AIの開発と運用は請負か準委任か|任せ方で責任が変わる

「見積書に準委任と書いてあったので、最後は完成させてもらえるものだと思っていました」「請負で頼んだのに、精度が出ないのは渡したデータの問題だと言われました」——AIの開発や運用を外に出した担当者から、この2つは形を変えて何度も出てきます。よくある誤解は、請負と準委任を「厳しい契約」と「緩い契約」の違いとして読むことです。そうではありません。本当は、何に対してお金を払う約束なのかという、支払いの根拠そのものが違うだけです。そこが決まると、作り直しを求められる範囲も、途中でやめるときの扱いも、誰に指示を出せるかも連動して決まります。この記事では、発注の前に責任の置き場を決めるための見分け方を整理します。
カメ先生請負のほうが発注する側に有利だと思われがちなんだ。でも本当は、完成の形を先に文章で書けるかどうかで、どちらが有利かは入れ替わるんだよ。
カメ子完成の形が書けないのに請負にすると、かえって困るということですか。
カメ先生困るというより、線を引く人が入れ替わるんだね。書けないまま請負にすると、相手が自分で完成の線を引くことになる。その線はたいてい安全側に寄るから、狭く引かれた線の外側が全部、追加の費用になる。
カメ子厳しく縛ったつもりが、範囲の外を増やしていたのですね。
- 請負は仕上がった結果に、準委任はかけた働きに払う。改正で成果に払う準委任も明文化され、選択肢は3つある
- AIは工程によって完成の形を書けるかどうかが変わる。確かめる段階まで一式で請け負わせない
- 型を決めても、確かめ方・変更の手続き・費用の上限・終わり方は別に書面へ落とす。人が確認する範囲も先に決める
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どちらの型かは、契約書の題名ではなく責任の置き場の話
契約の型を決める作業は、ひな形の題名を選ぶ作業だと思われがちです。実際には、うまくいかなかったときに誰が費用を負担するかを、起きる前に決める作業です。順調に進んでいるあいだ、両者の違いはほとんど表に出ません。差が出るのは、思ったものが出てこなかったとき、途中で方針が変わったとき、期日に間に合わなかったときだけです。
だから発注する側が最初に考えるべき問いは、どちらの名前が格好よく見えるかではありません。何が起きたら、追加の費用なしで直してもらえるのか。この一点です。答えられないまま契約を交わすと、あとで「それは範囲外です」と言われたときに、根拠を持って反論できません。反論できないほうが、結局は費用を負担します。
もう1つ、先に押さえておきたいことがあります。契約の型は、書いてある名称ではなく実態で判断される場面があるということです。後半で触れる指示の出し方がその代表で、題名に請負と書いてあっても、日々の進め方が違えば別のものとして扱われます。名称を決める作業と、進め方を決める作業は、同時にやる必要があります。
2つの型は「何に対して払うか」で分かれる
請負は、民法632条で「請負人が仕事を完成することを約し、注文者がその仕事の結果に対して報酬を支払う」と定められた契約です。払う対象は仕上がった結果で、完成しなければ原則として報酬は発生しません。引き渡されたものが契約の内容に適合していなければ、直しや報酬の減額、損害賠償、解除を求めることができます。売買の規定が準用される形で定められています。
準委任は、民法656条によって委任の規定が準用される契約です。受ける側は644条の善管注意義務を負いますが、仕事を完成させる義務は負いません。払う対象は、かけた働きのほうです。ここでよくある誤解が、準委任は責任が軽い契約だという読み方です。負う責任の種類が違うだけで、軽いわけではありません。求められた注意を尽くしていなければ、準委任でも責任は問われます。
