Media > AI活用ユースケース > 知財 > 研究者から出る「この技術は他社の特許に触れないか、前に調べたか」の質問に、過去の侵害予防調査の報告書と知財部の見解を根拠に答え、新しい調査が要るものを知財の担当へ回す

研究者から出る「この技術は他社の特許に触れないか、前に調べたか」の質問に、過去の侵害予防調査の報告書と知財部の見解を根拠に答え、新しい調査が要るものを知財の担当へ回す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

研究者から届く「この技術は前に侵害予防調査をしたか」という照会に、過去の調査報告書と知財部の見解の要旨から当てはまるものを探し、調査日・仕様の版・対象国を添えて答えます。範囲から外れるものは知財の担当へ回します。

サマリー
生成AI
Gemini
AIサービス
Azure AI/Google Vertex AI/OpenSearch
連携・自動化
Python
対象業界
IT・SaaS/医療/商社/製造
対象部門
知財/研究開発
対象業務
問い合わせ対応/情報検索
主な課題
判断に時間がかかる/属人化している/情報が見つからない
AIで行う処理
検索(RAG)
主な効果
対応スピード向上/属人化解消/検索時間短縮
導入難易度
★★★★☆
実装レベル
本格構成
費用感
RAG・個別開発(大)
人間の確認
必須
現在工数
60h/月
AI導入後
20h/月
想定削減
67%
年間削減
480h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 研究者がチャットかメールで、知財部の担当者に技術の内容と照会の理由を書いて送る
  2. 担当者が研究テーマの名前から共有フォルダを探し、関係しそうな報告書を開く
  3. 見つからなければ、知財管理システムで件名を検索し、別のフォルダに置かれた報告書を探す
  4. 報告書の調査の観点、対象とした仕様、調査日、対象国、結論を読み、照会の技術に当てはまるかを考える
  5. 当てはまる調査があれば、研究者に報告書の番号と結論の要旨を返す
  6. 当てはまらない、または古いと判断したら、新しい調査を企画し、上長に相談する
  7. 照会と回答をメールの履歴に残す(台帳には残っていない)
導入後(After)
  1. 人知財部の担当者が、調査が終わるたびに報告書の要旨カードを書き、台帳に登録する(過去分は最初に一度だけ書き起こす)
  2. 人研究者が社内のチャットの照会フォームで、研究テーマの番号、技術の内容、仕様の版、出したい国、照会の理由を送る
  3. 自動中継プログラムが、テーマの番号と国から絞り込みの条件を作る
  4. 自動検索基盤の answer メソッドが、要旨カードから当てはまる調査を探し、引用付きの回答案を返す
  5. 自動中継プログラムが、引用されたカードの調査日・仕様の版・対象国を照会と突き合わせ、範囲のずれを出す
  6. 自動ずれが無ければ `covered`、一部にあれば `partial`、当てはまる調査が無ければ `not_covered` とする
  7. 自動`covered` は回答を研究者に返し、`partial` と `not_covered` は知財部の待ち行列に入れる
  8. 人知財部の担当者が、待ち行列の照会について報告書の本文を検索し、追加の調査が要るかを決める
  9. 人新しい調査を企画したものは、調査が終わったら1番目に戻ってカードを登録する
各工程の詳しい説明を読む
  1. 研究者がチャットかメールで、知財部の担当者に技術の内容と照会の理由を書いて送る
  2. 担当者が研究テーマの名前から共有フォルダを探し、関係しそうな報告書を開く
  3. 見つからなければ、知財管理システムで件名を検索し、別のフォルダに置かれた報告書を探す
  4. 報告書の調査の観点、対象とした仕様、調査日、対象国、結論を読み、照会の技術に当てはまるかを考える
  5. 当てはまる調査があれば、研究者に報告書の番号と結論の要旨を返す
  6. 当てはまらない、または古いと判断したら、新しい調査を企画し、上長に相談する
  7. 照会と回答をメールの履歴に残す(台帳には残っていない)

(a)報告書が見つからない。 2番目と3番目に時間の大半がかかります。テーマ名が変わった、別の部署が頼んだ、鑑定書だけが法務部にある。探しても見つからなかったときに、「調べていない」のか「見つけられなかった」のかが分かりません。

