社内のAI活用事例を集める5工程|使い方を横に広げる

社内のAI活用事例を集める5工程|使い方を横に広げる

「全社員向けのAI研修を実施して、使える環境も全員に配りました。それでも日常的に使っているのは一部の人だけです」「便利な使い方があれば共有してほしいと何度も呼びかけていますが、上がってきません」。——社内でAIの展開を任された部署から、ほぼ必ず出てくる2つです。予算が足りないからでも、社員の意欲が低いからでもありません。総務省が2026年7月24日に公表した令和8年版の情報通信白書では、企業の生成AI利用率は86.4%まで上がった一方で、業務の変革について組織的な取組はないと答えた企業が27.0%ありました。米国の1.4%、ドイツの4.9%、中国の2.6%と比べると、日本だけが桁の違う水準です。使う人は増えたのに、組織としての形になっていない。ずれているのは熱量ではなく順番のほうで、広げる対象が決まらないうちに、広げる作業から始めているのが原因です。本当は、すでに社内の誰かがうまく使っている形を見つけて、それを別の部署に移すほうが速く効きます。この記事では、社内に埋もれている活用事例を集めて他部署に移すまでの5つの工程と、そのまま移せる事例と移せない事例の見分け方を整理します。


カメ先生カメ先生

研修を増やせば社内に広がると思われがちですが、実際に効くのは、すでに社内で成果が出ている使い方を見つけて別の部署に移すことです。使い方は、教わるより真似るほうが速いからです。


カメ子カメ子

社内に良い使い方があるなら、放っておいても話題になりそうなものですが。


カメ先生カメ先生

ところが、うまく使っている本人は、それを工夫だと思っていません。自分の仕事のやり方が少し変わっただけだと受け取っているので、報告の対象にならないのです。


カメ子カメ子

本人が価値だと思っていない使い方は、どうやって見つけるのでしょうか。


この記事のポイント
  • 社内展開が止まるのは道具でも研修でもなく、広げる対象が決まっていないから。すでに効いている使い方を見つけて移すほうが速い
  • 効いている使い方は自然には上がってこない。本人が工夫だと思っていない、手を抜いたと見られるのを警戒する、書く手間が報われない、の3つが理由
  • 集めた事例は、前提・手順・確認した人・効果の測り方の4項目に直して初めて移せる。AIには聞き取りの整理と下書きまでを任せ、移してよいかの判断は人が持つ

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目次

配った後に、何を広げるのかが決まっていない

社内展開の担当者が最初に打つ手は、だいたい決まっています。全社員に使える環境を配る。基礎の研修をやる。使い方の資料を作る。禁止事項をまとめる。どれも必要な作業ですが、どれも「使い方はこれから各自が見つけてください」という前提に立っています。配った後に何が起きるかは、配る側の手を離れます。

実際に起きるのは二極化です。もともと自分で試すのが好きな数人が一気に使い始め、残りは画面を開いたまま何も入力せずに閉じます。情報通信白書でも、企業が挙げる懸念の筆頭は効果的な活用方法が分からないことでした。個人が利用しない理由の筆頭も使い方が分からないことで、38.8%と他国の2倍以上の水準です。足りないのは道具でも意欲でもなく、自分の仕事での使いどころということになります。

使いどころは、一般的な研修では埋まりません。研修で扱えるのは、どの職種にも当てはまる例までです。ところが、実際に手が動くのは自分と同じ職種の、自分と同じ作業の例を見たときです。「経理の月次の突合で、この順番でやると半日短くなる」という粒度になって、初めて真似できます。ここまで細かい例は、外の研修では出てきません。自社の中にしかないからです。

だから順番が逆になります。先に配って各自に探させるのではなく、すでに社内で見つかっている使いどころを拾い上げて、同じ作業をしている人に渡す。研修も環境も、拾い上げた使い方を載せる土台として意味を持ちます。土台だけ作って載せるものがない状態が、いま多くの会社で起きていることです。

