Media > AI活用ユースケース > 知財 > 社員から届く「この資料を社外に出してよいか」「展示会・論文で話してよいか」の質問に、営業秘密の管理規程・発表前の手続き・秘密保持契約の一覧を根拠にチャットで答え、判断の要るものを知財部へ回す

社員から届く「この資料を社外に出してよいか」「展示会・論文で話してよいか」の質問に、営業秘密の管理規程・発表前の手続き・秘密保持契約の一覧を根拠にチャットで答え、判断の要るものを知財部へ回す

実装ステータス:構成例 技術的に実現可能な構成として設計したもの。自社未検証

社員が「この資料を社外に出してよいか」「展示会で話してよいか」をチャットで聞くと、相手先と資料の秘密区分を確かめ、規程と秘密保持契約の一覧から根拠付きで手続きを答えます。判断の要るものは知財部へ回します。

サマリー
生成AI
Gemini
AIサービス
Azure AI/Google Vertex AI/OpenSearch
連携・自動化
Python
対象業界
IT・SaaS/医療/製造
対象部門
知財/研究開発
対象業務
問い合わせ対応
主な課題
判断に時間がかかる/問い合わせが多い/属人化している
AIで行う処理
対話
主な効果
品質標準化/対応スピード向上/機会損失防止
導入難易度
★★★☆☆
実装レベル
本格構成
費用感
RAG・個別開発(大)
人間の確認
条件付き
現在工数
50h/月
AI導入後
20h/月
想定削減
60%
年間削減
360h
モデル条件による試算値です。実在企業の実績ではありません。

01導入前 / 導入後の業務フロー

導入前(Before)
  1. 社員が、知財部の共有アドレスにメールで質問する(電話やチャットのこともある)
  2. 知財部の担当者が、質問の中身を読む。相手先や資料の区分が書かれていなければ聞き返す
  3. 営業秘密の管理規程と取扱いの手引きから、該当する箇所を探す
  4. 法務部の契約管理の台帳で、相手先との秘密保持契約の有無・目的・期限を確かめる
  5. 発表の質問なら、発表の日と事前審査の締め切りを確かめる
  6. 手続きと根拠の箇所を書いて返信する
  7. 判断の要るもの(極秘の資料、契約が無い相手、発表に未出願の技術が含まれそうなもの)は、知財部の中で相談してから返す
導入後(After)
  1. 人社員が、社内ポータルの知財のチャットで質問する
  2. 自動質問の種類(資料の提供/発表/区分の扱い)を判定し、足りない情報を選択肢で聞き返す
  3. 自動相手先の社名を、秘密保持契約の台帳の相手先の名前に寄せる
  4. 自動台帳から、その相手先との契約の有無・目的・期限を引く
  5. 自動発表なら、発表の日から事前審査の締め切りの日付を計算する
  6. 自動規程と手引きから、質問の種類と秘密区分に当たる箇所を探し、根拠付きの回答を作る
  7. 自動回す条件に当たれば、回答の代わりに知財部の待ち行列に入れる
  8. 人社員が回答を読み、手続き(承認の申請・事前審査の申請)に進む
  9. 人知財部の担当者が、回された質問に答え、毎週の回答の記録を見直す
各工程の詳しい説明を読む
  1. 社員が、知財部の共有アドレスにメールで質問する(電話やチャットのこともある)
  2. 知財部の担当者が、質問の中身を読む。相手先や資料の区分が書かれていなければ聞き返す
  3. 営業秘密の管理規程と取扱いの手引きから、該当する箇所を探す
  4. 法務部の契約管理の台帳で、相手先との秘密保持契約の有無・目的・期限を確かめる
  5. 発表の質問なら、発表の日と事前審査の締め切りを確かめる
  6. 手続きと根拠の箇所を書いて返信する
  7. 判断の要るもの(極秘の資料、契約が無い相手、発表に未出願の技術が含まれそうなもの)は、知財部の中で相談してから返す

(a)同じ質問が繰り返し届く。 「社外秘の資料を顧客に渡すには」「学会の申請の締め切りは」。返信の文面はほぼ同じなのに、毎回規程を開いて書いています。 担当者が5名いるので、同じ質問への答え方が人によって少しずつ違います。

