表記ゆれが消えない原因と直し方|辞書で機械に守らせる

「表記の決まりは配ってあるのに、公開したページを見ると『お問合せ』と『お問い合わせ』がまた混ざっています」「校正のたびに同じ語を同じように直していて、直すこと自体が仕事になってきました」——記事や資料を出し続けている部署では、半年に一度は必ず持ち上がる話です。表記ゆれが消えないのは、決まりの中身が悪いからでも、書き手の注意が足りないからでもありません。本当は、決めた形が人の記憶と長い決まり書きの中にしか置かれていないため、書き手が入れ替わるたびに元へ戻っているのです。この記事では、どの表記に寄せるかの決め方から、機械が読める辞書の作り方と保ち方、機械に任せてよい範囲と任せてはいけない範囲の線引き、そして生成AIが書いた文章でゆれがどう増えるかまでを整理します。
カメ先生表記ゆれが消えないのは、書き手が決まりを守らないからだと思われがちなんだ。でも本当は、同じ語に正解がひとつあると思い込んでいるところに原因がある。表記に唯一の正解というものは無くて、自社がどちらに寄せると決めたかしか無いんだよ。
カメ子決めていないから、書く人ごとに違う形が出てくるということですか。
カメ先生出てくる形が人ごとに割れるのは、そこが原因だね。そして決めた後も、それを覚えている人の頭の中と、長い決まり書きの中にだけ置いておくと元に戻る。決めた形を語の一覧として書き出して、文章を通すたびに機械が突き合わせる。ここまでやって初めて残るんだ。
カメ子どちらに寄せるかを決めることと、決めた形を語の一覧に落とすことは、別の作業だということですね。
- 表記に唯一の正解は無い。公的な指針も、算用数字の全角と半角には定めを置かず、文書内で使い分けを統一するとだけ求めている
- 決めた形は決まり書きの文章ではなく語の一覧に落とす。直す前の形・寄せる形・例外の3列で20語から始め、載せる条件を先に決めて増えすぎを止める
- 固有名詞・他社名・引用・正式名称・書き分けの5種は機械で直させない。ここを自動修正の対象に含めると、直してはいけないものが静かに書き換わる
コンテンツ制作にAIを活かす第一歩、まずは導入から始めませんか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
同じ語が3通りに割れている
最初に、この記事の主題である「表記ゆれ」という語そのものを見ます。検索数の推定値(2026年8月時点・日本)を調べると、ひらがなで「ゆれ」と書いた形が月間2,600、漢字で「揺れ」と書いた形が1,900、「ぶれ」と書いた形が20でした。意味も、探している人も、たどり着きたい情報も同じです。それでも3つは別々の語として数えられています。表記をそろえる話をしている記事の主題語が、すでに3通りに割れているわけです。
割れ方には段があります。この3つは最大でも1.4倍差ですが、同じ調べ方で「ウェビナー」は25,000、「ウェブセミナー」は200でした。125倍の開きです。差が100倍を超える組と、1.4倍しかない組とでは、直す理由も直す急ぎ方もまったく違います。ゆれを一律に「そろえるべきもの」として扱うと、この差が見えなくなり、優先順位の付かない長い指摘の一覧ができあがります。
そして影響は文章の中だけに留まりません。同じ語が2通りで書かれていれば、検索の入り口が2つに割れ、社内の集計では2行に分かれ、顧客の一覧では同じ会社が2社として数えられます。表記ゆれは、書き方の好みの問題ではなく、数えられるかどうかの問題です。だから直す語は「読みにくい語」から選ぶのではなく、「数え違いを起こす語」から選びます。
決めたはずの表記が元に戻る4つの入口
一度そろえたのに、半年後にはまた混ざっている。この再発には決まった入口があります。次の4つです。どれも決まりを無視した結果ではなく、決まりが書き手に届く前に文章ができあがっている、という点で共通しています。
- 書き手が入れ替わる……前の担当者の頭の中にあった判断は引き継がれない。決まり書きに文字として残っていない語ほど、最初に元へ戻る
- 外注先から原稿が届く……相手には相手の決まりがある。こちらが渡していない語は、相手の決まりで書かれて当然になる
- 過去の資料を使い回す……そろえる前に作った資料が切り貼りされ、古い形が新しい記事や提案書の中に入り込む
- 生成AIに書かせる……依頼のたびに判断がやり直され、同じ語が回ごとに別の形で出てくる。人の交代より頻度が高い