(b)範囲を読み直すのに時間がかかる。 報告書の結論は最後の数ページですが、調査の観点と除外した範囲は冒頭の数ページに書かれています。 照会の技術が観点に入っていたかを確かめるには、毎回そこを読み直す必要があります。

(c)答えられるのが特定の担当者だけ。 10年分の調査を覚えているのは、長く担当している1名です。その人が出張や休みのときには、照会が数日止まります。 研究者は返事を待てず、調査が済んでいるかを確かめないまま展示会の準備を進めることがあります。

(d)古い調査で答えてしまう。 忙しいときほど、報告書が見つかった時点で「調査済み」と返してしまいます。調査日の後に公開された特許や、仕様の変更は、読み直さないと気づけません。 問題が出るのは、何か月も後になってからです。

  1. 【人】 知財部の担当者が、調査が終わるたびに報告書の要旨カードを書き、台帳に登録する(過去分は最初に一度だけ書き起こす)
  2. 【人】 研究者が社内のチャットの照会フォームで、研究テーマの番号、技術の内容、仕様の版、出したい国、照会の理由を送る
  3. 【自動】 中継プログラムが、テーマの番号と国から絞り込みの条件を作る
  4. 【自動】 検索基盤の answer メソッドが、要旨カードから当てはまる調査を探し、引用付きの回答案を返す
  5. 【自動】 中継プログラムが、引用されたカードの調査日・仕様の版・対象国を照会と突き合わせ、範囲のずれを出す
  6. 【自動】 ずれが無ければ covered、一部にあれば partial、当てはまる調査が無ければ not_covered とする
  7. 【自動】 covered は回答を研究者に返し、partial と not_covered は知財部の待ち行列に入れる
  8. 【人】 知財部の担当者が、待ち行列の照会について報告書の本文を検索し、追加の調査が要るかを決める
  9. 【人】 新しい調査を企画したものは、調査が終わったら1番目に戻ってカードを登録する

5番目と6番目を、AIではなくプログラムの規則で行うのが、この設計の要です。 「この調査はいまも当てはまるか」をAIに考えさせると、似た文章を根拠に当てはまると書きます。調査日・仕様の版・対象国は、カードの項目として値で持ち、値どうしで比べます。 AIに任せるのは、技術の内容が近い調査を探して、カードの記載を引用することだけです。

1番目の要旨カードが、この構成の土台です。 報告書の本文をそのまま研究者向けの検索に入れると、他社の特許の番号と自社の評価がそのまま研究者に届きます。カードには、研究者に見せてよい範囲だけを知財部が書きます。

02今回想定するシステム構成

構成図
【登録】知財部が要旨カードを書く(調査が終わるたび)
   ▼
Cloud Storage ── カード(テキスト)とメタデータ(JSON Lines)
   ▼ 取り込み
データストアA(研究者向け:要旨カード)
データストアB(知財部向け:報告書・見解書の本文)

【照会】研究者(社内のチャットの照会フォーム)
   ▼【トリガー】フォームの送信
中継プログラム(Python/Cloud Run)
   ├──▶ テーマの番号・国・仕様の版を取り出す
   ▼
Agent Search(Vertex AI Search)の answer メソッド ── データストアA
   │   当てはまる調査を探し、引用付きの回答案を返す
   ▼
中継プログラム ── 調査日・仕様の版・対象国を照会と比べる
   ▼
判定(covered / partial / not_covered)
   ├──▶ チャットへ(調べた範囲と、範囲外の点)
   └──▶ 知財部の待ち行列へ(データストアBの検索結果を添える)
役割想定する製品代替候補
検索基盤Vertex AI Search(Agent Search)の answer メソッドAzure AI Search、Amazon OpenSearch Service
生成AIGemini(answer メソッドの回答の生成に使うモデル)─
連携中継プログラム(Python。Cloud Run で動かし、チャット・台帳・検索・待ち行列をつなぐ)Node.js で同じものを書く
保管Cloud Storage(要旨カード、報告書の写し、照会と回答の記録)─
台帳既存の知財管理システム(調査の案件番号)─

