外注した翻訳を受け入れる前に、訳抜けと数値違いと用語の不統一を点検する
翻訳会社から納品された訳文と、その原文を渡します。段落の対応・数値と単位・型番・用語集との一致・訳抜けの5点で突き合わせ、差し戻す箇所だけを原文と訳文の位置つきで一覧にします。訳の巧拙は採点しません。
- 利用ツール
- ChatGPT/Claude/Gemini/Make/Microsoft Copilot/Power Automate/Zapier
- 対象業界
- IT・SaaS/医療/商社/広告/製造
- 対象部門
- マーケティング/研究開発
- 対象業務
- 内容確認・チェック/比較検討
- 主な課題
- 人手が足りない/属人化している/確認ミスが多い
- AIで行う処理
- 校正
- 主な効果
- 判断支援/品質標準化/工数削減
- 導入難易度
- ★☆☆☆☆
- 実装レベル
- 最小構成
- 費用感
- SaaS追加(小)
- 人間の確認
- 必須
01導入前 / 導入後の業務フロー
- 翻訳会社から訳文のWordファイルがメールで届き、SharePointの受入フォルダに保存する
- 原文のWordファイルを開き、訳文と2画面に並べる
- 先頭から段落を目で対応させながら読み、抜けや余分な記述がないかを見る
- 数値・単位・型番・製品名を拾い、原文と同じ値かを1つずつ突き合わせる
- 用語集のExcelを開き、主要な部品名が前回と同じ訳語かを確認する
- 差し戻す箇所を、原文の位置と訳文の位置を書いてメールにまとめる
- 翻訳会社へ返信して修正版を待つ。急ぎの案件は指摘を出さずに受け入れる
- 人翻訳会社から届いた訳文を、SharePointの受入フォルダに保存する(原文は同じ文書IDで別フォルダにある)
- 自動保存をきっかけに処理が動き、原文と訳文を段落単位で対応づけられる形に分け、位置の符号を振る
- 自動数値・単位・型番・固有名詞を機械的に突き合わせ、食い違いの候補を出す
- 自動用語集の対訳と、訳文で実際に使われた語を突き合わせる
- 自動原文の各文が訳文のどこに対応するかをAIに対応づけさせ、対応の見つからない箇所と余分な追記を出す
- 自動機械で出た食い違いとAIが出した欠けを1つの指摘一覧にまとめ、`must_fix` と `check` に分ける
- 人担当者が指摘一覧を上から見て、採否を決める
- 人確かめるべき指摘だけを開き、原文の該当箇所と照らす
- 人差し戻す指摘を選んで翻訳会社へ送るか、そのまま受け入れる
各工程の詳しい説明を読む
- 翻訳会社から訳文のWordファイルがメールで届き、SharePointの受入フォルダに保存する
- 原文のWordファイルを開き、訳文と2画面に並べる
- 先頭から段落を目で対応させながら読み、抜けや余分な記述がないかを見る
- 数値・単位・型番・製品名を拾い、原文と同じ値かを1つずつ突き合わせる
- 用語集のExcelを開き、主要な部品名が前回と同じ訳語かを確認する
- 差し戻す箇所を、原文の位置と訳文の位置を書いてメールにまとめる
- 翻訳会社へ返信して修正版を待つ。急ぎの案件は指摘を出さずに受け入れる
(a)読めない言語は確かめようがない。 3から5は「訳文が読める」ことが前提です。読めない3言語では3が成立せず、結果として翻訳会社を信じるしかなくなっています。 これは信用の問題ではありません。確かめる手段が無いということです。
(b)いちばん困るのは訳の巧拙ではなく、欠けと数字。 後から見つかるのは、段落がまるごと抜けている、200V が 220V になっている、型番の英数字が1文字違う、といった類です。どれも言語が読めなくても見つけられるのに、読み合わせという作業の中に埋もれています。
(c)用語が案件ごとに変わる。 同じ部品名が前回と違う訳語になり、過去の文書と突き合わせられなくなります。 用語集はExcelにありますが、納品のたびに全語を照合する手間はかけられず、目についたものだけを直しています。代理店からの問い合わせで「前のカタログと言い方が違う」と言われて気づく状態です。
(d)差し戻しの指摘に時間がかかる。 「この段落がおかしい」では直してもらえません。原文の何節の何段落目が、訳文のどこで、どう違うのかを書く必要があり、1件8分がここに消えます。急ぐと指摘を書かずに受け入れるため、同じ誤りが次の改訂にも残ります。
- 【人】 翻訳会社から届いた訳文を、SharePointの受入フォルダに保存する(原文は同じ文書IDで別フォルダにある)
- 【自動】 保存をきっかけに処理が動き、原文と訳文を段落単位で対応づけられる形に分け、位置の符号を振る