(b)聞き返しで1往復かかる。 質問の多くは「この資料を出してよいか」とだけ書かれ、相手先も資料の区分も書かれていません。 聞き返して返事を待つあいだに1日たち、そのあいだに社員が資料を送ってしまうこともあります。

(c)秘密保持契約の確認が毎回の手作業。 相手先の社名が略称や旧社名で書かれていると、台帳で見つかりません。契約があるのに無いと答えたり、期限が切れているのに気づかなかったりすることがあります。

(d)締め切りに間に合わない発表が出る。 事前審査の30日前の締め切りを知らずに発表の直前に聞いてくる社員がいます。質問が来た時点で締め切りを過ぎていれば、発表の中身を削るか、審査を急ぐしかありません。

  1. 【人】 社員が、社内ポータルの知財のチャットで質問する
  2. 【自動】 質問の種類(資料の提供/発表/区分の扱い)を判定し、足りない情報を選択肢で聞き返す
  3. 【自動】 相手先の社名を、秘密保持契約の台帳の相手先の名前に寄せる
  4. 【自動】 台帳から、その相手先との契約の有無・目的・期限を引く
  5. 【自動】 発表なら、発表の日から事前審査の締め切りの日付を計算する
  6. 【自動】 規程と手引きから、質問の種類と秘密区分に当たる箇所を探し、根拠付きの回答を作る
  7. 【自動】 回す条件に当たれば、回答の代わりに知財部の待ち行列に入れる
  8. 【人】 社員が回答を読み、手続き(承認の申請・事前審査の申請)に進む
  9. 【人】 知財部の担当者が、回された質問に答え、毎週の回答の記録を見直す

7番目が、この設計の分かれ目です。 回すのは、極秘の資料、契約が無いか期限の切れた相手、目的が契約と合わない提供、締め切りを過ぎた発表、規程に根拠が見つからない質問です。チャットは「出してよい」とは答えません。 答えるのは、規程上の手続きと、その手続きの申請先です。

4番目をプログラムに任せているのも、意図してのことです。 契約の有無は、生成AIが文章から推測してよいものではありません。 引いた結果を事実として渡し、回答に使わせるだけにします。

02今回想定するシステム構成

構成図
社内ポータルの知財チャット(社員)
   ▼【トリガー】質問の送信(社員の ID 付き)
中継プログラム(Python、Cloud Run)
   ├──▶ 質問の種類の判定 → 聞き返しの選択肢(相手先・秘密区分・目的・時期)
   ├──▶ 相手先の名寄せ → 秘密保持契約の台帳:有無・目的・期限
   ├──▶ 発表の日 → 事前審査の締め切りの日付
   ├──▶ 回す条件 → 知財部の待ち行列(締め切りの近い順)
   ▼
Agent Search(Vertex AI Search)── answer メソッド
   │  データストア:営業秘密の管理規程+秘密区分の取扱いの手引き
   │               +対外発表の事前審査の手順+過去の質疑
   │  絞り込み:doc_type/question_type/valid_from/valid_to
   ▼
中継プログラム ── 根拠の強さと、契約の確認の結果を見て返すか回すかを決める
   ├──▶ 回答・根拠・手続きの申請先を返す
   └──▶ 答えられない・回す条件 → 知財部の待ち行列
役割想定する製品代替候補
検索基盤Vertex AI Search(Agent Search)の answer メソッドAzure AI Search、Amazon OpenSearch Service
生成AIGemini(answer メソッドの回答の生成に使うモデル)─
連携中継プログラム(Python。Cloud Run で動かし、チャット・契約の台帳・検索・待ち行列をつなぐ)Node.js で同じものを書く
認証社内の ID 基盤(Microsoft Entra ID など。Workforce Identity Federation でつなぐ)Google の ID
契約の台帳既存の法務部の契約管理の台帳─

契約管理の台帳は、新しく足すものではありません。 中継プログラムは、相手先の名前で契約の有無・目的・対象の範囲・期限だけを読みます。契約書の本文は引きません。最初の準備は、規程と手引きに「どの区分の資料を、どの相手に、どの手続きで出せるか」を表に起こすことです。