違いを一言でまとめるなら、請負は結果を約束する契約、準委任は過程を約束する契約です。結果を約束できるのは、結果の形をあらかじめ文章にできる場合に限られます。逆に言えば、形を文章にできないものを請負にすると、約束の中身が曖昧なまま金額だけが確定します。これが、AIの案件で最も起きやすい事故の入口です。
選択肢は2つではなく、3つある
実務では請負か準委任かの二択で語られますが、2020年4月1日に施行された改正民法で、準委任の報酬の払い方が2つに整理されました。1つが履行割合型で、既にした履行の割合に応じて報酬を請求できます(648条3項)。もう1つが成果完成型で、648条の2に定められています。成果が出てはじめて報酬が発生する点は請負と同じで、完成させる義務までは負わないという、中間の形です。
成果完成型では、成果の引渡しと同時に報酬を支払う形になり、可分な部分について委任者が利益を受けるときは、その割合に応じた報酬を請求できます(648条の2第2項が634条を準用)。AIの案件で言えば、報告書や検証結果のように形のあるものは引き渡せるが、その中身が期待どおりかまでは約束できない仕事に当てはまります。ここを知らないと、二択で無理に寄せることになります。
| 契約の型 | 何に対して払うか | 完成させる義務 | 向く場面 |
|---|---|---|---|
| 請負 | 仕上がった結果 | ある(民法632条) | 完成の形をあらかじめ文章で書ける部分 |
| 成果完成型の準委任 | 取り決めた成果の引渡し | ない(648条の2) | 引き渡す物は決まるが、中身の当たり外れを約束できない部分 |
| 履行割合型の準委任 | かけた働き | ない(644条の注意義務) | 確かめる段階と、終わりのない運用の段階 |
表の3行目が、AIの案件でいちばん出番の多い型です。ただし、履行割合型を選ぶと発注する側の負担が増えます。何をどこまでやってもらうかを自分で決め、進み具合を自分で見なければならないからです。楽をしたいから請負を選ぶ、という動機で型を決めると、たいてい後で高くつきます。
AIだと、この判断が難しくなる3つの理由
同じ受託開発でも、業務システムの案件では請負か準委任かで迷う場面はそれほど多くありません。画面の数と項目が決まれば、完成の形が書けるからです。AIで迷いが増えるのには、はっきりした理由が3つあります。
- 出力が入力で変わる:同じ仕組みでも、渡すデータが変われば結果が変わる。できたかどうかの判定が、渡す側の材料に左右される
- 土台の側が入れ替わる:使っているモデルや外部の機能が更新され、作った当時の挙動がそのまま保たれるとは限らない
- 正しい答えを先に文章で定義しにくい:この入力にはこう答える、と仕様書に書き切れない領域が必ず残る
この性質は、国の整理にも反映されています。経済産業省の「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」(2018年6月策定、1.1版は2019年12月)は、AIモデルの開発はデータに依存する帰納的な手法によるものであることを踏まえて、準委任契約が親和的であると整理しています。従来の受託開発の感覚をそのまま持ち込むと合わない、というのが出発点です。
誤解を避けるために付け加えると、これは「AIの案件は請負にできない」という意味ではありません。案件の中には完成の形を書ける部分が必ず混じっています。困るのは、書ける部分と書けない部分を分けずに、まとめて1本の契約にしてしまうことです。次の節で、その分け方を扱います。
完成の形が書ける部分と、書けない部分を先に分ける
1つの案件の中には、性質の違う仕事が同居しています。まずはそれを、見積書の品目の単位で仕分けます。判定の基準は単純で、納品されたものを見て、契約書の文章だけで合否を言えるかどうかです。言えるなら書ける部分、言えないなら書けない部分に入ります。
- 書ける部分の例:画面と操作の作り込み、既存の仕組みとのつなぎ込み、出力の形式や項目、権限の設定、データの受け渡しの仕組み、手引きの作成
- 書けない部分の例:出力の内容が正しいかどうか、判断の当たり外れ、未知の入力に対する挙動、どこまで精度が上がるか、業務がどれだけ楽になるか