組織的な取組はない27.0%が指しているもの

数字をもう少し丁寧に見ます。令和8年版の情報通信白書によれば、企業の生成AI利用率は86.4%で、前年度の55.2%から大きく動きました。活用方針を定めた企業も68.9%で、前年度の49.7%から上がっています。ここだけを見れば、順調に進んでいるように読めます。

ところが、活用方針を定めた企業の割合を他国と並べると、米国90.9%、ドイツ91.6%、中国98.1%で、日本の68.9%は明らかに低い水準です。さらに差が開くのが、業務の変革について組織的な取組はないと答えた割合で、日本27.0%に対して米国1.4%、ドイツ4.9%、中国2.6%。使っている企業は9割近いのに、4社に1社は組織としての取組が無いと自己申告していることになります。

この2つが同時に成り立つのは、使っているのが個人だからです。別の調査でも同じ形が出ます。プライスウォーターハウスクーパースの日本グループが2026年2月12日から19日に実施した6か国の調査(日本の回答者は売上高500億円以上の企業の課長職以上932名)では、日本で生成AIを活用・推進していると答えたのは87%でした。一方、効果が期待を大幅に上回ったと答えたのは日本9%、米国38%。取り組んでいる割合は並んでいるのに、効果の出方だけが開いています

この構図で足りないのは、うまくいった使い方を個人の中から組織に移す工程です。個人の中に留まっている限り、その人が異動すれば消えます。27.0%という数字は、取り組んでいないという意味ではなく、個人の成果が組織に渡る道筋が無いという意味だと読むほうが、打つ手が見えます。同じ調査で、日本は効果を財務に反映できたと答えた割合が40%、米国は75%でした。移す工程が無ければ、効果は個人の手元に留まったままになります。

効いている使い方は、本人が価値だと思っていない

事例が上がってこない理由の1つめは、上げる側の認識です。うまく使っている人は、自分が特別なことをしているとは思っていません。資料の下書きを作らせてから直す。長い議事録から自分の担当分だけ抜く。似た問い合わせの返信をまとめて作る。どれも本人にとっては「ちょっとやり方を変えただけ」で、報告の対象になりません。

この非対称は、受け取る側から見ると逆になります。同じ作業をしている別の部署の人にとっては、そのちょっとした変え方こそが探していたものです。価値の判定は、使っている本人ではなく、同じ作業をしている他人が下します。だから、本人に「良い事例があったら出してください」と呼びかけても出てきません。本人の基準では良い事例に当たらないからです。

呼びかけ方を変えるだけで、出てくる量が変わります。「成功事例」「効率化の実績」といった言葉を使うと、成果として報告できる水準のものだけが対象だと受け取られます。「今週、下書きを作らせた作業を1つ教えてください」のように作業の名前で聞くと、同じ人から出てきます。評価ではなく記録を求めている、と伝わる聞き方にします。

もう1つ、聞く相手の選び方もあります。全社に呼びかけると、もともと発信する習慣のある人からしか返ってきません。使った形跡のある人に個別に聞くほうが確実です。どの部署の誰がどれくらい使っているかは、利用の記録から分かります。この記録を人事の評価には使わないことを先に決めて伝えておけば、聞かれる側も身構えません。

事例が自然に上がってこない3つの理由

前の章の1つめに加えて、残り2つを並べます。合わせて3つが、社内の事例が表に出ない理由です。3つとも、出す側の意識ではなく集める側の設計の問題です。

2つめは、手を抜いたと見られることへの警戒です。AIに下書きを作らせたと言うと、楽をしていると受け取られるのではないか。間違いが混ざっていたら誰の責任になるのか。禁止事項の周知だけが先に届いている状態だと、この警戒はさらに強まります。使ってよい範囲が具体で示されていないと、黙って使うほうが安全になります。使ってよい範囲を具体の例つきで先に書くことは、集める仕組みの一部です

