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法律事務所が外部に渡す判決文や書面から、氏名・住所・電話番号を Azure AI Language で拾い、伏せ字の候補を作る

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

外へ出す判決書や準備書面から、氏名・住所・電話番号など個人を特定できる記載を拾い、ページと位置の付いた伏せ字の候補の一覧を作ります。弁護士が採否を決めた箇所だけを、文字の層ごと消します。

サマリー
AIサービス
Azure AI/Google Document AI
対象業界
保険/士業/金融
対象部門
法務
対象業務
内容確認・チェック/分類・仕分け
主な課題
人手が足りない/属人化している/確認ミスが多い
AIで行う処理
抽出
主な効果
入力漏れ削減/品質標準化/工数削減
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
本格構成
費用感
API連携(中)
人間の確認
必須
現在工数
240h/月
AI導入後
120h/月
想定削減
50%
年間削減
1,440h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 担当の弁護士が、外へ出す書面と目的(共有/公開/書式例)を事務職員に伝える
  2. 事務職員が事件管理のシステムで当事者と関係者の名簿を確かめ、秘匿決定や閲覧制限の有無を見る
  3. 書面を1ページずつ読み、氏名・住所・電話番号・生年月日・地番・車両番号などに印を付ける
  4. 印を付けた箇所を、PDF の編集ソフトで黒塗りにする
  5. 担当の弁護士が黒塗りの済んだ書面を読み、漏れと伏せ過ぎを確かめる
  6. 漏れがあれば4番に戻る。確認が済んだものを外へ出す
導入後(After)
  1. 人担当の弁護士が、事件管理のシステムで書面と目的を選んで「伏せ字の依頼」を登録する
  2. 自動秘匿決定・閲覧制限の印がある事件なら、処理を止めて弁護士へ戻す
  3. 自動Azure AI Document Intelligence のレイアウト モデルで書面を読み、全文と、語ごとのページと位置を取る
  4. 自動全文を段落の切れ目で分け、Azure AI Language の PII の検出に日本語として送る
  5. 自動事件の当事者・関係者の名簿(姓だけ・名だけ・通称を含む)で全文を照合し、事件番号・地番・車両番号などを規則で拾う
  6. 自動3つの結果を重ね、目的ごとの方針表で「伏せる」「残す」「要判断」の初期値を付けた候補の一覧を作る
  7. 人事務職員が候補の一覧をページの画像と並べて確かめ、漏れを足す
  8. 人担当の弁護士が「要判断」と、事務職員が足した箇所を確かめて確定する
  9. 自動確定した箇所を文字の層ごと消し、出力をもう一度読んで、伏せた語が残っていないかを確かめる
各工程の詳しい説明を読む
  1. 担当の弁護士が、外へ出す書面と目的(共有/公開/書式例)を事務職員に伝える
  2. 事務職員が事件管理のシステムで当事者と関係者の名簿を確かめ、秘匿決定や閲覧制限の有無を見る
  3. 書面を1ページずつ読み、氏名・住所・電話番号・生年月日・地番・車両番号などに印を付ける
  4. 印を付けた箇所を、PDF の編集ソフトで黒塗りにする
  5. 担当の弁護士が黒塗りの済んだ書面を読み、漏れと伏せ過ぎを確かめる
  6. 漏れがあれば4番に戻る。確認が済んだものを外へ出す

(a)姓だけ・通称の書き方を見落とす。 判決書の冒頭で「原告 甲野太郎(以下「原告」という。)」と定義されても、事実の認定の部分では「甲野は」「太郎は」と書かれることがあります。冒頭の氏名は伏せたのに、本文の途中の姓が残っているという漏れが、確認の段階でいちばん多く見つかります。

(b)住所が分けて書かれる。 「東京都○○区○○町一丁目」と「2番3号」が改行で分かれる、地番で「○○番○」と書かれる、建物の名前だけで書かれる。住所としての型が崩れると、目でも拾いにくくなります。

(c)黒塗りが見た目だけになる。 PDF の編集ソフトの使い方によっては、黒い四角を上に重ねただけで、下の文字が残っていることがあります。画面では消えて見えても、文字を選んで写せば読めます。 一度外へ出すと取り返せない種類の失敗です。