後者について、AIのモデル契約書では、受ける側は成果物の完成義務を負わず、業務課題の解決や業績の向上といった特定の結果を保証しないことを確認する条項が置かれています。約束できないものを約束させない、という考え方です。約束できないことを契約書に書かせても、実現する確率は上がらない。上がるのは、見積りの金額のほうです。
項目をまとめ直さず、相手が書いた粒度のまま一覧にします。一式とだけ書かれた行があれば、その時点で内訳を求めます。
納品物を見て合否を言えるかどうかだけで判定します。迷った品目は、書けない側に寄せておくほうが安全です。
検証や試作の行に納品日と一式の金額が付いていたら、そこが一番の危険地帯です。工程を分けて出し直してもらいます。
確かめる段階、作り込む段階、運用して直す段階の3つに分け、それぞれに型を当てます。1本にまとめないことが要点です。
国の整理でも、AIの開発は段階に分けて契約する
段階に分けるという考え方は、思いつきではありません。経済産業省の契約ガイドラインは、AIの開発について探索的段階型の開発方式を示しています。性能がデータに依存し、後戻りが避けられないため、最初から最後までを1本の契約で固める進め方が合わないという理由です。
示されている段階は4つです。サンプルのデータを見て見込みを確かめる段階、求める水準のものが作れるかを検証する段階、本番用のデータで作り込む段階、そして運用して追加で学習させる段階。2021年に公表されたモデル契約書でも、この4段階に沿って別々の契約が用意されています。見込みを確かめる段階は秘密保持契約、検証の段階は報告書を納める形の契約、作り込む段階は準委任型、運用の段階は利用の契約という組み合わせです。
- 出典は経済産業省「AI・データの利用に関する契約ガイドライン」(2018年6月策定、1.1版は2019年12月)と、これに沿って公表されたモデル契約書
- 発注する側は4段階をそのまま使わなくてよい。確かめる段階・作り込む段階・運用して直す段階の3つに読み替えれば足りる
- 分けるのは契約であって、相手ではない。同じ相手と3本の契約を順に結ぶ形が普通
段階を分けると、契約の手続きが3回に増えます。それを面倒だと感じて1本にまとめたくなりますが、増えるのは押印の回数で、減るのは作り直しの費用です。手続きの回数と、揉めたときに失う時間を比べれば、どちらが重いかは明らかです。
確かめる段階を請負にすると、何が起きるか
最も多い失敗が、見込みを確かめる段階まで一式で請け負わせてしまう形です。発注する側からすると、金額が先に確定して安心に見えます。ところが実際には、次の3つが起きます。
- 作り直しの費用が先に乗る:やってみないと分からない部分を、受ける側は最悪の場合を想定して見積もる。使わなかった余裕分も払うことになる
- 範囲の外だと断られる:試した結果、別の方法のほうが良いと分かっても、契約に書いていないので着手できない。良い発見が使えないまま終わる
- 検証が合格させる作業に変わる:完成させる義務を負った相手は、完成したと言える線を探し始める。うまくいかなかったという結論が、出にくくなる
3つ目が、いちばん見えにくく、いちばん損をします。確かめる段階の価値は、成功を作ることではなく、この方向では無理だと早く分かることにあります。やめる判断ができて初めて、確かめる段階には意味があります。完成義務を負わせると、その判断が構造的に出にくくなります。
手当ては簡単で、確かめる段階は履行割合型の準委任にし、期間と金額の上限だけを切ります。「2か月、上限いくらで、分かったことを報告書にまとめる」という形です。報告書の納品を求めたいなら、成果完成型にする手もあります。この段階で求めてよいのは報告の中身の充実であって、結論が前向きであることではないと、社内でも共有しておいてください。
作り込む段階は、完成の形が書けたかで決める
