【2026年】AIの利用を内部統制に組み込む|3つの防衛線で分ける

【2026年】AIの利用を内部統制に組み込む|3つの防衛線で分ける

金融庁が2026年3月に公表したAIディスカッションペーパー(第1.1版)では、アンケートに答えた130社のうち9割以上が、従来型のAIまたは生成AIを何らかの形で活用していました。使うこと自体は、もう例外ではありません。「利用規程は作りました。ただ、監査で何を見せればいいのかが決まっていません」「AIの委員会を新設すべきか、既にある会議体に載せるべきか迷っています」——ここから先で止まる会社が増えています。止まる理由は、AIのための新しい枠を作ろうとして、既にある内部統制の枠との関係が決まらないことにあります。この記事では、AIの利用を三線モデルのどこに割り付け、線ごとに何を証跡として残すかを整理します。


カメ先生カメ先生

AIのために新しい統制を作らないといけない、と思われがちだけれど、実は割り付ける先はもう決まっているんだ。


カメ子カメ子

もう決まっている、というのはどういうことでしょうか。


カメ先生カメ先生

内部統制の実施基準には、体制整備の考え方として3線モデルが例示されている。現場、管理部門、内部監査の3つだね。AIの利用も、この3つのどれが持つのかを決めるところから始まる。


カメ子カメ子

新しい枠を足すのではなく、既にある枠のどこに入れるかを決めるんですね。


この記事のポイント
  • AIのために統制の枠を新設すると、既存の枠と二重になって、どちらも形だけになる
  • 三線モデルは2023年4月の基準改訂で実施基準に例示され、2024年4月1日以後開始する事業年度から適用されている
  • 内部監査が見るのは出力の巧拙ではなく、一線と二線が決めたとおりに動いたかどうか。だから証跡の様式を先に決める

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目次

数字:使っている会社は多い。割り付けが済んだ会社は少ない

最初に現在地を数字で確かめます。金融庁のAIディスカッションペーパー第1.1版は、2024年10月3日から11月15日にかけて実施したアンケートを土台にしており、合計130社から回答を得ています。回答した先の内訳は、約4割が預金取扱金融機関、次いで金融商品取引業者と保険会社がそれぞれ1割強で、この3業態で約7割を占めます。そして回答先のうち9割以上が、従来型のAIまたは生成AIを何らか活用していました

同じ調査は、課題の側も拾っています。約半数が「モデル構築等のために十分な学習データの確保」と「学習データの品質管理」を課題として挙げました。ガバナンスの構築に向けた取組状況の設問では、専担組織の設置、一定の権限と責任を有する上級管理職を定めること、関連部署間の連携強化といった項目が並びます。並んでいるのはどれも「体制を新しく作る」方向の項目で、既にある統制の枠のどこに置くかという問いは、設問の側にも出てきません。

金融機関の調査ではありますが、悩みの形は業種を問いません。同じ文書には、AIガバナンスについて「攻めと守りのバランスが難しい」「生成AIは汎用性が高くサービスが画一的ではないために統制が難しい」というAI特有の課題を挙げる先が多く、従前のガバナンス及びリスク管理の枠組みの適用を基本としつつもという記述が続きます。従来の枠を基本にする、という前提はここで一度確認しておく価値があります。

2023年の改訂で、三線モデルは基準の側に書き込まれた

その従来の枠のほうを見ます。企業会計審議会は2023年4月7日に「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について」という意見書を公表しました。改訂された基準と実施基準は、2024年4月1日以後に開始する事業年度における評価及び監査から適用されています。内部統制報告制度そのものは2008年4月1日以後開始する事業年度から適用されており、15年余りを経ての大きな改訂でした。

この改訂で追加された記述の1つが、内部統制とガバナンス及び全組織的なリスク管理の関係です。実施基準は、これらは一体的に整備および運用されることが重要だとしたうえで、体制整備の考え方として三線モデルを例示しました。原文の定義はこうです。第1線を業務部門内での日常的モニタリングを通じたリスク管理、第2線をリスク管理部門などによる部門横断的なリスク管理、第3線を内部監査部門による独立的評価とし、組織内の権限と責任を明確化しつつ、取締役会または監査役等による監督・監視と適切に連携させる

