【2026年】AIでCMを作るときの線引き|広告主が手放さない判断

「生成AIで映像が作れるなら、CMの撮影も出演者もいらなくなるのでは」「話題になったAIのCMのように、うちも安く早く作れないか」。ブランドや宣伝の責任者から、こうした声が聞かれるようになりました。映像の生成が撮影前の工程を短くしているのは確かです。けれども、AIでCMを作るとは、撮影を丸ごと置き換えることではありません。本当は、どの工程をAIに寄せ、どの判断を広告主の手元に残すかを決める仕事です。この記事では、話題の事例を眺めるのではなく、広告主が制作会社や代理店に任せきりにできない判断を、工程ごとに整理します。
カメ先生CMは、企画、撮る前の試作、撮影、編集、音、放送前の確認と、いくつもの工程が重なってできているんだ。生成AIが入り込むのは、そのうちの一部なんだよ。
カメ子一部だけですか。出演者までAIで作ったCMが、もう放送されたと聞きましたが。
カメ先生姿や声をAIで作った例はある。でも、その出演者をどんな人物にするか、商品をどう見せるか、放送してよいかを決めたのは人なんだ。
カメ子では、広告主が手放してはいけない判断は、工程のどこに残るのでしょう。
- 撮る前の試作映像・背景の情景・版の作り分け・仮のナレーションはAIに寄せやすい。商品そのものの見え方は撮影に残す
- 架空の出演者と声の設計、似た作品の確認、放送するかの最終判断はAIに任せない。広告主が決める
- 使った生成AI・指示・素材の出所を制作の記録に残す。放送前の考査と、放送後の説明の両方で根拠になる
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この記事が扱うのは、広告主が決めること
生成AIを使ったCMの話題は、完成した映像の出来栄えに目が向きがちです。けれども広告主にとって大事なのは、その映像にたどり着くまでに、誰が何を決めたかです。制作会社や代理店に発注する立場でも、AIをどこに使うかの線を引くのは、最終的に広告の責任を負う広告主の側だからです。
ここで扱うのは、テレビで流すCMと、同じ素材をネット経由のテレビ枠や動画広告に流用する場合です。枠の買い方と効果の測り方は、ネット経由のテレビ広告を扱った別の記事に譲ります。また、広告制作全般の工程ごとの任せ方も別の記事で扱っているので、この記事ではCMに固有の判断、つまり撮影の代わりにしてよい所、出演者と声、放送前の確認に絞ります。
費用の話は、この記事では1段落にとどめます。生成AIで試作の回数を増やせば、撮影本番の段取りに迷いが減り、撮り直しの負担が下がることはあります。一方で、生成した映像の手直し、権利の確認、考査への備えに人の手間がかかるので、制作費が必ず下がるとは言えません。見積もりを比べるときは、AIで浮いた工程と、新しく増えた確認の工程を両方並べて見るのが実務的です。
もう1つ、この記事では「AIで作れるか」を問いません。技術的に作れるかどうかは、制作会社が判断できます。広告主が問うべきは、作れるとしても、その工程をAIに任せてよいかです。この問いは、制作会社の腕前とは別の軸にあり、ブランドの責任者が自分で答えを持っておく必要があります。
2026年の時点で、業界の決まりはどこまであるか
まず、放送の側の決まりから確かめます。日本民間放送連盟の放送基準(2023年5月改正・2024年4月施行の版)を読んだ範囲では、生成AIや合成映像を名指しした条文は見当たりません。一方で、視聴者に錯誤を起こさせるような表現をしないこと、虚偽の証言や、使った人の実際の見解でないもの、証言者が明らかでないものは取り扱わないこと、といった趣旨の条文があります。
つまり、AIで作ったこと自体が禁じられているわけではありませんが、AIで作った映像や人物が、錯誤や虚偽の証言にあたる使い方をすれば、従来の基準で問題になりうるということです。たとえば、実在しない人物に「使ってみて肌が変わった」と語らせる演出は、証言の扱いの条文との関係を考える必要があります。各局の考査がこれをどう判断するかは公開情報では確かめられなかったため、代理店を通じて放送局に事前に確かめる項目として扱うのが安全です。