確かめる段階を終えると、何が作れて何が作れないかが手元に残ります。ここで初めて、完成の形を文章にできるかを判断できます。書けたなら請負、または成果完成型の準委任。書けないまま日程だけが決まっているなら、履行割合型のまま進めるほうが安全です。
注意したいのは、この判断を相手に丸ごと委ねないことです。「請負でいけますか」と聞くと、多くの場合は条件付きで請け負えるという返事が来ます。条件の中身を読むと、実質的には準委任と変わらないことがある。データの提供が遅れた場合、追加の学習が必要になった場合、外部の機能に変更があった場合。この3つが免責に並んでいたら、結果を約束してもらえているとは言えません。
成果物の権利をどう書くかも、型によって書きやすさが変わります。請負なら引き渡す物が特定されるので書きやすく、準委任では何が成果物なのかを別に定義しないと帰属が曖昧になります。権利の帰属と、使ってよい範囲は分けて書くのが実務の定石です。契約ガイドラインでも、帰属と利用条件を分けて柔軟に定める考え方が示されています。
運用して直す段階に、完成の日を置かない
作り込みが終わっても、AIの仕事は終わりません。使いながら直す期間のほうが長くなります。この段階に完成の日を置くと、置いた日以降に起きたことの扱いが決まらず、そのつど交渉することになります。終わりのない仕事には、終わりのない型を当てるのが素直です。実務では、月ごとの稼働と作業の報告に対して払う履行割合型が使われます。
この段階で契約に入れておきたいのが、土台が入れ替わったときの取り扱いです。使っているモデルや外部の機能は更新されます。更新で挙動が変わったとき、誰が気づき、誰が確かめ、誰が直すのか。1条だけでも決めておけば、変わった日に慌てずに済みます。変わることを前提に、気づく係を決めておく。これは相手に丸投げできる仕事ではありません。
もう1つ、契約に書いておくべきなのが確認の範囲です。出てきた内容を人が確認する範囲を、運用を始める前に決めます。金額を含む回答、社外に出る文面、契約や法令に触れる判断は人が見る、といった線です。AIに最終的な判断をさせない範囲を先に決め、その線を運用の契約に書き込む。保守の範囲や費用の決め方は別に取り決めが要りますが、確認の線だけは型を決める段階で引いておいてください。
型が変わると、実務では何が変わるか
型の違いが実務に出るのは、次の5つの場面です。契約書を読むときは、この5つが書かれているかを先に確かめると早く済みます。書かれていない項目は、法律の原則どおりに扱われることになります。
| 変わること | 請負のとき | 準委任のとき |
|---|---|---|
| 作り直しを求められる範囲 | 契約の内容に適合しないものは、直しや減額を求められる | 求めるには、必要な注意を尽くしていなかったことを示す必要がある |
| 途中でやめるとき | 注文者は損害を賠償して解除できる(民法641条) | どちらの側からでも、いつでも解除できる(民法651条1項) |
| 報告の頻度 | 納品の時点が中心になりやすい | 定期的な報告を契約に書き込むのが前提になる |
| 成果物の権利 | 引き渡す物が特定されるので書きやすい | 何が成果物かを定義しないと、帰属が曖昧になる |
| 発注側の手間 | 完成の定義を先に書く手間が大きい | 進み具合を見て方向を決める手間が続く |
表の2行目は見落とされがちですが、影響が大きい項目です。準委任はどちらの側からでも解除できるのが原則で、これは相手も同じ立場にあるということです。人が足りなくなった、方針が変わった、という理由で抜けられる可能性がある。長く続けたい運用の契約では、解約の予告期間と引き継ぎの取り決めを別に書いておくのが実務の手当てになります。
最終行も、発注する側が事前に見ておくべき点です。請負は前で手間がかかり、準委任は途中でずっと手間がかかる。社内の体制が薄いのに履行割合型を選ぶと、方向を決める人がいないまま時間だけが過ぎます。型の選択は、相手の都合だけでなく自社の人手の話でもあります。