(d)伏せ方が人によって違う。 同じ目的の書面でも、裁判官の氏名や代理人弁護士の氏名を伏せる人と残す人がいます。事務所として決めた方針が、作業する人の記憶に頼っています。

  1. 【人】 担当の弁護士が、事件管理のシステムで書面と目的を選んで「伏せ字の依頼」を登録する
  2. 【自動】 秘匿決定・閲覧制限の印がある事件なら、処理を止めて弁護士へ戻す
  3. 【自動】 Azure AI Document Intelligence のレイアウト モデルで書面を読み、全文と、語ごとのページと位置を取る
  4. 【自動】 全文を段落の切れ目で分け、Azure AI Language の PII の検出に日本語として送る
  5. 【自動】 事件の当事者・関係者の名簿(姓だけ・名だけ・通称を含む)で全文を照合し、事件番号・地番・車両番号などを規則で拾う
  6. 【自動】 3つの結果を重ね、目的ごとの方針表で「伏せる」「残す」「要判断」の初期値を付けた候補の一覧を作る
  7. 【人】 事務職員が候補の一覧をページの画像と並べて確かめ、漏れを足す
  8. 【人】 担当の弁護士が「要判断」と、事務職員が足した箇所を確かめて確定する
  9. 【自動】 確定した箇所を文字の層ごと消し、出力をもう一度読んで、伏せた語が残っていないかを確かめる

6番目の方針表が、この設計の分かれ目です。 「依頼者の社内への共有では、相手方の個人と証人の氏名は伏せ、裁判官と代理人は残す」という事務所の決まりを、目的ごとの表にしておきます。AIは語を拾うだけで、伏せるかどうかの初期値は表が決めます。

9番目の確かめは、黒塗りの失敗(第3章の(c))を工程で止めるためのものです。 消したはずの語が出力の文字から読めたら、その書面は外へ出しません。

02今回想定するシステム構成

構成図
書面(電子判決書の PDF、スキャンした PDF、自所の DOCX)
   │  弁護士が書面と目的を選ぶ
   ▼【トリガー】事件管理のシステムでの「伏せ字の依頼」の登録
Azure Functions ── 秘匿決定・閲覧制限の確認、名簿と方針表の取得
   ▼
Azure AI Document Intelligence(レイアウト モデル)
   │   全文、段落、語ごとのページ・位置(polygon)・信頼度
   ▼
Azure AI Language(テキストの PII 検出。language=ja)
   │   Person、Address、PhoneNumber、Email、JP の番号類 など
   ▼
Azure Functions ── 名簿の照合と規則の照合、3つの結果の統合
   │   方針表で 伏せる/残す/要判断 の初期値
   ▼
【事務職員が候補を確かめ、弁護士が要判断を確定】
   ▼
Azure Functions ── 文字の層ごと消す処理、出力の再読み取りと残存の検査
   ▼
伏せ字済みの書面と、伏せた箇所の記録
役割想定する製品代替候補
OCRAzure AI Document Intelligence(レイアウト モデル。全文と語ごとの位置)Google Document AI
個人情報の検出Azure AI Language(テキストの PII 検出)Azure AI Language の文書の PII 検出、名簿と規則だけの照合
連携Azure Functions(照合、統合、伏せ字の適用、残存の検査)Azure Logic Apps
保管Azure Blob Storage(原本、読み取り結果、伏せ字済みの書面)文書の保管庫

事件管理のシステムは、新しく足すものではありません。 この構成は名簿と秘匿決定・閲覧制限の印を読むだけで、事件管理のシステムには書き込みません。 伏せ字の依頼の状態だけを、依頼の画面で更新します。

Azure AI Language の PII の検出を使う理由は、日本語に対応していることと、位置を返すことです。 公式ページでは、テキストの PII の対応言語に日本語(ja)が載っています。応答には、検出した語の文字列、区分、文中の位置(offset と length)、信頼度(confidenceScore)が含まれ、伏せ字を適用した文字列(redactedText)も返ります。位置が返るので、ページの上のどこを消すかまで戻せます。