検索の土台は、Agent Search(Vertex AI Search から改称中)の answer メソッドです。 検索の結果から回答を作り、出典を付けられます。公式のドキュメントでは、セッションを使った複数回のやり取りに対応し、質問の言い換えは既定で有効です。関係の薄い内容しか無いときに回答を作らない設定(ignoreLowRelevantContent)と、根拠の強さが閾値に届かない回答を落とす設定(groundingSpec の filteringLevel)があります。

規程の土台は、不正競争防止法の営業秘密の定義です。 同法は営業秘密を、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものと定めています。秘密として管理されていることが要件の一つなので、社員が手続きを経ずに資料を出すことは、その情報が営業秘密として守られるかどうかに関わります。このチャットの役割は、出す前の手続きに確実に乗せることです。

03どうやって実装するのか

Step1

処理の起点を決める

社員がチャットで質問を送ったことを起点にします。 社内ポータルに知財のチャットを置き、社員の ID を付けて中継プログラムに渡します。メールで届いた質問も、知財部の担当者がチャットへの案内を返す運用にし、入口を一つに寄せます。

資料を送る前に聞いてもらうことが目的です。 送った後に聞かれても、できることは限られます。社内ポータルの資料の置き場と、メールの送信の画面に「社外に出す前に知財チャットで確認」の案内を置きます。

回された質問には、締め切りがあります。 発表の質問なら事前審査の締め切り、資料の提供なら社員が書いた提出の予定日です。知財部の待ち行列は、この日付の近い順に並べます。

Step2

入力データを集める

データ中身取得元
質問本文、社員の ID と所属チャット
聞き返しの答え相手先、資料の秘密区分、目的、提出の予定日または発表の日チャットの選択肢
営業秘密の管理規程秘密区分の定義、区分ごとの社外への開示の手続き、承認者社内ポータル
秘密区分の取扱いの手引き区分ごとの表示、受け渡しの方法、開示の記録の付け方社内ポータル
対外発表の事前審査の手順申請の締め切り、審査する内容、申請の窓口社内ポータル
秘密保持契約の台帳相手先、目的、対象の情報の範囲、期限、双方向か片方向か法務部の契約管理の台帳
過去の質疑知財部が答えた質問と回答(知財部が公開してよいと決めたもの)知財部の記録

質を決めるのは、規程と手引きの「区分ごとの手続きの表」です。 規程が文章だけで書かれていると、どの区分の資料をどの相手に出すときにどの手続きが要るかが、検索で一つの箇所に当たりません。区分(3つ)×相手(顧客・共同研究先・仕入先・展示会や論文)の表にしておくと、回答の根拠がその表の1行になります。

過去の質疑は、知財部が選んだものだけを入れます。 個別の相手先や未発表の技術が書かれた質疑を入れると、ほかの社員の質問の回答に、その内容が根拠として出ます。

Step3

データの取得方法を決める

規程・手引き・事前審査の手順は、データストアに入れ、メタデータで絞り込みます。 公式のドキュメントでは、絞り込みは ANY() で値のいずれかとの一致を、<・<=・>・>=・= で数値や日時の比較を書け、AND/OR で組み合わせ、- か NOT で否定できます。日時は ISO 8601 の文字列で書きます。絞り込みに使う項目は、スキーマで索引可能にしておく必要があります。

メタデータ値の例使い方
doc_typerule/handbook/review_procedure/qa規程を先に、過去の質疑を後に
question_typeprovide/present/classification質問の種類で絞る
classificationtop_secret/confidential/internal資料の区分で絞る
valid_from/valid_to施行の日・廃止の日今日有効な版だけを使う

秘密保持契約の台帳は、データストアに入れません。 中継プログラムが、相手先の名前で台帳を引き、有無・目的・範囲・期限の4つだけを回答の材料にします。台帳をデータストアに入れると、ほかの相手先の契約の内容が検索の結果として出るおそれがあります。

相手先の名寄せは、台帳の側の別名の一覧で行います。 社員は「A社」「A社の研究所」「旧B社」などで書きます。台帳に正式な社名・略称・旧社名・グループ会社の別名の一覧を持たせ、中継プログラムがそこから引きます。一つに決まらないときは、選択肢で社員に選んでもらいます。