- 【自動】 数値・単位・型番・固有名詞を機械的に突き合わせ、食い違いの候補を出す
- 【自動】 用語集の対訳と、訳文で実際に使われた語を突き合わせる
- 【自動】 原文の各文が訳文のどこに対応するかをAIに対応づけさせ、対応の見つからない箇所と余分な追記を出す
- 【自動】 機械で出た食い違いとAIが出した欠けを1つの指摘一覧にまとめ、
must_fixとcheckに分ける - 【人】 担当者が指摘一覧を上から見て、採否を決める
- 【人】 確かめるべき指摘だけを開き、原文の該当箇所と照らす
- 【人】 差し戻す指摘を選んで翻訳会社へ送るか、そのまま受け入れる
5番目だけがAIの仕事です。 3と4は文字列を抜いて数えているだけで、AIを通さないほうが速く、漏れがなく、なぜその指摘が出たのかも説明できます。 「数値は全件突き合わせました」と言えるのは、機械が全件を見たときだけです。
7番目から9番目を自動化しないことが、この設計の分かれ目です。 指摘には、訳文として妥当なのに機械が食い違いと判断するものが必ず混じります。自動で差し戻しのメールを送る設計にすると、翻訳会社の側で「またこの指摘か」と扱われ、本当に直すべき指摘まで軽く見られます。 精度の問題ではなく、相手のある業務だからです。
02今回想定するシステム構成
翻訳会社から訳文が納品される(Wordファイル) │ 担当者が SharePoint の受入フォルダへ保存 ▼【トリガー】受入フォルダへのファイル保存 Power Automate ├──▶ 原文と訳文を段落単位で対応づける(位置の符号を振る) ├──▶ 数値・単位・型番・固有名詞を機械的に突き合わせる └──▶ 用語集(Excel)との一致を見る ▼ Microsoft 365 Copilot │ 原文の各文が訳文のどこに対応するかを対応づけ、 │ 訳抜けと余分な追記を見つける ▼ 指摘の一覧(種別/原文の位置/訳文の位置/must_fix・check) ▼ 【人が確認して差し戻しを決める】 ▼ 翻訳会社へ差し戻し / 受入
| 役割 | 想定する製品 | 代替候補 |
|---|---|---|
| 処理 | Microsoft 365 Copilot | Claude API、OpenAI API、Gemini API |
| 連携 | Power Automate | Make、Zapier |
表に入れていない Word、SharePoint、Excel は、いま使っているものをそのまま使います。 原文と訳文は Word、置き場は SharePoint の受入フォルダ、用語集は Excel です。新しく足すのはライセンスとフローの2つだけです。
土台は Microsoft 365 Copilot です。 公開情報では、応答とエクスペリエンスはデータの根拠付け、統合の深さ、ライセンスが異なるとされ、どの体験もユーザーのアクセス許可によってスコープ指定されたアクセスに支えられています。発表前のカタログを扱うこの用途では、「誰が開ける文書か」がそのまま「誰の Copilot が読めるか」になる点が効きます。
ライセンスは3つに分かれ、ここがこの構成の分かれ目になります。 Copilot Chat(Basic)は Web データのみで、Word、Excel、PowerPoint、OneNote の Copilot にはアクセスできません。 Microsoft 365 Copilot(Basic)は、アドオンライセンスは無いもののそれらの Copilot への標準アクセスができます。 Microsoft 365 Copilot(Premium)はアドオンライセンスを持ち、優先アクセスができます。アプリ内の機能としては、Word のドキュメントの下書き、書き換え、要約が挙げられています。
Basic の2つは、Microsoft Graph 経由で組織データを使えません。 組織のコンテンツを使うには、コピーして貼り付ける、ファイルをアップロードする、ファイルを選択するという操作が要ります。つまり最小構成の「原文と訳文の2つのファイルを渡して指摘を出させる」は、Basic でも成立します。
受入フォルダを自動で見に行かせる段階で、初めて話が変わります。 Microsoft 365 Copilot(Premium)は、Microsoft Graph と Work IQ を通じて Web データと組織データの両方を自動的に参照し、手動でアップロードする必要がありません。Premium にするか、Power Automate 側でファイルを渡す作り込みをするかの、どちらかです。
