匿名加工情報はAI学習に使える?|加工の線引きを決める

「匿名加工すれば、顧客データをそのままAIの学習に使ってよいと聞きました」「氏名とメールアドレスを消したファイルを渡そうとしたら、法務に止められました。どこまで削れば通るのかが分かりません」——この2つは、同じ会社の中で同じ週に出てくることがあります。前者は使う側から、後者は渡す側から出てきて、どちらも「消す量の問題だ」という前提に立っています。ところが、匿名加工情報は、何項目消したかで決まる仕組みではありません。復元できないようにするための加工の基準があり、そのうえで作った側と受け取った側に別々の義務が続く、ひとそろいの仕組みです。この記事では社内の分析ではなく、生成AIやAIの学習に渡すという用途ひとつに絞って、どこまで加工すればよいのか、その線がどの条文と基準から来ているのかを整理します。
カメ先生匿名にすれば自由に使える、と思われがちなんだ。でも法律が見ているのは、消した項目の数ではなくて、復元できないようにする加工がされているか、そして作ったあとに続く手続きを踏んでいるかのほうなんだよ。
カメ子氏名を消したかどうかでは決まらない、ということですか。
カメ先生決まらないね。残った項目の組み合わせで1人に絞り込めてしまうなら、氏名が無くても線は越えていない。逆に、基準どおりに加工していても、公表や記録をしていなければ制度の上には乗っていないことになる。
カメ子加工の話と、手続きの話は、別々に見る必要があるということでしょうか。
- 加工の線は、法第43条第1項と施行規則第34条が定める5つの措置から来る。消した項目の数では決まらない
- AIに渡すと、出力・突合・自由記述という復元の経路が、社内分析のときには無かった形で増える
- ベンダーの「学習に使わない」設定は、加工の代わりにならない。設定は契約の当事者の間でしか効かない
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「匿名にすれば自由に使える」という理解は、どこでずれるのか
最初に、どこがずれているのかをはっきりさせます。匿名加工情報は、個人情報保護法が定める加工の基準を満たした情報について、本人の同意なしに第三者へ提供したり、取得時に決めた利用目的の外で使ったりできるようにする仕組みです。使い道が広がるのは事実ですが、広がるのは基準を満たしたあとの話です。基準の手前にある情報は、氏名を消してあっても個人データのままです。
ずれは2か所で起きます。1つ目は加工の基準そのもので、「識別できる項目を消す」ことと「復元できないようにする」ことが別の要求だと読み取れていない場合です。2つ目は作ったあとに続く手続きで、公表・記録・識別行為の禁止までを含めて初めて制度に乗るという点が抜けている場合です。どちらか一方だけを満たした状態は、法律の上では匿名加工情報を作ったことになりません。
AIの学習に渡すという用途では、このずれの代償が大きくなります。社内の分析なら、あとで問題に気づいたときにファイルを消せば手元から消えます。ところが学習の材料として渡したあとは、材料そのものを引き上げても、学習を終えたモデルの側は元には戻りません。戻せないという性質があるぶん、渡す前の判断に重さが移ります。
この記事は、仮名加工情報と匿名加工情報のどちらを選ぶべきかという話ではありません。扱うのは、AIの学習に渡すと決めた場合に、どこまで加工すればよいのか、その線はどこから来ているのか、そして線を引いたあとに何が続くのか、という一続きの判断です。
扱うのは社内分析ではなく、AIに渡すという用途ひとつ
用途を1つに絞るのは、同じ「加工」という言葉でも、手元で使うのか外に出すのかで問われることが変わるからです。手元で使うだけなら、加工は安全管理の手段として扱えます。外に出して学習の材料にするなら、加工は制度に乗るための入口になります。同じ操作でも位置づけが違うので、必要な手続きも変わります。
AIの学習に個人データが関わる形は、実務では3つに分かれます。自社が抱えるモデルに自社のデータで学ばせる形、ベンダーの基盤の上で自社専用に学ばせる形、そしてベンダー側のモデルの学習の材料としてデータを渡す形です。3つのうち、匿名加工情報の仕組みが効いてくるのは主に後ろの2つで、とくにデータが自社の管理の外に出る場面です。
