ヒューリスティック評価とは?|人を呼ばずに詰まりを探す

評価者が1人で画面を点検したとき、そこにある使いにくさのうち見つけられるのは3分の1あまりです。ヤコブ・ニールセンが自身の6件の案件を平均して出した数字で、原典には、単独の評価者が見つけたのは35パーセントだった、と書かれています。裏返せば、同じ原則の一覧を持った人があと2人か3人加わるだけで、拾える件数はまるで変わります。だから原典は、3人から5人、少なくとも3人で別々に見ることを勧めています。「利用者を呼ぶ予算も時間もないのに、来月までに改善案を出せと言われました」「担当者3人で画面を眺めたのに、出てきたのは好みの話ばかりで、直す順番が決まりませんでした」。——サイトの改善を任された担当者から、時期を選ばず届く声です。この2つは別の悩みに見えて、詰まっている場所は同じです。見る観点の一覧と、見つけた問題の重さの付け方が先に決まっていないので、何人で見ても意見の交換で終わってしまうのです。この記事では、利用者を1人も呼ばずに画面の詰まりを洗い出す手順を、原典の数字に沿って順に組み立てていきます。
カメ先生ヒューリスティック評価は、専門家が勘で画面を見る方法だと思われがちなんだ。でも本当は逆で、勘に寄せないために、あらかじめ決めた原則の一覧に照らすんだよ。だから一覧を持ってさえいれば、専門家でなくても点検そのものは回せる。
カメ子原則の一覧に照らすと、そのまま眺めたときと何が変わるのでしょうか。
カメ先生指摘の形が変わるんだ。どの画面のどこが、どの原則に反しているのか。この3つが揃うと、受け取った側が同じ場所を見られるし、直したかどうかも後から判定できる。一覧が無いと、見やすい見にくいという感想のところで止まってしまうんだよ。
カメ子利用者を呼んで試してもらう調査と、原則に照らす点検は、答えを持っている側が違う、ということですね。
- 原則の一覧は原典の10項目をそのまま使う。番号は優先順位ではなく、見落としを防ぐための着眼点
- 評価者は3人から5人。1人が見つけられるのは3分の1あまりなので、互いの結果を見ずに書いてから突き合わせる
- AIには原則との照合と一覧づくりを任せ、重大度と直す順番の判断は人が持つ。目的も社内の事情も渡していないから
データ分析にAIを活かす第一歩、まずは導入から始めませんか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
利用者を呼ばずに、原則の一覧に照らして点検する
ヒューリスティック評価とは、あらかじめ決めておいた使いやすさの原則の一覧に、評価者が画面を1つずつ照らして問題を洗い出す方法です。1990年にヤコブ・ニールセンとロルフ・モーリックが考案し、1994年にニールセンが249件の使いにくさの実例を分析して、説明力がいちばん高くなる形に10項目へ整理し直しました。原典が公開されたのは1994年4月で、2024年1月に見直しが入っていますが、10項目そのものは1994年から変わっていません。30年以上、項目が動いていない点検表だということです。
名前に経験則という語が入っているのには理由があります。原典には、これらを原則と呼ぶのは、細かい使いやすさの指針ではなく大まかな経験則だから、という注が付いています。つまりこの一覧は、答えそのものを与えるものではなく、見落としを防ぐための着眼点です。原則に照らすというのは、勘で見ないための手続きであって、勘を使わないという意味ではありません。判断は人がしますが、判断する場所を一覧が指定してくれます。
何を測っているのかは、使いやすさの国際規格9241の第11部(2018年版)を見ると輪郭がはっきりします。そこでは使いやすさを、特定の利用者が特定の状況で特定の目標を達成するときの、有効さ、効率、満足度の度合いと定めています。有効さは目標をどれだけ正確に漏れなく達成できたか、効率はそのために使った資源、満足度は使った人の反応が求めるものに合っていたかです。評価者が原則に照らして拾えるのは、このうち有効さと効率を妨げていそうな箇所までです。満足度は、実際に使った人に聞かないと分かりません。この線引きを最初に共有しておくと、後で結果の読み違いが起きません。