知財管理システムと共有フォルダは、新しく作るものではありません。 この構成はそれらの写しを検索の対象にし、回答をチャットに返すだけです。報告書を書き換えることも、知財管理システムに書き込むこともしません。

検索の土台は、Agent Search(Vertex AI Search から改称中)の answer メソッドです。 公式のドキュメントでは、answer メソッドは検索の結果から回答を作り、session に前のセッションを渡すとやり取りを続けられるとされています。引用を付ける設定(includeCitations)は既定で無効なので、必ず有効にします。主張ごとに根拠の強さ(0〜1のスコア)を返す設定と、根拠の弱い回答を落とす設定もあります。

データストアを2つに分けるのは、見せる相手が違うからです。 文書ごとに読める人を指定するデータソースのアクセス制御もありますが、公式ではプレビューとされ、データストアを作るときにしか選べず、後から入れたり外したりはできません。 研究者と知財部という2つの区分なら、データストアを分けるほうが単純で、プレビューの機能に頼らずに済みます。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

研究者が照会フォームを送信したことを起点にします。 自由なチャットの書き込みではなく、項目の決まったフォームにします。テーマの番号、仕様の版、出したい国が欠けた照会は、範囲を比べる材料がありません。 フォームの側で必須にしておけば、後段で「分からないので知財へ」と回す件数が減ります。

フォームの項目書き方使い道
研究テーマの番号一覧から選ぶ絞り込み
技術の内容自由記述(200〜800字)検索の質問文
仕様の版試作番号か図面の版カードの版と比べる
出したい国・地域複数選択カードの対象国と比べる
照会の理由展示会/サンプル出荷/量産判断/その他待ち行列の優先度
期限日付待ち行列の並び順

もう一つのトリガーは、要旨カードの登録です。 カードが Cloud Storage に置かれたら、メタデータの JSON Lines を更新してデータストアAに取り込み直します。取り込みは1日1回の夜間にまとめます。 調査の完了は月に数件なので、それで足ります。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
照会の内容フォームの6項目と、照会者の所属照会フォーム
要旨カード調査の番号、テーマ、調査の観点、対象の仕様と版、調査日、対象国、結論の区分、研究者への注意書きデータストアA
報告書と見解書の本文調査報告書、知財部の見解書、外部の鑑定書のPDFデータストアB(知財部だけ)
テーマの対応表旧テーマ名と新テーマ名、テーマの統合と分割知財部が持つ一覧

質を決めるのは、要旨カードの項目の書き方です。 特に調査日と対象の仕様の版と対象国は、文章ではなく値で書きます。 「2023年ごろ、試作2次までを対象」と書くと、比べられません。search_date: 2023-06-30、spec_version: 試作2次(図面 Rev.C)、countries: JP, US, CN のように、メタデータの項目として持ちます。

結論の区分は、知財部が決めた語だけを使います。 例えば「該当特許なし(調査日時点)」「回避設計済み」「要注意特許あり・対応中」「鑑定書あり」の4つです。AIに結論を言い換えさせないために、区分の語をカードにそのまま持たせ、回答にもその語を写させます。

テーマの対応表は、第3章の(a)への手当てです。 テーマの名前が途中で変わっても、旧名のカードを引けるように、照会のテーマ番号から旧番号を足して絞り込みます。

Step3

データの取得方法を決める

要旨カードは、1件ごとにテキストのファイルにして Cloud Storage に置きます。公式のドキュメントでは、非構造化データは TXT・PDF・HTML・DOCX などに対応し、1ファイル200MBまで、1回に10万ファイルまで取り込めます。 メタデータは JSON Lines で、1行ごとに id、structData、content(mimeType と uri)を書きます。

{"id":"fto-2023-031","structData":{"theme":["T-118","T-092"],
 "search_date":"2023-06-30","spec_version":"試作2次 Rev.C",
 "countries":["JP","US","CN"],"conclusion_label":"回避設計済み",
 "report_no":"FTO-2023-031","valid_review":"2025-06-30"},
 "content":{"mimeType":"text/plain","uri":"gs://fto-cards/fto-2023-031.txt"}}