重要なのは、ここにAIという言葉が1つも出てこないことです。それでも割り付け先としては十分に機能します。AIの利用は新しい業務ではなく、既にある業務の中で道具が変わった状態だからです。三線モデルは道具ではなく機能の分け方なので、道具が変わっても線の引き方は変わりません。なお、この考え方の元になっている三線モデルは、内部監査人協会が2020年7月に、従来の3つのディフェンスラインを改めたものとして公表しています。

実施基準の「ITへの対応」に、委託先の統制が入っている

もう1つ、同じ改訂で押さえておきたい記述があります。内部統制の基本的要素は、統制環境、リスクの評価と対応、統制活動、情報と伝達、モニタリング、ITへの対応の6つですが、このうち「ITへの対応」の説明が改訂で厚くなりました。ITの委託業務に係る統制の重要性が増していること、そしてクラウドやリモートアクセス等を活用するにあたり、サイバーリスクの高まり等を踏まえた情報システムに係るセキュリティの確保が重要であることが明記されています。

同じ実施基準は、組織が考慮すべきIT環境の項目として5つを挙げています。社会および市場におけるITの浸透度、組織が行う取引等におけるITの利用状況、組織が選択的に依拠している一連の情報システムの状況、ITを利用した情報システムの安定度、そしてITに係る外部委託の状況です。外部の生成AIサービスを使うことは、5つ目の外部委託の状況に素直に収まります。新しい分類を発明する必要はありません。

あわせて、改訂の趣旨として書かれた一文も実務上の効き目があります。ITへの対応を基本的要素に加えたことは「組織に新たなITシステムの導入を要求したり、既存のITシステムの更新を強いるものではない」。AIを導入したこと自体は統制上の問題ではありません。問題になるのは、導入したものが既存の枠の外に置かれ、誰の持ち分でもない状態で動き続けることのほうです。

新しい枠を作ると、二重になって両方が形だけになる

ここまでを踏まえると、最初に避けるべき失敗が見えてきます。AIのために独立した委員会や規程体系を新設することです。新設した直後は動きます。ところが半年もすると、既にあるリスク管理の会議体と議題が重なり、出席者もほぼ同じで、どちらか一方が形だけになります。形だけになるのはたいてい新設したほうです。

実際に起きるのは、こういう順番です。AI委員会が月次で開かれ、利用申請を審議する。同じ月に、情報システムの投資を審議する既存の会議が別に開かれる。現場から見ると申請先が2つあり、どちらに出せばよいか分からない。分からないので出さない。申請されない利用が増え、台帳と現実がずれ始めます。金融庁の文書も、従業員個人や業務部門が組織の許可を得ずに外部のAIサービスを使う状況が、情報漏洩や不正アクセスのリスクを増幅させる恐れがあると指摘しています。

新設が必要になる場面は限られます。既存の枠に、その決裁を行う階段がまったく無い場合だけです。多くの会社では、情報システムの導入審査、外部委託の審査、個人情報の取扱いの審査という3つの階段が既に存在します。AIの利用申請は、この3つのどれに載せるかを決めるだけで足りることがほとんどです。載せる先を決めた紙を1枚作り、現場に配る。これが最初の一手になります。

第一線が持つのは、使い方と一次確認

線ごとの持ち分に入ります。第一線は業務部門です。実施基準の言葉では、業務部門内での日常的モニタリングを通じたリスク管理にあたります。日常的モニタリングとは、内部統制の有効性を監視するために、経営管理や業務改善等の通常の業務に組み込まれて行われる活動を指します。別の作業を足すのではなく、いまやっている作業の中に確認を組み込むという意味です。

AIの利用に置き換えると、一線の持ち分は4つになります。どの業務でどう使うかを決めること、入力してよい情報かどうかをその場で判断すること、出力を一次確認すること、気づいたことを二線へ報告すること。このうち3つ目でよく失敗が起きます。全件を確認する運用にすると、必ず崩れます。範囲を先に絞ります。外に出るもの、数字が入るもの、人の評価に関わるものの3つに限る、といった形です。