10の原則を、原典の項目名のまま並べる
自社で観点を考える必要はありません。原典の10項目をそのまま使います。順番は原典の並びで、番号は重要度の順ではありません。並べ替えたくなりますが、番号がずれると評価者の間で指摘が照合できなくなるので、番号は原典のまま動かさないのが実務では速いです。次の表は、10項目それぞれについて、原典が言っていることと、会社のサイトで崩れやすい場面を並べたものです。
| 原則(原典の並び) | 原典が言っていること | 会社のサイトで崩れやすいところ |
|---|---|---|
| 1 いま何が起きているかを見せる | 適切な時間内に適切な手応えを返し、状況を常に伝える | 送信を押しても画面が変わらず、同じ申し込みが二重に届く |
| 2 現実の世界の言葉に合わせる | 社内の言い回しではなく、利用者になじみのある言葉と概念を使う | 社内の商品コードや部署名が、そのまま画面の見出しになっている |
| 3 やめる自由と戻る自由を与える | 誤って始めた操作から抜ける非常口を、はっきり示す | 資料請求の途中でやめる導線がなく、戻ると入力が全部消える |
| 4 一貫性と、世の中の作法に従う | 違う言葉や場面が同じ意味かどうかを、利用者に考えさせない | 同じ操作が「送信」「申し込む」「確定」と画面ごとに変わる |
| 5 誤りを、そもそも起こさせない | よい誤り表示は大事だが、問題が起きない設計のほうが優れている | 半角しか受け付けない欄が、貼り付けた文字列を黙って弾く |
| 6 覚えさせず、見て分かるようにする | 要素と操作と選択肢を見える形にし、前の画面の内容を覚えさせない | 確認画面に入力内容が出ず、戻って確かめるしかない |
| 7 慣れた人には近道を用意する | 不慣れな人には隠したまま、慣れた人が速く進める道を用意する | 毎月申し込む取引先が、毎回すべての欄を入力し直している |
| 8 余計なものを載せない | 関係の薄い情報は載せない。増やすほど大事な情報が薄まる | 実績と受賞と告知が並び、肝心の問い合わせ先が下に沈む |
| 9 誤りに気づき、直せるようにする | 平易な言葉で問題の場所を正確に示し、直し方を添える | 「入力に誤りがあります」だけで、どの欄が悪いのか分からない |
| 10 手引きと説明を用意する | 説明が要らないのが最善だが、必要なら手引きを用意する | 用語の説明が別の資料にあり、その画面から辿り着けない |
表の右の列は原典にはありません。原則の定義を、法人のサイトでよく起きる場面に引き直したものです。この列を自社の言葉で書き換えるところから始めると、評価者の間で解釈がそろいます。同じ原則を読んでも、思い浮かべる場面が人によって違うからです。書き換えは1項目につき1行で足ります。
足したくなる観点も出てきます。読み込みの速さ、スマートフォンでの見え方、社内で決めた表記の決まり。足しても構いませんが、原典の10項目とは別の欄に置きます。原典の一覧に自社の観点を混ぜると、外部の資料や過去の評価と突き合わせられなくなります。10項目は共通語として残し、自社の観点は追加の列として持つ。この持ち方にしておくと、制作会社に渡すときにも説明が要りません。
評価者は3人から5人。1人では3分の1しか見つからない
人数の根拠は原典にあります。6件の案件を平均したとき、単独の評価者が見つけたのは使いにくさの35パーセントでした。残りの3分の2は、その人には見えていません。しかも見落とす場所は人によって違うので、複数人の結果を重ねると拾える範囲が広がります。原典は、およそ5人、少なくとも3人を勧めています。1人で全部見ようとする限り、精度は上がりません。増やすべきは時間ではなく人数です。
では何人が最適かというと、原典には固定費と評価者1人あたりの費用を仮に置いた試算が載っていて、その例では4人のときに費用に対する見返りが最大になり、費用の62倍という値が示されています。金額の前提は時代も通貨も違うので数字をそのまま使うことはできませんが、人数を増やし続けても見返りは頭打ちになり、その折り返しが4人あたりに来る、という形は参考になります。5人を超えたら、同じ人数で別の画面を見たほうが得です。