仮名加工情報については、ここで前提として3行だけ触れておきます。仮名加工情報は、他の情報と照合しない限り特定の個人を識別できないように加工した情報で、社内での分析には使いやすい一方、原則として第三者に提供できません。外のAI事業者に渡す道としては、最初から外れるということです。だからこの記事では、渡す側の選択肢として匿名加工情報を扱います。
逆に、この記事で書かないことも先に決めておきます。仮名加工情報の作り方、社内の合意の取り方、委託契約の作法、記録と説明の一般的な準備には入りません。書くのは、AIに渡すという一点に対して、加工の線がどこにあり、どの経路で線が破られ、どこまでが人の判断として残るか、です。
加工の線は、法第43条と施行規則第34条から来ている
線の出どころを条文で押さえます。個人情報保護委員会が公開している解説(2026年9月時点で公開)によれば、匿名加工情報とは特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、当該個人情報を復元できないようにした情報を指します。ここに2つの要求が並んでいる点が要点です。識別できないことと、復元できないこと。この2つは別の作業で満たします。
具体の基準は、法第43条第1項を受けた施行規則第34条にあります。示されているのは5つの措置です。特定の個人を識別できる記述等の全部または一部の削除、個人識別符号の全部の削除、個人情報と他の情報を連結する符号の削除、特異な記述等の削除、そして個人情報データベース等の性質を勘案した、その他の適切な措置。最初の4つは機械的に当てられますが、5つ目だけは中身が書かれていません。
5つ目が書かれていないのは、手を抜いてよいという意味ではありません。逆で、データの中身ごとに違うから一律に書けない、という意味です。5つ目をどう埋めたかが、その加工が基準を満たしているかどうかの実質的な分かれ目になります。ここを埋めた記録が無いまま「規則どおりに加工しました」と説明しても、説明として成り立ちません。
順番としては、4つの機械的な措置を先に済ませて、残った列と行を前にして5つ目を考えます。先に5つ目から考えると、どこまでが決まりごとでどこからが判断なのかが混ざります。決まりごとの部分は道具で処理し、判断の部分に人の時間を残す、という分け方が現実的です。
5つの措置を、AIに渡す材料に当てはめる
条文のまま読んでも手は動かないので、実際にAIの学習に渡すことが多い材料に当てはめます。題材は、問い合わせ対応の履歴と商談の記録です。どちらも自由記述の欄を持っていて、機械的な削除が最も効きにくい形をしています。
| 施行規則第34条の措置 | 条文上の中身 | 問い合わせ履歴・商談記録での具体 | 見落としやすい箇所 |
|---|---|---|---|
| 1つ目 | 特定の個人を識別できる記述等の削除 | 氏名、担当者名、電話番号、電子メールの宛先、会社の中の役職と部署の組み合わせ | 署名の欄と、本文中に書かれた呼び名 |
| 2つ目 | 個人識別符号の全部の削除 | 顔の画像、声の記録、指紋のデータ、公的な番号 | 添付された画像と、通話の録音の書き起こし |
| 3つ目 | 連結する符号の削除 | 社内で振った顧客番号、応対番号、案件の管理番号 | 別の表と突き合わせられる連番を、そのまま残す |
| 4つ目 | 特異な記述等の削除 | 極端に大きい取引の金額、国内に数例しかない業種の書き方 | 自由記述に出てくる地名と日付の組み合わせ |
| 5つ目 | 性質を勘案したその他の措置 | 日付を月に丸める、金額を幅にする、自由記述を選択肢に置き換える | どこまで丸めたかを記録していない |
表を作る目的は、消す項目の一覧を作ることではありません。どの列がどの措置に対応しているかを、列の名前で言えるようにすることです。対応づけができていないと、新しい列が増えたときに誰も判断できません。実務では、列が増える速さのほうが加工の見直しより速いので、対応づけの表が無いと1年で形骸化します。
最も手が止まるのは4つ目と5つ目です。「特異な記述」は、そのデータの中で珍しいかどうかで決まるので、母数が変われば答えも変わります。同じ書き方でも、10万件の中なら埋もれ、300件の中なら1人に絞り込めます。特異かどうかは、列を見て決めるのではなく、実際にその値を持つ行が何行あるかを数えて決めます。