3つめは、書く手間が報われないことです。事例を出せと言われれば、何らかの様式に書くことになります。背景、課題、施策、効果、今後の展望。書く側からすると、10分で終わる作業のために30分の書類を書くことになります。書いた後に誰が読むのかも分かりません。書く手間が使う手間より大きいと、仕組みは必ず止まります

この3つを出す側の問題にすると、打つ手は呼びかけの繰り返ししかなくなります。回数を増やしても量は増えません。粒度を小さくする、聞き方を変える、書く人を変える。打てる手はすべて集める側にあります。次の章から、5つの工程に分けます。

STEP1
作業ひとつ分を、事例の単位にする

別の人がその説明だけを読んで、明日同じことができる大きさまで小さくする。

STEP2
集める人を置く

待っていても出てこない。聞きに行く担当と、聞く相手の順番を決める。

STEP3
移せる形に直す

前提・手順・確認した人・効果の4つの欄に入れ直す。空欄は空欄のまま残す。

STEP4
移せる事例と移せない事例を分ける

作業の名前が同じでも中身は違う。前提が違うものは分けて置く。

STEP5
腐らせない

見直す引き金を先に決める。道具の更新と担当の交代が引き金になる。

工程1 作業ひとつ分を、事例の単位にする

最初に決めるのは単位です。ここを外すと、後の工程が全部ずれます。基準は1つで、別の人がその説明だけを読んで、明日同じことができる大きさかどうかです。

具体的には、1つの作業に対して1つの事例にします。「営業部での活用」は大きすぎます。読んだ人は何から始めればよいか分かりません。「提案書の構成案を、過去の受注案件3件の構成を渡して作らせる」なら、明日そのまま試せます。部署の名前が主語になっている事例は、だいたい大きすぎます。主語は作業にします。

逆に小さすぎる場合もあります。1回きりの言い回しの工夫は、次に使う場面が来ません。判断の目安は、その作業が月に1回以上繰り返されるかどうかです。繰り返されない作業の工夫は、書いても引かれません。繰り返しの頻度は、集めるときに必ず聞く項目にします。

なお、集めた事例をどこに置くか、どう検索できるようにするかという置き場所そのものの作り方は、この記事では扱いません。単位と中身が決まらないうちに置き場所を作ると、空の棚ができるだけで終わります。先に決めるのは単位のほうです。

  • この記事が扱うのは、自社の中で生まれた使い方を集めて他部署に移す工程です。他社が公開している導入の事例をどう読むか、その数字が自社に当てはまるかをどう判断するかは別の論点なので、ここでは立ち入りません
  • 集めた事例を置く共有の基盤や、検索の仕組みそのものの作り方も範囲外です。単位と書き方が決まっていれば、いま社内で使っている共有の場でそのまま始められます

工程2 集める人を置く——待っていても出てこない

単位が決まったら、集める人を決めます。投稿する場所を作って待つ形は、ほぼ確実に止まります。前の章のとおり、出す側には出す理由がないからです。理由がない相手に様式を配っても、埋まりません。

集める人がやるのは、書いてもらうことではなく聞き出すことです。15分でよいので話を聞き、聞いた側が書きます。書く手間を出す側から取り上げるのが、この工程の要点です。聞く項目は決めておきます。どの作業か、どれくらいの頻度か、前はどうやっていたか、何を渡して何を出させたか、出てきたものをどう確かめたか、どこが変わったか。この6つです。

誰を集める人にするかは、部署ごとに1人を目安にします。情報システムの部署がまとめて担当すると、業務の中身が分からないので聞く項目が埋まりません。その部署の仕事が分かる人が、同じ部署の人に聞くのがいちばん速く進みます。役割は月に2件聞くこと。それ以上は求めません。求めると、まとめて時間を取れる月まで先送りされます。

聞く順番にもこつがあります。最初に聞くのは、その部署で最も繰り返し回数の多い作業です。効果の大きい作業ではありません。繰り返し回数が多い作業の工夫は、移した先でもすぐ使われます。効果の大きさではなく、繰り返しの回数で選びます。効果の大きい事例は目立ちますが、移した先に同じ作業がないことが多く、読まれて終わります。