1人あたりの所要時間も原典に書かれていて、1回の評価はおよそ1時間から2時間です。3人なら合計6時間まで、5人でも10時間までに収まります。利用者を呼ぶ調査に比べて、日程調整も謝礼も要らないのがこの方法のいちばんの強みです。社内で評価者を集めるなら、その画面を作った本人は外し、その画面で仕事をしている人、問い合わせを受けている人、その事業に関わっていない人を1人ずつ入れると、見落としの重なりが減ります。
進め方は4工程。互いの結果を見ずに書き終える
手順は原典で3段階に整理されています。準備、各自での評価、突き合わせです。実務ではこれに1工程を足します。どこまでを見るかの範囲を切る工程です。範囲を切らずに始めると、評価者ごとに見た画面が違い、突き合わせの場で「その画面は見ていない」という会話が延々と続きます。
対象の画面を一覧にし、評価者に配る。同時に、指摘を書く欄の形も決める。画面名、場所、反している原則の番号、何が起きるか。この4つが揃う形にしておく
原典は最低2回通ることを勧めている。1回目は流れと全体の範囲をつかむためで、この段階では指摘を書かない。ここを省くと、最初の画面にだけ指摘が集中する
1画面ずつ、10項目を上から順に当てる。思いついた順に書かない。原則の番号を先に見て、その観点で画面を見るという順序を守る
原典は、各自の評価が終わるまで互いの結果を見せないよう求めている。先に見ると、後から見た人の視野がそこに引っ張られる。突き合わせの場では、重複をまとめ、一致しなかった指摘を残すか外すかを決める
この4工程で崩れやすいのは3番目です。10項目を順に当てるのは退屈なので、慣れてくると気づいた順に書くようになります。すると、目立つ問題ばかりが集まり、原典の項目でいえば7番の近道や10番の手引きのように、気づきにくいところが毎回抜けます。原則の一覧は、退屈な順番で当てるからこそ効きます。順番を守っているかどうかは、指摘の一覧に原則の番号がどれだけ散らばっているかで分かります。
突き合わせの場では、指摘の数を競わないようにします。1人だけが挙げた指摘こそ、他の人が見落としていた場所である可能性が高いからです。原典が人数を増やすことを勧めているのは、まさにこの重なっていない部分を拾うためでした。多数決で削ると、その効き目を自分で捨てることになります。
対象の画面は、筋道で切って選ぶ
全部の画面は見られません。会社のサイトなら数十から数百枚あります。切り方は2つあり、実務で使えるのは片方だけです。使えないほうは、閲覧数の多い順に上から何枚、という切り方です。閲覧数はその画面が見られていることしか示しておらず、そこで詰まっているかどうかは何も言っていません。切るのは画面の単位ではなく、利用者がたどる筋道の単位です。
筋道は、始まりと終わりを決めて書きます。資料を探しに来た人が資料を受け取るまで。価格を知りたい人が問い合わせを出すまで。過去に取引した人が担当者に連絡するまで。この3本から5本を選び、その筋道に出てくる画面を全部並べます。1本の筋道に出てくる画面は、多くても十数枚です。筋道で切ると、画面と画面のつなぎ目が対象に入ります。閲覧数で切ると、つなぎ目は必ず落ちます。
どの筋道を選ぶかは、事業の側の事情で決めます。今期に増やしたい問い合わせの種類、直近で問い合わせ窓口に届いている苦情、営業が説明に手間取っている場面。この3つを見て、優先する筋道を2本決め、残りは次回に回します。1回の評価で全部を対象にすると、指摘が100件を超えて、直す作業に渡らないまま眠ります。範囲を狭くして回数を増やすほうが、結果として直った件数は多くなります。
1つの画面で、何を見て何を見ないか
粒度の決め方も先に共有します。見るのは、その画面で利用者がしようとしていることと、それを妨げる要素です。見ないのは、色の好み、写真の趣味、文字の細かい大きさです。後者は指摘として書けてしまうぶん、書き始めると一覧の大半を占めます。好みの話が混ざった一覧は、受け取った制作側が全体を読み飛ばす理由になります。