文書の PII 検出を本命にしない理由もあります。 公式ページでは、文書の PII 検出は PDF・DOCX・TXT をそのまま受け、レイアウトを保った伏せ字済みの文書と JSON を返す機能で、2026-05-01 に一般提供(GA)になったとされています。ただし、黒い四角での伏せ字、区分名での置き換え、信頼度のしきい値、除外する語の指定は、GA ではなくプレビューの API の機能とされています。弁護士が採否を決めてから伏せる流れでは、検出と適用を分けられるテキストの検出のほうが向きます。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

担当の弁護士が、事件管理のシステムで「伏せ字の依頼」を登録した時点を起点にします。 依頼には、書面、目的(依頼者への共有/判例紹介・資料/書式例)、出す先、期限を入れます。保管庫に書面が置かれたことを起点にはしません。 外へ出すかどうか、何の目的で出すかは弁護士が決めることで、置かれた書面を全部処理すると、出す予定の無い書面の候補の一覧が積み上がります。

依頼の登録の直後に、秘匿決定と閲覧制限の確認だけを先に行います。 事件管理のシステムで印が付いている事件なら、読み取りの前に処理を止めて弁護士へ戻します。 民事訴訟法第133条の秘匿決定では、住所や氏名に代わる事項が定められ、第92条では秘密の記載部分の閲覧を当事者に限る決定ができます。そうした事件の書面を外へ出すかは、伏せ字の出来とは別の判断です。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
書面電子判決書の PDF、スキャンした PDF、自所の書面の DOCX文書の保管庫
依頼の内容目的、出す先、期限、担当の弁護士事件管理のシステム
当事者・関係者の名簿氏名、読み、通称、旧姓、役割(原告・被告・証人・代理人など)、住所同上
秘匿決定・閲覧制限の印事件ごとの有無同上
方針表目的ごとに、役割と区分の組み合わせで 伏せる/残す/要判断 を決めた表事務所で作る表
置き換えの表記役割ごとの置き換え(「原告A」「証人B」など)同上

質を決めるのは、名簿の厚みです。 名簿に「甲野太郎」しか無ければ、本文の「甲野」は名簿の照合では拾えません。名簿に、姓だけ・名だけ・通称・旧姓・読みを持たせます。 事件の受任のときに登録する項目を増やすのが、いちばん効く準備です。

方針表は、目的の数だけ作ります。 同じ「裁判官の氏名」でも、依頼者への共有では残し、判例紹介では残し、書式例では伏せる、というように目的で変わります。表は担当の弁護士が変えられないようにし、事務所の決まりとして管理します。

Step3

データの取得方法を決める

取るものどこから何に使うか
全文と段落レイアウト モデルの content と paragraphsPII の検出と照合の対象
語ごとの位置pages の中の words(polygon、spans、信頼度)候補をページ上の位置に戻す
段落の役割paragraphs の role(pageHeader、pageFooter、pageNumber など)ヘッダー・フッターの扱いを分ける
検出の結果Language の entities(text、category、offset、length、confidenceScore)候補の本体

レイアウト モデルを使うのは、語ごとの位置が取れるからです。 公式ページでは、レイアウト モデルは文字を lines と words として取り出し、語ごとに polygon と信頼度を返し、spans が全文(content)の中の位置を指すとされています。PII の検出が返した全文の中の位置と、語の spans を突き合わせれば、どの語の四角を消せばよいかが決まります。

位置の数え方をそろえます。 Language の応答の offset と length は、既定では Unicode 8.0.0 の書記素の単位で数えられ、stringIndexType で unicodeCodePoint(Python 3 の既定)や utf16CodeUnit に変えられるとされています。Python で処理するなら unicodeCodePoint を指定し、レイアウト モデルの側も同じ単位で突き合わせられることを、最初の検証で必ず確かめます。 単位がずれると、隣の語を消します。