照会のたびに、中継プログラムが絞り込みの条件を作ります。 公式のドキュメントでは、文字の項目は ANY() で列挙した値のどれかに完全に一致するかを見られ、AND/OR でつなぎ、NOT で否定できます。項目は、スキーマで索引可能にしておかないと絞り込みに使えません。

theme: ANY("T-118","T-092") AND NOT conclusion_label: ANY("取り下げ")

国と調査日では絞り込みません。 絞り込むと、国が足りない調査や古い調査が検索結果から消え、not_covered になります。研究者に返したいのは「調べた調査はあるが、この国は入っていない」という答えなので、カードは取ってきてから比べます。

検索の件数は maxReturnResults で決めます。公式では既定が10、上限が25です。ここでは10のままにします。 1つのテーマの調査は多くても数件です。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. テーマ番号の展開 … 照会のテーマ番号に、対応表から旧番号と統合元の番号を足します
  2. 仕様の版の正規化 … 「試作2次」「2次試作」「Rev.C」の書き方を、知財部が決めた書式にそろえます
  3. 国の正規化 … 「アメリカ」「米国」「US」を国コードにそろえます。「欧州」は、知財部の方針で国の一覧に展開します
  4. 技術の内容の長さの確認 … 短すぎる照会(50字未満)は、研究者に書き足しを頼みます
  5. 固有の番号の除去 … 照会に他社の特許番号が書かれていたら、検索の質問文からは外し、知財部への転送の欄に移します
  6. 重複の確認 … 同じ研究者から同じテーマの照会が7日以内にあれば、前の回答を添えて知財部に回します

5番目は見落としやすい処理です。 研究者が「この特許に触れないか」と特定の番号を書いてくる照会は、調べ済みかどうかではなく、その特許そのものの評価を求めています。 これは要旨カードでは答えられないので、not_covered として知財部へ回します。

Step5

AIに処理させる

させるのは、技術の内容が近い要旨カードを探し、カードの記載を引用して、調べた範囲を並べることだけです。

させること中身
近い調査を探す照会の技術の内容と、カードの調査の観点を比べる
調べた範囲を書き出す調査の観点、対象の仕様、調査日、対象国をカードから写す
結論の区分を写すカードの区分の語をそのまま写す
照会の技術とカードの観点の違いを挙げる照会にあってカードの観点に無い要素を列挙する
させないこと理由
特許に触れるかどうかの判断法的な判断。知財部と弁理士・弁護士が行う
「問題ない」「進めてよい」と書く回答の文が製品化の判断の根拠に使われる
調査がいまも有効かの判断調査日・仕様の版・対象国はプログラムが値で比べる
結論の区分の言い換え「回避設計済み」を「問題なし」と書き換えると意味が変わる
カードに無い特許番号を挙げる研究者向けの回答に、知財部の評価を持ち込まない

4つ目の「させること」が、AIにしかできない部分です。 照会の技術が「樹脂Aと充填材Bの組み合わせ、成形温度を下げた」で、カードの観点が「樹脂Aと充填材Bの組み合わせ」なら、成形温度の条件が観点の外にあることを挙げさせます。 ここは値では比べられません。挙がった違いは、知財部が見て、追加の調査が要るかを決めます。

Step6

指示内容を固定する

answer メソッドの promptSpec の preamble に、次の指示を書きます。公式では、回答をカスタマイズするための自然文の指示とされています。

あなたは知財部の窓口として、研究者からの照会に答える立場です。
検索結果の「要旨カード」に書かれていることだけを使って答えてください。

【答えること】
1. 照会の技術に近い調査があるか。あれば調査番号を挙げる
2. その調査の観点、対象の仕様と版、調査日、対象国を、カードから写す
3. 結論の区分を、カードの語のまま写す
4. 照会の技術にあって、カードの調査の観点に書かれていない要素を挙げる