03どうやって実装するのか
処理の起点を決める
SharePoint の受入フォルダにファイルが保存されたことを起点にします。 納品はメールで届きますが、メールの受信は起点にしません。 添付の付け方が案件ごとに違い、1通に複数言語がまとまって届くこともあるためです。「受入フォルダに1言語分ずつ置く」という人の操作を1つ挟むほうが、後の処理が安定します。
フォルダは言語ごとに分け、ファイル名に文書IDと言語コードを入れます(例: CAT-2410-03_de.docx)。原文は同じ文書IDで原文フォルダにあります。原文が見つからないときは起動しません。 比べる相手が無ければ、この構成は何もできません。
定時実行にしない理由もあります。翻訳会社への差し戻しは納品から何日以内という取り決めがあることが多く、1日1回にすると実質の締め切りがその分だけ縮みます。
入力データを集める
| データ | 中身 | 取得元 |
|---|---|---|
| 原文 | 日本語の文書。見出し、段落、箇条書き、表、図のキャプション | SharePoint(原文フォルダ) |
| 訳文 | 納品された訳文。同じ文書の1言語分 | SharePoint(受入フォルダ) |
| 用語集 | 日本語の語、各言語の対訳、使ってはいけない訳語、適用する文書の種類 | Excel |
| 過去の指摘 | 前回までに差し戻した箇所と、翻訳会社の回答 | SharePoint(案件フォルダ) |
| 文書の属性 | 文書ID、言語コード、版、原文の確定日、納品日 | ファイル名と案件台帳 |
この構成の質を決めるのは用語集です。 日本語の語と対訳が1対1で並んでいれば突き合わせは機械でできますが、「対訳が空欄」「1つの語に訳語が3つ」の状態では、何とも比べられません。 準備作業はここに集まります。
用語集には「使ってはいけない訳語」の欄も作ります。 前回に差し戻した訳語をここへ移しておくと、同じ指摘を毎回書き直さずに済みます。
データの取得方法を決める
Power Automate のフローは4つの動作だけです。
| 順 | 動作 | 内容 |
|---|---|---|
| ① | ファイルの保存を検知 | 受入フォルダのファイル名から文書IDと言語コードを取り出す |
| ② | 原文の取得 | 同じ文書IDの原文を原文フォルダから読む。無ければ止めて担当者に通知する |
| ③ | 用語集の該当行の取得 | Excel から、その言語の対訳と禁止訳語だけを取り出す |
| ④ | Copilot への受け渡し | 原文・訳文・対訳・機械の突き合わせ結果を渡し、返ってきたJSONを保存する |
Word ファイルは、そのままの形では比べません。 見出し・段落・箇条書き・表のセルに分け、それぞれに h3 p12 l17-3 t4-2 のような位置の符号を振ってから渡します。 位置の符号が無いと、指摘に「どこが」を書けません。ここを省くと、出てくるのは「訳文の後半で単位が抜けているようです」という、翻訳会社が探すところから始める指摘になります。
訳文の側にも同じ規則で符号を振ります。 段落数が原文と違う時点で符号は1対1になりませんが、ずれていること自体が最初の指摘になります。
AIへ渡す前に整形する
点検するのは次の5点です。上の4つは前処理で機械的に済ませ、AIに渡すのは5つ目だけです。
| 点検項目 | 見つけ方 | 言語が読めなくても分かるか |
|---|---|---|
| 段落の対応 | 原文と訳文の段落数・見出し数・箇条書きの項目数を数える | 分かる |
| 数値と単位 | 原文から数値と単位を全部抜き、訳文側と突き合わせる | 分かる |
| 型番・固有名詞 | 原文の英数字の並びを抜き、訳文にそのまま現れるかを見る | 分かる |
| 用語集との一致 | 用語集の対訳と、訳文で実際に使われた語を突き合わせる | 分かる |
| 訳抜け・余分な追記 | 原文の各文が訳文のどこに対応するかをAIに対応づけさせる | AIが要る |
前処理の中身は6つです。
- 符号付け … 見出し・段落・箇条書き・表のセルに、原文と訳文の両方で位置の符号を振ります
- 数の比較 … 段落数、見出し数、箇条書きの項目数、表の行数を原文と訳文で数え、差を出します
- 数値と単位の抜き出し … 原文から数値と単位を全部抜き、訳文の対応する位置の近くに同じ値があるかを見ます
- 英数字の並びの抜き出し … 型番、規格番号、型式記号を抜き、訳文にそのまま現れるかを見ます