残す記録は最小限で構いません。確認した人、日付、対象、直した箇所の4欄です。実施基準は、業務を遂行する部署自身による自己点検は「それのみでは独立的評価とは認められない」としつつ、内部統制の整備および運用状況の改善には有効であり、独立的評価を有効に機能させることにもつながると書いています。一線の記録は、三線が見に来たときの出発点になります

第二線が持つのは、線引きと事前審査

第二線は管理部門です。実施基準の言葉では、リスク管理部門などによる部門横断的なリスク管理にあたります。部門横断という点が要点で、部署ごとに基準がばらつくことを防ぐのが二線の役目です。AIの利用でいえば、入れてよい情報の区分の定義、使ってよいサービスの認定、高リスクな用途の事前審査、規程と教育、そして事故の受付が持ち分になります。

金融庁の文書には、実務がどう形を取り始めているかが具体的に書かれています。社内の業務効率化などリスクの低いAIの利用については、チェックリストに基づく現場判断に委ねる。一方で、顧客向けにAIを活用するようなリスクの高い利用については、専門部署で事前審査を行う。低いほうは一線に渡し、高いほうだけ二線が持つという切り方です。全部を二線が審査する形にしないところが、この事例の肝になります。

出力の確かめ方についても記述があります。出力データの検証・評価に係る仕組みや手法、ルールを第1線と第2線が連携して策定し、企画・開発の段階で検証したうえで、運用の段階では人の目とシステムの双方で常時モニタリングする態勢の構築を検討している、という事例です。物差しは二線が作り、当てるのは一線。この分担であれば、二線の人数が増えなくても回ります。

第三線が持つのは、決めたとおりに動いたかの検証

第三線は内部監査部門です。実施基準の言葉では独立的評価にあたります。独立的評価とは、日常的モニタリングとは別個に、通常の業務から独立した視点で、定期的または随時に行われる内部統制の評価を指します。ここで最も誤解されやすいのが、三線がAIの出力の良し悪しを判定する役だと思われることです。三線が見るのは出力の巧拙ではありません

三線が確かめるのは3点です。一線が決めた確認の範囲どおりに確認が行われているか、二線の認定を経ていないサービスが使われていないか、そして記録が求めたときに取り出せるか。いずれも決めたことと実際の差を見る作業であり、AIの性能を評価する作業ではありません。性能の評価は二線が物差しを作る側の仕事になります。

同じ2023年の改訂では、内部監査人についての記述も追加されました。熟達した専門的能力と専門職としての正当な注意をもって職責を全うすること、そして取締役会および監査役等への報告経路も確保することの重要性が記載されています。経営者への報告経路だけでなく、取締役会と監査役等への経路も確保しておく。AIの利用のように経営が旗を振っている領域では、この二重の経路があるかどうかで指摘の通り方が変わります。

線が壊れる典型:二線が一線の仕事を肩代わりする

三線の分け方は、書いた直後はうまく動きます。壊れ方には型があるので、先に知っておくと持ちこたえます。最も多いのが、二線が一線の作業を引き受けてしまう形です。

  • 管理部門が出力の確認まで代行する——件数が増えて滞り、現場は申請せずに使い始める
  • 一線に線引きまで任せる——部署ごとに入れてよい情報の基準が変わり、後から揃えられなくなる
  • 三線にAIの評価を丸投げする——物差しが無いまま点検することになり、指摘が個人の意見に見える
  • 二線が認定したサービスの一覧を更新しない——現場は一覧に無いものを使い、台帳と現実がずれる
  • 一線の記録様式を決めずに「記録を残すこと」とだけ規程に書く——様式が無い記録は残らない

金融庁の文書には、この論点そのものが議論された跡が残っています。AIは技術の進展が速いため、案件の立ち上げの段階からシステム部門や管理部門が連携して取り組む一方で、リスク評価の観点から事業部門と管理部門をはっきり分けるべきかを論点として意識している、という紹介です。速く動くために近づけるほど、線は曖昧になります。近づけたうえで持ち分だけは書き分ける、というのが現実的な着地になります。