【厳守事項】
- 他社の特許に触れるか、触れないかを書かないでください。
- 「問題ない」「進めてよい」「安全」「リスクは低い」と書かないでください。
- 結論の区分を言い換えないでください。「回避設計済み」は
  「回避設計済み」と書いてください。
- 調査がいまも有効かどうかを書かないでください。
  調査日と版と国を写すだけにしてください。
- カードに書かれていない特許番号、会社名を書かないでください。
- 近い調査が無いときは「該当する調査は見つかりませんでした」とだけ書き、
  推測で近い調査を挙げないでください。
- 照会の技術にあってカードの観点に無い要素は、
  見つけた分をすべて挙げてください。迷ったら挙げてください。
- 最後に必ず次の一文を付けてください:
  「この回答は過去の調査の範囲を示すもので、特許に触れるかどうかの
  判断ではありません。進めるかどうかは知財部に相談してください。」

「迷ったら挙げる」を明記しないと、AIは観点の違いを小さく見積もります。 似た技術ほど「同じ観点の範囲内」と書きたがります。挙げすぎて困るのは知財部の確認が1件増えることですが、挙げ損ねて困るのは調べていない技術で製品が出ることです。 誤りの重さが違うので、片側に倒します。

あわせて、ignoreAdversarialQuery と ignoreNonAnswerSeekingQuery を有効にし、照会ではない書き込みに回答を作らせません。ignoreLowRelevantContent も有効にして、関係の薄いカードから回答を作らせません。

Step7

出力形式を固定する

answer メソッドの返り値を、中継プログラムが次の形のJSONにまとめます。

{
  "inquiry_id": "",
  "theme": "",
  "matched_cards": [
    { "report_no": "", "search_date": "", "spec_version": "",
      "countries": [], "conclusion_label": "", "quote": "" }
  ],
  "gaps": [
    { "type": "date | spec | country | scope", "detail": "" }
  ],
  "coverage": "covered | partial | not_covered",
  "answer_text": "",
  "route": "answered | ip_review",
  "skipped_reason": ""
}

matched_cards は、answer メソッドの references から取ります。公式では、references の chunkInfo に本文の断片と文書のメタデータが入り、citations の sources が referenceId で references を指します。quote には、引用の位置に当たる原文を入れます。 引用の位置(startIndex/endIndex)は文字数ではなく UTF-8 のバイト数なので、日本語の文で文字数として切り出すとずれます。

gaps は、AIではなく中継プログラムが作ります。

type決め方
dateカードの valid_review(知財部が決めた見直しの日)を過ぎている
spec照会の仕様の版が、カードの spec_version より後の版
country照会の国のうち、カードの countries に無いものがある
scopeAIが挙げた「観点に無い要素」が1つ以上ある

coverage の決め方は単純です。 カードが1件以上あり gaps が空なら covered、カードがあって gaps があれば partial、カードが無ければ not_covered です。JSONにする理由は、この判定を規則で行うためです。 answer_text の文章だけでは、どこが範囲外かを機械で拾えません。

answerSkippedReasons に NO_RELEVANT_CONTENT や LOW_GROUNDED_CONTENT が返ったときは、skipped_reason に写して not_covered にします。

Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
照会フォームフォームの送信を中継プログラムが受ける6項目を受け取る
データストアAanswer メソッド要旨カードから回答案を作る
データストアB知財部の担当者の検索画面報告書の本文を探す
社内のチャットメッセージの送信研究者に回答を返す
知財部の待ち行列共有の一覧に1行足すpartial と not_covered を回す
知財管理システム読み取りのみ調査の案件番号とカードを結び付ける

待ち行列の1行には、照会の内容、見つかったカード、gaps、データストアBで同じ質問を検索した上位の報告書を付けます。 知財部の担当者は、探すところからではなく、読むところから始められます。

知財管理システムには書き込みません。 新しい調査を企画するかは、知財部が決めて、いつもの手順で案件を起こします。

Step9

人が確認する

人が確認するのは、partial と not_covered の照会です。 covered の回答は研究者に直接返しますが、運用を始めてから2か月は、covered も含めて全件を知財部が見てから返します。