- 用語集の突き合わせ … 原文に用語集の語が何回出るかを数え、訳文に対訳が何回出るかを数え、数が合わない語だけを候補に残します
- 過去の指摘の付け合わせ … 前回差し戻した箇所と同じ語が残っていれば印を付けます
3で、けた区切りと小数点の規則を先に決めておいてください。 1,000 が 1.000 になるのは誤りではなく、言語による書き方の違いです。ここを機械が食い違いとして出すと、初回の指摘一覧の大半がこれで埋まります。 言語ごとの規則を設定に書き、前処理の側で吸収します。
5で「数を数える」だけにしているのにも理由があります。 どの位置の語が正しいかまで機械で決めようとすると、語形の変化や語順で外れます。数が合わない語を人とAIに渡すところで止めるのが、いちばん外れません。
AIに処理させる
させるのは、原文の各文が訳文のどこに対応するかの対応づけと、対応の見つからない箇所の指摘の2つだけです。
原文の文を上から順に見て、訳文のどの符号に対応するかを答えさせます。対応が見つからない文は unmatched_source_segments に残します。逆に、原文のどの文にも対応しない訳文の記述は extra_content として出させます。あわせて、前処理で出た食い違いの候補に前後の文を添えて、差し戻しの指摘として読める形にします。
| させないこと | 理由 |
|---|---|
| 訳の質の点数付け | 良し悪しは人と翻訳会社の間の話。出力スキーマに点数の欄を作らない |
| 訳文の書き換え | 直すのは翻訳会社。こちらが直すと成果物の責任の所在が消える |
| 数値の再計算・単位の換算 | 前処理が抜いた値をそのまま載せる。丸めもさせない |
| 差し戻すかどうかの判断 | 納期と改訂の重さを見て、人が決めること |
| 原文に無い補足の追加 | 「訳文のほうが親切だ」という判断をさせない。それは原文の改訂の話 |
1行目がいちばん大事です。 点数を出させると、担当者はその点数を見て受入を決めるようになります。80点の訳文に訳抜けが1か所あるのと、60点の訳文に訳抜けが無いのとでは、受け入れてよいのは後者です。 点数は、この構成が見つけたい欠けを覆い隠します。確実なのは、出力のスキーマに点数を書く場所を作らないことです。
指示内容を固定する
あなたは、外注した翻訳の受入検査を手伝う立場です。
訳文の品質を評価するのではなく、原文にあって訳文に無いもの、
原文と食い違うものを見つけてください。
【渡すもの】
- 原文(位置の符号つき。h=見出し、p=段落、l=箇条書き、t=表のセル)
- 訳文(同じ規則の符号つき)
- 用語集の対訳(この言語の分だけ)
- 前処理で出た食い違いの候補(数値・型番・用語・数の差)
【やること】
1. 原文の文を上から順に見て、訳文のどの符号に対応するかを答えてください。
対応が見つからない文を、近い段落へ無理に割り当てないでください。
見つからないことを unmatched_source_segments に書いてください。
2. 原文のどの文にも対応しない訳文の記述を extra_content として出してください。
3. 前処理で渡した食い違いの候補それぞれに、原文の位置と訳文の位置、
原文の該当文と訳文の該当文を付けてください。
【厳守事項】
- 訳文の点数や評価(自然さ、読みやすさ、総合的な出来)を書かないでください。
「良い訳です」「不自然です」と書いてはいけません。
- 訳文の修正案を書かないでください。指摘するところまでが役目です。
- 原文と訳文に書かれていない数値・型番・語を書かないでください。
単位の換算も、けたの丸めもしないでください。
- 原文の該当箇所が読み取れないときは、source_text を空にせず
「不明」と書いてください。推測で埋めないでください。
- 用語集に対訳の記載がない語は、glossary_mismatch にしないでください。
「用語集に記載がない」と needs_human の理由に書いてください。
- severity は次の規則で付けてください。
数値・単位・型番の食い違いと、対応の見つからない原文の文は must_fix。
用語集との不一致と、余分な追記は check。
迷ったときは check にし、needs_human を true にしてください。
【原文】{source_doc}
【訳文】{target_doc}
【用語集の対訳】{glossary}
【前処理で出た候補】{machine_findings}
「点数や評価を書かない」を2か所に分けているのは、書き方を変えて出てくるためです。 総合評価を禁じると、指摘の1つ1つに「軽微」「重大」といった評価語が付き始めます。評価語は severity の2つの値だけに閉じ込めます。