同じ場では、管理部門や内部監査部門のリスク感性は重要だが、リスクを最初に捉えるであろう事業部門のリスク感性を育てることが必要だという指摘も出ています。最初に気づくのは、いつも使っている人です。一線が気づいたことを二線に上げる経路が細いと、三線が来たときに初めて問題が表に出ます。

用途をリスクの高さで2段に分け、決める人を変える

線を引いたら、次は用途の振り分けです。段は2つで足ります。一線のチェックリストで進めてよいものと、二線の事前審査を通すもの。3段以上にすると、どちらとも言えない真ん中の区分に大半が寄り、結局は全部が審査待ちになります。2段にする代わりに、境目の書き方を具体にします

境目の判定軸は、デジタル庁が2026年6月に公表した生成AIの調達・利活用に係るガイドラインの2.0版が参考になります。高リスクかどうかの判定軸として、業務の性格、利用範囲、そして出力結果を人の判断を経てから使うかどうかの3つが示されています。民間に読み替えると、外に出るか、人の処遇や取引条件に関わるか、人が確かめてから使う工程があるか、の3問です。3問のうち1つでも当てはまれば二線の審査に回す、という単純な書き方で運用できます。

この2段は、内部統制の言葉でいえば統制の強弱を変えることにあたります。実施基準は評価範囲の決定について、例示されている「売上高等のおおむね3分の2」や「売上、売掛金及び棚卸資産の3勘定」を機械的に適用すべきでないと明記しました。重要性に応じて重さを変えるという考え方は、AIの用途の振り分けにもそのまま当てはまります。全部を同じ重さで扱うと、現場が止まるか、統制が形だけになるかのどちらかになります。

線ごとに残す証跡の一覧

持ち分が決まったら、線ごとに残す記録を決めます。ここを決めずに規程だけ作ると、監査の直前に記録を作り直すことになります。表の右端に「取り出す場面」を入れておくのが要点で、取り出す場面が思い付かない記録は、そもそも作らなくてよい記録です。

残す記録置き場所取り出す場面
第一線利用申請と承認、出力の確認記録、気づきの報告業務部門の共有簿内部監査、事故時の経緯確認
第一線入力してよい情報の判断に迷った事例業務部門の共有簿二線が区分を見直すとき
第二線サービスの認定記録と認定の条件管理部門の台帳取引先からの確認票への回答
第二線情報区分の定義とその改定履歴管理部門の規程集教育の内容を更新するとき
第二線高リスク用途の事前審査の判定と付けた条件管理部門の台帳内部監査、条件の再確認
第二線教育の実施記録と教えた内容の版管理部門の台帳内部監査、取引先への説明
第三線監査計画、調書、指摘と是正の追跡内部監査部門取締役会と監査役等への報告

この表で一番効くのは、第二線の3行目にある「付けた条件」です。事前審査は通ったか通らなかったかだけを記録しがちですが、実務では条件付きの承認がほとんどになります。人が確認してから外に出すこと、顧客名を入れないこと、といった条件を記録に残さないと、半年後には条件が無かったことになります。

置き場所を分けているのにも理由があります。三線が独立して評価するためには、一線と二線の記録を三線が編集できない場所に置く必要があるからです。同じ共有フォルダに全員の書き込み権限がある状態では、記録があること自体は示せても、後から直していないことは示せません。権限の設計は記録の設計と同時に決めます。

内部統制報告制度の範囲と、AIの利用が交わるところ

ここで境目を1つはっきりさせます。内部統制報告制度は金融商品取引法に基づく制度で、上場会社を対象に、財務報告の信頼性の確保を目的としています。2023年の改訂では内部統制の目的の1つである「財務報告の信頼性」が「報告の信頼性」に拡張され、組織内および組織の外部への報告(非財務情報を含む)の信頼性を確保することと定義されました。ただし意見書は、金融商品取引法上の内部統制報告制度はあくまで財務報告の信頼性の確保が目的であることを重ねて強調しています。

この区別が実務判断に効きます。マーケ部門が記事の下書きに生成AIを使っても、それだけでは制度の評価範囲には入りません。入るのは、決算の数字を作る工程にAIが触れたときです。仕訳の候補を出させる、集計表を作らせる、開示文書の草案を作らせる。AIが触れた工程を洗い出し、財務報告に効くものだけを制度の側に載せる。残りは全社のリスク管理として三線で受けます。この切り分けをしないと、すべてを制度の重さで扱うことになり、現場が動かなくなります。