  1. partial の gaps を読む … 日付・版・国・観点のどれが外れたかを見ます
  2. 報告書の本文を確かめる … scope が挙がったものは、データストアBで報告書の観点の章を開き、本当に観点の外かを確かめます
  3. 追加の調査の要否を決める … 決めた結果と理由を待ち行列の行に書きます
  4. 研究者へ返す … 「追加の調査を企画する」「この範囲なら過去の調査で足りる」と、知財部の名前で返します

2か月の全件確認で見るのは、covered で返したものの中に、知財部が見れば partial にしたものが無いかです。 あれば、カードの観点の書き方が粗いか、AIが観点の違いを挙げ損ねています。1割を超えるなら、covered の自動返信を始めません。

Step10

例外に対処する

起きること対応
フォームの必須項目が欠けている送信できないようにする。チャットからの自由な書き込みには、フォームの案内を返す
照会に他社の特許番号が書かれている検索せず not_covered で知財部へ
answer メソッドが回答を作らなかったskipped_reason を写して not_covered で知財部へ
カードの調査日・版・国の値が空gaps に date/spec/country を立てて partial。空は「範囲外」として扱う
引用の原文がカードに見つからない回答を返さず知財部へ
回答に禁止の語(問題ない、進めてよい等)が入った返さず知財部へ。文言を記録する
テーマの番号が対応表に無い絞り込みを外して検索し、結果を知財部へ
検索の呼び出しが失敗した研究者に「受け付けました。知財部から返します」と返し、待ち行列へ

6行目の禁止の語の検知は、プロンプトとは別に、中継プログラムの文字列の照合で行います。 プロンプトで禁じても、言い換えて書くことがあります。最後の門は機械の照合に置きます。

Step11

記録を残す

  • 照会の内容(6項目)と照会者、日時
  • answer メソッドへの要求(絞り込みの条件、preamble の版)と返り値の全文
  • matched_cards、gaps、coverage、route
  • そのとき参照した要旨カードの版 … カードは書き直されるので、版の番号で残す
  • 知財部が判定を変えた記録 … covered を partial に変えた、など
  • 研究者へ返した文と、返した日時

4つ目の「カードの版」は、後から問われたときのためです。 「あのとき知財部は調査済みと答えた」と言われたとき、その日のカードに何が書かれていたかを示せないと、回答の正しさを確かめられません。

保存先は Cloud Storage の、知財部だけが読める場所にします。 照会の記録には、研究中の技術の内容が書かれています。

04実装レベルの3段階

最小構成:要旨カードを手元のAIサービスに貼り、照会を1件ずつ入れる / 近い調査を探して範囲を書き出す
半自動化:上記+カードをデータストアに取り込み、知財部の担当者が検索画面で照会を入れる / カードの検索と回答案。返信は人
本格構成:上記+照会フォームから中継プログラムが検索し、範囲のずれを規則で判定して、`covered` は研究者へ直接返す / 照会の受付から回答、知財部への切り分けまで

最小構成では件数がさばけません。 カードが数百件になると、毎回貼り付けることができなくなります。確かめるための段階です。 半自動化で、45分が25分程度になります。 探す作業が減りますが、知財部の担当者が全件の回答を読み、範囲を比べて返す作業が残ります。本格構成で15分になり、この段階が本記事の想定です。 差が大きいのは、covered の照会に知財部の手がかからなくなることと、partial の照会が範囲のずれを付けた状態で届くことです。 段階を飛ばさないでください。 半自動化の期間に、カードの書き方が回答の質を決めることが分かります。カードを直してから自動返信を始めるほうが、研究者の信頼を失いません。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
3 名
月間件数
80 件
1件あたり現在時間
45 分
1件あたり導入後時間
15 分
現在  80件 × 45分 ÷ 60 = 60 時間/月
導入後 80件 × 15分 ÷ 60 = 20 時間/月
月間削減時間
40h
削減率
67%
年間削減時間
480h
年間金額換算(時間単価4,500円)
216万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 研究開発のテーマが多く、侵害予防調査(FTO)の報告書と知財部の見解が年に数十件ずつたまっている製造業・医療機器・素材・IT機器の会社。研究者から「前に調べたか」という照会が毎月数十件あり、知財部の担当者が報告書を探して読み直すことに時間を取られている場合。報告書ごとに調査日・対象の仕様の版・対象国を台帳に記録する運用を始められる場合。
向いていない
  1. 侵害予防調査の報告書が年に数件しかなく、担当者の記憶で足りる場合。報告書が外部の特許事務所の鑑定書だけで、社内で要旨を書き起こす担当を置けない場合。研究者がAIの回答だけを見て製品化の判断を進めてしまう社風で、知財部への相談の手順が定まっていない場合。なお、他社の特許を侵害するかどうかの判断は、この構成では一切代替できません。

