Media > AI活用ユースケース > 知財 > 研究者が出す論文・学会発表の事前届出を、原稿の技術的な事項が出願済みの明細書と発明届のどれに当たるかで判定し、特許出願前の公開になるおそれのあるものを知財の担当に回す

研究者が出す論文・学会発表の事前届出を、原稿の技術的な事項が出願済みの明細書と発明届のどれに当たるかで判定し、特許出願前の公開になるおそれのあるものを知財の担当に回す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

研究者が出す論文・学会発表の事前届出の原稿を、出願済みの明細書と未出願の発明届に照らし、技術的な事項ごとにどれに書かれているかを判定します。出願前の公開になるおそれのある届出を、公開日と期限を添えて知財の担当に回します。

サマリー
生成AI
Azure OpenAI Service/ChatGPT/Claude/Gemini
連携・自動化
Google Apps Script/Make/n8n/Power Automate/Python
対象業界
IT・SaaS/医療/製造
対象部門
知財/研究開発
対象業務
内容確認・チェック/比較検討
主な課題
人手が足りない/判断に時間がかかる/期限・対応漏れが起きる
AIで行う処理
判定
主な効果
判断支援/対応スピード向上/機会損失防止
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
本格構成
費用感
API連携(中)
人間の確認
必須
現在工数
40h/月
AI導入後
15h/月
想定削減
63%
年間削減
300h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 研究者がフォームで届出を出す(発表の種類、学会名、発表日、原稿、関係する発明届と出願の番号)
  2. 知財の担当が届出を開き、台帳で関係する出願と発明届を探す
  3. 出願済みの明細書と発明届を開き、原稿と並べて読む
  4. 原稿の事項のうち、明細書に書かれていないものに印を付ける
  5. 印の付いた事項が未出願の発明届に当たれば、出願の担当と時期を相談する。どれにも当たらなければ研究者に聞く
  6. 学会のWebで予稿の公開日を調べ、出願が間に合うかを見る
  7. 研究者に結果を返す(そのまま発表してよい/一部を伏せる/出願を先にする)
導入後(After)
  1. 人研究者がフォームで届出を出す。発表日に加えて、予稿の公開日と要旨集の発行日の欄を埋める
  2. 自動フォームの送信をきっかけに、ワークフローが原稿を保存し、台帳から関係する出願と発明届の文書を集める
  3. 自動公開日(予稿の公開日・要旨集の発行日・発表日のうち最も早い日)と、公開日までの残りの日数を出す
  4. 自動Claude API が、原稿の技術的な事項ごとに、明細書・発明届のどれに書かれているかを判定し、引用を添えてJSONで返す
  5. 自動引用が原稿と明細書・発明届に本当にあるかを、プログラムが文字で照らす
  6. 自動判定と残りの日数から、届出を「受理の候補」「出願の調整」「発明届の確認」「判断できない」に振り分ける
  7. 自動「受理の候補」以外を、残りの日数の少ない順に知財の担当へ知らせる
  8. 人知財の担当が、知らせを受けた届出の事項を引用で確かめ、出願の担当・研究者と相談する
  9. 人知財の担当が「受理の候補」を一覧で確かめ、研究者に返す
各工程の詳しい説明を読む
  1. 研究者がフォームで届出を出す(発表の種類、学会名、発表日、原稿、関係する発明届と出願の番号)
  2. 知財の担当が届出を開き、台帳で関係する出願と発明届を探す
  3. 出願済みの明細書と発明届を開き、原稿と並べて読む
  4. 原稿の事項のうち、明細書に書かれていないものに印を付ける
  5. 印の付いた事項が未出願の発明届に当たれば、出願の担当と時期を相談する。どれにも当たらなければ研究者に聞く
  6. 学会のWebで予稿の公開日を調べ、出願が間に合うかを見る
  7. 研究者に結果を返す(そのまま発表してよい/一部を伏せる/出願を先にする)

(a)原稿と明細書を並べて読むのが重い。 原稿は10ページ、明細書は30ページを超えることがあり、照らす文書が数件あります。1件の届出で、知財の担当が読む量は100ページ近くになります。 研究者の言葉と明細書の言葉が違うので、同じ事項かどうかを見分けるのにも時間がかかります。