発注側が守る線:働き方の指示は直接出さない
型に関わらず守る線が1つあります。相手の従業員に対して、作業のやり方や勤務の時間を直接指示しないことです。請負でも準委任でも、仕事を受けた側は自分の判断で作業を進めるのが前提になっています。ここが崩れると、契約書の名称にかかわらず、実態は別のものとして扱われます。
判断の物差しは、契約の名称ではなく実態です。昭和61年の労働省告示第37号「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」が基準を示していて、実務では業務の遂行に関する指示や管理、労働時間などに関する指示や管理、企業秩序に関する指示や管理の3つの観点から総合的に見られると解説されています。細かい要件は専門家に確認する領域なので、ここでは発注する側が守る線だけを押さえます。
- やってよいこと:求める結果や仕様を伝える、進み具合の報告を受ける、相手の管理責任者に要望を伝える、成果物に対して修正を依頼する
- 避けること:相手の担当者に直接、作業の順番ややり方を指示する。始業や終業、休憩、休暇を管理する。自社の服務の決まりを適用する
- 手当て:連絡の窓口を双方1人ずつに決め、日々のやり取りをそこに通す。会議への出席依頼も窓口を経由させる
違反した場合の影響も知っておいてください。解説では、行政指導や罰則に加えて、労働契約の申し込みをしたとみなされる制度により、発注した側と相手の従業員のあいだに直接の雇用関係が成立しうることが挙げられています。契約の型を丁寧に選んでも、日々の進め方が伴わなければ意味がない。型を決めた人と、現場で毎日やり取りする人が別なら、この線だけは必ず共有しておきます。
型に関わらず、書面に落とす6つの項目
請負でも準委任でも、書いていなければ揉める項目は共通しています。ひな形に入っていないことも多いので、発注する側から先に出すつもりで用意します。6つあれば足ります。
- 引き渡す物の一覧:動くもの、資料、学習に使ったデータ、設定、権限。手引きが要るかどうかまで書く
- 確かめ方:何をもって進んだと見るか。誰が用意したどのデータで、いつ測るか。測る回数まで決める
- 変更の手続き:誰が申し出て、誰が承認し、何日以内に回答するか。金額と日程への影響をどう出すか
- 費用の上限:この金額を超える前に必ず相談する、という線。準委任では特に効く
- 終わり方:途中でやめるときの精算、引き継ぐもの、権限の返し方、データの削除の証跡
- 連絡の窓口:誰が誰に何を言うか。窓口以外からの依頼は受けないと決めておく
2つ目の確かめ方と、5つ目の終わり方は、契約の時点でいちばん書かれにくく、揉めたときにいちばん効きます。特に終わり方は、始めるときに話題にしにくいという理由だけで抜けます。終わり方を先に決められない相手とは、始めないほうがよいという判断材料にもなります。
この6項目や見積書を読むときに、生成AIを使うこと自体は有効です。ただし使い方には線を引いてください。どちらの型が妥当かをAIに判定させないこと。頼むのは、契約書の中で確かめ方や終わり方に触れている箇所を挙げさせる、書かれていない項目を質問の形で挙げさせるところまでです。挙げさせた箇所は必ず原文に当たり、根拠となる条項の番号を添えさせます。人が確認する範囲を先に決めてから使えば、読み落としを減らす道具として十分に働きます。
完成の定義を「精度何割」とだけ書かない
請負や成果完成型を選ぶとき、完成の定義に数字を1つだけ書いて済ませる例がよくあります。この書き方は、書いた側が思うほど守ってくれません。数字は測り方とセットでなければ意味がなく、測り方が決まっていない数字は、達成したかどうかの争いをそのまま先送りにします。
経済産業省が2025年2月に公表した「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」でも、性能について、正解のデータ100件に対して何件正答できるかを基準にするなど、評価の方法を事前に定めておくことがトラブルの防止につながると示されています。同じチェックリストは、開発を委託する類型で準委任か請負かの判断が交渉の対象になること、そして成果の内容や水準をどの程度求めるのかを明確にして契約に書くことを要点として挙げています。