07最小構成で試す方法

  1. 知財部が、過去の調査報告書から20件を選び、要旨カードを手で書く(調査日・仕様の版・対象国・結論の区分を必ず書く)
  2. 過去3か月の研究者からの照会から、20件をメールの履歴から拾う
  3. 手元のAIサービスに要旨カード20件をまとめて貼り、照会を1件ずつ入れる
  4. 第7章の指示を貼り、「調べた範囲を写し、観点に無い要素を挙げ、触れるかどうかは書かない」と指示する
  5. 出てきた回答を、当時の担当者の回答と突き合わせる

20件の照会は、当時の担当者が「範囲外」と判断したものを数件入れてください。 AIがそれを partial に相当する答え方で返せるかが、最初に確かめたいことです。

出てきた内容判断
当時の担当者と同じ調査を挙げ、範囲外の点も挙げた検索基盤への取り込みに進む
調査は挙げたが、観点の違いを挙げ損ねた指示の「迷ったら挙げる」を強め、カードの観点を細かく書く
「問題ない」「進めてよい」と書いた指示で直るか試す。直らなければ禁止の語の照合を最初から作る

カードを書く作業そのものが、最初の成果です。 20件書くと、報告書のどこに範囲が書いてあるか、書いていない報告書がどれだけあるかが分かります。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
回答が「問題ない」と読める文になるプロンプトで禁じ、中継プログラムでも禁止の語を照合する
古い調査で covered になる調査日ではなく、知財部が決めた見直しの日(valid_review)で比べる
国や調査日で絞り込んで調査が消える絞り込みはテーマだけ。国と日付は取ってから比べる
観点の違いが挙がらない「迷ったら挙げる」を指示し、カードの観点を要素ごとに書く
引用の位置がずれる位置は UTF-8 のバイト数。文字数として切り出さない
項目で絞り込めないスキーマで項目を索引可能にする
報告書の本文が研究者に届くデータストアを分け、研究者の検索はカードだけにする
テーマの名前が変わってカードが引けない旧番号と新番号の対応表で絞り込みを広げる
結論の区分が言い換えられる区分の語を固定し、回答に写させる
照会が自由な書き込みで届くフォームを必須にする
外部の鑑定書の扱いが決まっていない鑑定書は「鑑定書あり」とだけカードに書き、中身は知財部に聞いてもらう

上の2行が、この構成の失敗のほとんどです。 どちらも「調べたこと」を「いまも大丈夫」に読み替えてしまう失敗です。値で比べる規則と禁止の語の照合という、AIの外の仕組みで守ります。

下の行の鑑定書も、早めに決めてください。 外部の弁理士・弁護士に頼んだ鑑定書の結論を研究者向けに要約すると、鑑定の前提や条件が落ちて伝わります。 カードには鑑定書があることだけを書き、中身は知財部が説明します。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 研究中の技術の内容、他社の特許の番号とそれへの自社の評価、外部の弁理士・弁護士の鑑定書、研究者の名前と所属です。