ヘッダー・フッターは捨てません。 判決書のヘッダーには事件番号が、フッターには通し番号が入ることがあります。役割を見て、規則の照合の対象に入れます。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 形式の確認 … PDF、画像、DOCX であることを確かめます。パスワード付きの PDF は、ロックを外してから送る必要があります
  2. 読み取り … レイアウト モデルで全文と語の位置を取ります。信頼度の低い語が多いページは印を付け、目視の対象にします
  3. 分割 … 全文を段落の切れ目で5,000字以下のかたまりに分けます。同期の呼び出しでは1文書5,120字(書記素の数え方)が上限で、1回の要求に5文書までです
  4. 言語の指定 … 各かたまりに language: "ja" を付けます。指定しないと英語として扱われます
  5. 区分の指定 … piiCategories に、Person、Address、PhoneNumber、Email、Organization、Date と、JPBankAccountNumber・JPDriversLicenseNumber・JPMyNumberPersonal・JPPassportNumber・JPResidenceCardNumber・JPSocialInsuranceNumber などを並べます
  6. 名簿の展開 … 名簿の氏名から、姓だけ・名だけ・通称・旧姓・全角半角とスペースの揺れの照合語を作ります
  7. 規則の用意 … 事件番号、地番・家屋番号、車両の登録番号、和暦の生年月日の書き方を、正規表現で持ちます

4番目は、忘れると全部が空振りになります。 公式ページでは、言語を指定しない場合は英語として抽出が行われるとされています。日本語の書面を英語として送ると、人名をほとんど拾いません。 エラーにはならないので、気づきにくい失敗です。

3番目の分割は、段落の途中で切りません。 「原告甲野」の途中で切れると、どちらのかたまりでも人名として拾われません。

Step5

AIに処理させる

させるのは、全文から個人を特定しうる語を拾い、区分と位置と信頼度を付けて返すことだけです。 ここでいう AI は Azure AI Language の PII の検出で、文章を生成する AI ではありません。

拾う仕組み得意なもの苦手なもの
Language の PII 検出名簿に無い人名(取引先の担当者、医師)、住所、電話番号、メールアドレス、日本の番号類姓だけの繰り返し、地番、事件番号
名簿の照合当事者・関係者の姓だけ・通称・旧姓の繰り返し名簿に載っていない人
規則の照合事件番号、地番・家屋番号、車両の登録番号、和暦の生年月日型の崩れた書き方

3つを重ねるのは、それぞれの苦手を他が埋めるからです。 同じ箇所を複数の仕組みが拾ったら1つの候補にまとめ、どの仕組みが拾ったかを残します。1つの仕組みしか拾わなかった候補は、確認の画面で目立たせます。

させないこと理由
伏せるかどうかの決定目的と出す先で変わる。方針表が初期値を決め、弁護士が確定する
検出の結果での自動の伏せ字redactedText は使わない。採否の前に伏せると、伏せ過ぎに気づけない
信頼度による候補の切り捨て低い信頼度の候補も一覧に出す。切り捨てると漏れが見えない
文書を外へ出す判断守秘義務、閲覧制限、秘匿決定は弁護士の判断

2行目に注意が要ります。 Language の応答には伏せ字を適用した文字列が付いてきますが、これをそのまま使うと、検出した語が全部伏せられます。 裁判官や代理人の名前まで伏せた判決書は、判例紹介には使えません。

Step6

指示内容を固定する

PII の検出は文章の指示ではなく、要求の形で何を拾うかを決めます。次の要求を、かたまりごとに送ります。

POST {endpoint}/language/:analyze-text?api-version=<GA の版>
{
  "kind": "PiiEntityRecognition",
  "parameters": {
    "modelVersion": "latest",
    "stringIndexType": "unicodeCodePoint",
    "piiCategories": [
      "Person", "Address", "PhoneNumber", "Email", "Organization", "Date",
      "JPBankAccountNumber", "JPDriversLicenseNumber", "JPMyNumberPersonal",
      "JPPassportNumber", "JPResidenceCardNumber", "JPSocialInsuranceNumber"
    ]
  },
  "analysisInput": {
    "documents": [
      { "id": "p012-c03", "language": "ja", "text": "<段落の切れ目で分けた本文>" }
    ]
  }
}

piiCategories を明示するのは、拾う範囲を事務所で決めるためです。 公式ページでは、区分を指定するとその区分だけが返り、既定で有効でない区分も指定で拾えるとされています。Organization と Date は、既定のまま任せずに明示して拾い、伏せるかは方針表で決めます。 会社名や日付は、目的によっては残すからです。