「無理に割り当てない」も欠かせません。 何も言わないと、対応の見つからない文をいちばん近い段落に割り当てて、対応づけを完成させようとします。そうなると訳抜けは1件も出ません。 対応が見つからないことこそ、この構成が探しているものです。
「用語集に記載がない語」の扱いを書くのも同じ理由です。 記載が無いときに、訳文の語をそのまま正解と見なすか、一般的な訳語を持ち出して食い違いにするかで、指摘の数が大きく変わります。記載が無いという事実を、そのまま人に返させます。
出力形式を固定する
返させるのは、次の形のJSONです。
{
"doc_id": "CAT-2410-03",
"language": "de",
"findings": [
{ "type": "number_mismatch", "source_ref": "p42", "target_ref": "p41",
"source_text": "", "target_text": "", "severity": "must_fix" },
{ "type": "missing", "source_ref": "l17-3", "target_ref": "",
"source_text": "", "target_text": "", "severity": "must_fix" }
],
"counts": {
"paragraphs": { "source": 0, "target": 0 },
"headings": { "source": 0, "target": 0 },
"list_items": { "source": 0, "target": 0 }
},
"unmatched_source_segments": [ { "source_ref": "", "source_text": "" } ],
"needs_human": { "value": true, "reason": "" }
}
type は missing(訳抜け)、number_mismatch(数値の違い)、code_mismatch(型番の違い)、glossary_mismatch(用語集との不一致)、extra_content(原文に無い追記)の5つです。
構造化する理由の1つ目は、source_ref と target_ref を必ず持たせるためです。 差し戻しの指摘は「どこが」が書けないと通じません。項目として用意しておけば、空のままにはできません。自由文で返させると、位置はほぼ落ちます。
2つ目は、指摘一覧を機械で並べ替えるためです。 severity が must_fix のものを上に置き、同じ種別をまとめて出せば、担当者は同じ判断を続けてできます。種別がばらばらに並ぶと、数値を見る頭と用語を見る頭を1件ごとに切り替えることになり、確認の12分が伸びます。
3つ目は、counts を先に見れば全体の欠けが分かることです。 段落数が原文12・訳文11なら、個別の指摘を読む前に1つ足りないと分かります。点数の欄は作りません。「AIに何をさせるのか」のとおりです。
システムへ連携する
| つなぎ先 | 方式 | 内容 |
|---|---|---|
| SharePoint(受入フォルダ) | Power Automate のトリガー | ファイルの保存を検知し、文書IDと言語コードを取り出す |
| SharePoint(原文フォルダ) | Power Automate のファイル取得 | 同じ文書IDの原文を読む |
| 用語集(Excel) | Power Automate の行の取得 | その言語の対訳と、使ってはいけない訳語を読む |
| Microsoft 365 Copilot | ファイルを渡して指示する | 対応づけと指摘をJSONで返す |
| 指摘一覧 | SharePoint の案件フォルダへ保存 | 担当者が開いて採否を決める |
書き戻す先はありません。 訳文のファイルには触れず、指摘一覧を別のファイルとして置くだけです。訳文に直接コメントを入れる形にすると、翻訳会社へ戻すときに、どれが自社の書き込みか分からなくなります。
翻訳会社への送信も、この構成には含めません。 メールは担当者が書きます。理由は第13章に書きます。
人が確認する
全件、人が確認します。指摘一覧をそのまま翻訳会社へ送る設計にはしません。