実務では、1つの画面につき3つの問いを当てると粒度がそろいます。1つ目は、この画面に来た人は次に何をするのか。2つ目は、その操作の場所と手順が、見ただけで分かるか。3つ目は、間違えたときにどうなるか。3つ目で見つかる指摘が、いちばん直す価値が高くなります。うまくいく道筋は誰でも確かめますが、失敗した後の画面は作った側も見ていないことが多いからです。
見る対象には、画面の中の文章も入ります。原典の2番は、社内の言い回しではなく利用者になじみのある言葉を使うことを求めています。会社のサイトでは、ここが最も静かに崩れます。社内で毎日使っている略し方や商品名は、担当者には自然に読めるので、評価者が社内の人だけだと誰も引っかかりません。その事業に関わっていない人を1人入れる意味は、ここにあります。
見つけた問題の書き方が、後の作業量を決める
評価の値打ちは、見つけた件数ではなく、渡せる形になっているかで決まります。1件の指摘に必要なのは4つです。どの画面か。画面のどこか。原典の何番に反しているか。その結果、利用者に何が起きるか。4つ目を書かない指摘は、ほぼ確実に「直さない」と判断されます。何が困るのかが書かれていない指摘は、受け取った側には好みの話と区別が付かないからです。
1件に1つの問題だけを書くのも決まりごとです。「この画面は分かりにくい」と書くと、直す側は何から手を付けるか決められません。分けて書けば、片方だけ直すという判断ができます。直す側が部分的に着手できる形になっているかどうかが、指摘が実際に直るかどうかを分けます。分けた結果として件数が増えるのは、悪いことではありません。
- 「使いにくい」とだけ書く——どの原則に反しているのかが無く、直したかどうかも判定できない
- 1件の中に3つの問題を詰める——優先度を付けられず、まとめて先送りになる
- 直し方だけを書いて、何が起きるかを書かない——直す側が別の案を出せなくなり、対立が起きる
- 画面の名前を「トップ」「フォーム」と通称で書く——どの画面か特定に時間がかかる
- 評価者の名前を書かない——重大度を後から付けてもらうときに、誰に配ればよいか分からなくなる
- 画像だけを貼る——検索できず、次の評価のときに過去の指摘と突き合わせられない
記録の置き場所も先に決めます。表計算の1行を1件にして、画面名、場所、原則の番号、起きること、評価者名、重大度、担当、状態の8列で足ります。この形にしておくと、次に同じ画面を評価したときに、前回の指摘が直ったかどうかを行単位で照合できます。評価を1回で終わらせず、続けられる形にしておくことが、この手法をいちばん安く回す方法です。
重大度は、頻度と影響としつこさの3つで決める
見つけた問題には重さの差があります。原典は、重大度を3つの要素の組み合わせで決めるとしています。どれくらいの頻度で起きるか。起きたとき、利用者は簡単に乗り越えられるか、それとも難しいか。そして、一度知れば避けられる問題か、知っていても毎回わずらわされる問題か。この3つ目が抜けやすいところです。一度知れば避けられる問題より、知っていても毎回引っかかる問題のほうが重い、という並べ方になります。
尺度は0から4の5段階で、原典に文言まで決められています。次の表の2列目が原典の言い方、3列目は実務での扱いに置き換えたものです。
| 重大度 | 原典の言い方 | 実務での扱い方 |
|---|---|---|
| 0 | これが使いやすさの問題だとは思わない | 記録には残すが、直す対象からは外す。判断が分かれた記録として残す |
| 1 | 見た目だけの問題。余裕があるときにだけ直せばよい | まとめて次の改修の余白に回す。単独では着手しない |
| 2 | 軽い問題。直す優先度は低くてよい | その画面を別の理由で触るときに、ついでに直す |
| 3 | 重い問題。重要なので優先度を高くする | 期日を決めて、単独の作業として担当を割り当てる |
| 4 | 使いやすさの破綻。公開の前に必ず直す | 公開や改修を通す条件にする。直るまで先へ進めない |
付ける時期にも決まりがあります。原典は、評価の場が全部終わってから、見つかった問題の全一覧を各評価者に配り、別々に付けてもらう形を示しています。評価しながら付けると、自分が見つけた指摘に高い点を付けがちだからです。全員が全件に付けるので、他の人の指摘にも点が入り、そこで初めて重さの比較ができます。原典は、3人分の平均で実務上は足りるとしています。