回答に使う検索結果の件数は、少なめに絞ります。 公式のドキュメントでは、answer メソッドが回答に使う検索結果は既定で10件、最大で25件です。規程・手引き・手順は合わせても数十の文書なので、件数を増やすと関係の薄い過去の質疑まで根拠に混ざります。 規程と手引きを先に、過去の質疑を後に並べるため、doc_type で絞った検索を2回に分けることも考えます。

聞き返しの往復は、同じセッションで続けます。 前の回の応答に含まれるセッションの ID を次の質問に付けると、会話の続きとして扱われます。相手先と区分を聞き返した後の答えが、最初の質問とつながった形で検索に渡ります。

Step4

AIへ渡す前に整形する

  1. 質問の種類を判定する … 資料の提供、発表、区分の扱いのどれかを決めます。決まらなければ選択肢で聞き返します
  2. 足りない情報を聞き返す … 相手先、資料の秘密区分、目的、予定日のうち、書かれていないものを選択肢で聞きます
  3. 相手先を名寄せする … 台帳の別名の一覧で正式な相手先に寄せます
  4. 契約を確かめる … 有無・目的・範囲・期限を引き、有効/期限切れ/目的が違う/無し のどれかにします
  5. 締め切りを計算する … 発表の日から事前審査の締め切りの日付を出し、過ぎていれば回す条件にします
  6. 個人の情報と技術の中身を外す … 質問の本文に書かれた未発表の技術の詳細は、検索に渡す前に「(技術の内容)」に置き換えます

2番目で、区分を自由記述にしないでください。 「たぶん社外秘」と書かれても判定できません。「資料に付いている表示を選んでください:極秘/社外秘/社内限り/表示が無い」と選択肢で聞きます。表示が無い資料は、それだけで回す条件にします。区分の付け忘れは、規程の上でいちばん危ない状態だからです。

6番目は、知財のチャットに技術の中身を書かせないためです。 社員は丁寧に、発表しようとしている技術の詳細を書いてきます。チャットの記録に未発表の技術が残るので、検索に渡す前に置き換え、元の本文は知財部だけが見られる記録に分けます。

Step5

AIに処理させる

回答を作るのは answer メソッドで、中継プログラムが前処理の結果を前置きの指示として渡します。

質問の種類答えること回す条件
資料の提供区分と相手に当たる手続き、承認者、開示の記録の付け方極秘、契約が無い・期限切れ・目的が違う、区分の表示が無い
発表事前審査の申請の締め切りの日付、申請の窓口、審査で見る点締め切りを過ぎている、未出願の技術が含まれると社員が答えた
区分の扱い区分の意味、表示の付け方、受け渡しの方法区分を付け直したい、区分の判断を求められた
させないこと理由
「出してよい」と答える承認は規程で決めた承認者が行う
契約の有無の推測台帳の値で決まる事実
資料の区分の判断区分を付けるのは作成者と承認者
規程に無い例外の案内例外は知財部が決める
未出願の技術を発表してよいかの判断知財部の判断。出願の要否に関わる

1行目がこの構成のいちばん大事な線引きです。 社外秘の資料で、有効な契約がある相手なら、規程の上では手続きを踏めば出せます。それでもチャットが「出してよい」と書けば、社員は承認の申請を飛ばします。 答えるのは「出すための手続き」までです。

Step6

指示内容を固定する

あなたは知財部の窓口として、社員からの「社外に出してよいか」
「発表してよいか」の質問に答えます。検索結果の規程・手引き・
手順だけを根拠にしてください。

【質問の種類】{question_type}
【資料の秘密区分】{classification}
【相手先】{counterparty}
【秘密保持契約の確認結果】{nda_status}(プログラムが台帳から引いた値)
  有効/期限切れ/目的が違う/無し
【予定日】{planned_date}  【事前審査の締め切り】{review_deadline}

【答え方】
1. 最初に、この質問に当たる手続きの名前を書く
2. 手続きの順序を番号付きで書く(申請の窓口、承認者、開示の記録)
3. 根拠にした規程の条と手引きの箇所を示す
4. 発表なら、事前審査の締め切りの日付を書く