広告を作る側の業界団体では、日本広告業協会が2024年5月にAIポリシーを公表しています。そこでは、なりすましや広告であることが分かりにくい表示のリスクを避けること、著作権への抵触リスクを理解したうえで使うこと、公平性のために人間の判断を介在させること、AIを使った事実を合理的な範囲で対外的に説明できるようにすることなどが挙げられています。
このポリシーは会員の広告会社に向けたものですが、広告主が発注条件を考えるときの物差しとしても使えます。制作会社に「この方針に沿って作ってください」と頼むだけでなく、方針の項目ごとに、どの工程で誰が確かめたかを答えられるかを聞いてみると、相手の備えの程度が見えてきます。
国内の先行例から読み取れること
国内でよく知られた例に、伊藤園のテレビCMがあります。AIタレント事業を手がける企業の発表によると、生成AIで作った人物が出演する第一弾は2023年9月に放映が始まり、2024年5月に発表された第二弾では、その人物の声もAI技術で生成されました。
この発表で注目したいのは、人物の作り方の説明です。先に「どんな人物像にするか」という定義を決め、AIが出力した候補の中から定義に近い像を選び、そのうえでデザイナーやクリエイターが微調整したと書かれています。AIは候補を出す役で、どの顔を出演者にするかを選んだのは人だったということです。
先行例から学べるのは、映像の技術よりも、この決め方の順番です。人物像の定義、候補の選定、仕上げの調整という3つの判断が、それぞれ人に残っていました。自社でAIのCMを検討するときも、誰がどの段階で人物や映像を選ぶのかを、発注の前に決めておくことが、最初の線引きになります。
なお、話題になった例をそのまま真似るのはおすすめしません。先行例は「日本で初めて」という話題性も含めて評価されました。同じ手法を後から使っても、同じ話題にはなりにくく、むしろ「なぜAIにしたのか」を問われる場面が増えます。自社で使う理由を、話題性以外の言葉で説明できるかを先に確かめてください。
工程を並べて、AIに寄せる所と残す所を分ける
線を引くには、CMの工程を並べて、1つずつ振り分けるのが確実です。下の表は、よくある工程を、AIに寄せやすい所と、人と撮影に残す所に分けた一例です。自社の商品や表現によって振り分けは変わるので、制作会社との最初の打ち合わせで、この表を叩き台にして埋めていくと話が早く進みます。
| 工程 | AIに寄せやすい所 | 人と撮影に残す所 |
|---|---|---|
| 企画 | 案の数を出す・参考表現の整理 | 伝える約束と、やらない表現の決定 |
| 撮る前の試作映像 | 動きとカット割りの試作を何本も作る | どの案で撮るかの決定 |
| 背景・情景 | 撮影が難しい景色や季節の映像 | 実在の場所・建物を映す判断 |
| 商品の見え方 | (寄せない) | 実物の撮影。色・形・大きさ |
| 出演者と声 | 候補の生成・声の試作 | 人物像の定義・選定・似ていないかの確認 |
| 音とナレーション | 仮のナレーションと音の試作 | 本番の声の決定と権利の確認 |
| 放送前の確認 | 確認項目の一覧の下書き | 考査への説明・放送するかの判断 |
表の中で、AIに寄せやすい所には共通点があります。後で人が選び直せる工程であることです。試作や候補は、たくさん作って捨てることに意味があるので、AIの速さが生きます。反対に、人と撮影に残す所は、一度世に出たら取り消せない判断や、実物との一致が求められる所です。
振り分けで迷ったら、「この工程の出力を、そのまま視聴者が見るか」を問いにします。視聴者が見ない試作や候補ならAIに寄せ、視聴者が見る完成品の中身なら、AIで作る場合でも人が選んで確かめる工程を必ず挟む。この問いで振り分けると、制作会社との間で線の位置が食い違いにくくなります。
AIに寄せる工程1:撮る前の試作映像
もっとも効果が出やすいのは、撮影の前に作る試作映像です。絵コンテだけでは伝わりにくい動きやテンポを、生成AIで短い映像にして確かめられます。社内の決裁者は、静止画の絵コンテより動く映像のほうが完成形を想像しやすく、承認の議論が具体的になります。