直す順番は、重大度だけでは決まらない
重大度の平均が出たら、そのまま上から直せばよいかというと、そうはなりません。重大度は利用者の側から見た重さで、直す手間は作る側の事情です。この2つを掛け合わせて初めて順番が決まります。重大度3で1日で直せる指摘は、重大度4で3か月かかる指摘より先に着手します。先に直る件数が増えるほど、次の評価に予算が付きやすくなるからです。
手間の見積もりは、評価者ではなく直す側に出してもらいます。文言だけの修正、画面の並べ替え、仕組みの改修、外部の連携先が絡むもの。この4段階に分けてもらえば足ります。段階を細かくすると見積もり自体に時間がかかるので、4つで止めます。そのうえで、重大度が3以上で手間が2段階目までのものを最初のかたまりにします。ここが、いちばん早く効く場所です。
順番が決まったら、直さないと決めたものも一覧に残します。理由を1行だけ添えます。次の評価で同じ指摘が挙がったときに、また同じ議論をせずに済みます。直さない判断を記録に残しておくことが、評価を続けられる形にする条件です。残していないと、指摘が毎回ふりだしに戻り、3回目あたりで誰も評価に参加しなくなります。
生成AIに画面を読ませると、何が出てくるか
画面を読める生成AIが実務に入ってきたことで、この手法の前半は変わりました。2026年4月に公開された研究は、2つのアプリについて12の作業場面の画面録画をモデルに読ませ、ニールセンの10原則に照らして使いにくさを抽出させています。出てきた指摘を、ソフトウェア技術者95人が1人3件ずつ確認し、延べ285件が評価されました。ここまで実際に人が確かめた検証は多くありません。
結果は5点満点で示されています。指摘そのものの分かりやすさが4.21、直し方の分かりやすさが4.28。内容がもっともらしいかは、指摘が4.04、直し方が4.10でした。網羅性については、73.7パーセントが十分、22.8パーセントが一部、3.5パーセントが不十分という分かれ方です。さらに、評価された285件のうち33.0パーセントにあたる94件について、確認した技術者は自分ではその問題に気づかなかったと答えています。下書きとしての質はすでに実用の範囲にあり、見落としを拾う相手としても働く、という読み方になります。
実務に置き換えると、任せられるのは前半です。画面と操作の記録を渡し、10項目のどれに当たるかを付けて一覧にさせる。同じ画面を10項目すべての観点から漏れなく当てる作業は、人がやると退屈で飛ばしがちな部分でした。退屈で飛ばされやすい作業ほど、任せた効き目が大きくなります。人は、出てきた一覧を確かめる側に回ります。
AIの指摘が外れるのは、どこか
同じ研究の著者は、限界もはっきり書いています。この種のモデルは、存在しない問題を予測する傾向がある、という記述です。実際に画面には無い操作や、その場面では起きない誤りを、原則に当てはめて書いてしまいます。だから著者は、人による確認は依然として必要であり、この手法は既存のやり方を置き換えるものではなく補うものだと結論づけています。もっともらしい文章で書かれているぶん、存在しない指摘は見分けにくくなります。
もう1つの弱点は、静止した画面だけでは分からないことがある点です。2026年6月に公開されたベンチマークの研究は、10種類の製品面を模した動くサイトを用意し、モデルに実際に触らせて操作の証拠を集めさせてから報告を書かせる仕組みを取っています。そして、その報告をもとに別の修正役が画面を改善できたかどうかで、報告の質を測っています。結果として、報告がどれだけ使えるかはモデルによって明確に差があり、対象によって信頼性も変わると報告されています。画面の絵を1枚渡すだけでは、押した後に何が起きるかは判定できません。
そして最大の弱点は、その画面が誰の何のためにあるのかを知らないことです。原典の1番から10番は、どれも利用者の目標を前提にしています。目標が渡されていなければ、原則は形の上でしか当てられません。社内の事情、契約の条件、法令で決まっている表示、営業の現場で使う言い回し。これらはどれも画面には書かれていないので、AIの指摘には最初から入っていません。