上の3つは、人が別なだけで理屈は同じです。決めた形が、書く人の手元に届いていない。決まり書きを配れば届くと考えたくなりますが、20ページの決まり書きの中から、いま書いている語の項を探す人はいません。届く形にするというのは、文章を短くすることではなく、語で引ける一覧の形に変えることです。
4つ目だけは性質が違います。生成AIには決まり書きをそのまま渡せますし、読ませることもできます。それでもゆれます。ここを人の書き手と同じ扱いにすると、指示を厚くする方向にばかり手が伸びて、いつまでも直りません。なぜ指示では止まらないのかを、次の節で3つに分けます。
生成AIが書いた文章でゆれが増える3つの理由
生成AIの出力に表記のゆれが混ざるのは、性能が足りないからではありません。仕組みの側に理由が3つあります。1つ目は、学習した文章の中に、同じ語の複数の書き方がどれも入っていることです。どちらも日本語として通用している以上、どちらを出しても誤りにはなりません。そのときの指示と前後の文脈で、毎回どちらかに傾きます。
2つ目は、依頼が1回ごとに独立していることです。前回どちらに寄せたかを、次の依頼が引き継ぐ保証はありません。10本まとめて書かせれば、10本が独立した判断で書かれます。1本の記事でも、章を分けて生成すれば章ごとに違う形が出ます。人なら「さっき前の段落でそう書いたから」で自然にそろうところが、そろわないわけです。
3つ目は、同じ語の繰り返しを避けようとする性質です。文章を読みやすくするための働きですが、辞書の側から見れば新しいゆれの発生源になります。読みやすさのための言い換えと、直すべき表記ゆれは、できあがった文章の上では見分けがつきません。だから対策は、出す前の指示を厚くする方向ではなく、出た後に機械で突き合わせる方向に置きます。
ゆれの実害は、読みにくさより数え違い
直す順番を決めるために、実害の側を見ておきます。文化審議会が令和4年1月7日に建議した「公用文作成の考え方」の解説には、算用数字の全角と半角について注意が書かれています。データや金額等の数値を示す場合には半角数字を用いる、全角の数字は情報処理において数値として認識されない場合がある、という一文です。人の目には同じ数字でも、機械はまったく別のものとして扱います。
同じことが語でも起きます。集計の項目名が2通りあれば表は2行に分かれ、分類の札が2通りあれば記事は2つの束に分かれます。顧客の一覧では同じ会社が2社として数えられ、送った数も反応の率も薄まります。読みにくいから直すのではなく、数え違いが起きるから直す。この順で見ると、直す語の順番が自然に決まります。
実害の大きさは、その語がどこで機械に読まれているかで決まります。本文の中にだけ出てくる語は、多少ゆれても数え違いを起こしません。一方で、見出し、分類の札、集計の項目名、入力欄の選択肢、ファイル名に出る語は、ゆれた瞬間に数が割れます。辞書に最初に載せるのは、この後者に当たる語です。読みにくさを理由に語を選び始めると、いつまでも順番が付きません。
表記に唯一の正解は無い
原因の核心はここです。多くの現場が「正しい表記はどれか」を探すところで止まっています。探しても出てきません。前述の「公用文作成の考え方」は、算用数字について全角を用いるか半角を用いるかについて特に定めはないが、使い分けの考え方を文書内で統一すると書いています。正解を示すのではなく、統一だけを求めているわけです。
同じ姿勢は他の項目にも通っています。読点は「、」を原則としつつ、横書きでは「,」を用いてもよく、ただし両者が混在しないよう留意する。文体は、一つの文や文書の中では常体と敬体のどちらかで統一する。括弧も符号も単位も、文書内で用法を統一して使う。求められているのは正しさではなく、一つの文書の中で揺れないことです。この構造を先に理解しておかないと、社内の議論は「どちらが正しいか」で止まり続けます。
土台になる公的な決まりが無いわけではありません。漢字は常用漢字表、送り仮名は昭和48年の「送り仮名の付け方」に基づく、と示されています。ただしそのうえで、広く一般に向けた解説・広報等では、読み手に配慮して仮名で書いたり振り仮名を使ったりできるとも明記されています。土台があり、外してよい場面も書かれている。この二段構えをそのまま自社に写すのが、いちばん近道です。
寄せ先は、文書の種類ごとに変わってよい