試作映像を使うときに決めておきたいのは、試作は「方向を決める材料」で、完成品の約束ではないという扱いです。生成した映像の雰囲気に決裁者が惚れ込むと、本番の撮影でその再現を求められ、かえって撮影が難しくなることがあります。試作を見せる場では、どこが本番で変わりうるかを先に伝えておきます。
試作の段階でも、実在の人物や他社の作品に似た映像が紛れ込むことがあります。社内の検討用だからと確認を省くと、その案が本番に進んだときに問題が表に出ます。試作を決裁の資料に使うなら、少なくとも候補として残す案だけは、似た作品がないかを人が見てから回すようにします。
絵コンテそのものの項目の決め方は、別の記事で扱っています。ここで押さえたいのは、試作映像をいくつ作るか、どの段階で1本に絞るかを、制作会社任せにしないことです。本数を広告主の側で決めておけば、試作が際限なく増えて判断が先送りになるのを防げます。
AIに寄せる工程2:背景の情景と、版の作り分け
撮影が難しい情景も、AIに寄せやすい工程です。季節が合わない景色、天候に左右される空、大がかりな美術が必要な空間などは、生成した映像を背景に使うことで、ロケの日程や費用の制約を外せます。ただし、実在する観光地や建物、他社の店舗と分かる場所を生成で作るのは避けます。
実在の場所を映すかどうかは、AIに判断させない項目です。生成した景色が、たまたま特定の建物や看板に似てしまうことがあるからです。背景に使う映像は、人が1コマずつではなくても、主要な場面ごとに見て、実在の場所や他社の標章が紛れていないかを確かめます。
もう1つの使いどころは、同じCMの長さ違いや、流す枠に合わせた版の作り分けです。テレビで流す長い版と、ネット経由のテレビ枠や動画広告で流す短い版では、冒頭の数秒の作り方が変わります。短い版をAIで複数作る考え方は、ネット経由のテレビ広告の記事で扱っているので、そちらを参照してください。
版を増やすほど、確認の手間も増えることは覚えておきます。版ごとに商品の見え方や表示が変わっていないか、注意書きが欠けていないかを確かめる必要があるからです。版の数は、確認できる人手から逆算して決めると、放送直前に確認が追いつかなくなる事態を避けられます。
AIに寄せる工程3:仮のナレーションと音
ナレーションと音楽も、試作の段階ではAIが役立ちます。台本の読み上げを合成音声で当てておけば、映像の尺と言葉の量が合っているかを早く確かめられます。仮の音楽を当てることで、決裁者が完成の雰囲気をつかみやすくなる点も、試作映像と同じです。
線を引くべきなのは、仮の声を本番に残すかどうかです。合成音声をそのまま本番に使う場合、使った音声サービスの規約で商用の放送が認められているか、声の元になった人の許諾がどうなっているかを確かめる必要があります。本番の声を決めるのは人で、仮当てのまま流れ込ませないよう、工程の区切りをはっきりさせます。
音楽も同様です。生成した楽曲が、既存の曲に似ていないかは、AI自身には確かめられません。旋律や印象が近い曲がないかを、音楽の分かる人が聞いて確かめる工程を置きます。心配な場合は、本番の音楽だけは作曲家に依頼するか、権利が明確な音源を使うのが確実です。
ナレーション原稿の書き方や、読み上げ音声を使うときの注意は、動画のナレーションを扱った別の記事に詳しくまとめています。CMでは、それに加えて放送の考査が入るので、声の出所を説明できる状態にしておくことが、他の動画より重く求められます。
撮影に残す工程1:商品そのものの見え方
人と撮影に残す工程の筆頭は、商品そのものです。色、形、大きさ、中身の量、使ったときの変化など、視聴者が買うかどうかを決める要素は、実物を撮影して見せるのが原則です。生成AIで作った商品の映像は、実物より美しく、あるいは実物と微妙に違う形で描かれることがあります。
これは放送基準の「錯誤を起こさせる表現」との関係で問題になりえます。実物と違う見え方の映像を流せば、意図がなくても視聴者の誤解を招くからです。商品の映像を生成で作るかどうかはAIに判断させず、作る場合は実物との違いを人が並べて確かめ、違いが残るなら撮影に戻すと決めておきます。
効果や使用感を映像で表すときは、さらに慎重になります。使う前と後の変化、料理の湯気や食感、機械の動作などは、生成で作ると実際より大きく見せてしまいやすい部分です。変化を表す場面は、実際に撮れた映像を基本にし、生成で補うなら画面の中でその旨が伝わる工夫を考えます。