AIに渡す手順を決める
渡し方を毎回考えていると、返ってくるものの質が安定しません。手順を決めます。芯は3行です。原則の一覧をこちらから渡すこと。画面ではなく操作の記録を渡すこと。そして、指摘の根拠として画面の場所を必ず書かせることです。根拠の場所が書かれていれば、存在しない問題を挙げた場合にその場で分かります。
原典の10項目に、前の章で作った自社の場面の1行を添えて渡す。一覧を渡さないと、モデルが記憶している別の観点で書き始める
静止した画像を1枚だけ渡さない。始まりから終わりまでの操作の記録か、押した後の画面まで含めた連続した資料を渡す。押した後が無いと、原典の1番と9番は判定できない
資料を受け取りたい、価格を知りたい、担当者に連絡したい。目標を書かないと、原則は形だけの当てはめになる
画面名、場所、原則の番号、起きること。この4列で返させる。文章のまとまりではなく、行の集まりで受け取る
重さは人が付ける。ここを埋めさせると、もっともらしい数字が入り、確認の手間がかえって増える
任せてよい作業は、突き合わせれば答えが出るものに限ります。判断の要らない作業ほど、返ってくるものが安定します。
- 渡した10項目のうち、どの番号に当たるかを1件ずつ付ける
- 同じ意味の指摘が重複しているものをまとめ、元の指摘の場所を全部残す
- 3人の評価者が別々に書いた一覧を、画面ごとに並べ替えて重なりと重ならなかったものに分ける
- 指摘の文章から、画面名・場所・原則の番号・起きることの4つが揃っていない行を抜き出す
- 前回の評価の一覧と今回の一覧を突き合わせ、まだ残っている指摘を挙げる
AIに判断させない線を、先に引く
任せる範囲を書いたら、任せない範囲も同じ紙に書きます。片方だけを配ると、書かれていないほうが自動的に許可されたことになります。この一覧で判断させないものは、どれも画面の外に答えがあるものです。渡していない情報で決まる判断を任せると、もっともらしい答えが返ってきて、それを覆すほうに時間がかかります。
- 重大度——頻度と影響としつこさは、その事業の利用者の事情で決まる。画面には書かれていない
- 直す順番——予算、期日、他の改修との兼ね合い、社内の力関係が効く。原則の側からは決まらない
- 指摘を採用するかどうか——法令で決まっている表示や契約上の条件を、使いにくさとして消させない
- 言い換えの可否——業界で決まっている呼び名を、分かりやすいという理由で変えてよいかは人が決める
- 評価そのものの合否——このサイトは使いやすい、という総評は書かせない。根拠のない合格が一度出ると、次から確認が甘くなる
この線引きを守るために、指示の側にも1行足します。判断に必要な情報が渡されていないと思ったら、答えを作らずに、何が足りないかを書いて止まること。止まる指示を書いておかないと、足りない情報は推測で埋められます。止まった回数は捨てずに数えます。同じ場所で毎回止まるなら、そこは渡す資料のほうを直すべき場所です。
人が確かめる範囲も、あらかじめ決めておきます。指摘の場所が実際に存在するか。書かれている操作が本当にできるか。挙がった問題が、その筋道の目標を妨げているか。この3つだけを確かめる、と決めておくと、確認そのものが作業として回ります。全部を読み直そうとすると、件数が増えたときに確認が形だけになります。
評価の結果を、直す作業にどう渡すか
評価が終わって一覧ができても、そこで止まる例が少なくありません。止まる理由は3つあります。受け取る担当が決まっていない。置き場所が評価のたびに変わる。そして、直したかどうかを判定する人がいない。どれも評価の質とは関係がなく、渡し方の設計で消えます。
受け取る担当は1人に決めます。合議にすると、重大度4の指摘でさえ次の会議まで動きません。置き場所は、社内の課題を管理している場所に寄せます。評価専用の表を作ると、その表を見に行く人がいなくなります。評価の一覧を独立した資料にした瞬間に、直す作業の流れから切り離されます。1件を1つの課題として起こし、重大度と手間の段階を欄に入れておけば、既存の順番付けの仕組みにそのまま乗ります。