【厳守事項】
- 「出してよい」「問題ない」と書かないでください。
  「規程では、次の手続きを経て出すことになっています」と書いてください。
- 秘密保持契約の有無は、渡した確認結果だけを使ってください。
  あなたが契約の有無を推測しないでください。
- 資料の区分を判断しないでください。区分は社員が答えた値を使ってください。
- 規程に根拠が見つからないときは、答えずに
  「知財部の担当者に確認します」とだけ書いてください。
- 規程に書かれていない例外や、抜け道を案内しないでください。
- 未出願の技術を発表してよいかには答えないでください。

「出してよいと書かない」を明記しないと、必ずそう書きます。 社外秘・有効な契約・目的が一致、という条件がそろえば、規程を読む限り出せるからです。手続きを経て出す、という書き方に言い換えさせることで、承認の申請が省かれないようにします。

「抜け道を案内しない」も同じ理由です。 社員は「区分の表示を外して渡せばよいか」と聞いてくることがあります。規程の文言の隙間を答えに使わせず、そうした質問は知財部へ回します。

この指示は、answer メソッドの promptSpec の preamble に入れます。 公式のドキュメントでは、前置きの指示で回答の口調・文体・長さを調整できるとされています。

Step7

出力形式を固定する

中継プログラムは、次の形にまとめてチャットに返し、記録にも残します。

{
  "session": "projects/.../sessions/...",
  "question_type": "provide",
  "classification": "confidential",
  "counterparty": { "input": "A社の研究所", "resolved": "A株式会社", "nda_status": "有効",
                    "nda_purpose": "共同研究", "nda_expiry": "2027-03-31" },
  "answer": "",
  "citations": [{ "doc": "営業秘密管理規程", "section": "第12条" }],
  "grounding_score": 0.0,
  "routed": false,
  "route_reason": "",
  "deadline": "2026-10-20"
}

1つ目の理由は、nda_status を回答の外に置けることです。 契約の確認の結果は、生成AIが書いた文章の中ではなく、プログラムが引いた値として別の項目に残ります。 後から「チャットは契約があると言った」と問題になったとき、どの値で答えたかが確かめられます。

2つ目は、grounding_score で返すか回すかを機械的に決められることです。 answer メソッドは、回答の文ごとと回答全体の根拠の強さを返せます。閾値に届かない回答は、filteringLevel を FILTERING_LEVEL_HIGH にすると返らず、根拠が弱いために答えなかった理由(LOW_GROUNDED_CONTENT)が返ります。関係のある内容が無いときは NO_RELEVANT_CONTENT です。どちらも、知財部へ回す条件にします。

3つ目は、route_reason で回した理由を残せることです。

route_reason知財部がすること
top_secret極秘の資料の開示。原則として知財部と事業部の責任者で判断
no_nda/nda_expired/purpose_mismatch契約の締結・更新・範囲の見直しを法務部と調整
no_label区分の表示が無い資料。作成者に区分を付けてもらう
deadline_passed事前審査の締め切りを過ぎた発表。審査を急ぐか、内容を絞るか
low_grounded/no_relevant規程に根拠が見つからない。規程と手引きの不足として記録
Step8

システムへ連携する

つなぎ先方式内容
社内ポータルのチャット中継プログラムの API質問を受け取り、回答と選択肢を返す
契約管理の台帳読み取り相手先ごとの契約の有無・目的・範囲・期限
Agent Searchanswer メソッド規程・手引き・手順から回答を作る
知財部の待ち行列中継プログラムから登録回す質問を締め切りの近い順に並べる
事前審査の申請の仕組み申請の画面へのリンク回答から申請に進めるようにする

契約管理の台帳には書き込みません。 契約が無い、期限が切れていると分かっても、締結や更新の手続きは法務部がこれまでどおり行います。

データストアの閲覧の範囲は、作成のときに決めます。 公式のドキュメントでは、データソースのアクセス制御はプレビューの機能で、データストアを作るときにしか設定できず、後から有効にも無効にもできません。 知財部の内部の運用メモを同じデータストアに入れるなら、作る時点で閲覧の範囲を設定します。Microsoft Entra ID などの社内の ID 基盤は、Workforce Identity Federation でつなげます。