「公用文作成の考え方」には「公用文の分類例」という表が載っています。法令、告示・通知等、記録・公開資料等、解説・広報等の4区分に分け、それぞれの想定される読み手を並べたものです。想定される読み手は、専門的な知識がある人から、専門的な知識を特に持たない人まで分かれます。原則として表記は法令と一致させるとしつつ、文書の目的や種類、想定される読み手に応じた工夫の余地があると書かれています。
この考え方は会社の文書にそのまま当てはまります。契約書と社内規程、製品の仕様書、報道向けの発表、そして記事や広告。読み手も、間違えたときの損害も、要求される厳密さも違います。1つの辞書を全社に一律で当てようとすると、必ずどこかの部署が守れなくなり、守れない部署が出た時点で全体が空文になります。
現実的な形は2層です。全社で共通させる辞書を薄く作り、文書の種類ごとに追加の辞書を重ねる。共通の層に入れるのは、自社名、製品名、サービス名、数字と単位の書き方といった、どこで書いても同じであるべきものだけです。共通の層は30語も要りません。厚くしたくなったら、それは種別ごとの層に置くべき語だという合図です。
寄せ先を決める4つの材料と、見る順番
では個々の語を、どちらに寄せるか。判断の材料は4つあり、見る順番が決まっています。順番を守らないと、決めた後にひっくり返ります。
- 権利者が決めている形かどうか……他社名、他社の製品名、人名、法令や規格の名称。選ぶ余地が無いので、いちばん先に候補から外す
- 機械が扱える形かどうか……数値として集計する数字は半角にする、といった制約。読み手の好みより優先する
- 読み手が実際に使っている形……検索数の推定値や、問い合わせの本文に書かれている語。社内の感覚ではなく外の実測を見る
- 自社に既にある量……過去の資料や公開ページで多数派になっている形。どちらでもよい語は、直す手間が少ないほうを選ぶ
1と2は選択ではなく制約です。ここを3や4と同じ土俵で議論すると、話が長引くだけで結論は変わりません。先に制約で候補を削り、残った語だけを実測と多数派で決める。この順にすると、1語あたりの決定は数分で終わります。会議の議題に載せる必要があるのは、実際には3と4だけです。
それでも決まらない語が残ります。差が小さく、どちらの根拠も弱い語です。ここは決める人を1人置いて、その場で決めてしまうのが正解です。合議に回した語は決まらないまま辞書に載らず、載らない語はその後もゆれ続けます。決め方の良し悪しより、決まっていることのほうが効きます。
直す価値がある語と、放置してよい語
優先順位は、割れ方の大きさで見ると付けやすくなります。次の表は、実際に検索されている数の推定値(2026年8月時点・日本)を並べたものです。同じ意味の2つの形が、どれくらいの比で割れているかを見ます。
| 同じ意味で割れている形 | 月間の検索数の推定 | 見立て |
|---|---|---|
| ウェビナー / ウェブセミナー | 25,000 / 200 | 125倍。迷わず多数派へ寄せる。少数派は本文で1度触れれば足りる |
| お問い合わせ / お問合せ | 6,600 / 200 | 33倍。入力欄や見出しに出る語なので、数え違いが起きやすく優先度が高い |
| 申し込み / 申込み | 13,000 / 500 | 26倍。送り仮名のゆれ。導線の文言に使うため先に寄せる |
| サーバー / サーバ | 21,000 / 3,100 | 7倍。一般向けは多数派へ。技術文書は種別ごとの層で別に扱う余地がある |
| 見積もり / 見積り | 24,000 / 5,500 | 4倍。読み手が両方を使っている。決めはするが、直す急ぎ度は下げてよい |
| 表記ゆれ / 表記揺れ | 2,600 / 1,900 | 1.4倍。どちらでも通じる。放置してよいが、1つの文書の中では揃える |
表から読み取れる目安は単純です。10倍以上開いている組は、迷わず多数派へ寄せる。3倍未満の組は、読み手がどちらの形も使っているので、外向きの表記を無理にそろえても得るものが少ない。それでも1つの文書の中では揃えます。読み手が引っかかるのは、2つの形が同じページに並んだときだけだからです。倍率は、社内の資料に出てくる回数で代用しても構いません。