(b)予稿の公開日を見落とす。 6番目を省くと、発表日までに出願すれば間に合うと思い込みます。 予稿集が1か月前にWebで公開される学会なら、その日がすでに公開日です。

(c)回すべき届出が、締切の順に埋もれる。 届出は届いた順か締切の順に読まれ、出願が間に合わない届出と、問題の無い届出が同じ列に並びます。 問題の無い届出を先に読んでいるあいだに、急ぐ届出の残りの日数が減ります。

(d)発明届の無い事項に気づくのが遅い。 どちらにも当たらない事項は、研究者が発明届を出していない新しい成果のことがあります。それが見つかるのは、知財の担当が原稿を最後まで読んだときです。

  1. 【人】 研究者がフォームで届出を出す。発表日に加えて、予稿の公開日と要旨集の発行日の欄を埋める
  2. 【自動】 フォームの送信をきっかけに、ワークフローが原稿を保存し、台帳から関係する出願と発明届の文書を集める
  3. 【自動】 公開日(予稿の公開日・要旨集の発行日・発表日のうち最も早い日)と、公開日までの残りの日数を出す
  4. 【自動】 Claude API が、原稿の技術的な事項ごとに、明細書・発明届のどれに書かれているかを判定し、引用を添えてJSONで返す
  5. 【自動】 引用が原稿と明細書・発明届に本当にあるかを、プログラムが文字で照らす
  6. 【自動】 判定と残りの日数から、届出を「受理の候補」「出願の調整」「発明届の確認」「判断できない」に振り分ける
  7. 【自動】 「受理の候補」以外を、残りの日数の少ない順に知財の担当へ知らせる
  8. 【人】 知財の担当が、知らせを受けた届出の事項を引用で確かめ、出願の担当・研究者と相談する
  9. 【人】 知財の担当が「受理の候補」を一覧で確かめ、研究者に返す

8番目が、この設計の分かれ目です。AIの判定は、知財の担当が読む箇所を絞るためのものです。 判定に添えた引用で該当箇所に飛び、明細書に本当に書かれているかを担当が自分の目で確かめます。 発明に当たるかどうかの判断は担当が行います。

9番目で「受理の候補」も人が見るのは、AIの「明細書に書かれている」という判定を確かめるためです。 見落としの怖さは、問題のある届出を問題なしとすることにあります。受理の候補は一覧で流し見て、引用が事項に合っているかだけを見ます。

02今回想定するシステム構成

構成図
研究者 ── 事前届出のフォーム(発表の種類・学会名・発表日・予稿の公開日・
          要旨集の発行日・海外出願の予定・関係する番号・原稿PDF)
   │【トリガー】フォームの送信
   ▼
Power Automate ── 原稿を知財の保管先へ保存
   ├──▶ 台帳から関係する出願・発明届を引き、文書を集める
   └──▶ Python を呼ぶ
   ▼
Python ── 公開日(最も早い日)と残りの日数
   ▼
Claude API(PDFの入力・構造化出力)
   │   原稿の技術的な事項ごとの判定
   │   明細書に記載/発明届に該当/どちらにも無い/判断できない + 引用
   ▼
Python ── 引用の文字照合 → 振り分け(受理の候補/出願の調整/発明届の確認/判断できない)
   ▼
知財の担当へ通知(残りの日数の少ない順)
   ▼
【知財の担当が引用で確かめ、研究者・出願の担当と相談】→ 研究者へ返答
役割想定する製品代替候補
処理Claude API(原稿と明細書・発明届の照合の判定)OpenAI API、Gemini API、Azure OpenAI(Microsoft Foundry)
連携Microsoft Power Automate(フォームの受付、文書の収集、通知)Make、n8n
差異計算Python(公開日と残りの日数、引用の文字照合、振り分け)Google Apps Script
届出の受付Microsoft FormsGoogle フォーム
台帳・保管既存の発明届と出願の台帳、知財の文書の保管先知財管理システム

新しく足すのは、ワークフローの流れと Python の処理、Claude API の呼び出しだけです。 台帳と保管先は読むだけで、書き込みません。研究者への返答は、知財の担当が書きます。