数えたら、そのまま記録に残します。どの列を、どの閾値で、何行残ったから落としたのか。この記録は、あとで説明を求められたときに使う材料であると同時に、次に同じ材料を加工するときの出発点になります。残していないと、担当が替わるたびに閾値が動きます。
基準を満たしても、まだ足りない場面がある
5つの措置を満たせば終わり、と考えたくなりますが、実務ではもう一段あります。個人情報保護委員会の事務局レポート(2022年3月公表)では、匿名加工情報を作る際には有用性と再識別のリスクの評価に伴い、手法やパラメータを変えて何度もやり直すことが想定されていると整理されています。一度加工して終わる作業として設計されていません。
同じレポートは、統計的な指標ひとつで合否が決まるわけではないことも示しています。同じ属性の組み合わせを持つ人がデータの中に1人しかいない行が残っていても、規則の基準に従った加工を行えば匿名加工情報を作成することは可能だ、という整理です。指標が1つの値を下回ったから不合格、という単純な線ではないということですが、裏返せば、指標を満たしたから合格でもありません。
では何で決めるのか。どういう照合を想定したかで決めます。誰が、どのデータと突き合わせる可能性があるのか。渡す先が業種の公開情報を持っているなら、業種と地域と従業員規模の組み合わせは特異な記述として効いてきます。渡す先がそういう情報を持たないなら、同じ組み合わせでも危険度は変わります。想定した照合を書いておくと、加工の強さに理由が付きます。
この「想定した照合」は、渡す先が増えるたびに書き直します。1社に渡す前提で加工したデータを、2社目に渡すときにそのまま使うと、前提が崩れていることに誰も気づきません。加工の強さは相手によって変わる、と最初に決めておくほうが、あとで作り直す回数が減ります。
渡した先で復元が起きる4つの経路
AIの学習に渡すときだけ増える経路があります。社内の分析では起きないのに、学習の材料にすると起きる。この差を知らないまま社内分析と同じ加工で渡すと、線を越えたことに気づけません。経路は4つに分けて見ます。
経路1は、学習した内容が出力にそのまま現れる形です。2021年に公表された研究では、言語モデルの学習データに含まれていた氏名や電話番号などを、出力から取り出せることが示されました。すべての材料で起きるわけではなく、繰り返し出てきた記述や、他に似た例のない珍しい記述で起きやすいとされています。つまり、4つ目の措置で落とすべき特異な記述と、出力に出やすい記述は重なります。
経路2は、渡した先が持っている別のデータとの突合です。こちらが識別できない状態にしても、相手の手元に別の名簿があれば、共通する列で結び直せます。経路3は自由記述の中に残った記述で、列としては消したはずの情報が文章の中に書かれている場合です。「前任の田中さんから引き継いで」という一文が残っていれば、氏名の列を消した意味はほとんど消えます。
経路4は、提供先が複数になることで起きる絞り込みです。1社ごとに見れば識別できない粒度でも、別々に渡した2つのデータが同じ相手のところで合流すれば、組み合わせで絞り込めます。この経路は加工の側では防ぎきれないので、誰に何を渡したかを1か所にまとめて持っておくこと自体が、再識別への備えになります。
経路をふさぐ加工は、自由記述の欄から始める
4つの経路のうち、加工の手で最も効くのは自由記述です。列の削除は自動化できますが、文章の中に書かれた固有の記述は、列の名前からはたどれません。自由記述の欄を残したまま「識別できる項目は削除済み」と説明するのは、実務ではほぼ成り立ちません。
手は3つあります。強い順に、欄ごと落とす、選択肢に置き換える、要約に置き換える。欄ごと落とすのが最も安全ですが、学習の材料としての価値も同時に落ちます。選択肢に置き換えるというのは、自由記述を読んで、あらかじめ決めた区分のどれかに寄せる作業です。要約に置き換える場合は、要約の中に固有の記述が戻ってこないかを確かめる工程が別に要ります。