法人向けの製品でも事情は同じです。操作画面や装置の動き、導入後の現場の様子をAIで描くと、実際の製品にない機能があるように見えることがあります。製品の担当者に完成映像を見せ、実際にできないことが映っていないかを確かめてもらう工程を、放送前の確認に必ず入れます。
撮影に残す工程2:架空の出演者と声
生成AIで作った架空の出演者は、実在のタレントと違い、契約の期間や本人の不祥事に左右されないという利点があります。一方で、架空だからこそ、人が決めなければならないことが増える点に注意が要ります。どんな人物像にするか、どの候補を選ぶか、実在の人に似ていないかを、誰かが判断しなければならないからです。
人物像の定義は、ブランドの責任者が持ちます。年齢や雰囲気の設定は、そのまま「この会社は誰を理想の顧客と見ているか」の表明になります。日本広告業協会のポリシーが公平性や偏見への配慮を挙げているように、AIが出した候補が特定の年齢や性別の型に偏っていないかは、人が見て判断します。
候補を選んだら、実在の人物に似ていないかを確かめます。生成した顔や声が、特定の俳優やタレント、一般の人に似てしまうことはありえます。似ていると指摘されたときに、どう確かめたかを説明できるよう、確認した人と方法を記録しておきます。実在の人に似た姿の権利の考え方は、別の記事で解説しています。
声も同じ考え方です。架空の出演者に声を付けるなら、その声を合成音声で作るのか、声優が演じるのかを決めます。合成音声を使う場合は、元になった声の許諾と、放送で使える範囲を確かめます。出演者と声の組み合わせを最終的に決めるのは人で、AIの候補から自動で決まる仕組みにはしません。
似た作品の確認は、人の目で行う
生成AIで作った映像や音楽は、学習した大量の作品の影響を受けて出力されます。そのため、既存のCMや映画、写真、楽曲に似た出力が出ることがあります。似ているかどうかをAIに聞いても、AIは自分の出力がどの作品に近いかを正確には答えられません。
確認は、候補を絞った段階と、完成の直前の2回に分けて行うのが現実的です。候補の段階では、同じ業界の他社のCMや、よく知られた映像作品に構図や演出が似ていないかを見ます。完成直前には、映像・音楽・ナレーションを通しで見て、全体の印象が特定の作品を思わせないかを確かめます。
確認する人は、制作会社の担当者だけに任せないほうが安心です。広告主の宣伝部門や、外部の制作に詳しい人など、作った人とは別の目を入れると、作り手が見慣れて気づかなくなった類似に気づけます。確認の結果と、確認した人の名前は、制作の記録に残します。
日本広告業協会のポリシーも、著作権への抵触リスクを理解したうえでの活用を求めています。似た作品の確認は、完全に危険をなくすものではありませんが、確認した事実を残しておくことで、指摘を受けたときに「確かめずに流した」状態を避けられます。
放送前の考査に、何を持っていくか
テレビCMは、放送前に各局の考査を受けます。考査では、広告主の業態と、CMの表現が放送基準に合っているかが確かめられます。生成AIで作った素材を含むCMを、各局がどのように扱うかは、この記事の調査では公開情報で確かめられませんでした。局や時期によって扱いが変わる可能性もあります。
そのため、考査については「何を聞かれても答えられる状態にしておく」ことを目標にします。具体的には、どの場面をAIで作ったか、商品の映像は実物か、出演者は実在の人物か、声の出所はどこか、似た作品の確認をしたか、といった点を一覧にしておきます。AIで作った事実を隠さずに説明できることが、考査を通す前提になると考えておくのが安全です。
考査は通常、代理店を通じて進みます。AIで作った素材を含む場合は、制作の早い段階で代理店に伝え、放送局への事前相談が必要かどうかを確かめてもらいます。完成してから考査で指摘を受けると、作り直しの時間が取れず、放送の予定そのものがずれることがあります。
ネット経由のテレビ枠や動画広告に同じ素材を流す場合は、配信先ごとに独自の審査があります。テレビの考査を通ったからといって、他の配信先で同じ判断になるとは限りません。配信先ごとの規定を代理店に確かめ、必要なら版を分けて対応します。