- 測るデータは誰が用意するか。何件で、いつ時点のものか。相手が選んだデータで測ると、都合のよい結果になりやすい
- 外れたときの扱いを分ける。重大な外れと軽い外れを同じ扱いにすると、直す優先順位が決まらない
- 測る時期と回数を決める。1回だけの測定は、たまたま良かった可能性を排除できない
なお、受け入れの判定そのものをどう組み立てるかは、契約の型の話とは別の準備が要ります。ここで決めるのは、何をもって払うかという支払いの条件としての確かめ方です。この一文が契約書にあるかどうかで、後の交渉の重さが変わります。
見積りの読み方:人月で来たときと、一式で来たとき
型の議論は、見積書の形にそのまま表れます。人月で出てきたら働きに対する見積り、一式で出てきたら結果に対する見積りです。どちらが良いという話ではなく、読むべき場所が違います。
- 人月で来たとき:何人が、どの役割で、何か月かを見る。単価の差より、想定している期間が現実に合っているかのほうが効く。短すぎる期間は、あとで延長の相談になる
- 一式で来たとき:含まれるものより、含まれないものの一覧を求める。出てこないなら、その一式は範囲が確定していない
- 2社を比べるとき:金額ではなく前提を並べる。データの提供範囲、修正の回数、確かめ方が違うものは、そもそも比べられない
一式のほうが安く見えることがあります。理由は2つで、範囲が狭いか、不確実な部分を後払いにしているかのどちらかです。安い一式は、範囲の外側が広い一式であることが多い。金額の下に並んだ前提条件と免責事項を、金額と同じ時間をかけて読んでください。
実務では、工程ごとに見積りの形を揃えてもらうのが有効です。確かめる段階は人月、作り込む段階は一式、運用する段階は月額。この3本の形で出してもらえば、社内の決裁でも説明しやすくなります。1枚の見積書に3つの性質の仕事が混ざっているときは、分けて出し直してもらうのが最初の一手です。
やりがちな失敗と、その手当て
最後に、実際に起きている失敗を並べます。どれも手抜きから起きるものではなく、むしろ早く進めようとした結果として起きます。手当ては全部、発注する前の作業に入っています。
- 確かめる段階まで一式で発注する:やめる判断が出にくくなり、余裕分の費用も払う。段階を分け、上限と期間だけを切る
- 完成の定義を精度何割とだけ書く:測り方が決まらず、達成したかで揉める。データ、件数、時期、外れたときの扱いをセットで書く
- 土台の入れ替えを想定していない:更新で挙動が変わった日に、誰の責任か決まらない。気づく係と直す手順を1条だけ入れる
- 型だけ変えて、進め方は前のまま:相手の担当者に直接、作業の指示を出し続ける。窓口を決め、指示は窓口経由に統一する
- 決めた人と、やり取りする人が違う:引いた線が現場に伝わらない。契約の要点を1枚にまとめ、関わる全員に配る
2つ目と3つ目は、AIの案件に固有の失敗です。どちらも、動いている時点の姿を固定して考えてしまうことから起きます。作った日と、使っている日で、同じ挙動とは限らないという前提を契約に反映させておけば、どちらも防げます。
4つ目と5つ目は、契約とは別の、社内の伝達の問題です。型を決めるところまでを法務や購買が担当し、日々のやり取りは事業部が担当する、という分担はよくあります。決めた線が事業部に伝わっていなければ、丁寧に選んだ型は現場で崩れます。契約の要点を1枚にまとめて配る手間は30分ですが、その30分が実態と書面のずれを防ぎます。
よくある質問
準委任だと、成果物を受け取れないのですか
受け取れます。完成させる義務がないことと、物を引き渡さないことは別です。報告書、設定、動くもの、データのいずれも引き渡しの対象にできます。ただし何を引き渡すかを契約に書かないと対象が定まりません。請負なら自動的に特定されるものが、準委任では書かなければ特定されない、という違いだと理解してください。