must_fixを全部見る … 数値・単位・型番の食い違いと訳抜けです。原文の該当箇所を開いて、指摘そのものが正しいかを確かめますcheckを絞る … 用語集との不一致と余分な追記です。文脈によっては許容します。許容したものは用語集に反映しますneeds_humanが真のものを先に読む … 用語集に記載が無い、対応づけが揺れた、といった箇所です
確認の目標は1件18分です。 内訳は指摘一覧の確認12分と、原文との突き合わせ6分です。それ以上かかるなら、check が多すぎます。 多くの場合、原因は用語集の対訳の欠けか、けた区切りの規則の設定漏れです。プロンプトで指摘を減らすのではなく、前処理の規則を直します。 指示で抑えると、本当に必要な指摘まで一緒に消えます。
例外に対処する
| 起きること | 対応 |
|---|---|
| 原文が見つからない | 起動しない。 担当者に通知する。比べる相手が無ければ点検できない |
| 原文が納品後に改訂された | 版を照合し、違えば止める。 古い原文と比べた指摘は害になる |
| 訳文がPDFで届いた | 位置の符号を振れない。受入の前にWordでの納品を取り決める |
| 段落数が大きく違う | 対応づけが総崩れになる。個別の指摘を出さず、「対応づけできず」として人へ回す |
| けた区切り・小数点の書き方の違い | 言語ごとの規則で前処理が吸収する。食い違いとして出さない |
| 用語集に対訳が無い | glossary_mismatch にせず、needs_human の理由に書く |
| 訳文への評価が混じる | 「自然」「不自然」などの語を機械で検知し、要確認として上に出す |
| 同じ文書の同じ言語が2回届く | 前回の指摘一覧と突き合わせ、直っていない箇所だけを出す |
4行目を軽く見ないでください。 段落数が大きく違う訳文は、レイアウトの都合で段落がまとめられただけのことも、章がまるごと抜けたこともあります。この見分けは人がやります。機械が「11対12だから1つ足りない」と出し、人が中身を見る。 順番を逆にしません。
記録を残す
- 原文・訳文・用語集の版(どの原文の、どの版と比べたか)
- 指摘一覧のJSONの全文と、担当者が採用した指摘・見送った指摘
- 見送った指摘の理由(許容した/前処理の誤検出だった/用語集の欠けだった)
- 翻訳会社へ送った指摘と、その回答、修正版の受領日
- 受け入れた日と、受け入れた担当者
3つ目が、この構成を良くする材料です。 「前処理の誤検出だった」が続く種別は規則を直し、「許容した」が続く語は用語集に足します。 記録が無いと、同じ誤検出を毎月見続けることになります。
保存の設計より先に、契約の確認です。 訳文を用語集へ蓄積してよいかは、翻訳会社との契約で決まります。
04実装レベルの3段階
この業務は、最小構成と半自動化で工数がほとんど変わりません。 1件50分が18分程度になる効果は、最小構成の時点でおおむね取れます。本記事が想定するのもここです。 半自動化で増えるのは時間ではなく、言い切れる範囲です。 「数値と型番は全件突き合わせた」と受入の記録に書けるかどうかが変わります。 本格構成が効くのは件数が増えたときと、(d)への対処です。 納品された時点で指摘一覧ができていれば、急いでいても「指摘を書かずに受け入れる」を選ばずに済みます。 見送った指摘が台帳に残るため、誤検出の多い種別も見えるようになります。
05工数削減シミュレーション
導入後 36件 × 18分 ÷ 60 = 10.8 時間/月
自社条件で導入効果を整理したい方へ
このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。
06向いている企業・向いていない企業
- カタログ・取扱説明書・Webページの翻訳を外注しており、納品物の確認が担当者どうしの読み合わせになっている企業。訳文の言語を読める人が社内に少なく、受け入れてよいかの判断に時間がかかっている場合。用語集が一応あり、対訳の形に整えられる場合。Microsoft 365 を使っていて、原文と訳文が同じ場所に置かれている場合。
- 翻訳が年に数件で、その都度読み合わせれば足りる場合。訳文の言語に堪能な担当者が社内にいて、読めば分かる場合。原文そのものが未確定で、訳文と並行して直している場合(先に原文を確定させるほうが効果が大きい)。契約書や薬事の申請書など、訳文に専門資格者の確認が求められる文書では、法定の確認の代わりにはできません。
07最小構成で試す方法
- 直近に受け入れた訳文から3件を選ぶ(うち1件は、後から誤りが見つかったもの)
- その3件の原文と訳文を、それぞれ1つのWordファイルにそろえる