放置してよい語を決めておくことも、同じくらい大事です。何を直さないかを書いておかないと、現場は迷ったときに全部を直すか、何も直さないかのどちらかに寄ります。放置と決めた語は、辞書の3列目に「例外」として明記します。載っていない語ではなく、載っていて例外と書かれている語にしておくと、次に誰かが同じ議論を最初から始めずに済みます。
辞書は3列から始める
ここから作り方です。辞書と聞くと大掛かりに構えたくなりますが、始めに要るのは3列だけです。直す前の形、寄せる形、例外。この3列を20語ほどで埋めたものが、最初の辞書になります。要点は、決まり書きの文章とは別に、語の一覧として独立させておくことです。文章の中に埋もれた決まりは、検索もできず、機械にも読ませられません。
検査の道具に読ませる形も、この3列とほぼ同じです。表記ゆれを検出する仕組みは、期待する形と、それに寄せるべき形の組を並べて書きます。1つの寄せ先に対して複数の形を並べられるので、たとえば「ソフトウェア」という寄せ先に対して「ソフトウエア」「ソフトウエアー」を並べる、という書き方になります。人が読む一覧と、機械が読む一覧を別々に作らないでください。二重に持つと、必ず片方が古くなります。
3列目の例外がよく効きます。「この語は直さない」「この文脈では直さない」を書いておく列です。ここが空のまま運用すると、検査の道具が出す指摘に、直さなくてよいものが毎回混ざります。それが続くと、やがて誰も指摘を読まなくなります。例外を書き足す作業は、辞書を薄くする作業です。語を増やすことより優先度が高いと考えてください。
辞書に載せてよい語の条件
語を足すたびに、載せてよいかを判定します。基準は次の5つで、全部を満たす語だけが載ります。満たさない語は載せず、人が読んで判断する側に回します。
- 寄せ先が1つに決まる……前後を読まなくても、どちらに直すかが常に同じになる語であること
- 見た目だけで判定できる……意味の解釈をしなくても、文字の並びで検出できること
- 直しても意味が変わらない……送り仮名や長音記号のように、語の指すものが動かないこと
- 実際に2回以上出た……想定で足した語は検出されないまま、辞書だけを重くする
- 試験の行を添えられる……直る例と、直ってはいけない例を1つずつ書けること
最後の条件は、柔軟な書き方を使うときに効きます。検出の指定には、幅を持たせた書き方ができる仕組みがあり、そこには「この形が来たらこう直る」という試験の行を辞書と一緒に書けます。幅を持たせた語には必ず試験の行を添えるという決めごとを置くと、辞書が壊れたときにすぐ分かります。試験の行が書けない語は、まだ寄せ先が固まっていない語です。
短い語には落とし穴があります。語の境目を見ずに検出すると、別の語の一部に当たってしまうためです。短い略語などは、語の境目を見る設定を明示しないと、他の語の中身まで書き換わります。短い語ほど、載せる前に誤検出の例を1つ考えてください。思いつかない語だけを載せる、という順にすると、事故はほとんど起きません。
機械に直させてはいけない語
ここが線引きの本体です。検出してよい語と、直してよい語は同じではありません。次の5種類は、辞書に載せないか、載せたうえで「検出はするが自動では直さない」区分に置きます。
- 人名や地名などの固有名詞——公用文作成の考え方でも、固有名詞は常用漢字表の適用対象ではなく、人名は原則として本人の意思に基づいた表記を用いる、とされている
- 他社名と他社の製品名——正しい形を決めているのは先方であり、自社の寄せ先を当てると誤りになる
- 引用した文——原文のまま載せることが引用の条件。直した時点で引用ではなくなる
- 法令・規格・資格の正式名称——正式な形が外部で決まっており、読みやすさを理由に崩せない
- 意味で書き分けている同音の語——早いと速い、収めると納めるのように、前後を読まないと寄せ先が決まらない
この5つを自動修正の対象に含めると、事故は静かに起きます。直った跡が指摘として残らないため、公開してから外部に指摘されるまで誰も気づきません。とくに他社名を自社の書き方に直してしまった種類の誤りは、相手の目に触れたときの印象が悪く、信頼の面で最も高くつきます。
実務での扱い方は2段です。固有名詞と正式名称は、辞書に「正しい形」として登録したうえで自動修正を外し、指摘だけを出す。引用は、引用の印を付けた範囲そのものを検査の対象から外す。直さないために登録するという使い方が、辞書のもう半分の役割です。載っていない語は誰も守れませんが、載せたからといって機械に任せてよいわけではありません。