制作会社・代理店に出す発注条件
ここまでの線引きを、発注の段階で文書にしておくと、制作が始まってからの行き違いを防げます。口頭で「AIを使ってもいいですよ」と伝えるだけでは、どこまで使ってよいかが相手の解釈に委ねられてしまいます。次の順で条件を固めていくと、抜けが出にくくなります。
工程の表をもとに、試作映像・背景・仮の音など、AIに寄せてよい工程を列挙する。書いていない工程でAIを使う場合は、事前に相談してもらう決まりにする。
人物像の定義、出演者の選定、本番の声、商品の映像の可否、放送するかの判断について、広告主の側で誰が決めるかを名前か役職で書く。
商用の利用が認められていること、入力した素材が学習に使われない設定にできること、出力の権利の扱いが規約で確かめられることを条件にする。
似た作品の確認、実物との違いの確認、実在の人物に似ていないかの確認を、どの段階で誰が行うかを決める。
完成した映像と一緒に、使った生成AI・指示・素材の出所・確認の結果をまとめた記録を納めてもらう。
- 発注条件は、見積もりの依頼と同時に渡す。見積もりの後に出すと、確認の工程の分が見積もりに入らない
- 放送局への事前相談が要るかどうかは、代理店に確かめてもらう項目として条件に書いておく
この中で見落とされやすいのが、使ってよい生成AIの条件です。制作会社によって使う道具は違い、道具ごとに規約も違います。広告主の商品の画像や未発表の情報を入力する場合は、その入力が道具の提供元でどう扱われるかまで確かめる必要があります。
発注条件は、一度作れば次のCMでも使い回せます。案件ごとに作り直すのではなく、社内の標準の発注条件として整えておき、案件ごとに工程の振り分けだけを見直す形にすると、宣伝の担当者が替わっても線引きが引き継がれます。
制作の記録を残す
制作の記録は、AIでCMを作るときの一番の備えです。残す項目は、使った生成AIの名前と版、入力した指示、元にした素材とその出所、生成した候補の中から選んだ理由、確認した人と結果、の5つを基本にします。完成した映像だけが残っていても、どう作ったかを後から説明することはできません。
記録が役立つ場面は2つあります。1つは放送前の考査で、どこをAIで作ったかを問われたときにすぐ答えられます。もう1つは放送後で、似た作品の指摘や、AIの使い方への批判を受けたときに、確かめた経緯を示せます。放送後に批判を受けたときの対応の決め方は、別の記事で扱っているので、ここでは事前に記録を残しておくことだけを押さえます。
記録の置き場所は、制作会社の手元だけにしないことが大切です。制作会社が替わったり、担当者が退職したりすると、記録が手に入らなくなることがあります。納品物の一部として広告主が受け取り、宣伝部門の共有の場所に、CMごとにまとめて保管します。
記録は、細かすぎると続きません。すべての生成を記録するのではなく、完成品に残った場面と、候補として検討した主な案に絞るのが現実的です。どこまで残すかも発注条件に書いておくと、制作会社の負担と広告主の備えの釣り合いが取りやすくなります。
AIで作ったことを、視聴者に示すか
AIで作ったことを画面に表示するかどうかは、2026年9月の時点では、民放連の放送基準の該当する版に名指しの決まりは見当たらず、広告主が判断する場面が多いと考えられます。ただし、配信先の規定や、今後の業界の方針で扱いが変わる可能性はあるので、出稿のたびに確かめ直す項目です。
判断の物差しになるのは、日本広告業協会のポリシーにある透明性の考え方です。AIを使った事実を、合理的な範囲で対外的に説明できるようにしておく。画面に表示するかどうかとは別に、問われたら説明できる状態を保つことは、どの広告主にも求められると考えてよいでしょう。
表示を検討する場面の目安としては、架空の人物が実在の人物のように見える場合、実際には撮影していない情景を実写のように見せる場合、視聴者が本物かどうかを気にしそうな場合が挙げられます。こうした場面で表示を省くと、後から知った視聴者に「だまされた」と受け取られる危険があります。
表示するなら、どの言葉で、画面のどこに、どのくらいの時間出すかも決めます。小さく一瞬だけ出す表示は、表示していないのと同じように受け取られることがあります。表示の仕方は考査との関係もあるので、代理店と相談して決めてください。