工程3 移せる形に直す——前提・手順・確認した人・効果

聞き取った内容を、そのまま置いても移りません。移せる形に直します。項目は4つで、この4つが揃っていない事例は、読んだ人が再現できません。

1つめが前提です。その作業をするために、何が手元に必要だったか。過去の資料が何件か、どの範囲の情報が見られる必要があったか、どの道具を使ったか。前提が書かれていない事例は、移した先で「うちにはその資料がない」で止まります。止まった理由が事例の側にあると気づかれないまま、使えなかったという評価だけが残ります。

2つめが手順です。何を渡して、何を出させて、出てきたものをどう直したか。渡した材料の中身まで書きます。手順は、その人がやったとおりの順番で書きます。整理して一般化すると、読む側が再現できなくなります。3つめが確認した人です。出てきたものを誰がどう確かめたか。ここが空欄の事例は移せません。確認の工程が無い使い方を他部署に配ると、間違いごと広がります。

4つめが効果の測り方です。どれくらい速くなったかではなく、何をどう測ったかを書きます。「3時間が1時間になった」は、測り方が書かれていないと比べられません。「同じ作業を5回やって、開始から提出までの時間の中央値を比べた」まで書きます。測り方が書いてあれば、移した先で同じやり方で測り直せます。測り直せることが、移せる形の条件です。

工程4 そのまま移せる事例と、移せない事例を分ける

集まった事例は、そのまま配れるものと、作り直しが要るものに分かれます。見分ける点は5つです。次の表の右の列に1つでも当たるなら、そのまま配るのはやめます。

見る点そのまま移せる作り直しが要る
前提となる材料どの部署でも手に入る資料しか使っていない特定の部署しか見られない情報や、その人が個人的に作った資料が前提になっている
判断の含み方決まった手順を繰り返す作業。出てきたものの正否がその場で分かる経験で良し悪しを決める作業。正否が後になるまで分からない
確認の担い手作業をした本人が数分で確かめられる別の部署や社外の承認が要る。確認の体制ごと移す必要がある
扱う情報の範囲社外に出しても問題のない情報だけを扱う顧客の情報や未公表の数字を渡している。移す前に扱いの範囲を決め直す必要がある
繰り返しの回数月に1回以上繰り返される年に数回しか発生しない。移した先で定着する前に忘れられる

配ってから「うちでは無理だった」が返ってくると、次の事例も読まれなくなります。移せない事例を配らないことが、仕組みへの信頼を保ちます。1件の失敗で、その後の10件が読まれなくなると考えたほうが実態に近くなります。

右の列に当たった事例を捨てる必要はありません。移す前に足りない条件を書き添えて、条件つきの事例として置きます。この作業には、こういう資料と、こういう確認の担当が要ります、と先に書いておく。読んだ人は、自分の部署に条件が揃っているかを自分で判断できます。

もう1つ、移せなかった理由が集まると、別の使い道が出てきます。「特定の部署しか見られない情報が前提」という理由が5件並んだら、それは情報の置き場所の問題です。移せない理由の集計が、次に手をつける場所を教えてくれます。事例が集まらない時期でも、この集計だけは価値が残ります。

工程5 腐らせない——見直しの引き金を決める

集めた事例は、放っておくと腐ります。腐り方は3つあり、それぞれ引き金が違います。まとめて「定期的に見直す」と決めると、どれも見直されません。

1つめは、道具の側が変わる腐り方です。使っている機能の名前や画面の並びが変わり、書いてある手順どおりに進めなくなります。生成AIの機能は数か月の単位で変わるので、手順の細部を書き込んだ事例ほど早く腐ります。対策は、手順に使った道具の版と、最後に確認した日付を書いておくことです。日付があれば、読んだ人が古いかどうかを自分で判断できます。