制度の側に載せる場合の考え方も、既存の枠にあります。実施基準は、ITの統制を全般統制と業務処理統制に分け、経営者は両方を評価する必要があるとしています。全般統制の例として挙がっているのは、システムの開発・保守に係る管理、システムの運用・管理、内外からのアクセス管理などシステムの安全性の確保、そして外部委託に関する契約の管理の4つです。外部のAIサービスは4つ目の外部委託に関する契約の管理として整理できます

年に一度、この順で点検する

線と証跡が決まったら、点検の順番を固定します。年に一度、三線が回るときに使う項目です。順番に意味があり、上から順に見ていくと、下の項目で出た指摘の原因が上の項目に必ず見つかります。

  • 利用しているサービスの台帳と、請求の記録が一致しているか
  • 台帳の各行に、最終確認日が入っているか
  • 入れてよい情報の区分の定義が、既存の情報管理規程の言葉と揃っているか
  • 二線が認定していないサービスの利用が、この1年で発生していないか
  • 高リスクと判定された用途に、事前審査の記録と条件が残っているか
  • 一線の出力確認が、決めた範囲に対して実施されているか(全件確認になっていないか)
  • 確認記録の様式が使われているか。様式外の記録に置き換わっていないか
  • 退職者と異動者の権限が、規定の日数内に外れているか
  • 教育の記録に、教えた内容の版と日付が入っているか
  • 事故と相談の受付簿に、1件も記載がない状態になっていないか
  • 取締役会と監査役等への報告経路が、この1年で実際に使われたか
  • 前年の指摘に対する是正が、期日どおりに完了しているか
  • 受付簿が空欄なのは、事故が無いのではなく相談が上がっていない兆候として扱う
  • 台帳と請求の突合は、部署からの申告だけに頼らない。申告漏れは必ず出る
  • 評価の頻度について実施基準は、ITを利用した内部統制の評価を一定の頻度で行う場合も、特定の年数を機械的に適用すべきものではないとしている

12項目のうち、実際に指摘が集中するのは4番目と7番目です。認定していないサービスの利用は、二線の認定手続が重いときに必ず増えます。様式外の記録は、様式が実務に合っていないときに現れます。どちらも現場の規律の問題ではなく、二線が作った仕組みの側の問題として読むのが正しい読み方になります。

半年で線を引き直す段取り

最後に、着手から定着までの順番を置きます。人を増やさない前提で、半年を目安にした段取りです。最初の1か月で現況を掴み、次の2か月で持ち分と様式を決め、残りで動かして詰まりを見ます。

STEP1
契約の単位で使っているものを洗い出す(1か月)

部署からの申告と請求の記録の両方から寄せます。無料で使われているものが必ず出てくるので、申告した人を責めない運用にすることが要点です。

STEP2
既存の会議体のどこで決めるかを紙1枚で決める(2週間)

情報システムの導入審査、外部委託の審査、個人情報の取扱いの審査のどれに載せるかを決めます。新設は、どれにも載らないと分かった場合だけにします。

STEP3
線ごとの持ち分と証跡の様式を決める(1か月)

一線の確認記録、二線の認定と事前審査の台帳、三線の調書。様式を作らずに規程だけ書くと記録は残りません。置き場所と書き込み権限も同時に決めます。

STEP4
用途を2段に分ける判定の3問を配る(2週間)

外に出るか、人の処遇や取引条件に関わるか、人が確かめてから使うか。1つでも当てはまれば二線へ、という一文で現場に配ります。

STEP5
3か月動かし、二線の滞りを測る(3か月)

事前審査の待ち日数と、申請されずに使われていた件数の2つだけを測ります。待ち日数が伸びていたら、2段の境目を引き直します。

STEP6
内部監査の年度計画に1項目として載せる

独立した監査テーマにせず、既存のIT統制または外部委託の監査の中に1項目として入れます。単独のテーマにすると、翌年に落ちます。

この段取りで最も飛ばされやすいのが5番目です。動かした後に測らないと、二線に何件たまっているかが誰にも見えません。待ち日数が2週間を超えた時点で、現場は待たずに使い始めます。測る対象を2つに絞っておけば、月次の会議で1分あれば報告できます。