届出の受付には、Microsoft Forms のコネクタを使います。 公式のドキュメントでは、トリガーの「When a new response is submitted」で送信を受け、「Get response details」で回答の中身を取るとされています。組織のアカウントでだけ動き、グループのフォームはフォームIDを手で入れる必要があるとされています。

原稿はPDFのまま Claude API に渡します。 公式のドキュメントでは、PDFは1回のリクエストで32MBまで、ページ数は600ページ(コンテキストが100万トークン未満のときは100ページ)までとされ、各ページを文字と画像の両方として扱うので、図や表も読めるとされています。原稿の図に書かれた条件や組成も、照らす対象に入ります。 パスワードの付いたPDFは扱えません。

新規性喪失の例外の手続きの期限は、法律と特許庁の案内で決まっています。 特許庁のページでは、特許出願より前に公開された発明は原則として特許を受けられないこと、例外規定(特許法第30条)の適用を受けるには、出願と同時に適用を受けようとする旨の書面を出し、出願から30日以内に証明する書面を出す必要があること、例外期間が平成30年の改正で6か月から1年に延長されたことが示されています。この構成は、その期限を知財の担当に見せるための日付を出すだけです。 例外の適用を受けるかの判断はしません。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

研究者がフォームを送信したことをきっかけにします。 届出は発表の直前に出されることが多く、1日1回の定時処理にすると、残りの日数が1日減ります。 送信のたびに1件ずつ動かします。

原稿を差し替えたときは、新しい届出として出してもらいます。 予稿の締切までに原稿が直されることはよくあり、直した後の原稿に新しい事項が足されていることがあります。 フォームに「差し替え」の欄を設け、前の届出の番号を書いてもらい、判定をやり直します。

残りの日数が少ない届出は、判定を待たずに知財の担当に知らせます。 公開日までの残りが3日以内なら、Python が日付を出した時点で通知を送ります。判定の結果を待つ数分も惜しい届出があるからです。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
届出の項目発表の種類、学会名、発表日、予稿の公開日、要旨集の発行日、海外出願の予定の有無、関係する出願と発明届の番号フォームの回答
原稿論文・予稿・発表スライドのPDFフォームの添付
出願済みの明細書関係する出願の明細書・特許請求の範囲・図面知財の文書の保管先
未出願の発明届関係する発明届の本文(発明の内容、実施例、図)知財の文書の保管先
台帳の情報出願番号と出願日、発明届の番号と状態(検討中・出願準備中・出願しない)発明届と出願の台帳

質を決めるのは、届出の日付の欄です。 予稿の公開日と要旨集の発行日を欄として受け取らないと、公開日をAIに原稿から読ませるか、知財の担当が学会のWebで調べることになります。 研究者は学会の案内を受け取っているので、自分で書くのがいちばん確かです。「分からない」も選べるようにし、分からない届出は知財の担当が調べる対象として印を付けます。

関係する番号は研究者が書きますが、それだけには頼りません。 研究者は自分の出願を全部覚えているわけではありません。台帳から同じ研究のテーマと同じ発明者の出願・発明届も引き、 研究者が書いた番号と合わせて照らす相手にします。照らす相手が10件を超えるときは、研究者が書いた番号を優先し、残りは知財の担当が選びます。

Step3

データの取得方法を決める

取るものどこから何に使うか
届出の回答Forms の「Get response details」日付、番号、海外出願の予定
原稿のPDFフォームの添付を保管先に保存したもの判定の対象
関係する出願・発明届台帳を番号・テーマ・発明者で引く照らす相手の一覧
明細書・発明届の文書保管先から番号で取る照らす相手の本文

明細書は、特許請求の範囲だけでなく本文と図面も渡します。 原稿の事項が請求項に無くても、明細書の実施例に書かれていれば、その事項は出願の時点で書類に記載されています。 請求項だけで照らすと、問題の無い事項まで「書かれていない」と出ます。