2つめは、業務の側が変わる腐り方です。作業そのものが無くなる、別の部署に移る、様式が変わる。。だから事例には持ち主を1人決めます。持ち主は、その作業の担当者です。作業が変わったときに事例も直す、という約束にしておきます。担当者が異動するときには、持ち主を引き継ぐところまでを引き継ぎの項目に入れます。

3つめは、良い事例が埋もれる腐り方です。数が増えると、古い事例と新しい事例が同じ重さで並びます。見直しの引き金は2つ決めます。1つは期間で、最後に確認した日から半年経ったものに印を付ける。もう1つは利用で、半年間1度も引かれていない事例は、表から外す候補にする。消すのではなく、表から外します。後で必要になったときに戻せる形にしておきます。

移した先で効かなかったときに、何を疑うか

移した事例が効かないことは、普通に起きます。そのときに「その部署は意欲が低い」と結論すると、次が続きません。疑う順番を先に決めておきます。上から3つを確かめてから、合わなかったと判断します。

最初に疑うのは前提です。移した先に、事例が前提としていた材料が揃っていたか。過去の資料が3件必要だったのに1件しかなかった、参照するはずの情報が見られなかった。前提の不足は、やってみた側からは「うまくいかなかった」としか見えませんので、こちらから聞かないと出てきません。

次に疑うのが作業の中身の違いです。同じ名前の作業でも、部署によって中身が違います。「請求の確認」が、片方では金額の突合で、片方では取引先ごとの条件の確認だったりします。作業の名前が同じことは、中身が同じことを意味しません。移す前に、作業の中身を1行で書いて突き合わせておくと防げます。

3つめが確認の工程です。事例では作業をした本人が確かめていたのに、移した先では確認する人が別にいた。この場合、確認の待ち時間が増えて、全体としては遅くなります。速くなるはずが遅くなったという報告は、たいてい確認の工程が増えています。ここまで3つを確かめて、それでも効かないなら、その部署には合わない事例だったと記録します。合わなかった記録も資産で、同じ性質の部署に配るときの判断材料になります。

似た事例が並んだときの畳み方

集め始めると、数か月で似た事例が並びます。「議事録から担当分を抜き出す」が5件、「資料の下書きを作らせる」が8件。このまま並べておくと、読む側はどれを見ればよいか分からなくなり、いちばん上のものだけが読まれます。

畳み方は、作業の名前で束ねて、違いを条件として書き出す形です。。5件の議事録の事例なら、共通する手順を1つにまとめ、会議の長さ、参加者の数、出席していない人が読むかどうかといった違いを条件として並べます。読む側は、自分の条件に近い行を見ます。

束ねるときに落としてはいけないものが2つあります。1つは効果の測り方で、部署ごとに測り方が違うなら、揃えずに両方残します。揃えると、どちらの数字も元の作業と対応しなくなります。もう1つは失敗の記録です。この条件では効かなかったという行は、成功の行より読まれます。似た事例を束ねるときに、真っ先に消されるのがここです。

束ねる作業は、月に1回で足ります。集める人ではなく、全体を見る人が1人でやります。集める人と束ねる人を同じにすると、自分が聞いた事例を残したくなります。分けておくと判断が素直になり、束ねた後の一覧も短く保てます。