日付と地名と金額は、単体では消す対象に見えないのに、組み合わせると効いてしまう三点セットです。日付は月に、地名は都道府県に、金額は幅に丸めるのが基本の形です。丸める単位は、その値を持つ行が何行に増えるかを見てから決めます。丸めた結果が1行のままなら、丸めた意味がありません。
- 氏名と電子メールの宛先だけを消して、自由記述の欄をそのまま残す
- 顧客番号を連番のまま残し、別の表と突き合わせられる状態で渡す
- 「特異な記述」を目視で探し、何行残ったかを数えないまま落とすかどうかを決める
- 1社向けに加工したデータを、前提を見直さずに2社目にも渡す
- 加工の強さを決めた理由を書かず、加工後のファイルだけを保管する
落とし方を決めたら、加工の前と後の両方を手元に残します。ただし、加工の前のデータと、どう加工したかという情報は、匿名加工情報そのものとは別に隔離して管理します。この点は法第43条第2項が求めている安全管理の中身で、次のいくつかのセクションでもう一度出てきます。
自社の中だけで学習させるなら、この制度には乗っていない
ここで道が分かれます。加工したデータを外に出さず、自社の中で個人データとして扱い続ける場合、それは匿名加工情報を作ったことになりません。個人情報保護委員会のガイドラインでは、「作成するとき」とは匿名加工情報として取り扱うために加工する場合をいい、安全管理措置の一環として一部を削除して個人情報のまま扱い続ける場合は含まれないと整理されています。
この整理は実務では助けになります。社内の学習のために、念のため氏名だけ落としたファイルを作った。そのたびに公表の手続きが要るとしたら誰も加工しなくなります。制度に乗らない代わりに、公表も記録の一式も発生しません。乗るか乗らないかを、加工の前に決めておくのが要点です。
ただし、乗らない道を選ぶと別の縛りが残ります。個人データのままなので、取得のときに特定した利用目的の範囲を超えて使えません。個人情報保護委員会が令和5年6月2日に公表した生成AIサービスに関する注意喚起でも、プロンプトに個人情報を含める場合は特定された利用目的の達成に必要な範囲内であることを十分に確認することが求められています。「AIの学習に使う」が利用目的に読み込めるかどうかを先に確かめることになります。
選び方の目安は単純です。データが自社の管理の外に出ないなら、乗らない道で足ります。外に出るなら、乗る道を検討します。迷うのは「ベンダーの基盤の上で自社専用に学ばせる」形ですが、ここは次のセクションで扱う委託と提供の判定に落ちます。
提供なのか委託なのかで、引く線が変わる
外に出す形は、法律の上では2つに分かれます。第三者提供と、取扱いの委託です。委託であれば、委託先は第三者に当たらないので本人の同意なしに渡せます。ただし委託先は、委託された業務の範囲内でしか扱えません。この範囲の内か外かが、AIの学習では特に問題になります。
問題になる形ははっきりしています。ベンダーが、渡されたデータを自社のモデルの学習に使う場合です。前出の注意喚起に関する法律事務所の解説(2026年9月時点で公開)では、事業者がプロンプトを学習用のデータセットに加工して機械学習に利用する場合、個人データの「提供」と評価される可能性があると整理されています。委託のつもりで渡したものが、提供として扱われることがある、ということです。
だから契約の文言を先に見ます。見る場所は3つで、渡したデータをどの目的で使えると書いてあるか、モデルの改善や学習に使うという条項があるか、そして再委託の扱いはどうなっているか。「サービスの提供および改善のため」という一文が、学習を含む読み方になっていないかを確かめます。曖昧なら、含まない旨を書き足すか、匿名加工の道に切り替えます。
匿名加工情報にして渡すと、この判定の手前で話が切れます。匿名加工情報は個人情報ではないので、第三者提供の同意も委託の整理も要りません。代わりに、作った側の義務と受け取った側の義務が別に発生します。判定の複雑さを、手続きの定型さに置き換える選択だと考えると位置づけが分かります。
ベンダーの「学習に使わない」設定は、加工の代わりにならない
実務でよく出るのが、「学習に使わない設定にしてあるから、加工は要らないのでは」という質問です。結論から言うと、設定は加工の線を動かしません。理由は3つあります。順に見ます。