監査そのものをAIに任せない範囲を決める

三線の作業にAIを使う相談も増えています。使える場面は確かにあります。調書の下書き、記録どうしの突合、条件に合う件を抽出する作業。いずれも量が多く、人がやると見落としが出る作業です。ただし判定と結論は人が出します。抽出された件を見て、これは指摘に当たるかどうかを決めるのは監査人の仕事です。

線引きの理由は、独立性にあります。二線が使っている道具と同じ設定で三線が点検すると、同じ条件で見落としたものを同じ条件で見落とします。抽出の条件は三線が自分で書き、二線が使っている条件を流用しない。条件を流用した時点で、独立的評価であるという前提が崩れます。

もう1つ、根拠の扱いです。抽出や突合の結果には、どの記録のどの行を根拠にしたかを必ず出力させ、監査人がその行を開きます。開かない運用にするなら、根拠を出力させる意味はありません。この確認の手間を織り込んでも、対象が数千件を超える突合であれば人手より速く終わります。速さを取るために確認を省くと、監査の調書としての価値がなくなります。

ミニ用語解説:混ざりやすい言葉

最後に、社内の議論で混ざりやすい言葉を整理します。どれも似た場面で使われるため、同じ会議で別の意味で使われていることがあります。

言葉の使い分け
  • 内部統制と内部監査:内部統制は組織全体の仕組みそのもの。内部監査はその仕組みが機能しているかを独立した視点で評価する活動で、三線にあたる
  • 日常的モニタリングと独立的評価:前者は通常の業務に組み込まれて行われる活動、後者は業務から独立した視点で定期的または随時に行われる評価。実施基準はこの2つを区別している
  • 三線モデルと3つのディフェンスライン:内部監査人協会が2020年7月に後者を改め、防御線という表現をやめて三線モデルとした。線どうしが双方向につながる関係として整理し直されている
  • 全般統制と業務処理統制:前者は業務処理統制が有効に機能する環境を確保するもの。実施基準は、全般統制が有効でも業務処理統制が有効という結論には至らないと注意している
  • 内部統制報告制度と会社法上の内部統制:前者は金融商品取引法に基づき上場会社が対象で財務報告の信頼性が目的。後者は取締役会が決定する体制整備で目的の範囲が異なる

この中で実務の齟齬が起きやすいのは、1つ目と4つ目です。「内部統制を作る」という言い方が、実際には「内部監査の項目を増やす」を指していることがあります。仕組みを作る話と、確かめる話は別の会議で扱うと決めておくと、議論が噛み合います。

4つ目については、AIの利用で特に注意が要ります。使ってよいサービスを認定して権限を絞る作業は環境側の統制にあたり、それが整っていても、個々の業務で出力が正しく扱われているかは別の確認になります。認定したから安全、とは言えないという一文を、規程の解説に添えておくと現場の理解が揃います。

まとめ

AIの利用を統制に組み込む作業は、新しい枠を作る作業ではありませんでした。2023年4月7日の意見書で改訂された実施基準は、体制整備の考え方として三線モデルを例示しており、その基準は2024年4月1日以後に開始する事業年度から適用されています。第一線は使い方と一次確認、第二線は線引きと事前審査、第三線は決めたとおりに動いたかの検証。この3つに割り付けるところから始めれば、委員会を新設せずに済みます。

運用で効くのは、用途を低リスクと高リスクの2段に分けて決める人を変えること、線ごとに残す記録の様式と置き場所を先に決めること、そして年に一度、決まった順番で点検することでした。財務報告に効く工程だけを内部統制報告制度の側に載せ、残りは全社のリスク管理として受ける。監査そのものはAIに任せず、抽出と突合だけを任せて根拠の行を人が開く。線を引き直す作業は半年で終わりますが、続くかどうかは様式と点検の順番を決めたかどうかで決まります。

※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。

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