AIに任せてよい工程と、人が決める工程を作業名で分ける

この仕事は、聞き取りと書き直しが中心なので、AIを噛ませる余地があります。ただし「最後は人が確認する」という言い方では運用に落ちないので、作業の名前で分けます。

作業AIに渡すか理由と条件
聞き取った内容を、前提・手順・確認した人・効果の4項目に振り分ける渡せる分類の作業。元の発言のどこを使ったかを必ず添えさせる
手順の書き方の体裁を揃える渡せる言い回しの整え。渡した材料の中身は書き換えさせない
似た事例を、作業の名前でまとめる候補を出す渡せる候補の提示まで。どれを束ねるかの決定は人が行う
利用の記録から、よく使われている作業の順に並べる渡せる並べ替えの作業。並びの解釈は人が行う
社内向けの案内文や、部署への連絡の下書きを作る渡せる下書きの作成。数字と条件は人が差し替える
最後に確認した日から半年経った事例を抜き出す渡せる抽出の作業。直すか外すかの決定は持ち主が行う
この事例をそのまま他部署に移してよいかの判断渡さない前提と確認の工程が揃っているかの当てはめ。外すと間違いごと広がる
効果の数字を確定する渡さない測り方の定義に関わる。推定で埋めると移した先で比べられなくなる
扱ってよい情報の範囲を決める渡さない顧客の情報や未公表の数字に関わる。責任を負う人が決める

渡すときの条件は2つです。1つめは、聞き取りのどの発言を根拠にそう書いたのかを必ず添えさせること。元の発言が残っていれば、人の確認は数分で済みます。出どころのない出力は、確かめる時間のほうが長くなって、結局は使われなくなります。

2つめは、空欄を空欄のまま残させることです。4項目に振り分けさせると、聞き漏らした項目の欄が必ず空きます。ここを埋めさせると、一般的な書き方として出力された内容が入ります。事例としては整って見え、移す材料としては最も危ない形です。空欄は、そこをまだ聞けていないという事実を示す情報です

AIを万能に描かないために、渡せない作業の性質も書いておきます。移してよいかの判断は、移す先の部署の事情に当てはめる作業なので、AIの手元には材料がありません。効果の数字も、測り方の定義と結びついているので、確定は人が行います。整える作業は渡せますが、移すと決める作業は渡せません

AIに事例を書かせると起きる事故

実際に起きる形を並べます。どれも道具の性能の問題ではなく、渡し方と確認の順番の問題です。

  • 聞き取りに無かった手順が補われる。読んだ人がそのとおりにやっても再現できず、事例そのものが疑われる
  • 効果の数字が丸められる。「約3割の短縮」とだけ残り、何を何回測ったかが消える
  • 前提が省かれる。一般的に書き直す過程で、その部署にしか無い材料の記述が落ちる
  • 確認した人の欄が「担当者が確認」で埋まる。誰がどう確かめたかが分からず、移した先で確認の工程が抜ける
  • 5件の事例が1件にまとめられ、条件の違いが消える。読む側は自分の条件に当たるかを判断できない

防ぎ方は、聞き取りの原文を残しておくことです。書き直した事例と原文を並べて、増えている記述だけを探す。減っている記述は読めば気づきますが、増えている記述は自然な文章として紛れるので、並べないと見つかりません。

読む人の作業も絞ります。全文を読み直すという決め方は、忙しい月には何も読まないのと同じ結果になります。実務的な線は、前提と、確認した人の2つの欄だけを毎回人が読むという置き方です。この2つが空欄でなく、原文に対応する発言があれば、その事例は配れます。手順の言い回しの巧拙は、移した先で直せます。

効いているかを測る4つの数字

半年で見る数字を4つ決めます。集めた件数は入れません。集めた件数は増やしやすく、増えても何も起きないことがあるからです。

1つめは、他部署に移した件数。2つめは、移した事例のうち、移した先で1か月後も使われている割合。3つめは、事例を出した人の実人数(延べではなく、何人から出てきたか)。4つめは、事例が読まれた回数です。1つめと2つめを並べて見るのが要点で、移した数だけ増えて使われている割合が落ちるなら、移せない事例を配っています。

読み方も先に決めます。3つめが伸びないなら、一部の人からしか集まっていないので、集める人の置き方を見直します。4つめだけが伸びて2つめが伸びないなら、読まれてはいるが真似されていないので、粒度が大きすぎることを疑います。集めた件数だけを目標にすると、書きやすい事例だけが集まります