確認の画面で事務職員に見せる手順書は、次のように書きます。

【候補の確かめ方】
1. 「1つの仕組みだけが拾った」候補から見る
2. Person の候補は、名簿の役割と照らして 伏せる/残す の初期値を確かめる
3. 一覧に無い人名・住所が画像に見えたら「候補を足す」で囲む
4. 姓だけの語は、同じ人の他の出現も一覧に出ているかを確かめる
5. 迷ったものは「要判断」にして、弁護士へ回す
【やらないこと】
- 一覧に無い箇所を、画面上の黒い四角だけで隠さない
- 置き換えの表記(原告A など)を、書面ごとに変えない

4番目が、第3章の(a)の対策です。 名簿で「甲野」を照合していれば全出現が候補に並びますが、名簿に無い人は PII の検出の出来に頼ります。同じ姓が一部だけ拾われていたら、残りを足します。

Step7

出力形式を固定する

候補の一覧は、次の形の JSON で持ちます。

{
  "request_id": "",
  "purpose": "client_share | publication | template",
  "candidates": [
    {
      "text": "",
      "category": "Person | Address | PhoneNumber | CaseNumber | LotNumber | ...",
      "sources": ["language_pii", "roster", "rule"],
      "confidence": 0.0,
      "roster_role": "plaintiff | defendant | witness | counsel | judge | none",
      "page": 0,
      "polygons": [[0, 0, 0, 0, 0, 0, 0, 0]],
      "default_action": "redact | keep | review",
      "replacement": "原告A",
      "decided_action": "",
      "decided_by": ""
    }
  ],
  "low_ocr_pages": [0]
}

1つ目の理由は、sources で拾った仕組みが分かることです。 名簿でしか拾えなかった候補が多い区分は、PII の検出が苦手な書き方です。逆に PII の検出でしか拾えなかった人名は、名簿の登録漏れを示します。

2つ目は、default_action と decided_action を分けていることです。 方針表が付けた初期値と、人が決めた値を別に持つので、初期値を人が覆した割合を区分ごとに数えられます。 割合の高い区分は、方針表の見直しの対象です。

3つ目は、replacement で表記をそろえられることです。 同じ人には、書面の最初から最後まで同じ置き換えを使います。置き換えは名簿の役割から機械的に振り、人が書面ごとに考えないようにします。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
事件管理のシステム読み取り(依頼の状態だけ更新)依頼、名簿、秘匿決定・閲覧制限の印
文書の保管庫読み取りと、伏せ字済みの書面の保存原本は上書きしない
Azure AI Document Intelligence解析の API全文、段落、語の位置
Azure AI Language解析の API(同期)PII の候補
確認の画面Azure Functions が一覧と画像を出す事務職員と弁護士の確定

伏せ字の適用は、PDF の文字の層ごと消す処理で行います。 黒い四角を重ねるだけの処理にはしません。DOCX は、該当の文字列を置き換えの表記に差し替え、変更履歴とコメントと文書のプロパティ(作成者など)を消してから PDF にして出します。

伏せ字済みの書面は、原本とは別の場所に保存します。 原本を上書きすると、伏せ過ぎに後から気づいたときに戻せません。

Step9

人が確認する

全件、事務職員と弁護士の2段階で確かめます。 自動で伏せて外へ出す経路は作りません。

  1. 事務職員が候補を確かめる … 一覧とページの画像を並べ、1つの仕組みだけが拾った候補から見ます
  2. 漏れを足す … 一覧に無い個人の記載を画像の上で囲んで足します
  3. 読み取りの怪しいページを見る … low_ocr_pages のページは全文を目で読みます
  4. 弁護士が要判断を確定する … 方針表で決まらない候補と、事務職員が足した候補を見ます
  5. 弁護士が出力を確かめる … 伏せ字済みの書面を読み、目的に合っているかを見ます