Step9

人が確認する

チャットの回答は、社員にそのまま返します。 知財部が確かめるのは、回された質問と、回答の記録の抜き取りです。

  1. 回された質問に答える … route_reason を見て、締め切りの近い順に答えます
  2. 毎週、回答の記録を抜き取って読む … 返した回答から20件を選び、「出してよい」と読める書き方が無いかを確かめます
  3. low_grounded と no_relevant を数える … 規程に根拠が見つからない質問が多い分野は、規程と手引きに書き足す候補です
  4. 規程を改定したら、版を差し替える … valid_to を付けて古い版を絞り込みから外します

2番目を省かないでください。 指示で禁じていても、言い換えで「出して差し支えありません」のような書き方が出ることがあります。見つけたら前置きの指示に例として書き足します。

目標は、1件6分です。 200件をならした時間で、チャットだけで終わる質問はほとんど時間がかからず、回された質問に知財部が答える時間と、抜き取りの確認の時間がここに入ります。

Step10

例外に対処する

起きること対応
相手先が台帳で一つに決まらない候補を選択肢で出し、社員に選んでもらう
相手先が台帳に無いno_nda として回す。「契約が無い」と断定せず「台帳で見つからない」と伝える
区分の表示が無い資料no_label として回す
発表の日が締め切りを過ぎているdeadline_passed として回し、社員にはすぐに知財部から連絡が来ると伝える
質問が知財と関係ない窓口の一覧を返して終える
同じ社員が言い換えて何度も聞く3回目で知財部に回す
答えが規程の改定の前後で変わる今日有効な版だけを使い、改定の予定があれば知財部に回す
検索が応答しない「知財部の担当者に確認します」と返し、待ち行列に入れる

2行目の書き方に注意してください。 台帳に無いのは、契約が無いからとは限りません。グループ会社の名前で結んでいる、社名が変わった、台帳への登録が遅れていることもあります。「台帳で見つからない」と伝え、法務部が確かめます。

Step11

記録を残す

  • 質問の本文(技術の内容は置き換えた後のもの)と、聞き返しの答え
  • 相手先の名寄せの結果と、契約の確認の結果
  • answer メソッドに渡した絞り込みと前置きの指示、返ってきた回答と引用・根拠の強さ
  • 回した質問と route_reason、知財部の回答
  • 抜き取りで見つけた不適切な書き方と、指示の修正
  • 規程に根拠が見つからなかった質問の分野別の件数

最後の行が、規程を良くする材料になります。 社員がどこで迷っているかが、毎月の件数として見えます。同じ分野の質問が続くなら、規程か手引きにその場面の手続きが書かれていません。 書き足せば、回される質問がその分減ります。

04実装レベルの3段階

最小構成:規程と手引きを手でAIの画面に渡し、質問ごとに手続きを答えさせる / 1件ごとの手続きの案内
半自動化:上記+規程をデータストアに入れ、知財部の担当者が回答の下書きとして使う / 規程の検索と回答の下書き
本格構成:上記+社員が直接チャットで聞き、契約の確認と締め切りの計算を付けて答え、回す条件で知財部へ回す / 聞き返し・契約の確認・回答・振り分け

半自動化で、②と④の時間が減ります。 規程を探して返信を書く作業は下書きになりますが、聞き返しと契約の確認は担当者の手で残ります。 本格構成で、ここまでをチャットで行い、1件6分にします。この段階が本記事の想定です。 段階を飛ばさないでください。 半自動化で知財部の担当者が下書きを3か月使うと、どの質問で下書きが外れるかが分かります。そこを回す条件にしてから社員に開くほうが、誤った回答が社員に届く件数が減ります。

05工数削減シミュレーション

前提値(モデル条件)
対象人数
5 名
月間件数
200 件
1件あたり現在時間
15 分
1件あたり導入後時間
6 分
現在  200件 × 15分 ÷ 60 = 50 時間/月
導入後 200件 × 6分 ÷ 60 = 20 時間/月
月間削減時間
30h
削減率
60%
年間削減時間
360h
年間金額換算(時間単価4,500円)
162万円
モデル条件による試算であり、実際の効果は業務内容・運用方法によって異なります。