最初に挙げた27.0%に戻ります。組織的な取組があるかどうかは、方針の文書があるかどうかではなく、個人の成果が他人に渡った回数で測れます。渡った回数が0なら、方針の文書が何ページあっても、その会社の使い方は個人の中に留まっています。半年に1度、この4つの数字を並べるだけで、どこで止まっているかが分かります。

集める前に決める項目と、出す前に確かめる項目

ここまでを2つの一覧にまとめます。前半は仕組みを作る前に決めておく項目、後半は事例を他部署に出す前に1件ずつ確かめる項目です。

  • 事例の単位は作業ひとつ分になっているか。部署名が主語になっていないか
  • 聞く項目6つ(作業・頻度・前のやり方・渡した材料・確かめ方・変わったこと)が決まっているか
  • 部署ごとに聞き出す人が決まっているか。月に何件と決めてあるか
  • 利用の記録を人事の評価に使わないことが、聞かれる側に先に伝わっているか
  • 使ってよい情報の範囲が、具体の例つきで書かれているか
  • 束ねる人が、集める人とは別に1人決まっているか

後半は、1件ごとに出す直前に見ます。6つのうち1つでも埋まっていないなら、その欄が出す日を決めます。

  • 前提の欄が埋まっているか。移した先で手に入らない材料が混ざっていないか
  • 確認した人の欄に、誰がどう確かめたかまで書かれているか
  • 効果の欄に測り方が書かれているか。何回やって、何と何を比べたかが分かるか
  • 手順に、使った道具の版と最後に確認した日付が書かれているか
  • 持ち主が1人決まっているか。作業が変わったときに直す人がいるか
  • 扱っている情報が、移す先でも同じ範囲で扱えるか

始め方も決めておきます。全社の仕組みを作る前に、1つの部署で2件聞いて、隣の部署に移すところまでを1か月でやってみる。うまくいけば、聞く項目と書き方の型がそのまま使えます。うまくいかなければ、どの工程で止まったかが1か月で分かります。全社に配る様式を先に作ると、止まった場所が分からないまま半年が過ぎます。

まとめ

AIの社内展開が研修とツール配布で止まるのは、広げる対象がまだ決まっていないうちに広げる作業から始めているからです。総務省が2026年7月24日に公表した令和8年版の情報通信白書では、企業の生成AI利用率は86.4%まで上がった一方、業務の変革について組織的な取組はないと答えた企業が27.0%ありました。米国1.4%、ドイツ4.9%、中国2.6%と比べると、日本だけが突出しています。使っているのが個人だからです。実際に手が動くのは、自分と同じ職種の、自分と同じ作業の例を見たときで、その例は外の研修ではなく自社の中にしかありません。ところが、うまく使っている本人はそれを工夫だと思っていないので、自然には上がってきません。手を抜いたと見られる警戒、書く手間が報われないこと。この3つが重なって、社内で最も効いている使い方が表に出ないまま個人の中に留まります。

打つ手は5つの工程です。第1に、作業ひとつ分を事例の単位にする。部署名が主語になっている事例は大きすぎ、月に1回以上繰り返されない作業は小さすぎます。第2に、集める人を部署ごとに1人置き、15分聞いて聞いた側が書く。月に2件でかまいません。第3に、前提・手順・確認した人・効果の測り方の4項目に直す。前提が無いと移した先で止まり、確認した人が無いと間違いごと広がり、測り方が無いと移した先で測り直せません。第4に、前提・判断・確認・情報の範囲・繰り返しの回数の5点で、そのまま移せる事例と作り直しが要る事例を分ける。第5に、道具の版と確認した日付を書き、持ち主を1人決め、半年引かれていないものを表から外す。AIに渡せるのは、4項目への振り分け、体裁の統一、束ねる候補の提示、並べ替え、案内文の下書きまでです。移してよいかの判断、効果の数字の確定、扱ってよい情報の範囲は人が持ちます。まずは1つの部署で2件聞いて隣の部署に移すところまでを1か月でやってみてください。全社の様式を作るのは、その後で間に合います。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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