やってはいけない線引き
最後に、AIでCMを作るときにやってしまいがちな、線引きの失敗をまとめます。どれも、判断を制作会社やAIに預けたまま、広告主が決めるべきことを決めなかったときに起こります。発注の前に一度読み合わせておくと、社内の認識をそろえやすくなります。
- 「AIを使ってよい」とだけ伝え、どの工程で使うかを制作会社の判断に任せる
- 商品の映像を生成で作り、実物との違いを並べて確かめないまま放送する
- 架空の出演者の候補をAIに選ばせ、実在の人物に似ていないかを確かめない
- 仮当ての合成音声が、規約を確かめないまま本番の声として残る
- 似た作品の確認を作った人だけで済ませ、記録にも残さない
- 完成してから代理店にAIで作ったことを伝え、考査の直前で慌てる
これらに共通するのは、AIの出力を「決まったもの」として受け取ってしまうことです。AIが出すのは候補であり、どれを採るかは人が決める。この原則を、工程ごとの担当者が同じ言葉で言えるようにしておくことが、線引きを守る一番の近道です。
もう1つの失敗は、線引きを一度決めたら見直さないことです。生成AIの道具は、できることも規約も短い期間で変わります。CMを作るたびに、工程の表と発注条件を見直し、前回のCMの制作記録から、確認で見つかった問題を次の条件に反映させていきます。
よくある質問
Q. AIで作った素材を含むCMは、放送局の考査を通りますか。
一律に通る、通らないと言える公開情報は、この記事の調査では確かめられませんでした。民放連の放送基準には生成AIを名指しした条文は見当たらない一方、錯誤を起こさせる表現や虚偽の証言を扱わない趣旨の条文があります。どこをAIで作ったかを説明できる状態にし、制作の早い段階で代理店を通じて放送局に確かめるのが確実です。
Q. 架空の出演者は、実在のタレントより危険が少ないですか。
契約の期間や本人の不祥事に左右されない点では、危険は減ります。一方で、人物像の偏り、実在の人に似てしまう問題、声の出所の確認など、人が判断しなければならない項目が増えます。危険の種類が変わると考えて、確認の工程を用意してください。
Q. 制作会社が使う生成AIの規約まで、広告主が確かめる必要はありますか。
すべてを広告主が読む必要はありませんが、商用の利用、出力の権利、入力した素材の扱いの3点は、発注条件として確かめてもらうべきです。とくに、未発表の商品の画像や情報を入力する場合は、その扱いを確かめないまま進めないでください。
Q. 法人向けの製品のCMでも、この線引きは必要ですか。
必要です。法人向けの製品では、操作画面や装置の動き、導入後の効果をAIで描いたときに、実際にない機能があるように見える危険があります。製品の担当者が完成映像を確かめる工程を必ず入れてください。
Q. AIで作ったと表示すれば、確認の工程は省いてよいですか。
省けません。表示は視聴者への説明であって、商品の見え方の正しさや、似た作品がないことを保証するものではありません。表示するかどうかと、確認の工程を置くかどうかは、別々に決めてください。
まとめ
生成AIでCMを作るときは、撮影を丸ごと置き換えるのではなく、工程ごとにAIに寄せる所と人と撮影に残す所を分けます。撮る前の試作映像、背景の情景、版の作り分け、仮のナレーションはAIに寄せやすい工程です。商品そのものの見え方は撮影に残し、架空の出演者と声の設計、似た作品の確認、放送するかの最終判断はAIに任せず広告主が決めます。2026年9月の時点で放送基準に生成AIの条文は見当たらないため、考査の扱いは代理店を通じて確かめる項目として扱い、使った生成AI・指示・素材の出所・確認の結果を制作の記録として受け取っておく。この線引きを発注条件にしておけば、担当者が替わっても判断が引き継がれます。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
広告・SNS・動画にAIを活かす第一歩、まずは導入から始めませんか?
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