判定の仕方も決めます。直したと言えるのは、指摘に書いた「起きること」が起きなくなったときです。だから指摘の4つ目が要るのでした。直し方ではなく、起きなくなったことで判定すると、直す側が別の手段を選ぶ自由が残ります。制作会社に渡す場合も同じで、原則の番号と起きることを渡し、直し方はこちらから指定しないほうが、結果として良い案が返ってきます。
次の評価の予定も、この時点で入れておきます。半年後でも1年後でも構いませんが、日付を入れておかないと、直したかどうかを誰も確かめません。前回の一覧をそのまま持ち込み、残っている指摘を先に確認してから新しい筋道に入ります。この形にしておくと、2回目からの所要時間は半分近くまで落ちます。
ユーザーテストとの使い分けは、時期で決める
最後に、実際の利用者を呼ぶ調査との関係を整理します。優劣ではなく、答えを持っている側が違います。原則に照らす点検は、答えを一覧の側が持っています。だから人を呼ばずに済み、早く、安く、何度でもできます。一方、利用者を呼ぶ調査は、答えを利用者が持っています。だから予定を合わせる必要があり、時間も費用もかかります。
実務では、時期で使い分けます。先に原則で点検し、明らかな詰まりを潰してから、人を呼びます。順序が逆だと、呼んだ人の時間の大半が、原則の一覧で見つかったはずの問題に費やされます。原典の10項目で見つかる種類の問題は、人を呼ばなくても分かる問題です。そこに人の時間を使うのはもったいない、という話です。
それぞれで分かることも違います。原則で分かるのは、有効さと効率を妨げていそうな箇所まででした。実際にその画面で人が迷うかどうか、迷った理由が何か、満足したかどうかは、使った人に聞かなければ分かりません。原則の点検は詰まりの候補を出し、人を呼ぶ調査はその候補が本当に詰まりかを確かめる、という関係になります。両方を持っている会社は、候補を出す作業を安く速く回し、確かめる作業に予算を集められます。
まとめ
ヒューリスティック評価は、専門家の勘で画面を眺める方法ではありません。決めた原則の一覧に、決めた順番で画面を照らす手続きです。原則は1994年に整理された10項目で、内容は今も変わっていません。原典は、これを細かい指針ではなく大まかな経験則だと説明しています。答えを与えるものではなく、見落としを防ぐための着眼点だということです。
人数には根拠があります。1人が見つけられるのは、その画面にある使いにくさの35パーセントほどでした。だから3人から5人が、互いの結果を見ずに書き終えてから突き合わせます。進め方は4工程です。範囲と記録の形を決める。1回目は評価せずに通しで触る。2回目に原則を上から順に当てる。書き終えてから突き合わせる。範囲は閲覧数ではなく、利用者がたどる筋道で切ります。
見つけた問題は、画面名、場所、原則の番号、起きることの4つを揃えて1件1問題で書きます。重さは、頻度と影響としつこさの3つで決め、0から4の尺度で全員が全件に付けます。原典は3人分の平均で実務上足りるとしています。直す順番は重大度だけでは決まらず、直す手間と掛け合わせて決めます。直さないと決めたものも理由付きで残します。
生成AIには、原則との照合と一覧づくりを任せます。2026年の検証では、指摘の分かりやすさも直し方の分かりやすさも5点満点で4を超え、評価された285件のうち3割ほどは、確認した技術者が自分では気づかなかった問題でした。一方で、存在しない問題を挙げる傾向があることも同じ研究に明記されています。だから重大度と直す順番の判断は人が持ちます。どちらも、画面には書かれていない事情で決まるからです。
始め方は小さくて構いません。筋道を2本選び、原典の10項目に自社の場面の1行を添えた一覧を作り、3人で1時間ずつ見る。それだけで、その日のうちに指摘の一覧ができます。この手法が返してくれるのは、きれいな評価報告ではなく、直す順番の付いた行の集まりです。行になっていれば、次の改修に乗ります。報告書のままなら、読まれて終わります。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
データ分析にAIを活かす第一歩、まずは導入から始めませんか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