理由の1つ目は、設定が効く範囲が契約の当事者の間に限られることです。自社とベンダーの間で学習に使わないと決めても、個人データを外に渡したという事実そのものは消えません。本人から見れば、自分のデータが別の会社に渡っています。提供に当たるかどうかの判定は、渡した先が何に使うかだけでなく、誰に渡したかでも動きます。
2つ目は、学習に使わないことと、手元に残らないことが別の話だという点です。学習に使わない設定でも、不正利用の監視のために一定期間は保存される仕組みが一般的です。保存されている間は、その事業者の管理下に個人データが置かれています。3つ目は、設定も既定値も変わり得ることです。仕様が変われば、加工していないデータは変更の影響をそのまま受けます。
だから設定は、加工の線を下げる材料ではなく、加工した情報を渡すときに重ねる前提条件として扱います。なお、その設定自体をどの画面で、どの文書のどの版で確かめるのかという確認の手順は、この記事の範囲ではありません。ここで必要なのは、設定があるからといって加工を省いてはいけない、という一点だけです。
作成義務と公表義務は、実務のどこで止まるか
匿名加工情報の道を選んだら、加工のあとに手続きが続きます。まず法第43条第3項で、作成したときは遅滞なく、含まれる個人に関する情報の項目を公表することが求められます。公表するのは項目であって、データそのものではありません。ここを取り違えると、公表の作業が過大になります。
「遅滞なく」の読み方には目安があります。ガイドラインでは、作成の直後でなくても正当で合理的な期間内であればよい一方で、その匿名加工情報を利用したり第三者に提供したりする前に、作成した事実を十分に知らせる期間を確保することが必要だと整理されています。渡す日から逆算して公表の日を決める、という順番になります。
次に、渡す段になると別の公表が乗ります。法第43条第4項と第44条により、第三者に提供するときは、提供する項目と提供の方法をあらかじめ公表し、提供先に対して匿名加工情報である旨を明示します。提供のたびに必要なので、1回公表すれば終わりという作業ではありません。
では、どこで止まるのか。止まるのは加工方法等情報の扱いです。法第43条第2項は、加工の方法に関する情報の安全管理を求めています。これは公表する対象ではなく、むしろ公表してはいけない側の情報で、匿名加工情報の本体とは別の場所に隔離します。公表する項目と、隔離する情報を取り違えると、加工した意味そのものが消えます。
- 公表するのは、含まれる個人に関する情報の項目。データの中身や件数の公表までは求められていない
- 提供のたびに、提供する項目と方法をあらかじめ公表する。1回で済む作業ではない
- 提供先には、匿名加工情報である旨を明示する。口頭ではなく、書面か電子的な記録で残す
- 加工の方法に関する情報は公表しない。匿名加工情報の本体と、保管の場所と権限を分ける
受け取った側にかかる義務を、契約の1行にする
渡したあとも義務は続きます。匿名加工情報を受け取って扱う事業者には、法第45条により本人を識別する目的で他の情報と照合してはならないという義務がかかります。作った側だけが気をつける仕組みではない、という点が実務では効きます。
AI事業者が相手の場合、この義務は具体の場面に落とせます。渡した匿名加工情報を、相手が別の経路で持っている名簿と結び直さないこと。学習の過程で、識別につながる特徴を意図的に抽出しないこと。そして、出力に元の記述がそのまま出たときに、それを手がかりに元の個人をたどらないこと。3つ目は、前に見た経路1への備えです。
これを契約に落とすときは、長い条文にせず、確かめられる形にします。照合しない旨、再提供するときの扱い、利用が終わったあとの削除の期限と確認の方法。確かめる手段を持てないことは、書いても運用できません。削除したという報告を受け取る形にするのか、自社で確かめるのかまで決めてから書きます。
ここで書かないのは、委託契約の一般的な作法です。秘密保持の条項の作り方、監査の権利の設計、損害の分担といった論点は、匿名加工情報かどうかにかかわらず必要なもので、この記事の射程の外にあります。書くべきは、匿名加工情報であることから来る3つの約束だけです。
2026年7月17日公布の改正で、別の道ができた