- Copilot に2つのファイルを渡す(Basic では、ファイルをアップロードするか選択する操作が要ります)
- 「原文にあって訳文に無い箇所と、数値・型番の食い違いを、原文の位置と訳文の位置を付けて一覧にしてください。訳の良し悪しは書かないでください」と指示する
- 出てきた指摘を、当時の受入検査の記録と比べる
この3件は必ずやってください。 フローを作る前に、「原文と訳文を渡せば欠けが見つかるのか」だけを確かめます。
| 出てきた内容 | 判断 |
|---|---|
| 当時見つけた誤りが出ている | 前処理の作り込みに進む。 位置の符号と用語集から |
| 指摘は出るが位置が曖昧 | 符号を振ってから渡す。構成は有効 |
| 訳の評価ばかり返る | 指示で点数と評価語を禁じる。構成は有効 |
| 原文と訳文の対応が総崩れ | 文書の作りを見る。AIの問題ではない |
この段階でも指摘一覧は出ますが、機械的な4点もAIが探すことになります。 数値の全件照合は次の段階で前処理に移します。「全件見た」と言えるかどうかが、この段階との違いです。
08実装時につまずきやすいポイント
| 問題 | 対策 |
|---|---|
| 指摘が多すぎて読み切れない | けた区切りと小数点の規則を先に設定する。 初回の指摘の大半はこれ |
| 訳抜けが1件も出ない | 対応の見つからない文を近い段落へ割り当てている。「無理に割り当てない」を指示に入れる |
| 訳の評価ばかり返る | 点数と評価語を禁じ、出力スキーマに評価の欄を作らない |
| 位置が曖昧で翻訳会社に伝わらない | 渡す前に位置の符号を振る。 符号の無い文書からは位置は出ない |
| 用語集の対訳が1対多になっている | どれを正とするかを決める。決められない語は点検の対象から外す |
| 原文が途中で改訂されている | 版で照合し、違えば止める。 古い原文との差は、全部が誤指摘になる |
| PDFで納品される | Wordでの納品を取り決める。符号を振れない形式では成立しない |
| 担当者が指摘一覧をそのまま転送する | must_fix の全件確認を必須にする。 誤指摘を送ると、次から読まれなくなる |
| 読める言語だけ丁寧に見てしまう | 読めない言語こそ、この構成の対象です。 言語ごとの指摘件数を並べて見る |
| 図のキャプションと表の中だけ点検から漏れる | 本文の段落しか符号を振っていないことが多い。図表も対象に含める |
| 用語集を直しても指摘が変わらない | フローが読むのは保存済みの行です。用語集の更新日を指摘一覧に記録する |
下から4行目が、いちばん起きやすい失敗です。 指摘一覧は、そのまま転送できる形で出てきます。転送すれば1件18分が5分になりますが、 誤指摘が1つ混じった時点で、翻訳会社は一覧全体を機械の出力として扱い始めます。そうなると、本当に直すべき数値の食い違いまで後回しにされます。
いちばん上の行は、初回に必ず起きます。 けた区切りと小数点の規則を設定しないまま動かすと、数値の指摘が数百件出ます。ここで「精度が低い」と判断してやめるのが、いちばんもったいない失敗です。 設定を1回書けば、確かめるべき数に落ち着きます。
09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点
この構成で扱うデータ: 発表前の製品のカタログと取扱説明書の原文と訳文、型番、仕様の数値、用語集、翻訳会社とのやりとり。このうち未公開の製品情報は、発表日まで社外に出せません。
- 未公開の製品情報として扱う … 翻訳に出す文書は、たいてい発表前のカタログです。 Microsoft Entra アカウントでサインインすると、エンタープライズデータ保護(EDP)によってプロンプトと応答が保護されます。 この保護の外では扱わない、というのが最初の線引きです。個人のアカウントで試さないでください
- アクセス許可の範囲が、そのまま点検の範囲になる … Copilot の応答は、ユーザーのアクセス許可によってスコープ指定されたアクセスに支えられます。受入フォルダの権限設計が、そのまま情報の出口の設計です
- 翻訳会社との契約を確認する … 成果物の扱いと再利用の可否は契約で決まります。 訳文を用語集に蓄積してよいか、他の言語の参考に使ってよいかは、契約を読んでから決めることです。 技術の話ではありません
- 自動で差し戻しのメールを送らない … 指摘の採否は人が決めます。誤指摘を自動で送ると、翻訳会社との関係に直接響きます