明細書と発明届は、出願や発明届の版を固定して渡します。 出願の後に補正した明細書や、書き直した発明届があるときは、どの版で照らしたかを記録に残します。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 公開日を出す … 予稿の公開日・要旨集の発行日・発表日のうち最も早い日を公開日とします。「分からない」がある場合は、分かっている日のうち最も早い日を仮に使い、「公開日を確かめる」の印を付けます
  2. 残りの日数を出す … 公開日までの日数です。出願の担当が出願に要する日数(社内の目安)を超えていれば「間に合う見込み」、下回れば「急ぐ」とします
  3. 公開日を過ぎた届出の期限を出す … 公開日から1年後の日を、例外規定の期間の参考として出します。この日付は知財の担当が見るためのもので、研究者には出しません
  4. 照らす相手をそろえる … 明細書と発明届を番号ごとに1つのPDFにします。照らす相手の数と総ページ数を数え、PDFの上限に近ければ、研究者が書いた番号の文書だけに絞ります
  5. 原稿のPDFを確かめる … パスワードが付いていれば外してもらうよう研究者に返します

3番目を研究者に出さないのは、誤った安心を与えないためです。 例外の期間の日付を見た研究者は、「1年以内に出せばよい」と受け取ります。 特許庁のページは、例外の適用を受けても第三者が先に出願・公開していれば特許を受けられないこと、海外への出願では各国の規定によって特許を受けられなくなる可能性があることを注意として挙げています。

Step5

AIに処理させる

させるのは、原稿の技術的な事項を書き出し、それぞれが照らす相手のどれに書かれているかを判定し、根拠の文をそのまま写すことだけです。

判定意味写す引用
in_filed出願済みの明細書(本文・請求項・図面の説明)に書かれている原稿の該当文と、明細書の該当文
in_pending未出願の発明届に書かれていて、出願済みの明細書には無い原稿の該当文と、発明届の該当文
not_foundどちらにも書かれていない原稿の該当文だけ
unclear書き方が違い、同じ事項かを決められない原稿の該当文と、近い文の候補

技術的な事項は、構成・条件・数値・効果の単位で書き出させます。 「〇〇を添加した△△」のような構成、「焼成温度 850〜900℃」のような条件、「強度が20%向上」のような効果を、それぞれ1つの事項にします。事項を大きくまとめると、一部だけが明細書に無い場合に見落とします。

数値の範囲は、範囲の両端まで照らさせます。 明細書に「800〜900℃」とあり、原稿に「750〜900℃」とあれば、750〜800℃の部分は明細書に書かれていません。 AIには範囲を広げた・狭めたを判断させず、両方の範囲を写させ、unclear にさせます。

させないこと理由
発明に当たるかの判断知財の担当と弁理士の判断
新規性・進歩性の評価他社の公開情報を見ていない。出願前の公開の問題と別の話
例外規定の適用を受けるかの判断出願の戦略と海外出願の予定による
公開日・期限の読み取りと計算フォームの日付からプログラムが出す
原稿の書き直しの提案何を伏せるかは研究者と知財が決める
引用の言い換え・要約照合できなくなる。写すだけ

3行目がいちばん起きやすい失敗です。 未出願の事項を見つけたAIは、親切に「1年以内に出願すれば新規性喪失の例外を受けられます」と書きます。その文が研究者に転送されれば、出願を待たずに発表してよいという意味に読まれます。 例外規定には一切触れさせません。

Step6

指示内容を固定する

あなたは知財部で、研究者の論文・学会発表の原稿を、自社の出願済みの明細書と
未出願の発明届に照らす担当です。渡された文書だけを見て判定してください。

【文書】
- 原稿(判定の対象)
- 出願済みの明細書(出願番号つき。本文・請求項・図面の説明を含む)
- 未出願の発明届(発明届の番号つき)

【すること】
1. 原稿の技術的な事項を、構成・条件・数値・効果の単位で書き出してください。
   図や表に書かれた条件・組成・数値も事項にしてください。
2. 事項ごとに、次のどれかで判定してください。
   in_filed:出願済みの明細書のどれかに書かれている
   in_pending:明細書には無く、発明届のどれかに書かれている
   not_found:どちらにも書かれていない
   unclear:同じ事項かを決められない
3. 根拠の文を、原稿と照らした文書の両方から、一字一句そのまま写してください。