  1. 研究者向けの検索に、報告書の本文を入れない … 他社の特許への自社の評価は、知財部の内部の資料です。研究者に見せる範囲を知財部がカードとして書き、それだけを検索の対象にします
  2. 回答を「判断」として扱わせない … 回答の末尾に、特許に触れるかどうかの判断ではないことを必ず書きます。照会の理由が「量産判断」のものは、covered でも知財部の確認に回す設定にできます
  3. 鑑定書の扱いを法務部と決める … 外部の弁理士・弁護士とのやり取りの扱いは、会社と国によって考え方が分かれます。検索の対象にするかどうかを、法務部と顧問の弁護士に確かめてから決めてください
  4. 照会の記録を研究所に開かない … 照会には未公開の技術が書かれています。記録は知財部だけが読める場所に置きます
  5. データの置き場所を確かめる … 研究中の技術を外部のクラウドに置くことになります。データストアを作るリージョンと、社内の情報管理の規程を合わせて確かめてください
  6. 文書ごとの権限に、プレビューの機能を使うかを決める … データソースのアクセス制御はプレビューで、データストアの作成時にしか選べません。使うなら、作る前に決めます

誤りが起きた場合のリスクは、調べていない技術を調べ済みとして返すことです。 研究者はその回答を根拠に展示会に出し、サンプルを出し、量産に進むかもしれません。誤りの多くは「調べた」と「いまも当てはまる」を混ぜることから起きるので、そこを値と規則で分けます。

10まず何から始めるか

1週目:要旨カードの項目を決める

知財部で、カードに書く項目(調査番号、テーマ、観点、対象の仕様と版、調査日、対象国、結論の区分、見直しの日、研究者への注意書き)と、結論の区分の語を決めます。法務部に、研究者に見せてよい範囲を確かめます。

2週目:20件のカードを書き、20件の照会で試す

直近の報告書から20件のカードを書き、過去の照会20件を手元のAIサービスで試します。当時の担当者の回答と突き合わせ、範囲外の点を挙げ損ねていないかを最優先で見ます。

3週目:照会フォームを作る

研究所と、フォームの6項目を決めます。テーマの番号、仕様の版、国を必須にします。 この時点ではフォームの内容が知財部にメールで届くだけでかまいません。

4週目:データストアを2つ作る

カードをデータストアAに、報告書の本文をデータストアBに取り込み、知財部の担当者が検索画面で照会を入れて回答案を見る運用を始めます。

2か月目: 中継プログラムで範囲のずれの判定と禁止の語の照合を作り、covered も含めて全件を知財部が見てから返します。3か月目以降: covered の中に知財部が partial にしたものが1割未満になったら、covered の直接の返信を始めます。照会1件あたりの時間を実測し、カードの書き起こしが直近5年のテーマに行き渡った時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-12/最終更新:2026-10-13
確認した内容情報源確認日
Vertex AI Search が Agent Search へ改称中であること。answer メソッドが検索結果から回答を作り、session で前のやり取りを続けられること。includeCitations が既定で無効であること。ignoreAdversarialQuery・ignoreNonAnswerSeekingQuery・ignoreLowRelevantContent、promptSpec の preamble、searchParams の filter と maxReturnResults(既定10、上限25)。主張ごとの根拠のスコア(0〜1)。answerSkippedReasons の NO_RELEVANT_CONTENT と LOW_GROUNDED_CONTENT。citations の startIndex/endIndex が UTF-8 のバイト単位であること。references の chunkInfo と文書のメタデータGoogle Cloud: Get answers and follow-ups2026-10-12
絞り込みの ANY() が列挙した値との完全一致を見ること、AND/OR、NOT による否定、日付を ISO 8601 の文字列で比べられること、項目を索引可能にする必要があることGoogle Cloud: Filter search for structured or unstructured data2026-10-12
非構造化データの対応形式(TXT・PDF・HTML・DOCX など)。1ファイル200MB、1回に10万ファイルまで取り込めること。メタデータを JSON Lines で id・structData・content(mimeType・uri)として書くことGoogle Cloud: Prepare data for ingesting2026-10-12
データソースのアクセス制御がプレビューであること。Cloud Storage では acl_info の readers に principals(group_id か user_id)を書くこと。データストアの作成時にしか選べず、後から切り替えられないこと。1文書の読み手が3,000までであることGoogle Cloud: Set up data source access control2026-10-12

他社の特許に触れるかどうかの判断と、追加の調査の要否は、知財部と弁理士・弁護士が行ってください。 本記事は Google Cloud の公式ドキュメントで確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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