時点の話を1つ入れておきます。2026年7月17日に公布された改正個人情報保護法では、統計の作成やAIの開発といった目的に限って、あらかじめ匿名加工しなくても個人データを提供できる特例が設けられました。要件を満たせば、加工の工程を経ずに渡せる道ができた、ということです。
ただし、いま決める判断はこれでは変わりません。改正法は公布日から2年以内に政令で定める日から施行されるとされていて、施行日の時点ではまだ使えません。現在進んでいる案件は、現行の仕組みで判断することになります。
この特例の要件と手続きの中身は、この記事の範囲ではありません。提供元と提供先の双方に公表が要ること、書面による合意が要ること、外国の提供先には別の条件が付くことなど、押さえる項目が独立して存在します。匿名加工情報の道と、この特例の道は、必要な手続きがまったく別なので混ぜて設計しないことだけ決めておけば足ります。
実務として今できるのは、加工の記録を残す形を整えておくことです。どの列をどう加工し、どういう照合を想定したか。この記録は、制度がどちらに動いても、説明を求められたときに使えます。制度の変更を待つ理由にはなりません。
AIに加工の判定をさせない範囲を先に引く
加工の工程でAIを使う場面は実際にあります。効くのは3か所です。自由記述の中から識別につながりそうな記述の候補を洗い出すこと、列ごとの値の分布を出して特異な値の当たりを付けること、加工の記録の下書きを作ること。どれも人が最後に選び直すことを前提にした下ごしらえです。
逆に、AIに判断させないのは2つです。加工の結果が施行規則第34条の基準を満たしているかどうかの判定と、匿名加工情報として扱うかどうかの選択。どちらも、渡す先が何を持っているかという、データの中には書かれていない事情が判断の材料になります。データの中だけを見る仕組みには、その材料がありません。
洗い出しを頼むときは、根拠を一緒に出させます。この記述を候補に挙げた理由が、行数なのか、語の珍しさなのか、他の列との組み合わせなのか。根拠が付いていないと、外した判断も残した判断も、あとから誰も検証できません。候補は多めに出させて、落とすかどうかは人が決める形が扱いやすくなります。
そのうえで、人が確認する範囲を先に決めます。おすすめは、自由記述を含む列と、4つ目の措置で落とす候補に挙がった値は必ず人が見る形です。数値だけの列と、はじめから選択肢しか入らない列は、下書きのまま通しても大きくは崩れません。全部を人が見る形にすると、結局は誰も見なくなります。
渡すまでに踏む工程を、1枚に落とす
ここまでの判断を、実際に動く順番に並べます。工程を1枚にしておくと、担当が替わっても同じ線が引けます。逆に、頭の中にあるだけの工程は、急ぎの案件が来た日に3つ飛ばされます。
最初に決めるのはここです。自社の中で個人データのまま学ばせるなら制度には乗らず、利用目的の範囲の確認に進みます。外に出すなら、契約の文言を見て委託か提供かを判定し、判定が割れるなら匿名加工の道に切り替えます。この分岐を最後に回すと、加工をやり直すことになります。
想定する照合を先に書きます。相手が公開情報を持っているのか、別の名簿を持っているのか、同じ相手に過去に別のデータを渡していないか。ここで書いた内容が、あとの工程で加工の強さを決める根拠になります。書かずに進むと、加工の強さに理由が付きません。
識別できる記述、個人識別符号、連結する符号、特異な記述の4つを落とします。ここは自動化できる部分なので、列と措置の対応表を作って毎回同じ手順で回します。特異な記述だけは、値ごとに何行あるかを数えてから落とすかどうかを決めます。
欄ごと落とす、選択肢に置き換える、要約に置き換えるの3つから選びます。要約に置き換えた場合は、要約の中に固有の記述が戻っていないかを確かめる工程を別に置きます。ここを飛ばすと、列の削除の意味がほとんど消えます。
日付、地名、金額の丸め方を決めます。丸めたあとに、同じ組み合わせを持つ行が何行になったかを数えます。1行のままの組み合わせが残っているなら、丸めの単位を1段広げます。数えた結果はそのまま記録に残します。
作成したことの公表は、利用や提供の前に十分に知らせる期間を確保して行います。提供の前には、提供する項目と方法の公表を別に行い、提供先に匿名加工情報である旨を明示します。この2つの公表を1つにまとめないようにします。