自社条件で導入効果を整理したい方へ

このユースケースを自社に当てはめた場合の前提値と削減見込みを、業務ヒアリングをもとに整理します。

AI活用について相談する

06向いている企業・向いていない企業

向いている
  1. 研究開発と技術営業の部門を持ち、顧客・共同研究先・仕入先との資料のやり取りや、展示会・論文・学会での発表が日常的にある企業。営業秘密の管理規程と秘密区分(極秘・社外秘など)を定め、対外発表の事前審査の手順もあるのに、社員が規程を読まずに知財部へメールや電話で聞いている場合。秘密保持契約の一覧を知財部か法務部が管理していて、相手先ごとに契約の有無と期限を毎回調べている場合。
向いていない
  1. 社外に出す資料がほとんど無く、問い合わせが月に数件しか無い場合。営業秘密の管理規程や秘密区分の決まりが無く、扱いを担当者が毎回決めている場合(根拠にする文書が無いので、まず規程を整えるのが先です)。資料を出してよいかの最終判断をAIに任せたい場合(この構成は規程と契約の一覧の該当箇所を示して手続きに乗せるだけで、出してよいかの承認は規程で決めた承認者と知財部が行います)。

07最小構成で試す方法

  1. 先月知財部に届いた質問から30件を選ぶ(うち数件は、極秘の資料や契約の無い相手など、回すべきものを入れる)
  2. 営業秘密の管理規程、秘密区分の取扱いの手引き、事前審査の手順を、手元のAIサービスに渡す
  3. 30件の質問を1件ずつ入れ、「規程と手引きだけを根拠に、手続きを番号付きで答えてください。出してよいとは書かないでください。根拠が無ければ答えないでください」と指示する
  4. 秘密保持契約の有無は、担当者が台帳で引いた結果を質問に書き足して渡す
  5. 出てきた回答を、知財部が実際に返した回答と突き合わせる

30件は必ずやってください。 仕組みを作る前に、「規程と手引きだけで答えられる質問がどれだけあるか」を確かめます。

出てきた内容判断
知財部の回答と同じ手続きが出たデータストアと中継プログラムに進む
手続きは出るが、根拠の箇所があいまい規程に区分ごとの手続きの表が無い。表を作るのが先
回すべき質問に答えてしまった指示と回す条件の作り方で直る。構成は有効

2行目が出ることは珍しくありません。 失敗ではなく、知財部の担当者が規程の行間を読んで答えていたことが分かったということです。 区分×相手の手続きの表を作り、規程に添えてからもう一度試してください。

08実装時につまずきやすいポイント

問題対策
「出してよい」と答えてしまう前置きの指示で禁じ、毎週の抜き取りで言い換えを探す
相手先と区分が分からないまま答える聞き返しを必須にし、選択肢で聞く
契約の有無を文章から推測する台帳はデータストアに入れず、プログラムが引いた値だけを渡す
相手先が台帳で見つからない別名の一覧を台帳に持たせる。見つからないことを「契約が無い」と書かない
規程の改定前の版で答えるvalid_from/valid_to で今日有効な版に絞る
根拠の弱い回答が返るfilteringLevel を高くし、落ちた回答は知財部へ回す
閲覧の範囲を後から付けたくなるアクセス制御はデータストアを作るときにしか設定できない
未発表の技術がチャットの記録に残る検索に渡す前に置き換え、元の本文は知財部だけの記録にする
抜け道を聞かれて答える規程に無い例外を案内させず、知財部へ回す

上の2行が、この構成の失敗のほとんどです。 どちらも、社員が「出してよい」と受け取る回答から起きます。規程の一般論を返すのではなく、相手と区分を確かめたうえで手続きを返すことが、この構成の存在理由です。

7行目は、後から気づくと作り直しになります。 最初は規程だけを入れるつもりでも、後から知財部の内部の運用メモを入れたくなることがあります。閲覧の範囲を分ける必要が出そうなら、最初から設定しておきます。

09セキュリティ・AIガバナンス上の注意点

この構成で扱うデータ: 営業秘密の管理規程と手引き、秘密保持契約の相手先・目的・期限、社員の質問(相手先の名前や、発表しようとしている技術の内容が書かれることがある)です。