must_fixとcheckを分ける … 数値・単位・型番の食い違いと訳抜けは必ず直し、用語の不一致は文脈によっては許容します。 同じ扱いにすると、必ず直すべきものが、許容できるものの山に埋もれます- 管理の設定を先に見る … Microsoft Purview で秘密度に基づく分類とラベル付けができ、Copilot のプロンプトと応答の確認にも役立ちます。管理センターの Copilot コントロールでは、Webでの検索の根拠付けの許可を構成できます。訳文の点検でWebを参照させる必要はありません
誤りが起きた場合のリスクは、誤指摘を送ることと、欠けを見落とすことの2つです。 誤指摘は人の確認で止まりますが、見落としは止まりません。誰も見ていないからです。 機械的な4点をAIに任せず前処理に置くのは、このためです。
10まず何から始めるか
1週目:用語集を対訳の形に整える
Excelの用語集を開き、日本語の語と各言語の対訳が1対1になっているかを見ます。 空欄の数と、1つの語に訳語が複数ある語の数を数えます。ここが半分以上欠けていれば、AIより先に用語集です。
2週目:3件で試す
直近に受け入れた訳文から3件を選び、原文と訳文を Copilot に渡します。当時の受入検査で見つけた誤りが出てくるかを、最優先で見ます。 出てこない場合は、渡し方(符号の有無)を先に疑います。
3週目:けた区切りと小数点の規則を決める
5言語それぞれで、1,000 と 1.000 のどちらを使うか、小数点の記号がどれかを書き出します。ここを決めないと、初回の指摘の大半がこれで埋まります。
4週目:位置の符号の振り方を決める
見出し・段落・箇条書き・表のセルにどう符号を振るかを決め、1件で試します。「原文の p42 が、訳文の p41 で」と書けるところまでです。
2か月目: 数値と型番の抜き出しを前処理に移し、「全件突き合わせた」と言える状態にします。 あわせて翻訳会社と、Wordでの納品と差し戻しの期限を取り決めます。
3か月目以降: 受入フォルダへの保存を起点に自動で動かし、50分が何分になるかを実測します。見送った指摘とその理由を必ず記録し、 誤検出の多い種別の規則を直せるようになった時点で、この構成は回り始めます。
11関連ユースケース
12この仕組みを理解するための記事
13技術仕様の確認日・参考情報
| 確認した内容 | 情報源 | 確認日 |
|---|---|---|
| 応答とエクスペリエンスがデータの根拠付け・統合の深さ・ライセンスで異なり、どの体験もユーザーのアクセス許可によってスコープ指定されたアクセスに支えられること。ライセンスが Copilot Chat(Basic)/Microsoft 365 Copilot(Basic)/Microsoft 365 Copilot(Premium)の3つで、Copilot Chat(Basic)は Web データのみで Word、Excel、PowerPoint、OneNote の Copilot にアクセスできず、Microsoft 365 Copilot(Basic)はそれらへの標準アクセス、Premium は優先アクセスであること。Basic の2つは Microsoft Graph 経由で組織データを使えず、コピーと貼り付け・アップロード・ファイルの選択という操作が要り、Premium は Microsoft Graph と Work IQ で Web データと組織データを自動的に参照すること。Word でドキュメントの下書き・書き換え・要約ができること。Microsoft Entra アカウントでのサインインにより、エンタープライズデータ保護(EDP)でプロンプトと応答が保護されること。Microsoft Purview で秘密度に基づく分類とラベル付け、Copilot のプロンプトと応答の確認ができ、管理センターの Copilot コントロールで Webでの検索の根拠付けの許可などを構成できること | Microsoft Learn: Microsoft 365 Copilot の概要 | 2026-09-23 |
翻訳会社との契約条件と納品形式は各社の取り決めによるため、訳文を用語集へ蓄積してよいかを含め、契約書の確認と法務部門への相談が必要です。 ライセンスと組織データの参照範囲も契約と管理設定で変わるため、情報システム部門への確認が必要です。
実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。
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