加工の前のデータと、どう加工したかという情報は、匿名加工情報の本体とは別の場所に置き、見られる人を分けます。同じ場所に置いていると、両方にアクセスできる人が1人でもいた時点で、復元できない状態だとは言えなくなります。
工程が7つあると多く見えますが、2回目からは3つ目と4つ目と5つ目だけが実作業になります。1つ目と2つ目は前回の記録を読み直すだけで済み、6つ目と7つ目は定型です。1回目に記録を残したかどうかで、2回目以降の重さが変わります。
よくある質問
氏名とメールアドレスを消せば、匿名加工情報になりますか
なりません。施行規則第34条が求める措置は5つあり、氏名の削除はそのうちの1つ目の一部に当たるだけです。個人識別符号の削除、連結する符号の削除、特異な記述の削除、そしてデータの性質を勘案したその他の措置が続きます。とくに5つ目が残ったままだと、基準を満たしたとは言えません。加えて、加工したあとに公表と記録の手続きが続きます。氏名を消した時点で終わる作業ではない、と考えてください。判断に迷うのは、たいてい自由記述の欄と、丸めの単位をどこに置くかの2か所です。
匿名加工情報にすれば、AIベンダーの利用規約は読まなくてよいですか
読む必要は残ります。匿名加工情報は個人情報ではないので、第三者提供の同意や委託の整理は不要になりますが、渡した情報を相手がどう扱うかという約束は契約の側で決まります。とくに、受け取った側には本人を識別する目的で他の情報と照合しない義務が法第45条でかかっているので、その義務を相手が履行できる形になっているかを確かめます。また、渡した情報が相手のモデルの学習に使われるなら、出力に元の記述が現れる経路も残ります。個人情報かどうかとは別の軸で、規約と設定は見ることになります。
自社の中だけでAIに学ばせる場合、公表は必要ですか
匿名加工情報として取り扱うために加工したのでなければ、公表は発生しません。ガイドラインでは、安全管理措置の一環として一部を削除して個人情報のまま扱い続ける場合は「作成するとき」に含まれないと整理されています。ただし、公表が不要になる代わりに、取得のときに特定した利用目的の範囲という縛りが残ります。学習に使うことが、その利用目的の中に読み込めるかどうかを先に確かめてください。読み込めないなら、利用目的の変更か、匿名加工情報の道か、使わないという選択のいずれかになります。
加工の程度を、どこまで強くすれば十分だと言えますか
一律の到達点はありません。事務局レポートでも、有用性と再識別のリスクを見ながら手法やパラメータを変えて何度もやり直すことが想定されています。実務で使える基準は、到達点ではなく説明できる形かどうかです。どういう照合を想定したのか、その照合に対してどの列をどう処理したのか、処理のあとに同じ組み合わせを持つ行が何行残ったのか。この3つが書かれていれば、強さの議論は具体の数の話になります。書かれていないと、強いか弱いかの印象の話にしかなりません。
まとめ
匿名加工情報がAIの学習に使えるかどうかは、使える場面があるという答えになります。ただし使えるのは、施行規則第34条の5つの措置を当てて、5つ目をデータの性質に合わせて埋めて、作成と提供のそれぞれで公表し、加工の方法に関する情報を隔離したあとです。AIに渡すときには、出力に現れる経路、相手が持つ別のデータとの突合、自由記述に残る記述、提供先が複数になることによる絞り込みという4つの経路が加わるので、社内の分析と同じ加工では足りません。ベンダーの学習に使わない設定は、この線を動かす材料ではなく、加工したうえで重ねる前提条件です。2026年7月17日に公布された改正で加工を経ない道もできましたが、施行は先なので、いま動いている案件は現行の仕組みで判断します。最初の一手として、渡す予定のデータについて「誰が、どのデータと突き合わせ得るか」を1枚に書き出してみてください。加工の強さは、そこから決まります。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
AIの導入・活用、何から始めるべきかお悩みですか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