  1. チャットは承認を出さない … 回答は手続きの案内までで、資料を出してよいかの承認は、規程で決めた承認者と知財部が行います
  2. 秘密保持契約の台帳をデータストアに入れない … 契約の相手先と目的の一覧は、それ自体が取引の情報です。中継プログラムが1件ずつ引き、必要な4項目だけを使います
  3. 未発表の技術を記録に残さない … 質問の本文の技術の詳細は置き換え、元の本文は知財部だけが見られる記録に分けます
  4. 営業秘密としての管理を弱めない … 営業秘密は秘密として管理されていることが要件の一つです。チャットの回答が手続きを省く方向に働けば、管理そのものを弱めます
  5. 社員の利用に限る … このチャットは社員が使うもので、社外の人には開きません

誤りが起きた場合のリスクは、手続きを経ずに資料が出ることと、契約の無い相手に契約があると伝えることの2つです。 前者は「出してよい」と書かせない指示と抜き取りの確認で、後者は契約の確認をプログラムに置くことで防ぎます。どちらも、生成AIに判断させない部分を先に決めることで守ります。

10まず何から始めるか

1週目:手続きの表を作る

営業秘密の管理規程と手引きから、区分(極秘・社外秘・社内限り)×相手(顧客・共同研究先・仕入先・展示会や論文)の手続きの表を作ります。承認者、開示の記録の付け方、申請の窓口を1行ずつ埋めます。

2週目:30件で試す

先月の質問から30件を選び、規程と表を手元のAIサービスに渡して答えさせます。知財部が返した回答と突き合わせ、「出してよい」と書いていないかを最優先で見ます。

3週目:回す条件を決める

極秘、契約の状態、区分の表示の無い資料、締め切りを過ぎた発表、根拠が見つからない質問を、どこまで回すかを知財部で決めます。 あわせて、法務部と台帳の別名の一覧の作り方を決めます。

4週目:データストアを作る

規程・手引き・事前審査の手順をデータストアに入れ、閲覧の範囲を作るときに設定します。この時点では社員に開かず、知財部の担当者が回答の下書きとして使います。

2か月目: 中継プログラムで聞き返し・契約の確認・締め切りの計算を足し、研究開発の一部門に開きます。3か月目以降: 回された質問の理由と、根拠が見つからなかった質問の分野を毎月数え、規程と手引きを書き足します。1件15分が何分になったかを実測した時点で、この構成は完成です。


11関連ユースケース

12この仕組みを理解するための記事

13技術仕様の確認日・参考情報

技術仕様確認日:2026-10-08/最終更新:2026-10-08
確認した内容情報源確認日
Vertex AI Search が Agent Search へ改称中であること。answer メソッドがセッションによる複数回のやり取りに対応し、質問の言い換えが既定で有効なこと。includeCitations、ignoreLowRelevantContent、promptSpec の preamble で口調・文体・長さを調整できること。検索結果の件数が既定10件・最大25件であること。セッションの ID を付けて会話を続けられること。groundingSpec の filteringLevel(FILTERING_LEVEL_LOW/FILTERING_LEVEL_HIGH)、includeGroundingSupports で文ごとと回答全体の根拠の強さが返ること。回答しなかった理由 NO_RELEVANT_CONTENT・LOW_GROUNDED_CONTENTGoogle Cloud: Get answers and follow-ups2026-10-08
絞り込みの ANY()、<・<=・>・>=・= の比較、AND/OR、-/NOT の否定。日時を ISO 8601 の文字列で書くこと。項目を索引可能にする必要があることGoogle Cloud: Filter search for structured or unstructured data2026-10-08
データソースのアクセス制御がプレビューの機能であること。データストアの作成時にしか設定できず、後から有効・無効を切り替えられないこと。Microsoft Entra ID などを Workforce Identity Federation でつなげることGoogle Cloud: Set up data source access control2026-10-08
不正競争防止法第2条第6項(営業秘密は、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの)。2026年5月21日施行の改正を反映した版e-Gov 法令検索 法令API: 不正競争防止法2026-10-08

資料を社外に出してよいか、発表してよいかの判断は、自社の営業秘密の管理規程と承認者、知財部の判断、必要に応じて弁護士・弁理士の助言に従ってください。 本記事は Google Cloud と e-Gov 法令検索で確認できた範囲だけを扱っています。

実装ステータス:構成例。 公開仕様に基づいて設計した構成であり、当社で実際に構築・検証したものではありません。工数の数値はモデル条件による試算です。

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