【厳守事項】
- 引用は要約・言い換え・省略をしないでください。文書にある文字のとおりに写してください。
- 数値の範囲が少しでも違うときは、両方の範囲を写して unclear にしてください。
  範囲が広いか狭いかを判断しないでください。
- 迷ったときに in_filed を選ばないでください。
- 発明に当たるか、新規性・進歩性があるかを書かないでください。
- 新規性喪失の例外、特許法第30条、出願の期限について一切書かないでください。
- 公開日や発表日を書かないでください。
- 原稿の直し方を提案しないでください。
- 原稿の事項が多くても省略せず、すべて書き出してください。

「迷ったときに in_filed を選ばない」が、この指示の要です。 in_filed は「この事項は問題ない」に近い意味を持ちます。誤って in_filed と判定された事項は、知財の担当の目から外れます。 迷ったら unclear にさせ、担当の目に入る側に倒します。

「例外について一切書かない」を、条文の番号まで挙げて禁じているのは、 「新規性喪失の例外」とだけ書くと「グレースピリオド」と言い換えて書くことがあるからです。

Step7

出力形式を固定する

次の形のJSONで受け取ります。 構造化出力の output_config.format でスキーマを渡し、判定を列挙値に限ります。

{
  "notice_id": "",
  "features": [
    {
      "feature_id": "F01",
      "kind": "composition | condition | value | effect",
      "summary": "",
      "verdict": "in_filed | in_pending | not_found | unclear",
      "manuscript_quote": "",
      "manuscript_page": "",
      "matched_doc": "",
      "doc_quote": ""
    }
  ],
  "unreadable_parts": [""]
}

1つ目の理由は、引用を文字で照らせることです。 Python は manuscript_quote が原稿の文字に、doc_quote が matched_doc の文書の文字に、そのまま含まれているかを照らします。 含まれていなければ、その事項の判定を unclear に置き換えます。AIが言い換えて写した引用は、照合で落ちます。

2つ目は、振り分けを規則で決められることです。 判定はAIが付け、届出の振り分けは Python が規則で決めます。

振り分け条件
受理の候補すべての事項が in_filed で、引用の照合に通った
出願の調整in_pending が1つ以上ある
発明届の確認not_found が1つ以上ある
判断できないunclear がある、引用の照合に落ちた、unreadable_parts がある、公開日が分からない

1つの届出が複数に当たるときは、下の行を優先します。 通知は振り分けごとに、残りの日数の少ない順に並べます。「出願の調整」で残りの日数が出願に要する日数を下回るものは、先頭に「急ぐ」の印を付けます。

知財の担当に届く通知は、次のように見えます。

【急ぐ】出願の調整 届出 N-0412 公開日まで残り9日(予稿のWeb公開)
  F03 条件 in_pending
    原稿 p.3:「焼成温度を750〜900℃とし」
    発明届 H-2026-031:「焼成は750℃以上900℃以下で行う」
  F05 数値 unclear
    原稿 p.4 表2:「添加量 0.5〜3.0 wt%」
    明細書 特願2025-xxxxxx:「添加量は1.0〜3.0質量%が好ましい」
  F01・F02・F04・F06 in_filed(引用の照合に通過)

F05の行が、数値の範囲の違いを unclear に倒した例です。 0.5〜1.0の部分が明細書に書かれているかは、明細書の他の箇所を担当が読んで決めます。

3つ目は、unreadable_parts で読めなかった箇所を残せることです。 図の文字が小さい、スキャンした古い資料が貼られている、といった箇所を書き出させ、知財の担当がその部分だけを原稿で見ます。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
Microsoft FormsPower Automate のトリガーとアクション届出の受付と回答の取得
知財の文書の保管先Power Automate で保存・取得原稿の保存、明細書と発明届の取得
発明届と出願の台帳Power Automate で読む関係する出願と発明届を引く
PythonPower Automate から呼ぶ日付、引用の照合、振り分け
Claude APIPython から呼ぶ事項ごとの判定と引用
知財の担当社内のチャットへの通知振り分けと残りの日数、判定の表へのリンク

