注する側が決めておく項目

外部に頼むにしても自前でやるにしても、依頼する側が先に決めておく項目があります。ここが空欄のまま見積もりを取ると、手法の比較が費用の比較にすり替わります。決めるのは以下の九つで、いずれも調査会社が代わりに決められないものです。

  • 判断に使う数字を一つに絞る。何の数字が出れば決められるのかを一文で書く
  • 実物を触らせる必要があるか、写真と文章で足りるかを社内で先に判定する
  • 同じ人を追うのか、時点ごとに別の人でよいのかを決める
  • 対象者の条件と、その出現率の見積もりを持って行く
  • 結果を誰の代表として扱うかを決める。登録者の中の話か、市場全体の話か
  • 何日後までに結果が必要かと、その締め切りが動くのかどうか
  • 選んだ手法で取れないことを、どこで補うか(別の手法か、次回か、補わないか)
  • 継続する調査なら、途中で聞き方を変えないという取り決めを文書にする
  • 生の回答データを受け取る形と、保管する期間と、社内で見られる範囲

この中で最も効くのは五番目です。結果を誰の代表として扱うかを先に決めておくと、手法の候補が自動的に絞られます。市場全体の割合として社外に出す予定なら、登録者の中から集めた数字をそのまま使えるかを先に検討することになります。社内で案を絞るための材料なら、少人数の会場調査で足りることも多く、無理に人数を増やす必要がありません。

七番目も忘れられがちです。手法を一つ選べば、取れないものが必ず出ます。それを次の調査で補うのか、別の手法を組み合わせるのか、今回は補わないと決めるのか。三つのどれかを選んで書いておけば、報告を受けた側が「これは分からない」と正しく受け取れます。書いていないと、分からないことが分かったことのように扱われます。

AIに任せられる作業と、人が持つ判断

三つの手法のどれを選んでも、作業の一部はAIに任せられます。任せやすいのは、設問の言い回しの候補出し、自由回答を似た内容でまとめる仕分けの下書き、会場での観察メモを場面ごとに並べ直す整理、そして繰り返し聞いている調査で前回との差が大きい項目を拾い出す作業です。いずれも人が確かめる前提の下書きとして使う分には、手数がはっきり減ります。

渡し方には型があります。仕分けを頼むときは、渡すのは回答の本文と回答番号だけにして、属性は渡しません。属性を渡すと、内容ではなく属性から分類を推測した結果が返ってきます。出させる列は、分類名、根拠になった語、自信の高低の三つ。分類名だけを受け取ると、なぜその分類になったのかを後から確かめられません。確かめ方は件数で分けます。件数の多い分類は全数を人が見て、残りは分類ごとに無作為で抜き取ります。

任せない判断は二つです。一つは手法の選択。第10章の五つの軸は、社内の意思決定と締め切りと予算の事情が絡むので、外に出せる情報だけでは決まりません。もう一つは結果を全体の代表と見なしてよいかの判断です。登録者の中から集めた数字を市場全体の割合として扱うか、会場で聞いた数十人の反応を全体の傾向として報告するか。これは調査の外側にある責任の問題で、AIに根拠を書かせても代われません。

運用として決めておくと楽なのは、AIに判断させない範囲を先に線引きしておくことです。分類の下書きは任せる、分類の定義を決めるのは人。差が大きい項目の拾い出しは任せる、その差を施策の効果と呼ぶかどうかは人。この線を最初に引いておけば、作業が速くなっても結論の質は落ちません。逆に線を引かずに使うと、下書きがそのまま報告書になり、根拠のない断定が残ります。

よくある質問

ネット調査だけで済ませてよい場面はありますか

あります。判断に必要なのが割合や順位で、評価が実物の手触りや味に左右されず、同じ人を追う必要もない場面です。第1章で見たとおり量的調査の7割強がこの手法なので、多くの案件はここに当てはまります。ただし、結果を市場全体の割合として社外に出すなら、登録者の中から集めた数字であることを注記に残します。

会場に集める調査は、今も実施できるのですか

実施できます。訪問調査と会場調査をまとめた区分は2019年度13.0パーセント、2023年度9.2パーセント、2024年度11.3パーセントで、直近は戻っています。ただし調査員不足を挙げた会社が33.0パーセント、求人難が42.0パーセントという状況なので、日程の見積もりは他の手法より余裕を持たせます。出現率が10パーセントを下回る対象者を街頭で集める形は避けます。

同じ人に何度も聞く調査は、何回続ければ意味が出ますか

回数より、比べたい二時点の間隔で決まります。施策の前後を見るなら実施前と実施後の2回で足りますし、離脱の兆しを追うなら数か月おきに続けます。回数を増やすほど良くなるわけではなく、通しで残る人数が減っていく分だけ、比べられる範囲が狭くなります。最初に答えた人数と、通して集計できた人数を毎回記録しておくのが先です。

三つを組み合わせるとしたら、どの順番ですか

典型は、遠隔で大人数に聞いて案を数個に絞り、絞った案を会場で実物を試してもらって選び、選んだ案を出したあとは同じ人に繰り返し聞いて動きを追う順です。逆順にすると、会場で数十人に聞いた結果を全体の割合として扱う誤りが起きやすくなります。順番を決める基準は、絞り込みの段階では量、決める段階では実物、出したあとは変化、と覚えると迷いません。

少人数の会場調査の結果を、割合として報告してよいですか

割合の形で書くのは避けます。会場調査の取り分は、実物に触れたうえでどう反応したか、なぜそう思ったかの中身です。60人のうち40人が選んだという事実は書けますが、それを市場の67パーセントが支持したと読み替えると、誰を集めたかの偏りがそのまま数字の信頼性として扱われてしまいます。割合が必要なら、会場で見えた選ばれ方を遠隔の調査で確かめ直す形にします。

まとめ

三つの手法は、費用と速さで並ぶものではありません。遠隔で大人数に聞く調査は量を、一室に集めて実物を試してもらう調査は実物への反応を、同じ人に何度も聞く調査は個人単位の変化を担当します。業界統計を3時点で並べると、一人ずつ聞く形式は遠隔に移り、複数人を同じ場に集める形式は移らず、継続して聞く調査は増えていました。選ぶときは、量か理由か、実物が要るか、個人を追うか、対象者の希少さ、日数と費用の桁の順に当てて、決めた時点で取れないものを書き出します。繰り返し聞く調査では、各回の回収率ではなく通しで残った人数を見て、途中で聞き方を変えないと決めておきます。設問の下書きと自由回答の仕分けはAIに任せられますが、どの手法を選ぶかと、出た結果を全体の代表と見なしてよいかは、人が持つ判断です。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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