契約書の題名が「業務委託契約書」でした。これはどちらですか
題名だけでは決まりません。業務委託は法律上の契約の型を指す言葉ではなく、実務で広く使われている呼び方です。中身を読んで判断します。見るのは、完成させる義務があると書かれているか、報酬が何に対して発生すると書かれているか、引き渡すものが特定されているかの3点です。この3点が食い違っている契約書は珍しくありません。気づいた時点で相手に確認します。
思ったほど精度が出ませんでした。準委任だと費用は戻らないのですか
戻らないのが原則です。準委任は結果を約束していないためです。ただし、求められる注意を尽くしていなかったと言える場合は別です。合意した手順を踏んでいない、報告すべき事実を報告していない、といった場合です。だからこそ、進めている最中の報告の頻度と内容を契約に書いておくことが効きます。結果を争えない代わりに、過程を確かめられる状態を作っておくのが準委任の使い方です。
途中で相手を変えたくなったら、どちらの型が動きやすいですか
準委任のほうが動きやすいのが原則です。どちらの側からでもいつでも解除できるためです(民法651条1項)。ただし、動きやすさは相手も持っています。実務で本当に効くのは型よりも引き継ぎの取り決めで、設定や学習の記録、権限、手順書を誰にどの形で渡すかを先に決めておくことです。ここが決まっていれば、型に関わらず移せます。
工程ごとに型を分けると、管理が煩雑になりませんか
契約の本数は増えます。ただ、増えるのは手続きで、減るのは交渉です。1本にまとめた案件で範囲の解釈が割れると、解決に数週間かかることがあります。3本に分けておけば、揉めるとしても1つの段階の中で収まります。手続きの手間と、揉めたときに失う時間を比べて決めるのが現実的な判断です。
汎用のAIサービスをそのまま使う場合も、この判断は要りますか
その場合は請負か準委任かという話にはなりません。提供されている条件に同意して使う形になるためです。前述のチェックリストも、汎用のサービスを利用する類型、自社向けに手を加える類型、開発を委託する類型を分けて整理しています。判断が要るのは、手を加えてもらう類型からです。どの類型に当たるかを最初に確かめると、読むべき条項が絞れます。
まとめ
請負と準委任は、厳しい契約と緩い契約の違いではありません。仕上がった結果に払うのか、かけた働きに払うのかという、支払いの根拠の違いです。改正民法で成果完成型の準委任が明文化されたことにより、実務の選択肢は3つになりました。AIの案件でこの判断が難しいのは、出力が入力で変わり、土台が入れ替わり、正しい答えを先に文章で定義しにくいためです。国の契約ガイドラインも、段階に分けて契約する探索的段階型の進め方を示しています。
発注する側がやることは3つです。見積りの品目を、完成の形が書ける部分と書けない部分に分ける。確かめる段階・作り込む段階・運用して直す段階の3つに割り、それぞれに型を当てる。そのうえで、引き渡す物、確かめ方、変更の手続き、費用の上限、終わり方、連絡の窓口の6項目を、型に関わらず書面へ落とす。あわせて、相手の担当者に直接、作業のやり方や勤務の時間を指示しない線と、出てきた内容を人が確認する範囲を、始める前に決めておいてください。型を選ぶ作業は、揉めたときに誰が費用を負担するかを、揉める前に決める作業です。
※本記事にはAIが活用されています。編集者が確認・編集し、可能な限り正確で最新の情報を提供するよう努めておりますが、情報の完全性、正確性、最新性、有用性等について保証するものではありません。本記事の内容に基づいて行動を取る場合は、読者ご自身の責任で行っていただくようお願いいたします。
AIの導入・活用、何から始めるべきかお悩みですか?
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