台帳にも保管先にも書き込みません。 届出の受理と研究者への返答は、知財の担当がこれまでどおり行います。AIの判定から研究者へ直接届く経路は作りません。

研究者にはフォームの受付の通知だけを返します。 判定の結果を研究者に自動で返すと、in_filed だけの届出に「問題なし」と読める通知が届き、知財の担当が確かめる前に研究者が安心します。

Step9

人が確認する

  1. 「急ぐ」の印の届出から開く … 残りの日数と、in_pending の事項の引用を見て、出願の担当にすぐ相談します
  2. not_found の事項を研究者に聞く … 発明届が出ていない成果か、明細書の書き方と違うだけかを確かめます
  3. unclear の事項を原稿と文書で読む … 数値の範囲の違いはここに入ります
  4. 「受理の候補」を一覧で流し見る … 事項の要約と引用が合っているかだけを見ます
  5. 研究者に返答する … そのまま発表してよい/一部を伏せる/出願を先にする

4番目を省かないでください。 AIが事項を書き出し損ねた場合、その事項は判定の表に出てきません。受理の候補の一覧で事項の数が原稿の量に比べて少なすぎないかを見ると、書き出し損ねに気づけます。

目標は、1件15分です。 受理の候補は5分ほどで流し見られ、出願の調整や発明届の確認は引用を見ながら30分前後かかります。全件を最初から読んでいた40分が、引用を手がかりに必要な箇所だけを読む時間に変わります。

Step10

例外に対処する

起きること対応
予稿の公開日が「分からない」判断できないに振り分け、知財の担当が学会の案内で確かめる
公開日をすでに過ぎている判定を待たずに知財の担当に知らせる。例外の扱いは担当が判断する
関係する番号が無く、台帳でも引けない照らす相手なしで判定はせず、研究者に聞く
原稿にパスワードが付いている外してもらうよう研究者に返す
PDFの上限に近い(照らす文書が多い)研究者が書いた番号の文書に絞る。絞ったことを記録する
引用の照合に落ちた事項があるその事項を unclear にする。2回続けて落ちる届出は人が全文を読む
海外出願の予定がある振り分けにかかわらず知財の担当が見る
応答がスキーマに合わない・途中で切れた同じ届出を作り直す。2回目も崩れたら判断できないに振り分ける
原稿の差し替え前の届出に「差し替え済み」の印を付け、新しく判定する

7行目の海外出願は、規則で必ず人に回します。 特許庁のページが注意しているとおり、国によっては自らの公開で特許を受けられなくなることがあります。 国内の判定が「受理の候補」でも、海外の扱いは別に知財の担当が見ます。

Step11

記録を残す

  • 届出の回答と原稿のPDF、照らした明細書と発明届の番号と版
  • 公開日の出し方(どの日付を使ったか)と残りの日数
  • Claude API が返したJSONの全文と、引用の照合の結果
  • 振り分けの結果と、知財の担当が判定を覆した事項と理由
  • 研究者への返答と、出願の調整をした場合の出願日

4つ目の覆した記録は、指示と事項の書き出し方を直す材料です。 in_filed を担当が in_pending に覆した事項が続くなら、明細書と原稿の言葉の違いを、AIが同じ事項と読みすぎています。

最後の行は、公開と出願の前後を後から確かめるための記録です。 例外規定の手続きに要る「公開の事実」を後で整理するときにも、どの届出をいつ受け、いつ出願したかが残っていれば、すぐに追えます。

04実装レベルの3段階

最小構成:AIサービスの画面に指示と文書を渡し、事項ごとの判定を出させる / 1件ごとの照らし読みの下ごしらえ
半自動化:上記+フォームの受付から文書の収集までを Power Automate で行い、公開日と残りの日数を Python で出す / 文書集めと日付の計算
本格構成:上記+Claude API で判定し、引用の照合と振り分けを行い、残りの日数の順に知財の担当へ知らせる / 判定、照合、振り分け、通知