3番目を省かないでください。 読み取りが崩れた語は、PII の検出にも名簿の照合にも引っかかりません。読めなかった語は、拾えなかった語です。

弁護士の確認は、25分から10分ほどにする想定です。 全文の読み直しが、要判断の候補と出力の拾い読みに変わります。

Step10

例外に対処する

起きること対応
秘匿決定・閲覧制限の印がある読み取りの前に止め、弁護士へ戻す
パスワード付きの PDFロックを外してから送る必要がある。外せなければ依頼者に確かめる
読み取りの信頼度が低いページが多いlow_ocr_pages に入れ、全文を目視する。スキャンのし直しも検討する
1文書が5,120字を超えた分割の誤り。段落の切れ目で分け直す
PII の検出が応答しない名簿と規則の結果だけで一覧を作り、「PII 未実施」の印を付ける
名簿に当事者が登録されていない一覧の冒頭に警告を出す。名簿の照合が効いていない
出力の再読み取りで伏せた語が見つかったその書面を外へ出さず、適用の処理をやり直す
手書きの書き込みがある書面レイアウト モデルの手書きの対応言語に日本語はあるが、書き込みのページは目視を必須にする

7行目の検査が、この構成の最後の砦です。 伏せ字済みの書面をもう一度レイアウト モデルで読み、decided_action が redact の語が全文に残っていないかを探します。1語でも残っていたら止めます。

Step11

記録を残す

  • 依頼の内容(目的、出す先、担当の弁護士)と、使った方針表の版
  • 読み取りの結果の JSON と、PII の検出の応答の全文
  • 候補の一覧(初期値と、人が決めた値、決めた人と日時)
  • 人が足した候補と、その区分
  • 伏せ字済みの書面と、再読み取りの検査の結果
  • 外へ出した日時と出した先

4つ目の「人が足した候補」は、仕組みの弱点の記録です。 同じ型の書き方が何度も足されているなら、規則か名簿の項目を増やします。名簿の照合で拾えた語の割合が低い事件は、受任のときの名簿の登録が薄い事件です。

2つ目の応答の全文は、原本と同じ扱いで保管します。 検出された語の一覧は、それだけで個人情報の一覧です。

04実装レベルの3段階

最小構成:試用の画面に本文を貼り、PII の検出の結果を当時の伏せ字と突き合わせる / 拾える範囲の確認
半自動化:上記+レイアウト モデルで読み、PII の検出と名簿・規則の照合を重ねて候補の一覧を出す。黒塗りは従来の編集ソフトで行う / 候補の洗い出し
本格構成:上記+方針表の初期値、確認の画面、文字の層ごと消す適用、再読み取りの検査 / 依頼から伏せ字済みの書面まで

半自動化で、1件90分が65分程度になります。 書面を読んで印を付ける45分が、一覧の確かめに変わります。ただし、黒塗りを編集ソフトで行う15分と、弁護士の全文の読み直しが残ります。 本格構成で適用と残存の検査が自動になり、弁護士の確認が要判断の候補に絞られて、45分になります。この段階が本記事の想定です。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
12 名
月間件数
160 件
1件あたり現在時間
90 分
1件あたり導入後時間
45 分
現在  160件 × 90分 ÷ 60 = 240 時間/月
導入後 160件 × 45分 ÷ 60 = 120 時間/月
月間削減時間
120h
削減率
50%
年間削減時間
1,440h
年間金額換算(時間単価5,000円)
720万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

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06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 判決書や準備書面を、依頼者の社内への共有、事務所の判例紹介、セミナーや論文の資料、書式例として月に百件以上外へ出している法律事務所。企業の法務部や保険会社の訴訟担当で、判決を社内に広く回覧する前に関係者の個人情報を伏せている場合。事件ごとの当事者・関係者の名簿を事件管理のシステムで持っている場合。Azure を使っている場合。
向いていない
  1. 外へ出す書面が月に数件で、目で見て伏せるので足りている場合。手書きの書面や、文字の層の無い古いスキャンが大半の場合(読み取りの精度の確認が別に要る)。事件管理のシステムに当事者の名簿が無く、辞書での照合ができない場合。なお、どこまでを伏せるか、そもそも外へ出してよい書面か(守秘義務、閲覧制限、秘匿決定の有無)の判断は、この構成では代替できません。