検査を置く場所で、直る量が変わる
辞書ができたら、どこで突き合わせるかを決めます。置ける場所は3か所あり、それぞれ性質が違います。1か所に絞ると、必ずどこかで取りこぼします。
| 検査を置く場所 | 気づく早さ | この場所だけにすると起きること |
|---|---|---|
| 書く前に、辞書の抜粋を執筆画面の近くに掲げる | 書く瞬間 | 見る人と見ない人に分かれる。長い一覧を貼ると最初の数語しか読まれない |
| 書いた直後、原稿を保存する操作で検査する | その日のうち | 直す量が少なく最も直りやすい。ただし下書き段階の指摘が多く、煩わしくなりやすい |
| 公開前の最終確認でまとめて検査する | 公開の直前 | 指摘が一度に大量に出て、締切と比べられ、そのまま公開される |
現実的な組み方は、2番目と3番目を両方置き、1番目は10語程度に絞ることです。書いた直後の検査で大半が消え、公開前の検査が最後の網として働く。この形にすると、公開前に出る指摘は数件に収まり、締切に押されて無視されることがなくなります。3番目だけに寄せた運用は、忙しい週に必ず飛ばされます。
置く場所と同じくらい大事なのが、指摘の出し方です。検出をすべて公開を止める扱いにすると、例外の登録が追いつかない時期に運用が破綻します。止めるのは、固有名詞と正式名称の誤りだけでよい。それ以外は、直すことを勧める指摘に留めます。止める語を少なくしておくほど、実際に止まったときに人が真剣に読みます。
自動で直してよい範囲
検査の道具の多くは、指摘するだけでなく一括で直す機能を持っています。便利ですが、条件を書かずに走らせると事故ります。よく知られた失敗が、長音記号を足す修正です。「サーバ」を「サーバー」に一括で直すと、すでに「サーバー」と書かれていた語が「サーバーー」になります。後ろに長音記号が続く場合は直さない、という条件を書き添えないと止まりません。
同じ形の事故は送り仮名でも起きます。「申込」を「申し込み」に直す指定を書けば、「申込書」まで「申し込み書」に変わります。一括修正の指定は、直したい形からではなく、直してはいけない隣の形から考えます。辞書に語を足すときの手順を、この順に決めておくだけで、ほとんどの事故は起きなくなります。
結論として、無人で走らせてよいのは試験の行が添えられ、直ってはいけない例まで書かれている語だけです。それ以外は、検出して人が押す形にします。数が多くて押しきれないと感じたら、それは載せる条件を満たしていない語が辞書に混ざっている合図です。押す手間を惜しむより先に、語を減らすほうを検討します。
生成AIに辞書をどう渡すか
生成AIに書かせるなら、辞書の渡し方は2通りあります。書かせる前の指示に混ぜる方法と、出てきた文章を検査する方法です。結論から言えば、後者を主にして、前者は補助に回します。逆にすると、指示を厚くしてもゆれが残り、原因が分からないまま指示だけが長くなります。
前者だけに頼れない理由は、前に挙げた3つの性質そのものです。指示は1回ごとに独立し、長い指示ほど後半の項目が薄くなり、章を分けて生成すれば章ごとに判断がやり直されます。50語の一覧を指示に貼っても、50語すべてが守られる保証はありません。一方で、よく出る10語ほどを指示に入れておくと、後で直す量は目に見えて減ります。前者は、後で直す量を減らすための下ごしらえと位置づけます。
頼み方にも決まりを置きます。「表記を統一して」とだけ頼むと、その文章の中の多数派に寄せられます。それが自社の寄せ先と一致する保証はありません。寄せ先を書かずに統一を頼むのは、決定そのものを渡していることと同じです。渡すのは寄せ先の一覧であって、どちらに寄せるかの判断ではない。この区別を先に置いてから、指示の文面を作ります。
洗い出しはAIに任せ、決定は人が持つ
辞書に載せる語の候補を集める作業は、生成AIに任せてよい部分です。従来の用語抽出は、大量の文書から出現回数の多い語を機械的に拾う方式が主で、抽出結果に不要な候補が多く混ざり、人による選別に時間がかかることが課題として挙げられてきました。翻訳を手がける川村インターナショナルは2025年1月の記事で、生成AIを使うと分野を指定した抽出ができ、不要な候補が大きく減って一覧としての一貫性が増した、と報告しています。