最小構成では、文書を集めて渡す手間が残ります。 1件の照らし読みは速くなりますが、台帳を引いて文書をそろえる5分と、公開日を調べる5分はそのままです。 半自動化で文書集めと日付が自動になり、1件40分が25分程度になります。 照らし読みの下ごしらえはまだ画面で行います。本格構成で1件15分になり、この段階が本記事の想定です。 差が大きいのは、引用の照合と振り分けで、知財の担当が最初から読む届出が絞られるからです。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
3 名
月間件数
60 件
1件あたり現在時間
40 分
1件あたり導入後時間
15 分
現在  60件 × 40分 ÷ 60 = 40 時間/月
導入後 60件 × 15分 ÷ 60 = 15 時間/月
月間削減時間
25h
削減率
63%
年間削減時間
300h
年間金額換算(時間単価4,500円)
135万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 研究所や開発部門から月に数十件の論文・学会発表・展示の事前届出が知財部に届き、少人数の知財の担当が原稿を出願済みの明細書と発明届に照らして読んでいる製造業・医療機器・素材などの企業。届出が発表の直前に出されることが多く、予稿の公開日を見落として出願が間に合わなかったことがある場合。発明届と出願の状況を台帳で管理している場合。
向いていない
  1. 届出が月に数件で、知財の担当が全件を時間をかけて読める場合。発明届や出願の台帳が無く、原稿を照らす相手が無い場合。原稿そのものを社外のAIに渡すことを社内の規程が認めていない場合。なお、発明に当たるか、新規性喪失の例外の適用を受けるか、出願を急ぐかの判断はこの構成では代替できません。

07最小構成で試す方法

  1. 過去1年の届出から20件を選ぶ(うち数件は、出願を先にしたものや、一部を伏せたものを入れる)
  2. その20件の原稿と、当時照らした明細書・発明届を用意する
  3. 社内で利用が認められたAIサービスの画面に、第7章の指示と1件分の文書を渡す
  4. 出てきた事項ごとの判定を、当時の知財の担当の判断と並べる
  5. in_filed と判定された事項に、当時「書かれていない」とした事項が混ざっていないかを最優先で見る

20件は必ずやってください。 ワークフローを組む前に、「原稿と明細書を渡せば、事項ごとに照らせるのか」を確かめます。 原稿は未公開の技術情報なので、どのAIサービスに渡してよいかを先に社内で決めてから試します。

出てきた内容判断
当時出願を先にした事項が in_pending と出た引用の照合と振り分けに進む
引用が言い換えられていた指示の書き方で直る。照合を入れれば落ちる
当時「書かれていない」とした事項が in_filed と出たここが直らないなら使わない。 事項の単位と指示を見直す
図の中の条件が事項に出てこないPDFの図の解像度を確かめる。読めなければ人が見る範囲として残す

3行目が1件でも出たら、そこで止まって原因を見ます。 見落としの方向の誤りは、この構成でいちばん避けたいものです。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
迷った事項を in_filed にする指示で禁じ、unclear に倒させる
引用を言い換える文字照合で落とし、unclear に置き換える
例外規定や期限について書く条文の番号まで挙げて禁じる
公開日を発表日と取り違える日付はフォームで受け取り、AIに読ませない
請求項だけで照らして問題の無い事項まで拾う明細書の本文と図面も渡す
数値の範囲の違いを見落とす範囲の両端を写させ、違えば unclear
事項を大きくまとめて一部の違いを見落とす構成・条件・数値・効果の単位で書き出させる
図の中の条件が拾われないunreadable_parts に書き出させ、人が見る
照らす文書が多くPDFの上限に近い研究者の書いた番号に絞り、絞ったことを残す
研究者が判定を見て安心する研究者には受付の通知だけを返す
海外出願の予定が見過ごされる振り分けにかかわらず人に回す

上の2行が、この構成の失敗のほとんどです。 どちらも、問題のある事項が「問題なし」の側に入る方向の誤りです。判定を迷ったら人の目に入る側に倒し、引用は機械で照らす。 この2つを守れるかで、使えるかが決まります。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 未発表の論文の原稿、未出願の発明届、出願済みでまだ公開されていない明細書です。どれも、外に出れば自社の出願の新規性を自分で損ないかねない情報です。