07最小構成で試す方法

  1. 過去に伏せ字をして外へ出した書面から10件を選ぶ(判決書と準備書面を混ぜ、姓だけで繰り返し出てくるものを入れる)
  2. その10件の、当時伏せた箇所の一覧を書き出す
  3. Microsoft Foundry のポータルの言語の試用の画面で、10件の本文を日本語として PII の検出にかける
  4. 拾われた語と、当時伏せた箇所を突き合わせる
  5. 当時伏せたのに拾われなかった語を、姓だけ・地番・事件番号などの型に分ける

最小構成では、名簿の照合と規則は使いません。 確かめたいのは、PII の検出だけでどこまで拾えて、どの型が漏れるかです。漏れた型が、名簿と規則で埋めるべき範囲になります。

出てきた内容判断
当時伏せた人名と住所の多くを拾い、漏れは姓だけの繰り返しに集中した名簿の照合を足せば埋まる。構成は有効
地番と事件番号がほとんど漏れた想定どおり。規則で拾う
フルネームの人名もほとんど拾わなかった言語の指定を確かめる。英語として送っていないか

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
人名をほとんど拾わないlanguage を ja にしているか確かめる。 指定しないと英語として扱われる
姓だけの繰り返しが漏れる名簿に姓だけ・名だけ・通称・旧姓を持たせて照合する
地番・事件番号・車両番号が漏れる規則で拾う。PII の検出に任せない
隣の語を消して本来の語が残るstringIndexType と、レイアウト モデルの位置の数え方をそろえる
検出した語が全部伏せられるredactedText を使わず、方針表と人の確定で決める
黒い四角を重ねただけで文字が残る文字の層ごと消し、出力を再読み取りして残存を検査する
DOCX の変更履歴やコメントに名前が残る変更履歴・コメント・文書のプロパティを消してから出す
秘匿決定のある事件の書面が外へ出る依頼の直後に印を確かめ、読み取りの前に止める

上の3行が、拾い漏れのほとんどです。 1行目は設定の誤りで全滅し、2行目と3行目は日本の判決書の書き方の癖です。PII の検出だけで足りると考えないことが、この構成の前提です。

6行目は、AI とは関係のない失敗ですが、最も重い失敗です。 候補の精度をどれだけ上げても、伏せ字の適用が見た目だけなら意味がありません。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 判決書と書面の全文(当事者・証人の氏名、住所、病歴、事故の状況、取引の内容)、事件の当事者・関係者の名簿、秘匿決定・閲覧制限の情報です。

  1. 守秘義務の範囲で使う … 弁護士法第23条では、弁護士は職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うとされています。書面を外部のサービスで処理すること自体が、事務所の情報の取扱いの決まりに沿っているかを先に確かめます
  2. 同期の呼び出しを使う … 公式ページでは、PII の検出の同期の利用はステートレスで、アカウントにデータが保存されないとされています。非同期の利用では結果が24時間取得でき、その後は消去されるとされています。書面の全文を扱うので、同期で呼び、結果は自所の保管庫にだけ残します
  3. プレビューの機能を使わない … 区分名での置き換えや信頼度のしきい値は、プレビューの API の機能とされています。プレビューには別の利用条件が付くので、事務所の書面には一般提供の機能だけを使います
  4. 秘匿決定と閲覧制限を工程の入口で見る … 民事訴訟法第133条の秘匿決定では氏名や住所に代わる事項が定められ、第92条では秘密の記載部分の閲覧等を当事者に限る決定ができます。こうした事件の書面は、伏せ字の候補を作る前に弁護士へ戻します
  5. 原本を上書きしない … 伏せ字済みの書面は別に保存し、どの方針表のどの版で伏せたかを残します
  6. 検出の結果を個人情報として扱う … 候補の一覧は、書面に出てくる個人の一覧そのものです。原本と同じ権限で管理します