それでも、出てきたものは候補であって決定ではありません。AIに判断させない範囲を、先に3つ決めておきます。どちらに寄せるかの決定、固有名詞と正式名称の正しい形、引用を直すかどうか。この3つは、間違えたときに外部へ影響が出るか、後から戻せない種類の判断です。ここを渡してしまうと、辞書そのものが根拠のないものになります。
人が確認する範囲も先に決めます。候補の一覧をそのまま辞書に流し込まず、1語ずつ、社内の資料で実際に何回どちらの形が使われているかを確かめてから載せる。辞書に根拠の列を1つ足し、そこに「どの資料で何回」を書かせておくと、後から見直すときに議論をやり直さずに済みます。根拠の書かれていない語は、半年後にほぼ必ず蒸し返されます。
辞書を保つ:足し方と減らし方
最後に、作った辞書を保つ工程です。辞書は放っておくと必ず太ります。太った辞書は指摘を増やし、指摘が増えると読まれなくなります。保つとは、増やすことではなく、増えないようにすることです。手順は5段階で足ります。
直す前の形・寄せる形・例外の3列で作り、置き場所は1つに限る。手元にコピーを配ると、半年後には社内に4種類の辞書が存在することになる
書く前の掲示は10語まで。長い一覧を貼っても最初の数語しか読まれない。公開を止めるのは固有名詞と正式名称の誤りだけにする
起票は誰でもよい。決めるのを合議にすると決まらない語が溜まり、その語はその間ずっとゆれ続ける
想定で足した語は検出されず、辞書だけが重くなる。根拠の列に、どの資料で何回出たかを書き残す
同時に、例外として登録した語が増えすぎていないかを見る。例外が全体の3割を超えたら、それは寄せ先の決め方を見直す合図
3番目が最も崩れます。決める人を置かずに始めると、語ごとに違う担当者が違う判断を書き込み、辞書そのものがゆれます。決める人は編集の責任者でも構いませんし、専任である必要もありません。1人であることだけが条件です。
変更の記録も残します。いつ、どの語を、どちらに寄せたか。過去に公開した記事を遡って直すかどうかは、辞書を変えるかどうかとは別の判断にしておきます。遡ると決めた場合だけ、対象の一覧と期限を添えます。ここを一緒にすると、遡る作業の重さを理由に、辞書を変えること自体が止まってしまいます。
まとめ
表記ゆれが消えないのは、書き手の注意が足りないからではなく、決めた形が人の記憶と長い決まり書きの中にしか置かれていないからです。書き手が入れ替わり、外注先の原稿が入り、過去の資料が切り貼りされ、生成AIが依頼のたびに判断をやり直すたびに、同じ語が元へ戻ります。直すべきは書き手の姿勢ではなく、決めた形の置き場所です。
寄せ先の決め方には順番があります。他社名や人名のように権利者が決めている形を先に外し、集計する数字のように機械の制約で決まる形を次に外す。残った語だけを、読み手が実際に使っている形と、自社に既にある量で決めます。割れ方が10倍以上開いている語は迷わず多数派へ、3倍未満の語は1つの文書の中で揃えるだけでよい。何を直さないかを書いておくことが、直す語を絞ることになります。公的な指針が求めているのも正しさではなく、一つの文書の中で揺れないことでした。
決めた形は、決まり書きの文章ではなく語の一覧に落とします。直す前の形、寄せる形、例外の3列で20語から始め、実際に2回以上出た語だけを足し、半年に一度、検出されなかった語を落とす。検査は原稿を保存する操作と公開前の2か所に置き、公開を止めるのは固有名詞と正式名称の誤りだけにする。無人で直してよいのは、直ってはいけない例まで書かれた語だけです。
機械に任せてはいけない範囲を、最後にもう一度だけ挙げます。人名と地名、他社名と他社の製品名、引用した文、法令や規格の正式名称、そして意味で書き分けている同音の語。この5つは検出しても自動では直さず、寄せ先の決定と引用の扱いは人が持ちます。生成AIに任せてよいのは候補を集めるところまでで、決めるのは人です。辞書は、正しい表記を教える道具ではなく、決めたことを人が忘れても残しておくための道具です。20語で構いません。今週決められる語から書き出してみてください。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
コンテンツ制作にAIを活かす第一歩、まずは導入から始めませんか?
デボノはアカウント開設・初期設定など「そもそものAI導入」から社内定着まで伴走支援。マーケティング活用など一歩進んだご相談にも対応します。