  1. 原稿を渡してよいAIサービスを先に決める … 社内の秘密情報の規程と照らし、API の利用の可否と、入出力の扱いを確かめます。試行の段階から、個人のアカウントのAIサービスには渡しません
  2. 保管先の権限を知財の担当に絞る … 原稿と発明届を集める保管先は、届け出た研究者と知財の担当だけが開ける場所にします
  3. 判定を研究者に自動で返さない … 受付の通知だけを返し、返答は知財の担当が書きます
  4. 例外規定について、AIにも研究者向けの通知にも書かせない … 特許庁のページは、例外の適用を受けても第三者が先に出願・公開していれば特許を受けられないこと、海外では特許を受けられなくなる可能性があることを注意しています。例外を前提にした発表の判断は、知財の担当と弁理士が行います
  5. 共同研究の成果は別に扱う … 共同研究先の情報が原稿に入っている場合、出願の主体と発表の可否は契約によります。届出の欄で共同研究かどうかを聞き、該当する届出は振り分けにかかわらず人に回します

誤りが起きた場合のリスクは、未出願の事項を出願済みと判定して見落とすことと、公開日を誤って出願が間に合わないことの2つです。 前者は in_filed を避ける指示と引用の照合で、後者は日付をフォームで受け取ることで防ぎます。

10まず何から始めるか

1週目:フォームに日付の欄を足す

事前届出のフォームに、予稿の公開日、要旨集の発行日、海外出願の予定、共同研究かどうかの欄を足します。研究者に、公開日は発表日ではないことを一文で知らせます。

2週目:原稿を渡してよいAIサービスを決める

社内の秘密情報の規程と照らして、どのAIサービスに原稿を渡してよいかを決めます。決まるまで試行に進みません。

3週目:20件で試す

過去の届出から20件を選び、事項ごとの判定を当時の判断と並べます。当時「書かれていない」とした事項が in_filed と出ていないかを最優先で見ます。

4週目:フォームから日付の計算までをつなぐ

Power Automate でフォームの受付、原稿の保存、台帳からの文書の収集を作り、Python で公開日と残りの日数を出します。この時点で「急ぐ」の通知だけを先に使い始めます。

2か月目: Claude API の判定と引用の照合、振り分けを足し、知財の担当が判定を覆した事項を数えます。3か月目以降: 1件40分が何分になったかを実測し、覆した事項の傾向で指示と事項の単位を直します。急ぐ届出が届いたその日に知財の担当の目に入り、出願が公開に間に合わなかった届出が出なくなった時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-13/最終更新:2026-10-14
確認した内容情報源確認日
特許出願より前に公開された発明は原則として特許を受けられないこと。新規性喪失の例外規定(特許法第30条)の適用を受けるには、出願と同時に適用を受けようとする旨を記載した書面を提出し、出願から30日以内に証明する書面を提出する必要があること。平成30年の改正で例外期間が6か月から1年に延長されたこと。例外の適用を受けても第三者が先に出願・公開していれば特許を受けられないこと、海外では各国の規定により特許を受けられなくなる可能性があること、公開された発明が複数あればそれぞれ手続きが要ること特許庁: 発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について2026-10-13
特許法第29条第1項(出願前に公然知られた発明、公然実施をされた発明、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明は特許を受けられないこと)。第30条(公になった日から1年以内の出願で新規性を失わなかったものとみなすこと、出願と同時の書面と出願の日から30日以内の証明書の提出)。2026年6月24日施行の改正を反映した版e-Gov 法令検索 法令API: 特許法2026-10-13
PDFの入力が1回のリクエストで32MB、600ページ(コンテキストが100万トークン未満のときは100ページ)までであること。パスワードや暗号化の無い標準のPDFに限ること。各ページを文字と画像の両方として扱い、画像としての分も数えられることClaude Docs: PDF support2026-10-13
構造化出力が output_config.format(type: "json_schema")で指定でき、列挙値(enum)に対応し、一般提供(GA)であることClaude Docs: Structured outputs2026-10-13
Microsoft Forms コネクタのトリガー「When a new response is submitted」とアクション「Get response details」。組織のアカウントでだけ動くこと、グループのフォームはフォームIDを手で入れる必要があることMicrosoft Learn: Microsoft Forms connector2026-10-13

発明に当たるか、新規性喪失の例外の適用を受けるか、出願を急ぐか、海外でどう扱うかは、知財の担当と弁理士が判断してください。 本記事は特許庁のページ、特許法の条文、製品の公開仕様で確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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