誤りが起きた場合のリスクは、伏せるべき記載が残ったまま外へ出ることと、伏せ過ぎて書面が目的に使えなくなることの2つです。 前者は名簿と規則と再読み取りの検査で、後者は方針表と弁護士の確定で防ぎます。前者は取り返せないので、迷ったら伏せる側に倒し、弁護士が戻す運用にします。

10まず何から始めるか

1週目:方針表を決める

目的(依頼者への共有/判例紹介・資料/書式例)ごとに、当事者・証人・代理人・裁判官・会社名・日付を伏せるか残すかを、事務所の弁護士で決めます。 ここが決まらないうちに仕組みを作ると、初期値の付かない候補の一覧になります。

2週目:10件で試す

過去に伏せ字をした書面10件を、試用の画面で日本語として PII の検出にかけ、当時の伏せ字と突き合わせます。漏れた語を型に分け、名簿と規則で埋める範囲を決めます。

3週目:名簿の項目を増やす

事件管理のシステムの当事者・関係者の名簿に、姓だけ・名だけ・通称・旧姓・読みの欄を足し、進行中の事件から登録を始めます。あわせて、事件番号・地番・車両番号の規則を作ります。

4週目:候補の一覧までをつなぐ

レイアウト モデルの読み取り、PII の検出、名簿と規則の照合を重ね、候補の一覧を出すところまで作ります。この時点では黒塗りは従来の編集ソフトで行い、一覧の漏れと位置のずれを数えます。

2か月目: 方針表の初期値、確認の画面、文字の層ごと消す適用をつなぎます。3か月目以降: 再読み取りの検査を入れ、人が足した候補の型を見て規則と名簿を直し、1件90分が何分になったかを実測します。再読み取りの検査で残存がゼロの状態が続いた時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-15/最終更新:2026-10-23
確認した内容情報源確認日
piiCategories で返す区分を指定でき、既定で無効な区分も拾えること。言語を指定しないと英語として扱われること。応答の redactedText・offset・length・confidenceScore。同期の利用はデータが保存されず、非同期の結果は24時間で消去されること。区分名での置き換え・しきい値はプレビューの機能で、GA は 2026-05-01 であることMicrosoft Learn: Identify and extract PII from text2026-10-15
テキストの PII と文書の PII が日本語(ja)に対応し、会話の PII は英・仏・独・西のみであることMicrosoft Learn: PII detection language support2026-10-15
Person・Address・PhoneNumber・Organization・Date と、JP で始まる日本の番号類の区分があることMicrosoft Learn: PII entity categories2026-10-15
同期の1文書が5,120字、PII の検出の1要求が5文書・1MB まで。1,000字を1テキスト レコードとして数えることMicrosoft Learn: Data limits for Language service features2026-10-15
位置の既定が書記素の単位で、stringIndexType で unicodeCodePoint などに変えられることMicrosoft Learn: Multilingual and emoji support2026-10-15
文書の PII 検出が PDF・DOCX・TXT を受けて伏せ字済みの文書と JSON を返し、2026-05-01 に GA になったこと。黒い四角・区分名での置き換え・しきい値・除外する語がプレビューの機能であることMicrosoft Learn: Document-based PII overview2026-10-15
words が語ごとの polygon と信頼度を持ち、spans が全文の中の位置を指すこと。段落の役割(pageHeader など)。パスワード付きの PDF はロックの解除が要ることMicrosoft Learn: Document layout analysis2026-10-15
Read・Layout の印字の文字と手書きの文字の対応言語に日本語(ja)が含まれることMicrosoft Learn: Language support for Read and Layout2026-10-15
弁護士又は弁護士であった者が、職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うこと(第23条)e-Gov 法令API: 弁護士法2026-10-15
閲覧等を当事者に限る決定(第92条)、住所・氏名等の秘匿の決定と代わる事項(第133条)、秘匿決定があった場合の閲覧等の制限(第133条の2)e-Gov 法令API: 民事訴訟法2026-10-15

どの書面を外へ出してよいか、どこまで伏せるかは、担当の弁護士と事務所の決まりで判断してください。 本記事は、上記の公開情報で確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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